特許第6842350号(P6842350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842350
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】抗ウイルス塗膜及び化粧板
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/04 20060101AFI20210308BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20210308BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20210308BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20210308BHJP
   B05D 7/06 20060101ALI20210308BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210308BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20210308BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20210308BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20210308BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20210308BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20210308BHJP
【FI】
   A01N25/04 103
   B05D5/00 Z
   E04F13/08 A
   E04F13/02 A
   B05D7/06 C
   B05D7/24 303B
   A01P1/00
   A01N59/16 Z
   C09D201/00
   C09D1/00
   C09D7/40
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-84550(P2017-84550)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-177747(P2018-177747A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 雅美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈尚
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−508705(JP,A)
【文献】 特開2015−117187(JP,A)
【文献】 特表2009−526828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/04
A01N 59/16
A01P 1/00
B05D 5/00
B05D 7/06
B05D 7/24
C09D 1/00
C09D 7/40
C09D 201/00
E04F 13/02
E04F 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛含有溶解性ガラスを、ZnO換算で1.4質量%以上7.0質量%以下含有する抗ウイルス塗膜(10〜50モル%の銅含有酸化物を含む場合を除く)
【請求項2】
亜鉛含有溶解性ガラスの含有量がZnO換算で3.5質量%以上7.0質量%以下である請求項1記載の抗ウイルス塗膜。
【請求項3】
基板の少なくとも一方の面に形成された化粧層に、請求項1又は2記載の塗膜を有することを特徴とする化粧板。
【請求項4】
化粧層の最表面上塗り層に請求項1又は2記載の塗膜を有する請求項3記載の化粧板。
【請求項5】
内装用化粧板である請求項3又は4記載の化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス塗膜及び当該塗膜を有する化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、病院、養護施設等の建物、備品、医療機器等においては保健衛生の観点から、抗菌剤、消毒剤が使用されており、近年では衛生観念の広範な普及により、一般の公共施設を中心に広範囲の生活環境において各種建材、備品等に抗菌性、抗ウイルス性が期待されるようになっている。こうした社会的関心の高さに応えるかたちで、まず抗菌性を有する化粧板が市販され、内装材としての利用が広まってきているが、現在では抗菌だけでなく、更にインフルエンザウイルスやノロウイルスなどの感染性ウイルスに対し十分な抗ウイルス性を有する内装材のニーズが高まっている。
【0003】
内装材に抗菌性を付与する技術としては、例えば内装用壁装材の表面被覆層を銀系抗菌剤を含む塗料で形成する方法(特許文献1)などが知られており、こうした用途に使われる抗菌剤としては、天然または合成ゼオライトのイオン交換可能な金属の一部が、銀、銅、亜鉛などの抗菌性を有する金属イオンにより置換されている抗菌性ゼオライト(特許文献2)や酸化銀等を含有した溶解性ガラス(特許文献3)などの無機系抗菌剤が、長期に安定した抗菌作用を有することから利用されている。また、抗ウイルス性塗料の技術としては、ドロマイトを焼成してからその一部を水和させた粉砕物を水性樹脂塗料に分散させる方法(特許文献4)などがあり、銀系抗菌剤に含まれる銀イオンがSARSウイルス等のコロナウイルスに対して効果を有することも知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270589号公報
【特許文献2】特開昭60−181002号公報
【特許文献3】特開平9−194765号公報
【特許文献4】特開2007−106876号公報
【特許文献5】再表2005−37296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単に銀系抗菌剤を従来の使用方法で塗膜中に含ませた内装用壁装材では抗ウイルス性の発現は認められず、焼成ドロマイトを添加した塗料を用いた化粧板も、近年の評価方法に照らした場合に十分な抗ウイルス活性があるとまではいえない。更に、抗ウイルス性が認められている銀イオンを含む銀系抗ウイルス剤を添加して塗膜を形成した場合、抗ウイルス剤から溶出する銀イオンが酸化物となることにより、塗膜に黒ずみが生じることがある。この現象は、塗膜性能の評価において耐アルカリ性試験を実施した場合に顕著であり、水酸化ナトリウム水溶液と接触させた塗膜表面には、肉眼で判るレベルの黒ずみの発生が認められた。一般に内装用の化粧板においては明るい淡色系の色あいが好まれることから、こうした黒ずみが発生すると目立つ変色原因となるため、外観の点で適さないという問題があった。
従って、本発明の課題は、抗ウイルス活性に優れ、かつ銀イオンに起因する黒ずみが発生せず優れた美観を奏する塗膜及び化粧板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々の無機系抗菌剤・抗ウイルス剤について、塗膜中に分散させた場合の抗ウイルス活性について検討・評価してきたところ、抗菌剤の多くは有意といえる抗ウイルス活性を示さず、従来から有効とされてきた銀系抗ウイルス剤でも思うような抗ウイルス活性を示さなかった。そんな中で、全く意外にも、酸化亜鉛を含有した溶解性ガラスを一定以上の多量に添加した塗膜に関しては、優れた抗ウイルス活性を示し、かつ銀系抗菌剤に見られるような黒ずみが生じないことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔5〕を提供するものである。
【0008】
〔1〕亜鉛含有溶解性ガラスを、ZnO換算で1.4質量%以上7.0質量%以下含有する抗ウイルス塗膜。
〔2〕亜鉛含有溶解性ガラスを、ZnO換算で3.5質量%以上7.0質量%以下含有する抗ウイルス塗膜。
〔3〕基板の少なくとも一方の面に形成された化粧層に、〔1〕又は〔2〕記載の塗膜を有することを特徴とする化粧板。
〔4〕化粧層の最表面上塗り層に〔1〕又は〔2〕記載の塗膜を有する〔3〕記載の化粧板。
〔5〕内装用化粧板である〔3〕又は〔4〕記載の化粧板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗膜は、優れた抗ウイルス活性を有し、かつ銀イオンに起因する黒ずみが発生せず優れた美観を奏するため、これを有する内装用建材に代表される化粧板はその化粧板を施工した空間におけるウイルス等の感染力を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗ウイルス塗膜は、亜鉛含有溶解性ガラスを、ZnO換算で1.4質量%以上7.0質量%以下、好ましくは3.5質量%以上7.0質量%以下含有することを特徴とする。
【0011】
抗ウイルス塗膜に用いられる亜鉛含有溶解性ガラスは、水に対して徐々に溶解して亜鉛成分を放出するガラス組成物であり、例えばリン酸系ガラスやホウ酸系ガラスに、抗ウイルス性を示す有効成分としてZnOを含有させ、水分に対して制御された溶解速度を持つよう組成を調節したガラスである。
【0012】
亜鉛含有溶解性ガラスのZnO含有率は、亜鉛含有溶解性ガラスの過剰な添加による塗膜性能の低下を防ぐ点及び水分への溶解速度を適切に制御するという点から、10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。例えばリン酸系ガラスとしては、P25、ZnO、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO等)、アルカリ金属酸化物(Na2O、K2O等)を主成分とし、更にAl23、SiO2等を含むものが使用でき、ホウ酸系ガラスとしては、B23、ZnO、SiO2、アルカリ金属酸化物(Na2O、K2O等)を主成分とし、更にAl23、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO等)を含むものが使用できる。また、亜鉛以外の補助的成分として、少量のAg2Oを含んでいても良い。この場合のAg2O含有量は、亜鉛含有溶解性ガラス100質量部に対し、0.01〜0.5質量部とするのが好ましい。Ag2Oの含有量が0.01質量部未満では、Ag2Oによる抗ウイルス効果の向上が期待できず、0.5質量部を超えると酸化銀による塗膜の変色が目立って来るため好ましくない。
【0013】
塗膜中の亜鉛含有溶解性ガラス含有率は、抗ウイルス塗膜中に、ZnO換算で1.4質量%以上7.0質量%以下である。1.4質量%未満では十分な抗ウイルス活性が得られず、7.0質量%を超えると塗膜表面のざらつきが目立つため外観が劣り、塗膜性能も低下するため好ましくない。好ましい亜鉛含有溶解性ガラス含有率は3.5質量%以上7.0質量%以下であり、より好ましくは3.8質量%以上7.0質量%以下であり、更に好ましくは5.0質量%以上7.0質量%以下である。
亜鉛含有溶解性ガラスは、塗膜等の組成物中に固形分で0.5〜3.0質量%程度含有させることにより抗菌性を示すことは知られているが、抗ウイルス活性を示すことは知られていない。また、本発明のように亜鉛含有溶解性ガラスを塗膜中に10質量%以上(ZnO換算で3.0質量%以上)もの多量含有させたときの安定性についても知られていない。
【0014】
塗膜中の亜鉛含有溶解性ガラスの平均粒子径は、10.0μm以下であるのが塗膜の均一性、塗膜表面のざらつき防止の点から好ましい。
【0015】
本発明の抗ウイルス塗膜のベースとなる塗料としては、ラジカルオリゴマー系塗料、モノマーラジカル系塗料、アクリルウレタン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、塩化ビニル樹脂塗料、塩化ビニリデン樹脂塗料、アクリルシリコーン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料等が挙げられる。
【0016】
ラジカルオリゴマー系塗料やモノマーラジカル系塗料としては、例えばエポキシ系アクリレート、ウレタン系アクリレート、エステル系アクリレート、アクリル系アクリレート、シリコン系アクリレート、不飽和ポリエステル系塗料が好ましく、具体的にはエポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、フタル酸ジアリルエステルなどのアリル系不飽和ポリエステル、無水マレイン酸やフマル酸などの不飽和二塩基酸とグリコール類との重縮合によるマレイン酸系不飽和ポリエステル、官能基としてカルボキシル基や水酸基を持つポリエステルモノアクリレート、アクリル酸と2塩基酸と2価アルコールから得られるポリエステルジアクリレート、3価以上の多価アルコールと2塩基酸とアクリル酸から得られるポリエステルポリアクリレート等のポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートオリゴマー、エポキシオリゴマー等のオリゴマー類、アクリルポリエーテル、ポリエーテルアクリレート等が挙げられる。
【0017】
上塗り層の塗膜の場合には、アクリルウレタン樹脂塗料が好ましく、2液硬化型アクリルウレタン樹脂塗料がより好ましい。また、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、塩化ビニル樹脂塗料、塩化ビニリデン樹脂塗料、アクリルシリコーン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料などを、単層で、同一塗料の塗膜を積層して、又は異なる塗料の塗膜を積層して上塗り層を形成するのが好ましい。
【0018】
また、塗膜中には、亜鉛含有溶解性ガラスを塗膜中に均一に分散させるために、無機分散充填剤を含有させることができる。無機分散充填剤としては、バリウム、シリカ、ゼオライト、カオリン、タルク、酸化亜鉛等が挙げられるが、その中でも、特にバリウム又はその塩が好ましい。バリウム又はその塩としては、塩化バリウム、硝酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム、過酸化バリウム、フッ化バリウムなどが挙げられるが、特に硫酸バリウムが好ましい。
無機分散充填剤の平均粒子径は、特に限定されないが種々の加工において対応しやすい観点から平均粒子径0.1〜8μmのものが好ましいが、平均粒子径0.8〜1.8μmのものが更に好ましい。
また、分散媒として、酢酸ブチル等のエステル系溶媒等を用いた有機溶剤系塗料とすることもできる。
【0019】
本発明の抗ウイルス塗膜を形成するには、塗料中に亜鉛含有溶解性ガラスを分散させ、窯業系ボード等の基板表面に塗布し、硬化させればよい。亜鉛含有溶解性ガラスを塗料中に分散させる際に、あらかじめ前記エステル系分散媒やイソプロピルアルコール等のアルコール系分散媒に高濃度で分散させた分散液とし、この分散液を塗料中に混合分散することが好ましい。分散液を使用することで、亜鉛含有溶解性ガラスの塗料への均一分散が容易となり、凝集や沈殿の発生を抑制することができる。分散液の濃度は20〜60質量%が好ましく、分散助剤として少量の無機充填剤を添加することもできる。また分散手段としては、ホモジナイザー等を用いて強制分散させるのが、亜鉛含有溶解性ガラスを塗膜中に均一に安定に分散させ、仕上がりを良くする点で好ましい。
【0020】
本発明の抗ウイルス塗膜の抗ウイルス活性は、抗ウイルス活性値Mvが2.0以上であるのが好ましく、さらにMvが3.0以上であるのがより好ましい。抗ウイルス活性値Mvは、評価試験により得られるウイルス感染価をもとに、以下の式から計算して求めた。
試験片あたりのウイルス感染価V=(ウイルス感染価/mL)×(洗い出し液量)
抗ウイルス活性値Mv=Log(V0)−Log(V1
Log(V0):抗ウイルス加工していない試験片のウイルス感染価Vの常用対数値
Log(V1):抗ウイルス加工した試験片のウイルス感染価Vの常用対数値
【0021】
本発明の抗ウイルス塗膜は、各種建材、備品等の表面に施工することができるが、化粧板、特に内装用化粧板に施工するのが好ましい。従って、本発明により、基板の少なくとも一方の面に形成された化粧層に、前記抗ウイルス塗膜を有することを特徴とする化粧板が提供される。
【0022】
化粧板においては、化粧層の上塗り層及び下塗り層のいずれに前記抗ウイルス塗膜を形成してもよいが、上塗り層、すなわち化粧層の最表面上塗り層に形成するのが抗ウイルス活性を得る点で好ましい。また、化粧板は、内装用化粧板であるのがより好ましく、窯業系内装化粧板であるのがさらに好ましい。また、化粧板としては、内装不燃化粧板、特にJIS A 5430 附属書JA規定の発熱性試験において20分発熱量が7.2MJ以下の内装不燃化粧板であるのが好ましい。化粧板の基板としては、合板、樹脂板、各種窯業系ボード等が適用可能であり、中でも繊維強化セメント板、せっこうボード、繊維混入石膏板等の不燃性基板を使用するのがより好ましい。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0024】
(1)繊維強化セメント板(基板)
基板としては、けい酸カルシウム板(JIS A 5430 表1の「けい酸カルシウム板 タイプ2 0.8けい酸カルシウム板(0.8FK)」に該当)を使用した。
【0025】
(2)塗料
塗膜は、次の塗料を使用して形成した。
含浸シーラー:ウレタン系シーラー
下塗り塗料:アクリルエポキシ系UV硬化型塗料(UV硬化型目止め)
上塗り塗料:2液硬化型アクリルウレタン系塗料(固形分濃度約50%:ライトグレー色)
【0026】
実施例1
(A)基板の調整
基板の表面側(塗膜を設ける面)に対し、ベルトサンダーを用いて研磨し、平滑性を向上させたのち、ロールコーターを用いて含浸シーラーを約100g/m2塗布した。
(B)下塗り塗膜の形成
前記(A)で含浸シーラーを塗布した面に、ロールコーターを用いて下塗り塗料約150g/m2を2回に分けて塗布し、紫外線照射により下塗り塗料を硬化させて下塗り塗膜を形成した。
(C)表面塗膜形成塗料の調整
抗ウイルス剤として、固形分中のZnO含有率が約30質量%の亜鉛含有溶解性ガラス粉末を50質量%の濃度で酢酸ブチルに分散させた分散液を用い、この抗ウイルス剤を上塗り塗料に対して、少量ずつ添加し、ホモジナイザーを用いて7,500rpmの条件で十分に分散させて表面塗膜形成塗料を調整した。この際、上塗り塗料の固形分質量を100質量部に対して、抗ウイルス剤が外割で30質量%(固形分)となるよう添加した。
(D)表面塗膜の形成
前記(B)で形成した下塗り塗膜の上に、フローコーターを用いて(C)の表面塗膜形成塗料を約100g/m2塗布したのち、熱風式乾燥機を用い100℃の雰囲気中で30分の条件で加熱乾燥して硬化させることにより表面塗膜層を形成し、化粧板を得た。
【0027】
実施例2〜6及び比較例1〜3
表面塗膜形成塗料に添加する抗ウイルス剤及び抗菌剤の添加量と種類を表1に示すとおり変更した以外は実施例1と同様の工程により実施例2〜6及び比較例1〜3の化粧板を得た。
【0028】
【表1】
【0029】
試験例1(インフルエンザウイルス:エンベロープあり)
実施例1〜6及び比較例1〜3の化粧板の塗膜表面を試験体として、インフルエンザウイルスに対するウイルス感染価を評価した。
MEM培地中に約108PFU/mL以上となるように作製したウイルス液(Influenza A virus(H3N2): ATCC VR-1679)を、滅菌済蒸留水で10倍希釈したものを試験ウイルス液とした。5cm角の各検体に試験ウイルス液を0.4mL接種し、その上に4cm角のPEフィルムを被せて密着させ、25℃、24時間放置した。その後、洗い出し液を10mL加え、ピペッティングにて検体からウイルスを洗い出した。洗い出し液中のウイルス感染価を測定し、1検体あたりの感染価の常用対数値を算出した。比較対照は抗ウイルス剤及び抗菌剤を添加していないことを除き実施例1と同様に作成した化粧板(未加工)とし、24時間後と接種直後の測定を行なった。洗い出し液は、SCDLP培地を用いた。ウイルス感染価の測定方法はPlaque assayとした。(参考規格:ISO18184、JIS L 1922、JIS Z 2801)
【0030】
その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2より、インフルエンザウイルスに対して銀系抗菌剤、銀系抗菌−抗ウイルス剤では、高濃度の添加率であるにもかかわらず抗ウイルス活性はほとんどみられなかったのに対し、亜鉛含有溶解性ガラスを添加した塗膜ではMv=4.0以上の優れた抗ウイルス活性を示した。なお、JIS L 1922の評価基準では、抗ウイルス活性値Mvが2.0以上で抗ウイルス性有りと評価され、更に3.0以上であれば十分な抗ウイルス性を有すると評価される。
【0033】
試験例2(ネコカリシウイルス(ノロウイルス代替):エンベロープなし)
試験例1と同様に、ネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)に対するウイルス感染価を評価した。
MEM培地中に約108PFU/mL以上となるように作製したウイルス液(ネコカリシウイルスFeline calicivirus:ATCC VR-782)を、滅菌済蒸留水で10倍希釈したものを試験ウイルス液とした。5cm角の各検体に試験ウイルス液を0.4mL接種し、その上に4cm角のPEフィルムを被せて密着させ、25℃、24時間放置した。その後、洗い出し液を10mL加え、ピペッティングにて検体からウイルスを洗い出した。洗い出し液中のウイルス感染価を測定し、1検体あたりの感染価の常用対数値を算出した。比較対照は「未加工」とし、24時間後と接種直後の測定を行なった。洗い出し液は、血清を終濃度10%となるように添加したSCDLP培地を使用した。ウイルス感染価の測定方法はPlaque assayによった。(参考規格:ISO18184、JIS L 1922、JIS Z 2801)
【0034】
結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3より、ネコカリシウイルスに対して銀系抗菌剤、銀系抗菌−抗ウイルス剤では、抗ウイルス活性はほとんどみられなかったのに対し、亜鉛含有溶解性ガラスを固形分で15質量%添加した実施例4ではMv=2.8となり、有効な抗ウイルス活性を示した。また、亜鉛含有溶解性ガラスを固形分で20質量%以上添加した実施例1〜3では、Mvの値が3.0を大きく上回り、優れた抗ウイルス活性が認められた。ネコカリシウイルスは、ノロウイルスと同様にエンベロープを持たないため、エンベロープを有するインフルエンザウイルスなどに比べ不活化しにくいとされている。実施例1〜6の試験結果をもとに、塗膜中のZnO含有率と抗ウイルス活性値Mvの関係を図1に示す。抗ウイルス活性値Mvの値が2.0以上となるZnO含有率の範囲で有効な抗ウイルス活性を得ることができ、このZnO含有率の範囲が好ましい範囲といえる。
【0037】
実施例1〜6及び比較例1〜3の化粧板の塗膜について、質量分率5%の水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、24時間後の変色状態を観察した。塗膜の変色有無を観察しやすいように、ベースである上塗り塗料としてはライトグレー色を使用した。その結果、銀系抗菌剤を添加した比較例1〜3については、水酸化ナトリウム水溶液と接触していた部分に目立つ黒ずみが生じた。これに対し、亜鉛含有溶解性ガラスを用いた実施例1〜6については、若干白く変色したものの影響は僅かであり、内装材としての使用上問題の無いレベルであった。
【0038】
また、実施例1〜6については、その他の塗膜性能についても問題が無く、外観上もきれいな仕上がりであったが、粉体のまま抗菌剤を上塗り塗料に添加した比較例3については、抗菌剤の分散が悪く、得られた塗膜表面のざらつきが非常に目立ち、美観という点から化粧板として適さない仕上がりであった。
【0039】
更に、実施例1〜6の化粧板についてJIS A 5430 附属書JA規定の発熱性試験により不燃性を評価した結果、20分発熱量が5.0〜6.7MJの範囲にあり、不燃化粧板として十分な性能を有することが確認された。
【0040】
上記のとおり、本発明の塗膜は、優れた抗ウイルス活性を有し、かつ銀イオンに起因する黒ずみが発生せず優れた美観を奏するため、これを有する化粧板はウイルスの感染力を効果的に抑制することができる。