(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】チャック装置における吐出口の位置を説明する図
【
図4】作業流体の吐出方向を設定するための角度θを説明する図
【
図5】工具の軸芯に向けて作業流体を吐出するための角度θ2を説明する図
【
図6】別実施形態の通路及び吐出口を示す図である。
【
図7】別実施形態の通路及び吐出口を示す図である。
【0016】
本発明のチャック装置に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に示すチャック装置Aは、工作機械の回転主軸に、回転主軸の軸芯とチャック装置Aの軸芯Qとが同軸芯になるように取り付けられる。また、チャック装置Aには、工具B(
図2参照)が軸芯Qと同軸芯になるように
図1の右側から挿入されて把持される。これにより、主軸の軸芯と工具Bの軸芯とが一致する。
【0018】
チャック装置Aのボディ1は、チャック本体1aと、チャック筒1bと、シャンク1cと、を備えている。チャック筒1bはチャック本体1aの先端側に形成されている。シャンク1cはチャック本体1aの後端側に形成されて工作機械の回転主軸に取付けられる。
【0019】
チャック筒1bには、工具B(
図2参照)を把持するための穴部(不図示)が軸芯Qの方向に沿って形成されている。
図2に示すように、チャック筒1bの内部にはクーラント(作業流体の一例)が流通するクーラント噴出路3b(通路の一例)が設けられている。クーラント噴出路3bは、軸芯Qの方向に延設されており、チャック筒1bに別途設けられるクーラント供給路(不図示)に連通する。クーラント供給路は、例えば、ボディ1の内部を貫通してボディ1の軸心方向に沿って形成される流路である。クーラント噴出路3bは、ボディ1の周方向に複数配置される(本実施形態では二つのクーラント噴出路3b)。各クーラント噴出路3bにおけるボディ1の先端部には、吐出口3aが形成されている。すなわち、ボディ1(チャック筒1b)の先端面1dに円形に開口する複数の吐出口3aを備えている(本実施形態では二つの吐出口3a)。複数の吐出口3aをボディ1の周方向に等間隔に配置することにより、クーラントを工具Bの周りに均等に噴射することができる。
【0020】
ここで、工具Bにクーラントを確実に供給するためには、ボディ1の先端部に設けられた吐出口3aにおいて、クーラントの吐出方向を適正に設定する必要がある。チャック装置Aの吐出口3aから工具Bに向けてクーラントを吐出する場合、吐出後のクーラントは、チャック装置Aの回転が高速になるほどチャック装置Aの回転力の影響を大きく受ける。このため、吐出後のクーラントは工具Bの軸芯Qから離れる方向に飛散する。そこで、
図2に示すように、吐出口3aから吐出されるクーラントの吐出方向を、工具B(チャック装置A)の回転方向Rdとは反対向きに設定する。具体的には、
図2に示すように、クーラントの吐出方向は、吐出口3aにおける回転方向Rdの周速Vに対し、回転方向Rdとは反対の向きに周速Vyが作用するように設定される。クーラントの吐出方向は、工具Bの軸芯Qの方向を基準にチャック装置Aを回転させたときの吐出口3aの中心の回転軌跡(仮想円S)の接線方向(周速Vyの方向)に所定の角度θで傾斜させることで設定される。
【0021】
このように、クーラントの吐出方向を、工具B(チャック装置A)の回転方向Rdとは反対向きにしつつ、切削工具の軸芯Qの方向を基準に傾斜させる角度θを適正に設定することで、吐出されるクーラントに対する、チャック装置Aの回転力の影響を相殺することができる。これにより、チャック装置Aが高速で回転する場合においても、吐出口3aから吐出されるクーラントは、工具Bの径方向外方への飛散が抑制される。ここでは、クーラントの当該飛散を抑制するための角度θを求める計算式について考える。
【0022】
チャック装置Aの内部を流通するクーラントの平均流速Vav(m/s)は、吐出口3aにおけるクーラント圧P(MPa)を用いることで、下記の数3式から算出することができる。
【数3】
【0023】
チャック装置Aの回転による吐出口3aにおける周速V(m/s)は、チャック装置Aの回転数n(min
−1)と、吐出口3aの中心の回転軌跡によって形成される仮想円Sの直径Dc(mm)(
図3参照)と、円周率πとにより、下記の数4式から求められる。
【数4】
【0024】
ここで、吐出口3aからのクーラントを工具Bに向けて吐出するための角度θ3(
図2参照)は、軸芯Qの方向を基準に吐出口3aの回転軌跡の接線方向において回転方向Rdとは反対向きに傾斜するよう設定される角度θ(
図2、
図4参照)と、吐出口3aから軸芯Qの方向を基準に軸芯Qに向かう方向(Vxの方向)に傾斜するよう設定される角度θ2(
図2、
図5参照)とによって、下記の数5式から求められる。
【数5】
【0025】
一方、吐出口3aから吐出されるクーラントの速度ベクトルは、吐出口3aから工具Bの軸芯Qに向かう速度ベクトルVxと、回転軌跡(仮想円S)の接線方向において速度ベクトルVとは反対の方向の速度ベクトルVyと、工具Bの軸芯Qの方向の速度ベクトルVzとに分解され、速度Vx,Vy,Vzは、角度θ、θ2、θ3を用いた下記の数6式〜数8式によって夫々求められる。
【数6】
【数7】
【数8】
【0026】
回転方向Rdの速度ベクトルVと回転方向Rdとは反対向きの速度ベクトルVyとが等しく、且つ、Vx>0の場合には、吐出方向の速度ベクトルVxyは、速度ベクトルVxのみになるため、クーラントは工具Bの軸芯Qに向かって吐出される。
【0027】
工具Bの先端中心に向けてクーラントを吐出するために設定される角度θ2は、チャック装置Aから突出する工具Bの長さによって変化する。ただし、工具Bはワーク等を加工する上で適正な長さが必要なことから、通常設定される角度θ2は大きい場合でも15度程度である。仮に角度θ2が15度以下である場合には、cosθ3≒cosθであり、その誤差範囲は4%以下に収まる。
【0028】
この誤差を無視し、cosθ3=cosθとして、反回転方向の速度(周速)Vyを算出する上記の数7式に代入することで、下記の数9式が得られる。
【数9】
【0029】
回転方向Rdの周速Vと反回転方向の周速Vyとが等しい場合には、上記の数4式の周速Vを上記の数9式に代入することで、下記の数10式が導かれる。上記の数3式のVav(チャック装置Aの内部を流通するクーラントの平均流速)を数10式に代入することで下記の数11式が導かれ、数11式から角度θを求める下記の数12式を導くことができる。
【数10】
【数11】
【数12】
【0030】
つまり、チャック装置Aにおいてクーラントの吐出方向を設定する際に、上記の数12式によって算出された角度θを用いることで、吐出口3aからのクーラントは工具Bの軸芯Qの方向に吐出されることになる。
【0031】
さらに、角度θ2を適正に設定し、クーラントの吐出方向が工具Bの軸芯Qに向かうように設定することで、吐出口3aから吐出されたクーラントが工具Bに向けて供給され易くなる。
【0032】
〔実施例1〕
チャック装置Aに把持させる工具Bの工具径Dは3mm以下〜32mmの間で変更した。チャック装置Aの回転数は、切削速度100〜500m/minの範囲に対応して設定される。ただし、工具径Dが3mm以下になると、切削速度100〜500m/minを満たすには高速回転に対応する特殊な工作機械が必要になる。そこで、工具径Dが3mm以下の場合は、チャック装置Aの回転数を、一般的な工作機械において可能な、10,000〜50,000min
−1に設定する。
【0033】
工具径Dに応じて、吐出口3aの中心部の回転軌跡によって形成される仮想円Sの直径Dcの範囲と、チャック装置Aの回転数nの範囲を設定した。吐出口3aにおけるクーラント圧(作業流体圧)Pは、3〜7MPaに維持する。これらを基にして算出された周速V及び角度θの範囲を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
〔実施例2〕
工具径Dを大きくしても、チャック装置Aの回転数を減少させずに、チャック装置Aを高速で回転させることができる特殊な工作機械を用いた場合の例を示す。工具径Dを3mm以下〜32mmの間で変更し、工具径Dに応じて、吐出口3aの中心部の回転軌跡によって形成される仮想円Sの直径Dcの範囲を設定した。チャック装置Aの回転数nは、25,000〜35,000min
−1の範囲に維持する。吐出口3aにおけるクーラント圧(作業流体圧)Pは、3〜7MPaに維持する。これらを基にして算出された周速V及び角度θの範囲を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
〔他の実施形態〕
(1)本発明に係るチャック装置は、工作機械の回転主軸に取り付けられ、工具を把持するチャック装置であれば、その形式を問わず実施できる。
【0038】
(2)チャック装置Aにおけるクーラントの吐出口3aは、チャック筒1bの先端面1dに限らず、工具Bを把持する形態に応じて、ナット部材やコレットに設けてもよく、あるいはチャック筒1bの先端面1dやコレット等に接続されるカバー部材に設けてもよい。このように、クーラントの吐出口3aは、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の目的を達成可能な範囲で任意に設けることができる。
【0039】
(3)上記の実施形態では、クーラント噴出路3bが全体として軸芯Qに対して傾斜するよう構成される例を示した。これに代えて、
図6に示すように、クーラント噴出路3bのうち、吐出口3aに連設される一部領域3b2が、角度θに基づく吐出方向に沿うよう、軸芯Qに対して傾斜する構成でもよい。
図6では、一部領域3b2は吐出口3aの径dに対して3倍の長さに設定されている。このように、クーラントを角度θに基づく吐出方向流路に沿わせて吐出するためには、一部領域3b2の流路長は吐出口3aの径dの3倍以上であることが好ましい。
図7に示すように、クーラント噴出路3bのうち、吐出口3aに連設される一部領域3b3の流路を他の領域の流路よりも狭くすることで、クーラントが角度θに基づく吐出方向に沿って吐出されるよう構成してもよい。
図7では、一部領域3b3が吐出口3a近づくにつれて狭くなるように形成されている。
【0040】
このように、クーラント噴出路3bのうち、吐出口3aに連設される一部領域3b2,3b3を角度θに基づく吐出方向に沿うように形成することで、吐出口3aからのクーラントを工具Bに向けて吐出することができる。また、クーラント噴出路3bの一部領域3b2,3b3のみがクーラントの吐出方向に沿って形成されていると、クーラント噴出路3bにおいて一部領域3b2,3b3以外の他の領域は、例えばチャック装置Aの軸芯方向に沿って形成することができる。これにより、仮にクーラントの吐出方向を設定するための角度θが大きい場合であっても、チャック装置Aの周方向におけるクーラント噴出路3bの占有領域を小さくすることができる。その結果、チャック装置Aにおいてクーラント噴出路3bを容易に配置することができる。