特許第6842479号(P6842479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842479
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】SN−38の徐放性コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20210308BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20210308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C07D519/00CSP
   A61K31/4745
   A61K47/60
   A61P35/00
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2019-10029(P2019-10029)
(22)【出願日】2019年1月24日
(62)【分割の表示】特願2016-520004(P2016-520004)の分割
【原出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2019-104739(P2019-104739A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2019年2月13日
(31)【優先権主張番号】61/887,111
(32)【優先日】2013年10月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510340997
【氏名又は名称】プロリンクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】アシュリー、 ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー、 エリック エル.
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6473145(JP,B2)
【文献】 特表2013−528593(JP,A)
【文献】 特表2007−505928(JP,A)
【文献】 特表2013−511540(JP,A)
【文献】 特表2012−506380(JP,A)
【文献】 特表2010−503708(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/088282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるコンジュゲート:
【化1】
[式中、
PEGは、直鎖状又は分枝状であってよく、qが2〜8である場合はマルチアーム型である、ポリエチレングリコールであり;
Xは、O、NH、OC(=O)(CH、又はNHC(=O)(CHであり、ここでm=1〜6であり;
Lは、(CH又は(CHCHO)(CHであり、ここで、r=1〜10であり、かつ、p=1〜10であり;
は、CN又はSONRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルキルアルケニル、アルキルアリール、もしくはアルキルヘテロアリールであり、それぞれが任意に置換されていてもよく、又は2個のRが一緒になって環を形成してもよく;
Yは、COR又はSOであり、ここで、Rは、OH、アルコキシ、もしくはNRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、置換アルキルであるか、又は2個のRが一緒になって環を形成してもよく;かつ
q=1〜8である]。
【請求項2】
XがOC(=O)(CH又はNHC(=O)(CHである、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
PEGが、平均分子量30,000〜50,000Daのポリエチレングリコールである、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
qが4である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
がCNである、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
PEGが、平均分子量30,000〜50,000Daのマルチアーム型ポリエチレングリコールであり;Lが(CHであり;RがCNであり;YがCONEtであり;かつ、qが4である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
mが1である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のコンジュゲートを薬学的に許容される賦形剤と共に含む薬学的製剤。
【請求項9】
前記製剤のpHが4.0〜6.0である、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
請求項1に記載のコンジュゲートを製造するための方法であって、以下のステップ:
(a) 式(VII)のアジドリンカー−SN−38を還元してアミノリンカー−SN−38を生成させること;
【化2】
(b) アミノリンカー−SN−38を活性化PEGと接触させて請求項1に記載のコンジュゲートを生成させること;及び
(c) 必要に応じて、該コンジュゲートを単離すること;
を含んでなる方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のコンジュゲートを含有するSN−38の持続放出用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤SN−38の徐放性製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カンプトテシンアナログSN−38(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)は、抗腫瘍薬イリノテカンの活性代謝産物である。これはイリノテカンよりも約1000倍の活性があるが、極めて低い水溶性(17μM)と迅速なクリアランスのために治療的に有用ではなかった。
【0003】
【化1】
【0004】
イリノテカン自体は臨床的に使用され、白血病、リンパ腫、結腸直腸癌、肺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膵臓癌、胃癌、及び乳癌において活性を示している。いくつかの研究から、カンプトテシンの抗腫瘍効果が一般的にはトポイソメラーゼIの阻害によるものであること、そして当該効果はこの酵素阻害を長期間(「目標到達時間」(time over target))維持することと関連していることが示されている。カンプトテシンの有効なレベルを十分な時間維持するために、典型的には、全身からの該薬物の比較的速やかなクリアランス速度に対抗するため、薬物のかなり高い用量を投与する必要がある。これにより、投与後の初期は高い最大薬物濃度(Cmax)となり、イリノテカンの用量制限毒性となる、生存が危ぶまれる下痢などの毒性をもたらすと考えられる。SN−38の高い効力を考えると、トポイソメラーゼIの阻害にとって十分であるが毒性濃度よりも低い安定した濃度で、長時間注入することにより薬物を供給することが望ましい。ポンプによるイリノテカンの長時間注入を用いた臨床試験はこの仮説を裏付けたが、SN−38は投与製剤における溶解性が低いため、この方法はSN−38には実現可能な治療戦略ではない。
【0005】
イリノテカンは、肝カルボキシルエステラーゼによってSN−38に変換され、その後肝UGT1Aによってその10−グルクロニドであるSN−38Gに代謝される。グルクロン酸抱合は胆汁排泄を促進し、腸内細菌グルクロニダーゼはSN−38GのSN−38への再変換を引き起こす。腸UGT1Aがこの薬物をもとの不活性型SN−38Gに変換しない限り、SN−38は腸に毒性となる可能性がある。したがって、SN−38Gは、毒性型SN−38の供給源と、さらにSN−38によって引き起こされる重度の下痢からの保護との、両方の作用を持ち得る。一般的に、高レベルのSN−38は、SN−38Gへのグルクロン酸抱合の増加、SN−38Gの腸への排泄の増加、及び胃腸毒性をもたらす細菌の脱グルクロン酸抱合を生じさせる。
【0006】
イリノテカンのようなプロドラッグからのSN−38の放出よりも、可溶性で長寿命の循環コンジュゲートからのSN−38の徐放の方が上述の問題を解決できると考えられ、多様なコンジュゲーション戦略がSN−38に適用されてきた。酸素−20グリシネートエステルを介したポリ(エチレングリコール)(PEG)へのコンジュゲーション(米国特許第8,299,089号)により、エステル加水分解により遊離SN−38を比較的速やかに(t1/2=12時間)放出する比較的水溶性であるコンジュゲートが提供されている。SN−38を迅速に放出するポリオール重合体への別のエステル連結化学も開示されている(米国特許出願公開第2010/0305149A1号)。酸素−10へのエステル結合を介したポリグルタミン酸−PEGブロック共重合体へのコンジュゲーションにより、やはりエステル加水分解によって遊離SN−38を放出する、ミセルコンジュゲートが提供されている(PCT公開WO2004/039869)。水性媒体中でのエステルの不安定性(血漿中ではエステラーゼにより加速され得る)のために、このようなSN−38のエステルベースのコンジュゲーション戦略は、低用量で長期間SN−38へ暴露するのに適切ではなく、通常SN−38のレベルは投薬の合間で有効レベルを下回る。これらのコンジュゲートは通常高レベルで投与されることから、SN−38の最大濃度は高くなり、かつ高レベルのSN−38Gが形成されることになる。
【発明の概要】
【0007】
より制御された放出速度を有するPEG−SN−38コンジュゲートが、PCT公開WO2011/140393に開示されている。これらのコンジュゲートは、適切なリンカーを選択することにより広範囲にわたって制御可能な速度で、β脱離反応機構を介してSN−38を放出する。この薬物への高分子のカップリングは、アジドと環状アルキンとの縮合生成物を介して行われ、結果的に比較的不溶性のコンジュゲートをもたらす。本願クレームの亜型は、単純なアミド結合の存在により向上した溶解性を有し、室温、緩衝液中でインビトロの安定性を示す。本発明者らは、予想外にも、放出速度を適切に選択することにより、SN−38Gのインビボ形成を減少させることができると同時に、活性型SN−38に長期間暴露させることができることを見出した。本発明は、SN−38の低用量長期暴露レジメンを可能とし、さらに投与期中に形成されるSN−38Gの量を低減させる速度で、非酵素的β脱離反応機構を介して遊離SN−38を放出するように設計されたコンジュゲートを提供する。
【0008】
発明の開示
本発明は、SN−38の低用量長期暴露レジメンを可能にし、さらに投与期間中に形成されるSN−38Gの量を低減させる遅い速度で、非酵素的β脱離反応機構を介して遊離SN−38を放出するように設計されたコンジュゲートを提供する。また、前記コンジュゲートを製造するための方法、及び細胞の過剰増殖により特徴づけられる疾患及び病状の治療における前記コンジュゲートを使用するための方法も提供する。
【0009】
したがって、一態様において、本発明は、式(I)で表されるコンジュゲートを提供する:
【0010】
【化2】
【0011】
[式中、
PEGは、直鎖状又は分枝状であってよく、qが2〜8である場合はマルチアーム型である、平均分子量が20,000〜60,000Daのポリエチレングリコールであり;
q=1〜8であり;
Xは、O、NH、(CH、OC(=O)(CH、又はNHC(=O)(CHであり、ここでm=1〜6であり;
は、CN又はSONRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルキルアルケニル、アルキルアリール、もしくはアルキルヘテロアリールであり、それぞれが任意に置換されていてもよく、又は一緒になって環を形成してもよく;
Y=COR又はSOであり、ここで、R=OH、アルコキシ、もしくはNRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、置換アルキルであるか、又は一緒になって環を形成してもよく;かつ
Lは、(CH又は(CHCHO)(CHであり、ここで、r=1〜10であり、かつ、p=1〜10である]。
【0012】
第2の態様において、本発明は、式(I)のコンジュゲート及びその中間体の製造方法を提供する。
【0013】
第3の態様において、本発明は、式(I)のコンジュゲートを用いたSN−38の徐放方法を提供する。
【0014】
第4の態様において、本発明は、コンジュゲートからのSN−38の放出速度を制御することによって、SN−38の投与時に形成されるSN−38グルクロニドの量を最小限化する方法を提供する。
【0015】
第5の態様において、本発明は、PEG及びDMSOを含有する、SN−38を可溶化する製剤、ならびにそれを使用する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のコンジュゲートからの遊離SN−38の放出を示す。
図2図2は、本発明のアジドリンカー−SN−38(VII)中間体を調製するための1つの方法を示す。
図3図3は、THF/水中でトリメチルホスフィンと酢酸を用いて、アジドリンカー−SN−38(VII)をアミンリンカー−SN−38(VIII)に還元するための1つの方法を示す。
図4図4は、RがCNであり、YがCONEtであり、q=4、XがCHであり、Lが(CHであり、かつ、PEGがペンタエリスリトールコアを有する4−アームポリ(エチレングリコール)である、本発明のコンジュゲート(I)を調製するための1つの方法を示す。
図5図5は、RがCNであり、YがCONEtであり、q=4、XがCHであり、Lが(CHであり、かつ、PEGが平均分子量40,000(nが約225)の4−アームポリ(エチレングリコール)である、1種類の式(I)のコンジュゲートの詳細な構造を示す。
図6図6は、RがCNであり、YがCONEtであり、q=4、XがCHであり、Lが(CHであり、かつ、PEGが平均分子量40,000の4−アームポリ(エチレングリコール)である、本発明のコンジュゲートからのSN−38のインビトロ放出速度カイネティクスを示す。SN−38は10−OHのイオン化のため約8.6のpKを有する;フェノラートの形成により、SN−38のUV/Vis吸収最大は414nmにシフトする。10−OHを介してコンジュゲート化された場合、SN−38は414nmで吸収をまったく示さない。したがって、414nmでの吸収増加は、コンジュゲートからの遊離SN−38の形成の指標となる。曲線は、pH9.4で0.00257分−1の一次速度定数を用いて実験データにフィットさせたものを示す。この曲線から、pH7.4における放出t1/2は450時間と求められる。
図7図7は、RがCNであり、YがCON(Et)であり、q=4、XがCHであり、Lが(CHであり、かつ、PEGは平均分子量40,000の4−アームポリ(エチレングリコール)である、式(I)のコンジュゲートを用い、該コンジュゲート200mg/kg(SN−38 7mg/kg)をラット(平均n=3)に静脈内投与した後の生体内における、コンジュゲート(四角)、及び該コンジュゲートから放出された遊離SN−38(丸)のレベルを示す。曲線は、インビボ放出t1/2=400時間を用いて、実施例5に記載したように作成した。
図8図8は、RがCNであり、YがCON(Et)であり、q=4、XがCHであり、Lが(CHであり、かつ、PEGが平均分子量40,000の4−アームポリ(エチレングリコール)である、式(I)のコンジュゲートを用い、該コンジュゲート200mg/kg(SN−38 7mg/kg)をラット(平均n=3)に静脈内投与した後の生体内における、該コンジュゲートから形成された、遊離SN−38(丸)及びSN−38グルクロニド(四角)のレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一態様において、本発明は、式(I)で表されるコンジュゲートを提供する:
【0018】
【化3】
【0019】
[式中、
PEGは、直鎖状又は分枝状であってよく、qが2〜8である場合はマルチアーム型である、平均分子量が20,000〜60,000Daのポリエチレングリコールであり;
q=1〜8であり;
Xは、O、NH、(CH、OC(=O)(CH、又はNHC(=O)(CHであり、ここでm=1〜6であり;
は、CN又はSONRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルキルアルケニル、アルキルアリール、もしくはアルキルヘテロアリールであり、それぞれが任意に置換されていてもよく、又は一緒になって環を形成してもよく;
Y=COR又はSOであり、ここで、R=OH、アルコキシ、もしくはNRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、置換アルキルであるか、又は一緒になって環を形成してもよく;かつ
Lは、(CH又は(CHCHO)(CHであり、ここで、r=1〜10であり、かつ、p=1〜10である]。
【0020】
用語「アルキル」は、1〜8個の炭素原子、いくつかの実施形態では1〜6個もしくは1〜4個の炭素原子の直鎖状、分枝状、又は環状の飽和炭化水素基として定義される。
【0021】
用語「アルケニル」は、1つ以上の炭素−炭素二重結合を有する、1〜6個もしくは1〜4個の炭素原子の非芳香族の直鎖状、分枝状、又は環状の不飽和炭化水素として定義される。
【0022】
用語「アルキニル」は、1つ以上の炭素−炭素三重結合を有する、1〜6個もしくは1〜4個の炭素原子の非芳香族の直鎖状、分枝状、又は環状の不飽和炭化水素として定義される。
【0023】
用語「アルコキシ」は、酸素原子に結合したアルキル基として定義され、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、シクロプロポキシ、シクロブトキシ、及び同様の基を含む。
【0024】
用語「アリール」は、6〜18個の炭素原子、好ましくは6〜10個の炭素原子の芳香族炭化水素基として定義され、例えば、フェニル、ナフチル、及びアントラセニルなどの基を含む。用語「ヘテロアリール」は、少なくとも1個のN、OもしくはS原子を含有する3〜15個の炭素原子を含む芳香族の環、好ましくは、少なくとも1個のN、OもしくはS原子を含有する3〜7個の炭素原子を含む芳香族の環として定義され、例えば、ピロリル、ピリジル、ピリミジニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、キノリル、インドリル、インデニル、及び同様の基を含む。
【0025】
用語「ハロゲン」は、ブロモ、フルオロ、クロロ及びヨードを含む。
【0026】
基が「任意に置換されていてもよい」場合、その置換基は、同一又は異なる1〜3個の置換基を含み、該置換基としては、ハロゲン、アミノ、ヒドロキシル、及びスルフヒドリル、並びに、エステル、アミドとして、又は遊離カルボキシル基としてカルボキシル基を含む置換基を含むことができる。ここに例示したものは、すべてを網羅することを意図したものではなく、非干渉性の置換基であればいかなるものも、任意に存在する置換基の中に含めることができる。
【0027】
本明細書で使用する「a」、「an」などは、別段の示されていない限り、1つ又は複数を意味することが意図されている。さらに、整数の範囲が示されている場合、すべての中間の整数は、具体的に記載されているのと同様に含むことが意図されている。
【0028】
PEGは、直鎖状、分枝状、又はマルチアームの、平均分子量20,000〜60,000(すなわち、約400〜約1500のエチレンオキシド単位を含む)、又は30,000〜50,000のポリ(エチレングリコール)であってよく、ここで、少なくとも1つのポリマー末端はカルボキシレート官能基で終わっていてもよい。PEGは、C=O基がアミンとの反応のために活性化された誘導体、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、ニトロフェニルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジル、又はニトロフェニルカーボネートとしてとして、NOF社及びJenkem Technologies社などから市販されている。これらの高分子量PEGは、分子量のガウス分布で構成され(すなわち、多分散であり)、したがって、エチレンオキシド単位の数の分布を含む。これらは平均分子量で記載されており、本明細書における平均分子量は、産業的に供給される、表示された平均分子量を有する材料において、通常存在する分子量分布及びエチレンオキシド単位の分布についても包含することが意図される。4−アームPEGの典型的な多分散指数(PDI)は1.1以下であり、PDI=M/Mとして計算される。MはΣM/ΣMとして算出される重量平均モル質量であり、MはΣM/ΣNとして算出される数平均モル質量であり、ここで、Mは化学種iの分子量であり、Nはサンプル中の化学種iの数である。PDIは、ゲル浸透クロマトグラフィー、HPLC、又は質量分析などの当技術分野で公知の技術により測定することができる(例えば、米国特許出願公開第2010/0126866 A1号参照)。マルチアームPEGは、ペンタエリスリトール、ヘキサグリセロール、及びトリペンタエリスリトールなどの種々のコア単位から出発して形成することにより、さまざまなアーム構成及びアーム総数とすることができる。
【0029】
【化4】
【0030】
PEGの少なくとも1つのアームは、リンカー−SN−38との結合を可能にするために、連結基Xを介してカルボキシレート官能基で終端する。Xは、カルボキシレート官能基をPEGと結合させる役割を果たし、O、NH、(CH、OC(=O)(CH、又はNHC(=O)(CH(ここで、m=1〜6)を含む典型的な連結基のいずれであってもよい。本発明のいくつかの実施形態では、XはO、NH、(CH、又はNHC(=O)(CHである。本発明の一実施形態では、Xは(CHである。
【0031】
本発明のある特定の実施形態では、PEGは40,000±4,000Daの平均分子量を有する(すなわち、全部で約800〜1000のエチレンオキシド単位を含む)。一実施形態では、PEGは、ペンタエリスリトールコアを有し、かつ、平均分子量が40,000±4,000Daである4−アームポリマーであり、ここで、各アームは、平均で225±25のエチレンオキシド単位を含み、かつ、カルボキシレート基で終端しており、かつ、式(III)を有する:
【0032】
【化5】
【0033】
[式中、n=200〜250であり、かつ、m=1〜6である]。関連するコンジュゲートは以前にPCT公開WO2011/140393で開示されているが、本発明者らは、予期せざることに、以前に開示された、アジドとジベンゾアザシクロオクチン(DBCO又はDIBOC)との間の1,3−双極子付加環化によりPEGが連結されたコンジュゲートと比較して、より親水性のアミド結合を介してPEGがリンカー−SN−38に連結することで、改善された溶解性及び粘度特性を有するコンジュゲートが得られることを見出した。
【0034】
Lは、式(CH又は(CHCHO)(CH(ここで、r=1〜10であり、かつp=1〜10である)を有する連結基である。
【0035】
は、CN又はSONRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルキルアルケニル、アルキルアリール、もしくはアルキルヘテロアリールであり、それぞれが任意に置換されていてもよく、又は一緒になって環を形成してもよい。いくつかの実施形態では、各Rは独立してアルキルである。Rが、コンジュゲートからのSN−38の放出速度を制御することは、PCT公開WO2011/140393及びPCT出願PCT/US12/54293(これらは参照により本明細書に組み込まれる)に記載の通りである。低用量の長期暴露レジメンを実施するために、コンジュゲートからのSN−38の放出速度は、放出のインビボ半減期として、約100〜約1000時間であり、好ましくは約300〜約800時間、最も好ましくは約400〜500時間でなければならない。インビボ放出速度は、pH7.4、37℃で測定された対応するインビトロ放出速度よりも最大で約3倍速い可能性がある。ある実施形態では、RはCNである。この実施形態では、放出のインビトロ及びインビボ(ラット)半減期は400時間として測定されている。ある他の実施形態では、RはSONRである。ある特定の実施形態では、RはSONRであり、ここで、各Rは、独立して、メチル、エチル、アリル、ベンジル、2−メトキシエチル、又は3−メトキシプロピルであるか、あるいは、NRは、モルホリノ、2,3−ジヒドロインドリル、又は1,2,3,4−テトラヒドロキノリルを形成する。
【0036】
Yは、早期の放出に対してコンジュゲートを安定化させる電子求引性の置換基である。ある実施形態では、Yは、COR又はSOであり、ここで、Rは、OH、OR、も又はNRであり、ここで、各Rは、独立して、アルキル、又は置換アルキルであるか、あるいは、両方のRが一緒になって環を形成していてもよい。いくつかの実施形態では、Yはパラ位にある。YはSN−38へのN−CH−O結合を安定化するのに役立ち、よって、薬物が自発的にコンジュゲートから切断される速度を最小限にする。ある実施形態では、YはCONRであり、ある特定の実施形態では、YはCON(CHCH、CON(CHCHO、又はSON(CHCHOであり、ここでNと組み合わされた(CHCHOはモルホリノ基である。β脱離及びSN−38の放出から生じるp−アミノ安息香酸類及びp−アミノスルホンアミド類は、一般的に毒性が低いと考えられる。
【0037】
本発明の具体的な実施形態では、構造(II)を有する式(I)のコンジュゲートが提供される:
【0038】
【化6】
【0039】
[式中、mは1〜6であり、かつnは100〜375(すなわち、20,000〜60,000Da、又は30,000〜50,000Daの平均分子量のPEG)である]。本発明のより具体的な実施形態では、mが1〜3である、式(II)を有するコンジュゲートが提供される。本発明のさらに具体的な実施形態では、PEGの平均分子量が約40,000となるように、mが1であり、かつnが200〜250又は約225である。
【0040】
本発明の別の態様においては、式(I)のコンジュゲートを調製するための方法が提供される。以前にPCT公開WO2011/140393で開示された、アジドリンカー−SN−38中間体の製造方法の1つを図2に示す。このようにして、例えば、ピリジンなどの弱塩基の存在下、ホスゲン又はホスゲン等価物(トリホスゲンなど)を用いて中間体をクロロホルメートに変換し、続いてアニリンNH−C−Yと反応させることにより、アジドアルコール(IV)をカルバメート(V)に変換する。あるいは、(V)は、(IV)をイソシアネートOCN−C−Yで処理することにより、直接形成させることができる。その後、カルバメート(V)は、Majumdarの方法(「カルボン酸含有薬物のN−アルキル−N−アルキルオキシカルボニルアミノメチル(NANAOCAM)プロドラッグ」,Bioorg Med Chem Letts(2007)17:1447−1450)の変法を用いてN−クロロメチル化し、本方法では、クロロトリメチルシランと不活性溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジクロロエタン、ジオキサン、又はトルエンなど)の混合物中でカルバメート(V)とパラホルムアルデヒドを接触させる。好ましい実施形態では、不活性溶媒はトルエンである。触媒クロロトリメチルシランは、(V)よりも1〜10倍モル過剰、好ましくは4倍モル過剰に存在する。本反応は20〜100℃、好ましくは40〜60℃、最も好ましくは50℃の温度で、不活性雰囲気下に実施することができ、反応の進行は、反応性のN−(クロロメチル)カルバメート(VI)を安定した化学種に変換することによって、例えば、反応混合物のアリコートを、クロロトリメチルシランを中和するのに十分なトリアルキルアミン塩基を含有するエタノール中で希釈し、続いて得られたN−(エトキシメチル)カルバメートをHPLCで分析することによって、モニターすることができる。
【0041】
図2に示す通り、N−(クロロメチル)カルバメート(VI)によりSN−38のフェノール性OHがアルキル化され、アジドリンカー−SN−38(VII)が生成する。フェノールを脱プロトン化してアルキル化させるために種々の塩基を使用することができ、例えば、カリウムtert−ブトキシド(KOBu)などのアルコキシド、リチウムビス(トリメチルシリルアミド)(LiHMDS)などの金属アミド、NaHなどの金属水素化物、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)などのアミジン、及びホスファゼン塩基が使用される。好ましい実施形態では、塩基はKOBuである。まず、適切な溶媒中のSN−38を、−20〜25℃、好ましくは−20〜5℃、最も好ましくは4℃の温度で塩基と接触させて、フェノラート塩を生成させる。次に、該フェノラートを、−20〜25℃、好ましくは−20〜5℃、最も好ましくは4℃の温度でN−(クロロメチル)カルバメート(VI)と接触させて、アジドリンカー−SN−38(VII)溶液を生成させる。適切な溶媒としては、THF、DMF、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
図3に示されるように、アジドリンカー−SN−38(VII)は、アジドを還元することによってアミノリンカー−SN−38(VIII)に変換される。還元はいくつかの手段によって達成することができ、例えば、パラジウムもしくは白金などの金属触媒の存在下での触媒水素化分解;トリアルキルホスフィンもしくはトリアリールホスフィンなどのホスフィンを使用するシュタウディンガー(Staudinger)還元;又はシランの存在下でのインジウム還元が挙げられる。トリメチルホスフィンのような著しく塩基性のトリアルキルホスフィンを使用する場合、適切な酸を添加して反応の塩基性度を緩和し、β脱離リンカーの早期切断を防止する。好ましい実施形態では、THF/水中でトリメチルホスフィン−酢酸を使用して(VII)を(VIII)に変換する。
【0043】
図4に示されるように、アミノリンカー−SN−38(VIII)を活性化PEGに連結してコンジュゲート(I)を得る。適切に活性化されたPEGは、アミン反応性の官能基で終端したポリマー鎖を有する。前記アミン反応性の官能基は、例えば、Xが存在しない式(I)のコンジュゲートを生成する場合には、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、ペンタハロフェニルエステル、又はニトロフェニルエステルなどであり、XがOである式(I)のコンジュゲートを生成するに場合には、N−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネート、ペンタハロフェニルカーボネート、又はニトロフェニルカーボネートなどである。あるいは、ポリマー鎖がカルボン酸で終端しているPEGは、ペプチドカップリング剤の存在下で使用することができ、このようなペプチドカップリング剤としては、DCCもしくはEDCIのようなカルボジイミド、BOPもしくはPyBOPのようなホスホニウム試薬、又はHATUもしくはHBTUのようなウロニウム試薬が挙げられる。カップリングは水性又は無水条件下で行われ、好ましくは、アセトニトリル、THF、DMF、又はジクロロメタンなどの適切な溶媒中、無水条件にて行う。好ましい実施形態では、NHSエステルで終端したポリマー鎖を有する活性化PEGをTHF溶媒中、0〜25℃の温度で使用する。
【0044】
得られたコンジュゲートは、当技術分野で公知の方法を用いて精製することができる。例えば、エチルエーテル又はメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)などのエーテル溶媒を添加することによって、反応混合物からコンジュゲートを沈殿させることができる。また、透析又はサイズ排除クロマトグラフィーによってコンジュゲートを精製することもできる。
【0045】
第3の態様において、本発明は、式(I)のコンジュゲートを用いたSN−38の徐放方法を提供する。一実施形態では、コンジュゲートからSN−38を放出させる半減期は100〜1000時間、好ましくは300〜500時間、より好ましくは約400時間である。
【0046】
本発明の別の実施形態では、SN−38への連続的な低用量暴露を必要とする患者に本発明のコンジュゲートを投与することを含む、該患者を連続的に低用量のSN−38で暴露する方法が提供される。より具体的な実施形態では、遊離SN−38の濃度は、週1回投与の投与間(投与と投与の間)に15〜5nMに維持される方法が提供される。
【0047】
本発明の別の実施形態では、コンジュゲートの投与間(投与と投与の間)に観察されるSN−38のCmax/Cmin比を制御する方法が提供される。生じるCmax/Cmin比は、週1回投与の投与間において10以下、より好ましくは5以下、より好ましくは約2.5である。
【0048】
図6に示されるように、PEGが、平均分子量40,000の4−アーム型ポリエチレングリコール(ペンタエリスリトールコア)である式(II)のコンジュゲート[すなわち、qが4であり;XがCHであり;RがCNであり;YがCONEtであり;PEGが平均分子量40,000の4−アーム型ポリ(エチレングリコール);及びLが(CHである式(I)]は、37℃、pH9.4の緩衝液中に置かれたとき、4.5時間の半減期を有する一次反応で遊離SN−38を放出した。本明細書において使用するβ脱離リンカーはpH依存性の一次放出速度を示すことを実証しており、生理的pH(7.4)での対応する放出半減期は450時間であると算出することができる。
【0049】
図7に示されるように、同じコンジュゲートを静脈内注射でラットに投与すると遊離SN−38が放出され、この遊離SN−38は該コンジュゲートとパラレルな濃度対時間プロファイルをたどり、約51時間の最終半減期を示した。この結果は、SN−38の直接静脈内投与が、ラットにおいて7〜34分の最終半減期を示す(Atsumi,et al.,「ラットへの14C−SN−38の単回静脈内投与後の、イリノテカンの活性代謝産物SN−38 [(+)−(4S)−4,11−ジエチル−4,9−ジヒドロキシ−1H−ピラノ[3’,4’:6,7]−シンドリジノ[1,2−b]キノリン−3,14(4H,12H)−ジオン]の薬物動態」,Biol.Pharm.Bull.(1995)18:1114−1119;Kato,et al.,「パニペネムはラットにおいてイリノテカンの活性代謝産物SN−38及び不活性代謝産物SN−38グルクロニド(SN−38G)の薬物動態を変化させない」,Anticancer Res.(2011)31:2915−2922)ことと比較される。したがって、本発明のコンジュゲートはSN−38のインビボ半減期を大幅に延長する。
【0050】
コンジュゲートから放出された薬物のレベル及び観察された最終半減期は、コンジュゲートと薬物の薬物動態パラメータを組み合わせた結果であり、最終半減期は単純な1−コンパートメントモデルにおけるコンジュゲート消失速度と薬物放出速度の和である(Santi,et al.,「高分子コンジュゲートからの制御された化学物質放出による治療薬の予測可能かつ調整可能な半減期延長」,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2012)109:6211−6216)。これらのパラメータを決定するために、コンジュゲートが2つのコンパートメント間に分散していて、クリアランスされる前に遊離SN−38を放出できる薬物動態モデルを用いてデータを分析した。コンジュゲート自体のクリアランス速度(kel)を確立するため、同様の安定したコンジュゲート(CHCNが存在しない式(II))をラットに静脈内投与して、2−コンパートメントモデルを用いて薬物動態パラメータを取得した。
【0051】
図7に示されるように、濃度対時間データは、インビボで遊離SN−38を約400時間の半減期で放出するコンジュゲート(II)と一致する。ラットにコンジュゲート(II)を200mg/kg(7mg/kgのSN−38を含む)で単回注射した後に、SN−38の血漿レベルは7日間にわたって210〜20nMに及ぶことが観察された(すなわち、Cmax/Cmin=10)。コンジュゲート及び対応して遊離SN−38の最終半減期は、ラットにおけるコンジュゲートの比較的速い消失速度によって制限される。PEGコンジュゲートの消失速度は、腎臓ろ過の速度の差により種依存性となり、40,000−Da PEGの最終半減期は、マウスでは約12時間、ラットでは24〜48時間、ヒトでは72〜120時間である。さらに、薬物の消失速度はラットと比べてヒト患者において遅いことが一般的である(例えば、Caldwell,et al.,「創薬における薬物動態パラメータのアロメトリック・スケーリング:ヒトCL、Vss及びt1/2は生体内ラットデータから予測できるか?」,Eur J Drug Metab Pharmacokinet.(2004)29:133−143参照)。よって、コンジュゲートからの薬物放出速度が血液pH値の不変性により比較的種非依存的であると予想されるとしても、式(I)のコンジュゲートから放出されるSN−38の最終半減期は、げっ歯類と比べてヒトでは実質的に長いことが期待される。ヒト患者における本発明のコンジュゲート及び遊離SN−38の実際の薬物動態パラメータは不明であるが、実施例5で後述するように、アロメトリック・スケーリングを用いたこれらの値の推定値は、ヒト患者においてCmax/Cmin約2.5と推定される。SN−38プロドラッグであるイリノテカンのヒト患者への持続注入から、SN−38の血漿レベルを約5〜15nMで長期間維持すると最大限の効力が得られることが示されている。したがって、ラットの薬物動態データは、本発明のコンジュゲートがSN−38を有効な低レベルで持続的に放出するできることを予測させる。
【0052】
驚くべきことに、ラットを式(II)のコンジュゲートで治療する際に観察されるSN−38Gのレベルは極めて低く、CmaxでSN−38G/SN−38≦0.1であった。これは、エステル結合したイリノテカンコンジュゲート(CmaxでSN−38G/SN−38が約15である;Eldon,et al.,「進行性固形腫瘍の患者におけるトポイソメラーゼ阻害剤−ポリマーコンジュゲートNKTR−102の母集団薬物動態」,American Society of Clinical Oncology Poster 8E(2011))、又はエステル結合したSN−38コンジュゲート(CmaxでSN−38G/SN−38が約1である;Patnaik,et al.,「進行性悪性腫瘍の患者における新規抗癌剤EZN−2208:フェーズI用量漸増試験)」,American Association for Cancer Research Poster C221(2009))を用いた治療とは対照的である。したがって、SN−38は、非常にゆっくりと放出された場合、効果的にグルクロン酸抱合されないと思われる。この仮説と一致して、R=PhSOを有するコンジュゲートをラットで試験した場合、予想通りSN−38がより速く放出され(t1/2=10時間)、遊離SN−38の初期レベルがより高くなり、かつCmaxでSN−38G/SN−38=0.2とより高くなることが観察された。
【0053】
したがって、第4の態様において、本発明は、コンジュゲートからのSN−38の放出速度を制御することにより、SN−38の投与時に形成されるSN−38グルクロニドの量を最小化させる方法を提供する。本発明の一実施形態は、SN−38の投与時に形成されるSN−38グルクロニドの量を最小化させる方法であって、SN−38放出の半減期が100時間を超えることにより特徴づけられるコンジュゲートが用いられる方法である。より具体的な実施形態では、SN−38放出の半減期は100〜1000時間である。好ましい実施形態では、SN−38放出の半減期は300〜500時間である。さらにより好ましい実施形態では、SN−38放出の半減期は約400時間である。
【0054】
本発明のコンジュゲートは、当技術分野で公知の薬学的に許容される種々の賦形剤を用いて製剤化することができ、また、コンジュゲートの安定性に最適なpHを有する水性緩衝液中に都合よく製剤化することができる。本発明の一実施形態では、コンジュゲートはpH値4〜6の水性緩衝液中に製剤化される。予想外にも、式(I)のコンジュゲートは、WO2011/140393に開示された関連コンジュゲートよりも水性緩衝液中に顕著に可溶性であることが見出され(以下の実施例2参照)、よって、これらの化合物による治療を必要とする患者へのより広い投薬範囲が可能とする。
【0055】
本発明のコンジュゲートは、SN−38又はSN−38プロドラッグ、例えばイリノテカンが有用性を有するあらゆる状況において、有用性があることが期待される。現在では、イリノテカンは、白血病、リンパ腫、結腸直腸癌、肺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膵臓癌、胃癌、及び乳癌を含む種々の癌の治療に使用されており、よって、本発明のコンジュゲートは同様に使用され得ることが想定される。
【0056】
実施例6に示した別の実施形態では、SN−38製剤は、賦形剤がPEGとDMSOを含む場合に可溶化形態となる。これは、例えば、持続注入のために特に有用である。PEGとDMSOの比は、90:10から10:90までの範囲で変化するが、75:25、25:75、もしくは50:50、又はその中間値であってもよい。有用なPEG成分は、凡そPEG100(100)〜PEG(600)の範囲である。
【0057】
別段示されていない限り、すべての参考文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0058】
一般的方法:HPLCは、ダイオードアレイ検出を備えた島津HPLCシステムを用いて行った。逆相には、40℃に自動温度調節したPhenomenex(登録商標)Jupiter 5μm 300Å 4.6×150mmカラムを使用し、0.1%のTFAを含有する水中の20〜100%アセトニトリル勾配を1.0mL/分の流速で用いた。サイズ排除HPLCは、Phenomenex(登録商標)BioSep(商標)S−2000カラムを、40℃で、50:50アセトニトリル/水/0.1%TFAをランニングして使用した。SN−38を含有する溶液は、e=22,500M−1cm−1を用いて、アセトニトリル中の363nmにおけるUV吸光度により定量した。SN−38はHaorui社(中国)から購入した。
【0059】
調製A
6−アジド−1−ヘキサノール
【0060】
【化7】
【0061】
水400mL中の6−クロロ−1−ヘキサノール(50.0g,366mmol)とアジ化ナトリウム(65.0g,1000mmol)の混合物を19時間穏やかに加熱還流した。周囲温度に冷却した後、この混合物を3×200mLのEtOAcで抽出した。抽出物を1×100mLの水、1×100mLの飽和NaCl水溶液で洗浄した後、MgSOで乾燥させ、ろ過し、蒸発させることにより無色のオイル44.9g(86%)が得られた。H−NMR (400MHz,CDCl):δ 3.66(2H,br t,J=6Hz),3.27(2H,t,J=7.2Hz),1.55−1.66(m,4H),1.38−1.44(m,2H)。
【0062】
調製B
6−アジドヘキサナール
【0063】
【化8】
【0064】
トリクロロイソシアヌル酸(12.2g,52.5mmol)を、氷上で冷却したジクロロメタン100mL中の6−アジド−1−ヘキサノール(7.2g,50.0mmol)の強撹拌溶液に添加した。得られた懸濁液に、ジクロロメタン2mL中のTEMPO(0.080g,0.51mmol)溶液を滴下した。4℃で10分後、この懸濁液を周囲温度まで温め、さらに30分間撹拌した。TLC分析(30%EtOAc/ヘキサン)は完全な反応を示した。この懸濁液を、ジクロロメタンを用いて1cmのセライトパッドを通してろ過した。ろ液を2×100mLの1M NaCO、1×100mLの水、1×100mLの1N HCl、及び1×100mLの飽和NaCl水溶液で洗浄した後、MgSOで乾燥させ、ろ過し、蒸発させることによりオレンジ色のオイル9.8gが得られた。これを少容量のジクロロメタン中に溶解し、0〜20%EtOAc/ヘキサン勾配を用いてSiO(80g)のクロマトグラフィーにかけることにより、アルデヒド生成物6.67g(47.3mmol;95%)を無色のオイルとして得た。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 9.78(1H,t,J=1.6Hz),3.29(2H,t,J=6.8Hz),2.47(2H,dt,J=1.6,7.6Hz),1.59−1.71(m,4H),1.38−1.46(m,2H)。
【0065】
調製C
7−アジド−1−シアノ−2−ヘプタノール
【0066】
【化9】
【0067】
ヘキサン中の1.6M n−ブチルリチウム溶液(35mL,49mmol)をN下、−78℃で、無水THF100mLに添加した。アセトニトリル(3.14mL,60mmol)を強撹拌しながら高速流で加え、白色の懸濁液を形成させた。15分後、この懸濁液を1時間以上にわたって−20℃に温めた。再び−78℃に冷却した後、6−アジドヘキサナール(6.67g,47mmol)を添加し、黄色の溶液を得た。これをさらに15分間撹拌し、次いで−20℃まで温め、飽和NHCl水溶液20mLを添加してクエンチした。EtOAcで希釈した後、この混合物を水、1N HCl、水、及び飽和NaCl水溶液で順次洗浄し、次にMgSOで乾燥させ、ろ過し、蒸発させることにより、黄色のオイル8.0gを得た。これを少容量のジクロロメタン中に溶解し、0〜40%EtOAc/ヘキサン勾配を用いてSiO(80g)のクロマトグラフィーにかけることにより、生成物6.0g(21.6mmol;84%)が無色のオイルとして得られた。H−NMR(400MHz,d−DMSO):δ 5.18(1H,d,J=5Hz),3.69(1H,m),3.32(2H,t,J=6Hz),2.60(1H,dd,J=4.8,16.4Hz),2.51(1H,dd,J=6.4,16.4Hz),1.55(2H,m),1.42(2H,m),1.30(4H,m)。
【0068】
調製D
N,N−ジエチル 4−ニトロベンズアミド
【0069】
【化10】
【0070】
アセトニトリル100mL中の塩化4−ニトロベンゾイル(18.6g,100mmol)溶液を、水150mL中のジエチルアミン(15.5mL,150mmol)と水酸化ナトリウム(6.0g,150mmol)の撹拌氷冷溶液に30分かけて滴下した。滴下終了後、この混合物を周囲温度まで温めて、さらに1時間撹拌した。この混合物を3×100mLのCHClで抽出し、合わせた抽出物を1×100mLの水、1×100mLの1N HCl、及びブラインで洗浄した。MgSOで乾燥させた後、この混合物をろ過し、蒸発乾固させて結晶塊を得た。ヘキサン/酢酸エチル=80/20から再結晶し、生成物20.0gを淡黄色の結晶として得た(90%)。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 8.27(2H,m),7.54(2H,m),3.57(2H,br q,J=6.8Hz),3.21(2H,br q,J=6.8Hz),1.27(3H,br t,J=6.8Hz),1.12(3H,br t,J=6.8Hz)。
【0071】
調製E
4−(N,N−ジエチルカルボキサミド)アニリン
【0072】
【化11】
【0073】
ギ酸アンモニウム(20.0g,317mmol)を、氷上で冷却したメタノール400mL中のN,N−ジエチル 4−ニトロベンズアミド(20.0g,90mmol)と10%パラジウム/活性炭1.0gの強撹拌混合物に添加した。この反応物は活発なガスの発生を伴って温かくなる。1時間後、TLC(ヘキサン/EtOAc=60/40)が出発物質の完全な変換を示した。この混合物をセライトパッドによりろ過し、蒸発させて結晶性の固体を得た。これを水中に懸濁させ、真空ろ過により回収した。この生成物を水から再結晶して乾燥させることにより、白色結晶14.14g(83%)が得られた。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 7.22(2H,m),6.65(2H,m),3.81(2H,br s),3.42(4H,br s),1.17(6H,t,J=6.8Hz)。
【0074】
調製F
1−シアノ−7−アジド−2−ヘプチル 4−(N,N−ジエチルカルボキサミド)フェニルカルバメート
【0075】
【化12】
【0076】
ピリジン(4.0mL,50mmol)を、氷上で冷却した無水THF 200mL中の1−シアノ−7−アジド−2−ヘプタノール(4.60g,25mmol)とトリホスゲン(12.5g,42mmol)の撹拌溶液に不活性雰囲気下で滴下した。白色の懸濁液を氷上で15分間撹拌し、次いで周囲温度まで温めて、さらに30分撹拌した。TLC分析(ヘキサン/酢酸エチル=60/40)は、出発物質が、高R生成物へと完全に変換したことを示した。この懸濁液をろ過して蒸発させ、残留物を100mLの乾燥エーテル中に移してろ過し、蒸発させることにより、粗クロロホルメート(4.54g,74%)が褐色のオイルとして得られた。トリエチルアミン(3.5mL,25mmol)を、乾燥CHCl 100mL中のクロロホルメート(18.6mmol)と4−(N,N−ジエチルカルボキサミド)アニリン(3.85g,20mmol)の溶液に添加した。1時間撹拌した後、この混合物を1N HClで2回、水で2回、ブラインで1回洗浄し、次いでMgSOで乾燥させ、ろ過し、蒸発させてオイルを得、これを放置することで結晶化させた。この結晶塊をヘキサン/酢酸エチル=60/40で洗浄した。洗浄液を濃縮し、0〜80%酢酸エチル/ヘキサン勾配を用いてシリカのクロマトグラフィーにかけた。生成物画分を濃縮し、最初の結晶物質と一緒にした。合わせた生成物を1/1の酢酸エチル/ヘキサンから再結晶することにより、カルバメートを白色の結晶性固体(4.4g, 2工程で44%)として得た。H−NMR(CDCl,400MHz):δ 7.45−7.35(4H,m),6.888(1H,br s),5.000(1H,m),3.52(4H,br),3.288(2H,t,J=6.8Hz),2.841(1H,dd,J=5.2,17Hz),2.327(1H,dd,J=4.4,17Hz),1.88(1H,m),1.75(1H,m),1.63(2H,m),1.45(4H,m),1.18(6H,br)。
【0077】
調製G
N−(クロロメチル)カルバメート
【0078】
【化13】
【0079】
7−アジド−1−シアノ−2−ヘキシル N−(クロロメチル)−4−(N,N−ジエチルカルボキサミド)−フェニルカルバメート(2.00g,5.0mmol)、パラホルムアルデヒド(225mg,5.5mmol,1.5当量)、クロロトリメチルシラン(2.5mL,20.0mmol,4.0当量)、及び、無水トルエン25mLの懸濁液を、N雰囲気下に、磁気撹拌棒を備えた50mL RBFに入れて、ラバーセプタムキャップで密閉した。密封したフラスコを50℃の油浴中で24時間加熱したところ、この時点で透明な黄色の溶液が得られた。この溶液を周囲温度まで冷却して蒸発させた。残留物を乾燥トルエン10mLに再溶解し、ろ過し、蒸発させることにより、粗N−(クロロメチル)−カルバメートが残留トルエンを含む不安定な黄色のオイルとして得られた(2.68g,予測値の119%)。この物質を無水THF10mLに溶解して、N下に保存した。N−(クロロメチル)カルバメートの形成は、エタノール中の4mM N,N−ジイソプロピルエチルアミン1.0mLへ5μL添加した後、逆相HPLC分析(Phenomenex Jupiter 300Å 4.6×150mm C18;1.0mL/分;10分かけて20〜100%CHCN/HO/0.1%TFAの勾配)により確認した。出発カルバメートは8.42分で溶出し、λmax 243nmを示す;生成物N−(エトキシメチル)−カルバメートは8.52分で溶出し、λmax 231nmを示す;未知の不純物は8.04分で溶出し、λmax 245nmを示す。240nmでのピーク積分は、約89%のN−(エトキシメチル)−カルバメートを示した。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 7.39(4H,m),5.54(1H,d,J=12Hz),5.48(1H,d,J=12Hz),4.99(1H,m),3.51(4H,br),3.26(2H,t,J=6.8Hz),2.79(1H,m),2.63(1H,m),1.85(1H,m),1.73(1H,m),1.60(2H,m),1.43(4H,m),1.16(6H,br)。
【0080】
調製H
アジドリンカー−SN−38
【0081】
【化14】
【0082】
SN−38(1.00g,2.55mmol;Haorui社)を無水ピリジン10mLに懸濁し、次いで真空下で濃縮乾固した(浴温50℃)。これを無水THF10mLで繰り返した。得られた淡黄色固体を無水THF50mLと無水DMF50mL中、N雰囲気下で溶解し、その後氷上で冷却した。THF中のカリウムtert−ブトキシドの1.0M溶液(2.55mL,2.55mmol)を添加したところ、最初に暗緑色を発色し、これは濃いオレンジ色の懸濁液に変化した。15分後、N−(クロロメチル)−カルバメート(7.5mL,2.8mmol)のTHF溶液を添加した。4℃で15分後、明るいオレンジ色の混合物を周囲温度まで温めた。1時間後、HPLC分析(5μLのサンプル+1mLのアセトニトリル/0.1%TFA)により、86/14の生成物/SN−38が示された。淡黄色の混合物を酢酸エチル200mLで希釈し、2×100mLの水、100mLの飽和NaCl水溶液で洗浄し、MgSOで乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。オイル状残留物を水でトリチュレーションすることによって過剰のDMFを除去し、その残留物をアセトニトリル50mLに溶解し、ろ過し、蒸発させて、黄色のガラス2.96gを得た。この残留物を、それぞれ200mLの、ヘキサン、ヘキサン中の20%、40%、60%、80%、及び100%アセトンの段階的勾配を用いてSiO(80g)でクロマトグラフィーにかけ、精製されたアジドリンカー−SN−38(1.66g,81%)を得た。この物質をアセトン50mLに溶解し、0.1%酢酸水溶液45mLをこの混合物が濁るまで撹拌しながら滴下した。撹拌時に、固形物が分離した。その後、追加の0.1%酢酸水溶液5mLを添加して沈殿を完了させた。2時間撹拌した後、その固形物を真空濾過によって回収し、水で洗浄し、乾燥させて淡黄色粉末1.44g(70%)を得た。H−NMR(400MHz,CDCl):d 8.15(1H,d,J=9.2Hz),7.60(1H,s),7.48(1H,dd,J=2,9Hz),7.40(4H,m),7.25(1H,d,J=2),5.75(2H,br),5.73(1H,d,J=16Hz),5.28(1H,d,J=16Hz),5.22(2H,s),4.99(1H,m),3.84(1H,s),3.53(2H,br),3.53(2H,br),3.17(2H,t,J=7Hz),3.12(2H,q,J=7Hz),2.74(1H,dd,J=1,17Hz),2.54(1H,dd,J=5,17),1.86(2H,m),1.6(1H,m),1.46(1H,m),1.37(3H,t,J=7Hz),1.25(6H,m),1.12(4H,m),1.02(3H,t,J=7.3Hz)。LC−MS:[M+H]=805.3(C4451の計算値=805.3)。
【0083】
実施例1
アミノリンカー−SN−38酢酸塩
【0084】
【化15】
【0085】
THF中のトリメチルホスフィンの1M溶液(2.9mL,2.9mmol)を、THF10mL中のアジドリンカー−SN−38(1.13g,1.4mmol)と酢酸(0.19mL,3.3mmol)の溶液に添加した。ガスが徐々に放出された。2時間撹拌した後、水(1.0mL)を添加し、この混合物をさらに1時間撹拌した。この残留物をエーテルと水とに分配した。水相を酢酸エチルで1回洗浄し、得られた透明な黄色の水相を蒸発させて黄色の泡状物800mgを得た。これをTHFに溶解し、ろ過し、UV吸光度により定量して、1.2μmol(86%)の生成物を含有する溶液が得られた。C18 HPLCは単一のピークを示し、LC−MSは[M+H]=779.3(予測値779.4)を示した。
【0086】
実施例2
化合物(III)(式中m=1及びn約225)とのSN−38コンジュゲート
40kDa 4−アームテトラ−(スクシンイミジル−カルボキシメチル)−PEG(JenKem Technology社;10.0g,1.0mmol HSE)、実施例1のアミノリンカー−SN−38酢酸塩(1.2mmol)、及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.21mL,1.2mmol)のTHF 75mL中の混合物を周囲温度に保持した。カップリングの進行をHPLCでモニターし、90分までに反応の完了が示された。合計2時間後、この混合物を撹拌したMTBE 500mL中にろ過した。沈殿物を真空ろ過により回収し、MTBEで洗浄し、真空下で乾燥させて、コンジュゲートをワックス状の淡黄色固体(10.1g,95%)として得た。水1.0mL中の2.0mgサンプルの吸光光度分析は、0.17mMのSN−38を示した;重量により予測された0.175mM SN−38の計算値に基づくと、これは96%のコンジュゲートローディングを示す。C18−HPLC分析は、単一の主要ピーク(363nmで全ピーク面積の98%、256nmで97%)を、0.6mol%の遊離SN−38と共に示した。
【0087】
このコンジュゲートは、pH5.0、10mM酢酸ナトリウム緩衝液中に1.9mM(85mg/mL)まで溶解した。対照的に、調製Hのアジドリンカー−SN−38をPEG40kD−(DBCO)にトリアゾール結合を介して連結させた、対応するコンジュゲート(WO2011/140393)は、0.7mM(32mg/mL)しか溶解しなかった。また、実施例2のコンジュゲートの溶解度を、pH4及びpH5の0.2N酢酸塩緩衝液中、並びに、pH6、pH7及びpH8の0.2Nリン酸塩緩衝液中にて試験した。その溶解度はこれら全てのpHにおいて>300mg/mlであった。しかし、pHは、コンジュゲートを溶解したときにわずかに変化し、一般的にはもとの値よりも上昇した。よって、300mg/mlのコンジュゲートをpH4の緩衝液中に溶解させた場合、pHは4.5となり;pH5の緩衝液中では、pHが5.4となり;pH6の緩衝液中では、pHが6.2となり;pH7の緩衝液中では、pHが7.2となり;かつ、pH8の緩衝液中では、pHが7.7となった。
【0088】
10mg/mlのコンジュゲートをpH4〜pH8の緩衝液及び水中に室温で溶解させて7日間室温に保持した時の安定性も試験した。各種緩衝液中のコンジュゲートの純度は、HPLCで測定した。
【0089】
典型的には、0日目の純度は100%をやや下回って測定され、一般的には約97%であった。水中で試験したどのpHでも7日間にわたって測定した純度の変化は、観察されてもわずかであった。
【0090】
実施例3
インビトロ放出反応カイネティクス
0.1Mホウ酸ナトリウムpH9.4中の実施例2のコンジュゲートの溶液を、密閉したUVキュベット内に37℃で保持した。遊離SN−38フェノキシドの形成による414nmでの吸光度の増加を経時的にモニターした。単一指数関数Amax*(1−e−kt)(ここで、Amaxは完全な反応での吸光度である)へのデータのフィッティングにより、pH9.4におけるコンジュゲートからのSN−38の放出の速度定数kを求めた。図6に示されるように、pH9.4における遊離SN−38の形成は、k=0.00257min−1(t1/2=270分)で一次反応速度論に従った。これらのリンカーの放出速度はヒドロキシドでは一次であることが知られているので、他のpH値での放出速度は、k(pH)=k*10(pH−9.4)として計算することができる。よって、pH7.4におけるSN−38の放出速度は、pH7.4、37℃で2.57×10−5min−1、又はt1/2=450時間であると算出される。
【0091】
実施例4
インビボ薬物動態
pH5.0の10mM酢酸ナトリウム緩衝液中の実施例2のコンジュゲートの45mg/mL溶液を滅菌ろ過し、カニューレを挿入した雌Sprague−Dawleyラット(n=3)に200mg/kgで注入し、血液サンプル(0.3mL)を定期的に採取し、直ちにpH4.5の1Mクエン酸塩/0.1%Pluronic(登録商標)F68溶液30μLに添加してサンプルのpHを低下させ、凝固させて、残存する完全な(intact)コンジュゲートを安定化させた。このサンプルを2〜8℃、約1,500×g(遠心力)で10分間遠心分離し、赤血球を除去して約150μLの血漿を得た。その血漿を2つのアリコートに分割し、極低温バイアルに移して、分析前に−80℃の冷凍庫内で保存した。
【0092】
分析のため、サンプルを氷上で解凍し、内部標準として8ng/mLのカンプトテシンを含有するアセトニトリル/0.5%酢酸の2倍容量と混合した。4℃、1,6000×gで10分間遠心分離して、沈殿したタンパク質を除去した。サンプル上清(20μL)は、40℃に自動温度調節したPhenomenex(登録商標)300Å Jupiter 5μm 150×4.6mm C18 HPLCカラムを使用して、pH4.0の100mMリン酸ナトリウム、3mMへプタンスルホン酸塩(緩衝液A)及び75%アセトニトリル水溶液(緩衝液B)の勾配を1.0mL/分で用いて分析した。勾配は、5%のBで3分間のアイソクラティック、20%のBで3分間のアイソクラチック、5分間かけて20〜40%のBの直線勾配、2分間かけて40〜100%のBの直線勾配、100%のBで3分間のアイソクラチック、5%のBで3分間のアイソクラチックとした。サンプルの溶出は、ダイオードアレイ検出器と蛍光検出器を用いて、最初の9分間は励起を370nmに、発光を470nmに設定した後、最後の10分間は発光を534nmに設定して検出した。濃度は、ピーク面積を、コンジュゲート(吸光度380nm)及びSN−38(蛍光励起:370nm;発光:534nm)の標準曲線と比較することによって算出した。次の保持時間が観察された:SN−38、12.7分;カンプトテシン、13.2分;及びコンジュゲート、14.5分。定量下限は、蛍光検出によるシグナル対ノイズ比の10倍のピーク高さとして決定された。SN−38:20μL注入のアセトニトリル処理血漿中0.07ピコモル(アセトニトリル処理血漿中3.3nM、もとの血漿サンプル中10nM)。コンジュゲート:アセトニトリル処理血漿では20μL注入のアセトニトリル処理血漿(100nMのコンジュゲート;400nMのSN−38)中2.1ピコモルのコンジュゲート(8.4ピコモルのSN−38)、もとの血漿サンプル中300nM(1200nMのSN−38)。
【0093】
血漿からの完全なコンジュゲートのクリアランスに関する情報を取得するために、同様の安定なコンジュゲート(CHCNが存在しない式(II))を22mg/kgで用いて類似の実験を行った。
【0094】
SN−38グルクロニドのレベルは、Poujol,et al.,「ヒト血漿及び唾液中のイリノテカン及び4種の主要代謝産物のための高感度HPLC−蛍光法:薬物動態試験への応用」,Clinical Chemistry(2003)49:1900−1908に記載の方法に従って測定した。
【0095】
実施例5
薬物動態モデリング
コンジュゲートの血漿濃度対時間データは、2相モデルC(t)=A*exp(−αt)+B*exp(−βt)(ここでA+B=用量/Vd)を用いて分析した。非線形回帰分析(ネルダー・ミードの滑降シンプレックス(Nelder−Mead downhill simplex))を用いてデータをフィッティングさせ、その後、コンパートメント間の移動速度(k12及びk21)と中心コンパートメントからのコンジュゲートの消失速度(kel)の推定値を得るために、確立された手法に従ってパラメータをデコンボリューションした。実施例2のコンジュゲート及び対応する安定なコンジュゲート(CHCNがHで置換されたもの)のデータ分析から、表1のデータが得られた。
【0096】
【表1】
【0097】
これらのパラメータを用いて、次に遊離SN−38の濃度データをモデルに基づいてフィッティングさせた。このモデルでは、コンジュゲートが速度定数kで遊離SN−38を放出し、Kdist=V/Vで第2コンパートメントと平衡化する。モデル曲線は、以下の微分方程式を用いた数値積分法により作成した:
Δ[C]=(−k[C]−k12[C]−kel[C]+k21[C])Δt
Δ[C]=(k12[C]−k21[C])Δt
Δ[D]=(k[C]−kcl[D])/(1+Kdist)Δt
dist=V/V
【0098】
ここで、[C]及び[C]は、それぞれ、中心コンパートメント及び末梢コンパートメント中のコンジュゲート化SN−38の濃度であり、[D]は中心コンパートメント中の遊離SN−38の濃度であり、速度定数は上記の通りである;kclは、血漿からの遊離SN−38の消失速度定数であり、このパラメータについて報告された範囲内(1.4〜3.5h−1)で変化させた。数値積分は、初期条件[C]=Cmax、[C]=0、及び[D]=0を用いて120時間のタイムスパン(Δt=0.12時間)について1000ステップ以上行った。SN−38の容積分布Vは報告された0.18L/kgの値に設定し、一方VはコンジュゲートのVとして設定した。
【0099】
この方法を用いて、コンジュゲート化SN−38及びコンジュゲートから放出された遊離SN−38についての濃度対時間データを、図7に示すようにフィッティングさせた。血漿からの遊離SN−38の消失を十分に報告された範囲内であるkcl=2.77h−1(t1/2=0.25時間)とした場合、及びkをインビトロの測定値である0.00173h−1(コンジュゲートからのSN−38切断のためのt1/2=400時間)に設定した場合、実験データとの良好な一致が得られた。
【0100】
このモデルを使用すると、これらの種でのkel及びkclの値が与えられれば、他の種におけるコンジュゲートの挙動を予測することが可能である。ヒトでは、PEG(kel)及びSN−38(kcl)の消失ならびに分布容積の値は報告されていないが、アロメトリック・スケーリングを用いて、おおよそkel=0.0087 −1(t1/2=80時間)、kcl=0.7h−1(t1/2=1時間)、及びVss=0.15L/kgであると推定することができる(創薬における薬物動態パラメータのアロメトリック・スケーリング:ヒトCL、Vss及びt1/2はインビボでのラットデータから予測できるか?」,Eur J Drug Metab Pharmacokinet.(2004)29:133−143)。薬物動態モデルでこれらの値を使用することにより遊離SN−38の推定上の濃度範囲が、Cmax/Cminが約2.5として得られた。
【0101】
実施例6
持続注入用のSN−38の製剤
SN−38の治療的投与は、この薬物の低い水溶性(水に7mg/L、18μM)により制限されてきた。この制限を克服するための製剤が開発された。さまざまな製剤中のSN−38の溶解性を調べるために、ジメチルスルホキシド(DMSO)中のSN−38の115mM溶液を希釈して、各種製剤中の15、10、5、及び2mMの目標濃度を得た(表2)。周囲温度で16時間放置した後、沈殿したSN−38を14,000rpmで30分間遠心分離して除去した。上清をpH10.0、100mMホウ酸塩中に1:200で希釈し、SN−38の濃度を、ε414=22,500M−1cm−1を用いて414nmにおける分光光度法により測定した。結果を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
製剤E及びF中のSN−38は、試験した最高濃度で完全に可溶性のままであった。PEG300以外のポリエチレングリコールは、同様に有利に使用することができると予想される。さらに、これらの薬学的製剤は、該製剤を持続注入により投与することで、SN−38への暴露を必要とする患者へのSN−38への連続的暴露を維持するために使用できることが期待される。このような持続注入は、医療分野で公知の方法のいずれかにより、例えば注入ポンプの使用により、又は静脈内点滴により、実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8