特許第6842324号(P6842324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842324
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20210308BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20210308BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20210308BHJP
   B29K 25/00 20060101ALN20210308BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   C08J9/14
   C08J3/22CET
   B29C44/00 E
   B29K25:00
   B29K105:04
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-47097(P2017-47097)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-150450(P2018-150450A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】金鹿 渉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 武紀
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊二
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0087735(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第106633451(CN,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2018−0077230(KR,A)
【文献】 特開2013−209637(JP,A)
【文献】 特開2016−199674(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/093195(WO,A1)
【文献】 特表2015−511968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B29C 44/00−44/60;67/20
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂の含有量が50重量%以上99重量%以下、且つ、ポリエチレングリコールの含有量が1重量%以上50重量%以下からなるマスターバッチを添加する工程を含むことを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項2】
スチレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレングリコールの含有量が0.05重量部以上5.0重量部以下となるように前記マスターバッチをスチレン系樹脂に添加する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項3】
スチレン系樹脂100重量部に対して、発泡剤としてハイドロフルオロオレフィンの添加量が3.0重量部以上14.0重量部以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項4】
スチレン系樹脂100重量部に対してグラファイトを1.0重量部以上5.0重量部以下含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項5】
スチレン系樹脂100重量部に対して臭素系難燃剤を0.5重量部以上5.0重量部以下含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコールの平均分子量が1000以上25000以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項7】
前記ハイドロフルオロオレフィンがテトラフルオロプロペンであることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の厚みが10mm以上150mm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項9】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度が20kg/m3以上60kg/m3以下、且つ、独立気泡率が80%以上であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡して得られる、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂押出発泡体は、一般に、押出機などを用いてスチレン系樹脂組成物を加熱溶融し、ついで発泡剤を高圧条件下にて添加し、所定の樹脂温度に冷却した後、これを低圧域に押し出すことにより連続的に製造される。
【0003】
スチレン系樹脂押出発泡体は、良好な施工性や断熱性から、例えば構造物の断熱材として用いられる。近年、住宅、建築物などの省エネルギー化の要求が高まり、従来以上の高断熱性発泡体の技術開発が望まれている。
【0004】
高断熱性発泡体を製造する手法としては、押出発泡体の気泡径を所定の範囲に制御する方法や、熱線輻射抑制剤を添加する方法、熱伝導率の低い発泡剤を使用する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、押出発泡体の厚み方向の平均気泡径が0.05〜0.18mmの微細気泡とし、更に押出発泡体の気泡変形率を制御する製造方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、熱線輻射抑制剤として、グラファイトや酸化チタンを所定の範囲で添加する製造方法が提案されている。
【0007】
更に、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、地球温暖化係数も小さい環境に優しいフッ素化されたオレフィン(ハイドロフルオロオレフィン、HFOともいう。)を使用するスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3〜6参照。)。
【0008】
他方、本発明のようにスチレン系樹脂にポリエチレングリコールを添加する例がある。例えば、特許文献7〜8では、異音防止や帯電防止を目的として、発泡性スチレン系樹脂粒子にポリエチレングリコール等を添加する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−59595
【特許文献2】特開2013−221110
【特許文献3】特表2008−546892
【特許文献4】特開2013−194101
【特許文献5】特表2010−522808
【特許文献6】WO15/093195
【特許文献7】特開2015−113418
【特許文献8】特開2013−209637
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜8に記載の技術は、優れた断熱性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を得るという目的において、十分ではなかった。
【0011】
本発明の課題は、優れた断熱性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、スチレン系樹脂押出発泡体の製造に、成形性改善剤としてポリエチレングリコールを使用し、更にポリエチレングリコールを、スチレン系樹脂を基材樹脂としたマスターバッチの形態で添加することにより、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の構成である。
【0014】
[1]スチレン系樹脂の含有量が50重量%以上99重量%以下、且つ、ポリエチレングリコールの含有量が1重量%以上50重量%以下からなるマスターバッチを添加する工程を含むことを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0015】
[2]スチレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレングリコールの含有量が0.05重量部以上5.0重量部以下となるように前記マスターバッチをスチレン系樹脂に添加する工程を含むことを特徴とする、 [1]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0016】
[3]スチレン系樹脂100重量部に対して、ハイドロフルオロオレフィンの添加量が3.0重量部以上14.0重量部以下であることを特徴とする、 [1]または[2]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0017】
[4]スチレン系樹脂100重量部に対してグラファイトを1.0重量部以上5.0重量部以下含有することを特徴とする、 [1]〜[3]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0018】
[5]スチレン系樹脂100重量部に対して臭素系難燃剤を0.5重量部以上5.0重量部以下含有することを特徴とする、 [1]〜[4]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0019】
[6]前記ポリエチレングリコールの平均分子量が1000以上25000以下であることを特徴とする、 [1]〜[5]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0020】
[7]前記ハイドロフルオロオレフィンがテトラフルオロプロペンであることを特徴とする、 [3]〜[6]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0021】
[8]前記スチレン系樹脂押出発泡体の厚みが10mm以上150mm以下であることを特徴とする、 [1]〜[7]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【0022】
[9]前記スチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度が20kg/m3以上60kg/m3以下、且つ、独立気泡率が80%以上であることを特徴とする、 [1]〜[8]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、優れた断熱性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態及び/又は実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び/又は実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0025】
本発明者らが鋭意検討した結果、上述した特許文献1〜8には以下の問題点があることを見出した。具体的には、まず、特許文献1に記載の技術では、平均気泡径を微細な範囲とした場合、発泡体の気泡壁間距離が短くなるために、押出発泡して形状付与する際の気泡の可動域が狭く、変形が困難であり、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが容易でなくなるという問題があった。
【0026】
次に、特許文献2に記載の技術では、固体の添加剤を大量に使用した場合、造核点が増えるために発泡体の気泡が微細化し、特許文献1に記載の技術と同様の問題があった。その上、樹脂自体の伸びが悪化し、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが、より難しくなる問題があった。
【0027】
また、特許文献3〜6に記載の技術では、これらの従来技術で使用するハイドロフルオロオレフィンは、スチレン系樹脂への溶解性が低く、押出発泡する際のスチレン系樹脂との分離が早いため、分離したハイドロフルオロオレフィンが造核点となり気泡径が微細化する上、ハイドロフルオロオレフィンの気化潜熱により樹脂が冷却及び固化(樹脂の伸びが悪くなる)されて、特許文献1に記載の技術と同様の問題があった。
【0028】
以上のように、高断熱性発泡体を製造するための従来技術は、いずれも押出発泡体を押出発泡して成形加工する際の発泡体の気泡の変形を阻害し、及び/又は、樹脂自体の伸びを悪化させ、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことに問題があった。従って、高断熱性発泡体を製造するための従来技術は、優れた断熱性を有し、更に、外観美麗、及び/又は十分な厚みを有するスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得るには至っておらず、未だ課題を有するものであった。
【0029】
なお、特許文献7〜8に記載の技術は、前記した異音防止や帯電防止など、発泡性樹脂粒子特有の問題を解決するためのものであり、ポリエチレングリコールが押出発泡体に添加された例は未だない。
【0030】
本発明者は、このような課題を解決すべく、本発明を完成させた。以下に本発明の実施形態について説明する。
【0031】
〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、スチレン系樹脂50重量%以上99重量%以下、且つ、ポリエチレングリコール1重量%以上50重量%以下からなる、マスターバッチの形態で添加したポリエチレングリコールを含有する。更に、必要に応じてその他の添加剤を適量含有するスチレン系樹脂組成物を、押出機等を用いて加熱溶融し、樹脂溶融物を得る。次に、得られた樹脂組成物に、発泡剤を高圧条件下にて添加し、所定の樹脂温度に冷却する。その後、発泡剤を含む樹脂溶融物を低圧域に押し出すことにより、スチレン系樹脂押出発泡体を安定して連続的に製造することができる。
【0032】
本発明の一実施形態では、成形性改善剤としてポリエチレングリコールを使用することで、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び/又は、押出発泡体の厚みを出すこと(つまり、押出発泡体の成形性を改善すること)が可能となる。ポリエチレングリコールの成形性改善効果については次のように推測される。すなわち、スチレン系樹脂押出発泡体がポリエチレングリコールを含有することで、発泡剤(例えば、i−ブタン及び/又はハイドロフルオロオレフィン)の樹脂溶融物に対する分散性、及び溶解性が向上する。樹脂溶融物に対する発泡剤の分散性、及び溶解性が向上すると、押出発泡体の発泡直後の発泡剤の気化量、又は気化速度が抑えられる。これにより、続く成形のタイミングで、樹脂溶融物に残存している発泡剤による樹脂溶融物の可塑化効果の維持、及び、発泡剤の気化潜熱による樹脂溶融物の冷却固化の抑制、ができるために、押出発泡体及び/又は樹脂溶融物が、押出発泡体及び樹脂溶融物の形状付与に対して十分な可塑性を有するものと考えている。
【0033】
本スチレン系樹脂押出発泡体における前記ポリエチレングリコールの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.05重量部以上5.0重量部以下であるが、0.1重量部以上3.0重量部以下が好ましく、0.2重量部以上1.0重量部以下が特に好ましい。ポリエチレングリコールの含有量が0.05重量部未満では、表面性付与効果、及び厚み出し効果が十分でない傾向がある。一方、ポリエチレングリコールの含有量が5.0重量部超えでは、ポリエチレングリコールの含有量が過剰なため、製造時の押出性、発泡性、及び成形安定性を損ねたり、押出発泡体の耐熱性などの諸特性を悪化させる虞がある。
【0034】
尚、本発明の一実施形態においてポリエチレングリコールを前記含有量とするためには、前記スチレン系樹脂組成物において、ポリエチレングリコールの添加量をスチレン系樹脂100重量部に対して0.05重量部以上5.0重量部以下とすれば良い。
【0035】
本発明の一実施形態で用いる前記ポリエチレングリコールの平均分子量は、特に限定はないが、1000以上25000以下が好ましく、1500以上20000以下がより好ましく、3000以上15000以下が特に好ましい。これら平均分子量の異なるポリエチレングリコールは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。ポリエチレングリコールの平均分子量が1000未満では、ポリエチレングリコールの凝固点が低く、常温で液体状態となるため、使用する量によっては、例えば、押出発泡体製造時のドライブレンド工程などでのハンドリング性に劣る。また、押出発泡体内部から表面への、ポリエチレングリコールのブリードアウトによる表面のヌメリなど、押出発泡体としての諸特性に影響を及ぼす虞がある。一方、ポリエチレングリコールの分子量が1000以上25000以下であると、凝固点が常温より高く、上記ハンドリング性に優れ、ブリードアウトもせず、且つ凝固点が押出発泡成形温度よりも低く、押出発泡成形時のスチレン系樹脂に可塑化効果も付与できるため、スチレン系樹脂押出発泡体への十分な表面性付与効果、及び十分な厚み出し効果を発揮できる。ポリエチレングリコールの分子量が25000超えの場合、押出発泡温度で固体として存在し、押出発泡成形時のスチレン系樹脂に可塑化効果を付与できず、スチレン系樹脂押出発泡体への十分な表面性付与効果、及び十分な厚み出し効果が発揮できない虞がある。
【0036】
本発明の一実施形態では、ポリエチレングリコールをスチレン系樹脂を基材樹脂としたマスターバッチの形態で添加することで、ポリエチレングリコールを使用してスチレン系樹脂押出発泡体を製造した場合でも長時間に渡って所望の吐出量を保持し、安定した生産を行うことが可能となる。ポリエチレングリコールは、上述のように、発泡剤の樹脂溶融物に対する分散性、及び溶解性を向上させると考えており、スチレン系樹脂押出発泡体の成形性を改善する効果があるが、一方で、スチレン系樹脂とポリエチレングリコール自体の相溶性は良好でない。そのため、ポリエチレングリコールをマスターバッチとせずに添加した場合、ポリエチレングリコールを使用して製造開始から長い時間が経過すると、押出機の樹脂混合物供給部付近でスチレン系樹脂と混合し切れなかったポリエチレングリコールが蓄積するため、スクリューが樹脂混合物を運んで行かなくなる、所謂、滑りによる吐出量の低下が発生する。本発明のように、ポリエチレングリコールをマスターバッチとして添加することで、ポリエチレングリコールがスチレン系樹脂と混合し切れない状態を防止することができる。
【0037】
本発明の一実施形態において、ポリエチレングリコールマスターバッチ中のスチレン系樹脂含有量は、50重量%以上99重量%以下であり、60重量%以上99重量%以下が好ましく、70重量%以上99重量%以下がより好ましい。更に、ポリエチレングリコールマスターバッチ中のポリエチレングリコール含有量は、1重量%以上50重量%以下であり、1重量%以上40重量%以下が好ましく、1重量%以上、30重量%以下がより好ましい。ポリエチレングリコール含有量が1重量%未満では、スチレン系樹脂押出発泡体の製造の際に添加して、十分な成形性改善効果を発揮するために多量のマスターバッチが必要となるため、製造コストが高くなる。一方、ポリエチレングリコール含有量が50%超えでは、ポリエチレングリコールの含有量が多すぎるため、マスターバッチ中でのポリエチレングリコールの分散が不均一となり、切断してペレット化した際の形状が不均一となったり、部分的にポリエチレングリコールがマスターバッチ表面にブリードアウトするなどして、ポリエチレングリコールマスターバッチの製造が困難となる。
【0038】
本発明の一実施形態において、ポリエチレングリコールマスターバッチの添加量は、スチレン系樹脂100重量部(マスターバッチ中のポリスチレン樹脂は含まない)に対して、1.0重量部以上60重量部以下が好ましく、2.0重量部以上50重量部以下がより好ましく、3.0重量部以上40重量部以下が特に好ましい。ポリエチレングリコールマスターバッチの添加量が1.0重量部未満では添加するマスターバッチの量が少なすぎて、選択する添加設備によってはスチレン系樹脂との混合時に偏在などの影響が大きくなり、成形性改善効果が安定して発揮されない虞がある。一方、ポリエチレングリコールマスターバッチの添加量が60重量部超えでは、使用するマスターバッチが多量過ぎるため、製造コストが高くなる。
【0039】
本発明の一実施形態に係るポリエチレングリコールマスターバッチは、例えば、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等により作製することができる。特に限定されるものではないが、具体的な製造方法の例としては、スチレン系樹脂、ポリエチレングリコール、及び必要に応じて安定剤等の各種添加剤を、スクリュー型の押出機等の加熱溶融部に供給する。スチレン系樹脂、ポリエチレングリコール、各種添加剤の混合物を溶融混練して流動ゲルと成し、押出機の先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して押し出されたストランド状の樹脂を水槽に通す等して冷却固化させた後、切断してペレット状や粒子状のマスターバッチとして得る。スチレン系樹脂へポリエチレングリコール、各種添加剤を添加する方法としては、ポリエチレングリコール、各種添加剤とスチレン系樹脂とをドライブレンドにより混合する方法、又は、スチレン系樹脂とは別の供給設備によりポリエチレングリコール、各種添加剤を押出機に供給する方法、又は、スチレン系樹脂を押出機に供給して加熱溶融した後に、ポリエチレングリコール、各種添加剤を押出機の途中から別の供給設備で供給する方法などが挙げられる。更に、ポリエチレングリコール、各種添加剤を押出機の途中から別の供給設備で供給する方法としては、使用する添加剤の性質によるが、固体のまま添加する方法、又は、加熱して液状で添加する方法などが挙げられる。前記加熱溶融部における加熱温度は、使用されるスチレン系樹脂が溶融する温度以上であれば良く、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度以下、例えば150℃〜260℃程度が好ましい。加熱溶融部における溶融混練時間は、単位時間当たりのスチレン系樹脂の押出量、及び/又は、加熱溶融部として用い、かつ、溶融混練部として用いられる押出機の種類により異なるので一義的に規定することはできず、スチレン系樹脂とポリエチレングリコール、各種添加剤とが均一に分散混合されるに要する時間として適宜設定される。
【0040】
本発明の一実施形態で用いるスチレン系樹脂としては、特に限定はなく、(i)スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等のスチレン系単量体の単独重合体または2種以上の単量体の組み合わせからなる共重合体や、(ii)前記スチレン系単量体と、ジビニルベンゼン、ブタジエン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの単量体の1種または2種以上と、を共重合させた共重合体などが挙げられる。スチレン系単量体と共重合させるアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの単量体は、製造されるスチレン系樹脂押出発泡体の圧縮強度等の物性を低下させない程度の量を用いることができる。また、本発明の一実施形態に用いるスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体に限られず、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体と、前記他の単量体の単独重合体または共重合体とのブレンド物であってもよい。例えば、本発明の一実施形態に用いるスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の単独重合体もしくは共重合体と、ジエン系ゴム強化ポリスチレンまたはアクリル系ゴム強化ポリスチレンとのブレンド物であってもよい。更に、本発明の一実施形態で用いるスチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRという。)、成形加工時の溶融粘度、溶融張力などを調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。
【0041】
本発明の一実施形態におけるスチレン系樹脂としては、MFRが0.1〜50g/10分のものを用いることが、(i)押出発泡成形する際の成形加工性に優れる点、(ii)成形加工時の吐出量、得られたスチレン系樹脂押出発泡体の厚み、幅、見掛け密度、及び独立気泡率を所望の値に調整しやすい点、(iii)発泡性(発泡体の厚み、幅、見掛け密度、独立気泡率、及び、表面性などを所望の状況に調整し易さ)に優れる点、(iv)外観などに優れたスチレン系樹脂押出発泡体がえられる点、並びに(v)特性(例えば、圧縮強度、曲げ強度または曲げたわみ量といった機械的強度や靱性など)のバランスがとれた、スチレン系樹脂押出発泡体が得られる点から、好ましい。更に、スチレン系樹脂のMFRは、成形加工性及び発泡性と、機械的強度及び靱性とのバランスの点から、0.3〜30g/10分が更に好ましく、0.5〜25g/10分が特に好ましい。なお、本発明の一実施形態において、MFRは、JIS K7210(1999年)のA法、及び、試験条件Hにより測定される。
【0042】
本発明の一実施形態においては、前述したスチレン系樹脂のなかでも、経済性及び加工性の面からポリスチレン樹脂が特に好適である。また、押出発泡体に、より高い耐熱性が要求される場合には、スチレン−アクリロニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリスチレンを用いることが好ましい。また、押出発泡体に、より高い耐衝撃性が求められる場合には、ゴム強化ポリスチレンを用いることが好ましい。これらスチレン系樹脂は、単独で使用してもよく、また、共重合成分、分子量、分子量分布、分岐構造、及び/又はMFRなどの異なるスチレン系樹脂を2種以上混合して使用してもよい。
【0043】
本発明の一実施形態で用いる発泡剤としては、炭素数3〜5の飽和炭化水素、又はハイドロフルオロオレフィンを使用することができる。これらの発泡剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の一実施形態で用いる炭素数3〜5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。これらの炭素数3〜5の飽和炭化水素のなかでは、発泡性の点から、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましい。また、発泡体の断熱性能の点から、n−ブタン、i−ブタン(以下、「イソブタン」と呼ぶこともある)、あるいは、これらの混合物が好ましく、特に好ましくはi−ブタンである。
【0045】
本発明の一実施形態で用いるハイドロフルオロオレフィンとしては、特に制限はないが、テトラフルオロプロペンが、低い気体の熱伝導率及び安全性の観点から好ましい。具体的にはトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−HFO−1234ze)、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(シス−HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−HFO−1234yf)などが挙げられる。また、本発明で用いるハイドロフルオロオレフィンは、塩素化されたハイドロクロロフルオロオレフィンでも良い。ハイドロクロロフルオロオレフィンとしては、特に制限はないが、ハイドロクロロトリフルオロプロペンが、低い気体の熱伝導率や安全性の観点から好ましい。具体的にはトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(トランス−HCFO−1233zd)などが挙げられる。これらのハイドロフルオロオレフィンは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の一実施形態に係るハイドロフルオロオレフィンの添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して3.0重量部以上14.0重量部以下が好ましく、4.0重量部以上13.0重量部以下がより好ましく、4.5重量部以上12.0重量部以下が特に好ましい。ハイドロフルオロオレフィンの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して3.0重量部より少ない場合には、ハイドロフルオロオレフィンによる断熱性の向上効果があまり期待できない。一方、ハイドロフルオロオレフィンの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して14.0重量部を超える場合には、押出発泡時にハイドロフルオロオレフィンが樹脂溶融物から分離して、押出発泡体の表面にスポット孔(ハイドロフルオロオレフィンの局所的塊が、押出発泡体表面を突き破って外気へ放出された痕。)が発生したり、独立気泡率が低下して断熱性を損なう虞がある。
【0047】
ハイドロフルオロオレフィンは、オゾン層破壊係数がゼロか、極めて小さいものであり、地球温暖化係数が非常に小さく、環境に優しい発泡剤である。しかも、ハイドロフルオロオレフィンは、気体状態の熱伝導率が低く、且つ難燃性であることから、スチレン系樹脂押出発泡体の発泡剤として用いることにより、スチレン系樹脂押出発泡体に優れた断熱性、及び難燃性を付与することができる。
【0048】
一方、前記のテトラフルオロプロペンのようなスチレン系樹脂に対する溶解性が低いハイドロフルオロオレフィンを使用した場合には、添加量の増量に伴ってハイドロフルオロオレフィンが樹脂溶融物から分離、及び/又は、気化することにより、ハイドロフルオロオレフィンが造核点となって、(i)発泡体の気泡が微細化すること、(ii)樹脂に残存している発泡剤が減少して樹脂溶融物に対する可塑化効果が低下すること、(iii)発泡剤の気化潜熱による樹脂溶融物の冷却及び固化が生じること、を招き、その結果、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び、押出し発泡成形体の厚みを出すことが難しくなる傾向にある。特に、前記したようにハイドロフルオロオレフィンの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して14.0重量部を超える場合には、押出発泡体表面におけるスポット孔の発生も伴って、成形性の悪化がより顕著なものとなる。
【0049】
目的とする発泡倍率、難燃性等の発泡体の諸特性いかんによっては、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素、及び/又は前記ハイドロフルオロオレフィンの添加量などが制限される場合があり、該添加量が所望の範囲外の場合には、押出発泡成形性などが充分でない場合がある。
【0050】
本発明の一実施形態では、さらに、他の発泡剤を用いることにより、発泡体製造時の可塑化効果及び/又は助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる。
【0051】
他の発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチル−n−ブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4の飽和アルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類;塩化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化アルキルなどの有機発泡剤、水、二酸化炭素などの無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などを用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
他の発泡剤の中では、発泡性、及び発泡体成形性などの点からは、炭素数1〜4の飽和アルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルなどが好ましく、発泡剤の燃焼性、発泡体の難燃性あるいは後述する断熱性等の点からは、水、二酸化炭素が好ましい。これらの中では、可塑化効果の点からジメチルエーテルが、コスト、及び、気泡径の制御による断熱性向上効果の点から水が特に好ましい。
【0053】
本発明の一実施形態における発泡剤の添加量は、発泡剤全体として、スチレン系樹脂100重量部に対して、2〜20重量部が好ましく、2〜15重量部がより好ましい。発泡剤の添加量が2重量部より少ないと、発泡倍率が低く、樹脂発泡体としての軽量性、及び断熱性などの特性が発揮されにくい場合があり、20重量部より多いと、過剰な発泡剤量の為、発泡体中にボイドなどの不良を生じる場合がある。
【0054】
本発明の一実施形態においては、他の発泡剤として水、及び/又はアルコール類を用いる場合には、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。本発明の一実施形態において用いられる吸水性物質の具体例としては、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール−アクリル酸塩系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末;スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品;ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土、ベントナイトなどの多孔性物質等があげられる。吸水性物質の添加量は、水、及び/又はアルコール類の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。
【0055】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法において、発泡剤を添加または注入する際の圧力は、特に制限するものではなく、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0056】
本発明の一実施形態では、スチレン系樹脂押出発泡体において、スチレン系樹脂100重量部に対して難燃剤を0.5重量部以上5.0重量部以下含有させることにより、得られるスチレン系樹脂押出発泡体に難燃性を付与することができる。難燃剤の含有量が0.5重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、一方、5.0重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。但し、難燃剤の含有量は、JIS A9521測定方法Aに規定される難燃性が得られるように、発泡剤含有量、発泡体の見掛け密度、難燃相乗効果を有する添加剤などの種類あるいは含有量などに応じて、適宜調整されることがより好ましい。
【0057】
難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく用いられる。本発明の一実施形態における臭素系難燃剤の具体的な例としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテル、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及び臭素化スチレン−ブタジエンブロックコポリマーのような脂肪族臭素含有ポリマーが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0058】
これらのうち、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルからなる混合臭素系難燃剤、臭素化スチレン−ブタジエンブロックコポリマー、及びヘキサブロモシクロドデカンが、押出運転が良好であり、発泡体の耐熱性に悪影響を及ぼさない等の理由から、望ましく用いられる。これらの物質はそれ単体で用いても、または混合物として用いても良い。
【0059】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における臭素系難燃剤の含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上5.0重量部以下が好ましく、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上5.0重量部以下がより好ましく、1.5重量部以上5.0重量部以下が更に好ましい。臭素系難燃剤の含有量が0.5重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、一方、5.0重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。
【0060】
本発明の一実施形態においては、スチレン系樹脂押出発泡体の難燃性能を向上させる目的で、ラジカル発生剤を併用することができる。前記ラジカル発生剤は、具体的には、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等が挙げられる。ジクミルパーオキサイドの様な過酸化物も用いられる。その中でも、樹脂加工温度条件にて、安定なものが好ましく、具体的には2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、及びポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンが好ましく、前記ラジカル発生剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.05〜0.5重量部である。
【0061】
更に、難燃性能を向上させる目的で、言い換えれば難燃助剤として、熱安定性能を損なわない範囲で、リン酸エステル及びホスフィンオキシドのようなリン系難燃剤を併用することができる。リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、または縮合リン酸エステル等が挙げられ、特にトリフェニルホフェート、又はトリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェートが好ましい。又、ホスフィンオキシド型のリン系難燃剤としては、トリフェニルホスフィンオキシドが好ましい。これらリン酸エステル及びホスフィンオキシドは単独または2種以上併用しても良い。リン系難燃剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜2重量部である。
【0062】
本発明の一実施形態においては、必要に応じて樹脂、及び/又は、難燃剤の安定剤を使用することが出来る。特に限定されるものでは無いが、安定剤の具体的な例としては、(i)ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のようなエポキシ化合物、(ii)ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等の多価アルコールと、酢酸、プロピオン酸等の一価のカルボン酸、又は、アジピン酸、グルタミン酸等の二価のカルボン酸との反応物であるエステルであって、その分子中に一個以上の水酸基を持つエステルの混合物であり、原料の多価アルコールを少量含有することもある、多価アルコールエステル、(iii)トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及びオクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナートのようなフェノール系安定剤、(iv)3,9−ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト)のようなホスファイト系安定剤、などが発泡体の難燃性能を低下させることなく、かつ、発泡体の熱安定性を向上させることから、好適に用いられる。
【0063】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、断熱性向上のため、熱線輻射抑制剤としてグラファイトを含有してもよい。本発明の一実施形態で使用するグラファイトは、例えば、鱗(片)状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。これらの中でも、熱線輻射抑制効果が高い点から、主成分が鱗(片)状黒鉛のものを用いることが好ましい。グラファイトは、固定炭素分が80%以上のものが好ましく、85%以上のものがより好ましい。固定炭素分を上記範囲とすることで高い断熱性を有する発泡体が得られる。
【0064】
グラファイトの平均粒子径は15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均粒径を上記範囲とすることで、グラファイトの比表面積が大きくなり、熱線輻射との衝突確率が高くなるため、熱線輻射抑制効果が高くなる。前記平均粒径は、ISO13320:2009,JIS Z8825:2013に準拠したMie理論に基づくレーザー回折散乱法により粒度分布を測定・解析し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒径(レーザー回折散乱法による体積平均粒径)を意味する。
【0065】
本発明の一実施形態におけるグラファイトの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上5.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以上3.0重量部以下がより好ましい。含有量が1.0重量部未満では、十分な熱線輻射抑制効果が得られない。含有量が5.0重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られずコストメリットが無い。
【0066】
前記熱線輻射抑制剤とは、近赤外または赤外領域の光を反射、散乱、及び吸収する特性を有する物質をいう。熱線輻射抑制剤を含有することにより、高い断熱性を有する発泡体となり得る。本発明の一実施形態で使用することができる熱線輻射抑制剤としては、グラファイトの他に、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化アンチモンなどの白色系粒子を併用することができる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、線輻射抑制効果が大きい点から、酸化チタン又は硫酸バリウムが好ましく、酸化チタンがより好ましい。白色系粒子の平均粒径については、特に限定されるものではないが、効果的に赤外線を反射し、また樹脂への発色性を考慮すれば、例えば、酸化チタンでは0.1μm〜10μmが好ましく、0.15μm〜5μmがより好ましい。
【0067】
本発明の一実施形態における白色系粒子の含有量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上3.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以上2.5重量部以下がより好ましい。白色系粒子は、グラファイトと比較して熱線輻射抑制効果が小さく、白色系粒子の含有量が1.0重量部未満では、前記白色系粒子を含有しても熱線輻射抑制効果は殆どない。白色系粒子の含有量が3.0重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られない、一方で、発泡体の難燃性が悪化する傾向がある。
【0068】
本発明の一実施形態における熱線輻射抑制剤の合計含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上6.0重量部以下が好ましく、2.0重量部以上5.0重量部以下がより好ましい。熱線輻射抑制剤の合計含有量が1.0重量部未満では、断熱性が得られがたく、一方、熱線輻射抑制剤のような固体添加剤の含有量が増すほど、造核点が増えるために発泡体の気泡が微細化したり、樹脂自体の伸びが悪化したりすることで、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向にあるが、熱線輻射抑制剤の合計含有量が6.0重量部超では、特に、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すこと、が劣る傾向があり、更に、押出安定性を損なう傾向、及び難燃性が損なわれる傾向がある。
【0069】
本発明の一実施形態においては、さらに、必要に応じて、本発明の一実施形態に係る効果を阻害しない範囲で、例えば、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、炭酸カルシウムなどの無機化合物、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、ステアリルアミド系化合物などの加工助剤、フェノール系抗酸化剤、リン系安定剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類などの耐光性安定剤、タルクなどの気泡径調整剤、前記以外の難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤がスチレン系樹脂に含有されてもよい。
【0070】
スチレン系樹脂に各種添加剤を配合する方法、手順としては、例えば、スチレン系樹脂に対して各種添加剤を添加してドライブレンドにより混合する方法、押出機の途中に設けた供給部より溶融したスチレン系樹脂に各種添加剤を添加する方法、あらかじめ押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いてスチレン系樹脂へ高濃度の各種添加剤を含有させたマスターバッチを作製し、当該マスターバッチとスチレン系樹脂とをドライブレンドにより混合する方法、又は、スチレン系樹脂とは別の供給設備により各種添加剤を押出機に供給する方法、などが挙げられる。例えば、スチレン系樹脂に対して各種添加剤を添加して混合した後、押出機に供給して加熱溶融し、更に発泡剤を添加して混合する手順が挙げられるが、各種添加剤又は発泡剤をスチレン系樹脂に添加するタイミング及び混練時間は特に限定されない。
【0071】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率は特に限定はないが、例えば建築用断熱材、又は、保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性の観点から、平均温度23℃で測定した製造1週間後の熱伝導率が0.0284W/mK以下であることが好ましく、0.0244W/mK以下であることがより好ましく、0.0224W/mK以下であることが特に好ましい。
【0072】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度は、例えば建築用断熱材、又は保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性および、軽量性の観点から、20kg/m3以上60kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは25kg/m3以上45kg/m3以下である。
【0073】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の独立気泡率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。独立気泡率が80%未満では、発泡剤が押出発泡体から早期に散逸し、断熱性が低下する。
【0074】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径は、0.05mm以上0.5mm以下が好ましく、0.05mm以上0.4mm以下がより好ましく、0.05mm以上0.3mm以下が特に好ましい。一般に、平均気泡径が小さいほど、発泡体の気泡壁間距離が短くなるために、押出発泡の際に押出発泡体に形状付与する際の押し出し発泡体の気泡の可動域が狭く、変形が困難であり、押出発泡体に美麗な表面を付与すること及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向にある。スチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径が0.05mmより小さいと、特に、押出発泡体に美麗な表面を付与すること及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向が顕著なものとなる。一方、スチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径が0.5mm超えの場合、十分な断熱性が得られない虞がある。
【0075】
尚、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の平均気泡径は、マイクロスコープ[(株)KEYENCE製、DIGITAL MICROSCOPE VHX−900]を用いて、次に記載の通り評価した。
【0076】
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の幅方向垂直断面を押出方向と幅方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の厚み方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所、各観察方向につき3本。)、その直線に接する気泡の個数aを測定し、測定した気泡の個数aから、次式(1)により観察箇所毎の厚み方向の平均気泡径Aを求めた。3箇所(各箇所2方向ずつ)の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径A(平均値)とした。
【0077】
観察箇所毎の厚み方向の平均気泡径A(mm)=2×3/気泡の個数a
・・・(1)
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の押出方向垂直断面を幅方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の押出方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所につき3本。)、その直線に接する気泡の個数bを測定し、測定した気泡の個数bから、次式(2)により観察箇所毎の押出方向の平均気泡径Bを求めた。3箇所の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の押出方向の平均気泡径B(平均値)とした。
【0078】
観察箇所毎の押出方向の平均気泡径B(mm)=2×3/気泡の個数b
・・・(2)
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の幅方向垂直断面を押出方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の幅方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所につき3本。)、その直線に接する気泡の個数cを測定し、測定した気泡の個数cから、次式(3)により観察箇所毎の幅方向の平均気泡径Cを求めた。3箇所の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向の平均気泡径C(平均値)とした。
【0079】
観察箇所毎の幅方向の平均気泡径C(mm)=2×3/気泡の個数c
・・・(3)
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の気泡変形率は、0.7以上2.0以下が好ましく、0.8以上1.5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下が更に好ましい。気泡変形率が0.7よりも小さい場合、圧縮強度が低くなり、押出発泡体において用途に適した強度を確保できない虞がある。また、気泡が球状に戻ろうとするため、押出発泡体の寸法(形状)維持性に劣る傾向がある。一方、気泡変形率が2.0超えの場合、押出発泡体の厚み方向における気泡数が少なくなるため、気泡形状による断熱性向上効果が小さくなる。
【0080】
尚、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の気泡変形率は、前記した平均気泡径から、次式(4)により求めることができる。
【0081】
気泡変形率(単位なし)=A(平均値)/{〔B(平均値)+C(平均値)〕/2}・・・(4)
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みは、例えば建築用断熱材、又は保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性、曲げ強度及び圧縮強度の観点から、10mm以上150mm以下であることが好ましく、より好ましくは20mm以上130mm以下であり、特に好ましくは30mm以上120mm以下である。
【0082】
尚、スチレン系樹脂押出発泡体では、本発明の実施例、及び比較例に記載したように、押出発泡成形して形状を付与した後に、厚み方向と垂直な平面の両表面を厚み方向に片側5mm程度の深さでカットして製品厚みとする場合があるが、別途記載がない限り、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みとは押出発泡成形して形状を付与したままのカットしていない厚みのことである。
【0083】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の形状は、例えば建築用断熱材、又は保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として好適に使用するために、押出方向、幅方向、厚み方向のいずれの方向にも波打ちがなく板状である必要がある。前記したように、例えばハイドロフルオロオレフィンを用いた場合、熱線輻射抑制剤を使用した場合、又は、スチレン系押出発泡体として平均気泡系が微細化した場合などには、樹脂自体の伸びが悪化したり、押出発泡して形状付与する際の押出発泡体の気泡の可動域が狭く、変形が困難であったりすることによって、押出発泡成形して前記厚みへの調整を試みた際に形状付与できず、押出発泡体の押出方向、幅方向、厚み方向のいずれか一方向以上が波打ちしており板状とならない場合がある。
【0084】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の表面性は、製造時の安定性を担保するため、及び厚み方向と垂直な平面の両表面を残したまま製品として使用する場合には特に重要となるため、フローマーク、クラック、ムシれなどがなく、美麗である必要がある。前記したように、例えばハイドロフルオロオレフィンを用いた場合、熱線輻射抑制剤を使用した場合、又は、スチレン系押出発泡体として平均気泡系が微細化した場合などには、樹脂自体の伸びが悪化したり、押出発泡して形状付与する際の押出発泡体の気泡の可動域が狭く、変形が困難であったりすることによって、押出発泡体の表面にフローマーク、クラック、ムシれなどが発生し、表面性を損なう場合がある。フローマークとは、溶融樹脂の流れ痕で、樹脂自体が硬く伸びが悪い場合などに、厚み方向と垂直な平面の両表面に発生する。クラックとは、押出発泡体に無理な力が加わった場合などに生じるひび割れのことで、特に押出発泡体の厚みが出にくい状態で無理に成形して厚みを出そうとした場合などに生じ易い。厚み方向と垂直な平面の両表面に発生することもあるし、幅方向の端(側部)に発生することもある。ひどい場合にはクラックが起点となり、連続的に製造されている押出発泡体が千切れる場合がある。また、ムシれとは、発泡された溶融樹脂の一部が固化し過ぎるなどして成形金型に引っ掛かり、捲り上がることで、厚み方向と垂直な平面の両表面、および/または幅方向の端(側部)に、局所的または全域的に発生することがある。
【0085】
尚、本明細書においては、スチレン系樹脂押出発泡体の発泡成形時の厚み出し性、形状付与性、及び表面性を含めて成形性と呼ぶことがある。
【0086】
かくして、本発明の一実施形態により、優れた断熱性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得ることができる。
【0087】
〔2.スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法は、前記した〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕に記載のスチレン系樹脂押出発泡体を製造するために用いられる製造方法である。本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法で使用される構成のうち、〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕にて既に説明した構成については、ここではその説明を省略する。
【0088】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては、スチレン系樹脂、ポリエチレングリコールマスターバッチ、及び、必要に応じて、難燃剤、安定剤、熱線輻射抑制剤、又はその他の添加剤等を押出機等の加熱溶融部に供給する。このとき、任意の段階で高圧条件下にて発泡剤をスチレン系樹脂に添加することができる。そして、スチレン系樹脂、ポリエチレングリコールマスターバッチ、発泡剤、及びその他の添加剤の混合物を流動ゲルとなし、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイを通して該流動ゲルを低圧領域に押出発泡して、発泡体を形成する。
【0089】
前記加熱溶融部における加熱温度は、使用されるスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよいが、添加剤などの影響による樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば150℃〜260℃程度が好ましい。加熱溶融部における溶融混練時間は、単位時間当たりのスチレン系樹脂の押出量、及び/又は、加熱溶融部として用い、かつ、溶融混練部として用いられる押出機の種類により異なるので一義的に規定することはできず、スチレン系樹脂と発泡剤及び添加剤とが均一に分散混合されるのに要する時間として適宜設定される。
【0090】
溶融混練部としては、例えばスクリュー型の押出機などが挙げられるが、通常の押出発泡に用いられるものであれば特に制限されない。
【0091】
本発明の一実施形態に係る発泡成形方法は、例えば、押出成形用に使用される開口部が直線のスリット形状を有するスリットダイを通じて、高圧領域から低圧領域へ開放して得られた押出発泡体を、スリットダイと密着又は接して設置された成形金型、及び該成形金型の下流側に隣接して設置された成形ロールなどを用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形する方法が用いられる。成形金型の流動面形状調整および金型温度調整によって、所望の発泡体の断面形状、発泡体の表面性、発泡体品質が得られる。
【0092】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。更に、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明が以下の実施例に限定されないことは勿論である。
【0094】
実施例および比較例において使用した原料は、次の通りである。
【0095】
○基材樹脂
・スチレン系樹脂 [PSジャパン(株)製、G9401;MFR2.2g/10分]
○熱線輻射抑制剤
・グラファイト [(株)丸豊鋳材製作所製、M−885;鱗(片)状黒鉛、平均粒径5.5μm、固定炭素分89%]
・酸化チタン [堺化学工業(株)製、R−7E;平均粒径0.23μm]
○難燃剤
・テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテルの混合臭素系難燃剤[第一工業製薬(株)製、GR−125P]
○難燃助剤
・トリフェニルホスフィンオキシド [住友商事ケミカル]
○安定剤
・ビスフェノール−A−グリシジルエーテル [(株)ADEKA製、EP−13]
・ジペンタエリスリトール−アジピン酸反応混合物 [味の素ファインテクノ(株)製、プレンライザーST210]
・トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート [Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]
○その他添加剤
・タルク [林化成(株)製、タルカンパウダーPK−Z]
・ステアリン酸カルシウム [堺化学工業(株)製、SC−P]
・ベントナイト [(株)ホージュン製、ベンゲルブライト11K]
・シリカ [エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS−304F]
・エチレンビスステアリン酸アミド [日油(株)製、アルフローH−50S]
○成形性改善剤
・PEG 6000 [第一工業製薬(株)製、PEG 6000;平均分子量7400〜9000、凝固点56〜61℃]
○発泡剤
・HFO−1234ze [ハネウェルジャパン(株)製]
・HCFO−1233zd [ハネウェルジャパン(株)製]
・ジメチルエーテル [岩谷産業(株)製]
・イソブタン [三井化学(株)製]
・水 [大阪府摂津市水道水]。
【0096】
実施例および比較例に係る製造条件について、以下の観点に従って製造安定性を評価した。
【0097】
(1)吐出量の保持率
所定の樹脂混合物を、押出機に供給開始(以下、「供給開始時」と呼ぶこともある)してから所定時間経過後の吐出量の保持率を以下の計算式(5)により求め、下記の評価基準によって判断した。
【0098】
吐出量の保持率(%)=Q(kg/h)/Q0(kg/h)×100・・・(5)
ここで、Q(kg/h)は所定時間経過後の吐出量、Q0(kg/h)は供給開始時の吐出量である。
○:供給開始時から12時間以上経過後の吐出量の保持率が70%以上である。
×:供給開始時から12時間以上経過後の吐出量の保持率が70%未満である。
【0099】
更に、実施例および比較例に係る押出発泡体の物性について、以下の手法に従ってスチレン系樹脂押出発泡体の厚み(カット前)、見掛け密度、独立気泡率、平均気泡径、気泡変形率、熱伝導率、JIS燃焼性、発泡体外観を評価した。
【0100】
(2)スチレン系樹脂押出発泡体の厚み(カット前)
ノギス[(株)ミツトヨ製、M型標準ノギスN30]を用いて、幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の厚み、計3点を測定した。3点の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の厚みとした。
【0101】
(3)見掛け密度(kg/m3
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の重量を測定すると共に、長さ寸法、幅寸法、厚み寸法を測定した。
【0102】
測定された重量および各寸法から、以下の式(6)に基づいて発泡体密度を求め、単位をkg/m3に換算した。
見掛け密度(g/cm3)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm3)・・・(6)
(4)独立気泡率
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所から厚さ40mm×長さ(押出方向)25mm×幅25mmに切り出した試験片を用い、ASTM−D2856−70の手順Cに従って測定し、以下の計算式(7)にて各試験片の独立気泡率を求め、3箇所の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(V1−W/ρ)×100/(V2−W/ρ)・・・(7)
ここで、V1(cm3)は空気比較式比重計[東京サイエンス(株)製、空気比較式比重計、型式1000型]を用いて測定した試験片の真の体積(独立気泡でない部分の容積が除かれる。)である。V2(cm3)は、ノギス[(株)ミツトヨ製、M型標準ノギスN30]を用いて測定した試験片の外側寸法より算出した見掛けの体積である。W(g)は試験片の全重量である。また、ρ(g/cm3)は押出し発泡体を構成するスチレン系樹脂の密度であり、1.05(g/cm3)とした。
【0103】
(5)厚み方向の平均気泡径と気泡変形率
得られたスチレン系樹脂押出発泡体について、前述の通り評価した。
【0104】
(6)熱伝導率
JIS A 9521に準じて、厚さ製品厚み×長さ(押出方向)300mm×幅300mmに切り出した試験片を用い、熱伝導率測定装置[英弘精機(株)、HC−074]にて平均温度23℃での熱伝導率を測定した。測定は、スチレン系樹脂押出発泡体の製造後、前記寸法の試験片に切削し、JIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に静置し、製造から1週間後に行った。
【0105】
(7)JIS燃焼性
JIS A 9521に準じて、厚さ10mm×長さ200mm×幅25mmの試験片を用い、以下の基準で評価した。測定は、スチレン系樹脂押出発泡体の製造後、前記寸法の試験片に切削し、JIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に静置し、製造から1週間後に行った。
○:3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しないとの基準を満たす。
×:上記基準を満たさない。
【0106】
(8)発泡体外観
以下(8)−1、(8)−2に記載する、形状、表面性の評価結果から、下記の評価基準によって判定した。
合格:形状、及び表面性の評価結果が両方○である。
不合格:形状、及び表面性の評価結果の少なくとも一方が△、又は×である。
【0107】
(8)−1.形状
成形ロール以降カット以前の押出発泡体を目視し、下記の評価基準によって評価した。
○:押出発泡体の押出方向、幅方向、厚み方向のいずれの方向にも波打ちがなく板状である。
×:押出発泡体の押出方向、幅方向、厚み方向のいずれか一方向以上が波打ちしており板状でない。
【0108】
(8)−2.表面性
カット以前、及びカット以後の押出発泡体を目視し、下記の評価基準によって評価した。尚、表面とは厚み方向と垂直な面を指し、カット以後とはスチレン系樹脂押出発泡体の厚み(3点平均値)を基準として、厚み方向に片側5mmの深さで両表面をカットした状態を指す。
○:フローマーク、クラック、ムシれなどの表面異常がなく、美麗な表面である。
△:フローマーク、クラック、ムシれなどの表面異常があるが、カット以後の表面にはそれらの痕が残らない。
×:フローマーク、クラック、ムシれなどの表面異常があり、カット以後の表面にもそれらの痕が残る。
【0109】
実施例および比較例について、グラファイト、酸化チタン、ポリエチレングリコールは以下の手法に従って作製したマスターバッチにより添加した。
【0110】
[グラファイトマスターバッチの作製]
バンバリーミキサーに、基材樹脂であるスチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]100重量部、並びに、スチレン系樹脂100重量部に対して、グラファイト[(株)丸豊鋳材製作所製、M−885]102重量部、及びエチレンビスステアリン酸アミド[日油(株)製、アルフローH−50S]2.0重量部を投入して、5kgf/cm2の荷重をかけた状態で加熱冷却を行わずに20分間溶融混練した。この際、樹脂温度を測定したところ190℃であった。ルーダーに供給して先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量250kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチを得た。
【0111】
[酸化チタンマスターバッチの作製]
バンバリーミキサーに、基材樹脂であるスチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]100重量部、並びに、スチレン系樹脂100重量部に対して、酸化チタン[堺化学工業(株)製、R−7E]154重量部、及びエチレンビスステアリン酸アミド[日油(株)製、アルフローH−50S]2.6重量部を投入して、5kgf/cm2の荷重をかけた状態で加熱冷却を行わずに20分間溶融混練した。この際、樹脂温度を測定したところ190℃であった。ルーダーに供給して先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量250kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチを得た。
【0112】
[ポリエチレングリコールマスターバッチAの作製]
口径37mmの同方向二軸押出機に、別々の供給フィーダーを使用して、基材樹脂であるスチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]100重量部、並びに、スチレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレングリコール[第一工業製薬(株)製、PEG6000]2.56重量部を、スチレン系樹脂とポリエチレングリコールの合計量が50kg/hrとなるよう供給した。
【0113】
二軸押出機に供給したスチレン系樹脂とポリエチレングリコールの混合物を、200℃に加熱して、スクリュー回転数200rpmで溶融、混練し、二軸押出機の先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量50kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチを得た。尚、ダイス部で測定した樹脂温度は220℃であった。
【0114】
[ポリエチレングリコールマスターバッチBの作製]
口径37mmの同方向二軸押出機に、別々の供給フィーダーを使用して、基材樹脂であるスチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]100重量部、並びに、スチレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレングリコール[第一工業製薬(株)製、PEG6000]5.26重量部を、スチレン系樹脂とポリエチレングリコールの合計量が50kg/hrとなるよう供給した。
【0115】
口径37mmの同方向二軸押出機に供給したスチレン系樹脂とポリエチレングリコールの混合物を、200℃に加熱して、スクリュー回転数200rpmで溶融、混練し、二軸押出機の先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量50kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチを得た。尚、ダイス部で測定した樹脂温度は218℃であった。
【0116】
[ポリエチレングリコールマスターバッチCの作製]
口径37mmの同方向二軸押出機に、基材樹脂であるスチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]100重量部を供給し、200℃に加熱して溶融した後、加熱可能な液添加設備にて100℃に加熱して液状としたポリエチレングリコール[第一工業製薬(株)製、PEG6000]11.1重量部を押出機の途中から添加した。この際、スチレン系樹脂とポリエチレングリコールの合計量が50kg/hrとなるよう供給した。その後、二軸押出機内でスチレン系樹脂とポリエチレングリコールの混合物を、200℃に加熱して、スクリュー回転数200rpmで溶融、混練し、先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量50kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチを得た。尚、ダイス部で測定した樹脂温度は217℃であった。
【0117】
[ポリエチレングリコールマスターバッチDの作製]
口径37mmの同方向二軸押出機に、基材樹脂であるスチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]100重量部を供給し、200℃に加熱して溶融した後、加熱可能な液添加設備にて100℃に加熱して液状としたポリエチレングリコール[第一工業製薬(株)製、PEG6000]25.0重量部を押出機の途中から添加した。この際、スチレン系樹脂とポリエチレングリコールの合計量が50kg/hrとなるよう供給した。その後、二軸押出機内でスチレン系樹脂とポリエチレングリコールの混合物を、200℃に加熱して、スクリュー回転数200rpmで溶融、混練し、先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量50kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチを得た。尚、ダイス部で測定した樹脂温度は215℃であった。
【0118】
(実施例1)
[樹脂混合物の作製]
基材樹脂であるスチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]92.8重量部、並びに、熱線輻射抑制剤としてグラファイトマスターバッチ5.0重量部と、酸化チタンマスターバッチ2.5重量部、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテルと、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモプロピル)エーテルとの混合臭素系難燃剤[第一工業製薬(株)製、GR−125P]3.0重量部、難燃剤助剤としてトリフェニルホスフィンオキシド [住友商事ケミカル]1.0重量部、気泡径調整剤としてタルク[林化成(株)製、タルカンパウダーPK−Z]0.5重量部、安定剤としてビスフェノール−A−グリシジルエーテル[(株)ADEKA製、EP−13]0.20重量部、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート[Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]0.20重量部、ジペンタエリスリトール−アジピン酸反応混合物[味の素ファインテクノ製、プレンライザーST210]0.10重量部、滑剤としてステアリン酸カルシウム[堺化学工業(株)製、SC−P]0.20重量部、吸水媒体としてベントナイト[(株)ホージュン製、ベンゲルブライト11K]0.40重量部、シリカ[エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS−304F]0.40重量部、及び成形性改善剤としてポリエチレングリコールマスターバッチB4.0重量部をドライブレンドした。尚、グラファイト、酸化チタン、ポリエチレングリコールは、前記したようにあらかじめスチレン系樹脂のマスターバッチの形態として、樹脂混合物の作製時に投入した。マスターバッチを使用した場合、基材樹脂はマスターバッチ中に含まれる基材樹脂と合計して100重量部とした。
【0119】
[押出発泡体の作製]
得られた樹脂混合物を、口径150mmの単軸押出機(第一押出機)、口径200mmの単軸押出機(第二押出機)、及び冷却機を直列に連結した押出機へ、950kg/hrで供給した。尚、第一押出機のスクリュー回転数は、樹脂混合物の供給開始時に吐出量が950kg/hrとなるよう調整し、その後所定時間を経過しても調整せず一定とした。
【0120】
第一押出機に供給した樹脂混合物を、樹脂温度240℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、発泡剤(基材樹脂100重量部に対して、イソブタン3.5重量部、ジメチルエーテル2.5重量部、及び水(水道水)0.7重量部)を第一押出機の先端付近で樹脂中に圧入した。
【0121】
その後、第一押出機に連結された第二押出機及び冷却機中にて、樹脂温度を120℃ に冷却し、冷却機先端に設けた厚さ6mm ×幅400mmの長方形断面の口金(スリットダイ)より、発泡圧力3.0MPaにて大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚み60mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板を得、カッターにて厚み50mm×幅910mm×長さ1820mmにカットした。得られた発泡体の吐出量および評価結果を表1に示す。
【0122】
(実施例2〜8)
表1に示すように、各種配合の種類、添加量、及び/又は製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の物性を表1に示す。
【0123】
(比較例1〜7)
表2に示すように、各種配合の種類、添加量、及び/又は製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の物性を表2に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
実施例1〜8からわかるように、スチレン系樹脂の含有量、及び、ポリエチレングリコールの含有量が本特許の範囲内となるマスターバッチを添加する工程を含むことにより、外観美麗で使用に適した十分な厚みであり、且つ、熱伝導率が0.022〜0.024W/mKと優れた断熱性を有するスチレン系押出発泡体を、供給開始時から12時間経過後の吐出量の保持率が97〜101%と、連続して安定的に製造することができる。
【0127】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例7と比較例3を比較してわかるように、ポリエチレングリコールを添加しない各比較例では、供給開始時から12時間経過後の吐出量の保持率は98〜100%で問題ないものの、得られるスチレン系樹脂押出発泡体の発泡体外観が劣る。一方、ポリエチレングリコールを添加した各実施例では、発泡体外観に優れるスチレン系樹脂押出発泡体が得られる。
【0128】
実施例1と比較例4、実施例2〜3と比較例5〜6、実施例7と比較例7を比較してわかるように、発泡剤の配合にかかわらず、ポリエチレングリコールをマスターバッチとせずにそのまま添加した各比較例では、供給開始時から12時間経過後の吐出量の保持率が35〜37%と低く、更に、吐出量が低い場合、得られるスチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率や発泡体外観が悪化するため、スチレン系樹脂押出発泡体を連続して安定的に製造することができない。一方、ポリエチレングリコールをスチレン系樹脂とのマスターバッチとして添加した各実施例では、供給開始時から12時間経過後の吐出量の保持率が97〜100%と高く、60mmと十分な厚みで発泡体外観に優れ、且つ、熱伝導率が0.022〜0.024W/mKと優れた断熱性を有するスチレン系押出発泡体を、連続して安定的に製造することができる。
【0129】
実施例3、実施例6からわかるように、スチレン系樹脂の含有量、及び、ポリエチレングリコールの含有量が本特許の範囲内となるマスターバッチを使用することで、供給開始時から12時間経過後の吐出量の保持率が98〜100%と高く、60mmと十分な厚みで発泡体外観に優れるスチレン系押出発泡体を、連続して安定的に製造することができる。
【0130】
実施例2、実施例3からわかるように、ポリエチレングリコールの添加量を本特許の範囲内とすることで、60mmと十分な厚みで発泡体外観に優れるスチレン系押出発泡体を得ることができる。
【0131】
実施例3〜5からわかるように、本特許の範囲内の平均分子量であるポリエチレングリコールを使用することで、60mmと十分な厚みで発泡体外観に優れるスチレン系押出発泡体を得ることができる。
【0132】
総じて、実施例1〜8から、スチレン系樹脂の含有量、及び、ポリエチレングリコールの含有量が本特許の範囲内となるマスターバッチを添加する工程を含むことにより、優れた断熱性を有し、更に、表面が美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易、且つ連続して安定的に製造できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、優れた断熱性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みを有するスチレン系樹脂押出発泡体を容易、且つ連続して安定的に製造できる。当該スチレン系樹脂押出発泡体は、住宅、又は構造物の断熱材として好適に用いることができる。