(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、検討を行なった。その結果、前述した特許文献1に記載の製造方法のうち、特に粘稠な亜リン酸アルミニウムスラリーを得る工程(詳細には、亜リン酸水溶液に水酸化アルミニウムなどのアルミナ水和物を添加して反応させ、反応生成物である粘稠性液体の亜リン酸アルミニウムを得る工程)が粒径の制御に大きく関与しており、粒子サイズ(平均直径)がおおむね、0.5〜15μmの微細なアルミナ水和物を原料として用い、反応温度を50〜90℃、反応生成物の濃度を55〜90質量%に適切に制御すれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
例えば製造方法の一例として、上記粒子サイズの水酸化アルミニウムを用意して、亜リン酸:水酸化アルミニウムのモル比率が3.0:1.5〜3.0:2.5となるように撹拌機に投入して混合した後、50〜90℃で撹拌を行ってスラリー状態から粘稠性の液体へと進行させ、得られた亜リン酸アルミニウムを120〜200℃で1〜48時間乾燥する方法が挙げられる。この場合の反応生成物の濃度は、55〜90質量%が好ましい。但し、本発明の亜リン酸アルミニウムを製造する方法はこの方法に限定されない。
【0015】
これに対し、粒子サイズが上記範囲を超える大きなアルミナ水和物を原料として用いた場合や、反応温度および反応生成物の濃度(特に反応生成物の濃度が上記範囲から外れた場合、所望とする亜リン酸アルミニウムは全く得られず、D
50などの粒度分布が大きくなることが分かった(後記する実施例の欄を参照)。
【0016】
(本発明の亜リン酸アルミニウム)
本発明の亜リン酸アルミニウムは、粒度分布におけるD
50、D
90、D
100のいずれも小さく、嵩比重も小さい点で、特許文献1に記載の亜リン酸アルミニウム(以下、従来例と呼ぶ場合がある。)と相違する。更に本発明の亜リン酸アルミニウムは、樹脂と配合したときの分散性が従来例に比べて優れている。そのため、上記亜リン酸アルミニウムを含む樹脂組成物は、従来例に比べて流動性に優れ、且つ、機械的強度も高い。よって、本発明の亜リン酸アルミニウムを用いれば、塗料製造時における混和作業などの作業性の更なる向上、顔料などの添加剤の更なる高濃度配合化、塗料の塗布時における作業性の更なる向上、塗料の防火効果の更なる向上などの効果が得られる。更に本発明の亜リン酸アルミニウムを用いれば、フィルムや繊維などの薄膜材料への添加も可能となる。
【0017】
以下、本発明の亜リン酸アルミニウムについて、従来例と対比しつつ詳しく説明する。
【0018】
(粒度分布)
本発明の亜リン酸アルミニウムにおける粒度分布は、D
50=1.0〜5.0μm、D
90=3.0〜15.0μm、D
100=5.0〜30.0μmを満足する。D
50について、好ましい下限は1.5μm、より好ましい下限は2.0μmであり、好ましい上限は4.5μm、より好ましい上限は4.0μmである。D
90について、好ましい下限は3.5μm、より好ましい下限は5.0μmであり、好ましい上限は13.5μm、より好ましい上限は10.0μmである。D
100について、好ましい下限は7.0μm、より好ましい下限は8.0μmであり、好ましい上限は25.0μm、より好ましい上限は20.0μm、更により好ましい上限は18.0μm、更により一層好ましい上限は15.0μmである。D
50、D
90、D
100の各値は、体積基準の粒度分布曲線(積算%)において、累積50%、90%、100%となるときの粒径をそれぞれ意味する。このうちD
50は亜リン酸アルミニウムの平均粒径(平均直径)を意味し、D
100は亜リン酸アルミニウムの最大粒径を意味する。これらは、レーザー回折方式の粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)の商品名:マイクロトラックMT3000II)を用いて粒度分布を測定し、体積基準による累積分布を用いて粒度分布を評価したときの値である。
【0019】
これに対し、従来例の亜リン酸アルミニウムにおける粒度分布を上記と同様に測定したときの値は、D
50=15.0〜40.0μm、D
90=25.0〜55.0μm、D
100=60.0μm以上であり、本発明に比べて、D
50、D
90、D
100の各値は大きく、粒度分布は非常に広い。よって、本発明によれば、従来よりも総じて粒径が小さく、且つ、粒度分布が狭い亜リン酸アルミニウムを提供できることが分かる。
【0020】
(嵩比重)
本発明の亜リン酸アルミニウムにおける嵩比重は、0.5〜0.7g/mLを満足する。好ましくは、0.55〜0.65g/mLである。嵩比重は、JIS R6126(1970)に記載の人造研磨材のかさ比重試験方法に基づいて測定した。これに対し、従来例の亜リン酸アルミニウムにおける嵩比重を上記と同様に測定したときの値は、0.7g/mL超、0.8g/mL以下と、本発明に比べて大きい。嵩比重が小さい程、粒径が小さいことを意味する。このように本発明の亜リン酸アルミニウムは、粒度分布だけでなく、嵩比重も小さく制御されているため、分散性、難燃性などが向上する点で極めて有用である。
【0021】
(分散性)
本発明の亜リン酸アルミニウムは、従来例に比べて樹脂と配合したときの分散性に優れている。詳細には、熱可塑性樹脂100質量部に本発明の亜リン酸アルミニウムを20質量部添加し、二軸混練押出機を用いてコンパウンドペレットを作製したときの状態をSEMで観察し(観察倍率300倍または1000倍)、一視野(0.02mm
2)当たりの個数密度を観察する。同様の操作を合計4視野で行ない、その平均を算出したとき、60000〜70000個/mm
2であることが好ましい。より好ましくは65000〜70000個/mm
2である。
【0022】
これに対し、従来例の亜リン酸アルミニウムにおける個数密度を上記と同様に測定したときの値は、300〜1000個/mm
2であり、本発明に比べて非常に小さい。このことは、従来例は本発明に比べて、樹脂と配合したときの分散性に劣っており、その結果、機械的強度などの低下を招く。
【0023】
参考のため、
図1に、本発明例と比較例のSEM写真の結果を対比して示す。
図1の(a)は比較例の写真であり、左図は300倍の結果、右図は1000倍の結果をそれぞれ示す。一方、
図1の(b)は本発明例の写真であり、左図は300倍の結果、右図は1000倍の結果をそれぞれ示す。
図1には、熱可塑性樹脂として、ポリアミド6.6樹脂(東レ製のアミランCM3001N)を用いたときの結果を示している。これらの図を対比すると明らかなように、本発明の亜リン酸アルミニウムは、従来例に比べて樹脂に対する分散性に極めて優れていることが分かる。
【0024】
(発泡性)
更に本発明の亜リン酸アルミニウムは、従来例に比べて、より発泡性に優れている。「発泡性」とは、約300℃〜1350℃に加熱したときに発泡するものを意味し、本発明の亜リン酸アルミニウムは、約1200℃まで安定して発泡する。特に本発明の亜リン酸アルミニウムは粒径が非常に小さいため、粒子を細かく粉砕する必要がなく、粉砕処理に伴う発泡量の低下を抑えられるので工業的規模での使用に極めて有用である。すなわち、粒径が大きい場合、粉砕処理が必要となるが、乾式粉砕法や湿式粉砕法などの通常用いられる方法では摩擦などによって粉砕時に発泡する虞がある。また、粉砕処理により一次粒子が破壊されるため、加熱成形時に発泡量が低下してしまう。発泡量の低下を抑制するために振動ミルのような特殊な粉砕機を用いる方法も考えられるが、非常に高価であり、実用的でない。これに対し、本発明の亜リン酸アルミニウムを用いれば、粉砕を省略できるため、上記問題は生じない。
【0025】
更に本発明の亜リン酸アルミニウムは、従来例に比べて難燃性(難燃効率)に優れている。特に本発明の亜リン酸アルミニウムを用いれば、同程度の難燃効果を得るための量を減らせるといった作用効果が得られる(後記する実施例を参照)。
【0026】
(本発明の樹脂組成物)
本発明の亜リン酸アルミニウムは、樹脂組成物用難燃剤として有用である。すなわち、本発明の樹脂組成物は、樹脂、および上記の亜リン酸アルミニウムを含有する。
【0027】
(亜リン酸アルミニウム)
亜リン酸アルミニウムの詳細は前述したとおりである。亜リン酸アルミニウム添加による上記作用を有効に発揮させるため、樹脂組成物100質量部に対する亜リン酸アルミニウムの含有比率は、5〜40質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると上記亜リン酸アルミニウムの添加効果が有効に発揮されず、難燃性が低下する。一方、上記比率を超えると混練作業が困難になる。上記含有比率は、より好ましくは11〜25質量部である。
【0028】
(樹脂)
本発明では、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィンオキシド樹脂、ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましく用いられ、ポリアミド樹脂またはポリエステル樹脂がより好ましく用いられる。前述したように本発明は上記亜リン酸アルミニウムを用いた点に特徴があり、使用する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。例えば、特表2013−538926号公報に記載のポリアミドまたはポリエステルを用いることができる。
【0029】
上記樹脂は市販品を用いても良く、例えば、ノバデュラン5010R5(三菱エンジニアプラスチック製)、アミランCM3001N(東レ製)などが用いられる。
【0030】
本発明において、樹脂組成物100質量部に対する樹脂の含有比率は、40〜85質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると混錬トルクが上昇し、作業性が著しく低下する。一方、上記比率を超えると、所望とする難燃性が得られない。上記含有比率は、より好ましくは50〜80質量部である。
【0031】
本発明の上樹脂組成物は、更に以下の添加剤を含有しても良い。
【0032】
例えば樹脂の強度、剛性などを補強する目的で無機充填材を更に含有しても良い。前述したように本発明の特徴は上記亜リン酸アルミニウムを用いた点にあり、無機充填材の種類は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、アラミド繊維、マイカ、タルク、カオリン、ワラストナイトなど通常用いられるものを使用することができる。これらは単独で用いても良いし、二種以上の混合物を用いても良い。これらのなかでも、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、およびこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0033】
上記無機充填材は市販品を用いても良く、例えば、ECS03−631K(セントラルグラスファイバー株式会社製)などが用いられる。
【0034】
本発明において、樹脂組成物100質量部に対する無機充填材の含有比率は、5〜60質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると無機充填材の添加効果が有効に発揮されず、樹脂の強度等の補強が困難となる。一方、上記比率を超えると混錬作業が困難になる。上記含有比率は、より好ましくは10〜45質量部である。
【0035】
或は、上記樹脂組成物の難燃性を高める目的で、ホスフィン酸塩を含有しても良い。上記ホスフィン酸塩の種類は特に限定されないが、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、イソブチルメチルホスフィン酸、オクチルメチルホスフィン酸、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などが挙げられる。これらのうち、価格や取扱い面などを考慮すると、ジエチルホスフィン酸が好ましく用いられる。
【0036】
上記ホスフィン酸塩は、上述したホスフィン酸の塩であり、例えばカルシウム塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。
【0037】
本発明に用いられるホスフィン酸塩のうち、難燃性、電気特性のバランスなどを考慮すると、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムがより好ましい。
【0038】
上記ホスフィン酸塩は市販品を用いても良く、例えば、Exolit OP−1230(クラリアント社製)などが用いられる。
【0039】
本発明において、樹脂組成物100質量部に対するホスフィン酸塩の含有比率は、15〜50質量部であることが好ましい。上記比率を下回るとホスフィン酸塩添加による難燃性向上作用が有効に発揮されない。一方、上記比率を超えると混錬トルクが上昇し、作業性が著しく低下する。上記含有比率は、より好ましくは20〜30質量部である。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、例えば塗料、接着剤、電気電子部品、自動車、建築物内装品などの様々な分野に適用可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
実施例1
本実施例では、表1に記載の条件で種々の亜リン酸アルミニウムを製造したときの、粒子径および嵩比重を比較検討した。
【0043】
(表1のNo.1)
60L容量の撹拌機に亜リン酸10kg、水酸化アルミニウム(粒子サイズ:平均直径1μm)7kg、水5.3kgを入れ、温度を60℃に維持しながら、反応生成物濃度が68質量%になるまで撹拌混合した。その後、温度を80℃に加温して3時間撹拌を続けて、得られた固形物を200℃で40時間乾燥して粉末を得た。
このようにして得られたNo.1の亜リン酸アルミニウムについて、前述した方法に基づいて粒度分布および嵩密度を測定した。これらの結果を表1に併記する。
【0044】
(表1のNo.2〜9)
前述したNo.1において、原料として使用した水酸化アルミニウムの平均直径、水の添加量、および反応生成物の濃度を表1のように変更したこと以外は上記No.1と同様にして、No.2〜9の亜リン酸アルミニウムを得た。これらについて、前述した方法に基づいて粒度分布および嵩密度を測定した。これらの結果を表1に併記する。
【0045】
【表1】
【0046】
表1において、No.1〜6は本発明の好ましい条件で亜リン酸アルミニウムを製造した例であり、いずれも、本発明で規定する粒子径および嵩比重を満足するものが得られた。ここでNo.1〜5は、水の添加量を変えて反応生成物の濃度(反応濃度)を制御した例であり、反応濃度が高くなるにつれ、粒子径および嵩比重が小さくなる傾向にあることが分かる。またNo.1とNo.6とは、原料である水酸化アルミニウムの平均直径のみ相違する例であり、No.1に比べて平均直径の大きい水酸化アルミニウムを用いたNo.6では、粒子径のいずれもが総じて大きくなる傾向にあることが分かる。
【0047】
これに対し、No.7〜9は本発明の好ましい条件で製造しなかったため、粒子径の一部や嵩比重が低下した。
まずNo.7は水の添加量を多くして反応濃度を低くした例であり、D
90、D
100
がいずれも大きくなった。
No.8は原料である水酸化アルミニウムの平均直径が大きい例であり、やはりD
90、D
100が大きくなった。
No.9は平均直径が上記No.8よりも更に大きい水酸化アルミニウムを用い、且つ、上記No.7と同様に水の添加量を多くして反応温度を低くした例であり、D
50、D
90、D
100が全て大きくなると共に嵩比重も大きくなった。
【0048】
実施例2
本実施例では、本発明の亜リン酸アルミニウムを用いれば、難燃効果を得るための量を減らせることを実証する。
【0049】
本実施例に使用した樹脂および亜リン酸アルミニウムを以下に示す。
(樹脂)
・PC(ポリカーボネート樹脂):三菱エンジニアリングプラスチック製のS―2000R
・PC/ABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂):三菱エンジニアリングプラスチック製のPM1220
(亜リン酸アルミニウム)
・比較例:表1のNo.9
・本発明例:表1のNo.1
【0050】
上記の樹脂(PCまたはPC/ABS)および亜リン酸アルミニウム(比較例または本発明例)をそれぞれ表2に記載の質量比率(質量部)となるように配合し、二軸混練押出機LABO PLASTOMILL(東洋精機製)を用いてコンパウンドペレットを作製した後、射出成型機PNX−40(日精樹脂工業製)にて厚さ3.2mmの試験片に加工した。
【0051】
上記試験片を用い、UL規格(Underwriters Laboratories;アメリカ保険業者安全試験所)に準じたJIS K6911の5.24.2(耐燃性、B法)に基づいて難燃性を評価した。
【0052】
難燃性の評価基準は、難燃性の高い順にV−0、V−1、V−1未満である。ここで、V−1未満とは、UL94V試験のV−2以下のものを意味する。
【0053】
これらの結果を表2に併記する。
【0054】
【表2】
【0055】
表2の実験No.1〜3はPCを用いた例であり、亜リン酸アルミニウムを添加しないNo.1に比べて、亜リン酸アルミニウムを添加したNo.2、3では難燃性が向上した。特に本発明の亜リン酸アルミニウムを添加したNo.3は、比較例の亜リン酸アルミニウムを添加したNo.2に比べて、少ない添加量で同程度の難燃性向上効果が得られた。
【0056】
同様の結果は、PC/ABSを用いた表2のNo.4〜6についても見られた。
【0057】
よって、本発明の亜リン酸アルミニウムを用いれば、少ない配合量で樹脂組成物の難燃性を一層向上できる点で非常に有用である。