【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のNi基合金のうち、第1の形態は、 質量%で、Cr:15.00〜25.00%、Co:5.00〜15.00%、Mo:1.00〜12.00%未満、Ti:1.50〜2.50%、Al:1.00〜2.00%、Nb:0.20〜1.00%、C:0.0010〜0.10%、質量ppmで、P:10〜200ppm、B:30〜250ppm、N:30〜200ppmを含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなる組成を有
し、
析出炭化物によって粒界強化されており、
合金内の粒界の長さに対して炭化物で被覆された粒界の長さの割合で定義される粒界被覆率が85%以上であり、
750℃・333MPaにおける最小クリープ速度が1.5×10−5h−1以下であることを特徴とする。
【0009】
他の形態のNi基合金の発明は、前記形態の本発明において、前記Pの含有量が質量ppmでP:20〜150ppmであることを特徴とする。
【0012】
他の形態のNi基合金の発明は、前記形態の本発明において、750℃・333MPaにおけるクリープ破断時間が600時間以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明のガスタービン材は、前記各形態に記載のNi基合金からなることを特徴とする。
【0015】
本発明のクリープ特性に優れるNi基合金の製造方法は、前記形態の組成のNi基合金を溶体化処理後、1010〜1050℃の温度と760〜790℃の温度で2回時効処理を行
い、析出炭化物によって粒界強化されており、合金内の粒界の長さに対して炭化物で被覆された粒界の長さの割合で定義される粒界被覆率が85%以上であり、750℃・333MPaにおける最小クリープ速度が1.5×10−5h−1以下である、クリープ特性に優れるNi基合金を得ることを特徴とする。
【0016】
以下に、本発明で規定した技術的事項の作用および限定理由について説明する。なお、合金組成のうち、P、B、Nの含有量は質量ppmで示し、それ以外の各元素の含有量は質量%で示す。
【0017】
Cr:15.00〜25.00%
Crは合金の耐酸化性、耐食性、強度を高めるために必要な元素である。また、Cと結合して炭化物を生成し高温強度を高める。しかし、含有量が多すぎるとマトリクスの不安定化を招き、σ相やα−Crなどの有害なTCP相の生成を助長して延性や靭性に悪影響をもたらす。したがって、Crの含有量は15.00〜25.00%に限定する。
なお、同様の理由で、Cr含有量の下限を18.00%、上限を22.00%とするのが望ましい。
【0018】
Co:5.00〜15.00%
CoはAl、Ti、Nb、Wといった合金元素の分配係数を1に近づけて合金の偏析性を改善する元素である。Coを5.00%以上含まないと上記の効果が十分得られず、15.00%を超えると鍛造性を悪化させるだけでなく、ラーベス相を生成しやすくなるため、高温でのマトリクスの組織を却って不安定にするとともに高温組織安定性を悪化させる。したがってCoの含有量は5.00〜15.00%の範囲に限定する。
なお、同様の理由で、Co含有量の下限を8.00%、上限を12.00%とするのが望ましい。
【0019】
Mo:1.00%〜12.00%
Moは主にマトリクスに固溶してこれを強化するとともに、γ’相に固溶して同相のAlサイトに置換することにより同相の安定性を高めるので、高温強度と組織安定性をともに高めるのに有効である。Mo含有量が1.0%未満では上記効果が不十分であり、12%以上になるとラーベス相を生成しやすくなるため、高温でのマトリクスの組織を却って不安定にするとともに高温組織安定性を悪化させる。したがって、Moの含有量は1.0〜12.00%未満の範囲に限定する。
なお、同様の理由で、Mo含有量の下限を5.00%、上限を10.00%とするのが望ましい。
【0020】
Ti:1.50〜2.50%
Tiは主にMC炭化物を形成して合金の結晶粒粗大化を抑制するとともに、Niと結合してγ’相を析出させ、合金の析出強化に寄与する。しかし過度に含有させると高温でのγ’相の安定性を低下させ、さらにη相を生成し強度や延性、靭性、高温長時間での組織安定性を損ねる。したがって、Tiの含有量は1.50〜2.50%の範囲に限定する。
なお、同様の理由で、Ti含有量の下限を1.80%、上限を2.20%とするのが望ましい。
【0021】
Al:1.00〜2.00%
AlはNiと結合してγ’相を析出させ、合金の析出強化に寄与する。しかし含有量が多すぎるとγ’相が粒界に凝集して粗大化し、高温での機械的特性を著しく損ねるほか、熱間加工性も低下させる。従って、Al含有量は1.00〜2.00%に限定する。
なお、同様の理由で、Al含有量の下限を1.30%、上限を1.70%とするのが望ましい。
【0022】
Nb:0.20〜1.00%
Nbはγ´相を安定化させ強度増大に寄与する元素であるが、過剰に含有させると有害相であるη相、δ相およびLaves相の析出が助長され、組織安定性が著しく低下する。したがって、Nbの含有量は0.20〜1.00%に限定する。同様の理由で下限は0.30%、上限は0.70%とすることが望ましい。
【0023】
P:10〜200ppm
Pは粒界炭化物を増加させる効果があると考えられる。粒界炭化物を析出させ最小クリープ速度を小さくする効果等を得るには、炭化物による粒界被覆率が80%以上必要であり、そのためには10ppm以上のP含有量が必要である。しかし、過剰に含有させるとPの粒界偏析が過多となり粒界の整合性を低下させ、延性低下などを引き起こす可能性がある。したがって、Pの含有量の上限は200ppmに限定する。
なお、同様の理由で、P含有量の下限を20ppm、上限を150ppmとするのが望ましい。
【0024】
C:0.0010〜0.10%
Cは炭化物を形成して合金の結晶粒粗大化を抑制し、粒界に析出して高温強度を向上させる添加元素であるが、含有量が少ないと強度の向上に十分な効果がないため少なくとも0.0010%以上の含有が必要である。しかし、含有量が多すぎると過剰な炭化物が形成されてγ´相など他の有用な析出量が減少するなど悪影響が懸念されるので、上限は0.10%とする。なお、同様の理由により下限を0.010%、上限を0.070%とするのが望ましい。
【0025】
B:30〜250ppm
Bは粒界に偏析して高温特性に寄与するので所望により含有させる。但し、多過ぎる含有は硼化物を形成し易くなり、逆に粒界脆化を招く。したがって、所望により含有させるBの含有量は250ppm以下とする。なお、上記作用を十分に得るためには、30ppm以上含有するのが望ましく、また上記と同様の理由により、さらに下限を40ppm、上限を200ppmとするのが望ましい。
【0026】
N:30〜200ppm
Nは粒界に窒化物を形成してクリープ強度を向上させると考えられるが、含有量が少ないと十分な効果が得られないため少なくとも30ppm以上の含有量が必要である。しかし、含有量が多すぎると過剰の窒化物が生成し延性低下を招くため、上限を200ppmとする。同様の理由により、下限を40ppm、上限を150ppmとすることが望ましい。
【0027】
クリープ破断時間:750℃・333MPaにおけるクリープ破断時間が600時間以上
最小クリープ速度:1.5×10
−5h
−1以下
上記数値を満たすことで、非常に優れたクリープ特性を示す。
【0028】
(製造条件)
上記組成のNi基合金に対し、溶体化処理後、1010〜1050℃の温度と760〜790℃の温度で2回時効処理を行うことにより、炭化物による粒界被覆率が85%以上で、クリープ特性に優れるNi基合金が得られる。
なお。溶体化処理は、処理が行われる合金の組成によっても異なるが、例えば1080〜1100℃の温度で処理を行うことができる。この範囲であれば結晶粒が粗大化せずJIS G0551に準拠した結晶粒度が5程度の整細粒となる。
時効処理では、第1回目で温度が1010℃未満で、あるいは、1050℃を超えると、γ´相が十分成長できず上記の強度を確保することができない。第2回目で温度が760℃未満であると、M
23C
6型の炭化物が過剰に析出し、790℃を超えると、MC型炭化物が粗大化することによって、いずれも高温延性の低下など悪影響をもたらすおそれがあるため、上記時効における温度が望ましい。