特許第6842699号(P6842699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842699プラズマ処理検知用組成物及びそれを用いたプラズマ処理検知インジケータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842699
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】プラズマ処理検知用組成物及びそれを用いたプラズマ処理検知インジケータ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/037 20140101AFI20210308BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   C09D11/037
   H01L21/30 572A
   !H01L21/302 103
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-100743(P2017-100743)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-193514(P2018-193514A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菱川 敬太
(72)【発明者】
【氏名】中村 慶子
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−108371(JP,A)
【文献】 特開2016−111063(JP,A)
【文献】 国際公開第15/170592(WO,A1)
【文献】 国際公開第14/091949(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−11/54
H01L 21/00−21/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理により変色する変色層を形成するための組成物であって、
プラズマ環境下で変色する複合酸化物粒子、及びバインダー樹脂を含有し、
前記複合酸化物粒子は、バナジウム−ビスマス複合酸化物粒子、チタン−ビスマス複合酸化物粒子、モリブデン−ビスマス複合酸化物粒子、タングステン−ビスマス複合酸化物粒子、カルシウム−チタン複合酸化物粒子及びカリウム−チタン複合酸化物粒子からなる群から選択される少なくとも一種である
ことを特徴とするプラズマ処理検知用組成物。
【請求項2】
前記複合酸化物粒子は、平均粒子径が50μm以下である、請求項1に記載のプラズマ処理検知用組成物。
【請求項3】
複合酸化物ではない金属酸化物粒子を更に含有する、請求項1又は2に記載のプラズマ処理検知用組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂は、石油系炭化水素樹脂、ビニル樹脂、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ホルマリン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ケトン樹脂、ポリアミド樹脂、マレイン酸樹脂、クマロン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及び脂環族樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物。
【請求項5】
前記バインダー樹脂は、軟化点が70℃以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物。
【請求項6】
前記バインダー樹脂の含有量は、前記組成物に含まれる固形分の重量を100重量%として6重量%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物。
【請求項7】
基材上に、請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物の硬化塗膜から形成される変色層を有するプラズマ処理検知インジケータ。
【請求項8】
電子デバイス製造装置で使用するインジケータである、請求項7に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【請求項9】
プラズマの電子密度Neが1.0E10以上であるプラズマ処理に適用される、請求項7又は8に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【請求項10】
前記インジケータの形状が、前記電子デバイス製造装置で使用される電子デバイス基板の形状と同一である、請求項8又は9に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【請求項11】
前記電子デバイス製造装置は、成膜工程、エッチング工程、アッシング工程、不純物添加工程及び洗浄工程からなる群から選択される少なくとも一種のプラズマ処理を行う、請求項8〜10のいずれかに記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【請求項12】
プラズマ処理により変色しない非変色層を有する、請求項7〜11のいずれかに記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【請求項13】
前記非変色層は、酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化イットリウム(III)、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、アルミナ、アルミニウム、銀、イットリウム、ジルコニウム、チタン及び白金からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、請求項12に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【請求項14】
前記基材上に、前記非変色層及び前記変色層が順に形成されており、前記非変色層が、前記基材の主面上に隣接して形成されており、前記変色層が、前記非変色層の主面上に隣接して形成されている、請求項12又は13に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理検知用組成物及びそれを用いたプラズマ処理検知インジケータに関し、特に電子デバイス製造装置で使用するインジケータとして有用な、変色成分として無機物質を使用したプラズマ処理検知用組成物及びそれを用いたプラズマ処理検知インジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子デバイスの製造工程では、電子デバイス基板(被処理基板)に対して各種の処理を行う。例えば、電子デバイスが半導体である場合、半導体ウエハ(ウエハ)を投入した後、絶縁膜や金属膜を形成する成膜工程、フォトレジストパターンを形成するフォトリソグラフィ工程、フォトレジストパターンを使って膜を加工するエッチング工程、半導体ウエハに導電層を形成する不純物添加工程(ドーピング又は拡散工程ともいう)、凹凸のある膜の表面を研磨し平坦にするCMP工程(化学的機械的研磨)等を経て、パターンのでき映えや電気特性をチェックする半導体ウエハ電気特性検査を行う(ここまでの工程を総称して前工程という場合がある)。次いで、半導体チップを形成する後工程に移行する。このような前工程は、電子デバイスが半導体である場合だけでなく、他の電子デバイス(発光ダイオード(LED)、太陽電池、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等)を製造する上においても同様に行われる。
【0003】
前工程では、上述した工程の他、プラズマ、オゾン、紫外線等での洗浄工程;プラズマ、ラジカル含有ガス等によるフォトレジストパターンの除去工程(アッシング又は灰化除去ともいう);などの工程が含まれる。また、上記成膜工程においては、ウエハ表面で反応性ガスを化学反応させ成膜するCVDや、金属膜を形成するスパッタリング等があり、また上記エッチング工程においては、プラズマ中での化学反応によるドライエッチング、イオンビームによるエッチング等が挙げられる。ここで、プラズマとはガスが電離した状態を意味し、イオン、ラジカル及び電子がその内部に存在する。
【0004】
電子デバイスの製造工程では、電子デバイスの性能、信頼性等を確保するために上記の各種の処理が適切に行われる必要がある。そのため、例えば、成膜工程、エッチング工程、アッシング工程、不純物添加工程、洗浄工程等に代表されるプラズマ処理では、プラズマ処理の完了を確認するために、プラズマ処理雰囲気下で変色する変色層を有するプラズマ処理検知インジケータを用いた完了確認等が実施されている。
【0005】
プラズマ処理検知インジケータの例としては、特許文献1、2等に変色層の変色によりプラズマ処理の完了を確認できるインジケータが開示されている。しかしながら、これらの特許文献に記載されたインジケータは変色材料が有機色素であり、有機色素がプラズマ処理によってガス化したり微細な屑となって飛散したりして電子デバイス製造装置の高い清浄性の低下や電子デバイスの汚染(コンタミネーション)につながること、有機色素のガス化が電子デバイス製造装置の真空性に影響を与えること、更には有機色素の耐熱性が不十分であること等の懸念がある。
【0006】
上記懸念を改善するために、特許文献3には、変色材料が無機物質であるプラズマ処理検知インジケータが提案されている。具体的には、特許文献3には、酸化モリブデン粒子(IV)、酸化モリブデン粒子(VI)、酸化タングステン粒子(VI)、酸化スズ粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(II)、酸化バナジウム粒子(III)、酸化バナジウム粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(V)、酸化セリウム粒子(IV)、酸化テルル粒子(IV)、酸化ビスマス粒子(III)、炭酸酸化ビスマス粒子(III)及び酸化硫酸バナジウム粒子(IV)からなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物粒子を変色材料として用いることが開示されている(なお、特許文献3には金属酸化物粒子として複合酸化物粒子は開示されていない。)。
【0007】
このような変色材料が無機物質であるインジケータは、上記懸念を改善する点では非常に有用であるが、以下のような課題がある。つまり、特許文献3のインジケータは、比較的弱いプラズマ(プラズマの電子密度Neが1.0E8以上1.0E10未満)の場合にはプラズマ処理検知に際してプラズマ強度を変色色差(ΔE)から把握することができるが、比較的強いプラズマ(プラズマの電子密度Neが1.0E10以上)の場合にはプラズマ処理検知に際して変色色差(ΔE)が変色閾値の最大値を示しプラズマ強度を把握することができない。
【0008】
よって、プラズマ処理により変色する変色層を有するインジケータであって、変色材料として無機物質を使用し、且つ、比較的強いプラズマ(プラズマの電子密度Neが1.0E10以上)を用いてプラズマ処理する場合でもプラズマ処理検知に際してプラズマ強度を変色色差(ΔE)から把握することができるインジケータの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-98196号公報
【特許文献2】特開2013-95764号公報
【特許文献3】特開2016-108371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、プラズマ処理により変色する変色層を形成するための組成物であって、変色材料として無機物質を使用し、且つ、比較的強いプラズマ(プラズマの電子密度Neが1.0E10以上)を用いてプラズマ処理する場合でもプラズマ処理検知に際してプラズマ強度を変色色差(ΔE)から把握することができるプラズマ処理検知用組成物を提供することを目的とする。また、前記プラズマ処理検知用組成物を用いたプラズマ処理検知インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の無機物質及びバインダー樹脂を含有する組成物によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のプラズマ処理検知用組成物及びそれを用いたプラズマ処理検知インジケータに関する。
1. プラズマ処理により変色する変色層を形成するための組成物であって、
プラズマ環境下で変色する複合酸化物粒子、及びバインダー樹脂を含有し、
前記複合酸化物粒子は、バナジウム−ビスマス複合酸化物粒子、チタン−ビスマス複合酸化物粒子、モリブデン−ビスマス複合酸化物粒子、タングステン−ビスマス複合酸化物粒子、カルシウム−チタン複合酸化物粒子及びカリウム−チタン複合酸化物粒子からなる群から選択される少なくとも一種である
ことを特徴とするプラズマ処理検知用組成物。
2. 前記複合酸化物粒子は、平均粒子径が50μm以下である、上記項1に記載のプラズマ処理検知用組成物。
3. 複合酸化物ではない金属酸化物粒子を更に含有する、上記項1又は2に記載のプラズマ処理検知用組成物。
4. 前記バインダー樹脂は、石油系炭化水素樹脂、ビニル樹脂、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ホルマリン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ケトン樹脂、ポリアミド樹脂、マレイン酸樹脂、クマロン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及び脂環族樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、上記項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物。
5. 前記バインダー樹脂は、軟化点が70℃以上である、上記項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物。
6. 前記バインダー樹脂の含有量は、前記組成物に含まれる固形分の重量を100重量%として6重量%以下である、上記項1〜5のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物。
7. 基材上に、上記項1〜6のいずれかに記載のプラズマ処理検知用組成物の硬化塗膜から形成される変色層を有するプラズマ処理検知インジケータ。
8. 電子デバイス製造装置で使用するインジケータである、上記項7に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
9. プラズマの電子密度Neが1.0E10以上であるプラズマ処理に適用される、上記項7又は8に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
10. 前記インジケータの形状が、前記電子デバイス製造装置で使用される電子デバイス基板の形状と同一である、上記項8又は9に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
11. 前記電子デバイス製造装置は、成膜工程、エッチング工程、アッシング工程、不純物添加工程及び洗浄工程からなる群から選択される少なくとも一種のプラズマ処理を行う、上記項8〜10のいずれかに記載のプラズマ処理検知インジケータ。
12. プラズマ処理により変色しない非変色層を有する、上記項7〜11のいずれかに記載のプラズマ処理検知インジケータ。
13. 前記非変色層は、酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化イットリウム(III)、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、アルミナ、アルミニウム、銀、イットリウム、ジルコニウム、チタン及び白金からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、上記項12に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
14. 前記基材上に、前記非変色層及び前記変色層が順に形成されており、前記非変色層が、前記基材の主面上に隣接して形成されており、前記変色層が、前記非変色層の主面上に隣接して形成されている、上記項12又は13に記載のプラズマ処理検知インジケータ。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプラズマ処理検知用組成物を用いて得られるプラズマ処理検知インジケータは、変色層に含まれる変色材料としてプラズマ環境下で変色する複合酸化物粒子を使用し、当該変色層はプラズマ処理により複合酸化物粒子の価数が変化することにより化学的に変色し、それによりプラズマ処理を検知することができる。また、比較的強いプラズマ(プラズマの電子密度Neが1.0E10以上)を用いてプラズマ処理する場合でも、徐々に変色する点でプラズマ処理検知に際してプラズマ強度を変色色差(ΔE)から把握することができる。更に、変色材料が無機物質である点で、プラズマ処理により変色層がガス化したり微細な屑となって飛散したりすることが電子デバイス特性に影響を及ぼさない程度に抑制されているだけでなく、電子デバイス製造時のプロセス温度に耐え得る耐熱性を有する。
【0014】
このような本発明のインジケータは、高い清浄性に加えて真空性、高温での処理等が要求される電子デバイス製造装置で使用するプラズマ処理検知インジケータとして特に有用である。なお、電子デバイスとしては、例えば、半導体、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、パワーデバイス、太陽電池、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1で用いた誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)型のプラズマエッチング装置の概略断面図である。なお、図中のTMPは、ターボ分子ポンプ(Turbo-Molecular Pump)の略称を示す。
図2】試験例1で用いた容量結合プラズマ(平行平板型CCP;Capacitively Coupled Plasma)型のプラズマエッチング装置(13.56MHzの高周波電源を使用)の概略断面図である。
図3】試験例1においてプラズマの電子密度Neが1.5E9である場合(比較的弱いプラズマ)の各インジケータのΔEの結果をまとめたグラフである。
図4】試験例1においてプラズマの電子密度Neが4.8E11である場合(比較的強いプラズマ)の各インジケータのΔEの結果をまとめたグラフである。
図5】試験例1においてプラズマの電子密度Neが1.5E12である場合(比較的強いプラズマ)の各インジケータのΔEの結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のプラズマ処理検知用組成物及びプラズマ処理検知インジケータについて詳細に説明する。
【0017】
プラズマ処理検知用組成物
本発明のプラズマ処理検知用組成物(以下、「本発明組成物」ともいう)は、プラズマ処理により変色する変色層を形成するための組成物であって、プラズマ環境下で変色する複合酸化物粒子、及びバインダー樹脂を含有することを特徴とする。
【0018】
本発明組成物を用いて得られるプラズマ処理検知インジケータ(以下、「本発明のインジケータ」ともいう)は、本発明組成物の硬化塗膜である変色層に含まれる変色材料がプラズマ環境下で変色する複合酸化物粒子であり、当該変色層はプラズマ処理により複合酸化物粒子の価数が変化(酸化/還元)することにより化学的に変色し、それによりプラズマ処理を検知することができる。また、比較的強いプラズマ(本明細書においてはプラズマの電子密度Neが1.0E10以上の条件を意味し、逆に電子密度Neが1.0E10未満の条件は比較的弱いプラズマと称する。)を用いてプラズマ処理する場合でも、徐々に変色する点でプラズマ処理検知に際してプラズマ強度を変色色差(ΔE)から把握することができる。更に、変色材料が無機物質である点で、プラズマ処理により変色層がガス化したり微細な屑となって飛散したりすることが電子デバイス特性に影響を及ぼさない程度に抑制されているだけでなく、電子デバイス製造時のプロセス温度に耐え得る耐熱性を有する。
【0019】
本発明組成物は、プラズマ環境下で変色する複合酸化物粒子及びバインダー樹脂を含有する。その他、バインダー樹脂を溶解するために溶剤を含有し、更に任意成分として本発明の効果に影響を与えない範囲で増粘剤などの公知の添加剤を含有することができる。以下、本発明組成物を構成する各成分について説明する。
(プラズマ環境下で変色する複合酸化物粒子)
複合酸化物粒子(変色材料)としては、金属酸化物2種以上が化合物をつくった形の酸化物であって、且つプラズマ環境下で変色する材料であれば特に限定されない。
【0020】
複合酸化物粒子に含まれる金属酸化物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属の酸化物が挙げられ、特に遷移金属の酸化物が含まれることが好ましい。なお、複合酸化物粒子中には非金属の酸化物が含まれていてもよい。
【0021】
複合酸化物粒子は、例えば、金属として、ビスマス、チタン、バナジウム、チタン、モリブデン、タングステン、カルシウム、イットリウム、マンガン、ニッケル、鉄、テルル、スズ、銅、亜鉛、ナトリウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、セレン、コバルト、セリウム及びカリウムからなる群から選択される二種以上を含有することが好ましい。このような複合酸化物粒子の具体例としては、例えば、バナジウム−ビスマス(V-Bi)複合酸化物粒子、チタン−ビスマス(Ti-Bi)複合酸化物粒子、モリブデン−ビスマス(Mo-Bi)複合酸化物粒子、タングステン−ビスマス(W-Bi)複合酸化物粒子、カルシウム−チタン(Ca-Ti)複合酸化物粒子及びカリウム−チタン(K-Ti)複合酸化物粒子からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの複合酸化物粒子の中でも、特にバナジウム−ビスマス(V-Bi)複合酸化物粒子が好ましい。
【0022】
複合酸化物粒子は、分子中に若干の結晶水を有するものも許容されるが、水分子(水分ガス)放出の可能性があるので結晶水は含まれない方が好ましい。
【0023】
本発明では、プラズマ処理により複合酸化物粒子の価数が変化(酸化/還元)することで化学的に変色が生じる。かかる複合酸化物粒子は、従来の変色材料である有機色素とは異なり、プラズマ処理によりガス化したり微細な屑となって飛散したりすることが、電子デバイス特性に影響を及ぼさない程度に抑制されている上、電子デバイス製造時のプロセス温度に耐え得る耐熱性を有する。
【0024】
複合酸化物粒子の平均粒子径は限定的ではないが、プラズマ処理による変色性(感受性)を高める点では50μm以下が好ましく、0.01〜10μm程度がより好ましい。なお、本明細書における平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(製品名:マイクロトラックMT3000、日機装製)の方法により測定した値である。
【0025】
本発明組成物中の複合酸化物粒子の含有量は限定的ではないが、10〜90重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましい。複合酸化物粒子の含有量が10重量%未満の場合には、プラズマ処理における変色性が低下するおそれがある。また、複合酸化物粒子の含有量が90重量%を超える場合には、コスト高に加えて基材上に組成物の乾燥塗膜である変色層を形成した際に、変色層の基材への定着性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明では、プラズマ環境下で変色する変色材料として、複合酸化物粒子に加えて複合酸化物ではない金属酸化物粒子(以下、単に「金属酸化物粒子」ともいい、上記「複合酸化物粒子」とは区別される)を更に含有してもよい。このような金属酸化物粒子としては、例えば、酸化スズ粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(II)、酸化バナジウム粒子(III)、酸化バナジウム粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(V)、酸化セリウム粒子(IV)、酸化テルル粒子(IV)、酸化硫酸バナジウム粒子(IV)等の一種以上が挙げられる。金属酸化物粒子の平均粒子径も限定的ではないが、複合酸化物粒子と同様にプラズマ処理による変色性(感受性)を高める点では50μm以下が好ましく、0.01〜10μm程度がより好ましい。
【0027】
変色材料として複合酸化物粒子に加えて金属酸化物粒子を併用する場合には、変色材料中の複合酸化物粒子の含有量が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
その他、本発明組成物には、変色材料に加えて、プラズマ条件下で変色しない公知の非変色粒子を適宜配合してプラズマ処理の変色性を調整することができる。
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、基材上に変色層を形成した際に変色層に良好な定着性を付与できるものであればよい。このようなバインダー樹脂としては、例えば、石油系炭化水素樹脂、ビニル樹脂、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ホルマリン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ケトン樹脂、ポリアミド樹脂、マレイン酸樹脂、クマロン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及び脂環族樹脂からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、通常、後記する溶剤に溶解することにより本発明組成物に含有することができる。
【0029】
これらのバインダー樹脂の中でも、軟化点が70℃以上である樹脂が好ましく、その中でも軟化点が130℃以上であるポリイミド樹脂、ロジン変性ケトン樹脂、シリコン樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂等がより好ましい。特に変色層の変色性に与える影響が少なく、更に耐熱性に優れるとともにプラズマ処理におけるガス化が低く抑えられているという点では、ブチラール樹脂の中でもポリビニルブチラール樹脂(PVB樹脂)が好ましい。
【0030】
本発明では、バインダー樹脂として上記例示した以外に熱硬化型樹脂、光硬化型樹脂等を用いることもできる。これらの樹脂を用いる場合には、熱、光等の照射で重合硬化等することによって樹脂を硬化させるため、本発明組成物中には、重合硬化等によって目的のバインダー樹脂となる樹脂前駆体を使用することができる。なお、熱、光等の照射は、後記の通り本発明組成物の塗膜に対して行えばよい。
【0031】
本発明組成物中のバインダー樹脂の含有量は、前記組成物に含まれる固形分の重量を100重量%として6重量%以下であることが好ましい。このようにバインダー樹脂の含有量を減らすことにより変色層の変色性を向上させることができる。バインダー樹脂の含有量の下限値は、前記固形分の重量を100重量%として1.1重量%程度である。
(溶剤)
溶剤としては、バインダー樹脂を溶解し、本発明組成物に良好な塗布性を付与できるものであれば限定されない。例えば、石油系溶剤などを用いることが好ましく、特にエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等が好ましい。
【0032】
本発明組成物中の溶剤の含有量はバインダー樹脂の種類などに応じて限定的ではないが、20〜60重量%が好ましく、30〜40重量%がより好ましい。溶剤の含有量が20重量%未満の場合及び60重量%を超える場合のいずれにおいても、本発明組成物の塗布性が低下するおそれがある。また、溶剤の含有量が過剰量である場合には、本発明組成物の乾燥に時間がかかるおそれがある。
(増粘剤などの添加剤)
本発明組成物は、上記成分以外に任意成分として増粘剤などの公知の添加剤を含有することができる。増粘剤としては、本発明組成物に増粘効果を付与して金属酸化物粒子の沈降を抑制するとともに塗布性を向上させることができるものが好ましい。
【0033】
増粘剤としては、例えば、珪酸塩鉱物及び珪酸塩合成物の少なくとも一種が好ましく、それらの中でもシリカが特に好ましい。
【0034】
本発明組成物中の増粘剤の含有量は限定的ではないが、添加する場合には10重量%以下が好ましく、3〜6重量%がより好ましい。増粘剤の含有量が10重量%を超える場合には、本発明組成物が高粘度化し、塗布性が低下するおそれがある。また、増粘剤としてシリカを含有する場合には、変色層に下地隠蔽性を付与することができるため、下地隠蔽性に基づく変色層の変色性向上の効果も得られる。
【0035】
本発明組成物を調製する際は、上記成分を公知の方法により混合し、撹拌することにより調製できる。
【0036】
プラズマ処理検知インジケータ
本発明のインジケータは、基材上に、本発明組成物の硬化塗膜から形成される変色層を有することを特徴とする。なお、上記硬化塗膜には、溶剤除去により形成される乾燥塗膜のほか、熱、光等の照射により樹脂前駆体が重合硬化等することによって形成される硬化塗膜の両方の態様が含まれる。
【0037】
変色層の形成方法としては、基材上に本発明組成物の硬化塗膜を形成する方法であれば限定されず、例えば、本発明組成物を基板上に塗布し溶媒留去した後に大気中で乾燥することにより変色層を形成することができる。また、バインダー樹脂(及びその樹脂前駆体)の種類に応じて、乾燥に代えて又は乾燥に加えて熱、光等の照射を行ってもよい。
(基材)
基材としては、変色層を形成及び支持できるものであれば特に制限されない。例えば、金属又は合金、セラミックス、石英、ガラス、コンクリート、樹脂類、繊維類(不織布、織布、ガラス繊維濾紙、その他の繊維シート)、これらの複合材料等を用いることができる。また、一般に電子デバイス基板として知られているシリコン、ガリウムヒ素、炭化ケイ素、サファイア、ガラス、窒化ガリウム、ゲルマニウム等も本発明のインジケータの基材として採用できる。基材の厚さはインジケータの種類に応じて適宜設定することができる。
【0038】
上記樹脂類としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれも使用でき、例えば、PE(ポリエチレン)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PS(ポリスチレン)樹脂、AS(アクリロニトリルスチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、ビニル樹脂、PMMA(アクリル−メタクリル)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PA(ナイロン)樹脂、POM(ポリアセタール)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PSF(ポリスルフォン)樹脂、PTFE(テフロン(登録商標))樹脂、PCTFE(フッ素)樹脂、PAI(ポリアミドイミド)樹脂、PF(フェノール)樹脂、UF(ユリア)樹脂、MF(メラミン)樹脂、UP(不飽和ポリエステル)樹脂、PU(ポリウレタン)樹脂、PDAP(アリル)樹脂、EP(エポキシ)樹脂、SI(シリコーン)樹脂、FF(フラン)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性及び変色層の定着性が良好である点でPI樹脂が好ましい。
(変色層)
基材上に変色層を形成する際の本発明組成物の塗布方法としては限定されず、例えば、スピンコート、スリットコート、スプレー、ディップコート等の公知の塗布方法、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等の公知の印刷方法などが幅広く採用できる。本発明において、塗布には、塗布以外の印刷、浸漬等の概念も含まれている。
【0039】
本発明組成物を塗布した後は、塗膜を乾燥させる。乾燥温度は限定的ではないが、通常80〜200℃程度が好ましく、100〜150℃程度がより好ましい。
【0040】
本発明のインジケータにおける変色層の厚さは限定的ではないが、500nm〜2mm程度が好ましく、1〜100μm程度であることがより好ましい。
(非変色層)
本発明のインジケータは、変色層の視認性を高めるために下地層としてプラズマ処理により変色しない非変色層を設けてもよい。非変色層としては、耐熱性があり、且つガス化が抑制されていることが求められる。非変色層としては、白色層、メタル層等が好ましい。
【0041】
白色層は、例えば、酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化イットリウム(III)、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、アルミナ等により形成できる。
【0042】
メタル層は、例えば、アルミニウム、銀、イットリウム、ジルコニウム、チタン、白金等により形成できる。
【0043】
非変色層を形成する方法としては、例えば、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、スパッタリングの他、非変色層となる物質を含むスラリーを調製後、当該スラリーを基板上に塗布し溶媒留去した後に大気中で焼成することにより形成できる。上記スラリーを塗布、印刷する方法としては、例えば、スピンコート、スリットコート、スプレーコート、ディップコート、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷などの公知の塗布方法、印刷方法等が幅広く採用できる。非変色層の厚さはインジケータの種類に応じて適宜設定することができる。
【0044】
本発明では、プラズマ処理の完了が確認できる限り、変色層と非変色層とをどのように組み合わせてもよい。例えば、変色層の変色により初めて変色層と非変色層の色差が識別できるように変色層及び非変色層を形成したり、或いは変色によって初めて変色層及び非変色層との色差が消滅したりするように形成することもできる。本発明では、特に変色によって初めて変色層と非変色層との色差が識別できるように変色層及び非変色層を形成することが好ましい。
【0045】
色差が識別できるようにする場合には、例えば変色層の変色により初めて文字、図柄及び記号の少なくとも一種が現れるように変色層及び非変色層を形成すればよい。本発明では、文字、図柄及び記号は、変色を知らせる全ての情報を包含する。これらの文字等は、使用目的等に応じて適宜デザインすればよい。
【0046】
また、変色前における変色層と非変色層とを互いに異なる色としてもよい。例えば、両者を実質的に同じ色とし、変色後に初めて変色層と非変色層との色差(コントラスト)が識別できるようにしても良い。
【0047】
本発明において、層構成の好ましい態様としては、例えば、(i) 変色層が、基材の少なくとも一方の主面上に隣接して形成されているインジケータ、(ii) 基材上に、前記非変色層及び前記変色層が順に形成されており、前記非変色層が、前記基材の主面上に隣接して形成されており、前記変色層が、前記非変色層の主面上に隣接して形成されているインジケータ、が挙げられる。
(粘着層)
本発明のインジケータは、必要に応じて、基材裏面(変色層形成面とは逆面)に粘着層を有していてもよい。基材裏面に粘着層を有することにより、本発明のインジケータをプラズマ処理装置内の所望部位(例えばプラズマ処理に供する対象物、装置底面等)に確実に固定することができるため好ましい。
【0048】
粘着層の成分としては、それ自体がプラズマ処理によってガス化することが抑制されていることが好ましい。このような成分としては、例えば、特殊粘着剤が好ましく、中でもシリコーン系粘着剤が好ましい。
(本発明のインジケータの形状)
本発明のインジケータの形状は特に限定されず、公知のプラズマ処理検知インジケータに採用されている形状を幅広く用いることができる。この中でも本発明のインジケータの形状を電子デバイス製造装置で使用される電子デバイス基板の形状と同一とする場合には、いわゆるダミー基板として、簡便にプラズマ処理が電子デバイス基板全体に対して均一に行われているかどうかを検知することが可能となる。
【0049】
ここで、「インジケータの形状が、電子デバイス製造装置で使用される電子デバイス基板の形状と同一」とは、(i)インジケータの形状が、電子デバイス製造装置で使用される電子デバイス基板の形状と完全に同一であること、及び、(ii)インジケータの形状が、電子デバイス製造装置で使用される電子デバイス基板の形状と、プラズマ処理を行う電子デバイス装置内の電子デバイス基板の設置箇所に置く(嵌める)ことができる程度に実質的に同一であること、のいずれも包含する。
【0050】
例えば、上記(ii)において、実質的に同一とは、電子デバイス基板の主面の長さ(基板の主面形状が円形であれば直径、基板の主面形状が正方形、矩形等であれば縦及び横の長さ)に対する本発明のインジケータの主面の長さの差が±5.0mm以内、電子デバイス基板に対する本発明のインジケータの厚さの差が±1000μm以内程度のものが包含される。
【0051】
本発明インジケータは電子デバイス製造装置での使用に限定されないが、電子デバイス製造装置で使用する場合には、成膜工程、エッチング工程、アッシング工程、不純物添加工程及び洗浄工程からなる群から選択される少なくとも一種の工程をプラズマ処理により行う電子デバイス製造装置に用いられることが好ましい。
(プラズマ)
プラズマとしては、特に限定されず、プラズマ発生用ガスによって発生するプラズマを使用することができる。プラズマの中でも、酸素、窒素、水素、塩素、アルゴン、シラン、アンモニア、臭化硫黄、三塩化ホウ素、臭化水素、水蒸気、亜酸化窒素、テトラエトキシシラン、三フッ化窒素、四フッ化炭素、パーフルオロシクロブタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、四塩化炭素、四塩化ケイ素、六フッ化硫黄、六フッ化エタン、四塩化チタン、ジクロロシラン、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム、及びトリメチルアルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種のプラズマ発生用ガスによって発生するプラズマが好ましい。これらのプラズマ発生用ガスの中でも、特に四フッ化炭素;パーフルオロシクロブタン;トリフルオロメタン;六フッ化硫黄;アルゴンと酸素との混合ガス;からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0052】
プラズマは、プラズマ処理装置(プラズマ発生用ガスを含有する雰囲気下で交流電力、直流電力、パルス電力、高周波電力、マイクロ波電力等を印加してプラズマを発生させることによりプラズマ処理を行う装置)により発生させることができる。特に電子デバイス製造装置においては、プラズマ処理は、以下に説明する成膜工程、エッチング工程、アッシング工程、不純物添加工程、洗浄工程等において使用される。
【0053】
成膜工程としては、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Depositon,化学気相成長)において、プラズマと熱エネルギーを併用し、400℃以下の低温で比較的速い成長速度で半導体ウエハ上に膜を成長させることができる。具体的には、材料ガスを減圧した反応室に導入し、プラズマ励起によりガスをラジカルイオン化して反応させる。プラズマCVDとしては、容量結合型(陽極結合型、平行平板型)、誘導結合型、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)型のプラズマが挙げられる。
【0054】
別の成膜工程としては、スパッタリングによる成膜工程が挙げられる。具体的な例示としては、高周波放電スパッタ装置において、1Torr〜10-4Torr程度の不活性ガス(たとえばAr)中で半導体ウエハとターゲット間に数10V〜数kVの電圧を加えると、イオン化したArがターゲット向かって加速及び衝突し、ターゲットの物質がスパッタされて半導体ウエハに堆積される。このとき、同時にターゲットから高エネルギーのγ-電子が生じ、Ar原子と衝突する際にAr原子をイオン化(Ar+)させ、プラズマを持続させる。
【0055】
また、別の成膜工程としては、イオンプレーティングによる成膜工程が挙げられる。具体的な例示としては、内部を10-5 Torr〜10-7 Torr程度の高真空状態にしてから不活性ガス(例えばAr)もしくは反応性ガス(窒素、炭化水素等)を注入し、加工装置の熱電子発生陰極(電子銃)から電子ビームを蒸着材に向けて放電を行い、イオンと電子に分離したプラズマを発生させる。次いで、電子ビームにより、金属を高温に加熱,蒸発させた後、蒸発した金属粒子は、正の電圧をかけることによりプラズマ中で電子と金属粒子と衝突して金属粒子がプラスイオンとなり、被加工物に向かって進むとともに金属粒子と反応性ガスが結びついて化学反応が促進される。化学反応が促進された粒子は、マイナス電子の加えられた被加工物へ向かって加速され、高エネルギーで衝突し、金属化合物として表面へ堆積される。なお、イオンプレーティングと類似する蒸着法も成膜工程として挙げられる。
【0056】
更に、酸化、窒化工程として、ECRプラズマ、表面波プラズマ等によるプラズマ酸化によって半導体ウエハ表面を酸化膜に変換させる方法や、アンモニアガスを導入し、プラズマ励起によって前記アンモニアガスを電離,分解,イオン化して、半導体ウエハ表面を窒化膜に変換する方法等が挙げられる。
【0057】
エッチング工程では、例えば、反応性イオンエッチング装置(RIE)において、円形平板電極を平行に対向し、減圧反応室(チャンバ)に反応ガスを導入し、プラズマ励起により導入ガスを中性ラジカル化やイオン化して電極間に生成し、これらのラジカルやイオンと半導体ウエハ上の材料との化学反応によって揮発物質化するエッチングと物理的なスパッタリングの両方の効果を利用する。また、プラズマエッチング装置として、上記平行平板型の他、バレル型(円筒型)も挙げられる。
【0058】
別のエッチング工程としては、逆スパッタリングが挙げられる。逆スパッタリングは、前記スパッタリングと原理は類似するが、プラズマ中のイオン化したArが半導体ウエハに衝突し、エッチングする方法である。また、逆スパッタリングと類似するイオンビームエッチングもエッチング工程として挙げられる。
【0059】
アッシング工程では、例えば、減圧下で酸素ガスをプラズマ励起させた酸素プラズマを用いて、フォトレジストを分解及び揮発する。
【0060】
不純物添加工程では、例えば、減圧チャンバ内にドーピングする不純物原子を含んだガスを導入してプラズマを励起させて不純物をイオン化し、半導体ウエハにマイナスのバイアス電圧をかけて不純物イオンをドーピングする。
【0061】
洗浄工程は、半導体ウエハに各工程を行う前に、半導体ウエハに付着した異物を半導体ウエハにダメージを与えることなく除去する工程であり、例えば、酸素ガスプラズマで化学反応させるプラズマ洗浄や、不活性ガス(アルゴンなど)プラズマで物理的に除去するプラズマ洗浄(逆スパッタ)等が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0063】
実施例1〜6及び比較例1(プラズマ処理検知インジケータの作製)
下記表1に示す組成のプラズマ処理検知用組成物を準備し、次いで各組成物をポリイミドフィルム基材上にそれぞれシルクスクリーン印刷し、150℃で30分乾燥して20μmの変色層を形成した。これにより、各プラズマ処理検知インジケータを作製した。
【0064】
【表1】
【0065】
試験例1(プラズマ処理検知の評価)
図1は、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)型のプラズマエッチング装置の概略断面図である。
【0066】
本装置は内部を真空排気できるチャンバと被処理物を載置する試料台を備える。チャンバは反応性ガスを導入するためのガス導入口と真空排気するための排気口を備える。試料台は被処理物を静電吸着するための静電吸着用電源と被処理物を冷却するための冷媒が循環する冷却機構を備える。チャンバの上部にはプラズマ励起用のコイルと上部電極としての高周波電源が配置されている。
【0067】
実際にエッチングを実施する場合は、被処理物は被処理物搬入口からチャンバ内に搬入された後、静電吸着電源によって試料台に静電吸着される。次に反応性ガスがチャンバに導入される。チャンバ内は、真空ポンプにより減圧排気され、所定の圧力に調整される。次に、上部電極に高周波電力を印加し、反応性ガスを励起することによって被処理物上部の空間にプラズマが形成される。また、試料台に接続された高周波電源によってバイアスが印加されることもあり、この場合はプラズマ中のイオンが被処理物上に加速され入射する。これら発生したプラズマ励起種の作用によって被処理物表面がエッチングされる。なお、プラズマ処理中は試料台に設けられた冷却機構にヘリウムガスが流れており、被処理物が冷却されている。
【0068】
図2は、容量結合プラズマ(CCP;Capacitively Coupled Plasma)型のプラズマエッチング装置の概略断面図である。
【0069】
本装置は、真空容器内に平行平板型の電極が設置されており、上部電極がシャワー構造となっており、反応性ガスがシャワー状に被処理物表面に供給される。
【0070】
実際にエッチングを実施する場合は、真空容器内を排気した後、上部電極シャワー部から反応性ガスを導入し、また上部電極より供給した高周波電力により、平行平板電極内の空間にプラズマを発生させ、発生した励起種による被処理物表面での化学反応によりエッチングされる。
【0071】
試験例1では、各装置内に実施例1〜6及び比較例1で作製したインジケータを載置し、反応性ガスとしてアルゴンガス(Ar)を導入しプラズマ処理した場合について各インジケータの変色層の変色性(処理前後の色差ΔEの測定)を評価した。
【0072】
表2にプラズマ処理条件を示す。表2に示す通り、CCPにより比較的弱いプラズマ(プラズマの電子密度Neが1.0E8以上1.0E10未満)の処理環境を準備し、ICPにより比較的強いプラズマ(プラズマの電子密度Neが1.0E10以上)の処理環境を準備した。
【0073】
各プラズマ強度における各インジケータの変色性(ΔE)の結果を表1に示すとともに視覚的にまとめた結果を図3〜5に示す。図3〜5の結果からは、比較例1のインジケータは弱いプラズマ(図3)の場合にはプラズマ強度を変色色差(ΔE)から把握することができるが、強いプラズマ(図4及び図5)の場合には変色が飽和(ΔEが閾値の50.0付近)であり、1.0E10以上の強度を変色色差(ΔE)から把握することが困難である。
【0074】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5