【文献】
APARICIO, N.J. et al,Diabetes,1974年,Vol.23, No.2,pp.132-137.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、食後に上昇した血糖値は、インスリンの働きによって低下し、食後2〜3時間程で空腹時の値に戻る。
ところが、夜遅い時間の食事の後は、夜早い時間の食事の後と比べて血糖値が下がりにくく、夜間に高い血糖値が続きやすいことを本発明者らは見出している(非特許文献6)。
また、今般、本発明者らは、健常成人の夜間の食後血糖推移と朝の食後血糖推移とを観察したところ、夜間の食後2時間血糖値は、朝の食後2時間血糖値と比較して有意に高く、夜間は、朝の食事の後と比べて食後血糖値が上昇しやすいことを確認した。
【0006】
多忙な現代社会においては人々の生活は深夜まで及び、それに伴い夜遅い時間の食事が習慣化している。平成18年の国民健康・栄養調査によれば就労男性の約1/3に21時以降の食事習慣がある。しかし、夜遅い時間の食事習慣は、単純性肥満(原発性肥満)や耐糖能障害、脂質代謝異常、高血圧等の健康障害を招きやすいといわれている。夜遅くの食事習慣が、冠動脈性心疾患の発症率を50%増大させるとの報告もある(非特許文献7)。斯かる夜遅くの食事習慣がもたらすリスクは、朝・昼間と比べて夜間で食後血糖値が上昇しやすく、夜間に高血糖状態が持続することと関連していると考えられる。
【0007】
膵β細胞におけるインスリンの分泌には日内変動があることが知られている。膵β細胞によるインスリンの分泌はメラトニンによって制御され、メラトニン分泌の日内変動に応じてインスリン分泌も変動する。メラトニン分泌が高い夜間に、インスリン値は最低値に達することが報告されている(非特許文献8)。健常者のインスリン分泌を24時間観察したところ、朝・昼間の食事の後と比べて、夕食後のインスリン値は低いとの報告もある(非特許文献9)。斯様なインスリンの日内変動に、夜間の食後血糖推移が影響している可能性が考えられる。
近年、インスリンのように様々な生体機能に日内変動が観察され、また、薬物の効果や薬物動態が投薬時刻によって相違する可能性を受け、投薬の時刻を考慮した時間治療の検討が進められている。これまで食後の高血糖症状についての研究では食事時刻の考慮は一切されてこなかったが、上述したような朝・昼間と夜間との食後血糖推移の違い、特に夜間の食後の高血糖症状に起因する健康障害リスクより、夜間の食後血糖値を朝・昼間の食後血糖値と区別してコントロールすることが極めて必要と考えられる。
【0008】
従って、本発明は、夜間の食後血糖値の上昇を抑えることができる医薬品、医薬部外品、食品又は飼料、或いはこれらに配合可能な素材又は製剤を提供することに関する。なお、小麦アルブミンに係る従来の知見は、午前中の9時に摂取した食事後の血糖値について検討したもので、夜間の食後血糖値に関するものではない。また、食後血中インスリン濃度に関しては、その報告の全てで小麦アルブミンに統計的な有意差は認められていない。
すなわち、小麦アルブミンが、夜間における食後の血糖上昇及び血中インスリン濃度へ与える影響に関しては報告がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、小麦アルブミンの摂取によって夜遅くの食事後の血糖上昇が有意に抑制され、小麦アルブミンが夜間高血糖の改善に有用であることを見出した。また、小麦アルブミンの摂取によって食後の血中インスリン濃度の上昇も有意に低く抑えられることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、小麦アルブミンを有効成分とする夜間食後血糖上昇抑制剤を提供するものである。
また、本発明は、小麦アルブミンを有効成分とする夜間食後血中インスリン濃度上昇抑制剤を提供するものである。
また、本発明は、小麦アルブミンを有効成分とする夜間食後血糖上昇抑制用食品を提供するものである。
また、本発明は、小麦アルブミンを有効成分とする夜間食後血中インスリン濃度上昇抑制用食品を提供するものである。
また、本発明は、小麦アルブミンを摂取させる、非治療的な夜間食後血糖上昇抑制方法を提供するものである。
また、本発明は、小麦アルブミンを摂取させる、非治療的な夜間食後血中インスリン濃度上昇抑制方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、夜間の食後血糖値の上昇を抑えることができる。そして、夜間の食後の高血糖症状を抑制することができれば、それに起因する単純性肥満や耐糖能障害等の健康障害、動脈硬化性疾患、糖尿病等の疾患や症状の発症、病態の進展の予防、改善又は治療が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いられる小麦アルブミンは、小麦の胚乳部に由来するアルブミンファミリーに属する水可溶性タンパク質である。小麦アルブミンは、夜間の食後血糖値の上昇を抑制する効果に優れる点から、電気泳動の移動度が0.19の小麦アルブミンを多く含有することが好ましい。当該電気泳動の移動度が0.19の小麦アルブミンは、124アミノ酸残基からなるポリペプチドである。
なお、ここでの電気泳動の移動度とは、試料をDavisの方法(Annals of the NewYork Academy of Science,121,404−427,1964)に従って、ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた際の移動度をさす。本明細書において、電気泳動の移動度が0.19の小麦アルブミンを、以下「0.19小麦アルブミン」ともいう。
【0014】
小麦アルブミン中の0.19小麦アルブミンの含有量は、夜間の食後血糖値の上昇を抑制する効果に優れる点から、10質量%以上、更に15質量%以上、更に20質量%以上、更に25質量%以上が好ましく、また、小麦アルブミンの製造の容易性の点から、60質量%以下、更に40質量%以下、更に35質量%以下、更に31質量%以下であるのが好ましい。
0.19小麦アルブミンの分析は、HPLCにより行うことができる。例えば、特開平9−172999号公報に記載の0.19アミラーゼ阻害物質の含量の測定方法を用いることができる。
【0015】
小麦アルブミンは、小麦の胚乳部から抽出により得ることができる。小麦アルブミンの小麦からの抽出法としては、例えば、特開平9−172999号公報に記載のアミラーゼ阻害物質の調整法を用いることができる。
また、小麦アルブミンNA−1(日清ファルマ株式会社)等の市販品を用いてもよい。
【0016】
後記実施例に示すように、健常成人の夜間の食後血糖推移と朝の食後血糖推移とを観察すると、夜間の食後2時間血糖値は、朝の食後2時間血糖値と比較して有意に高く、夜間は、朝の食事の後と比べて食後血糖値が上昇しやすく、高血糖状態が持続する(
図1)。これに対して、小麦アルブミンを摂取すると、プラセボ摂取時と比較して食後の血糖上昇は有意に抑制される(
図4)。すなわち、小麦アルブミンは、夜間の食後血糖値の上昇を抑制する作用を有する。小麦アルブミンによる夜間の食後血糖値の上昇を抑制する作用は朝食後の血糖値の上昇を抑制する作用より高いことが確認された(
図6)。尚、本明細書において食後の血糖上昇抑制は、食後に引き起こされる血糖値の上昇を必ずしも完全に抑制することを意味するものではなく、小麦アルブミンを投与又は摂取しない場合に比べて、血糖値の上昇の度合いを穏やかにすることを含む概念である。
夜間の食後の高血糖症状は、単純性肥満や耐糖能障害、脂質代謝異常、高血圧、高尿酸血症等の健康障害を招くリスクをより増大させると考えられる。そのため、夜間の食後血糖値の上昇を抑制することができれば、それに起因する上記の単純性肥満や健康障害、ひいては動脈硬化性疾患や糖尿病等の疾患や症状の発症・病態の進展を予防、改善又は治療することが可能となる。
ここで、本明細書において、夜間は、日没時刻から日出時刻までの時間である。夜間と夜は同義である。なお、朝と昼間は、日出時刻から日没時刻までの時間である。通常、夜間は、一日24時間で、18時以降、翌6時までの時間である。夜遅い時間の食事の後の血糖値は、夜早い時間の食事、例えば19時の食事の後と比べて上昇しやすいことから(非特許文献6)、夜間は、好ましくは21時以降の時間であり、より好ましくは21時半以降の時間であり、更に好ましくは22時以降の時間であり、また、好ましくは24時までの時間である。
【0017】
また、食事により体内に糖が取込まれ血糖値が上昇するとインスリンが分泌されて血中インスリン濃度が上昇するが、小麦アルブミンを摂取すると、プラセボ摂取時と比較して食後の血中インスリン濃度の上昇が有意に抑制される(
図5)。すなわち、小麦アルブミンは、夜間の食後の血中インスリン濃度の上昇を抑制する作用も有する。当該食後の血中インスリン濃度の上昇の抑制は、食後に引き起こされる血中インスリン濃度の上昇を必ずしも完全に抑制することを意味するものではなく、小麦アルブミンを投与又は摂取しない場合に比べて、血中インスリン濃度の上昇の度合いを穏やかにすることを含む概念である。
【0018】
従って、小麦アルブミンは、夜間の食後血糖値の上昇を抑制するのに有用な夜間食後血糖上昇抑制剤となり得、また、該夜間食後血糖上昇抑制剤を製造するために使用することができる。また、小麦アルブミンは、夜間の食後血糖値の上昇を抑制するために使用することができる。さらに、小麦アルブミンは、夜間の食後血中インスリン濃度の上昇を抑制するのに有用な夜間食後血中インスリン濃度上昇抑制剤となり得、また、該夜間食後血中インスリン濃度上昇抑制剤を製造するために使用することができる。また、小麦アルブミンは、夜間の食後血中インスリン濃度の上昇を抑制するために使用することができる。
当該「使用」は、ヒトを含む動物への投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0019】
本発明の夜間食後血糖上昇抑制剤と夜間食後血中インスリン濃度上昇抑制剤は、ヒトを含む動物に投与又は摂取した場合に夜間の食後血糖値の上昇抑制効果、又は夜間の食後血中インスリン濃度の上昇抑制効果を発揮する医薬品、医薬部外品、食品又は飼料となり、また当該夜間食後血糖上昇抑制剤と夜間食後血中インスリン濃度上昇抑制剤は、当該医薬品、医薬部外品、食品又は飼料に配合して使用される素材又は製剤となり得る。
【0020】
当該食品には、夜間の食後血糖値の上昇抑制、又は夜間の食後血中インスリン濃度の上昇抑制を訴求とし、必要に応じてその旨の表示が許可された食品(特定保健用食品、機能性表示食品)が含まれる。表示の例としては、「夕食後の血糖値の上昇をおだやかにする」「夜遅い食後の血糖値の上昇をおだやかにする」「夜間の血糖値の上昇をおだやかにする」「睡眠中の血糖値の上昇をおだやかにする」「夕食後の糖の吸収をおだやかにする」「夜遅い食後の糖の吸収をおだやかにする」「夜間の糖の吸収をおだやかにする」「睡眠中の糖の吸収をおだやかにする」「夕食後の血中インスリン濃度の上昇をおだやかにする」「夜遅い食後の血中インスリン濃度の上昇をおだやかにする」「夜間の血中インスリン濃度の上昇をおだやかにする」「睡眠中の血中インスリン濃度の上昇をおだやかにする」がある。機能表示が許可された食品は、一般の食品と区別することができる。
【0021】
上記医薬品(医薬部外品も含む、以下同じ)の投与形態としては、例えば錠剤(チュアブル錠、発泡錠等を含む)、カプセル剤、顆粒剤(発泡顆粒剤等を含む)、散剤、トローチ剤、シロップ剤等による経口投与が挙げられる。
このような種々の剤型の製剤は、本発明の小麦アルブミン、又は他の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、保存剤、増粘剤、流動性改善剤、嬌味剤、発泡剤、香料、被膜剤、希釈剤等や、小麦アルブミン以外の薬効成分を適宜組み合わせて調製することができる。
なかでも、好ましい剤型は経口投与用の固形製剤であり、錠剤が好ましい。
【0022】
上記食品の形態としては、固形、半固形又は液状であり得、例えば、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品組成物の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、トローチ剤等の固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。なかでも、固形製剤が好ましく、錠剤がより好ましい。
【0023】
種々の形態の食品は、小麦アルブミン、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、流動性改善剤、発泡剤、香科、調味料、小麦アルブミン以外の有効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0024】
上記飼料の形態としては、好ましくはペレット状、フレーク状又はマッシュ状であり、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥等に用いるペットフード等が挙げられる。
【0025】
飼料は、小麦アルブミン、又は他の飼料材料、例えば、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等を適宜組み合わせて常法により調製することができる。
【0026】
上記製剤における小麦アルブミンの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
また、製剤全質量中の0.19小麦アルブミンの含有量は、1質量%以上、好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは13質量%以下である。
【0027】
本発明の製剤の投与量又は摂取量は、投与又は摂取対象者の体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得るが、通常、成人1人(60kg)に対して1日あたり、小麦アルブミンとして、好ましくは0.1g以上であり、また、好ましくは7.5g以下である。
また、通常、成人1人(60kg)に対して1日あたり、0.19小麦アルブミンとして、好ましくは0.02g以上であり、また、好ましくは2g以下である。
本発明では斯かる量を1日に1回〜複数回で投与又は摂取するのが好ましい。
【0028】
上記製剤は、任意の計画に従って投与又は摂取され得る。
投与又は摂取期間は特に限定されず、単回投与又は摂取でもよく、反復・連続して投与又は摂取してもよい。反復・連続して投与又は摂取する場合は、5日間以上連続して投与又は摂取することがより好ましく、15日間以上連続して投与又は摂取することが更に好ましい。
【0029】
投与又は摂取対象者としては、夜間の食後血糖値の上昇の抑制を必要とする若しくは希望するヒト又は非ヒト動物等であれば特に限定されない。対象の好ましい例として、21時以降の夜遅くの食事習慣がある者が挙げられる。また、HbA1c値が低い(≦5.7)健常成人において夜間と朝とで食後血糖推移に差が大きく認められ、夜間の食後血糖値が上昇しやすい傾向が見られたため、対象の好ましい例として、HbA1c値が低い(≦5.7)健常成人や単純性肥満者の予備軍が挙げられる。
本発明の製剤は、効果を有効に発揮する点から、夜間における摂食(摂餌)時又は摂食(摂餌)前に投与又は摂取することが好ましい。より好ましくは夜間における摂食(摂餌)時又は摂食(摂餌)前30分以内の投与又は摂取であり、更に好ましくは夜間における摂食(摂餌)時又は摂食(摂餌)前1分から10分以内の投与又は摂取である。小麦アルブミンを夜間に投与又は摂取する方が、朝・昼間に投与又は摂取するよりも効果的である。
摂食(摂餌)の内容としては、特に限定されないが、糖質を含む食事又は餌が好ましい。糖質は、単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類があり、例えば、米飯、澱粉、小麦粉、砂糖、果糖、ブドウ糖、グリコーゲン等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
試験例1 夜間食後血糖値に及ぼす小麦アルブミンの影響
〔試験食及び対照食〕
小麦アルブミンとして「小麦アルブミンNA−1」(日清ファルマ(株)製、0.19小麦アルブミン含有量25質量%)を用い、表1に記載の配合組成で原料成分を混合した。次に単発式打錠機(RIKEN社製)を用いてチュアブル錠(1100mg/錠)を得た。
【0031】
【表1】
【0032】
〔試験概要〕
(1)被験者及び方法
健常成人男性20名(空腹時平均血糖値92mg/dL)を対象とし、無作為化割付二
重盲検プラセボ対照交叉比較試験を実施した。本試験は、5日間以上の休止期間を設け、試験食及び対照食を無作為の順序で単回摂取し、検証を行う試験である。
被験者は、前日は21時までに夕食を摂取、21時以降は水のみ摂取可能とした。
試験当日は、起床後、8時に朝食(593kcal)、12時に昼食(694kcal)、22時に夕食(616kcal、タンパク質:脂質:糖質比=7:11:81)を摂取し、0時30分就寝とした。19時以降は水の自由摂取を禁止とし、夕食時に150mL、採血後に各50mLずつを摂取可能とした。夕食開始3分前に、小麦アルブミン群は試験食を、また、プラセボ群は対照食を、それぞれ3錠ずつを水なしで噛んで摂取した。
夕食前の21時30分(0時間)から、夕食後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、9時間に採血を行った。
翌朝6時30分の起床を経て、7時30分に規定の朝食(616kcal、タンパク質:脂質:糖質比=7:11:81)を摂取し、朝食前の7時(0時間)から、朝食後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間に採血を行った(朝食前の試験食又は対照食の摂取はなし)。
【0033】
有意差の検定は、統計解析ソフト(Dr.SPSS,IBM Inc.)を使用し、食後血糖値(0〜2時間)の最大濃度増加量(ΔCmax、0時間からの増加量で最も高い
値)および増加分曲線下面積(iAUC、0時間からの変化量における曲線下面積)について2群間の比較を対応のあるt検定で解析した(*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。得られた数値は平均値±標準誤差で示した。
【0034】
(2)結果
プラセボ群における夜間と朝の食後血糖値の変動を
図1に、血中インスリン濃度の変動を
図2に示す。
その結果、夜間の食後2時間血糖値は、朝の食後2時間血糖値と比較して有意に高く、夜遅くの食事後は血糖が上昇しやすいことが確認された。
また、血糖は夜間が、インスリンは朝が有意に高く、食事の時間帯によって糖代謝が異なることが示唆された。
【0035】
プラセボ群における食後血糖値の変動について、HbA1cが中央値(5.7%)より高い層(HbA1c5.7%超6.5%未満)と低い層(HbA1c5.2%以上5.7%以下)の比較を行なった。
その結果、
図3に示すように、食後2時間の血糖iAUCにおいて、夜間、朝ともにHbA1cが高い層は高値を示したものの、HbA1cが高い層と低い層とで夜間は有意差がなく、朝は有意差を示した。これはHbA1cが低い層においても、夜間は高い層との差が見えにくくなることを示唆するものである。このデータからも、健常人であっても夜間は食後血糖が上昇しやすい傾向があると考えられた。なお、HbA1cが高い層において、夜間の食後血糖と朝の食後血糖との間には有意差は認められなかった(データは示さず)。
【0036】
小麦アルブミン群とプラセボ群における夜間の食後血糖値の変動を
図4に示す。
その結果、食後2時間のΔCmax及びiAUCにおいて、小麦アルブミン群がプラセ
ボ群と比較して有意に低い結果を示した。
【0037】
また、血中インスリン濃度の変動を
図5に示す。
その結果、食後2時間のΔCmax及びiAUCにおいて、小麦アルブミン群がプラセ
ボ群と比較して有意に低い結果を示した。
これらの結果から、小麦アルブミンは、夜間の食後血糖値の上昇を抑えることが確認された。また、小麦アルブミンは、食後の血中インスリン濃度の上昇を抑えることも確認された。
【0038】
試験例2 朝と夜の小麦アルブミンの食後血糖値への効果の比較
〔試験食及び対照食〕
試験例1と同じチュアブル錠(1100mg/錠)を用いた。
【0039】
〔試験概要〕
(1)被験者及び方法
健常成人男女4名(空腹時平均血糖値89mg/dL)を対象とし、無作為化割付二重盲検プラセボ対照交叉比較法にて、朝食摂取後の血糖値の推移を観察した。当該方法は、5日間以上の休止期間を設け、試験食及び対照食を無作為の順序で単回摂取し、検証を行う試験法である。
また、試験例1の被験者20名のうち、空腹時平均血糖値が同等となるよう空腹時血糖値が低い順に選択した健常成人男性8名(空腹時平均血糖値89mg/dL)の夕食摂取後
の血糖値の推移を解析した。
いずれの試験の場合も被験者らは10時間以上の絶食後、同等の負荷食(616kcal、タンパク質:脂質:糖質比=7:11:81)を摂取し、その摂取開始3分前に、小麦アルブミン群は試験食を、また、プラセボ群は対照食を、それぞれ3錠ずつを水なしで噛んで摂取した。朝食後の血糖値の推移観察においては、朝食を9時に負荷した。採血は、いずれも食前(0時間)、食後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間に行った。食後血糖値(0〜2時間)の増加分曲線下面積(iAUC、0時間からの変化量における曲線下面積)を求めた。得られた数値は平均値±標準誤差で示した。
【0040】
朝食後と夕食後の血糖値の上昇に対する小麦アルブミンの効果の比較は、朝食後、および夕食後それぞれ、プラセボ群に対する小麦アルブミン群の血糖値の推移を比較することで検討した。
【0041】
有意差の検定は、統計解析ソフト(Dr.SPSS,IBM Inc.)を使用し、食後血糖値(0〜2時間)の増加分曲線下面積(iAUC)について2群間の比較を対応のあるt検定で解析した(*p<0.05)。
【0042】
(2)結果
図6に示すとおり、小麦アルブミン群の食後2時間のiAUCは、プラセボ群を100%とした場合、朝食後で97.0%であったのに対して、夕食後は82.3%で有意に低かった。このことより、小麦アルブミンによる夜間の食後血糖値の上昇を抑制する作用は、朝食後の血糖値の上昇を抑制する作用より高く、小麦アルブミンを夜間に摂取する方が、朝や昼間に摂取するよりも効果的であることが確認された。