(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の配線部の各々は、圧縮応力が作用する第1の膜と、前記第1の膜の上に積層された引張り応力が作用する第2の膜とを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のフローセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.実施形態
(全体構成)
本発明の実施形態に係るフローセンサについて、図面を参照して説明する。
図1に示すように、フローセンサ10は、発熱体14と、前記発熱体14の両側にそれぞれ配置された測温体としての第1測温体16及び第2測温体18とが表面に形成された基板12を備える。フローセンサ10は、流体である気体が流れる流路28(
図2)において、下流側に第1測温体16、上流側に第2測温体18を配置するように設けられる。基板12は、絶縁体、例えばSi、Al
2O
3、樹脂などで形成することができる。本実施形態の場合、基板12は、平面視矩形状のSiO
2基板と、当該SiO
2基板上に設けられた表面層13とで構成されている。表面層13は、耐腐食性を有する材料、例えばポリイミド等の熱硬化性樹脂や、セラミックスで形成するのが好ましい。
【0014】
発熱体14と、第1測温体16及び第2測温体18は、層状に形成されている。発熱体14と、第1測温体16及び第2測温体18は、構成が同じであるので、説明を省略するため、発熱体14について以下説明する。本実施形態の場合、発熱体14は、温度で電気抵抗値が変化する発熱体材料、例えば金や白金などの金属膜で形成され、一対の電極21と、電極21間に形成された抵抗体20とを有する。電極21は、基板12の両側に各1個(合計2個)形成されている。
【0015】
抵抗体20は、基板12のほぼ中央に配置されている。抵抗体20は、配線部22と、配線部22の端部に形成された接続部24とを含む。平面視において、配線部22は線状、接続部24は矩形状に形成されている。具体的には、平面視において、配線部22は、一端から他端まで太さが均一な直線状であり、接続部24は正方形である。
【0016】
配線部22は、接続部24に比べ電気抵抗が大きくなるように、線幅が接続部24に比べ狭く形成されている。配線部22は、複数(本図の場合、5個)が互いに平行になるように並列に配置されており、端部において接続部24を介して隣り合う他の配線部22と接続され、ジグザグ状に形成されている。接続部24は、2個の配線部22が接続されている。配線部22と接続部24の間には、配線部22同士を電気的に接続する短絡部26が梯子形状に形成されている。抵抗体20を構成する両端に配置された配線部22の端部は、接続部24を介して電極21に接続されている。接続部24と電極21の間にも、配線部22同士を電気的に接続する短絡部26が梯子形状に形成されている。
【0017】
図2に示すように、配線部22は、中央部分が前記基板12表面から凸となる山形状を有する。基板12は、表面から突出した支持部30が形成されている。抵抗体20の接続部24は、上記支持部30に固定されている。支持部30の高さは、特に限定されないが、例えば10μm程度とすることができる。配線部22は、両端が接続部24によって支持されているので、両持ち梁構造である。配線部22の頂上部分の支持部30からの高さは、特に限定されないが、例えば10〜50μm程度とすることができる。
【0018】
(配線部の製造方法)
次に配線部22の製造方法を、
図3を参照して説明する。なお、説明の便宜上、配線部22を1個製造する場合について説明する。まず、SiO
2基板31上に表面層13Aを有する基板を用意する(
図3A)。次いで
図3Bに示すようにホトレジスト32を選択的に形成する。その後、
図3Cに示すように、スパッタ法により金属膜34を形成する。次いで、ホトレジスト32をアセトンなどの有機溶媒を用いて除去する。同時にホトレジスト32上に形成された金属膜34もリフトオフにより除去する(
図3D)。最後に、形成された開口部36の表面層13を例えばフッ酸によるエッチングにより除去して溝38を形成する(
図3E)。そうすると膜応力により、中央部分が前記基板12表面から凸となる山形状を有し両持ち梁構造の配線部22を得ることができる。
【0019】
(作用及び効果)
上記のように構成されたフローセンサ10は、発熱体14の電極21間に電力が供給されると、発熱体14の抵抗体20が電気抵抗によって加熱される。抵抗体20は、配線部22が接続部24に比べ電気抵抗が大きくなるように形成されており、さらに短絡部26を介して接続部24に接続されている。これにより抵抗体20は、中央部分を中心に温度が高くなる。
【0020】
このように加熱されると、発熱体14の周囲の気体の温度が高くなる。周囲の気体に流れがない場合、発熱体14の周囲の温度分布は対称となるので、第1測温体16及び第2測温体18の温度は等しくなる。
【0021】
一方、周囲の気体に流れが生じた場合、発熱体14の周囲の温度分布は対称とならず、一方が高くなる。例えば、上流側から下流側へ気体が流れている場合、第2測温体18の温度が低下すると共に、第1測温体16の温度が上昇する。フローセンサ10は、第1測温体16と第2測温体18の抵抗値の差を図示しないブリッジ回路で検出することにより、流量に応じた電気出力を得ることができる。
【0022】
本実施形態の場合、配線部22は、中央部分が前記基板12表面から凸となる山形状であることにより、流路28中の気体により近づくことができ、しかも配線部22と基板12の間も容易に気体が流通することができる。また、配線部22を基板12表面から離れた位置に保持することができるので、配線部22で生じた熱が基板12へ逃げるのを防ぐことができる。したがってフローセンサ10は、効率的に流路28中の気体を加熱することができる。
【0023】
抵抗体20は、短絡部26を介して接続部24と接続する構成としたことにより、配線部22をより効率的に加熱することができる。
【0024】
配線部22は、両端が基板12に固定された接続部24に接続された両持ち梁構造であることから、熱膨張による変形を抑制することができる。したがってフローセンサ10は、熱膨張による気体の流れに与える影響を少なくすることができるので、測定精度を向上することができる。また配線部22は、中央部分が前記基板12表面から凸となる山形状であることにより、熱膨張によって生じる熱応力を緩和することができる。
【0025】
上記実施形態では、基板12が、SiO
2基板31と表面層13で形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限らず、酸化膜を備えたSi基板と表面層13で形成してもよいし、樹脂のみで形成してもよい。
【0026】
上記「(配線部の製造方法)」で示した手順に従い、実際に製造した発熱体14及び測温体16の顕微鏡写真を
図4に示す。Si基板上にポリイミドによる表面層13が形成された基板12を用いた。金属膜34は、膜厚300nmのPt膜をスパッタ法により形成した。配線部22は、ホトレジスト32をアセトン浸漬により除去し、ドライエッチングにより溝38を形成して得た。これにより、線幅6μm、厚さ0.4μm、支持部からの高さ30μmの配線部22を有する発熱体14及び測温体16を製造することができた。
【0027】
2.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。上記実施形態の場合、膜応力によって中央部分が前記基板12表面から凸となる山形状を有する配線部22を形成する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。
【0028】
変形例に係る配線部22の製造方法について、
図5を参照して説明する。まず、SiO
2基板31上に、熱硬化性樹脂を塗布し、熱硬化温度よりも低い仮硬化温度で加熱し、仮硬化樹脂層13Bを形成する(
図5A)。次いで
図5Bに示すようにホトレジスト32を選択的に形成する。その後、
図5Cに示すように、スパッタ法により金属膜34を形成する。次いで、ホトレジスト32をアセトンなどの有機溶媒を用いて除去する。同時にホトレジスト32上に形成された金属膜34もリフトオフにより除去される(
図5D)。形成された開口部36の仮硬化樹脂層13Bを例えばフッ酸によるエッチングにより除去して溝38を形成することにより、仮硬化表面層13Cが得られる(
図5E)。最後に熱硬化温度より高い本硬化温度で加熱する。そうすると仮硬化表面層13Cが硬化することにより、表面層13が得られる。同時に、仮硬化表面層13Cが硬化する際の熱収縮により、中央部分が前記基板12表面から凸となる山形状を有し両持ち梁構造の配線部22を得ることができる(
図5F)。
【0029】
別の変形例に係る配線部22の製造方法について、
図6を参照して説明する。まず、SiO
2基板31上に熱硬化性樹脂で凸部40を形成する(
図6A)。次いで、凸部40を含むSiO
2基板31を覆うように熱硬化性樹脂で山形状部41を有する表面層13Dを形成する(
図6B)。次いで
図6Cに示すようにホトレジスト32を選択的に形成する。その後、
図6Dに示すように、スパッタ法により金属膜34を形成する。次いで、ホトレジスト32をアセトンなどの有機溶媒を用いて除去する。同時にホトレジスト32上に形成された金属膜34もリフトオフにより除去する(
図6E)。最後に、形成された開口部36の表面層13Dを例えばフッ酸によるエッチングにより除去して溝38を形成する(
図6F)。そうすると、凸部に沿って中央部分が前記基板12表面から凸となる山形状を有し両持ち梁構造の配線部22を得ることができる。
【0030】
上記実施形態、変形例、及び別の変形例に係る製造方法は、適宜組み合わせてもよい。例えば、実施形態と別の変形例、変形例と別の変形例の組み合わせにより、配線部22を製造することとしてもよい。
【0031】
上述したとおり、フローセンサ10は、抵抗体20に含まれる配線部22の中央部分が基板12表面から凸となる山形状を有することによって、流路(
図2、参照符号28)内の気体を効率的に加熱できるという効果が得られる。配線部22の中央部分を、より確実に山形状として所望の効果が十分に発揮されるように、抵抗体20に含まれる接続部24、短絡部26および配線部22を適宜変更することができる。
【0032】
例えば、
図7Aの変形例(1)に示すフローセンサ10Aのように、台形状の接続部24Aと、接続部24A側の幅が広い
配線部26Aとを、基板12A上に設けることができる。接続部24Aは、電極21側を下底とする等脚台形状である。
配線部26Aは、直線部26Aaと、拡幅部26Abとを含む。拡幅部26Abは、一方の側が傾斜することによって、直線部26Aaと接続部24Aとの間で接続部24A側に向けて徐々に拡幅している。これにより、
配線部26Aの幅は、接続部24
A側が最も大きく、徐々に減少した後に一定になっている。
【0033】
フローセンサ10Aは、台形状の接続部24Aと接続部24A側の幅が広い
配線部26Aとが基板12A上に設けられている
。接続部24Aから配線部の中央部分に向けて先細りの形状となる。これによって配線部の中央部分が曲がり易くなり、配線部の中央部分が基板12A表面から凸となる山形状を、より確実に得ることができる。
【0034】
図7Bの変形例(2)に示すフローセンサ10Bのように、直線部26Baと拡幅部26Bbとを含む
配線部26Bを設けることもできる。拡幅部26Bbは、直線部26Baと接続部24との間で接続部24側に向けて徐々に拡幅している。同様の拡幅部26Bbを、梯子形状の短絡部26と接続部24との間に2つ配置して、短絡部26Cを構成することもできる。接続部24と電極21との間には、3つの直線部26Baを設けて短絡部26Dを構成してもよい。
【0035】
フローセンサ10Bは、接続部24側の幅が広い
配線部26B,
短絡部26Cが基板12Bに設けられている。短絡
部26Cには配線部(図示せず)が接続されているので、接続部24から配線部の中央部分に向けて先細りの形状となる。これによって配線部の中央部分が曲がり易くなり、配線部の中央部分が基板12B表面から凸となる山形状を、より確実に得ることができる。3つの直線部26Baを含む短絡部26Dが電極21と接続部24との間に設けられていることも、配線部の中央部分が山形状となるのを促進する。
【0036】
配線部22は、上面視において、一端から他端までの太さが均一でなくてもよい。
図8Aに示す変形例(1)の配線部22Aのように、両端22Aaから中央領域22Abにかけて幅が減少する中細り形状であってもよい。また、
図8Bに示す変形例(2)の配線部22Bのように、両端22Baから中央領域22Bbにかけて幅が増加する中太り形状としてもよい。
【0037】
配線部22A,22Bは、両端部22Aa、22Baと中央領域22Ab,22Bbとの幅が異なっているので、配線部22A,22Bに与えられた力は、幅の細い部分に集中する。配線部22Aでは、中央領域22Abが曲がり易く、配線部22Bでは両端22Baが曲がり易い。これによって、配線部22A,22Bは、中央部分が基板(図示せず)から凸となる山形状をより確実に得ることができる。
【0038】
図9に示す変形例(3)の配線部22Cのように、2層の膜の積層構造としてもよい。配線部22Cは、内部に作用する応力が異なる2層の膜22Ca,22Cbを含む。具体的には、配線部22Cは、圧縮応力が作用する第1の膜22Caの上に、引張り応力が作用する第2の膜22Cbが積層されている。第1の膜22Caおよび第2の膜22Cbは、材料を適宜組み合わせて形成することができる。例えば、第1の膜22CaとしてSiO
2を用いる場合には、第2の膜22Cbには、Ptを用いることができる。
【0039】
配線部22Cの下層を構成している第1の層22Caには、矢印A1,A2で示されるように両端から内側に向かう圧縮応力が作用する。一方、配線部22Cの上層を構成している第2の層22Cbには、矢印B1,B2で示されるように内側から両端に向かう引張り応力が作用する。配線部22Cは、下層に圧縮応力が作用し、上層には引張り応力が作用することから、中央部分が基板(図示せず)から凸となる山形状をより確実に得ることができる。
【0040】
フローセンサ10Aに示した台形状の接続部24Aは、フローセンサ10Bに示した短絡
部26C,26Dのいずれかと組み合わせることができる。短絡
部26C,26Dには、幅の変化している配線部(配線部22Aまたは配線部22B)を接続してもよい。この場合の配線部は、配線部22Cのように、圧縮応力が作用する第1の膜22Caの上に、引張り応力が作用する第2の膜22Cbを積層して構成することもできる。