(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プリント基板は、基板上および/または基板内部に金属回路パターンを有する。その回路には銅等の電気的な抵抗の低い金属が用いられ、さらに回路の酸化、腐食防止用および/または金とのマイグレーション防止用のバリアメタル層が設けられる。バリアメタル層として使用される金属としてはニッケルやニッケル合金のほかに、パラジウム、白金、銀、コバルトおよびこれらの合金を使用することができる。また、熱処理によるニッケルの拡散を防ぐ目的でニッケル層の上にパラジウム層を形成する技術もある。これらの下地金属層の形成後、さらに金皮膜で覆い、完成された回路になるが、一般に金皮膜は回路の腐食防止および/または接点として利用するものであるから、有孔度の高い皮膜は好ましくなく、隙間の少ない表面が要求される。
【0003】
金めっき方法としては、電解金めっき、自己触媒型無電解金めっき、下地触媒(表面触媒)金めっき、および置換金めっきなどが知られている。自己触媒型電解金めっきは金を触媒とする還元剤により金析出を行う。下地触媒(表面触媒)金めっきは下地金属を触媒として還元剤により金析出を行う。置換金めっきは、被めっき面の下地金属と金イオンおよび/または金イオン錯体との電気的な置換反応により金析出を行う。これらのめっき方法は二種以上を組み合わせて用いられることもある。
【0004】
無電解金めっき液としては、金源としてシアン化合物を含むめっき液が多く報告されているが、保管および管理の問題や各種処理時の安全性の問題に加え、廃液処理費用がかさむという問題もある。このため、シアン化合物を含有しない無電解金めっき液の開発が望まれてきた。特許文献1には、シアン化合物に代えて亜硫酸金ナトリウム等の水溶性金塩を使用した二種の還元剤を含む無電解めっき液が記載され、一般に錯化剤として用いられるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)や酒石酸等のオキソカルボン酸類を反応促進剤として用いることを検討している。特許文献2には、同じく金源として亜硫酸金ナトリウムを用いる無電解めっき液が記載され、金析出速度を向上させるために亜硫酸カリウムを用いることを検討しているが、亜硫酸カリウムの濃度が大きすぎるとめっき液が不安定になり自己分解を起こすため、亜硫酸カリウムの濃度は500mg/L以下に制限されることが記載されている。特許文献3では、無電解金めっき液の金析出促進剤として、アノード反応を促進する作用の強いハロゲンイオンを放出する化合物が検討されている。特許文献4では、タリウム塩などの重金属を金析出促進剤として用いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のオキソカルボン酸類や亜硫酸カリウムなどの錯化剤を反応促進剤として用いる方法は、錯イオンが金属イオンに配位する界面錯形成により金の析出を促進する作用に期待したものであるが、錯化剤はその添加量によって、下地への侵食が問題となったり、錯化剤自体の分解によりめっき液を不安定にし、めっき液の自己分解を誘起したりするため添加量の制御が必要であり、また還元剤や安定剤を含む場合には、それらの成分との相互作用を考慮しなければならず、錯化剤のみによって所望の金析出速度を得るのは困難であった。一方、タリウムなどの重金属を用いる金析出促進剤は環境への影響が問題となる。
したがって、本発明は、無電解金めっき液の金析出速度を容易に向上させ、均一な金皮膜を形成することを可能にする金析出促進剤、当該金析出促進剤を含む無電解金めっき液、それを用いた金めっき方法および金の析出促進方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、錯化剤に依存せずに金の析出を促進する方法を検討する中で、アルカリ金属イオンが金析出速度に影響を与えることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記に掲げるものに関する:
[1]無電解金めっきのための金析出促進剤であって、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含み、前記アルカリ金属化合物はアルカリ金属としてナトリウムのみを含む化合物ではなく、かつ、前記アルカリ金属化合物は、アルカリ金属のハロゲン化物のみ、亜硫酸カリウムのみ、または酒石酸カリウムナトリウムのみではない、前記金析出促進剤。
[2]前記[1]に記載の金析出促進剤、水溶性金源および錯化剤を含む、無電解金めっき液。
[3]アルカリ金属化合物の濃度がナトリウム以外のアルカリ金属イオン換算で0.001〜5Mである、前記[2]に記載の無電解金めっき液。
[4]ルビジウム化合物および/またはセシウム化合物を含む、金析出促進剤。
[5]前記[4]に記載の金析出促進剤、水溶性金源および錯化剤を含む、無電解金めっき液。
【0009】
[6]さらにナトリウム化合物を含む、[2]、[3]または[5]に記載の無電解金めっき液。
[7]シアン化合物を含まない、[2]、[3]、[5]または[6]に記載の無電解金めっき液。
[8]pH調整剤として、酸または塩基を含む、[2]、[3]、[5]、[6]または[7]に記載の無電解金めっき液。
【0010】
[9]金めっき皮膜を形成する方法であって、[2]、[3]、[5]、[6]、[7]または[8]に記載の無電解金めっき液を電子工業部品の表面に適用する工程を含む、前記方法。
[10] 無電解金めっきにおける金の析出を促進する方法であって、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を無電解金めっき液に添加することを含み、前記アルカリ金属化合物はアルカリ金属としてナトリウムのみを含む化合物ではなく、かつ、前記アルカリ金属化合物は、アルカリ金属のハロゲン化物のみ、亜硫酸カリウムのみ、または酒石酸カリウムナトリウムのみではない、前記方法。
[11]アルカリ金属化合物の濃度がナトリウム以外のアルカリ金属イオン換算で0.001〜5Mである、[10]に記載の方法。
[12]ルビジウム化合物および/またはセシウム化合物を添加することによって無電解金めっきにおける金の析出を促進する方法。
[13]ルビジウム化合物および/またはセシウム化合物の濃度がルビジウムイオンおよび/またはセシウムイオン換算で0.001M〜5Mである、[12]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無電解金めっき液の金析出速度を容易に向上させることができるため、シアン化合物を金源としない析出速度が遅い無電解金めっき液においても十分な金析出速度を実現することができる。また、ナトリウム以外のアルカリ金属イオンの濃度を調整することのみによって、金析出速度を調整することができるため、錯化剤のみに依存して金の析出を促進する場合に比べ、多成分による調整が可能であり、より安定な無電解金めっき液を提供することができる。さらに、金濃度を増量させることなく、析出速度を向上させることができるため、安価なめっき液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の金析出促進剤は、アルカリ金属化合物を含む。
本発明の金析出促進剤の金析出促進作用は、アルカリ金属イオンによるものであり、本発明の金析出促進剤に含まれるアルカリ金属化合物は、解離してアルカリ金属イオンを生成するものであればよい。驚くべきことに、同じアルカリ金属イオンでもナトリウムイオンは金析出反応を促進しない。したがって、本発明の金析出促進剤に含まれるアルカリ金属化合物は、アルカリ金属としてナトリウムのみを含む化合物ではないが、ナトリウム以外のアルカリ金属が存在していれば、ナトリウムが含まれていてもよい。このような化合物として、例えば酒石酸カリウムナトリウムが挙げられる。
【0014】
本発明の金析出促進剤に含まれるアルカリ金属化合物は、好ましくはカリウム化合物、ルビジウム化合物およびセシウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上であり、析出促進性の観点から、より好ましくはルビジウム化合物および/またはセシウム化合物である。コストの観点からはカリウム化合物も好ましい。
【0015】
本発明の金析出促進剤に含まれるアルカリ金属化合物は、これに限定するものではないが、以下に記載の化合物が挙げられる。例えば炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどの炭酸塩、硝酸セシウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウムなどの硝酸塩、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウムなどの硫酸塩、ハロゲン化物が挙げられ、ハロゲン化物としては、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウムなどのフッ化物、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウムなどの塩化物、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウムなどの臭化物、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウムなどのヨウ化物などが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
当該化合物におけるアルカリ金属イオンに対する対イオンは特に制限されない。当該対イオンとしては、例えば、炭酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、りん酸イオン、ホウ酸イオン、ハロゲン化物イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、ブタン酸イオン、ペンタン酸イオン、ヘキサン酸イオン、ヘプタン酸イオン、オクタン酸イオン等のカルボン酸イオン、グリコール酸イオン、乳酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、イソクエン酸イオン、サリチル酸イオン等のヒドロキシ酸イオン、安息香酸イオン、フタル酸イオン等の芳香族カルボン酸イオン、シュウ酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン、グルタル酸イオン、アジピン酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン等のジカルボン酸イオンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記対イオンを有する化合物以外のアルカリ金属化合物としては、これに限定するものではないが、以下に記載の化合物が挙げられる。例えば、アルカリ金属の酸化物、過酸化物、水酸化物、クロム酸化合物、タングステン酸化合物、セレン酸化合物、モリブデン酸化合物、オルトモリブデン酸化合物、ニオブ酸化合物、過マンガン酸化合物、アジド化合物、アミド化合物、トルエンスルホン酸化合物、水素化物、ピクリン酸化合物、テトロヒドロホウ酸化合物、ヘキサフルオロけい酸化合物、過レニウム酸化合物、過よう素酸化合物、よう素酸化合物、亜硝酸化合物、ホスフィン酸化合物、ニトロベンゼンスルホン酸化合物、ベンゼンスルホン酸化合物、アルコキシド化合物、炭酸水素化合物、メタクリル酸化合物などが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
このように、本願発明の金析出促進剤は、アルカリ金属化合物自体であってもよく、または当該化合物を含む組成物であってもよい。組成物は2種以上のアルカリ金属化合物からなる混合物であり得る。また、組成物は1種または2種以上のアルカリ金属に加え、水、有機溶媒などの溶媒を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の金析出促進剤において、金析出促進剤に含まれるアルカリ金属化合物はアルカリ金属のハロゲン化物のみ、亜硫酸カリウムのみ、または酒石酸カリウムナトリウムのみではない。
本発明の金析出促進剤の一態様において、金析出促進剤に含まれるアルカリ金属化合物は亜硫酸塩のみではない。
本発明の金析出促進剤の一態様において、金析出促進剤に含まれるアルカリ金属化合物は酒石酸塩のみではない。
本発明の金析出促進剤の一態様において、金析出促進剤がアルカリ金属化合物としてカリウム化合物のみを含む場合には、ハロゲン化カリウム、亜硫酸カリウムおよび酒石酸カリウムナトリウムから選択されるカリウム化合物以外のカリウム化合物を含む。
【0020】
本発明の金析出促進剤は、当該金析出促進剤を含むめっき液において、ナトリウム以外のアルカリ金属を含むアルカリ金属化合物は、ナトリウム以外のアルカリ金属イオン換算の濃度が0.001M以上、好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.02M以上となるように調整されて使用することができる。析出促進性の観点から、当該濃度は0.001M〜5M、より好ましくは0.01M〜2M、特に好ましくは0.02M〜0.5Mとなるように調整され得る。金析出速度には濃度依存性も認められるため、濃度を調整することにより、所望の金析出速度を調整することもできる。
【0021】
本発明の一態様において、本発明の金析出促進剤は酒石酸カリウムナトリウムを含まない。
本発明の一態様において、本発明の金析出促進剤が酒石酸カリウムナトリウムまたは酒石酸塩を含む場合は、めっき液中における酒石酸カリウムナトリウムの濃度を0.11M以上、好ましくは0.11Mより大きく、より好ましくは0.2M以上となるように調整して使用することが好ましい。析出促進性の観点から、当該濃度は好ましくは0.11M〜5M、より好ましくは0.11M〜2M、特に好ましくは0.11M〜0.5Mである。
【0022】
本発明の一態様において、本発明の金析出促進剤は亜硫酸カリウムを含まない。
本発明の一態様において、本発明の金析出促進剤は亜硫酸カリウムまたは亜硫酸塩を含む場合は、めっき液中における亜硫酸カリウムの濃度を0.004M以上となるように調整して使用することが好ましい。析出促進性の観点から、当該濃度は好ましくは0.004M〜5M、より好ましくは0.01M〜2M、特に好ましくは0.02M〜0.5Mである。
【0023】
本発明はまた、上述した本発明の金析出促進剤、水溶性金源および錯化剤を含む無電解金めっき液に関する。
本発明の金析出促進剤を含む無電解金めっき液において、アルカリ金属化合物の濃度は、好ましくはナトリウム以外のアルカリ金属イオン換算で0.001M以上、より好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.02M以上である。析出促進性の観点から、当該濃度は好ましくは0.001M〜5M、より好ましくは0.01M〜2M、特に好ましくは0.02M〜0.5Mである。金析出速度には一定程度の濃度依存性も認められるため、濃度を調整することにより、所望の金析出速度を調整することができる。
【0024】
本発明に用いられる金源としては、具体的には、亜硫酸金塩や塩化金酸塩等の水溶性金塩を用いることができる。安全性および廃液処理の問題の観点からシアンを含まない金源を用いることが好ましい。金源の濃度は0.1〜10g/Lが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5g/Lである。例えば亜硫酸金ナトリウムを用いる場合には、その濃度範囲は、析出皮膜の物性を考慮すると、金濃度で換算して、0.1〜10g/Lが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5g/Lである。本発明の一態様において、金源はナトリウム以外のアルカリ金属を含まない。また、本発明の一態様において、本発明の金析出促進剤は金を含まないアルカリ金属化合物を含む。
【0025】
本発明の一態様において、金源がナトリウム以外のアルカリ金属を含む場合は、本発明の無電解金めっき液は、さらに金を含まないアルカリ金属化合物を含み、この場合、無電解金めっき液におけるナトリウム以外のアルカリ金属イオンの濃度は、好ましくは0.001M以上、より好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.02M以上である。析出促進性の観点から、当該濃度は好ましくは0.001M〜5M、より好ましくは0.01M〜2M、特に好ましくは0.02M〜0.5Mである。当該アルカリ金属イオンの濃度は、金源由来のアルカリ金属イオンおよび前記金を含まないアルカリ金属化合物由来のアルカリ金属イオンを合算した濃度(ナトリウムイオンは含まない)である。
【0026】
本発明に用いられる錯化剤としては、特に限定するものではないが、例えば具体的には、亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の一価あるいは三価の金イオンと錯体形成可能な化合物等が挙げられる。錯化剤の濃度は0.001M〜5Mが好ましく、さらに好ましくは0.01M〜0.5Mであり、錯化剤として、例えば亜硫酸ナトリウムを用いる場合には、その濃度範囲は、0.001〜5Mが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.5Mである。
【0027】
pH調整剤としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸等の各種酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物塩および制限付きでNR
4OH(R:水素またはアルキル)等のアミン類等を使用することができる。pH調整剤として、例えばリン酸緩衝液を用いる場合は、リン酸と水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムにより行うのが好ましい。
pHは、組成に合わせて5〜11の範囲が好ましく、さらに好ましくは、6〜10である。
【0028】
本発明の金析出促進剤は無電解金めっきのためのめっき液に添加することができるが、当該めっき液は自己触媒型無電解金めっき、下地触媒(表面触媒)金めっき、置換金めっきおよびこれらを組み合わせためっきのいずれの方法にも使用することができる。特に、析出促進性の観点から、置換金めっきに使用されることが好ましい。
【0029】
本発明のめっき液は還元剤を含んでいても、含んでいなくてもよい。還元剤としては、アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸塩、ヒドロキシルアミンまたはヒドロキシルアミン塩酸塩、ヒドロキシルアミン硫酸塩等のヒドロキシルアミンの塩類、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸等のヒドロキシルアミン誘導体、ヒドラジン、ジメチルアミンボラン等のアミンボラン化合物、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素化合物、ブドウ糖等の糖類、次亜リン酸塩類等が挙げられる。これらの還元剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。その他、ネルンストの式により、金イオンまたは金錯体より金を還元析出させることが可能と判断される化合物であればいずれを用いてもよいが、他の浴構成成分に対する反応性、浴の安定性等を考慮して使用する。
【0030】
本発明のめっき液は、結晶粒形調整剤、光沢剤等のその他の添加剤を適切な濃度範囲で使用することができる。その他の添加剤は特に制限されず、例えば従来から使用されている添加剤を使用することができる。具体的には、ポリエチレングリコール等の結晶粒形調整剤、タリウム、銅、アンチモン、鉛等の光沢剤が挙げられる。これらの添加剤以外でも上記の条件を満たす添加剤であれば使用可能である。
【0031】
本発明の一態様において、本発明の無電解金めっき液は酒石酸カリウムナトリウムを含まない。
本発明の一態様において、本発明の無電解金めっき液は酒石酸カリウムナトリウムまたは酒石酸塩を含む場合は、めっき液中における酒石酸カリウムナトリウムまたは酒石酸塩の濃度がナトリウム以外のアルカリ金属イオン換算で0.11M以上、好ましくは0.11Mより大きく、より好ましくは0.2M以上の濃度となるように調整して使用することが好ましい。析出促進性の観点から、当該濃度は好ましくは0.01M〜5M、より好ましくは0.01M〜2M、特に好ましくは0.01M〜0.5Mである。
【0032】
本発明の一態様において、本発明の無電解金めっき液は亜硫酸カリウムを含まない。
本発明の一態様において、本発明の無電解金めっき液は亜硫酸カリウムを含む場合は、めっき液中における亜硫酸カリウムの濃度を0.004M以上となるように調整して使用することが好ましい。析出促進性の観点から、当該濃度は0.004M〜5M、より好ましくは0.01M〜2M、特に好ましくは0.02M〜0.5Mである。
本発明の無電解金めっき液の一態様において、無電解金めっき液がアルカリ金属化合物としてカリウム化合物のみを含む場合には、ハロゲン化カリウム、亜硫酸カリウムおよび酒石酸カリウムナトリウムから選択されるカリウム化合物以外のカリウム化合物を含む。
【0033】
本発明はまたルビジウム化合物および/またはセシウム化合物を含む、金析出促進剤に関する。ルビジウムイオンおよびセシウムイオンに金の析出が促進される。ルビジウムイオンの濃度は好ましくは0.001〜5M、より好ましくは0.01〜2M、特に好ましくは0.02〜0.5Mである。セシウムイオンの濃度は好ましくは0.001〜5M、より好ましくは0.01〜2M、特に好ましくは0.02〜0.5Mである。ルビジウム化合物および/またはセシウム化合物の例としては上述のアルカリ金属化合物の例として挙げた化合物と同様のものが挙げられる。
【0034】
本発明の金析出促進剤を含む無電解金めっき液の金析出速度は、pH7、浴温80℃、4cm
2のNi基板上において、0.003μm/分以上、好ましくは0.004μm/分以上、より好ましくは0.005μm/分以上であり得る。
【0035】
本発明はまた、金めっき皮膜を形成する方法であって、本発明の無電解金めっき液を電子工業部品の表面に適用する工程を含む、前記方法に関する。前記工程における無電解金めっき液の使用温度は、析出速度の観点から、20〜90℃が好ましく、より好ましくは40〜70℃である。pHは、液の安定性と析出速度の観点から5〜11が好ましく、より好ましくは6〜10である。電子工業部品は特に限定されないが、典型的には、電極、配線等が挙げられる。
【0036】
本発明はまた、無電解金めっきにおける金の析出を促進する方法であって、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を無電解金めっき液に添加することを含み、前記アルカリ金属化合物はアルカリ金属としてナトリウムのみを含む化合物ではなく、かつ、前記アルカリ金属化合物は、アルカリ金属のハロゲン化物のみ、亜硫酸カリウムのみ、または酒石酸カリウムナトリウムのみではない、前記方法に関する。
【0037】
本発明の金の析出を促進する方法における、前記アルカリ金属化合物の濃度は、ナトリウム以外のアルカリ金属イオン換算で0.001〜5M、好ましくは0.01〜2M、より好ましくは0.02〜0.5Mであり得る。
【0038】
本発明の一態様において、本発明の金の析出を促進する方法は酒石酸カリウムナトリウムを添加することを含まない。
本発明の一態様において、本発明の金の析出を促進する方法が酒石酸カリウムナトリウムを添加することを含む場合は、めっき液中における酒石酸カリウムナトリウムの濃度をカリウムイオン換算で0.11M以上、好ましくは0.11Mより大きく、より好ましくは0.2M以上となるように調整して添加することが好ましい。析出促進性の観点から、当該濃度は好ましくは0.11M〜5M、より好ましくは0.11M〜2M、特に好ましくは0.11M〜0.5Mである。
【0039】
本発明の一態様において、本発明の金の析出を促進する方法は亜硫酸カリウムを添加することを含まない。
本発明の一態様において、本発明の金の析出を促進する方法が亜硫酸カリウムを添加することを含む場合は、めっき液中における亜硫酸カリウムの濃度を0.004M以上となるように調整して添加することが好ましい。析出促進性の観点から、当該濃度は好ましくは0.004M〜5M、より好ましくは0.01M〜2M、特に好ましくは0.02M〜0.5Mである。
【0040】
本発明はまた、ルビジウム化合物および/またはセシウム化合物を添加することによって無電解金めっきにおける金の析出を促進する方法に関する。好ましくは、ルビジウム化合物および/またはセシウム化合物の濃度の合計は、ルビジウムイオンおよび/またはセシウムイオン換算で好ましくは0.001M〜5Mであり、より好ましくは0.01M〜1Mである。ルビジウム化合物のみを添加する場合、その好ましい濃度はルビジウムイオン換算で0.001M〜5Mあり、より好ましくは0.01M〜1Mある。セシウム化合物のみを添加する場合、好ましい濃度はセシウムイオン換算で0.001M〜5Mあり、より好ましくは0.001M〜1Mある。
【0041】
本発明はまた、別の一態様において、無電解金めっきにおける金の析出を促進する方法であって、無電解金めっき液中のアルカリ金属イオンの濃度を調整して、金析出速度を調整する、前記方法に関する。
無電解金めっき液中の全アルカリ金属イオンの濃度が0.001M〜5M、好ましくは0.01M〜2M、より好ましくは0.02M〜0.5Mとなるように調整する。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の無電解金めっき液について、実施例および比較例によって更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものでない。めっき試片には銅板を用い、これに以下の手順でNi合金めっきを行い試験に用いた。
【0043】
[比較例1〜3]
表1に記載の金源、錯化剤を表1に記載の濃度で混合して金めっき液を調製し、pH調整剤としてりん酸を用いて金めっき液のpHをpH7.0に調整した。4cm
2のNi圧延板を用い、80℃で10分間めっきを行い、膜厚を測定し、析出速度を算出した。
【0044】
[実施例1〜6]
表1に記載の金源、錯化剤、析出促進剤を表1に記載の濃度で混合して金めっき液を調製し、pH調整剤としてりん酸を用いて金めっき液のpHをpH7.0に調整した。4cm
2のNi圧延板を用い、80℃で10分間めっきを行い、膜厚を測定し、析出速度を算出した。金めっき膜厚は、日立製蛍光X線膜厚計「FT−9500X」を使用した。
【0045】
【表1】
【0046】
図1は表1の比較例1、実施例1〜3の結果を基にアルカリ金属イオンを変更した場合の析出速度を比較したものである。アルカリ金属イオンを添加することによって、金析出速度が向上することが認められた。また、実施例1、実施例2および実施例3は全て同濃度の炭酸イオンを含むにもかかわらず、金析出速度が異なることから、金析出速度がアルカリ金属イオンに依存することが認められた。
【0047】
ナトリウムイオン以外の少なくとも1種以上のアルカリ金属イオンを含む金析出促進剤を含有する無電解金めっき液は、セシウム塩、金源および錯化剤の種類を変更しても、金析出促進剤を含まない無電解金めっき液に比べ、金析出速度が大きいことが認められた。