(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
このようなピペット装置として、本出願人が所有する特許第4989133号等において、そのピペット装置の先端に配置されたピペットチップを、使用後に、取り外して廃棄するための除去手段を備えたマイクロピペット装置が開示されている。また、特許第5657861号において、回転式デジタルメータと共通の軸部に嵌着されて、採取すべき液体の吸引採取量を調節設定するためのローレット式回転リングを備えてなるマイクロピペット装置であって、前記ローレット式回転リングの刻み目が、ピペットハウジングの窓縁部の少なくとも1の突起状の内側角部に軽く係止されて、当該突起状の内側角部と共に、自然解除せず指動解除可能な軽度ストッパとして機能することを特徴とするピペット装置が開示されている。
【0003】
このように、本出願人は様々な機能が装備されたピペット装置を製造している。このピペット装置は、医学、科学分野において様々な液状の化学物質を吸引し、採取するために用いられるものである。従って、使用する液状の薬品によっては、そのピペット装置が腐食する場合がある。
【0004】
即ち、ピペット装置は後述するように、ピストン部の移動によって、液体をその先端に取り外し可能に配置されたピペットチップ内に吸引するものである。このピストン部は、ピストンシリンダー部内において、環状すなわち、リング状を呈しその中心に孔状の環状内部を有するパッキン部を配置し、そのパッキン部の環状内部においてそのピストン部が摺動することによって液体を吸引する。上記のとおりこの液体は酸またはアルカリ性を呈し金属部品を腐食させる恐れがある。もっとも、上記ピストン部はパッキン部によって水密性を保持するように配置されているために容易に上記酸あるいはアルカリ性を呈する雰囲気が、そのピストンロッド部が配置されているケース部内に進入するおそれは比較的少ない。従って、短期間においては使用する薬品の成分を含んだ雰囲気は、そのピストン部とパッキン部に阻まれてそのケース内に侵入する可能性は低い。
【0005】
しかしながら、この雰囲気には吸引した薬液の成分が含まれ、その成分が当該ピペット装置の金属部品を腐食させるおそれがあるものが含まれる蓋然性が高く、長期の使用によっては、その雰囲気が、そのパッキン部とピストン部の隙間から、ケース部内に進入するおそれがある。
【0006】
上記ケース内に配置された部品は、主として合成樹脂とステンレス素材で製造されているために比較的腐食しにくいものであるが、一定の条件の下においてそのステンレス素材の腐食が進行することがある。特に長期の使用のもとで腐食を発見した段階では、そのピペット装置そのものの機能を失ってしまう場合がある。
【0007】
このような問題を解決するものとして先行技術を調査したところ、この問題に着目した発明は発見されず、たとえば、特許5511375号公報において、腐食に対抗するために材質をステンレスにする等が提案されている。このように、腐食に対する提案は、材質を腐食しにくいものに変更するに留まるというものである。しかしながら上述のとおり本出願人が販売するピペット装置においては主要な金属部品はすべてステンレス素材とするという手段を講じている。従って、この上に更なる腐食に対抗できる素材を使用する、または、さらにその金属部品に、鍍金などの表面処理を施す、などの手段を講じると製造コストの上昇を防ぐことはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の点に鑑みなされたもので、その課題は、大幅なコストの上昇を招くことなく主要な金属部品の腐食を防止するピペット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋭意研究開発の結果前記の課題を解決するため、第1観点のピペット装置は、液体を吸引するために移動可能なピストン部と、ピストン部が吸引した液体によって発生する雰囲気を外部に排出するための通気孔と、を有し、ピストン部の移動に応じて通気孔から雰囲気を排出するというものである。
【0011】
また、第2観点のピペット装置は、使用者が押圧するために後端部に配置した押圧部と、押圧部に接続されたピストンロッド部と、ピストンロッド部に接続され、液体を吸引するために移動可能なピストン部と、ピストンロッド部を配置し、前記ピストン部が吸引した液体によって発生する雰囲気を外部に排出するための通気孔を具備するケース部と、を有し、ピストン部の移動に応じてケース部における通気孔から雰囲気を排出するというものである。
【0012】
また、第3観点のピペット装置は、使用者が押圧するために後端部に配置した押圧部と、押圧部に接続されたピストンロッド部と、ピストンロッド部に接続され、液体を吸引するために移動可能なピストン部と、ピストン部を移動可能に配置し、ピストン部が吸引した液体によって発生する雰囲気を外部に排出するための通気孔を具備するピストン収納部と、を有し、ピストン部の移動に応じてピストン収納部における通気孔から雰囲気を排出するというものである。
【0013】
また、第4観点のピペット装置は、第2観点において、ピストン部を移動可能に配置するためのピストン収納部と、を有し、さらにピストン収納部は、ピストン収納部を構成するピストン収納上部と、ピストン収納部を構成するピストン収納下部と、ピストン収納上部とピストン収納下部との間に、環状を呈し、環状内部を有するパッキン部と、を具備し、ピストン部は、環状を呈するパッキン部における環状内部に摺動可能に配置されているというものである。
【0014】
また、第5観点のピペット装置は、第3観点において、ピストン収納部は、ピストン収納上部と、ピストン収納下部と、ピストン収納上部とピストン収納下部との間に環状を呈するパッキン部と、を有し、ピストン部はパッキン部の環状内部に摺動可能に配置され、かつ、通気孔は、ピストン収納上部に配置されているというものである。
【0015】
また、第6観点のピペット装置は、第3観点から第5観点において、ピストン収納部の前端部方向に配置され、ピペットチップを取り外し可能に保持するピペットチップ保持部と、を有するというものであある。
【0016】
また、第7観点のピペット装置は、第2観点から第6観点において、ピストンロッド部を後端部方向に付勢する弾性部と、を有するというものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記のように構成されかつ作用するものであるから、上記通気孔から薬品の成分を有する雰囲気を外部に排出することができるので、大幅なコストの上昇を招くことなく主要な金属部品の腐食を防止したピペット装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施例のピペット装置10について説明する。第1の実施例におけるピペット装置10は、使用者が押圧するために後端部に配置した押圧部20と、その押圧部20に接続されたピストンロッド部30と、使用者が把持するためのケース部40と、そのピストンロッド部30に接続され、液体を吸引するために移動可能なピストン部50と、そのピストン部50を収納したピストン収納部70と、を有し、そのケース部40に、ピストン部50によって吸引した液体から発生する雰囲気Xを外部に排出するための通気孔49と、をさらに有するものである(
図1、2参照)。
【0020】
すなわち、この、ピペット装置10は、ピストン部50によって吸引した、液体状の薬品から発生した雰囲気Xを外部へ排出するために、使用者が把持するためのケース部40に通気孔49を設けたものである。従って、ピストン部50は、ピペット装置10における前端部方向F及び後端部方向Rに移動可能であって、その移動する動きに応じて、そのピペット装置10内に充満した雰囲気Xをその通気孔49から外部へ排出し、また新たな空気をその通気孔49から導入することができる。よって、そのピペット装置10における金属部品を腐食に強い材質または、めっき等の表面処理を行うことなく、その腐食を防止することができるというものである。
【0021】
このピペット装置10の各構成について説明する。ピペット装置10は押圧部20と、その押圧部20に接続されたピストンロッド部30と、ピストンロッド部30の一部を収納し、外気に通じる通気孔49を設けたケース部40と、ピストン部50と、パッキン部60と、ピストン収納部70と、を有している。また、ピペットチップ80を取り外し可能に配置している。さらに、押圧部20とピストンロッド部30と、ケース部40と、パッキン部60と、ピストン収納部70と、ピストン部50とのそれぞれの中心は、同一線上に配置されている。
【0022】
押圧部20は、後述するように文字通り使用者が液体を排出するために押圧する動作を行うためのものである。この押圧部20は、長尺の軸部21と、後端方向Rに、円盤状のつまみ部22を有し、そのつまみ部22の縁部分に凹凸部分を配置した凸凹部23を有している。この凸凹部23については後述するように、使用者が、軸部21を軸周りに回転する際の滑り止めとして設けられている。また、長尺の中空筒状の筒部26を有し、この筒部26の内部に長尺の軸部21が配置されている。軸部21におけるその軸周りの回転は、図示しないが筒部26と同期するように軸止されており、軸部21を軸周りに1回転するとその筒部26も同様に軸部21周りに1回転する。
【0023】
このように筒部26は、軸周りに回転するが、筒部26は、後述するケース部40における第1ケース部41の内部において雌ねじ部41aが形成され、筒部26においても雄ねじ部26aが形成されているために、それらが螺合する。即ち、雄ねじ部26aが雌ねじ部41aにねじ込まれている。従って、軸部21を軸周りに回転すると、筒部26も回転すると共に、その軸部21が、筒部26に対して相対的に前端部方向Fに移動する。なお、それとは逆にその軸部21を回転するとその軸部21が、筒部26に対して相対的に後端部方向Rに移動する。これにより後述するようにピストン部50が、軸部21に接続されたピストンロッド部30によって、前端部方向Fに前進し、または後端部方向Rに後退して、吸引する液体の量の増減を調整することができる。これについてはさらに後述する。
【0024】
ピストンロッド部30は、ケース部40の内部に配置されている。また、そのピストンロッド部30は、ピストン軸部31と、太軸上端部32と、を有するものである。太軸上端部32は、太軸部32aと上端部32bとを有する。また、ピストン軸部31は、文字通り長尺の棒状を呈し、その一端に、そのピストン軸部31を、そのピストン軸部31より太い太軸部32aで覆うように配置する。即ち、太軸部32aは中空筒状であり、その内部に、ピストン軸部31が配置され固定される。また、その太軸部32aの端部に皿形状を呈する上端部32bを固定している。さらに、ピストン軸部31の前端部方向Fに配置された他端は、後述するピストン部50と接続されている(
図3参照)。
【0025】
弾性部33は、ピストンロッド部30を押圧部20の方向すなわち後端部方向Rに付勢する。また、弾性部33は、後端部方向Rから端部方向Fにおいて、順に、第1バネ部33aと第1座金部33cと第2座金部33dと第2バネ部33bとが配置されており、いずれもピストン軸部31が挿入され、そのピストン軸部31が第1バネ部33aと第1座金部33cと第2座金部33dと第2バネ部33bとのそれぞれの中心を貫通するように配置されている。従って、この場合第1バネ部33aと第2バネ部33bは、コイルバネが好ましい。また、第1座金部33cと第2座金部33は円盤形状を呈することが好ましい(
図3参照)。
【0026】
第1バネ部33aは、一端がピストンロッド部30における太軸上端部32と接し、他端部が、第1座金部33cと接する。また、第1座金部33cと第2座金部33dとが接するように配置されている(
図3参照)。
【0027】
また、第2バネ部33bは、その一端が第2座金部33dと接し、他端が、後述する第2ケース部46の凹部47に接している。なお第1座金部33cの中心に、円形の孔である中心孔部33ccが、配置され、その中心孔部33ccは、太軸部32aが通過することができる孔径である。なお、第2座金部33dの中心に、円形の孔である第2中心孔部33ddが、配置され、その第2中心孔部33ddは、太軸部32aが通過することができないように、中心孔部33ccよりも、その孔径を小としている。従って、中心孔部33ccの径、押圧部20の径、第2中心孔部33ddの径、の順でその口径は小さくなるように設定されている。もっとも、いずれも、ピストンロッド部30におけるピストン軸部31が、貫通していることは上述のとおりである。また、第1バネ部33aよりも第2バネ部33bのバネ定数は大である。
【0028】
また、上述のとおりいずれもピストン軸部31がそれら即ち、第1バネ部33aと第1座金部33cと第2座金部33dと第2バネ部33bとを挿通するように配置されている。よって、ピストンロッド部30は、それら第1バネ部33aと第1座金部33cと第2座金部33dと第2バネ部33bとによって、後端部方向Rに付勢され、押圧部20を前端部方向Fに押した際の抵抗力となっている。このために、後述するピストン部50も後端部方向Rに付勢されている。
【0029】
ケース部40は上述したように第1ケース部41と第2ケース部46を有する。第1ケース部41は、内部は中空筒状を呈し、その外形は使用者が把持するためにほぼ楔形状を呈している。従って、ケース部40は、使用者にとっては握りやすい形状となっている。
【0030】
また、第1ケース部41には窓部42と第2窓部44とを有し、その窓部42の内部に目盛部43を配置している。この目盛部43は3桁の数字を表示し、上述の筒部26の移動量を表示している。なお、目盛部43は透明な樹脂で構成され中空筒状を呈し、その内部において3段の数字が表示され、下段43aが10の位、中断43bが100の位、上段43cが1000の位を表現している。この下段43aは、1目盛が10であり、それが,1回転で50目盛刻まれている。中段43bは、下段43aが10目盛回転すると1目盛回転し、中段43bが1回転すると、上段43cが1目盛回転することになる。なお、その上段43cの目盛は0から9まで記載されているが、その上段43cの目盛は6まで回転するように許容されている。これについては、後述する。
【0031】
なお、第2窓部44には、その筒部26に固定された第2つまみ部27が配置され、その第2窓部44を通じて、使用者が、その第2つまみ部27を軸周りに回転することで、つまみ部23を回転するのと同様に、筒部26の移動量を増減することができる。なお筒部26に配置した第2つまみ部27が、第2窓部44における第2窓上端部44aと接触することによりその筒部26の移動が制限され、それ以上その第2つまみ部27が回転しないように設定されている。従って上記のとおり、その10の位は6が最高になるように、その筒部26の移動量が制限されている(
図4a、b、c参照)。従って、それに軸止された、押圧部20の移動が制限され、それに接続されたピストンロッド部30と、ピストン部50の移動も制限される。
【0032】
第1ケース部41は、中空筒状の他端部45aの内側に段差部45bを設け、第2ケース部46と接続部100を介して接続した場合において、上述の第1座金部33cが係止されるように配置されている。従って、第1座金部33cの外径は、段差部45bの内径に配置することができるようにその内径とほぼ同様の寸法である(
図5参照)。
【0033】
第2ケース部46は、中空筒状を呈し、上述のピストンロッド部30がその筒状内における中心に配置された筒孔部46aにおいて前端部方向Fまたは後端部方向Rに移動可能に配置されている。また、上述のとおり第2バネ部33bの他端が、凹部47に配置されている。
【0034】
また、第1ケース部41または第2ケース部46のいずれか一方または双方に通気孔49を備えることができるが本実施例においては第1ケース部41における他端部45aに設けている。これが、薬液の成分を含有した雰囲気Xを排出する排出口または新たな空気を導入する導入口としての機能するものである。
【0035】
ピストン収納部70は、いわゆるピストンシリンダーとして機能するものであり、共に有底筒状のピストン収納上部71とピストン収納下部72とを有する。これらを互い開口部71a、72aに、それぞれメネジ部71bと、オネジ部72bとをそれぞれ有することで、それらが、螺合して固定されている。即ち、オネジ部72bが、メネジ部71bにねじ込まれている(
図6参照)。
【0036】
また、ピストン収納上部71とピストン収納下部72との間にパッキン部60が配置され、ピストン収納上部71とピストン収納下部72との間においてそのパッキン部60とがそれらに挟まれるように固定されている。このパッキン部60は、環状を呈し孔状の環状内部61を有し、この環状内部61に摺動可能にピストン部50が配置されている。またこのパッキン部60は柔軟性を有するゴム、合成樹脂が好ましい。また、このパッキン部60は、ピストン部50と水密性を確保し、吸引した液体の成分を含む雰囲気Xが、ケース部40内に侵入しにくい構成となっている。このために、例えば、ピストン部50とパッキン部60における環状内部61にグリスを塗布することでさらに雰囲気Xの侵入を阻むことができる。もっとも長期の使用については、この限りでないことは上述のとおりである。
【0037】
ピストン収納部70は、その前端部方向Fに長尺の中空筒状を呈するピペットチップ保持部71cを有し、このピペットチップ保持部71cに、ピペットチップ80を接続することができる。ピペットチップ保持部71cは先端部方向Fに向かって、徐々に細くなる断面視テーパー状を呈し、先端部76の内部にフィルター73がはめ込まれている。また、先端部76の外周にゴムからなる滑り止め74を有し、ピペットチップ80との接続を確実なものとしている。
【0038】
ピペットチップ80は先端部81が細く尖った形状を呈し、少量の液体を吸引しやすいように構成されている。また後端方向Rに向かって徐々に太くなる側面視テーパー状を呈し、中空筒状を呈している。また後端部82は開口し、上述のピペットチップ保持部71cにおける先端部76の外周に配置した滑り止め74と嵌合していることは上記のとおりである。このピペットチップ80は取り外し可能であり、透明な合成樹脂で製作することが好ましく、使用する薬液ごとに交換することができる(
図6参照)。
【0039】
このような構成のピペット装置10は、吸引する液体の量を調整することができる。ここで、押圧部20におけるつまみ部22が、最も図面右すなわち後端部方向Rに位置する場合おいて、ピストン収納部70の底部75からピストン部50の位置を当初位置tとする(
図7参照)。
【0040】
その状態から、使用者が押圧部20を押すとピストン部50が、ピストン収納部70の底部75に接近する。この位置を第1接近位置t1とする(
図2参照)。当初位置t(
図7参照)から第1接近位置t1まで、ピストン収納部70内におけるピストン部50の移動量が、吸引する液体の量である。ここで、第1接近位置t1は、吸引する量を調整した場合であっても、その位置は後述のほか変化しないものの、押圧部20を押さない状態の場合のピストン部50におけるピストン収納部70の底部75から当初位置tが、底部75に接近するように変化するのである。この、押圧部20が、最も後端部方向Rに位置する場合の当初位置tにおける目盛部43の数値は、6000である(
図2、
図4c参照)。これは、最大で6000マイクロリットルを示すものである。もっとも、本実施例の使用範囲は1000から5000マイクロリットルの範囲が好ましい。また、目盛部43の数値は、0.2から2マイクロリットル、1から10マイクロリットル、2から20マイクロリットル、10から100マイクロリットルマイクロリットル、20から200マイクロリットル、200から1000マイクロリットル、2000から10000マイクロリットルの範囲の容量の示すものが好ましいが、市場の要求、使用する薬液の種類によって、これらの容量に限定されないことは言うまでもない。
【0041】
これは上述のとおり、つまみ部23または第2つまみ部27を回転すると、筒部26が回転するが、筒部26は、後述するケース部40における第1ケース部41の内部において雌ねじ部41aが形成され、筒部26においても雄ねじ部26aが形成されているために、それらが螺合し、軸部21を軸周りに回転すると、筒部26も回転すると共に、筒部26が軸部21に対して軸部21の先端部方向Fに移動する。これにより、ピストンロッド部30における太軸上端部32を、先端部方向Fに移動させることにより、ピストン部50も先端部方向Fに押されて移動する。このときの目盛は6000から0になるように徐々に減少する。
【0042】
このとき、上記のとおり、第1バネ部33aよりも第2バネ部33bは、バネ定数が大であるために、先に第1バネ部33aが徐々に圧縮される。またそれと同時にピストン部50も、ピストン収納部70の底部75に近づくように移動する。
【0043】
さらに、つまみ部23または第2つまみ部27を回転すると、第1バネ部33aが徐々に圧縮され、ピストン収納部70の底部75に近づくように移動すると、太軸上端部32は、第1バネ部33aを圧縮しつつ、その太軸部32aは、第1座金部33cの中心孔部33ccを通過して第2座金部33dと接する。この位置が、目盛0地点であり、ピストン部50の調整位置tsが(
図8参照)、第1接近位置t1と同じ位置になる(
図1参照)位置である。
【0044】
さらに詳述すれば、伸びた第1バネ部33aの収縮によって、吸引量が規定される。従って、第1バネ部33aが最大に収縮する位置、すなわち、その太軸部32aが、第1座金部33cの中心孔部33ccを通過して第2座金部33dと接する位置が、ピストン部50の調整位置tsとなる位置であり、ピストン部50も、ピストン収納部70の底部75に接近する第1接近位置t1と、その調整位置tsが同じ位置である。従って、上記の目盛が0になると、押圧部20を押していない状態において、ピストン収納部70の底部75から離れた調整位置tsが、目盛0地点となり(
図4a、
図8参照)、上述のとおりピストン部50の調整位置tsが、第1接近位置t1と同じ位置であるので、第1バネ部33aがそれ以上収縮できないことからピペット装置10が液体を吸引できる量が0となる。
【0045】
また、つまみ部23または第2つまみ部27を逆回転すれば、ピストン部50が後端部方向Rに移動する。これによりピストン部50におけるピストン収納部70の底部75から離れた位置に変化する。
【0046】
従って、ピストン部50の位置が、ピストン収納部70の底部75からの距離が短ければ、その位置が、押圧部20を押さない状態の場合のピストン部50の位置であるから、そこから、押圧部20を押した状態の場合のピストン部50から、ピストン収納部70の底部75まで位置、即ち第1接近位置t1までのピストン部50の移動量が、ピペット装置10が液体を吸引する量となる。よって、ピストン部50と、ピストン収納部70の底部75との間の距離が短ければ、吸引する量は少なく、ピストン部50と、ピストン収納部70の底部75との間の距離が長ければ吸引する量は多くなる。この移動量は上述の目盛部43において、3桁の数字を表示されている、下段43aと、中段43bと、上段43cとの目盛部43によって明確であり、当初位置tと調整位置tsの間の任意の位置に、そのピストン部50を配置することができ、この範囲内を自由に調整することができる。またその目盛部43によって正確な吸引量を測ることができる。
【0047】
この、ピペット装置10において、液体を吸引する作業をする場合において使用者は、吸引量を上記のように調整してから、押圧部20を押し、ピストン部50が、ピストン収納部70の底部75まで位置、即ち任意の当初位置tから第1接近位置t1まで移動させる。その後使用者は、押圧部20から手を離し、その、押圧部20が、弾性部33によって、後端部方向Rに復元するに従い液体の薬品を吸引する。この酸やアルカリ性を示す液体を吸引する場合において、ピストン部50、パッキン部60、ピストン収納部70、ピペットチップ保持部71c、ピペットチップ80は合成樹脂で製作されており、それらが腐食する恐れはない。しかしながら、押圧部20あるいは、ピストンロッド部30はステンレス素材で構成されているので、一定の条件下では腐食する恐れがある。なお短期間では、ピストン部50とパッキン部60との水密性は、保たれているものの、長期の使用によってはそのピストン部50とパッキン部60の隙間から、腐食する恐れがある雰囲気Xが徐々に漏れて、ピストン収納部70におけるピストン収納上部71やケース部40に侵入する場合がある。
【0048】
そこで、上記通気孔49から、侵入した酸性やアルカリ性を呈する雰囲気Xを排出することによって、それらの腐食を防止することができる。これは以下の動作により行うことができる。すなわち、使用者がピペット装置10における押圧部20を押すと、ピストンロッド部30を通じて、ピストン部50がピストン収納部70の底部75に向かって移動し(
図2参照)、その、底部75に接近する第1接近位置t1に移動することは上記のとおりであるが、この状態において、図示しない液体をピペッチップ80に浸し、押圧部20から、使用者が手を放すことで、弾性部33によって、その押圧部20が後端部方向Rに戻される。それに従い、ピストン部50がピストン収納部70の底部75から離間する方向即ち後端部方向Rに移動すると同時に液体をそのピペットチップ80から吸引する(
図7参照)。再度、使用者がピペット装置10における押圧部20を押すと、ピストンロッド部30を通じて、ピストン部50がピストン収納部70の底部75に向かって移動し、その、底部75に接近する第1接近位置t1にそのピストン部50が配置されることにより、吸引した液体を排出することができる。なお、その液体の粘性によっては吸引した液体を完全に排出することができない場合がある。そのときに使用者は、さらに、ピペット装置10における押圧部20を押す。これにより、第1バネ部33aが最大に収縮する位置、すなわち、その太軸部32aは、第1座金部33cの中心孔部33ccを通過して第2座金部33dと接する位置からさらに、その第2座金部33dを押す。それにより、第1バネ部33aよりもバネ定数が大である第2バネ部33bがさらに収縮し、ピストン部50がピストン収納部70の底部75に接する。これにより、吸引した液体をピストン収納部70から完全に排出することができ(図示せず)、このピペット装置10は、正確な量の液体を吸引し、排出することができる。
【0049】
しかしながら、長期の使用により、液体の成分を含んだ雰囲気Xが、ピストン部50とパッキン部60との間から、ピストン収納部70におけるピストン収納上部71を経てケース部40に進入する場合がある。これにより、ピストン収納部70内およびケース部40内に配置された金属性の部品が腐食するおそれがある。
【0050】
この腐食を防止するために、ケース部40に通気孔49を有している。即ち、ピストン部50が、第1接近位置t1から後端部方向Rに移動するに従い、ケース40内に滞留する雰囲気Xが、通気孔49から排出される(
図7参照)。
【0051】
この後に再びピストン部50が、先端部方向Fに押されるに従い今度はその通気孔49から、外部の空気が、ケース部40または、ピストン収納部70内に新たに導入される(
図2参照)。このようにピストン部50の前端部方向F及び後端部方向Rに移動する動きに応じて、雰囲気Xがその通気孔49から排出され、また新たな空気が導入される。従って、ピストン収納部70内およびケース部40の内部に配置されたピストンロッド部30と、押圧部20における長尺の軸部21と、弾性部33における、第1バネ部33aと第2座金部33dと第2バネ部33bは、金属性の材料で構成することができるが、それら金属性の部品が、吸引した液体から生じる酸またはアルカリ性を呈する雰囲気Xに、長期間晒される恐れは少ない。なお、ピストン部50の前端部方向F及び後端部方向Rに移動する動きに応じて、雰囲気Xがその通気孔49から排出されるが、必ずしもピストン部50が、止まっている場合であっても、雰囲気Xが、その通気孔49から流出することを妨げるものではない。
【0052】
また、このような動作は、このピストン部50が移動するたびごとに繰り返される。従って、ピペット装置10の通常の使用により、金属性の部品の腐食を防止することができる。このように、通気孔49を新たに設けることで、腐食を防止することができるので、金属部品の材質の変更や鍍金などの表面処理をせず新たなコストがかさむことなく腐食を防止することができる。
【0053】
また、他の実施例としては、他のピペット装置10Aにおいて、第2通気孔49aを、ピストン収納部70におけるピストン収納上部71に配置しても好ましい(
図9、10参照)。具体的には、液体の成分を含んだ雰囲気Xが、ピストン部50とパッキン部60との間から、ピストン収納上部71に進入することから、このピストン収納上部71に第2通気孔49aを設けることにより、ピストン収納部70内およびケース部40内に配置された金属性の部品の腐食を防止することができる。なお、この場合の、雰囲気Xの排出方法は、上記と同様である。従って、ピストン部50の前端部方向F及び後端部方向Rに移動する動きに応じて、雰囲気Xがその通気孔49aから排出されるが、必ずしもピストン部50が、止まっている場合であっても、雰囲気Xが、その通気孔49aから流出することを妨げるものではない。
【0054】
また、ピストン収納部70におけるピストン収納上部71より後端部方向Rに通気孔を設けることが好ましい。また、他のピペット装置10Aにおいて、通気孔49aの位置以外の他の構成は、第1実施例におけるピペット装置10と同様である。また、パッキン部60の位置よりも後端部方向Rに位置するように通気孔を配置すれば好ましい。また、このように、通気孔49を配置しつつ第2通気孔49aをさらに配置することも可能である。従って、図示しないがこの通気孔49および第2通気孔49aは、それぞれ複数配置することもできる。また、通気孔49または第2通気孔49aを、それぞれ複数配置することもできる。