(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842698
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】有害生物用忌避剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/08 20060101AFI20210308BHJP
A01N 65/00 20090101ALI20210308BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
A01N25/08
A01N65/00 D
A01P17/00
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-95059(P2017-95059)
(22)【出願日】2017年5月11日
(65)【公開番号】特開2018-188409(P2018-188409A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】509034236
【氏名又は名称】合同会社ツリーワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100088096
【弁理士】
【氏名又は名称】福森 久夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 嘉幸
【審査官】
阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−172640(JP,A)
【文献】
特開2001−213705(JP,A)
【文献】
特開2010−280648(JP,A)
【文献】
特開2002−97475(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101347131(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第1810122(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/08
A01N 65/00
A01P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キヌマトイ貝の炭化材に木酢液を含浸させてなる有害生物忌避剤。
【請求項2】
前記炭化材は白炭である請求項1記載の有害生物忌避剤。
【請求項3】
有害生物は松くい虫の線虫である請求項1又は2記載の有害生物用忌避剤。
【請求項4】
含浸させる前記木酢液は、原液を水により2〜3倍(体積)に希釈した液である請求項1ないし3のいずれか1項記載の有害生物用忌避剤。
【請求項5】
キヌマトイ貝を炭化し、キヌマトイ貝の炭化材に木酢液を含浸させることを特徴とする有害生物忌避剤の製造方法。
【請求項6】
耐火性レンガにより構成され、空気導入口及びステンレスからなる煙突が形成された窯の内部に木材とともにキヌマトイ貝を装入し、次いで、酸素が不十分な状態で前記木材を加熱して、前記キヌマトイ貝を炭化する請求項5記載の有害生物忌避剤の製造方法。
【請求項7】
製炭工程の最後に、窯内に空気を送り、まだ燃えている炭材を窯の外に引き出して高温精錬する請求項6記載の有害生物忌避剤の製造方法。
【請求項8】
前記加熱温度は、1000〜1200℃である請求項6又は7に記載の有害生物用忌避剤の製造方法。
【請求項9】
含浸させる前記木酢液は、原液を水により2〜3倍(体積)に希釈した液である請求項6ないし8のいずれか1項記載の有害生物忌避剤の製造方法。
【請求項10】
含浸させる前記木酢液は、前記キヌマトイ貝を炭化する際に得られた木酢液である請求項6ないし9のいずれか1項記載の有害生物忌避剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害生物用忌避剤及びその製造方法に係る。より詳細には、産業廃棄物として廃棄されているキヌマトイを有効利用した有害生物用忌避剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、松枯れ問題に対する対策として薬剤の散布等の対策がとられている。しかし、散布した薬剤は、雨などにより流されてしまうため効果が長続きしない。忌避効果を長続きさせるための技術として特許文献1では、散布後、その場でゲル化する様に、常温(30℃以下)で固化する低温固化型カラギーナンを用いて溶液を作製し、木酢液、竹酢液、酢酸、乳酸(C
3H
6O
3)及びその化合物、クエン酸等の原液を、或いはそれらの希釈液を作製し、前記カラギーナン溶液と混合して、ヤマビル等有害生物用忌避材を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−120608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載技術では、低温固化型カラギーナンを用いざるを得ず、そのためにコスト高とならざるを得ない。
本発明は、安価であり、雨で流されることなく効果が長続きする有害生物用忌避剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、キヌマトイ貝の炭化材に木酢液を含浸させてなる有害生物忌避剤である。
前記炭化材は白炭であることが好ましい。
有害生物は松くい虫の線虫であることが好ましい。
含浸させる前記木酢液は、原液を水により2〜3倍(体積)に希釈した液であることが好ましい。
本発明は、キヌマトイ貝を炭化し、キヌマトイ貝の炭化材に木酢液を含浸させることを特徴とする有害生物忌避剤の製造方法である。
耐火性レンガにより構成され、空気導入口及びステンレスからなる煙突が形成された窯の内部に木材とともにキヌマトイ貝を装入し、次いで、酸素が不十分な状態で前記木材を加熱して、前記キヌマトイ貝を炭化することが好ましい。
製炭工程の最後に、窯内に空気を送り、まだ燃えている炭材を窯の外に引き出して高温精錬することが好ましい。
加熱温度は、1000〜1200℃が好ましい。
含浸させる前記木酢液は、原液を水により2〜3倍(体積)に希釈した液が好ましい。
含浸させる前記木酢液は、前記キヌマトイ貝を炭化する際に得られた木酢液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、安価であり、雨で流されることなく効果が長続きする有害生物用忌避剤を提供することができる。 キヌマトイ貝を炭化すると木酢液の良好な担持媒体となる。 炭化して得られるキヌマトイ貝の炭化材は、平均1cm程度の寸法と適度の重量を有しているため、空中から散布しても浮遊して目的箇所から大きく逸れるということもない。また、地面に着地後においても雨により流されて目的地から移動してしまうことも少ない。しかも、従来産業廃棄物として廃棄されたいたものを利用するため特許文献1記載の忌避材に比べ低コストである。 特許文献1とは異なり、木酢液の担持媒体が微細な孔を多数有する多孔質体であるため木酢液は徐々に外部に出され、忌避効果は永続的である。また、細孔内に木酢液を担持しているため雨によっても木酢液は担持媒体から流され難い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明を実施するための形態を述べる。
本発明の有害生物用忌避剤は、キヌマトイ貝の炭化材に木酢液を含浸させてなる。
【0008】
(キヌマトイ貝)キヌマトイガイは、天然ホヤ、またはイワガキ、海藻の根や岩、貝類などに付着してくる。例えば青森県産の天然マボヤの付着部分に張り付いている。大きさは1センチほどであり、微少な貝である。 海藻の根、ホヤ、貝類を出荷するためにこれらから付着キヌマトイ貝を剥離する。剥離したキヌマトイ貝は現在のところ商品価値はなく産業廃棄物として廃棄される。本発明では、産業廃棄物として廃棄されるキヌマトイ貝の有効利用を図るものである。
【0009】
(炭化)本発明ではキヌマトイ貝を炭化する。炭化は、空気が入らない蒸し焼き状態にして、酸素と炭素が結合せずに水蒸気やガス分だけを抜かして炭素成分だけ残す処理である。例えば、次の手順により炭化処理を行えばよい。 窯として、例えば、耐火レンガにより構築され、窯口と、煙突に連通する煙道口を備えた窯を用いる。
【0010】
窯の内部に木材を装入し、その上にキヌマトイ貝を装入する。木材及びキヌマトイ貝が燃焼しないように空気の量と加熱温度を制御しながらキヌマトイ貝の加熱を行うことにより炭化を行う。炭化処理は、他の方法で行ってもよい。例えば、円筒状のキルンを二重構造とし、内部キルンにキヌマトイ貝を装入し、内部を無酸素状態として外部から内部キルンを間接加熱することにより炭化を行ってもよい。なお、上記木材としては、広葉樹が好ましい。広葉樹の中でもブナ、ナラ、ケヤキが好ましい。他の樹木に比べて密度が高く、木酢液の担持上好ましいためと推測される。
【0011】
(白炭)炭化材は、焼き上がり時における火の消し方の相違により黒炭と白炭に分かれる。本発明においては白炭を用いることが好ましい。白炭は、黒炭よりもはるかに忌避効果の持続性が高い。
なお、白炭は、炭やきの仕上げ段階で窯のなかに空気を入れ、ほぼ焼き上っている炭を炭化温度以上の高温(例えば、1300℃以上)で燃やす。高温になった炭を窯口から取り出し、灰と土を混ぜ、水分を含ませた消粉をかぶせて急冷しながら火を消す。白炭は表面に白い灰がつくので白炭と呼ばれる。
白炭は黒炭に比べて固く割れが少ない。そのため、孔の内部に担持された木酢液が割れ目から経時的にも流れ出してしまうことが少なく、忌避効果が黒炭よりも長く持続する。
【0012】
一方、黒炭は、炭化温度で炭化を終え、その段階で窯口や煙道口を石や粘土で密閉する。密閉により窯内の火が消され、そのまま冷やしてから窯口を開き、焼き上がった炭を取り出す。窯が冷えてから窯口を開き、炭を取り出す。白炭とは異なり灰を使用がつかず、表面が黒いので黒炭と呼ばれる。
【0013】
(木酢液)
木酢液は、木材を乾留した際に生じる乾留液の上澄分のことである。炭焼き時に副産物として製造される。木酢液は、外見は赤褐〜暗褐色であり、性状は液体である。ほとんどが水分(80−90%)であるが、木材由来の有機酸(酢酸など)が含まれ弱酸性を示す。それ以外の成分として、アルコール類、カルボニル化合物、あるいはフェノール類やフラン類といった芳香族化合物などが含まれる。
乾留時に得られる乾留液の上澄み液そのまま(粗木酢液)をさらに精製して用いられることが多い。
では、次なる規格を定めている。
・pH:1.5−3.7
・酸度(%):2 〜 12(%)
・比重:1.001以上
【0014】
本発明では、上記規格を満たす木酢液に限るものではなく、次の木酢液も使用することができる。
〈1〉粗木酢液・竹酢液:炭化炉(土窯・レンガ窯など)あるいは乾留炉により、木材・竹材を炭化する時に生じる排煙を冷却・凝縮させた液体。
〈2〉木酢液:粗木酢液を90日以上静置し、上層の軽質油、下層の沈降タールを除いた中層の液体。
〈3〉蒸留木酢液:蒸留木酢液又は木酢液・竹酢液を蒸留したもの。
本発明のキヌマト貝の炭化材を作成する際に生ずる木酢液を使用することが特に好ましい。その理由は明らかではない。
【0015】
キヌマトイ貝の炭化材に木酢液を含浸させる方法は特に限定されない。木酢液中にキヌマトイ貝の炭化材を所定時間浸漬すればよい。炭化材の孔中に木酢液をできるだけ多く担持させるためには
1分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。1時間を超えても効果は飽和するため1時間以下が好ましい。
木酢液は原液をそのままの濃度で使用してもよいが希釈して用いることが好ましい。希釈倍率は2−5倍が好ましい。
2倍以下の場合は樹木に焼け等の悪影響を与えるおそれがある。一方、5倍を超えると忌避効果の持続性が低減する。
【実施例】
【0016】
(実施例1)本例では、まず、耐火レンガにより構築され、窯口と、煙突に連通する煙道口を備えた窯を用いて次の手順で炭化を行った。
【0017】
窯の内部に木材を装入し、その上にキヌマトイ貝を装入した。木材としてはナラの薪材を用いた。キムマトイ貝は、天然ホヤ、またはイワガキ、海藻の根や岩、貝類などからに剥離したものを用いた。大きさは5mm−15mmの範囲内にあり、平均では程度の大きさでのキムマトイ貝を薪材の上に装入した。次いで窯口を閉じて空気の窯内部への供給を断った。木材及びキヌマトイ貝が燃焼しないように空気の量と加熱温度を制御しながら窯の昇温を行った。窯の内部の温度が1050℃になった時点で昇温を停止し、1050℃の温度に4日保持して炭化を行った。なお、炭化時間は、木材の種類、炭化装置などにより適宜選択すればよい。
【0018】
本例では、白炭とするために、炭化処理の仕上げ段階で窯口を開けて窯のなかに空気を入れ、ほぼ焼き上っている炭を1300℃で燃やした。次いで高温になった炭を窯口から取り出し、灰と土を混ぜ、水分を含ませた消粉をかぶせて急冷しながら火を消した。
消化後、室温になった時点でフィルターによりキヌマトイ貝の炭化材を選別した。選別されたキヌマトイ貝の炭化材は炭化前のキヌマトイ貝より多少縮小していた。平均では0.9cmの大きさであった。
【0019】
一方、木酢液は市販の木酢液を用意した。その木酢液を水で3倍に希釈した。3倍に希釈した希釈木酢液を容器に入れ、その希釈木酢液にキヌマトイ貝の炭化材を浸漬した。キヌマトイ貝の炭化材の重量増加が飽和するまで浸漬を続けた。
この浸漬により、キヌマトイ貝の炭化材に木酢液が含浸され、有害生物忌避剤ができあがる。
【0020】
この有害生物忌避剤の忌避効果を測定した。
長さ1.8m、幅20cm、高さ15mmの透明な容器を用意し、その内部底に土壌を敷き詰めた。容器の長手方向の一端の土壌上に有害生物忌避剤を置くとともに10匹のカミキリムシを入れ、蓋を閉めて12時間放置した。
12時間経過後と48時間経過におけるカミキリムシの有害生物忌避剤からの距離とカミキリムシの数を測定した。
有害生物忌避剤を使用しない場合は、カミキリムシは容器内にランダムに存在していたが、本例では、12時間経過後と48時間経過後の両場合ともに半数以上が有害生物忌避剤の配置場所から離れた位置にいた。
【0021】
(実施例2)
本例では、キヌマトイ貝の炭化材を黒炭とした。
本例では、黒炭とするために、炭化処理の仕上げ段階で窯口や煙道口を石や粘土で密閉した。密閉により窯内の火が消され、そのまま冷やしてから窯口を開き、焼き上がった炭を取り出した。
他の点は実施例1と同様として有害生物忌避剤を作成した。
また、実施例1と同様に忌避効果の測定を行った。
本例では、12時間経過後においては、実施例1と同様の結果が得られたが、48時間経過後においては、実施例1の場合より有害生物忌避剤の配置場所から離れた位置にいるカミキリムシの数は少なかった。
【0022】
(実施例3) 本例では、炭化温度を変化させて炭化を行った。 すなわち、炭化温度を、900℃、950℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃、1200℃、1250℃と変化させた。 他の点は実施例1と同様として有害生物忌避剤を作成した。 また、実施例1と同様に忌避効果の測定を行った。 炭化温度が1000℃未満の場合には、木酢液の含浸処理を行っても木酢液の含浸量が少なく、また、忌避効果は1000℃以上の場合に比べて、劣っていた。
【0023】
(実施例4)
本例では、木酢液の希釈率を変えた。
すなわち、希釈率を0倍(原液)、2倍、3倍、5倍、10倍と変化させた。
他の点は実施例1と同様として有害生物忌避剤を作成した。
また、それぞれの有害生物忌避剤につき、実施例1と同様に忌避効果の測定を行った。
希釈率が5倍を超えると、忌避効果は急激に低下した。
【0024】
(実施例5)
本例では、木酢液として、キヌマトイ貝を炭化する際に発生したガスから得られた木酢液を使用した。
他の点は実施例1と同様にして有害生物忌避剤を作成した。
また、この有害生物忌避剤につき、実施例1と同様に忌避効果の測定を行った。
本例では、12時間経過後と48時間経過後の両場合ともに実施例1の場合よりも優れた忌避効果を示した。その理由は不明である。