(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842625
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】家禽油の製法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/02 20060101AFI20210308BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
A23D9/02
A23D9/00 518
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-12749(P2017-12749)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2017-131222(P2017-131222A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年1月18日
【審判番号】不服2019-17836(P2019-17836/J1)
【審判請求日】2019年12月31日
(31)【優先権主張番号】105102528
(32)【優先日】2016年1月27日
(33)【優先権主張国】TW
(31)【優先権主張番号】105116870
(32)【優先日】2016年5月30日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517029510
【氏名又は名称】ホアン カイノン
(74)【代理人】
【識別番号】100088063
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 康治
(72)【発明者】
【氏名】ホアン カイノン
(72)【発明者】
【氏名】タン ホエイピン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン リーヤン
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
瀬良 聡機
【審判官】
関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭46−31880(JP,B1)
【文献】
特開2006−124424(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/086565(WO,A1)
【文献】
食用油脂の分別,日本油化学会誌 第47巻,第6号,1998年,p.553−561
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D7/00-9/06
C11B1/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家禽油用の加工方法であって、
粗家禽油を11℃〜19℃において、液状の油及び固体状の油を含む混合物を形成し、そ
れから、11℃〜19℃の温度で前記液状の油を採取することを含み、
前記粗家禽油が11℃〜19℃の温度で攪拌され、前記液状の油及び固体状の油を含む混
合物を形成し、
前記液状の油及び固体状の油を含む混合物がフィルターバッグに充填され、5〜500r
pmの速度で遠心分離されて前記液状の油を採取し、前記フィルターの細孔径が0.02
〜0.20mmである、
家禽油用の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家禽油(poultry oil)の製法であって、周囲室温での凝集沈殿が無い、液体状態のままである好ましい外観を有する加工油を得るためのもので、加工鶏油(chicken oil)が元の粗鶏油(crude chicken oil)と比較して異なる脂肪酸比率を示すものに関する。
【0002】
【背景技術】
【0003】
一般に、鶏の脂肪組織は、揚げたり、又は煮たりして、滓や水を除去し、粗鶏油として知られる従来の鶏油を得ることができる。しかしながら、従来より、粗鶏油は、食用油として提供されることはほとんど無い。それは、周囲温度で、いくらかの固体状の油(β型)の沈殿物(凝集沈殿物)を有するように思われていたし、沈殿物は、通常、商業的に好ましくない印象をもたらし得る。更に、粗鶏油は、飽和脂肪酸(SFA)と一価不飽和脂肪酸(MUFA)と多価不飽和脂肪酸(PUFA)を、約1:1.5:0.6の比率で有するように思われていた(Wei et al., Food Science 2012; 33(16): 188-193頁, Rondelli et al., Brazilian Journal of Poultry Science. 2004; 6(3):171-175頁)。粗鶏油の脂肪酸は、公衆衛生にほとんど利益を与えない。それ故に、鶏は世界中で最も消費される肉であるが、鶏脂又は粗鶏油は、食用油の原料ではなく、動物飼料として通常使用されており、他の粗家禽油(crude poultry oil)の状況も全く同じである。
【0004】
このことを踏まえ、粗鶏油などの粗家禽油用の加工方法を提供し、周囲室温でほとんど又はほぼ凝集沈殿の無い加工油を得て、商業的にその見栄えを改善することが必要である。更に、改善された脂肪酸比率を有する加工鶏油を示すことや、公衆衛生により多くの利益をもたらすことは、別のプラスになるだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、粗家禽を処理する方法を提供して、周囲室温で、より良い外観で、液体で、そして非凝集沈殿を備えた加工家禽油を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、家禽油用の加工方法であって、低恒温に粗家禽油を入れて、液体と固体の混合油を形成し、液状の油を採取することを含む方法を開示する。温度は、13℃から17℃の間にセットされ、許容誤差は±2℃である。
【0007】
示される好ましい形態では、粗家禽油は、液体/固体の懸濁粗家禽油の形成を助ける温度で攪拌される。例えば、粗家禽油は、液体と固体の混合油の形成を助けるため、5rpmで12時間以上攪拌された。
【0008】
示される好ましい形態では、上記低温処理から液状の油が採取された。例えば、処理された粗家禽油は、フィルターバッグ(平均細孔径0.05mm)に充填され、80rpmで20分間遠心分離され、液状の油を得た。この液状の油は、加工家禽油としても知られる。
【0009】
本発明は、図示でより多くを包括することになるが、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、加工鶏油(A:澄んだ又は透明)で、粗鶏油(B:濁った又は凝集沈殿)を示す。
【
図2】
図2は、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析された鶏油の典型例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図2では、鶏油の脂肪酸の分析は、台湾衛生福利部食品薬物管理署(FDA)の提案する方法(NFS−0961800343)のとおりになされ、島津製GCモデル2010によるFID検出器を備えたHP−88カラム(アジレント製;100m×0.25mmの内径で0.2μmのフィルム厚さ)を用いた。ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析された鶏油の典型例を
図2に例示した。
【0012】
発明の詳細な説明
家禽油を得るために、家禽の脂肪組織を揚げたり、又は煮たりして、滓又は水の不純物を除去し、粗家禽油を得た。この加工は当業者に理解され得る。本発明で言及される家禽は、鶏、鴨、ガチョウ、及びダチョウからなると定義され、鶏油はその一例である。
【実施例】
【0013】
本発明において、一実施例の、50リットルの粗鶏油が、ステンレスポット(直径×高さ=60×85cm)に入れられた。ポットは、個々に、13℃又は17℃±2℃の温度の低温室に入れられた。ポットの壁上に形成される固体状の油により、良好な断熱材として作用し、そして他の油の相転移を妨害するので、その油は、シリコンパッド付きのパドルで、5rpmの速度で12時間以上、ポット壁上に形成される固体状の油を防止するように攪拌され、固体と液体の混合油の均一な形成を確実にする。
【0014】
それから、液状の鶏油が上記混合油から採取された。例えば、混合油は、低温度で12時間以上放置して、固体状の油を沈殿させ、その上の液状の油をデカント(decantation:傾斜法)したり、又は、直接収集したりすることができる。本発明では、低温処理された油は、フィルターバッグに充填されて加工鶏油を得る。効果的な例は、油を、0.05mmの細孔径を有するナイロンバッグを使用して80rpmで20分間遠心分離し、加工鶏油として知られる液状の油を採取することであった。この低温処理方法や液体油の採取プロセスは、鶏油に良好なだけでなく、その他の家禽油にも良好である。
【0015】
低温処理方法の有効性や、加工鶏油の脂肪酸の組成(SFA:MUFA:PUFA)を明らかにするために、以下の試験がなされる。
【0016】
粗鶏油が、個々に、25±0.5℃(グループA0)、21±0.5℃(グループA1)、17±0.5℃(グループA2)、13±0.5℃(グループA3)、そして9±0.5℃(グループA4)にセットされた温度を有する低温室に置かれ、5rpmで12時間以上絶え間なく攪拌する。
【0017】
グループA0−A4の低温処理された油が、個々に、収集され、0.05mmの細孔径を有するナイロンバッグを使用して80rpmで20分間遠心分離され、そして液状の油が収集され、GCによって分析された。
【0018】
加工鶏油の脂肪酸の分析結果を表1に示した。
【表1】
【0019】
加工された鶏油の回収率(%)(=Wt1/Wt2×100)は、表1に示されるとおり、加工鶏油(重量:Wt1)と粗鶏油(重量:Wt2)の重量比である。9℃の処理油で収集された液体の油は無く、脂肪酸は検出されなかった。
【0020】
粗鶏油の脂肪酸比率(1:1.5:0.6)は、加工油と比較したが、グループA2、A3の脂肪酸比率は、粗鶏油とは著しく相違する(分散分析(Anova)、p<0.05)。これら二つの油は、Hayesら(Asia Pac J Clin Nutr. 2002; 11 Suppl 7: S394-400)によって示唆される脂肪酸比率(SFA:MUFA:PUFA=1:1.5:1)に類似する。グループA3の加工鶏油は、Hayesの示唆する比率に最も類似した、又は僅かな差異の脂肪酸比率を有する(分散分析(Anova)、p>0.05)。
【0021】
上記脂肪酸の分析によれば、パルミチン酸及び/又はオレイン酸を有する、SFA又はMUFAを有する粗鶏油の一部は、低温(13℃と17℃の間)で、β型(固体状の油)に変わる傾向がある。しかしながら、PUFAを有する油の多くが、α型(液体状の油)のままであった。このような現象は、加工鶏油を粗鶏油よりも高いPUFAを有する異なる脂肪酸比率を有するように導くように思われた。
【0022】
更に、Simopoulosは、n−6:n−3の良好な必須脂肪酸比率が、10:1と25:1の間であることを示唆した(Simopoulos et al. Poult Sci. 2000 Jul; 79(7): 961-70)。グループA3の加工鶏油のn−6:n−3の必須脂肪酸比率は12:1であり、Simopoulosによって示唆される比率を満たす。Simopoulosの報告によれば、n−3の脂肪酸は、心臓血管疾患の予防や管理で利益を与える。
【0023】
本出願人は、鴨、ガチョウ、又はダチョウからの加工家禽油が、参考文献にしたがって、より健康な脂肪酸比率を示すことを見い出さなかったが、加工油は、周囲室温で、澄んで透明な外観を示した。
【0024】
結論的に、本開示による家禽油用の加工方法によって、加工家禽油は、周囲室温で、凝集も沈殿も示すことは無かった。この透明で非凝集性の外観は、商業的目的にとって良好である。更に、加工鶏油は粗鶏油とは異なる脂肪酸の比率を有し、加工鶏油の、この脂肪酸の変化は、HayesやSimopoulosが報告するとおり、人間に健康的な利益をもたらす。明らかに、本発明は、健康的な食用油として、加工鶏油の利用のための新しい門戸を開くものである。
【0025】
本発明は、その現在好ましい実施形態を参照して詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲で述べられているとおり、本発明の趣旨や権利範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされることは、当業者によって理解されよう。