特許第6842298号(P6842298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842298
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20210308BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B60C19/08
   B60C11/00 B
   B60C11/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-252664(P2016-252664)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-103831(P2018-103831A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永吉 啓
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−129713(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/043058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/08
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ径方向内側に設けられるベースゴムと、前記キャップゴムの厚み方向に延びて前記キャップゴムの内部を通り接地面から前記ベースゴムの底面に至る導電ゴムと、を有し、
前記キャップゴムと前記ベースゴムとの間の界面のうち前記導電ゴムに接する界面端は、前記界面端の周囲にある界面よりもタイヤ径方向内側に下がっており、
前記導電ゴムからタイヤ幅方向に所定距離離れた第1部位と、前記界面端との間にある前記界面は、前記第1部位よりもタイヤ径方向内側に下がっており、
前記所定距離は、5.0mm以下1.5mm以上であり、
前記キャップゴムは、タイヤ周方向に延びる主溝を有し、
前記主溝のタイヤ径方向内側における前記キャップゴムと前記ベースゴムとの間の界面は、前記第1部位よりもタイヤ径方向内側に下がっている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
記所定距離は、前記導電ゴムの幅W以上である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1部位は、前記主溝と前記導電ゴムの間においてタイヤ子午線断面で前記ベースゴムが最も厚い頂点の部分であり、
前記第1部位から前記導電ゴムまでの前記ベースゴムの厚みが連続して減少している、請求項1又は2に載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車体やタイヤに生じた静電気を路面に放出可能な空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費性能と関係が深いタイヤの転がり抵抗の低減を目的として、トレッドゴムなどのゴム部材を、シリカを高比率で配合した非導電性ゴムで形成した空気入りタイヤが提案されている。ところが、かかるゴム部材は、カーボンブラックを高比率で配合した従来品に比べて電気抵抗が高く、車体やタイヤで発生した静電気の路面への放出を阻害するため、ラジオノイズなどの不具合を生じやすいという問題がある。
【0003】
特許文献1には、タイヤ赤道に、径方向に延びる導電ゴムが配置されたタイヤが開示されている。このタイヤでは、図5に示すように、導電ゴム52がキャップゴム50及びベースゴム51を貫通しており、導電ゴム52に接触する部分のベースゴム51が径方向外側RD1に吸い上がるように延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5344098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、ベースゴム51の端が径方向外側RD1に吸い上がるように延びたものでは、ベースゴムの端部に剛性差が生まれ、歪みが集中してクラックが生じるおそれがあり、耐久性が低下してしまう。
【0006】
本開示は、このような事情に着目してなされたものであって、その目的は、磨耗末期での耐久性能を向上させた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0008】
すなわち、本開示の空気入りタイヤは、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ径方向内側に設けられるベースゴムと、前記キャップゴムの厚み方向に延びて前記キャップゴムの内部を通り接地面から前記ベースゴムの底面に至る導電ゴムと、を有し、前記キャップゴムと前記ベースゴムとの間の界面のうち前記導電ゴムに接する界面端は、前記界面端の周囲にある界面よりも径方向内側に下がっている。
【0009】
このように、構成によれば、ベースゴムの界面端が径方向内側へ下がることで、歪みの集中を回避でき、耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図。
図2】実施例1の導電ゴム及びその周囲の構造を示す断面図。
図3】実施例2の導電ゴム及びその周囲の構造を示す断面図。
図4】比較例1の導電ゴム及びその周囲の構造を示す断面図。
図5】比較例2の導電ゴム及びその周囲の構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、各々のビード部1からタイヤ径方向RD外側に延びるサイドウォール部2と、両サイドウォール部2のタイヤ径方向RD外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0013】
また、このタイヤTは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るトロイド状のカーカス層4を備える。カーカス層4は、一対のビード部同士1の間に設けられ、少なくとも一枚のカーカスプライにより構成され、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカスプライは、タイヤ赤道CLに対して略直角に延びるコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。カーカス層4の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム4aが配置されている。
【0014】
さらに、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外側には、サイドウォールゴム6が設けられている。また、ビード部1におけるカーカス層4の外側には、リム装着時にリム(図示しない)と接するリムストリップゴム7が設けられている。本実施形態では、カーカス層4のトッピングゴム及びリムストリップゴム7が導電性ゴムで形成されており、サイドウォールゴム6は非導電性ゴムで形成されている。
【0015】
トレッド部3におけるカーカス層4の外側には、カーカス層4を補強するためのベルト4bと、ベルト補強材4cと、トレッドゴム5とが内側から外側に向けて順に設けられている。ベルト4bは、複数枚のベルトプライにより構成されている。ベルト補強材4cは、タイヤ周方向に延びるコードをトッピングゴムで被覆して構成されている。ベルト補強材4cは、必要に応じて省略しても構わない。
【0016】
図1及び図2に示すように、トレッドゴム5は、非導電性ゴムで形成され且つ接地面Eを構成するキャップゴム50と、キャップゴム50のタイヤ径方向内側に設けられるベースゴム51と、を有する。キャップゴム50の表面には、タイヤ周方向に沿って延びる複数本の主溝5aが形成されている。キャップゴム50には、タイヤ周方向CDに延びる主溝5aと、主溝5aによって区画される陸部と、が形成されている。トレッド部3は、キャップゴム50の厚み方向に延びてキャップゴム50の内部を通り接地面Eからベースゴム51の底面に至る導電ゴム52を有する。
【0017】
上記において接地面Eは、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する面であり、そのタイヤ幅方向WDの最外位置が接地端となる。なお、正規荷重及び正規内圧とは、JISD4202(自動車タイヤの諸元)等に規定されている最大荷重(乗用車用タイヤの場合は設計常用荷重)及びこれに見合った空気圧とし、正規リムとは、原則としてJISD4202等に定められている標準リムとする。
【0018】
本実施形態では、トレッドゴム5の両側端部にサイドウォールゴム6を載せてなるサイドウォールオントレッド(SWOT;side wall on tread)構造を採用しているが、この構造に限られるものではなく、トレッドゴムの両側端部をサイドウォールゴムのタイヤ径方向RD外側端に載せてなるトレッドオンサイド(TOS;tread on side)構造を採用することも可能である。
【0019】
ここで、導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm未満を示すゴムが例示され、例えば原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックを高比率で配合することにより作製される。カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーや、グラファイト等のカーボン系、及び金属粉、金属酸化物、金属フレーク、金属繊維等の金属系の公知の導電性付与材を配合することでも得られる。
【0020】
また、非導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm以上を示すゴムが例示され、原料ゴムに補強剤としてシリカを高比率で配合したものが例示される。該シリカは、例えば原料ゴム成分100重量部に対して30〜100重量部で配合される。シリカとしては、湿式シリカを好ましく用いるが、補強材として汎用されているものは制限なく使用できる。非導電性ゴムは、沈降シリカや無水ケイ酸などのシリカ類以外にも、焼成クレーやハードクレー、炭酸カルシウムなどを配合して作製してもよい。
【0021】
上記の原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。かかる原料ゴムには、加硫剤や加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等も適宜に配合される。
【0022】
導電性ゴムは、耐久性を高めて通電性能を向上する観点から、窒素吸着非表面積:NSA(m/g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1900以上、好ましくは2000以上であって、且つ、ジブチルフタレート吸油量:DBP(ml/100g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1500以上、好ましくは1700以上を満たす配合であることが望ましい。NSAはASTM D3037−89に、DBPはASTM D2414−90に準拠して求められる。
【0023】
図2は、導電ゴム52及びその周辺構造を示す断面図である。キャップゴム50とベースゴム51の間の界面のうち導電ゴム52に接する界面端P1は、界面端P1の周囲にある界面よりも径方向内側RD2に下がっている。図2の例では、導電ゴム52からタイヤ幅方向WDに所定距離L1離れた部位P2と、界面端P1との間にある界面は、部位P2よりも径方向内側RD2に下がっている。図2では、所定距離L1は5.0mmであり、部位P2から界面端P1に向けて径方向内側RD2に次第に下がっている。図2では、導電ゴム52の幅W<L1である。ベースゴム51の部位P2での厚みG1は、1.5mmである。ベースゴム51の界面端P1での厚みG2は、1.0mmである。
【0024】
図3の例では、所定距離L1は1.5mである。ベースゴム51の部位P2での厚みG1は、1.5mmである。ベースゴム51の界面端P1での厚みG2は、1.0mmである。ここで、所定距離L1は、導電ゴム52の幅W以上であることが好ましい。L1<Wとなってしまうと、界面端P1が径方向内側へ急激に下がることになるので、歪み集中のおそれがあるからである。L1の最大値としては、主溝を超えない範囲であることが好ましい。図2及び図3のように、1.5mm≦L1≦5.0mmが好ましい。
【0025】
図2及び図3の例では、キャップゴム50の主溝以外の厚みは、(D1−1.6)mm以上であることが好ましい。主溝5aの深さはD1である。キャップゴム50の主溝5a下部の厚みは、0.5mm以上あることが好ましい。ベースゴム51の厚みは、(D1−1.6)mm未満であることが好ましい。これらの条件を満たせば、磨耗したとしてもトレッド表面にベースゴム51が露出することを防止することができる。
【実施例】
【0026】
本開示の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0027】
(1)耐久性(磨耗末期)
サイズ195/65R15のタイヤを用い、アスファルトまたはコンクリート路面を走行させ、界面セパレーションが発生するまでの距離を測定した。比較例1の結果を100とする指数で表現した。距離が長い(指数が大きい)ほど、耐久性が優れる。試験条件は、空気圧を車両指定とし、荷重は乗員1名あたり55kgとして満員時の荷重とした。磨耗末期は、溝深さがTWI(Tire Wear Indicator)から0.5mmとなるまで磨耗させた状態とした。
【0028】
実施例1
図2に示す実施形態を実施例1とした。
【0029】
実施例2
図3に示す実施形態を実施例2とした。
【0030】
比較例1
図4に示すように、導電ゴム52の周辺において、ベースゴム51とキャップゴム50の界面は水平に延びている。よって、導電ゴム52と主溝5aの中間におけるベースゴム51の厚みG2と、界面端P1におけるベースゴム51の厚みG1とは、共に1.5mmで等しい。その他は、実施例1と同じである。
【0031】
比較例2
図5に示すように、導電ゴム52からタイヤ幅方向WDに所定距離L1離れた部位P2と、界面端P1との間にある界面は、部位P2よりも径方向外側RD1に上がっている。所定距離L1は1.5mmであり、部位P2でのベースゴム51の厚みG1は1.5mmであり、界面端P1でのベースゴム51の厚みG2は2.0mmである。
【0032】
【表1】
【0033】
表1より、比較例2は比較例1よりも悪化している。これは、ベースゴム51の界面端P1が径方向外側RD1へ上がっており、この端部に歪みが集中したためと考えられる。実施例1、2は、比較例1、2よりも耐久性が向上している。これは、ベースゴム51の界面端P1が径方向内側RD2へ下がることで、歪みの集中を回避できたためと考えられる。
【0034】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、非導電性ゴムで形成され且つ接地面Eを構成するキャップゴム50と、キャップゴム50のタイヤ径方向内側RD2に設けられるベースゴム51と、キャップゴム50の厚み方向に延びてキャップゴム50の内部を通り接地面Eからベースゴム51の底面に至る導電ゴム52と、を有する。キャップゴム50とベースゴム51との間の界面のうち導電ゴム52に接する界面端P1は、界面端P1の周囲にある界面よりも径方向内側RD2に下がっている。
【0035】
このように、構成によれば、ベースゴム51の界面端P1が径方向内側RD2へ下がることで、歪みの集中を回避でき、耐久性を向上させることが可能となる。
【0036】
本実施形態では、導電ゴム52からタイヤ幅方向WDに所定距離L1離れた部位P2と、界面端P1との間にある界面は、部位P2よりも径方向内側RD2に下がっており、所定距離L1は、導電ゴム52の幅W以上である。
【0037】
この構成によれば、界面端P1が径方向内側へ急激に下がることを避けているので、歪み集中による耐久性悪化を防止することができる。
【0038】
本実施形形態では、導電ゴム52からタイヤ幅方向WDに所定距離L1離れた部位P2と、界面端P1との間にある界面は、部位P2よりも径方向内側RD2に下がっており、所定距離L1は、5.0mm以下1.5mm以上である。
【0039】
この構成が、好適な例である。
【0040】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0041】
50…キャップゴム
51…ベースゴム
52…導電ゴム
P1…界面端
RD2…タイヤ径方向内側
E…接地面
図1
図2
図3
図4
図5