特許第6842660号(P6842660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842660
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】基材、塗布方法及び塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/10 20060101AFI20210308BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20210308BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20210308BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20210308BHJP
   B05C 9/10 20060101ALI20210308BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B05D3/10 Z
   B05D1/26 Z
   B05D7/00 N
   B05C5/02
   B05C9/10
   B05C11/10
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-22897(P2017-22897)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2018-126708(P2018-126708A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 光正
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】李 康旭
(72)【発明者】
【氏名】福島 誉史
(72)【発明者】
【氏名】寺田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】谷 義則
(72)【発明者】
【氏名】圓崎 諭
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−225803(JP,A)
【文献】 特開2015−192984(JP,A)
【文献】 特開2015−201544(JP,A)
【文献】 特開2015−177098(JP,A)
【文献】 特開2007−158085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B05C 1/00−21/00
B32B 1/00−43/00
H01L 21/447−21/607
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の親液部が相互に離れて縦方向及び横方向に形成され、当該親液部の間が塗布の対象とされない領域に形成された被塗布領域を有する基材であって、
前記被塗布領域の縁領域に、親液性を有し塗布液の液付きを促す液付き拡幅領域が少なくとも横方向に広がって形成されていて、
前記液付き拡幅領域は、前記親液部の全てを囲むように前記縁領域の全周に連続する環状となって形成されている、基材。
【請求項2】
複数の親液部が相互に離れて縦方向及び横方向に形成され、当該親液部の間が塗布の対象とされない領域に形成された被塗布領域を有する基材であって、
前記被塗布領域の縁領域に、親液性を有し塗布液の液付きを促す液付き拡幅領域が少なくとも横方向に広がって形成されていて、
前記液付き拡幅領域は、横方向に間欠的となって広がって設けられており、当該液付き拡幅領域の欠損部の横方向の幅は、横方向に隣り合う前記親液部の間隔よりも狭い、基材。
【請求項3】
複数の親液部が相互に離れて縦方向及び横方向に形成され、当該親液部の間が塗布の対象とされない領域に形成された被塗布領域を有する基材であって、
前記被塗布領域の縁領域に、親液性を有し塗布液の液付きを促す液付き拡幅領域が少なくとも横方向に広がって形成されていて、
塗布液の塗布領域を横方向に拡幅するための領域である前記液付き拡幅領域は、一つの前記親液部よりも横方向に広く形成されている、基材。
【請求項4】
前記被塗布領域は、前記親液部の横方向の分布が縦方向の一方側から他方側に向かって拡大している拡大領域を有しており、
前記液付き拡幅領域は、前記縁領域において、前記拡大領域の横方向の幅以上の範囲に形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基材。
【請求項5】
一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器を用いて、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材に対して塗布を行う方法であって、
前記基材の前記被塗布領域と前記塗布器の前記開口とを接近させた状態とし、
前記被塗布領域の前記縁領域を塗布開始位置として、前記開口と前記被塗布領域との間に塗布液のビードを形成すると共に、前記基材の縦方向を相対移動の方向として前記塗布器との間で相対移動させる、塗布方法。
【請求項6】
前記塗布開始位置を、前記縁領域のうち親液性を有している領域とする、請求項5に記載の塗布方法。
【請求項7】
一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器と、
前記塗布器と請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材とを相対移動させる移動手段と、
前記塗布器に塗布液を供給可能とする供給手段と、を備え、
前記基材の縦方向を前記塗布器との間の相対移動の方向とする塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液を塗布する対象となる基材、基材に対して塗布液を塗布する方法及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハのような基材に塗膜を形成するための塗布装置として、スピンコータが知られている。しかし、スピンコータでは、通常、基材の表面全体にわたって塗膜が形成されるので、基材の特定領域には塗膜を形成するがそれ以外の領域(非特定領域)には塗膜を形成しない場合、スピンコータを採用できない。そこで、基材の特定領域にのみ塗膜を形成することを可能とする塗布装置として、スリットを有する塗布器を備えたスリットコータが用いられている。
【0003】
スリットコータの塗布器は、一方向に長いスリットが先端で開口しており、この開口から塗布液を吐出可能としている。そして、この塗布器の先端と基材とを接近させた状態で、塗布器と基材とを相対移動させながら、スリットが開口する先端と基材との間の隙間に塗布液のビードを形成することで、塗布を行うことができる。
前記のようなスリットコータの中でも、毛細管現象(表面張力)によって塗布液をスリットから引き出すことで基材に塗布液を塗布する塗布装置が知られている(例えば特許文献1)。この塗布装置では、図13に示すように、スリット98から吐出させる塗布液が基材90に接触することで、塗布器99の先端97と基材90との間に塗布液のビード96が形成され、更に、前記相対移動に伴って、毛細管現象によってスリット98から塗布液が引き出され、基材90に塗布液が塗布される。このような形態の塗布はキャピラリ塗布と呼ばれる。
【0004】
特許文献1に記載の塗布装置では、基材のハンドリングの容易性等の観点から、図13に示すように、スリット98を下向きに開口させており、基材90の上面(の一部)を被塗布領域としている。そして、この姿勢でキャピラリ塗布を行うために、塗布器99内の塗布液を負圧としている。
【0005】
スリット98の幅は基材90の幅よりも大きくなっていることから、キャピラリ塗布では、スリット98の直下に基材90が対向して存在している場合(図13の領域P1)、前記のとおり、ビード96が形成されると共に前記相対移動に伴ってスリット98から塗布液が引き出され塗布が行われる。これに対して、スリット98の直下に基材90が存在していない場合(図13の領域P2)、ビード96は形成されず、また、前記相対移動に伴う塗布液の引き出しも行われない。このため、例えば円形等の基材90の場合、塗布が必要な部分(基材90)にだけ塗布液が吐出され、それ以外に対しては塗布液が吐出されず、塗布液を無駄にしない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−192984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、キャピラリ塗布の技術を用いて、基材の特定領域にのみ塗膜を形成することが試みられている。これを実現するために、図14に示すように、基材90の特定領域を親液部K1とし、その他の領域を撥液部K2としている。親液部K1には塗布液が付着するが、撥液部K2には塗布液が付着しないことから、この基材90に対して塗布を行うことで、親液部K1にのみ塗膜を形成することが可能となる。
【0008】
しかし、図14に示すように、被塗布領域91に親液部K1が縦方向及び横方向に相互離れて形成され、親液部K1の間が撥液部K2である場合、この基材90と塗布器99とを縦方向に相対移動させて、全ての親液部K1に対して塗布を行なおうとしても、図14において二点鎖線で囲む横方向両側の範囲Q1,Q2に存在する親液部K1については、塗布が不完全(不可能)となることがある。
これは次の理由による。すなわち、最初に塗布器99から塗布液が吐出されると基材90上に液付き領域Nが形成される。この形成された液付き領域Nから、塗布器99の進行方向前方に位置する親液部K1に対しては塗布液が引き出され塗膜が形成されるが、液付き領域Nを横方向に超えて位置する親液部K1には、液付き領域Nを超えた親液領域K1の間に撥液部K2が存在しているため、その撥液部K2でビードが途切れ、塗膜が形成されない現象が生じる。
【0009】
このように、基材90の被塗布領域91に複数の親液部K1が相互離れて縦方向及び横方向に広がって形成され、親液部K1の間が塗布の対象とされない領域(撥液部K2)である場合、横方向両側の範囲Q1,Q2の親液部K1に対して塗布が行われないことがある。
そこで、本発明は、前記のような基材であっても、横方向両側の範囲に存在する親液部に対しても塗布液を広げて塗布することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明の発明者は基材に着目した。その発明は、複数の親液部が相互に離れて縦方向及び横方向に形成され、当該親液部の間が塗布の対象とされない領域に形成された被塗布領域を有する基材であって、前記被塗布領域の縁領域に、親液性を有し塗布液の液付きを促す液付き拡幅領域が少なくとも横方向に広がって形成されている。
この基材によれば、被塗布領域の縁領域に形成されている液付き拡幅領域に塗布液のビードが形成され、基材と塗布器とを縦方向に相対移動させて塗布を進めることで、横方向両側の範囲に存在する親液部に対しても塗布液を広げて塗布することが可能となる。なお、前記「塗布の対象とされない領域」は、撥液部としたり、親液部よりも凹んだ部分としたりすることができる。
【0011】
また、前記被塗布領域は、前記親液部の横方向の分布が縦方向の一方側から他方側に向かって拡大している拡大領域を有しており、前記液付き拡幅領域は、前記縁領域において、前記拡大領域の横方向の幅以上の範囲に形成されているのが好ましい。この場合、横方向両側の範囲の親液部に対してより一層確実に塗布液を塗布することが可能となる。
【0012】
また、前記液付き拡幅領域は、前記親液部の全てを囲むように前記縁領域の全周に形成されているのが好ましい。この場合、基材の縦横の向きに関係なく、この基材と塗布器とを相対移動させることで、前記のような塗布が可能となる。
【0013】
また、前記液付き拡幅領域は、横方向に間欠的となって広がって設けられており、当該液付き拡幅領域の欠損部の横方向の幅は、横方向に隣り合う前記親液部の間隔よりも狭い基材とすることができる。この場合、液付き拡幅領域は横方向に連続していなくても、前記のような塗布が可能となる。
【0014】
また、前記目的を達成するための本発明は、一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器を用いて、前記基材に対して塗布を行う方法であって、前記基材の前記被塗布領域と前記塗布器の前記開口とを接近させた状態とし、前記被塗布領域の前記縁領域を塗布開始位置として、前記開口と前記被塗布領域との間に塗布液のビードを形成すると共に、前記基材の縦方向を相対移動の方向として前記塗布器との間で相対移動させる。
この塗布方法によれば、基材の横方向両側の範囲に存在する親液部に対して塗布液を広げて塗布することが可能となる。
【0015】
また、前記塗布方法において、前記塗布開始位置は、前記縁領域の内の前記塗布の対象とされない領域であってもよいが、前記塗布開始位置を、前記縁領域のうち親液性を有している領域とするのが好ましい。この塗布方法によれば、親液性を有している液付き拡幅領域及び親液部の一方又は双方を、塗布開始位置とし、前記相対移動により塗布が行われる。
【0016】
また、前記目的を達成するための本発明の塗布装置は、一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器と、前記塗布器と前記基材とを相対移動させる移動手段と、前記塗布器に塗布液を供給可能とする供給手段と、を備え、前記基材の縦方向を前記塗布器との間の相対移動の方向とする。
この塗布装置によれば、基材の横方向両側の範囲に存在する親液部に対しても塗布液を広げて塗布することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基材の横方向両側の範囲に存在する親液部に対しても塗布液を広げて塗布することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】塗布装置の全体構成を説明する概略図である。
図2】基材及び塗布装置が備えている塗布器の平面図である。
図3図2に示す基材の断面図(A−A矢視の断面図)である。
図4】(A)は、塗布器及び基材を示す斜視図であり、(B)は、塗布器のうち、基材が直下に存在する部分における断面図であり、(C)は、塗布器のうち、基材が直下に存在していない部分における断面図である。
図5】塗布器の先端及び液だまりの説明図である。
図6】塗布方法を説明する説明図である。
図7】他の基材に対して行う塗布方法を説明する説明図である。
図8】他の基材及び塗布器の平面図である。
図9】他の基材及び塗布器の平面図である。
図10】他の基材及び塗布器の平面図である。
図11】他の基材及び塗布器の平面図である。
図12】他の基材及び塗布器の平面図である。
図13】従来技術を説明するための塗布器及び基材の正面図である。
図14】従来技術を説明するための塗布器及び基材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔塗布装置の構成について〕
図1は、塗布装置(スリットコータ)5の全体構成を説明する概略図である。この塗布装置5は、基材7に対して塗布液を供給して基材7の表面に対して部分的にかつ一括して塗膜を形成するための装置である。基材7は、ロールトゥロールで送られる帯状の薄い部材であってもよいが、本実施形態では、枚葉状の薄い部材(基板)としている。なお、基材7を枚葉状とする場合、その輪郭形状は、後にも例示するが、円形であってもよく、矩形であってもよく、又は、その他の形状であってもよい。
【0020】
図2は、基材7及び塗布装置5が備えている塗布器10の平面図である。図3は、図2に示す基材7の断面図(A−A矢視の断面図)である。基材7は、特定領域K1及び非特定領域K2を有する。図2及び図3に示す基材7の場合、特定領域K1は、非特定領域K2と比べて塗布液との親液度が高い領域であり、親液性を有している。これに対して、非特定領域K2は、塗布液に対して撥液性を有している。つまり、基材7は、塗布特性(塗布液に対する特性)が異なる特定領域K1及び非特定領域K2を有しており、特定領域K1は親液領域であり、非特定領域は撥液領域である。特定領域K1と非特定領域K2とは基材7の同じ平面上に設けられている。そして、図1に示す塗布装置5によって行われる塗布方法では、基材7の特定領域K1には塗布液による塗膜が形成されるが、この特定領域K1以外の非特定領域K2には塗膜が形成されない。この塗布方法の具体例については後に説明する。以下において、特定領域K1を「親液部K1」とし、非特定領域K2を「撥液部K2」として説明する。
【0021】
図1に示す塗布装置5は、基材7よりも上側に位置する塗布器10(ノズル、スリットダイともいう)を備えており、この塗布器10から基材7に塗布液が供給(吐出)される。基材7の上面には、塗布液が塗布される被塗布領域8が形成されており、この被塗布領域8が上向きとなる姿勢で基材7はステージ9上に支持され、その状態で塗布が行われる。なお、本発明の被塗布領域8とは、基材7の上面全体を言うのではなく、複数の特定領域K1が形成された全領域であり、これら特定領域K1と特定領域K1との間に形成された非特定領域K2を含む領域のことである。なお、図2などの平面図では、被塗布領域8を破線で囲む範囲として示している。
塗布装置5は、塗布器10の他に、基材7と塗布器10とを相対的に移動させる移動手段20と、塗布器10に塗布液を供給可能とする供給手段40とを備えている。本実施形態の供給手段40は、後にも説明するが、塗布器10内の塗布液の圧力を調整する圧力付与手段としての機能も備えている。更に、塗布装置5は、各種制御を行うコンピュータからなる制御装置50と、塗布器10内の塗布液の圧力を計測するための圧力センサ60とを備えている。
【0022】
塗布器10について説明する。図4(A)は、塗布器10及び基材7を示す斜視図であり、図4(B)は、この塗布器10のうち、基材7が直下に存在する部分における断面図であり、図4(C)は、塗布器10のうち、基材7が直下に存在していない部分における断面図である。塗布器10は、図4(A)に示すように、一方向に長い直線状のノズルからなり、先端17が先細りとなった形状を有している。図4(B)(C)に示すように、塗布器10は、塗布液が溜められる溜め部13と、この溜め部13と繋がっているスリット(スリット状流路)12とを有している。スリット12は、先端17に有する面18(以下、先端面18ともいう)で開口しており、溜め部13の塗布液がスリット12を通じて開口11から基材7に供給される。溜め部13は、開口11から供給する塗布液を一旦溜めるために拡大させた領域である。溜め部13、スリット12、先端面18及び開口11は、一方向(図4(B)(C)の紙面に直交する方向)に沿って長く形成されている。
【0023】
図4(A)に示すように、本実施形態の基材7(被塗布領域8)の輪郭形状は円形であり、開口11は基材7(被塗布領域8)の直径D(基材7の前記一方向の最大寸法)よりも大きな幅寸法Wを有している(W>D)。このため、塗布器10(開口11)には、基材7が直下に存在する部分と、基材7が直下に存在しない部分とが生じ、また、これらの部分それぞれの範囲(長さ)は、基材7と塗布器10(開口11)との相対的な位置に応じて変化する。
また、本実施形態では、基材7に対して開口11から塗布液が下向きに吐出される。後述する塗布動作の際、溜め部13、スリット12は、塗布液で満たされた状態(つまり、充満状態)となる。
【0024】
図1において、圧力センサ60は、塗布器10に設けられており、塗布器10内の塗布液の圧力を測定するセンサである。本実施形態では、圧力センサ60の検出部(センサ部)は溜め部13において露出しており、溜め部13の塗布液の圧力(内圧)が測定される。圧力センサ60の測定結果は制御装置50に入力される。なお、以下の説明における「塗布器10内の塗布液の圧力」は、溜め部13に溜められている塗布液の圧力(内圧)を意味する。
【0025】
塗布装置5は、装置基台6、及び、この装置基台6に搭載され基材7を上に載せるステージ9を更に備えている。ステージ9上の基材7の被塗布領域8は水平となる。そして、本実施形態では、ステージ9に対して塗布器10が移動手段20によって移動可能となる。
移動手段20は、装置基台6に設けられているレール21、このレール21に沿って水平方向に移動する可動ブロック22、及び、可動ブロック22を移動させるリニアアクチュエータ23を備えている。そして、塗布器10は可動ブロック22に搭載されている。この移動手段20により、固定状態にあるステージ9上の基材7に対して、塗布器10が水平方向に移動可能となる。なお、移動手段20は、塗布器10と基材7とを、前記一方向(スリット12の長手方向)に交差(直交)する方向に相対移動させる構成であればよく、図示しないが、固定状態にある塗布器10に対してステージ9(基材7)を移動させる構成であってもよい。また、移動手段20は、塗布器10を上下方向に移動させる昇降アクチュエータ24を備えている。これにより、基材7に対する塗布器10(開口11)の高さを変更することが可能である。移動手段20は、制御装置50によって制御され、所定の速度(具体的には一定速度)で塗布器10を水平方向に移動させることができる。
【0026】
供給手段40は、タンク41及び圧力調整器42を含む。タンク41は、塗布液を溜めていると共に、配管82を通じて塗布器10と接続されている。タンク41は、塗布器10よりも高い位置に設けられている。配管82には開閉切り換えバルブ72が設けられており、バルブ72が開状態で、タンク41と塗布器10(溜め部13)との間で塗布液が流通可能となっている。バルブ72は、塗布器10とタンク41とを連通及び遮断可能とする。タンク41に溜めることができる塗布液の容量は、塗布器10の溜め部13の容量(容積)よりも大きい。
圧力調整器42は、レギュレータからなり、タンク41の塗布液に作用させる圧力を変化させる。圧力調整器42は、制御装置50によって制御され、タンク41の塗布液の圧力(内圧)を調整する。タンク41と塗布器10とは配管82を通じて接続されていることから、タンク41の塗布液の圧力を調整することで、塗布器10(溜め部13)の塗布液の圧力を所定の値に調整する(つまり制御する)ことができる。例えば、タンク41の塗布液の圧力(ゲージ圧)を負圧に調整することで、塗布器10(溜め部13)の塗布液の圧力(ゲージ圧)を負圧にする。
【0027】
本実施形態では、圧力調整器42は、塗布器10内の塗布液の圧力を所定の値(負圧)に保つようにタンク41に溜めている塗布液の圧力を調整する機能を有しており、これら圧力調整器42及びタンク41によって、塗布器10内の塗布液に圧力(負圧)を作用させると共にその圧力(負圧)を調整する機能を具備する供給手段40が構成されている。
そして、後の塗布方法でも説明するが、前記移動手段20によって基材7と塗布器10とを、両者の隙間を一定に保ちつつ、相対移動させる際に、供給手段40は、塗布器10内の塗布液の圧力を調整する構成となっている。なお、本実施形態では、塗布動作の際、塗布器10内の塗布液の圧力は一定値に保たれるように調整される。この調整は、圧力センサ60の検出結果に基づいて行われる。
【0028】
〔基材7について〕
図2に示すように、基材7の被塗布領域8には、前記のとおり親液部K1と撥液部K2とが形成されている。更に説明すると、被塗布領域8には、塗布の対象となる複数の親液部K1が相互離れて縦方向及び横方向に広がって形成されており、親液部K1の間が塗布の対象とされない撥液部K2となっている。本実施形態では、複数の親液部K1が格子状に配置されているが、千鳥状となっていてもよく、また、雑然と配置されていてもよい。そして、被塗布領域8の縁領域Eに、親液性を有している液付き拡幅領域K3が形成されている。図2に示す基材7では、液付き拡幅領域K3は連続した環状に形成されている。親液部K1と液付き拡幅領域K3とで親液度は同じである。親液部K1と液付き拡幅領域K3とは離れて被塗布領域8に形成されている。
ここで、液付き拡幅領域K3とは、液付き領域を拡幅するための親液領域である。すなわち、塗布動作を開始する際に基材7に塗布液を吐出してビードを形成するが、このビードが形成された基材7に吐出された塗布領域が液付き領域であり、液付き拡幅領域K3は、その液付き領域を横方向に拡幅するための領域のことである。
【0029】
液付き拡幅領域K3は、親液部K1よりも横方向に広く形成されていればよく、図2に示す形態以外に、図8図12に示す形態とすることができる。
図8の基材7では、液付き拡幅領域K3は半円形状を有している。
図9の基材7では、液付き拡幅領域K3は全体として円弧形状を有しているが、周方向に沿って間欠的となっている。
図10の基材7では、液付き拡幅領域K3は円弧形状を有しているが、周方向長さが半円よりも短く、液付き拡幅領域K3は横方向両側に離れて形成されており、これらの間に複数の親液部K1が介在している。つまり、被塗布領域8の縁領域Eに、二つの液付き拡幅領域K3と複数の親液部K1とが形成されている。
図11の基材7は矩形であり、被塗布領域8も矩形である。液付き拡幅領域K3は被塗布領域8の縁領域Eにおいて全周にわたって形成されている。液付き拡幅領域K3も矩形枠状となっている。
図12に示す基材7は多角形(凹多角形)であり、被塗布領域8も多角形(凹多角形)である。液付き拡幅領域K3は、被塗布領域8の縁領域Eの一部に形成されている。なお、図12に示す基材7は多角形(凹多角形)であり、これに対応して被塗布領域8も多角形(凹多角形)であるが、それ以外として、基材7は矩形であり、その上面に図12に示すような多角形(凹多角形)の被塗布領域8が設けられていてもよい。このように、本発明では、基材7の輪郭形状と被塗布領域8の輪郭形状とは異なっていてもよい。
【0030】
被塗布領域8の縁領域Eの一部に液付き拡幅領域K3が形成されている基材7の場合(図8図9図10及び図12)、その液付き拡幅領域K3は、縦方向の一方側(各図において下側)に設けられている。そして、後に説明する塗布動作での基材7と塗布器10との相対移動の方向(矢印Y方向)を、基材7の縦方向一方側(各図において下側)から他方側(各図において上側)と一致させる。前記相対移動の方向は塗布方向となり、液付き拡幅領域K3は塗布方向の上流側に形成されている。液付き拡幅領域K3の機能については、後に説明する。
【0031】
〔塗布動作について〕
図1に示す塗布装置5によって行われる塗布方法について説明する。
ステージ9上に載せた例えば図2に示す基材7に対して塗布器10の先端面18を接近させ、移動手段20によって塗布器10を移動させながら、この基材7に対して塗布液の塗布を行うが、この移動開始の前に、供給手段40は事前処理を行う。つまり、塗布装置5が行う塗布動作には、事前処理と、この事前処理の後に続けて行われる実塗布処理とが含まれる。
【0032】
供給手段40は事前処理として、図5に示すように、塗布器10の先端面18に塗布液の液だまり2を形成する。しかも、この液だまり2は、スリット12の塗布液2aと、先端面18に表面張力で付着する塗布液2bとが連続した状態とする。これを実現するために、本実施形態の塗布方法は、スリット12が下向きに開口する状態として行う方法であることから、図1に示すバルブ72が開の状態で、供給手段40は、先ず、タンク41の塗布液の圧力を大気圧よりも高く設定し、塗布器10内の塗布液の圧力を大気圧よりも一時的に高くして開口11から塗布液を少量吐出する。その後、供給手段40は、タンク41の塗布液の圧力を大気圧よりも低く設定し、塗布器10内の塗布液の圧力を大気圧よりも低くする。このように、供給手段40が、塗布器10内の塗布液の圧力を調整することによって、前記塗布液2aと前記塗布液2bとが連続した状態となって液だまり2は形成され、この液だまり2は先端面18から下に垂れた状態となり、この状態が維持される。
【0033】
前記のとおり、スリット12の塗布液2aと先端面18に表面張力で付着する塗布液2bとが連続した状態にある液だまり2を、先端面18に形成するために、供給手段40が行う具体的な圧力調整について説明する。
供給手段40は、塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)を正圧にした後、塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)を負圧にすることで、スリット12の塗布液2aを更に塗布器10内の溜め部13に引く力F1を生じさせるが、この引く力F1が、スリット12の塗布液2aを開口11(のエッジ)において表面張力により保持させる力(合力)F2と、バランスするように、塗布器10内の塗布液の圧力を調整する(事前処理)。
【0034】
そして、図6により説明するように、塗布器10の先端面18に形成した液だまり2が親液部K1に接触可能となる位置関係で、移動手段20は、基材7と塗布器10とを、両者の隙間を一定に保ちつつ、相対移動させる(実塗布処理)。この移動の際、供給手段40が、塗布器10内の塗布液の圧力をそのまま保つように調整(事前処理の状態を保つように調整)することによって、液付き拡幅領域K3又は親液部K1上の液だまり2の塗布液はこの液付き拡幅領域K3又はこの親液部K1に残留させるが、撥液部K2上の液だまり2の塗布液は先端17(先端面18)にそのまま留まらせるようにする。
【0035】
図6により、実塗布処理の様子を説明する。
図6(A)に示すように、被塗布領域8の縁領域に形成されている液付き拡幅領域K3を塗布開始位置とする。すなわち、この塗布開始位置で基材7上に液付き領域が形成される。液付き領域には液付き拡幅領域K3が含まれるため、先端面18に形成されている液だまり2の塗布液は、液付き拡幅領域K3に接触する。この状態で塗布器10を移動させると、液付き拡幅領域K3は親液性を有することから、液付き拡幅領域K3に接触している塗布器10外の塗布液の表面張力が、塗布器10内での前記引く力F1よりも大きくなる。これはスリット12が開口する先端面18と基材7との間における塗布液の毛細管現象による。このため、前記バランスが崩れ、スリット12から液付き拡幅領域K3へ塗布液が引き出され、液付き拡幅領域K3に対して塗布される。
【0036】
前記相対移動が続けて行われ、図6(B)に示すように、先端面18の液だまり2の一部が、撥液部K2上に位置しても、更には、図6(C)に示すように、先端面18の液だまり2の全部が、撥液部K2上に位置しても、前記引く力F1は維持されていることから、撥液部K2に対して塗布されない。なお、親液部K1と撥液部K2とが同一面上に形成されていることから、先端面18の液だまり2(の一部)は、撥液部K2に接することがあるが、このように接しても、前記引く力F1は維持されており、撥液部K2に対して塗布されない。
これは、塗布器10の先端面18で液だまり2の塗布液を保持する力(保持力)が、撥液部K2に塗布液が付着しようとする力(付着力)よりも大きいことに依る。本実施形態では、撥液部K2は高い撥液性を有していることから、前記付着力は負の値(斥力)となる。また、前記保持力には、先端面18における塗布液の表面張力の他に、前記引く力F1が含まれる。
【0037】
本実施形態では、前記のとおり、先端面18における液だまり2は下に垂れた状態として形成されていることから、図6(D)に示すように、前記相対移動が続けて行われ、先端面18の液だまり2の一部が、親液部K1に到達すると、この液だまり2の一部は親液部K1に接触し、親液部K1に対して塗布される。更に、図6(A)と同様の状態となって、スリット12から親液部K1へ塗布液が自動的に引き出され、親液部K1に対して塗布される。
【0038】
ここで、前記引く力F1が前記保持させる力F2(図5参照)とバランスしておらず、前記引く力F1が前記保持させる力F2に勝っている場合(つまり、塗布器10内の負圧が強い場合)、図6(B)に示す状態から図6(C)に示す状態に移行すると、スリット12の塗布液2aが、溜め部13側に大きく引きこまれてしまい、スリット12の塗布液2aが、先端面18に表面張力で付着する塗布液2bと連続しない状態となってしまう場合がある。この場合、図6(D)に示すように、先端面18の液だまり2の一部が、隣りの親液部K1に到達し接触しても、先端面18に表面張力で付着する塗布液2bは、親液部K1に残留することは可能であるが、スリット12に大きく引きこまれた塗布液2aが、開口11から塗布器10外へ引き出されず(自動的に供給されず)、親液部K1で塗布不良が生じてしまう。
しかし、本実施形態では、塗布器10内の塗布液の圧力が所定の値(前記バランスをとる値)に調整されていることから、このような塗布不良を防ぐことが可能となる。
また、これとは反対に、前記引く力F1が前記保持させる力F2よりも弱くなりすぎると、親液部K1への塗布液の供給が過多となってしまう。
【0039】
以上のように、基材7と塗布器10(開口11)とを上下方向に対向させた状態で、移動手段20によってこれらを相対的に移動させると、親液部K1に対して塗布液が供給されて塗布が可能となる。
一方向に細長い開口11に対向して、図4(B)に示すように基材7が存在する部分であってかつその基材7の親液部K1(液付き拡幅領域K3)に対しては、塗布液が塗布器10から供給される。これに対して、開口11に対向して、基材7が存在する部分であっても撥液部K2に対しては、塗布液が供給されず、また、図4(C)に示すように基材7の無い部分では塗布液の吐出がされない。なお、このように、撥液部K2に対して塗布液が供給されない場合であっても、また、図4(C)に示すように基材7の無い部分に対して塗布液の吐出がされない場合であっても、先端面18には液だまり2が形成された状態にある。
本実施形態の塗布動作は、下向きに開口するスリット12が形成されている塗布器10内の塗布液の圧力を、前記のように負圧に調整することで行われるため、例えば図2に示す基材7を塗布の対象とした場合、親液部K1(及び液付き拡幅領域K3)に対して塗布がされ、撥液部K2に対しては塗布がされず、また、余剰となる塗布液を塗布器10内に引き込むことができ、塗布液を無駄にすることがない。つまり、基材7の不要箇所(撥液部K2)に塗布液を与えず、塗布液の使用効率(歩留まり)の低下を防ぐことができる。
【0040】
以上のように、本実施形態の塗布装置5によって実行される塗布方法は、基材7と塗布器10とを相対移動させ、親液部K1のみに塗膜を形成し、この親液部K1以外の撥液部K2に塗膜を形成しないための塗布方法である。そして、この塗布方法では、塗布動作として、スリット12を有する塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)の圧力を調整することにより、このスリット12が開口する先端17に塗布液の液だまり2を形成し、この液だまり2が親液部K1に接触可能となる位置関係で基材7と塗布器10とを相対移動させる。この塗布動作の際、供給手段40が塗布器10内の塗布液を調整し、下記に定義する調整圧力とする。
〔調整圧力〕:親液部K1上の液だまり2の塗布液はこの親液部K1に残留させ、かつ、撥液部K2上の液だまり2の塗布液は先端17にそのまま留まらせる圧力
【0041】
また、本実施形態の塗布方法は(図5参照)、塗布器10内のスリット12の塗布液2aと、先端面18に表面張力で付着する塗布器10外の塗布液2bとが連続した状態で、先端面18に液だまり2が形成されるように、このスリット12の塗布液と連なる塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)の圧力を、供給手段40が調整している。これにより、塗布器10の先端17に液だまりが図5に示す状態で形成され、そして、塗布動作の際、親液部K1上の液だまり2の塗布液は親液部K1に残留させ、かつ、撥液部K2上の液だまり2の塗布液は先端17にそのまま留まらせることが可能となる。
そして、前記塗布動作の際、溜め部13の負圧によりスリット12の塗布液2aを更に塗布器10内に引く力F1が、スリット12の塗布液2aを開口11において表面張力により保持させる力F2と、バランスする圧力に、供給手段40が塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)の圧力を調整する。これにより、塗布器10の先端17において、スリット12の塗布液2aとこの先端17に付着する塗布液2bとが連続した状態で、液だまり2が形成される。
【0042】
このように、スリット12の塗布液2aとこの先端17に付着する塗布液2bとが連続した状態で液だまり2が先端17に形成された態様として、基材7と塗布器10とを相対移動させ、図6(C)から(D)に示すように、この液だまり2の塗布液が、撥液部K2から親液部K1に移行すると、この親液部K1に接触し、この接触の後、塗布器10の移動に伴って、塗布器10から親液部K1に対して塗布液が表面張力(毛細管現象)によって引き出され、親液部K1に対する塗布液の塗布が行われる。塗布器10から基材7の親液部K1に供給されることで不足する塗布液は、タンク41(図1参照)から自動的に補充される。
【0043】
〔液付き拡幅領域K3について〕
図14に示す従来例では、基材90と塗布器99とを縦方向に相対移動させると、基材90の一番目の列L1に含まれる(四つの)親液部K1が先ず塗布される。キャピラリ塗布の場合、前記相対移動が継続することで、二番目の列L2以降では、一番目の列L1と同数である中央の親液部K1に対して塗布は可能であるが、その横方向両側の範囲Q1,Q2に存在する親液部K1には、撥液部K2が介在することで塗布がされない。
これに対して、図2に示す基材7の場合、被塗布領域8の縁領域Eに、親液性を有している横方向に広い液付き拡幅領域K3が形成されている。このため、図2に示す状態から、基材7と塗布器10との相対移動が開始されると、液付き拡幅領域K3のうち、縦方向一方側(図2では下側)の部分領域P0に、先ず塗布液のビードが形成され(図6(A)参照)、部分領域P0に液付き領域が形成される。そして、基材7と塗布器10とを縦方向に相対移動させると、一番目の列L1に含まれる横方向中央の(四つの)親液部K1の塗布が行われる(図6(D)参照)。更に、この一番目の列L1の塗布の際、図2において、液付き拡幅領域K3の内の列L1に含まれる親液部K1の横方向隣りの部分領域P1にもビードが形成されて塗布が行われる。
【0044】
相対移動が継続され、二番目の列L2では、横方向中央の(四つの)親液部K1はもちろん、ビードが形成された前記部分領域P1の縦方向隣りに位置する親液部K1−2にもビードが形成されて塗布が行われる。また、この二番目の列L2の塗布の際、液付き拡幅領域K3の内のこれら列L2に含まれる(六つの)親液部K1の横方向隣りの部分領域P2にもビードが形成されて塗布が行われる。
相対移動が更に継続され、三番目の列L3では、横方向中央の(四つの)親液部K1はもちろん、ビードが形成された前記部分領域P2の縦方向に隣りの親液部K1−3にもビードが形成されて塗布が行われる。
このように、一番目の列L1の親液部K1、二番目の列L2の親液部K1、三番目の列L3の親液部K1・・・と塗布を進めると共に、液付き拡幅領域K3のうち、各列Ln(n=1,2,3・・・)の横方向両側における部分領域Pn(n=1,2,3・・・)にもビードが形成され続けるため、この部分領域Pnの塗布方向下流側に位置する親液部K1への塗布が可能となる。この結果、横方向両側の範囲Q1,Q2に存在する親液部K1に対しても塗布液を広げて塗布することが可能となる。
【0045】
被塗布領域8が円形である図2図8図12それぞれに示す基材7の場合、被塗布領域8の縦方向一方側(各図で下側)の半円部分C1では、親液部K1の横方向の分布が縦方向他方側(各図で上側)に向かって拡大している。これに対して、被塗布領域8の縦方向他方側(各図で上側)の半円部分C2では、反対に親液部K1の横方向の分布が縮小している。このため、半円部分C2においては、横方向両側に塗布がされない親液部K1は生じない。このため、図8図10に示すように、上側の半円部分C2においては、液付き拡幅領域K3を不要とすることができる。しかし、親液部K1の横方向の分布が拡大している各図の下側の半円部分C1においては、この半円部分C1に形成されている親液部K1の領域をカバーするように、液付き拡幅領域K3は形成されている。すなわち、被塗布領域8は、親液部K1の横方向の分布が縦方向の一方側(各図で下側)から他方側(各図で上側)に向かって拡大している拡大領域(半円部分C1)を有していることから、液付き拡幅領域K3は、被塗布領域8の縁領域Eにおいて、この拡大領域(半円部分C1)の横方向の幅M以上の範囲に形成されている。
【0046】
図12に示す基材7の場合においても、被塗布領域8は、親液部K1の横方向の分布が縦方向の一方側(図12で下側)から他方側(図12で上側)に向かう途中で急拡大している拡大領域(下側半分の部分C1)を有している。このため、液付き拡幅領域K3は、被塗布領域8の縁領域Eにおいて、この拡大領域の横方向の幅M以上の範囲に形成されている。
【0047】
図2及び図11それぞれに示す基材7の場合、液付き拡幅領域K3は、親液部K1の全てを囲むように、被塗布領域8の縁領域Eの全周に形成されている。このため、液付き拡幅領域K3は、親液部K1の横方向の分布が前記のように拡大している拡大領域(C1)の横方向の幅M以上の範囲に形成されている。更に、液付き拡幅領域K3は、親液部K1の全てを囲むように、被塗布領域8の縁領域Eの全周に形成されているので、基材7の縦横の向きに関係なくステージ9(図1)に載置することができ、そして、この基材7と塗布器10とを相対移動させることで、前記のような塗布が可能となる。
【0048】
図10に示す形態では、図14に示す従来例において塗布がされないおそれのある横方向両側の範囲Q1,Q2をカバーするように、これら範囲Q1,Q2の塗布方向上流側にのみ、液付き拡幅領域K3が形成されている。この基材7の場合、塗布開始位置は、一番目の列L1の親液部K1となる。
【0049】
図9に示すように、液付き拡幅領域K3は、連続して形成されていなくてもよい。つまり、液付き拡幅領域K3は、横方向に間欠的となって広がって設けられていてもよい。しかし、この場合、液付き拡幅領域K3の欠損部K9の横方向の幅B1は、横方向に隣り合う親液部K1の間隔B2よりも狭くなっている(B1<B2)。これにより、他の形態と同様の塗布が可能となる。なお、欠損部K9は、撥液部となっている。
【0050】
以上のように、前記各形態の基材7では、被塗布領域8の縁領域Eに、親液性を有している液付き拡幅領域K3が、少なくとも横方向に広がって形成されている。そして、このような各基材7に対して図1に示す塗布装置5が行う塗布方法は、基材7の被塗布領域8と塗布器10の先端に形成されている開口11とを接近させた状態とし、被塗布領域8の前記縁領域Eを塗布開始位置として、開口11と被塗布領域8との間に塗布液のビードを形成すると共に、この基材7の縦方向を塗布器10との間の相対移動の方向として、これら基材7と塗布器10とを相対移動させることで行われる。
【0051】
図2図8図9図11図12それぞれに示す基材7の場合、前記塗布開始位置を、前記縁領域Eのうち親液性を有している液付き拡幅領域K3の一部の領域としている。
これに対して、図10に示す基材7の場合、被塗布領域8の縁領域Eには、液付き拡幅領域K3の他に、塗布の対象とする親液部K1も形成されていることから、前記塗布開始位置は、前記縁領域Eのうち親液性を有している親液部K1(及び液付き拡幅領域K3の一部)を含む領域となる。
【0052】
このような各基材7に対して行う前記塗布方法によれば、基材7の横方向両側の範囲Q1,Q2に存在する親液部K1に対しても塗布液を広げて塗布することが可能となる。この結果、被塗布領域8に含まれる全ての親液部K1に対して塗布液の塗布が可能となる。
【0053】
〔基材7が他の形態である場合の説明〕
前記各基材7では、塗布の対象となる領域(特定領域)を親液部K1とし、塗布の対象としない領域(非特定領域)を撥液部K2とする場合について説明したが、図7(A)に示すように、前記特定領域(親液部K1)は非特定領域K4と比べて塗布器10の先端17に近い位置にある領域であってもよい。そして、塗布動作の際、親液部K1は、塗布器10の先端面18に形成される液だまり2の一部と接触可能となる位置にあるが、非特定領域K4は、前記液だまり2と非接触となる位置にある(図7(C)参照)。つまり、親液部K1は、基材7のうちの凸となる部分(凸部)の表面であり、非特定領域K4は、凹となる部分(凹部)の表面である。これら表面の高さ寸法の差は、例えば500マイクロメートルである。なお、この基材7の場合、非特定領域K4は撥液性を有していなくて良く、親液性とすることができる。そして、非特定領域K4に対して塗布器10の先端17の液だまり2が非接触となる位置関係で、塗布器10と基材7とを離して相対移動させる。なお、このような凹凸を有する基材7を平面から見ると、前記各形態の基材7と同様であり、凹凸を有する基材7の場合においても、液付き拡幅領域K3が形成されている。液付き拡幅領域K3は、親液性を有しており、親液部K1と同じ平面上に形成されている。つまり、液付き拡幅領域K3も凸となる部分の表面となる。
【0054】
凹凸形状を有する基材7を塗布の対象とした場合の塗布動作を図7により説明する。
図7(A)に示すように、基材7の液付き拡幅領域K3上を先端面18が通過する際、この先端面18に形成されている液だまり2の塗布液は、液付き拡幅領域K3に接触する。すると、液付き拡幅領域K3は親液性を有することから、液付き拡幅領域K3に接触している塗布器10外の塗布液の表面張力が、塗布器10内での前記引く力F1よりも大きくなる。これはスリット12が開口する先端面18と基材7との間における塗布液の毛細管現象による。このため、前記バランスが崩れ、スリット12から液付き拡幅領域K3へ塗布液が引き出され、液付き拡幅領域K3に対して塗布される。
【0055】
前記相対移動が続けて行われ、図7(B)に示すように、先端面18の液だまり2の一部が、凹んでいる非特定領域K4上に位置しても、更には、図7(C)に示すように、先端面18の液だまり2の全部が、非特定領域K4上に位置しても、液だまり2は非特定領域K4に接触しないことから、非特定領域K4に対して塗布されない。
【0056】
本実施形態では、前記のとおり、先端面18における液だまり2は下に垂れた状態として形成されていることから、図7(D)に示すように、前記相対移動が続いて行われ、先端面18の液だまり2の一部が、隣りの親液部K1に到達すると、この液だまり2の一部は親液部K1に接触し、親液部K1に対して塗布される。更に、図7(A)と同様の状態となって、スリット12から親液部K1へ塗布液が自動的に引き出され、親液部K1に対して塗布される。
【0057】
このような表面に凹凸を有する基材7を塗布の対象とする場合であっても、塗布器10の先端17の液だまり2の一部が親液部K1に接することで、この親液部K1に対して塗布されるが、非特定領域K4に対して塗布されない。この場合の塗布動作も、下向きに開口するスリット12が形成されている塗布器10内の塗布液の圧力を、前記のように負圧に調整することで行われる方法による。
【0058】
〔本発明の適用例〕
本発明の基材7の用途として、例えば半導体ウエハ(シリコンウエハ)や電極基板等が挙げられるが、その他様々な用途に用いることが可能である。
また、前記のような塗布方法は、三次元集積回路の製造方法にも適用可能である。すなわち、三次元集積回路の製造では、基板やチップを積層状に組み立てるが、この際、基板やチップの位置決め及び仮接着が必要となり、この位置決め及び仮接着が、基板やチップ間の隙間に存在する水の吸着力によって行われている。そこで、基板やチップ等の基材に前記のような位置決め及び仮接着用の水を塗布するために、前記塗布方法を用いることができる。この場合、塗布液は水である。なお、三次元集積回路の製造方法への適用は一例であり、他の用途にも当然用いることができる。
【0059】
〔付記〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
前記実施形態では、複数の親液部K1が整然と並んで縦方向及び横方向に広がって形成されている場合について説明したが、これ以外に、複数の親液部K1が雑然とした配置で縦方向及び横方向に広がって形成されていてもよい。
また、前記実施形態では、塗布器10の開口11から塗布液が吐出される方向は、下向きであるが、これに限らず、斜め下向きであってもよく、また、横向き(水平方向向き)、上向き、斜め上向きとする場合もある。
【符号の説明】
【0060】
5:塗布装置 7:基材 8:被塗布領域
10:塗布器 11:開口 12:スリット
20:移動手段 40:供給手段 B1:幅
B2:間隔 E:縁領域 K1:親液部
K2:撥液部 K3:液付き拡幅領域 K9:欠損部
M:幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14