【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 http://ieee−icm2017.org、平成29年2月13日 IEEE−ICM 2017 AUSTRALIA International Conference on Mechatronics,Federation University (Northways Road Churchill,3842, Australia)平成29年2月13日(平成29年2月13日〜平成29年2月15日) http://www2.iee.or.jp/▲〜▼diic/samcon/、平成29年3月6日 電気学会 SAMCON2017 国立大学法人長岡技術科学大学(新潟県長岡市上富岡町1603−1)平成29年3月7日(平成29年3月6日〜平成29年3月8日) 平成29年 電気学会全国大会 講演論文集DVD−ROM、平成29年3月5日 平成29年 電気学会全国大会 国立大学法人富山大学 五福キャンパス(富山県富山市五福3190)平成29年3月15日(平成29年3月15日〜平成29年3月17日)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記減速機の出力軸に発生させる加速度の目標値である加速度指令値と、前記モータの回転速度及び前記出力値から算出された前記減速機の出力軸の外乱トルクの推定値とに基づいて前記トルク指令値を算出する負荷側加速度制御部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
前記トルク指令値をステップ関数状に変化させたときの前記電流指令値の過渡応答特性が、2次の伝達関数にステップ関数を入力したときの該伝達関数の出力の過渡応答特性である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)本発明の第1実施形態のモータ装置の構成
図1に示すように、第1実施形態のモータ装置1は、モータ2と、モータ2の出力軸(図示しない)の一端に接続された減速機3と、モータ2の出力軸の他端に接続されたロータリエンコーダ4と、モータ2、減速機3及びロータリエンコーダ4とそれぞれ配線7a、7b、7cを介して接続されたモータ制御装置5を備えている。
図1では、便宜上、配線7a、7b、7cを1本の線として示している。配線7a、7b、7cは、例えば入力用の配線と出力用の配線などのように複数本の配線を有していてもよい。
【0013】
モータ2は、配線7aを介してモータ制御装置5に接続されている。モータ制御装置5から配線7aを介してモータ2に電流が供給されると、供給された電流の大きさに応じてモータ2は出力軸を回転させ、ねじりトルクを出力軸に発生させる。このねじりトルクによって減速機3が駆動される。モータ2は、本実施形態の場合、DCモータであるが、特に限定されない。
【0014】
減速機3は、出力軸6とトルクセンサ8と減速機構10とを備えている。減速機構10は、一端がモータ2の出力軸に接続され、他端が出力軸6に接続されている。減速機構10は、モータ2の出力軸の回転速度とねじりトルクの大きさとを減速比に応じて変換する。減速機構10がモータ2によって駆動されると、出力軸6が回転し、出力軸6にねじりトルクが発生する。
【0015】
出力軸6の先端は、例えばロボットのアームのような負荷を接続できるようになされている。出力軸6に生じたねじりトルクによって、出力軸6に接続された負荷が駆動される。
【0016】
トルクセンサ8は、出力軸6に設置されている。トルクセンサ8は、出力軸6に生じたねじりトルクを測定する。トルクセンサ8は、ねじりトルクの測定値を出力値として出力する。なお、トルクセンサ8は、出力軸6に生じるねじりトルクを測定することができれば、その設置位置については特に限定されない。本実施形態の減速機3の詳細な構造は後述する。
【0017】
ロータリエンコーダ4は、モータ2の出力軸の位置、すなわち、所定の基準点からの出力軸の回転角度を検出し、電気信号に変換して出力する。
【0018】
モータ制御装置5は、配線7aを介してモータ2に電流を供給する。モータ制御装置5は、トルクセンサ8の出力値を、配線7bを介して受け取る。モータ制御装置5は、配線7cを介してロータリエンコーダ4から出力されたモータ2の位置応答値を受け取る。
【0019】
モータ制御装置5は、トルク指令値が入力されると、減速機3の出力軸6に発生するねじりトルクがトルク指令値に追従するように、モータ2を制御する。すなわち、モータ制御装置5は、トルク指令値とトルクセンサ8の出力値とに基づいて算出した電流指令値をモータ2に出力してモータ2を駆動して、ねじりトルクの大きさを制御する。ここでは、電流指令値をモータ2に出力するということは、電流指令値に応じた直流電流をモータ2に供給することを意味している。
【0020】
ここで、減速機3の構造についてさらに説明する。
図2に示すように、減速機3は、出力軸6と、トルクセンサ8と、減速機構10と、出力軸6の一部及び減速機構10を収容する筐体12と、出力軸6を筐体12に対して回転自在に支持するベアリング13と、ベアリング13上に設けられた軸カバー14とを備えている。
【0021】
減速機構10は、波動歯車機構であり、モータ2の出力軸2aの先端に接続されたウエーブジェネレータ10aと、薄肉の金属でカップ形状に形成されて弾性を有し、当該カップの開口部10dの外側面にギア歯(図示せず)が設けられたフレクスプライン10bと、当該フレクスプライン10bのギア歯と噛み合うギア歯(図示せず)が内側面に設けられたサーキュラスプライン10cとを備えている。
【0022】
ウエーブジェネレータ10aは、楕円状カムとカムの外周に配置されたボールベアリングとでなり、ボールベアリングの内輪がカムに固定され、ボールベアリングの外輪がボールを介して弾性変形する部品である。ウエーブジェネレータ10aは、モータ2の筐体(図示せず)に固定されたベアリング16に支持された出力軸2aの先端に、ねじ11dによって固定されている。ウエーブジェネレータ10aはフレクスプライン10bに挿入されている。
【0023】
フレクスプライン10bは、出力軸6の一端がねじ11aよって底部15に固定されており、フレクスプライン10bが回転すると出力軸6も回転するようになされている。
【0024】
サーキュラスプライン10cは、リング状に形成された剛体であり、ねじ11bによって筐体12の内側面に固定されている。サーキュラスプライン10cは、フレクスプライン10bのギア歯よりも多くのギア歯を有している。このようにして減速機構10は筐体12内に収容されている。
【0025】
ウエーブジェネレータ10aがフレクスプライン10bの開口部10dに挿入された状態では、フレクスプライン10bの開口部10dが楕円形状に変形し、楕円形になったフレクスプライン10bの開口部10dの長軸方向の頂点にあるギア歯がサーキュラスプライン10cのギア歯と噛み合う。その状態でウエーブジェネレータ10aが回転すると、フレクスプライン10bは、弾性変形しながらフレクスプライン10bのギア歯がサーキュラスプライン10cのギア歯と噛み合う位置がウエーブジェネレータ10aの回転に伴って移動する。
【0026】
ウエーブジェネレータ10aが時計回りに1回転して初期位置に戻ると、サーキュラスプライン10cとのギア歯の差分だけフレクスプライン10bのギア歯がサーキュラスプライン10cのギア歯と噛み合う位置が反時計回りに初期位置からずれる。すなわち、フレクスプライン10bは、ギア歯の差分だけ初期位置から反時計回りに回転する。このように、ウエーブジェネレータ10aが時計回りに1回転しても、フレクスプライン10bは反時計回りにギア歯の差分しか回転せず、フレクスプライン10bに接続された出力軸6の回転速度が、モータ2の出力軸の回転速度に対して減速する。
【0027】
本実施形態では、減速機構10として波動歯車機構を用いたが、減速機構10は特に限定されず、減速機構10として例えばバックラッシが極少の減速機構など他の機構を用いてもよい。
【0028】
フレクスプライン10bの底部15近傍にある出力軸6と筐体12との間の空間には、オイルシール25が設けられている。オイルシール25は、筐体12に固定されていると共に、出力軸6に接触しており、出力軸6と筐体12との間の空間をシールし、減速機構10側のオイルが筐体12内に飛散するのを防いでいる。
【0029】
出力軸6は、円柱形状をしており、減速機構10に接続された一端が筐体12に収容されており、他端が負荷を取り付けられるように筐体12から突出している。
【0030】
出力軸6は、径が他の部分よりも小さく形成された起歪部6aと、起歪部6aよりもモータ2側に形成され、出力軸6から鍔状にせりだした円板形状の鍔部6bとを有している。起歪部6aには、歪ゲージ18が貼着されている。起歪部6aは、出力軸6の長手方向には強度を有していて変形しないが、径が他の部分よりも小さく形成されているため、ねじれ方向には、変形する。その結果、歪ゲージ18は、起歪部6aに生じるねじれ(せん断歪み)によって歪み、歪ゲージ18のせん断歪み量に応じた抵抗変化を生じる。
【0031】
鍔部6bには、基板19が基板固定支柱20によって固定されている。基板19はリング状の円板である。基板19は、第1基板19aと第2基板19bとでなり、第1基板19aの表面には歪ゲージ18に結線されたトルク検出回路29が設けられている。なお、基板19は、円形状であることが好ましいが、多角形状であってもよい。
【0032】
トルク検出回路29は、出力軸6に配置された歪ゲージ18の抵抗変化を検出する例えばホイートストンブリッジ回路などの抵抗変化検出回路と、抵抗変化検出回路の出力をデジタル信号に変換するAD変換器と、このデジタル信号を処理するCPUと、整流回路と、安定化回路と(いずれも
図2には不図示)を備えている。
【0033】
トルク検出回路29は、デジタル信号に変換された抵抗変化検出回路の出力電圧信号から歪ゲージ18に生じた抵抗変化を検出することで、歪ゲージ18に掛かるせん断歪み量を測定でき、出力軸6に生じるねじりトルクを算出できる。
【0034】
CPUは、デジタル信号に変換された抵抗変化検出回路の出力電圧信号に基づいてねじりトルクの測定値を算出し送信部27へ送出する。
【0035】
本実施形態の場合、歪ゲージ18は、起歪部6aの外周面に90°間隔で4枚貼着されており、抵抗変化検出回路は、4枚の歪ゲージ18で構成されたホイートストンブリッジ回路である。このように構成することで、出力軸6に生じたせん断歪みを確実に検出でき、歪ゲージ18に生じた微小な抵抗変化を検出できるので、より確実にねじりトルクを検出できる。
【0036】
なお、歪ゲージ18の枚数及び抵抗変化検出回路の構成は、上述の様にするのが望ましいが、特に限定されない。
【0037】
第2基板19bの表面には、トルク検出回路29に結線され、トルク検出回路29から送出されたねじりトルク測定値の信号を無線で送信する送信部27が設けられている。送信部27は、ねじりトルクの測定値の信号をデジタル変調するデジタル変調回路(不図示)と、デジタル変調回路から出力されたデジタル変調信号に応じて赤外光を発光して当該デジタル変調信号を光信号に変換するLEDなどの発光素子(不図示)とを備えている。
【0038】
筐体12に固定された筐体基板24には、送信部27から送信された光信号を受信する受信部28が送信部27と対向する位置に設けられており、送信部27及び受信部28間で赤外線通信などの無線通信ができるようになされている。
【0039】
受信部28は、送信部27が発した赤外光を受光して光信号を電気信号(すなわち、送信部27で光信号に変換される前のデジタル変調信号)に変換するフォトダイオードなどの受光素子(不図示)と、電気信号に変換したデジタル変調信号からねじりトルクの測定値の信号をデジタル復調によって取り出すデジタル復調回路(不図示)とを備えている。
【0040】
デジタル復調回路は配線7b(
図2には不図示)に接続されており、モータ制御装置5にねじりトルクの測定値に対応した信号を出力値として送出する。
【0041】
トルク検出回路29及び送信部27は、出力軸6と共に基板19が回転するときにトルク検出回路29及び送信部27に掛かる遠心力の影響が出力軸6に及びにくいように、トルク検出回路29及び送信部27を構成する電子部品が配置されている。
【0042】
本実施形態の場合、基板19は、第1基板19aと第2基板19bとの2枚の基板で構成されているが、基板の枚数は特に限定されず、1枚の基板で構成されていてもよく、3枚以上の基板で構成されていてもよい。特に、基板19が基板1枚で構成されている場合は、出力軸6の長さを短くでき、減速機3を小型化できるので好ましい。
【0043】
さらに、出力軸6には、例えばフェライトシートなどの磁性体シートでなり、出力軸6の側面を覆う2次側コア21aと、2次側コア21aの表面に例えば銅線などの導電性の線材を巻回して形成された2次コイル21bとを備える受電部21が設けられている。
【0044】
筐体基板24には、受電部21と対向する位置にコアホルダ23が固定されている。コアホルダ23は、送電部22を保持している。送電部22は、直方体形状の部材と、当該部材の長軸方向の両端で直方体の表面に垂直に同じ方向に突出した突部とを有する形状(断面形状がコ字型)をしており、例えばフェライトなどの磁性体で作られている1次側コア22aと、1次側コア22aの2つの突部間に例えば銅線などの導電性の線材を直方体形状の部材に巻回して形成された1次コイル22bとを備えている。
【0045】
筐体基板24には、配線7b(
図2には不図示)を介してモータ制御装置5(
図2には不図示)と接続された図示しないスイッチング回路が設けられている。当該スイッチング回路は、モータ制御装置5から供給された直流電流を交流電流に変換している。スイッチング回路は、送電部22と結線されており、変換した交流電流を送電部22へ出力する。なお、モータ制御装置5によって交流電流が供給される場合は、スイッチング回路は不要である。
【0046】
送電部22は、供給された交流電流を1次コイル22bに流し、1次コイル22bに交流磁界を発生させ、受電部21の2次コイル21bに電流を誘起する。よって、2次コイル21bが1次コイル22bから非接触で電力を受電できる。
【0047】
受電部21は、2次コイル21bに誘起された交流電流をトルク検出回路29に供給する。トルク検出回路29は、供給された交流電圧を整流回路と安定化回路とによって直流電圧へと変換し、抵抗変化検出回路などに配線(
図2には不図示)を介して供給する。
【0048】
出力軸6を筐体12に対して回転自在に支持するベアリング13は、接続部26を介して筐体12に設けられている。接続部26は、中心に穴が形成されており、当該穴内に出力軸6の鍔部6bが配置され、接続部26の穴の内側面26aと鍔部6bとが所定の間隔を空けて対向するように、筐体12に固定されている。
【0049】
本実施形態の場合、ベアリング13は、クロスローラベアリングであり、外輪13aと、内輪13bと、円筒形状のコロ13cとを備えている。ベアリング13は、外輪13aが接続部26に固定され、内輪13bがねじ11cによって鍔部6bに固定されることで、出力軸6が筐体12に対して自在に回転できるように出力軸6を支持している。
【0050】
軸カバー14は、ねじ11eによってベアリング13の外輪13aに固定されており、中心に穴が形成されている。当該穴は、軸カバー14をベアリング13に固定したとき、穴の内側面と出力軸6とが接触しない程度の大きさに形成されている。
【0051】
本実施形態の減速機3では、トルクセンサ8は、上述の歪ゲージ18とトルク検出回路29と送信部27と受信部28と復調回路と受電部21と送電部22とで構成されている。トルクセンサ8の構成は、出力軸6に生じたねじりトルクを測定できれば、特に限定されない。
【0052】
(2)本発明の第1実施形態のモータ制御装置の構成
次いで、第1実施形態のモータ制御装置5について、
図3に示すブロック線
図30を用いて説明する。モータ2及び減速機3は、出力軸6が弾性を有していたり、減速機構10のギア歯が弾性結合していたりするなどのために、所定の共振周波数で振動する機械共振系である。そのため、モータ2及び減速機3を二慣性共振系の近似化モデルで表すことができる。よって
図3では、便宜的に、モータ2及び減速機3を、二慣性共振系の近似化モデルを用いて表している。
【0053】
また、
図3に示すモータ制御装置5の各構成要素は、モータ2を制御する機能に着目して便宜的にモータ制御装置5の内部を分類したものであり、各構成要素が物理的に分割可能である必要はない。モータ制御装置5は、LSIなどを用いたハードウェアによって実現してもよく、コンピュータープログラムを用いたソフトウェアによって実現してもよい。
【0054】
まずは、二慣性共振系の近似化モデルを用いて表したモータ2及び減速機3について説明する。本実施形態のモデルのモータ2は、K
tをゲインに有する乗算器2bと、1/J
mをゲインに有する乗算器2dと、D
mをゲインに有する乗算器2gと、減算器2cと、加算器2hと、2つの積分器2e、2fとで構成される。図中の、K
tはトルク定数であり、J
mはモータ2の慣性モーメントであり、D
mはモータ2の粘性摩擦係数であり、sはラプラス演算子である。
【0055】
本実施形態のモデルでは、電流指令値i
qと、減速機3からモータ2の出力軸2a(
図3には不図示)が受けるトルクの値であるトルク応答値とがモータ2に入力され、出力軸2aの回転速度を表す速度応答値ω
mと出力軸2aの回転角度を表す位置応答値θ
mとがモータ2から出力されるように表されている。
【0056】
モータ2に入力された電流指令値i
qは、乗算器2bにおいてトルク定数K
tを乗算され、電流指令値i
qに応じたトルク値に変換される。当該トルク値は、減算器2cにおいて、後述するモータ2の外乱トルクτ
mdisを減算される。このようにして減算器2cでは、出力軸2aに生じる出力トルク値が等価的に算出される。
【0057】
出力トルク値は、乗算器2dに入力され、モータ2の出力軸2aの慣性モーメントJ
mの逆数を乗算される。乗算器2dでは、出力軸2aに生じる加速度を表す加速度応答値α
mが等価的に算出される。加速度応答値α
mは、積分器2eに入力され、積分される。積分器2eでは、速度応答値ω
mが等価的に算出される。
【0058】
速度応答値ω
mは積分器2fに入力されて積分される。積分器2fでは、位置応答値θ
mが等価的に算出される。一方で、速度応答値ω
mは乗算器2gにも入力され、粘性摩擦係数D
mが乗算される。乗算器2gでは、モータ2の粘性摩擦力が等価的に算出される。粘性摩擦力は、加算器2hに入力され、前述のトルク応答値と加算される。加算器2hでは、モータ2に生じる外乱トルクτ
mdisが等価的に算出される。
【0059】
以上のように、電流指令値i
qと、減速機3からのトルク応答値とに基づいて速度応答値ω
mと位置応答値θ
mとが算出され、モータ2から出力される。
【0060】
本実施形態のモデルの減速機3の減速機構10は、減速機構10の減速比R
gの逆数をゲインに有する乗算器10e、10hと、減算器10fと、ばね定数K
sをゲインとして有する積分器10gとで構成される。
【0061】
二慣性共振系の近似化モデルでは、減速機3の出力軸6に生じるねじりトルクτ
sは、出力軸2a及び出力軸6の速度差により生じるねじり角と、モータ2及び減速機3間の機械共振振動に依存して定まるばね定数K
sとの積としてモデル化される。
【0062】
本実施形態のモデルでは、このようにしてねじりトルクを等価的に算出するため、出力軸2aの速度応答値ω
mと減速機3の出力軸6の回転速度を表す速度応答値ω
lとが減速機構10に入力されるように表されている。
【0063】
また、本実施形態のモデルでは、ねじりトルクτ
sが、出力軸6と、帯域がL
s(s)であるトルクセンサ8とに出力され、前述のトルク応答値がモータ2に出力されるように表されている。
【0064】
減速機構10へ入力された速度応答値ω
mは、乗算器10eで減速比R
gの逆数を乗算される。これは出力軸2aの回転が減速機構10で減速されることを表している。乗算器10eでは、速度応答値ω
mが減速機構10で減速後の回転速度、すなわち、出力軸6側での回転速度に変換される。
【0065】
減算器10fでは、減速後の値に変換された速度応答値ω
mから速度応答値ω
lが減算され、出力軸2aと出力軸6との速度差が算出される。
【0066】
減算器10fの出力は、積分器10gに入力され、積分されてばね定数K
sを乗算される。積分器10gでは、出力軸2aと出力軸6との速度差を積分することで出力軸2aと出力軸6とのねじり角が算出され、当該積分結果にばね定数K
sが乗算されてねじりトルクτ
sが等価的に算出される。
【0067】
算出されたねじりトルクτ
sは、減速機構10から、トルクセンサ8と出力軸6とに出力される。またねじりトルクτ
sは乗算器10hに入力されて減速比R
gの逆数を乗算される。乗算器10hは、ねじりトルクτ
sをモータ2側の値に変換し、トルク応答値を算出する。トルク応答値は、減速機構10からモータ2へ入力される。このようにして、ねじりトルクτ
sは減速機構10を介してモータ2へも伝わる。
【0068】
ねじりトルクτ
sを入力されたトルクセンサ8は、ねじりトルクτ
sの測定値として、出力値τ
s’をねじりトルク制御部31と共振比制御部32とに出力する。モデルでは、便宜上、ねじりトルクτ
sが減速機構10から出力されているように表されているが、実際には、出力軸6で発生したねじりトルクτ
sを出力軸6に設けられたトルクセンサ8で検出している。
【0069】
出力軸6は、減算器6cと、出力軸6の慣性モーメントJ
lの逆数をゲインとして有する乗算器6dと、積分器6e、6fとを有し、ねじりトルクτ
sと、出力軸6の外乱トルクτ
ldisが出力軸6に入力され、出力軸6の回転速度を表す速度応答値ω
lと出力軸6の回転角度を表す位置応答値θ
lとが出力軸6から出力されるように表されている。
【0070】
出力軸6に入力されたねじりトルクτ
sは、減算器6cで出力軸6に入力された外乱トルクτ
ldisを減算される。減算器6cでは、ねじりトルクτ
sから外乱トルクτ
ldis成分が除かれ、出力軸6に生じる出力トルク値が算出される。
【0071】
出力トルク値は、乗算器6dに入力され、出力軸6の慣性モーメントJ
lの逆数を乗算される。乗算器6dでは、出力軸6に生じる加速度を表す加速度応答値α
lが等価的に算出される。加速度応答値α
lは、積分器6eに入力され、積分される。積分器6eでは、速度応答値ω
lが等価的に算出される。
【0072】
速度応答値ω
lは出力軸6から減速機構10に出力される。一方で、速度応答値ω
lは積分器6fにも入力されて積分される。積分器6fでは、位置応答値θ
lが等価的に算出される。位置応答値θ
lは出力軸6から出力される。
【0073】
続いて本実施形態のモータ制御装置5について説明する。モータ制御装置5は、ねじりトルク制御部31と、共振比制御部32とを備え、入力されたトルク指令値τ
sref及びトルクセンサ8の出力値τ
s’に基づいて電流指令値i
qを算出し、モータ2に出力してモータ2を駆動し、減速機3の出力軸6に生じるねじりトルクτ
sをトルク指令値τ
srefに追従させる。
【0074】
本実施形態では、モータ制御装置5がモータ2へ電流指令値i
qを入力してモータ2を駆動しているが、モータ制御装置5外に設けられた外部電源を制御して電流指令値i
qに応じた電流をモータ2へ供給してもよい。
【0075】
ねじりトルク制御部31は、3つの減算器31a、31d、31gと、積分制御要素として2つの積分器31b、31eと、比例制御要素として2つの乗算器31c、31fとを含み、2つの積分制御要素、積分器31b及び積分器31eが直列に接続されている。このように本実施形態では、ねじりトルク制御部31は、いわゆるI−P−I−P制御系である。
【0076】
ねじりトルク制御部31は、図示しないトルク指令値入力部から出力されたトルク指令値τ
srefが入力され、トルクセンサ8から出力値τ
s’が入力されるように構成されている。トルク指令値入力部は、キーボードやダイヤル、プッシュボタンなどの入力手段を有し、出力軸6に発生させたいねじりトルクの値を、入力手段を介して入力できるように構成されている。トルク指令値入力部は、入力された値をトルク指令値τ
srefとして出力する。
【0077】
ねじりトルク制御部31では、トルク指令値τ
srefが、減算器31aに出力値τ
s’と共に入力される。減算器31aは、トルク指令値τ
srefから出力値τ
s’を減算し、トルク指令値τ
srefと出力値τ
s’の偏差を出力する。
【0078】
出力値τ
s’は、比例ゲインK
p1を有する乗算器31cと比例ゲインK
p2を有する乗算器31fにも入力される。乗算器31cでは出力値τ
s’に比例ゲインK
p1が乗算され、乗算器31fでは出力値τ
s’に比例ゲインK
p2が乗算される。乗算器31c、31fは、それぞれ乗算結果を出力する。
【0079】
減算器31aの出力は、積分ゲインK
iを有する積分器31bに入力されて積分される。積分器31bは、積分結果に積分ゲインK
iを乗算し、乗算結果を出力する。積分器31bの出力は、減算器31dに入力され、乗算器31cの出力が減算される。減算器31dは減算結果を出力する。
【0080】
減算器31dの出力は、積分器31eに入力される。積分器31eは、減算器31dの出力を積分し、積分結果を出力する。このように出力値τ
s’とトルク指令値τ
srefの偏差が2回積分される。積分器31eの出力は、減算器31gに入力され、乗算器31cの出力が減算されて、参照電流指令値i
qrefが算出される。参照電流指令値i
qrefは、共振比制御部32に出力される。
【0081】
このようにねじりトルク制御部31は、トルク指令値τ
srefにトルクセンサ8の出力値τ
s’をフィードバックし、トルク指令値τ
sref及び出力値τ
s’に基づいて参照電流指令値i
qrefを算出し、ねじりトルクτ
sをトルク指令値τ
srefに追従させる。
【0082】
共振比制御部32は、2つの加算器32d、32fと、βをゲインとして有する乗算器32aと、R
g−1をゲインとして有する乗算器32bと、D
mnをゲインとして有する乗算器32cと、K
tn−1(1−β)をゲインとして有する乗算器32eとを有している。ここで、βは共振比制御ゲインであり、R
gは減速機構10の減速比であり、D
mnはモータ2の粘性摩擦係数のノミナル値であり、K
tnはモータ2のトルク定数のノミナル値である。
【0083】
共振比制御部32は、ねじりトルク制御部31から参照電流指令値i
qrefが入力され、トルクセンサ8から出力値τ
s’が入力されるように構成されている。さらに共振比制御部32は、ロータリエンコーダ4(
図3には不図示)から出力された位置応答値θ
mに基づいて算出されたモータ2の速度応答値ω
mが入力されるように構成されている。なお、
図3では、便宜的に、速度応答値ω
mがモータ2から乗算器32cに直接入力されるように表されている。
【0084】
共振比制御部32では、入力された参照電流指令値i
qrefが乗算器32aに入力され、乗算器32aが、参照電流指令値i
qrefに共振比制御ゲインβを乗算し、乗算結果を出力する。入力された出力値τ
s’が乗算器32bに入力され、乗算器32bが、出力値τ
s’に減速比R
gの逆数を乗算し、乗算結果を算出する。入力された速度応答値ω
mが乗算器32cに入力され、乗算器32cが、速度応答値ω
mにモータ2の粘性摩擦係数のノミナル値D
mnを乗算し、モータ2の粘性摩擦力を算出する。乗算器32cは乗算結果を出力する。
【0085】
乗算器32b及び乗算器32cの出力は、加算器32dに入力される。加算器32dは、乗算器32bの出力と乗算器32cの出力を加算し、加算結果を出力する。加算器32dの出力は、乗算器32eに入力される。乗算器32eは、加算器32dの出力にゲインK
tn−1(1−β)を乗算し、乗算結果を出力する。
【0086】
乗算器32eの出力は、乗算器32aの出力と共に加算器32fに入力される。加算器32fは、乗算器32aの出力と乗算器32eの出力とを加算し、電流指令値i
qを算出する。共振比制御部32は、電流指令値i
qをモータ2に出力する。
【0087】
このように共振比制御部32は、出力値τ
s’とモータ2の粘性摩擦力とに基づいて参照電流指令値i
qrefを補正して、電流指令値i
qを算出し、モータ2及び減速機3の共振比を制御してモータ2及び減速機3の共振振動を抑制し、ねじりトルクτ
sの振動を抑制している。共振比制御ゲインβの値を変化させることで、モータ2及び減速機3の共振比を変え、モータ2及び減速機3の共振振動を抑制できる。
【0088】
モータ制御装置5について、
図3と同じ構成には同じ符号を付した
図4を用いてさらに説明する。
図4は、
図3からモータ制御装置5の部分のみを取り出した図である。
【0089】
モータ制御装置5は、ねじりトルク制御部31において、2つの積分器31b、31eが直列に接続され、トルク指令値τ
srefと出力値τ
s’の偏差が2回積分されるように構成されている。そのため、モータ制御装置5によって算出される電流指令値i
qは、式(1)のように表される。
【0091】
ここで、モータ制御装置5をモータ2から切り離した場合のトルク指令値τ
srefと電流指令値i
qの関係を考える。この場合、モータ2がないので、出力値τ
s’と速度応答値ω
mはともに0である。そうすると、式(1)の右辺はτ
srefの項のみとなる。入力をトルク指令値τ
srefとし、出力を電流指令値i
qとしたときの伝達関数は2次系である。そのため、トルク指令値τ
srefとしてステップ関数をモータ制御装置5に入力したときの電流指令値i
qの過渡応答が、2次の伝達関数のステップ応答の振る舞いとなる。
【0092】
例えば、モータ2とモータ制御装置5の配線7aを切断し、配線7aから出力される電流を観察すると、トルク指令値τ
srefをステップ関数状に変化させたときの電流指令値i
qの過渡応答特性が、2次の伝達関数にステップ関数を入力したときの該伝達関数の出力の過渡応答特性であることを確認できることを意味している。
【0093】
(3)作用及び効果
以上の構成において、本実施形態のモータ制御装置5は、トルク指令値τ
srefに応じてモータ2に接続された減速機3の出力軸6に発生させるねじりトルクτ
sを制御するモータ制御装置であって、トルク指令値τ
sref及びねじりトルクτ
sを測定するトルクセンサ8の出力値τ
s’に基づいて参照電流指令値i
qrefを算出するねじりトルク制御部31と、出力値τ
s’に基づいて参照電流指令値i
qrefを補正して、モータ2に出力する電流指令値i
qを算出する共振比制御部32とを備えるように構成した。
【0094】
さらにモータ制御装置5は、ねじりトルク制御部が31、2つ以上直列に接続された積分制御要素として積分器31b、31eを有しているように構成した。
【0095】
よって本実施形態のモータ制御装置5は、外乱オブザーバを用いて算出したねじりトルクの推定値をトルク指令値にフィードバックしてねじりトルクを制御する場合よりも速く、モータ2に接続された減速機3の出力軸6に生じるねじりトルクτ
sを、モータ2及び減速機3の共振振動を抑制しつつトルク指令値τ
srefに追従させることができる。
【0096】
また本実施形態のモータ制御装置5は、共振比制御部32が、出力値τ
s’とモータ2の粘性摩擦力とに基づいて参照電流指令値i
qrefを補正して、電流指令値i
qを算出している。
【0097】
よって本実施形態のモータ制御装置5は、より確実にモータ2及び減速機3の共振振動を抑制できる。
【0098】
(4)その他の実施形態
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0099】
上記の実施形態では、ねじりトルク制御部31は、I−P−I−P制御系として構成したが本発明はこれに限られない。ねじりトルク制御部は、少なくとも2つの積分制御要素が直列に接続されていればよく、積分制御要素が2つ以上直列に接続されていてもよい。この場合、出力値τ
s’とトルク指令値τ
srefの偏差が2回以上積分される。
【0100】
ねじりトルク制御部が積分制御要素を2つ以上有する場合、トルク指令値τ
srefとしてステップ関数をモータ制御装置に入力したときの電流指令値i
qの過渡応答は、直列に接続された積分制御要素の数に応じた次数の伝達関数のステップ応答の振る舞いとなる。
【0101】
このように、直列に接続された積分制御要素の数を増やすことで、変形例のモータ制御装置は、上記の実施形態のモータ制御装置5よりもノイズに強くなる。なお、本発明のモータ装置を使用する機械などがモータ装置に対して要求する性能にもよるが、直列に接続された積分制御要素の数は3つ以下であることがより望ましい。直列に接続された積分制御要素の数が2つ以上3つ以下であれば、制御系に外乱オブザーバを用いた場合よりも応答速度が速くかつノイズにも強いモータ制御装置を実現できる。
【0102】
上記の実施形態では、共振比制御部32が、出力値τ
s’とモータ2の粘性摩擦力とに基づいて参照電流指令値i
qrefを補正して、電流指令値i
qを算出するように構成したが、本発明はこれに限られず、モータ2の粘性摩擦係数のノミナル値D
mnをゼロとみなし、D
mnをゼロに設定する又はモータ制御装置5から乗算器32cを除去し、粘性摩擦力を用いずに出力値τ
s’のみを用いて参照電流指令値i
qrefを補正するようにしてもよい。
【0103】
特にモータ制御装置5から乗算器32cを除去した場合、ねじりトルク制御部31の比例ゲインK
p2を有する乗算器31fを共振比制御部32に組み込むこともできる。
図3と同じ構成には同じ符号を付した
図5に示されているブロック線
図30Aのように、このような共振比制御部32Aは、実施形態の共振比制御部32の構成要素に加えて、比例ゲインK
p2を有する乗算器31fと、共振比制御ゲインβを有する乗算器32gと、減算器32hとを有する。
【0104】
乗算器31fの出力は、乗算器32gに入力され、共振比制御ゲインβを乗算される。乗算器32gは、乗算結果を減算器32hに出力する。減算器32hは、乗算器32aと加算器32fの間に配置され、乗算器32aの出力から乗算器32gの出力を減算し、減算結果を加算器32fに出力する。
【0105】
この場合、ねじりトルク制御部31Aは、I−P−I制御系となる。なお実際には、ブロック線
図30Aのモータ制御装置5Aは、ねじりトルク制御部31が乗算器31fを有している場合と等価である。
【0106】
さらに、モータ制御装置5Aの共振比制御部32Aの乗算器31f、32b、32e、32gを統合して、
図3と同じ構成には同じ符号を付した
図6に示されているブロック線
図30Bのように、比例ゲインK
p3を有する乗算器31hとすることができる。このとき、K
p3は式(2)で表され、モータ制御装置5Bは、モータ制御装置5Aと等価である。
【0108】
この場合、
図6に示すように、モータ制御装置5Bは、見かけ上、2つの積分制御要素としての積分器31b、31eと2つの比例制御要素としての乗算器31c、31hを有するねじりトルク制御部31Bで構成される。
【0109】
乗算器31hは、入力された出力値τ
s’に、比例ゲインK
p3を乗算し、その結果を加算器32jに出力する。加算器32jは乗算器32aの出力と乗算器31hの出力とを加算し、電流指令値i
qを算出する。
【0110】
このとき、モータ2及び減速機3の共振比は、乗算器32aの共振比制御ゲインβの値と乗算器31hの比例ゲインK
p3の値とを適宜設定することで制御される。すなわち、ねじりトルク制御部31B内の乗算器32a、31hが共振比制御部として機能する。よって、モータ制御装置5Bは、ねじりトルク制御部31Bに組み込まれる形で、実質的に、共振比制御部32Bを有しているということができる。
【0111】
(5)本発明の第2実施形態のモータ装置
第2実施形態のモータ装置は、第1実施形態のモータ装置とはモータ制御装置が異なるが、他の構成は同様であるので、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0112】
図3と同じ構成には同じ番号を付した
図7は、第2実施形態のモータ制御装置45を示すブロック線
図40である。本実施形態のモータ制御装置45は、ねじりトルク制御部31と、共振比制御部32と、負荷側加速度制御部41とを有し、減速機3の出力軸6に発生させる加速度応答値α
lが、加速度応答値α
lの目標値である加速度指令値α
srefに追随するようにモータ2を制御する。
【0113】
負荷側加速度制御部41は、出力軸6の慣性モーメントのノミナル値J
lnをゲインとして有する乗算器41aと、出力軸6の外乱トルクτ
ldisを推定する外乱トルク推定要素41bと、加算器41cとを有している。負荷側加速度制御部41は、トルクセンサ8の出力値τ
s’とモータ2の回転速度を表す速度応答値ω
mと加速度指令値α
srefとが入力され、トルク指令値τ
srefを出力するように構成されている。
【0114】
乗算器41aは、入力された加速度指令値α
srefにゲインJ
lnを乗算し、加速度指令値α
srefをトルク値に変換し、加算器41cに出力する。外乱トルク推定要素41bは、モータ2の回転速度を表す速度応答値ω
m及びトルクセンサ8の出力値τ
s’が入力され、モータ2の回転速度と出力値から減速機3の出力軸6の外乱トルクτ
ldisの推定値^τ
ldisを算出し、加算器41cに出力する。モデル上、速度応答値ω
mがモータ2から外乱トルク推定要素41bに直接入力されるように表しているが、実際には、ロータリエンコーダ4(
図7には不図示)から出力された位置応答値θ
mに基づいて算出されたモータ2の速度応答値ω
mが入力されるように構成されている。
【0115】
本実施形態の場合、外乱トルク推定要素41bは、速度応答値ω
mと出力値τ
s’とから外乱トルクτ
ldisの推定値^τ
ldisを算出する外乱オブザーバである。加算器41cは、乗算器41aの出力と外乱トルク推定要素41bの出力とを加算してトルク指令値τ
slefを算出し、ねじりトルク制御部31に出力する。
【0116】
外乱トルク推定要素41bは、速度応答値ω
mと出力値τ
s’とから外乱トルクτ
ldisの推定値^τ
ldisを算出できれば特に限定されず、外乱オブザーバを用いなくてもよい。例えば、速度応答値ω
mと出力値τ
s’とから状態オブザーバを構成して出力軸6の回転速度の推定値を算出し、当該推定値から、出力軸6の慣性力と粘性摩擦力を逆動力学計算して差し引くことで、外乱トルクτ
ldisの推定値^τ
ldisを算出することができる。
【0117】
以上の構成において、本実施形態のモータ制御装置45は、トルク指令値τ
srefに応じてモータ2に接続された減速機3の出力軸6に発生させるねじりトルクτ
sを制御するモータ制御装置であって、トルク指令値τ
sref及びねじりトルクτ
sを測定するトルクセンサ8の出力値τ
s’に基づいて参照電流指令値i
qrefを算出するねじりトルク制御部31と、出力値τ
s’に基づいて参照電流指令値i
qrefを補正して、モータ2に出力する電流指令値i
qを算出する共振比制御部32とを備えるように構成した。
【0118】
そしてモータ制御装置45は、ねじりトルク制御部が31、積分制御要素として2つ以上直列に接続された積分制御要素としての積分器31b、31eを有するように構成した。
【0119】
さらにモータ制御装置45は、減速機3の出力軸6に発生させる加速度応答値α
lの目標値である加速度指令値α
srefと、モータ2の速度応答値ω
m及び出力値τ
s’から算出された減速機3の出力軸6の外乱トルクτ
ldisの推定値^τ
ldisとに基づいてトルク指令値τ
srefを算出する負荷側加速度制御部41を備えるように構成した。
【0120】
よって本実施形態のモータ制御装置5は、外乱オブザーバを用いて算出したねじりトルクの推定値をトルク指令値にフィードバックしてねじりトルクを制御する場合よりも速く、モータ2に接続された減速機3の出力軸6に生じるねじりトルクτ
sを、モータ2及び減速機3の共振振動を抑制しつつ制御できるので、その分だけ早く減速機3の出力軸6に生じる加速度応答値α
lを加速度指令値α
srefに追従させることができる。
【0121】
(実施例1)
実施例1として、第1実施形態のモータ装置1を
図3のブロック線
図30をもとにシミュレーションモデルとして作製し、シミュレーションにより、トルク指令値τ
srefをステップ関数状に変化させたときの、出力軸6に発生するねじりトルクτ
sの応答特性を解析した。
【0122】
ブロック線
図30をもとに、トルク指令値τ
srefを入力、ねじりトルクτ
sを出力としたときの制御系の伝達関数を導出すると、下記の式(3)として表される。
【0125】
式(4a)、式(4b)、式(4c)、式(4d)は式(3)の各係数を表している。
【0126】
次に、共振比制御ゲインβ、積分ゲインK
i、比例ゲインK
p1、K
p2の値を決める。式(4a)から(4d)の他の係数はモータや減速機などによって所与の値であるので、これらの値を決めることで、伝達関数のパラメータが定まり、上記式(3)の伝達関数の特性が決まる。よって、逆に、式(3)の伝達関数に持たせたい所望の特性をあらかじめ設定し、その特性を有する伝達関数のパラメータを定め、当該パラメータから、その特性を実現するために必要な共振比制御ゲインβ、積分ゲインK
i、比例ゲインK
p1、K
p2の値を決定することができる。ただし、設定する所望の伝達関数は式(3)の伝達関数と次数を合わせる必要がある。
【0127】
このとき、所望の特性を有する伝達関数がバターワースフィルタ又はベッセルフィルタとなるようすることが望ましい。バターワースフィルタ又はベッセルフィルタは、ステップ入力に対して出力が振動少なく定常値に達する過渡応答特性を有しているので、式(3)の伝達関数もこのような特性を有するようになり、望ましい。式(3)の伝達関数がバターワースフィルタ又はベッセルフィルタの伝達関数となるように、共振比制御ゲインβ、積分ゲインK
i、比例ゲインK
p1、K
p2の値を決定することで、ねじりトルクτ
sの値が、振動することが抑制され、トルク指令値τ
srefの値に素早く追従するようになる。
【0128】
とくに、式(3)の伝達関数がベッセルフィルタの伝達関数となるようにすることが望ましい。ベッセルフィルタは、ステップ入力に対する出力の立ち上がりがバターワースフィルタよりも急峻で、出力がオーバーシュートすることなく定常値に達するからである。式(3)の伝達関数がベッセルフィルタの伝達関数となるようにすることで、ねじりトルクτ
sの値が、オーバーシュートすることなく、そして、素早くトルク指令値τ
srefの値に追従するようになる。
【0129】
今回は、所望の伝達関数を式(5)で表される伝達関数に設定した。
【0131】
式(5)であらわされる伝達関数は、2次のローパスフィルタを直列に2つ接続したフィルタの伝達関数と等価である。ここで、ω
1、ω
2は制御帯域、ζ
1、ζ
2は制動係数であり、適宜設定することができる。これらの係数を変えることで、フィルタの特性を変えることができ、式(5)の伝達関数をバターワースフィルタやベッセルフィルタの伝達関数にできる。
【0132】
続いて式(3)、式(4a)から式(4d)と、式(5)の係数を比較して共振比制御ゲインβ、積分ゲインK
i、比例ゲインK
p1、K
p2の値を計算すると、以下の式(6)、式(7)、式(8)、式(9)として表すことができる。
【0134】
これらの式に、各係数を代入することで共振比制御ゲインβ、積分ゲインK
i、比例ゲインK
p1、K
p2の値を決めることができる。実際にモータ制御装置を作成する場合は、このようにして決定した値を用いる。
【0135】
本実施例では、下記に示す表1、表2のパラメータを用いてトルク指令値τ
srefをステップ関数状に変化させたときの、ねじりトルクτ
sの過渡応答をシミュレーションした。
【0136】
なおシミュレーションでは、トルクセンサ8の出力に、遮断周波数がトルクセンサ8の帯域であるローパスフィルタを設けることで、トルクセンサ8の帯域を考慮し、より実際に近い形にしている。
【0137】
ここで、J
mn=J
m、J
ln=J
m、D
mn=D
n、K
tn=K
tとした。ω
aはモータ2及び減速機3の反共振周波数、ω
rはモータ2及び減速機3の共振周波数、H
nは自然共振比、g
sはトルクセンサ8の帯域、J
m’=β
−1J
mは共振比制御ゲインで修正したモータ2の慣性モーメント、Hは共振比制御によって変更された共振比である。なお、表1に示すパラメータは、実際に使用するモータ装置から同定した値である。表2に示すパラメータは、トルクセンサ8の帯域g
s、制御帯域ω
1、ω
2、制動係数ζ
1、ζ
2を除き、表1に示すパラメータを用いて算出した値である。
【0140】
図8は、シミュレーション結果を示したものである。
図8Aは、横軸が時間、縦軸が電流値を表し、参照電流指令値i
qrefの時間変化を表している。
図8Bは、横軸が時間、縦軸はトルク値を表し、トルク指令値τ
sref(
図8B中の実線)とねじりトルクτ
s(
図8B中の破線)の時間変化を表している。
【0141】
図8Bを見ると、時間0秒でトルク指令値τ
srefが1Nmになっている。時間0秒でトルク指令値τ
srefがステップ関数状に変化しており、この時、モータ制御装置5にトルク指令値τ
srefが入力されたことを意味している。一方で、ねじりトルクτ
sは、時間0秒から徐々に増加し、最終的には1Nmになり、トルク指令値τ
srefと同じ値になっている。そして、ねじりトルクτ
sは振動していない。これは、モータ制御装置5にトルク指令値τ
srefが入力されたことで、ねじりトルクτ
sが徐々に発生し始め、最終的にはねじりトルクτ
sがトルク指令値τ
srefに追従したこと、共振振動が抑制されていることを意味している。
【0142】
このとき、
図8Aに示されているように、参照電流指令値i
qrefは時間0から徐々に増加し始め、ねじりトルクτ
sがトルク指令値τ
srefに追従すると、時間に比例して増加している。参照電流指令値i
qrefは、トルク制御をおこなっている間、実際的な電流量となっていることから、シミュレーションが適切に行われたことが確認できる。
【0143】
このように、シミュレーション結果から、モータ制御装置5が共振振動を抑制しつつねじりトルクτ
sがトルク指令値τ
srefに追従するように制御できることを確認できた。
【0144】
(実施例2)
次に、実施例2として、トルクセンサ8の帯域g
sのみ実施例1のシミュレーションモデルと変化させて、同様にトルク指令値τ
srefをステップ関数状に変化させたときの、ねじりトルクτ
sの過渡応答をシミュレーションし、トルクセンサ8の帯域g
sがねじりトルク制御へ及ぼす影響を検証した。
【0145】
そのシミュレーション結果を
図9に示す。
図9の各図は、横軸が時間、縦軸がトルク値を表している。図中の実線がトルク指令値τ
sref、図中の破線がねじりトルクτ
s、図中の点線が出力軸6の外乱トルクτ
ldisを表している。
図9Aはg
s=1000rad/sとしたときのシミュレーション結果、
図9Bはg
s=400rad/sとしたときのシミュレーション結果、
図9Cはg
s=100rad/sとしたときのシミュレーション結果、
図9Dはg
s=50rad/sとしたときのシミュレーション結果をそれぞれ示している。
【0146】
トルクセンサ8の帯域g
sが大きいほうが、振動が減少していることがわかる。このことから、帯域g
sが大きいトルクセンサを用いてねじりトルクτ
sを測定することが好ましいことがわかる。特に、g
s=100rad/sでは振動も収束傾向になっているので、帯域g
sが100rad/s以上のトルクセンサを用いてねじりトルクτ
sを測定することが好ましい。
【0147】
また、シミュレーションでは、時間0.2秒から0.35秒まで0.2Nmの外乱トルクτ
ldisを発生させている。外乱トルクτ
ldisが発生したことによりねじりトルクτ
sは、一時的に大きくなり、トルク指令値τ
srefからずれるが、すぐにトルク指令値τ
srefに追従するようになっていることがわかる。外乱トルクτ
ldisがなくなった時も同様である。このように、モータ制御装置5が外乱にも強いことが確認できた。
【0148】
(実施例3)
実施例3では、
図7に示したブロック線
図40のモータ制御装置のシミュレーションモデルを実施例1と同様に作成し、加速度指令値α
srefをステップ関数状に変化させたときの、出力軸6に生じる加速度応答値α
lの過渡応答をシミュレーションした。出力軸6の慣性モーメントのノミナル値J
lnを2倍にした場合と0.5倍にした場合を合わせた3種類のシミュレーションを行った。シミュレーションのパラメータは表3、表4のとおりである。
【0151】
図10は、シミュレーション結果を示すグラフである。
図10Aは、横軸が時間、縦軸が電流値とトルク値を表しており、参照電流指令値i
qrefと出力軸6の外乱トルクτ
ldisの時間変化を示している。
図10Bは、横軸が時間、縦軸が加速度を表し、加速度指令値α
srefと加速度応答値α
lの時間変化を示している。
【0152】
図10Aに示すように、参照電流指令値i
qrefが、実際的な電流量となっていることから、シミュレーションが適切に行われたことが確認できる。
【0153】
図10Bを見ると、時間0秒で加速度指令値α
srefが50rad/s
2になっている。時間0秒で加速度指令値α
srefがステップ関数状に変化しており、この時、モータ制御装置5に加速度指令値α
srefが入力されたことを意味している。一方で、加速度応答値α
lは、時間0秒から徐々に増加し、最終的には50rad/s
2になり、加速度指令値α
srefと同じ値になっている。この傾向は、出力軸6の慣性モーメントJ
lnを変えても変わっていない。
【0154】
出力軸6の慣性モーメントJ
lnを2倍にした時のシミュレーション結果は加速度応答値α
lがオーバーシュートしてから加速度指令値α
srefに追従しているが、振動は見られない。出力軸6の慣性モーメントJ
lnが他の値のシミュレーション結果にも振動は見られない。
【0155】
図10Aに示すように、シミュレーションでは、時間0.2秒から0.35秒まで1Nmの外乱トルクτ
ldisを出力軸6に発生させている。
図10に示すように、外乱トルクτ
ldisの発生に伴い、加速度応答値α
lが加速度指令値α
srefからずれたが、すぐに加速度指令値α
srefに追従している。外乱トルクτ
ldisがなくなった時も同様であり、出力軸6の慣性モーメントJ
lnの値が変わってもこの傾向は変わっていない。
【0156】
以上のシミュレーション結果から、モータ制御装置5が共振振動を抑制しつつ加速度応答値α
lが加速度指令値α
srefに追従するように制御できることを確認できた。また、モータ制御装置5が加速度を制御するときも外乱に強いことが確認できた。これらの傾向が、出力軸6の慣性モーメントJ
lnの値を0.5倍、2倍にした時も変わらないことから、経年変化などによって、出力軸6の慣性モーメントJ
lnの値が変わってしまった時も、加速度応答値α
lが加速度指令値α
srefに追従するように制御できることを確認できた。