(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842687
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】シルク繊維立体構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 4/02 20060101AFI20210308BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20210308BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20210308BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20210308BHJP
A61K 35/64 20150101ALI20210308BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20210308BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20210308BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20210308BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
D01F4/02
A61L27/22
A61L15/32 100
A61K8/64
A61K35/64
A61Q19/00
A61P17/16
A61P17/02
B01D39/16 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-173094(P2016-173094)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-40071(P2018-40071A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年8月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人繊維学会、繊維学会予稿集 2016 71巻1号、2E15、平成28年6月6日 〔刊行物等〕 平成28年度繊維学会年次大会、平成28年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】玉田 靖
(72)【発明者】
【氏名】岸本 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】森川 英明
(72)【発明者】
【氏名】山中 茂
【審査官】
大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/192822(WO,A1)
【文献】
特開2010−270426(JP,A)
【文献】
特開2010−150712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00−6/96;9/00−9/04
A61L27/22
A61L15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界紡糸法に従って、紡糸液として、濃度が4w/v%以上22w/v%以下であり、pHが8〜12である、家蚕由来のシルクから抽出するフィブロインタンパク質を含むシルクタンパク質水溶液を用い、シルク繊維立体構造体を製造することを特徴とするシルク繊維立体構造体の製造方法。
【請求項2】
前記シルクタンパク質水溶液として、この水溶液にエタノールを1〜5v/v%添加したものを用いることを特徴とする請求項1記載のシルク繊維立体構造体の製造方法。
【請求項3】
前記シルク繊維立体構造体を製造した後、このシルク繊維立体構造体をアルコール水溶液に浸漬させ、又は水蒸気やアルコールの蒸気に暴露させることを特徴とする請求項1又は2に記載のシルク繊維立体構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルク繊維立体構造体の製造方法に関し、特に、皮膚再生や血管組織再生や血管再生等の生体組織再生における細胞足場材料等の再生医療用材料や、創傷保護や治癒促進のための創傷被覆材等の医療用分野や、フェースパックや皮膚保湿材等のエステティックや化粧分野や、マスク等の衛生材料分野や、あるいは、微細粒子捕捉や水質浄化用のフィルター等の産業分野において活用されるシルク繊維立体構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
手術用縫合糸として2500年以上の間使用されているシルクは、重篤な生体反応を起こさないために、生体親和性の高い材料として利用されている。シルクは、通常は水に対して不溶であるが、高濃度の公知の塩溶液等に溶解することが可能であり、その水溶液を水に対して透析することで所定濃度のシルクタンパク質水溶液を調製することが可能である。このシルクタンパク質水溶液を利用して、フィルム、パウダーあるいはスポンジ構造体を容易に作製できる。これらの構造体は生体親和性の高い材料であるので、軟骨再生、骨再生、皮膚再生、膀胱再生、血管再生等の再生医療用材料としての利用、研究開発が進められている。特に、シルクタンパク質のナノファイバーやマイクロファイバーの集積体は、体積に対する表面積の割合が高く、また、生体組織に近い繊維構造体となることから、再生医療用の細胞足場材料として有望であると考えられている。
【0003】
そこで、シルクタンパク質を原料としたナノファイバーやマイクロファイバーからなる繊維集積体(集合体)の作製と再生医療用細胞足場材料等としての開発が検討されている。この繊維集積体の作製方法としては、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)を用いるのが容易である。エレクトロスピニング法は、紡糸液に高電圧を印加することで紡糸液表面に電荷を蓄積させ、その電荷の反発が表面張力を超えると、ジェット状に電荷を帯びた紡糸液がコレクタ電極に向かって噴射され、さらにその噴射液が溶媒の蒸発とともに分岐し、ナノファイバーを形成しコレクタ電極上に堆積されることで、繊維集積体を作製する方法である。
【0004】
シルクタンパク質溶液を紡糸液として、エレクトロスピニング法により繊維集積体を作製する検討が報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、シルクタンパク質水溶液からの紡糸は、高濃度のシルクタンパク質水溶液が必要であったり、強力な酸やフッ素系の有機溶媒を使用したり、あるいは、共紡糸液として、ポリエチレングリコール等の水溶液高分子を混合する必要があった。しかも、高濃度シルクタンパク質水溶液は極めて不安定であり、かつ調製時にシルクタンパク質が低分子化するという問題がある。また、十分な強度を持った繊維集積体を作製する有機溶媒は、生体に対して有害であり、繊維集積体中に残存する危険性があり、再生医療等の医療用材料として利用する場合には問題がある。さらに、ポリエチレングリコール等を混合する場合には、繊維集積体の作製後に、このポリエチレングリコール等を除去するプロセスが必要であるが、完全に除去することは困難である。
【0005】
また、有機溶媒を含まない、少なくとも10wt%のフィブロイン濃度を有する水性シルクフィブロイン溶液が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この特許文献では、この有機溶媒を含まない水性フィブロイン溶液に対し、吸湿性ポリマーを用いて透析し、得られた少なくとも10wt%の水性シルクフィブロインを用いてシルクフォームなどを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−515391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では、上述した従来の技術の問題を解決し、再生医療や香粧分野等において利用ができる、生体親和性の高いシルクタンパク質を用いて、比較的低濃度のシルクタンパク質水溶液から、生体に対して安全なプロセスで製造できるシルク繊維立体構造体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシルク繊維立体構造体の製造方法は、電界紡糸法に従って、紡糸液として、濃度が4w/v%以上22w/v%以下であり、pHが8〜12である
、家蚕由来のシルクから抽出するフィブロインタンパク質を含むシルクタンパク質水溶液を用い、シルク繊維立体構造体を製造することを特徴とする。
【0009】
前記紡糸液濃度が4w/v%未満であると、電界紡糸により得られたシルク繊維立体構造体中にビーズが出現し、安定したシルク繊維立体構造体の作製が困難となり、22w/v%を超えると、安定な紡糸が困難となる。
【0010】
前記シルク繊維立体構造体の製造方法において、前記シルクタンパク質水溶液として、この水溶液にエタノールを1〜5v/v%添加したものを用いることを特徴とする。
【0011】
前記エタノールの添加量が1〜5v/v%であると、フィブロイン水溶液の表面張力を低下させ、安定的な紡糸を行うことが可能であるが、1v/v%未満であると、安定したシルク繊維立体構造体が形成できず、5v/v%を超えると、エタノールの凝固作用により、紡糸液としてのフィブロイン水溶液がゲル化する危険性がある。
【0012】
本発明のシルク繊維立体構造体の製造方法において、前記シルク繊維立体構造体を製造した後、このシルク繊維立体構造体をアルコール水溶液に浸漬させ、又は水蒸気やアルコールの蒸気に暴露させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低濃度のシルクタンパク質水溶液からシルク繊維立体構造体を製造することができ、再生医療や香粧品等の生体安全が要求される分野で活用できるシルク繊維立体構造体を提供できる。
【0014】
また、前記製造方法において、危険な溶媒を使用することもなく、また他の高分子等を複合化する必要や、添加する必要も無く、また、低濃度のシルクタンパク質水溶液を原料として使用して製造することが可能であるため、効率的に安全で、安定したシルク繊維立体構造体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で得られたシルクフィブロイン水溶液として、濃度4w/v%(
図1(a))、5w/v%(
図1(b))、6w/v%(
図1(c))、7w/v%(
図1(d))、8w/v%(
図1(e))、9w/v%(
図1(f))、10w/v%(
図1(g))の水溶液を用い、実施例4に従って電界紡糸して得られた繊維構造体のSEM画像を示す。
【
図2】実施例1で得られたシルクフィブロイン水溶液として、濃度4〜10w/v%の水溶液を用い、実施例4に従って電界紡糸して得られた繊維構造体の直径(nm)を示すグラフ。
【
図3】実施例2で得られたシルクフィブロイン水溶液として、濃度8w/v%(
図3(a))及び12w/v%(
図3(b))の水溶液を用い、実施例5に従って電界紡糸して得られた繊維構造体のSEM画像を示す。
【
図4】実施例2で得られたシルクフィブロイン水溶液として、濃度を10〜16w/v%とした水溶液を用い、実施例5に従って電界紡糸して得られた繊維構造体の直径(nm)を示すグラフ。
【
図5】実施例3で得られたシルクフィブロイン水溶液として、濃度14w/v%(
図5(a))及び16w/v%(
図5(b))の水溶液を用い、実施例6に従って電界紡糸して得られた繊維構造体のSEM画像を示す。
【
図6】実施例3で得られたシルクフィブロイン水溶液濃度を16〜22w/v%とした水溶液を用い、実施例6に従って電界紡糸して得られた繊維構造体の直径(nm)を示すグラフ。
【
図7】実施例4で得られたシルク繊維立体構造体のFTIRスペクトルを示す。
【
図8】実施例5で得られたシルク繊維立体構造体のFTIRスペクトルを示す。
【
図9】実施例6で得られたシルク繊維立体構造体のFTIRスペクトルを示す。
【
図10】実施例で得られたシルクフィブロイン水溶液(濃度1〜22w/v%)と粘度(mPa・s)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用するシルクタンパク質水溶液を構成するタンパク質は、家蚕が産生するシルク、テンサン、サクサン、タタールサン、シンジュサン等の野蚕が産生するシルク、ミツバチやスズメバチ等の産生するシルク、トビケラ等の水中昆虫が産生するシルク等を用いることができるが、産業上、家蚕が生産するシルクを用いるのが好ましい。以下、家蚕由来のシルクから抽出するフィブロインタンパク質を例として説明するが、本発明で用いるシルクタンパク質はこれに限定されるものではない。原料として用いるシルクタンパク質は、家蚕が産生する繭から抽出するフィブロインタンパク質やセリシンタンパク質を用いても本発明におけるシルク繊維立体構造体を製造することができるし、家蚕の絹糸腺から抽出したシルクタンパク質を用いても良い。以下の説明では、家蚕由来のシルクタンパク質に基づいて説明する。
【0017】
家蚕繭からのフィブロインタンパク質は、公知の方法、例えば、重炭酸ナトリウムと石けんの水溶液中で煮沸するプロセス、炭酸ナトリウム水溶液中で煮沸するプロセス、熱水によるプロセス、酵素を用いるプロセス、加圧加熱(オートクレーブ)を用いるプロセス等の方法で抽出したものを用いることができる。製造プロセスの簡便性や紡糸の安定性の点から熱水によるプロセスが好ましい。重炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液の使用では、フィブロインタンパク質の分解が避けられず、低濃度水溶液からの電界紡糸が困難となる場合もあり、また、酵素の使用やオートクレーブの利用では、高価な酵素や装置が必要となり、工業製造上不利となる。フィブロインタンパク質水溶液の調製は、既知の方法を用いることができるが、例えば臭化リチウム水溶液や塩化カルシウム/エタノール混合水溶液等により溶解し、透析により塩を除きフィブロインタンパク質水溶液とするプロセスが簡便である。
【0018】
紡糸液として用いるためには、作製したシルクタンパク質(フィブロインタンパク質)水溶液のpHを調整する必要がある。このpHの調整には、公知の方法を用いればよいが、例えば、工業生産性や得られた製品の安全性を考慮すると、2〜5M程度の水酸化ナトリウム水溶液を滴下することで調整する方法が好ましい。pHは、8〜12の範囲であれば良いが、好ましくは9〜11、より好ましくは10〜11が良い。pH8未満あるいはpH12を超えると、低濃度シルクタンパク質水溶液による電界紡糸での紡糸が困難となる。
【0019】
紡糸液としては、上記したようなシルクタンパク質水溶液を調製して用いるが、このシルクタンパク質水溶液は、公知の方法を使用して調製できる。例えば、シルクタンパク質をギ酸やトリフルオロ酢酸のような酸に溶解する方法、あるいはヘキサフルオロイソプロパノールのようなフッ素含有有機溶媒に溶解する方法が挙げられる。しかし、再生医療用材料のように人体への使用を考える場合は、シルクタンパク質水溶液を用いることが好ましい。シルクタンパク質水溶液の調製は、公知のいかなる方法を用いても良い。例えば、臭化リチウム水溶液や塩化カルシウム/エタノール混合水溶液等により溶解し、透析により塩を除きフィブロインタンパク質水溶液とするプロセスが簡便である。また、安定的な製造のためには、本明細書中に記載のシルクタンパク質水溶液を用いることが好ましく、紡糸液として用いるためには、作製したシルクタンパク質水溶液のpHを調整する必要がある。
【0020】
本発明で使用するフィブロインタンパク質等のシルクタンパク質水溶液の濃度は、一般的に4w/v%以上22w/v%以下であり、好ましくは4w/v%以上10w/v%未満である。上記したように、4w/v%未満であると、電界紡糸により得られるシルク繊維立体構造体中にビーズが出現し安定したシルク繊維立体構造体の作製が困難となり、22w/v%を超えると、安定な紡糸が困難となる。また、フィブロインタンパク質水溶液の粘度としては、おおよそ20mPa・s〜200mPa・sが、より好ましくは、20〜140mPa・sが、安定したシルク繊維立体構造体の作製に有効である。
【0021】
前記シルクタンパク質水溶液粘度が20mPa・s未満であると、ビーズが発生し、安定したシルク繊維立体構造体が形成出来ず、200mPa・sを超えると、紡糸ノズルの詰まりが生じる危険性がある。
【0022】
さらに、シルクタンパク質(シルクフィブロインタンパク質)水溶液にアルコール等の有機溶剤を添加し表面張力を低下することで、安定した紡糸が可能となる。添加する有機溶剤は、生体安全性や取り扱い性からエタノールが好ましい。添加量は安定した紡糸が可能な量であれば十分であるが、1〜5v/v%が好ましく使用される。また、フィブロインタンパク質水溶液濃度により、シルク繊維立体構造体を構成する繊維の繊維径を調整することが可能であり、本発明の方法において、上記したpH、濃度、粘度を有するシルクタンパク質水溶液を用いると、おおよそ100nm〜500nmの繊維径にコントロールできる。かくして、上記した本発明のシルク繊維立体構造体は、繊維径が100〜500nmであるナノファイバーやマイクロファイバーからなる繊維集合体である。
【0023】
本発明で用いることができる電界紡糸装置は、公知の市販装置、あるいは従来からの知見により設計される様々な形態の公知の装置を使用することができる。電界紡糸時の印加電圧や電極間距離等の条件は装置により異なるが、安定した紡糸が可能な条件を選択するように適宜設定すれば良い。例えば、実施例ではカトーテック社製の電界紡糸装置を用いたが、本発明では公知の市販装置であれば、特に制限されない。
【0024】
本発明により製造されたシルク繊維立体構造体は、そのままでは水に対して溶解する可能性があるため、不溶化処理を行うことで安定化できる。フィブロインタンパク質の不溶化処理は、公知のいかなる方法を用いても良い。製造されたシルク繊維立体構造体を、例えば、メタノールやエタノール等のアルコール水溶液に浸漬する方法や、水蒸気やエタノール等の蒸気に曝露する方法がある。
【0025】
以下、本発明に関し、実施例及び比較例を参照して、より詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例では、家蚕のシルクフィブロイン水溶液を用いている。これは、家蚕から公知の方法により作製した水溶液である。
【実施例1】
【0026】
家蚕繭からのフィブロインタンパク質の抽出:
10gの家蚕繭を裁断し、浴比が1:200になるように沸騰水に入れ、2時間精練を行った。その後、1時間、40℃程度の水を用いて繭を洗浄し、24時間風乾させ、フィブロイン繊維を得た。このときの練減率は以下の式により算出できる。
練減率(%)=(精練前の繭の乾燥重量−精練後の繭の乾燥重量)/精練前の繭の乾燥重量×100
得られたフィブロイン繊維を、9MLiBrを用いて20w/v%になるように24時間かけて溶解し、フィブロイン溶液を得た。この溶液をセルロース製透析膜に入れ、蒸留水を用いて透析を3日間行い、フィブロイン水溶液を得た。その後、得られたフィブロイン水溶液を4〜10w/v%に調節し、pHを5MNaOHで10.5に調節し、エタノールを3w/v%になるように添加し、電界紡糸溶液とした。
【実施例2】
【0027】
家蚕繭からのフィブロインタンパク質の抽出:
10gの家蚕繭を裁断し、浴比が1:200になるように沸騰した0.5w/v%の炭酸ナトリウム水溶液に入れ、30分精練を行った。その後、1時間、40℃程度の水を用いて繭を洗浄し、24時間風乾させ、フィブロイン繊維を得た。
【0028】
得られたフィブロイン繊維を、9MLiBrを用いて20w/v%になるように24時間かけて溶解し、フィブロイン溶液を得た。この溶液をセルロース製透析膜に入れ、蒸留水を用いて透析を3日間行い、フィブロイン水溶液を得た。その後、得られたフィブロイン水溶液の濃度を8〜16w/v%に調節し、pHを5MNaOHで10.5に調節し、エタノールを3w/v%になるように添加し、電界紡糸溶液とした。
【実施例3】
【0029】
家蚕繭からのフィブロインタンパク質の抽出:
10gの家蚕繭を裁断し、浴比が1:200になるように沸騰した2.5w/v%の炭酸ナトリウム水溶液に入れ、30分精練を行った。その後、1時間、40℃程度の水を用いて繭を洗浄し、24時間風乾させ、フィブロイン繊維を得た。
【0030】
得られたフィブロイン繊維を、9MLiBrを用いて20w/v%になるように24時間かけて溶解し、フィブロイン溶液を得た。この溶液をセルロース製透析膜に入れ、蒸留水を用いて透析を3日間行い、フィブロイン水溶液を得た。その後、得られたフィブロイン水溶液を14〜22w/v%に調節し、pHを5MNaOHで10.5に調節し、エタノールを3w/v%になるように添加し、電界紡糸溶液とした。
【実施例4】
【0031】
電界紡糸による紡糸:
実施例1で得られたフィブロイン水溶液をカトーテック社製の電界紡糸装置を用いて紡糸を行った。ノズルの内径は0.8mm、印加電圧は15kv、紡糸距離は18cmに設定した。また、繊維のコレクタ電極上に、繊維を剥がしやすくするためにキッチンペーパーを用いた。
図1に本実施例で作製したシルク繊維立体構造体を示した。
図1(a)は4w/v%フィブロイン水溶液を用いた場合であり、
図1(b)は5w/v%フィブロイン水溶液を用いた場合であり、
図1(c)は6w/v%フィブロイン水溶液を用いた場合であり、
図1(d)は7w/v%フィブロイン水溶液を用いた場合であり、
図1(e)は8w/v%フィブロイン水溶液を用いた場合であり、
図1(f)は9w/v%フィブロイン水溶液を用いた場合であり、
図1(g)は10w/v%フィブロイン水溶液を用いた場合である。4w/v%以上10w/v%以下の濃度のフィブロイン水溶液を用いれば、繊維立体構造体が形成していることが分かる。
図2には、繊維径を示した。
図2から明らかなように、フィブロイン水溶液濃度の上昇(4w/v%から10w/v%への上昇)に従い、繊維径が太くなる傾向が判明した。
【実施例5】
【0032】
電界紡糸による紡糸:
実施例2で得られたフィブロイン水溶液をカトーテック社製の電界紡糸装置を用いて紡糸を行った。ノズルの内径は0.8mm、印加電圧は15kv、紡糸距離は18cmに設定した。また、繊維のコレクタ電極上にキッチンペーパーを用いた。
図3に本実施例で作製したシルク繊維立体構造体を示したが、8w/v以上16w/v%以下の濃度のフィブロイン水溶液を用いれば、シルク繊維立体構造体が形成していることが分かる。
図4には、繊維径を示した。
図4からフィブロイン水溶液濃度の上昇(10w/v%から16w/v%への上昇)に従い、繊維径が太くなる傾向が判明した。
【実施例6】
【0033】
電界紡糸による紡糸:
実施例3で得られたフィブロイン水溶液をカトーテック社製の電界紡糸装置を用いて紡糸を行った。ノズルの内径は0.8mm、印加電圧は15kv、紡糸距離は18cmに設定した。また、繊維のコレクタ電極上にキッチンペーパーを用いた。
図5に本実施例で作製したシルク繊維立体構造体を示したが、14w/v%(
図5(a))及び16w/v%(
図5(b))の濃度のフィブロイン水溶液を用いれば、シルク繊維立体構造体が形成していることが分かる。
図6には、繊維径を示した。フィブロイン水溶液濃度の上昇(16w/v%から22w/v%への上昇)に従い、繊維径が太くなる傾向が判明した。
【実施例7】
【0034】
シルク繊維立体構造体中のフィブロインの構造(FTIR):
実施例4で5w/v%フィブロイン水溶液から得られたシルク繊維立体構造体を、メタノールに浸漬することにより水不溶化処理を行った後のFTIRスペクトルを
図7に示す。アミドIのバンドに1620cm
−1のピーク、アミドIIのバンドに1514cm
−1のピークが現れ、結晶化の指標であるβシート構造の形成が確認でき、また、24時間の耐水性試験では水への溶解が無いことが判明した。この水不溶化処理は、メタノールへの浸漬処理を10分行った後,24時間の耐水性試験を行った。その結果、質量低下が無く、繊維構造を維持していた場合に、耐水性が付与されたと判断した。水中環境下でシルク繊維立体構造体を使用する場合は、不溶化処理は必須である。また、他のフィブロイン水溶液濃度でも同様なFTIRスペクトルを示すことは明らかである。
【0035】
なお、水不溶化処理をしないと、得られるシルク繊維立体構造体は水に溶けやすいので、その場合は、水に溶ける用途や、肌に付けてそのまま溶ける用途等に用いることは可能である。
【実施例8】
【0036】
シルク繊維立体構造体中のフィブロインの構造(FTIR):
実施例5で12w/v%フィブロイン水溶液から得られたシルク繊維立体構造体をメタノールに浸漬することにより水不溶化処理を行った後のFTIRスペクトルを
図8に示す。アミドIのバンドに1620cm
−1のピーク、アミドIIのバンドに1514cm
−1のピークが現れ、結晶化の指標であるβシート構造の形成が確認でき、また、24時間の耐水性試験では水への溶解が無いことが判明した。
【実施例9】
【0037】
シルク繊維立体構造体中のフィブロインの構造(FTIR)
実施例6で16w/v%フィブロイン水溶液から得られたシルク繊維立体構造体をメタノールに浸漬することにより水不溶化処理を行った後のFTIRスペクトルを
図9に示す。アミドIのバンドに1620cm
−1のピーク、アミドIIのバンドに1514cm
−1のピークが現れ、結晶化の指標であるβシート構造の形成が確認でき、また、24時間の耐水性試験では水への溶解が無いことが判明した。
【実施例10】
【0038】
実施例1におけるフィブロイン水溶液のpHを調節して実施例1から3の操作を繰り返し、得られたフィブロイン水溶液を用いて、実施例4から6に記載した方法に準じて紡糸を行い、かくしてシルク繊維立体構造体の形成の有無を調べた。その結果を表1にまとめたが、pHが10.5以上において安定なシルク繊維立体構造体が形成された(4w/v%から22w/v%のシルクフィブロイン水溶液濃度)。表1において、○:安定なシルク繊維構造体が作製でき、△:若干ビーズ構造を有する繊維構造体が作製でき、×:安定なシルク繊維立体構造体が作製できなかった。
【0039】
【表1】
【実施例11】
【0040】
実施例1から3に記載した操作に準じて、フィブロイン水溶液を得、実施例4から6に記載した方法に準じて紡糸を行い、かくしてシルク繊維立体構造体を形成した。その際のシルクフィブロイン水溶液の濃度(w/v%)と粘度(mPa・s)との関係を
図10に示す。
図10において、横軸は、シルクフィブロイン水溶液の濃度(1〜22w/v%)であり、縦軸は、その粘度(mPa・s)である。
図10において、(○)は実施例1のシルクフィブロイン水溶液(濃度:4〜10w/v%)の粘度を示し、(△)は実施例2のシルクフィブロイン水溶液(濃度:8〜16w/v%)の粘度を示し、(□)は実施例3のシルクフィブロイン水溶液(濃度:14〜22w/v%)の粘度を示す。
図10から明らかなように、濃度4w/v%の時に粘度20mPa・sであり、濃度8w/v%の時に粘度140mPa・sであった。
【0041】
実施例1、2及び3におけるフィブロイン水溶液の粘度が20mPa・s〜140mPa・sの範囲内の時に繊維化したことが確認された。実施例1における9、10w/v%のフィブロイン水溶液(
図10のデータから判断して20mPa・s以内である)の時に繊維化したことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、特定のシルク繊維立体構造体を提供できるので、皮膚再生や血管再生等の生体組織再生における細胞足場材料等の再生医療用材料や、創傷保護や治癒促進のための創傷被覆材等の医療用分野や、フェースパックや皮膚保湿材等のエステティックや化粧分野、マスク等の衛生材料分野、あるいは、微細粒子捕捉や水質浄化用のフィルター等の産業分野において利用可能である。