特許第6842731号(P6842731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842731作製評価システム、作製評価方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6842731
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】作製評価システム、作製評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20210308BHJP
   G06F 30/12 20200101ALI20210308BHJP
   G01N 1/28 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   G06F17/50 638
   G06F17/50 601D
   G06F17/50 604A
   G06F17/50 602A
   G06F17/50 608A
   G06F17/50 614A
   !G01N1/28 N
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-130737(P2020-130737)
(22)【出願日】2020年7月31日
【審査請求日】2020年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2019-162209(P2019-162209)
(32)【優先日】2019年9月5日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 9月 5日に、第79回応用物理学会秋季学術講演会のウェブサイトにて公開 https://meeting.jsap.or.jp/jsap2018a/ https://meeting.jsap.or.jp/jsap2018a/program https://meeting.jsap .or.jp/jsap2018a/special−symposium https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2018a/top?lang=ja https://confit.atlas.jp/guide/event−img/jsap2018a/18p−CE−10/public/pdf?type=in
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 9月18日に、第79回応用物理学会秋季学術講演会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月15日に、日本経済新聞にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月 2日に、日本工学アカデミー講演会「次世代マテリアルシステム」にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月 9日に、薄膜材料デバイス研究会 第15回研究集会「未来のエネルギー社会に貢献する薄膜技術」研究集会予稿集にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月10日に、薄膜材料デバイス研究会 第15回研究集会「未来のエネルギー社会に貢献する薄膜技術」にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月16日に、科学技術未来戦略ワークショップにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月18日に、新型電池オープンラボ第24回講演会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月21日に、学際的分野開拓研究会 第1回若手研究者ワークショップ「材料科学の新領域を切り拓く」にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年 2月1日に、さきがけ マテリアルズインフォマティクス領域 国際シンポジウム アブストラクト集にて公開 https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research/activity/1112073/index.html https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research/activity/1112073/4_misabstract_all_hp.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年 2月11日に、さきがけ マテリアルズインフォマティクス領域 国際シンポジウムにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年 3月25日に、日経サイエンス2019年5月号にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年 4月 2日に、EMIRAのウェブサイトにて公開 https://emira−t.jp/ace/ https://emira−t.jp/ace/9933/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年 4月 3日に、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略検討作業部会(第5回)議事録にて公開 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/093/gijiroku/1414974.htm
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年 4月12日に、平成31年度 第1回PE研究会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 5月23日に、「全固体電池の最新動向」−資源代替材料分化会主催 エネルギー分科会共催にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 7月12日に、第74回固体イオニクス研究会 〜固体イオニクスの進展と蓄電池応用 〜 にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 7月30日に、粉体粉末冶金協会電子部品材料委員会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 8月16日に、さきがけ マテリアルズインフォマティクス領域 第3回公開シンポジウム アブストラクト集にて公開 https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research/activity/1112073/index.html https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/sympo/mi_opensympo3_abst.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 8月27日に、さきがけマテリアルズインフォマティクス領域 第3回公開シンポジウムにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 9月 4日に、日本学術会議 公開シンポジウム「イノベーション創出に向けた計測分析プラットフォームの構築 〜どんな基盤をつくり何を目指すか〜」にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 9月21日に、東京工業大学 一杉研究室のホームページにて公開 http://www.apc.titech.ac.jp/▲〜▼thitosugi/ http://www.apc.titech.ac.jp/▲〜▼thitosugi/hitosugi/images/messages/201809−ロボット.pdf
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」、「界面超空間制御による超高効率電子デバイスの創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】一杉 太郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮太
【審査官】 堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−277328(JP,A)
【文献】 特開2003−58579(JP,A)
【文献】 特開2019−86817(JP,A)
【文献】 特開2019−87107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F30/00−30/398
G01N1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を作製する作製装置と、該作製装置が作製した前記試料の物性又は構造を表す物質情報を測定する測定装置と、前記作製装置及び測定装置に接続された推定装置とを有する作製評価システムであって、
前記推定装置は、前記試料の作製条件と、該試料の前記物質情報とを含むデータセットに基づき、前記物質情報を最適化する前記作製条件を推定する推定部を備え、
前記作製装置は、前記推定部が推定した前記作製条件に従って前記試料を作製し、
前記推定装置は、前記測定装置が測定した前記試料の前記物質情報と、該試料の前記作製条件とを前記データセットに追加するデータ追加部を備え、
前記推定部は、前記作製条件及び物質情報が追加された前記データセットに基づいて前記作製条件を逐次推定する
ことを特徴とする作製評価システム。
【請求項2】
前記推定部は、前記作製条件及び物質情報に基づくベイズ最適化を行って前記作製条件を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の作製評価システム。
【請求項3】
前記推定部は、前記作製装置が作製可能な前記試料に関する作製能力に応じて、前記作製条件を推定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の作製評価システム。
【請求項4】
前記作製評価システムは、複数種類の前記物質情報を夫々測定する複数の前記測定装置を備え、
前記推定装置は、前記複数種類の前記物質情報の優先度の入力を受け付ける受付部を備え、
前記推定部は、前記優先度に従って各前記物質情報を最適化する前記作製条件を推定する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の作製評価システム。
【請求項5】
前記推定装置は、前記データセットが所定の終了条件を満たすか否かを判定する判定部を備え、
前記終了条件を満たすと判定した場合、前記推定部は前記作製条件の逐次推定を終了する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の作製評価システム。
【請求項6】
前記判定部は、
前記推定部が同一の前記作製条件を複数回連続して推定したか否かを判定し、
前記推定部が前記作製条件を推定する際に推定した前記物質情報の推定値よりも、前記測定装置が測定した前記物質情報の測定値が適しているか否かを判定し、
前記作製条件を複数回連続して推定したと判定し、かつ、前記測定値が前記推定値よりも適していると判定した場合、前記終了条件を満たすと判定する
ことを特徴とする請求項5に記載の作製評価システム。
【請求項7】
前記作製評価システムはさらに、前記作製装置が作製した前記試料の情報を管理する管理装置を有し、
前記管理装置は、
前記推定装置から前記データセットを取得する取得部と、
取得した前記データセットを記憶する記憶部と、
ユーザからの出力要求に応じて、前記試料の前記作製条件と、該試料の前記物質情報とを含む試料情報を前記記憶部から出力する試料情報出力部と
を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の作製評価システム。
【請求項8】
前記管理装置は、
前記作製条件に含めるパラメータの種類と、前記物質情報の種類とを設定する設定入力を前記ユーザから受け付ける受付部と、
設定された種類の前記物質情報を最適化する前記作製条件であって、設定された種類のパラメータを含む前記作製条件を逐次推定するよう前記推定装置に指示する指示部と
を備えることを特徴とする請求項7に記載の作製評価システム。
【請求項9】
前記管理装置は、前記記憶部に記憶してある前記試料情報を参照して、前記データセットの初期値に設定する設定入力を前記ユーザから受け付ける第2受付部を備え、
前記指示部は、初期値が設定された前記データセットを前記推定装置に出力し、
前記推定部は、前記管理装置から出力された前記データセットに基づき前記作製条件の推定を開始する
ことを特徴とする請求項8に記載の作製評価システム。
【請求項10】
前記推定装置は、前記記憶部に記憶してある前記データセットに基づき、前記作製条件に含まれる複数のパラメータ夫々の前記物質情報に対する相関度を算出する算出部を備え、
前記試料情報出力部は、前記複数のパラメータ夫々の相関度を含む情報を出力する
ことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の作製評価システム。
【請求項11】
前記推定装置は、
前記試料の作製量の上限値の設定入力を受け付ける作製量受付部と、
前記データセットに追加された前記試料の作製量が前記上限値に達したか否かに応じて、前記試料の作製を終了するか否かを判定する第2判定部と
を備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の作製評価システム。
【請求項12】
前記作製評価システムはさらに、前記測定装置による測定を完了後、前記試料に対し、該試料を一意に識別可能な識別情報をマーキングする識別情報付与部を備える
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の作製評価システム。
【請求項13】
試料を作製する作製装置と、該試料の物性又は構造を表す物質情報を測定する測定装置と、該作製装置及び測定装置に接続された推定装置とを用いた作製評価方法であって、
前記推定装置が、試料の作製条件と、該試料の前記物質情報とを含むデータセットに基づき、前記物質情報を最適化する前記作製条件を推定し、
前記作製装置が、前記推定装置が推定した前記作製条件に従って前記試料を作製し、
前記測定装置が、作製した前記試料の前記物質情報を測定し、
前記推定装置が、
前記測定装置が測定した前記物質情報と、測定対象の前記試料の前記作製条件とを前記データセットに追加し、
前記作製条件及び物質情報が追加された前記データセットに基づいて前記作製条件を逐次推定する
ことを特徴とする作製評価方法。
【請求項14】
試料の物性又は構造を表す物質情報の測定を行う測定装置が測定した前記試料の情報を管理する管理装置に対し、前記試料の作製条件と、前記物質情報とを含む試料情報の出力を要求し、
前記管理装置から出力された情報を表示部に表示し、
前記作製条件に含めるパラメータの種類と、前記物質情報の種類とを設定する設定入力を受け付け、
前記作製条件及び物質情報を含むデータセットに基づいて前記物質情報を最適化する前記作製条件を推定する推定装置に、選択された前記作製条件及び物質情報の種類を出力し、前記測定装置と、該測定装置が測定する前記試料を作製する作製装置と協働して前記作製条件を逐次推定するよう要求する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作製評価システム、作製評価方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
新規物質、代替物質の研究、開発などを行う際に、データマイニング等の情報処理技術を組み合わせて効率的に物質探索を行うマテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる取り組みがある。これに伴い、最適な物質の設計、開発をデータ空間において探索する種々のシミュレーション手法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−87107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現状のマテリアルズ・インフォマティクスは最適な物質の予測に止まり、予測した物質を速やかに作製し、実用材料へと展開する点は人為的な作業に委ねられている。
【0005】
一つの側面では、マテリアルズ・インフォマティクスを好適に実施することができる作製評価システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの側面に係る作製評価システムは、試料を作製する作製装置と、該作製装置が作製した前記試料の物性又は構造を表す物質情報を測定する測定装置と、前記作製装置及び測定装置に接続された推定装置とを有する作製評価システムであって、前記推定装置は、前記試料の作製条件と、該試料の前記物質情報とを含むデータセットに基づき、前記物質情報を最適化する前記作製条件を推定する推定部を備え、前記作製装置は、前記推定部が推定した前記作製条件に従って前記試料を作製し、前記推定装置は、前記測定装置が測定した前記試料の前記物質情報と、該試料の前記作製条件とを前記データセットに追加するデータ追加部を備え、前記推定部は、前記作製条件及び物質情報が追加された前記データセットに基づいて前記作製条件を逐次推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、マテリアルズ・インフォマティクスを好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】作製評価システムの構成例を示す模式図である。
図2】推定装置の構成例を示すブロック図である。
図3】サーバの構成例を示すブロック図である。
図4】試料DBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図5】実施の形態1の概要を示す説明図である。
図6】推定装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】実施の形態2に係る作製評価ユニットの構成例を示す模式図である。
図8】実施の形態3に係る作製評価システムの構成例を示す模式図である。
図9】実施の形態3の概要を示す説明図である。
図10】試料情報の表示画面例を示す説明図である。
図11】サーバが実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12】電気抵抗の酸素分圧依存性を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、作製評価システムの構成例を示す模式図である。本実施の形態では、新規物質、代替物質の研究、開発などのために、試料の作製、測定、及び最適化を自動的に行う作製評価システムについて説明する。作製評価システムは、推定装置1、管理装置2、作製評価ユニット3を含む。推定装置1及び管理装置2は、ネットワークNを介して通信接続されている。
【0010】
推定装置1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な情報処理装置であり、例えばパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータなどである。本実施の形態では、推定装置1はパーソナルコンピュータであるものとして説明する。推定装置1は、複数の試料それぞれの作製条件と、各試料の物性又は構造を表す物質情報とを含むデータセットから、最適な物質情報(物性又は構造)を有する試料の作製条件を推定する処理を行う。本実施の形態では後述するように、推定装置1はベイズ最適化の手法を用いて、所定の物性値(物質情報)を最大化(又は最小化)する作製条件の逐次探索を行う。
【0011】
なお、本明細書では説明の便宜上、「推定」及び「探索」を同義語として記載する。また、「データセット」とは、同一の実験(ベイズ最適化の処理)において用いた複数の試料それぞれのデータから成るデータ群を指す。また、「データセット」と区別するため、個々の試料のデータを「試料情報」と呼ぶ。
【0012】
本実施の形態では、推定装置1は最適試料の作製条件を推定するだけでなく、推定した作製条件を作製評価ユニット3に入力し、当該作製条件に従って試料を作製させる。そして推定装置1は、作製された試料の物性値を作製評価ユニット3に測定させ、測定した物性値と、測定対象の試料の作製条件とをデータセットに追加する。推定装置1は、データセットを追加する毎に最適試料の作製条件を逐次探索し、作製評価ユニット3に入力して試料を作製させる。推定装置1は当該処理を繰り返し、最適試料を探索する。
【0013】
本実施の形態では一例として、半導体の薄膜材料を成膜する場合について説明する。具体的には、Liイオン固体電解質の薄膜材料を成膜するものとし、薄膜材料のイオン伝導率(電気伝導率)を最適化する場合について説明する。
【0014】
管理装置2は、作製評価ユニット3で作製した各試料の情報を管理する管理装置であり、データベースサーバとして機能するサーバコンピュータである。以下の説明では便宜上、管理装置2をサーバ2と読み替える。サーバ2は、作製評価ユニット3で作製した各試料の情報(データセット)を推定装置1から取得し、データベースに記憶(保存)して管理する。
【0015】
なお、本実施の形態では、最適試料の探索を行う推定装置1と、試料情報を管理するサーバ2とが別個のコンピュータであるものとして説明するが、推定装置1及びサーバ2を単一のコンピュータとして構成してもよい。また、推定装置1はサーバ2と同様に、ネットワークNを介して作製評価ユニット3に通信接続された外部コンピュータであってもよい。
【0016】
作製評価ユニット3は、推定装置1から入力される作製条件に従って試料を作製する装置であり、上述の如く、薄膜材料の成膜を行う成膜装置である。本実施の形態では、作製評価ユニット3はクラスタ型のスパッタリング装置であり、多角形(六角形)状に複数のチャンバが配置された構成を有する。作製評価ユニット3は、搬送装置30、蒸着室31、32、33(作製装置)、測定室34(測定装置)、ロードロック35、グローブボックス36を備える。
【0017】
なお、本実施の形態では試料を作製する作製装置と試料を測定する測定装置とが一体の作製評価ユニット3として構成されているが、作製装置と測定装置とは、それぞれが独立し、単一のユニットを構成しなくてもよい。
【0018】
搬送装置30は、真空状態で試料基板を搬送するための搬送手段であり、内部にロボットアームを備えた搬送ロボットである。搬送装置30は俯瞰視で作製評価ユニット3の中央に位置し、周囲に蒸着室31、32、33、測定室34、ロードロック35、及びグローブボックス36が配置されている。
【0019】
ロードロック35は真空予備室であり、試料基板をセットするステージである。搬送装置30は、ロードロック35にセットされた試料基板を取り出し、蒸着室31、32、33に搬送する。
【0020】
蒸着室31、32、33は成膜を行うための真空チャンバであり、高エネルギーのArガスを原料物質にぶつけて原料を飛散させ、試料基板に原料を堆積させる。具体的には、蒸着室31、32、33にArガスと雰囲気ガス(O、N、Hなど)を封入し、ターゲットと呼ばれる原料焼結体と基板との間でプラズマ放電を発生させる。この際に、両電極間に印加された電圧によって加速されたArイオンがターゲットに衝突し、原料を飛散させ基板上に堆積させる。搬送装置30は、成膜後の試料を測定室34に搬送する。
【0021】
測定室34は、試料の電気伝導性を測定するためのプローバステージを備え、基板上に形成された薄膜のイオン伝導率を自動測定する。また、測定室34は薄膜の光学反射率を測定するための発光素子及び受光センサを備え、膜厚の測定を同時に行うことが可能となっている。測定室34で測定を完了後、搬送装置30は試料をロードロック35に返送し、保管する。
【0022】
グローブボックス36は外気と遮断された密閉容器であり、作業者が試料に対して作業を行うための作業室である。
【0023】
なお、本実施の形態では半導体材料の成膜を行うためグローブボックス36を設けているが、グローブボックス36は作製評価ユニット3に必須の要素ではない。
【0024】
なお、本実施の形態では成膜方法としてスパッタリング法を用いるが、PLD(PulseLaser Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いてもよい。また、測定する物性値はイオン伝導率に限定されず、例えばバンドギャップ、比誘電率等であってもよい。このように、蒸着室31、32、33や測定室34は試料の作製手段(作製装置)及び測定手段(測定装置)の一例に過ぎず、試料の作製方法や実験の目的(最適化する物性)に応じて適宜に変更され得る。
【0025】
また、作製する試料は半導体材料に限定されず、例えば高分子材料、金属構造材料などであってもよい。例えば金属構造材料を作製する場合、機械的強度等を測定し、最適化を行う。また、材料物質以外に、例えば医薬品、生体物質、食品などを対象としてもよい。
【0026】
また、作製する試料は薄膜材料に限られず、例えば有機化合物、無機化合物、及びそれらの混合物を液体、固体、気体及びそれらの混合状態を含めた形態の評価にも応用できる。このように、本システムで作製する試料(物質)は特に限定されない。
【0027】
図2は、推定装置1の構成例を示すブロック図である。推定装置1は、制御部11、主記憶部12、通信部13、表示部14、入力部15、及び補助記憶部16を備える。
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を有し、補助記憶部16に記憶されたプログラムP1を読み出して実行することにより、種々の情報処理、制御処理等を行う。主記憶部12は、RAM(Random Access Memory)等の一時記憶領域であり、制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部13は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。表示部14は、液晶ディスプレイ等の表示装置であり、制御部11から与えられた画像を表示する。入力部15は、キーボード、マウス等の操作インターフェイスであり、操作入力を受け付ける。補助記憶部16はハードディスク等の不揮発性記憶領域であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP1、その他のデータを記憶している。
【0028】
なお、推定装置1は、CD(Compact Disk)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM等の可搬型記憶媒体1aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体1aからプログラムP1を読み取って実行するようにしても良い。あるいは推定装置1は、半導体メモリ1bからプログラムP1を読み込んでも良い。
【0029】
図3は、サーバ2の構成例を示すブロック図である。サーバ2は、制御部21、主記憶部22、通信部23、及び補助記憶部24を備える。
制御部21は、一又は複数のCPU等の演算処理装置を有し、補助記憶部24に記憶されたプログラムP2を読み出して実行することにより、種々の情報処理、制御処理等を行う。主記憶部22は、RAM等の一時記憶領域であり、制御部21が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部23は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。
【0030】
補助記憶部24はハードディスク等の不揮発性記憶領域であり、制御部21が処理を実行するために必要なプログラムP2、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部24は、試料DB241を記憶している。試料DB241は、作製評価ユニット3が作製した試料の情報を格納するデータベースである。
【0031】
なお、補助記憶部24はサーバ2に接続された外部記憶装置であってもよい。また、サーバ2は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであってもよく、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0032】
また、サーバ2は、CD(Compact Disk)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM等の可搬型記憶媒体2aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体2aからプログラムP2を読み取って実行するようにしても良い。あるいはサーバ2は、半導体メモリ2bからプログラムP2を読み込んでも良い。
【0033】
図4は、試料DB241のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。試料DB241は、試料ID列、作製日時列、材料列、作製条件列、物性値列を含む。試料ID列は、作製評価ユニット3が作製した各試料を識別するための試料IDを記憶している。作製日時列、材料列、作製条件列、及び物性値列はそれぞれ、試料IDと対応付けて、試料の作製日時、材料(元素)、作製条件、及び物性値を記憶している。
【0034】
図5は、実施の形態1の概要を示す説明図である。図5では、作製評価ユニット3における試料の作製及び物性値の測定と、推定装置1における最適試料の推定とを逐次繰り返す様子を概念的に図示している。図5に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
【0035】
既に触れたように、推定装置1は、複数の試料それぞれの作製条件及び物性値を含むデータセットから、物性値を最適化する試料の作製条件を推定する処理を行う。本実施の形態では、ベイズ最適化の手法を用いて逐次探索を行う。
【0036】
ベイズ最適化は、目的変数yとn次元の説明変数xi(i=1、2、…n)とのデータセットにおいて、y=f(xi)の関数fが未知である場合に、関数fがガウス過程(Gaussian Process)に従うと仮定し、目的変数yを最大化(又は最小化)する説明変数xiを探索する方法である。未知の関数fがガウス過程に従うと仮定することで、目的変数y及び説明変数xiが他の分布に従うと仮定する場合に比べて、簡易な処理で様々な目的変数yを高度に最適化することができる。
【0037】
なお、ベイズ最適化自体は公知の手法であるため、本実施の形態では詳細な説明を省略する。
【0038】
また、本実施の形態では最適試料の逐次探索手法としてベイズ最適化を用いるが、推定装置1は逐次追加されるデータセットから最適解を探索可能であればよく、例えば強化学習、線形探索などを用いてもよい。
【0039】
本実施の形態では、目的変数yを、測定室34で測定する物性値とし、説明変数xiを、試料の作製条件を規定する各種パラメータとする。具体的には、目的変数yを薄膜試料のイオン伝導率(S/m)とし、説明変数xiを、試料作製時の基板温度(℃)、水素分圧(Pa)、窒素分圧(Pa)、成膜レート(Å/s)等とする。なお、これらのパラメータは何れも例示であって、目的変数が物性値、説明変数が作製条件を規定するパラメータであればよい。
【0040】
例えば推定装置1はまず、所定数の試料の作製条件をランダムに生成し、作製評価ユニット3に入力して、試料の作製を指示する。推定装置1から作製条件が入力された場合、作製評価ユニット3の搬送装置30は、ロードロック35に予めセットされている試料基板を取り出し、蒸着室31、32、33の何れかに搬送する。作製評価ユニット3は、入力された作製条件に従い、蒸着室31、32、33で試料を作製(成膜)する。
【0041】
試料の作製を完了後、搬送装置30は蒸着室31、32、33から試料を取り出し、測定室34に搬送する。作製評価ユニット3は、測定室34で試料の物性値を測定する。物性値の測定を完了後、搬送装置30は測定室34から試料を取り出し、ロードロック35に搬送して保管する。
【0042】
作製評価ユニット3は上記の処理を繰り返し、ランダムに定めた各作製条件の試料を作製し、物性値を測定する。これにより、所定数の試料の作製条件及び物性値を含むデータセットが生成される。
【0043】
なお、本実施の形態ではデータセット生成のためにランダムな作製条件で試料を作製するものとするが、初期のデータセットは人手で作製されたものを用いてもよい。また、初期のデータセットとして、過去に蓄積したデータセットの情報を活用し、そこから主成分分析、スパースモデリング等の手法を用いて得られた情報をデータセットとしても良い。よい初期値を入力すれば、少ない試行回数で収束させることができるため、より好適に最適試料の探索が可能となる
【0044】
推定装置1は、当該データセットに基づくベイズ最適化を行い、物性値を最適化する試料の作製条件を推定する。図5右上に、ベイズ最適化の処理内容を概念的なグラフで示す。横軸は説明変数(基板温度)を、縦軸は目的変数(イオン伝導率)を示す。なお、実際には3次元以上の多次元空間で探索を行うが、図5では便宜的に2次元のグラフで図示している。
【0045】
推定装置1は、データセットがガウス分布に従うと仮定し、物性値が最大となる点を探索する。すなわち、推定装置1は、データセットの分布から平均及び分散を推定し、ガウス過程を導出する。そして推定装置1は、獲得関数(Acquisition function)と呼ばれる評価用の関数を用いて最適化を行い、物性値が最大化する点を探索する。
【0046】
なお、例えば推定装置1は、事前に作製条件(説明変数)及び物性値(目的変数)の数値範囲の設定入力を受け付け、当該数値範囲で探索を行ってもよい。
【0047】
上記の処理により、推定装置1は、最適と思われる説明変数xi、すなわち最適試料の作製条件を推定する。推定装置1は、推定した作製条件を作製評価ユニット3に入力する。作製評価ユニット3は、当初の試料作製時と同様に、試料の運搬、作製、測定を行い、作製した試料の物性値を推定装置1に返す。
【0048】
推定装置1は、上記で入力した試料の作製条件と、当該試料の物性値とを新たな試料情報としてデータセットに追加し、最適と思われる作製条件を再度推定する。具体的には、推定装置1は新たなデータセットの平均及び分散を推定し、獲得関数を更新する。推定装置1は、更新後の獲得関数から最適な点を再度探索し、次に作製する試料の作製条件を導出する。このように、推定装置1は、k回目までに作製した試料のデータセットから、k+1回目に最適と思われる試料の作製条件を逐次推定し、作製評価ユニット3に作製及び測定を指示する。
【0049】
例えば推定装置1は、逐次追加されるデータセットが所定の終了条件を満たした場合、一連の処理(実験)を終了する。例えば推定装置1は、現在の探索回数がk+1回目であるとした場合に、k+1回目の試料情報とk回目の試料情報とを比較して、物性値が局所解に収束したか否かを判定する。
【0050】
具体的には、推定装置1は、逐次推定する試料の作製条件が、所定回数(複数回)連続して同一の作製条件となったか否かを判定する。なお、ここで言う「同一」とは、パラメータの完全同一だけでなく、所定の数値範囲内で近似する略同一の場合も含まれる。
【0051】
また、推定装置1は、作製評価ユニット3に入力した作製条件の下で推定される物性値の推定値よりも、作製評価ユニット3で測定された物性値(測定値)が適しているか否かを判定する。すなわち、推定装置1は、ベイズ最適化によって作製条件(説明変数)と共に推定した物性値(目的変数)よりも、実際の物性値の方が優れているか否かを判定する。物性値の最大化を行う場合、実際の物性値が推定値以上であるか否かを判定する。また、物性値の最小化を行う場合、実際の物性値が推定値以下であるか否かを判定する。
【0052】
推定装置1は、上記の2つの判定条件を組み合わせ、同一の作製条件が複数回連続して推定され、かつ、測定した物性値が推定値よりも適している場合、物性値が十分に収束したものと判定し、処理を終了する。
【0053】
なお、上記では物性値の収束を終了条件としたが、例えば推定装置1は、予め探索回数の上限値を規定しておき、上限値に達した場合に処理を終了してもよい。
【0054】
処理を終了した後、推定装置1は、データセットとして保持してある各試料の試料情報を表示すると共に、物性値が最適値(最大値または最小値)を取る最適試料の試料情報を表示する。また、推定装置1は、データセットをサーバ2に出力し、試料DB241に記憶させる。
【0055】
なお、上記では特段説明しなかったが、ベイズ最適化を行うに当たって、推定装置1は実験環境に応じた種々の制約条件を設けてもよい。
【0056】
例えば推定装置1は、作製評価ユニット3において作製可能な試料の条件、すなわち作製能力に応じて制約条件を設ける。具体的には、推定装置1は、基板温度、水素分圧、窒素分圧等のパラメータについて、作製評価ユニット3で設定可能な数値範囲(上限値及び下限値)を制約条件として設ける。また、例えば基板温度、水素分圧、窒素分圧等が離散的な数値間隔でのみ設定可能(例えば基板温度が100℃、110℃…等の数値間隔でのみ設定可能)である場合、当該数値間隔を制約条件として設ける。ベイズ最適化を行う場合、推定装置1は、これらの制約条件(作製能力)に従い、最適試料の作製条件を探索する。このように、作製評価ユニット3における作製能力に応じて制約条件を設けることで、より好適に最適試料の探索が可能となる。
【0057】
以上より、本実施の形態によれば、試料の作製、物性値の測定、及び最適化を全自動サイクルで行うことができる。これにより、多様かつ大量の実験結果を蓄積することができると同時に、研究者等を好適に支援することができる。
【0058】
図6は、推定装置1が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。図6に基づき、推定装置1が実行する処理内容について説明する。なお、推定装置1は既に、所定数の試料のデータセットを保持しているものとして説明する。
推定装置1の制御部11は、試料の作製条件と、試料の物性値(物質情報)とを含むデータセットに基づき、物性値を最適化する試料の作製条件を推定する(ステップS11)。具体的には上述の如く、制御部11は、作製条件を説明変数とし、物性値を目的変数とするベイズ最適化を行い、物性値を最大化(又は最小化)する試料の作製条件を推定する。
【0059】
制御部11は、推定した作製条件を作製評価ユニット3に入力する(ステップS12)。そして制御部11は、搬送装置30によりロードロック35から蒸着室31、32、33に試料基板を搬送させ、入力した作製条件に従って試料を作製させる(ステップS13)。
【0060】
試料の作製が完了した場合、制御部11は、搬送装置30により蒸着室31、32、33から測定室34に試料を搬送させ、試料の物性値を測定させる(ステップS14)。制御部11は、ステップS14で測定した物性値を作製評価ユニット3から取得する(ステップS15)。制御部11は、ステップS12で入力した作製条件と、ステップS15で取得した物性値とを示す試料情報をデータセットに追加する(ステップS16)。データセットへの追加が完了した場合、制御部11は、測定室34からロードロック35に試料を搬送させ、保管する(ステップS17)。
【0061】
制御部11はデータセットを参照して、所定の終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS18)。終了条件を満たさないと判定した場合(S18:NO)、制御部11は処理をステップS11に戻す。終了条件を満たすと判定した場合(S18:YES)、制御部11は、データセットとして保持してある各試料の試料情報を表示すると共に、物性値が最適値を取る最適試料の試料情報を表示する(ステップS19)。また、制御部11はデータセットをサーバ2に出力し、試料DB241に記憶させる(ステップS20)。制御部11は一連の処理を終了する。
【0062】
なお、本実施の形態では最適化の目的変数を物性値としたが、目的変数は物性値に限定されず、試料の構造(結晶構造等)を表す構造情報であってもよい。構造情報は、例えば結晶の対称性や格子定数、局所的な結晶の内部構造や分子構造に由来する原子間の振動モードなどの情報が含まれ得る。この場合、例えば作製評価ユニットの測定室34(測定装置)でX線回析パターン、ラマン分光などを測定し、X線回析から得られる回析ピークの位置や強度比、ラマン分光から得られる散乱ピークの位置や半値幅などの観測量(測定値)から上記の構造情報を導出する。推定装置1は、導出した構造情報を目的変数として最適試料の逐次探索を行う。このように、推定装置1は、試料(物質)の物性又は構造を表す物質情報の測定及び最適化が可能であればよく、測定するパラメータは物性値に限定されない。
【0063】
以上より、本実施の形態1によれば、試料の作製、物性値(物質情報)の測定、及び最適化を全自動サイクルで行うことができ、マテリアルズ・インフォマティクスを好適に実施することができる。
【0064】
また、本実施の形態1によれば、ベイズ最適化の手法を用いることで、簡易な処理で試料の最適化を行うことができ、推定装置1の計算量(探索回数)を削減することができる。
【0065】
また、本実施の形態1によれば、作製評価ユニット3の作製能力に応じて制約条件を設けることで、実験環境を考慮して試料の最適化を好適に行うことができる。
【0066】
(実施の形態2)
本実施の形態では、複数の物性値を同時に測定可能とする形態について述べる。なお、実施の形態1と重複する内容については同一の符号を付して説明を省略する。
図7は、実施の形態2に係る作製評価ユニット3の構成例を示す模式図である。本実施の形態に係る作製評価ユニット3は、2台の搬送装置30、30を備え、各搬送装置30、30の周囲に蒸着室31、32、33、測定室34等が配置された構成を有する。
【0067】
具体的には、作製評価ユニット3は第1搬送装置30a及び第2搬送装置30bを備える。第1搬送装置30aには蒸着室31、32、33、ロードロック35、及びグローブボックス36が接続されている。また、第1搬送装置30a及び第2搬送装置30bは、受渡室37を介して相互に接続されている。受渡室37は、例えばグローブボックス36と同様の真空予備室であり、第1搬送装置30aから第2搬送装置30bに試料を受け渡すためのステージである。
【0068】
第2搬送装置30bには、複数の測定室34a、34b、34c、34d、及び排出室38が接続されている。測定室34a、34b、34c、34dはそれぞれ、互いに異なる種類の物性値を測定する測定室である。各測定室34a、34b、34c、34dで測定する物性値は特に限定されないが、例えばイオン伝導率、バンドギャップ(eV)、比誘電率、熱伝導率(W/cm・K)などをそれぞれ測定する。排出室38は、測定完了後の試料を装置外部に排出する。
【0069】
なお、作製評価ユニット3は、測定室34a、34b、34c、34dのいずれかで、試料の物性値ではなく、試料の結晶構造や分子構造を表す構造情報を測定すると好適である。例えば作製評価ユニット3は、X線回析パターン、ラマン分光などの測定を行う。これにより、作製評価ユニット3は、最適試料の構造情報を取得可能となると共に、作製した各試料の構造情報も試料DB241に蓄積することができる。
【0070】
本実施の形態に係る作製評価ユニット3は、第1搬送装置30a側で試料の作製を行い、第2搬送装置30b側で物性値の測定を行う。すなわち、第1搬送装置30aはロードロック35から蒸着室31、32、33に試料基板を搬送し、推定装置1から入力された作製条件に従って試料を作製(成膜)する。その後、第1搬送装置30aは試料を受渡室37に搬送する。第2搬送装置30bは受渡室37から試料を取り出し、各測定室34a、34b、34c、34dに順次搬送して、複数種類の物性値を測定する。測定完了後、第2搬送装置30bは排出室38に試料を搬送し、外部(例えば試料基板の収納トレイ)に排出する。
【0071】
なお、排出室38は単に試料を外部に排出するだけでなく、順次作製される試料を一意に識別可能な試料ID(識別情報)を試料基板にマーキングするようにすると好適である。マーキングの手段は特に限定されないが、例えばレーザマーカによりマーキングを行う。例えば作製評価ユニット3は、レーザ光を照射する照射装置を排出室38に備え、照射装置を制御して試料IDを基板に印字する。これにより、例えば無人で試料の作製及び測定を作製評価ユニット3に行わせる場合に、作業者は、事後的に試料を確認する場合に、データセットが示す各試料を容易に見分けることができる。
【0072】
なお、上記ではマーキング内容として試料ID(文字列)を印字することにしたが、例えばQRコード(登録商標)などのバーコードをプリントするようにしてもよい。
【0073】
上記のように、複数の測定室34a、34b、34c、34dを設けることで、作製評価ユニット3は、一の試料に対して複数の物性値を測定することができる。推定装置1は、作製評価ユニット3で測定可能な複数の物性値の内、一又は複数の物性値を目的変数として試料の最適化を行う。例えば推定装置1は、一連の処理を開始する際に、目的変数とする物性値を選択する選択入力を作業者から受け付ける。推定装置1は、任意に選択された一又は複数の物性値を目的変数として、ベイズ最適化を行う。
【0074】
なお、目的変数として複数の物性値が選択された場合に、推定装置1は、各物性値に対し、優先して最適化すべき度合いを示す優先度の設定入力を受け付け、重み付けを行うようにすると好適である。例えば推定装置1は、複数種類の物性値の優先度を重みとして表すハイパーパラメータ(例えば0〜1の値、wa、wbwc…)の入力を受け付ける。たとえば、物性Aの物性値をa、物性Bの物性値をbとすると、性能指数をwa×a×wb×bと定義し、この性能指数を最大化させるよう最適化を進める。ベイズ最適化を行う場合、推定装置1は、入力されたハイパーパラメータに応じて性能指数の計算を行い、最適試料の作製方法を推定する。これにより、複数の物性値を組み合わせて最適化を行う際に、各物性値の評価を好適に行うことができる。
【0075】
後の処理は実施の形態1と同様に、推定装置1は逐次作製、測定される試料の作製条件及び物性値から逐次探索を行い、最適試料の作製条件を推定する。推定装置1は、推定した作製条件を作製評価ユニット3に逐次入力し、試料を作製させる。所定の終了条件を満たした場合、推定装置1は一連の処理を終了し、作製した各試料の作製条件、物性値のほか、構造情報を含むデータセットを試料DB241に記憶する。
【0076】
なお、上記の処理において作製評価ユニット3は、選択された物性値(目的変数)に関わらず、測定可能な全ての物性値について測定を行うようにすると好適である。これにより、実験の目的(最適化すべき物性)に関わらず、一度の処理で数多くの物性値の測定結果を試料DB241に蓄積することができる。
【0077】
以上より、本実施の形態によれば、一の作製評価ユニット3で複数の物性値を測定し、試料の最適化を行うことができる。上記で説明した点以外は実施の形態1と同様であるため、本実施の形態ではフローチャートその他の詳細な説明を省略する。
【0078】
(実施の形態3)
実施の形態1では、推定装置1及び作製評価ユニット3により試料の作製、物性値の測定、及び最適化を行う形態について述べた。また、実施の形態2では、複数の物性値を測定可能とする形態について述べた。本実施の形態ではこれらを組み合わせ、作製評価システムを外部のユーザも利用可能とする形態について述べる。
【0079】
図8は、実施の形態3に係る作製評価システムの構成例を示す模式図である。本実施の形態に係る作製評価システムは、ネットワークNを介して端末4に接続されている。端末4は外部ユーザの端末装置であり、サーバ2と通信可能に構成されている。
【0080】
図9は、実施の形態3の概要を示す説明図である。図9では、端末4が試料DB241に記憶してある試料情報をサーバ2からから取得すると共に、ユーザが設定した条件に従い、推定装置1及び作製評価ユニット3が試料の作製、測定、及び最適化を行う様子を概念的に図示している。
【0081】
本実施の形態でサーバ2は、試料DB241に記憶されている試料情報を外部ユーザに利用可能とするAPI(Application Programmable Interface)サービスを提供する。例えばサーバ2は、所定のWebブラウザ上での操作入力に応じて端末4から試料情報の出力要求を受け付け、要求された試料情報(試料の材料、作製条件、物性値、構造情報等)を端末4に出力する。例えばサーバ2は、物性値、作製条件などの各種パラメータを検索クエリとするデータベース検索エンジンを提供し、端末4で入力されたパラメータに従って試料DB241から所望の試料情報を検索し、端末4に出力する。
【0082】
なお、端末4に試料情報を出力する際に、サーバ2は、試料DB241に記憶してある試料情報(生データ)を出力するだけでなく、試料作製時の作製条件として規定した各パラメータ(説明変数)が物性値(目的変数)に相関するか、物性値に対する作製条件の相関度を算出してユーザに提示すると好適である。例えばサーバ2は、試料DB241に記憶してあるデータセットから、スパースモデリング、回帰分析、主成分分析等の手段で物性値に対する作製条件の相関度をパラメータ別に算出する。これにより、作製条件の各パラメータが試料の物性にどの程度寄与しているか、ユーザに有益な情報を提供することができる。
【0083】
本実施の形態では、サーバ2は試料情報を提供するだけでなく、外部ユーザから試料の作製、物性値の測定、及び最適化に係る処理の要求を受け付け、推定装置1及び作製評価ユニット3を稼働させる。すなわち、外部ユーザから実験の依頼を受け付け、推定装置1及び作製評価ユニット3において実験を行う。
【0084】
具体的には、サーバ2は、作製する試料の材料(元素)のほか、説明変数とする作製条件のパラメータの種類、及び目的変数とする物性値の種類の設定入力を端末4から受け付ける。図9の右側に、当該設定入力時における端末4での画面イメージを図示してある。サーバ2は当該画面を介して、ベイズ最適化の際に説明変数とする作製条件のパラメータの種類、及び目的変数として測定する物性値の種類を選択する選択入力を受け付ける。なお、この場合にサーバ2は、実施の形態2でも説明したように、各物性値の優先度の設定入力を受け付けるようにすると好適である。サーバ2は、設定された各パラメータに基づいてベイズ最適化を実行する。
【0085】
なお、上記ではベイズ最適化の処理に用いるハイパーパラメータとして、各物性値の優先度の設定入力を受け付けることとしたが、その他のハイパーパラメータについても設定入力を可能としてもよい。
【0086】
また、上記の設定入力時に、サーバ2は、実験の終了条件として、試料の作製量の上限値の設定入力を受け付けると好適である。試料の作製量は、例えば試料の作製数(探索回数)、実験全体での試料の作製時間(実験時間)などである。最適試料の逐次探索を行う際に、推定装置1は、外部ユーザが任意に設定した上限値に基づいて処理を終了するか否かを判定する。これにより、全体的な実験スケジュールを外部ユーザがコントロールすることができる。
【0087】
なお、上記では作製量の上限として試料の作製数、作製時間を例として挙げたが、例えばサーバ2は、作製量の上限値として、実験に投入可能な予算の設定入力を受け付けてもよい。この場合、例えばサーバ2は、単位数当たりの試料の材料価格に基づき、予算の上限値から作製可能な試料の数を割り出し、終了条件として定める。また、例えばサーバ2は、推定装置1での計算に費やすランニングコストから、単位時間当たりの費用を定めて作製量の上限を割り出してもよい。このように、終了条件とする試料作製量は、試料の作製数、作製時間などの物理的なパラメータに限定されず、実験を計画するに当たって適宜に参照可能なパラメータであればよい。
【0088】
サーバ2は、端末4における設定内容を推定装置1に出力し、作製評価ユニット3と協働して最適試料の逐次推定を行うよう指示する。なお、ここで推定装置1は、実施の形態1と同様にランダムな作製条件を生成して処理を開始してもよいが、試料DB241に記憶(蓄積)してある試料情報を参照して、最適試料の推定に用いるデータセットの初期値を設定する設定入力を外部ユーザから受け付け、処理を開始すると好適である。
【0089】
例えばサーバ2は、試料DB241から任意の試料情報を選択する選択入力を端末4から受け付け、ユーザが選択した試料情報をデータセットの初期値に設定する。すなわち、サーバ2は、上述の如く端末4からの出力要求に従って出力した試料情報を、データセットの初期値に設定する設定入力を受け付け、推定装置1に出力する。さらにサーバ2は、上記で設定されたその他の設定内容(説明変数とする作製条件、目的変数とする物性値、優先度、作製量の上限値等)を推定装置1に出力し、処理の開始を指示する。
【0090】
あるいはサーバ2は、試料DB241に蓄積されている試料情報をそのまま利用するのではなく、そこから主成分分析、スパースモデリング等の手法を用いて得られた情報をデータセットの初期値としても良い。すなわち、サーバ2は、ユーザが設定した材料、説明変数(作製条件のパラメータの種類)、目的変数(物性値の種類)に応じて試料DB241から試料情報を抽出し、シミュレーションを行って、試料として最適な作製条件及び物性値をデータセットの初期値として推定し、初期データセットを生成する。このように、サーバ2は、試料DB241に記憶されている試料情報をそのまま流用するだけでなく、過去の試料情報に基づくシミュレーション結果をデータセットの初期値として設定可能としてもよい。
【0091】
上記の処理により、試料DB241に蓄積された試料情報を好適に利用し、不特定多数のユーザによる実験サイクルを回すことができる。
【0092】
終了条件を満たし、推定装置1及び作製評価ユニット3での処理が終了した場合、サーバ2は、作製された各試料の試料情報を示すデータセットを推定装置1から取得する。サーバ2は、取得したデータセットを試料DB241に記憶すると共に、要求元の端末4に対し、データセットに含まれる各試料の試料情報を出力する。
【0093】
図10は、試料情報の表示画面例を示す説明図である。例えば端末4は、サーバ2からの出力に基づき、図10の画面を表示する。
例えば端末4は、個々の試料に付した試料ID(識別情報)と関連付けて、当該試料の物性値と、作製条件に含まれる各パラメータとを一覧で表示する。なお、各試料の情報は、物性値が最適値に近似するものから順に表示されている。なお、目的変数として複数の物性値を計測する場合、例えば試料から計測した各物性値の測定値と、ベイズ最適化によって探索した各物性値の最適値とに基づき、ユークリッド距離を計算するなどして近似の度合いを決めればよい。
【0094】
端末4は、データセットに含まれる各物性値と、作製条件に含まれる各パラメータとを試料毎に表示する。例えば図10に示すように、物性値及び作製条件それぞれについて数値表示を行う。また、物性値については、最適値への近似の度合いを示す適合表示バー101を物性値毎に表示する。例えばサーバ2は、各物性値について最適値と測定値との差分を計算して標準化し、標準化した差分、すなわち最適値との近似度合いに応じて適合表示バー101を表示させる。
【0095】
また、例えば作製条件については、パラメータ毎に物性値への相関度を計算し、当該相関度に応じて相関度表示バー102を表示させる。このようにして、端末4はデータセットに含まれる各試料の試料情報を表示すると共に、ユーザの参考のため、物性値の最適化の度合い(近似度合い)、作製条件に含まれる各パラメータの相関度などを提示する。
【0096】
図11は、サーバ2が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。図11に基づき、実施の形態3に係るサーバ2が実行する処理内容について説明する。
サーバ2の制御部21は、外部のユーザの端末4から、試料DB241に記憶されている試料情報の出力要求を受け付ける(ステップS201)。制御部21は、要求された試料情報を端末4に出力する(ステップS202)。この場合に制御部21は、要求された試料作製時のデータセットから、物性値に対する作製条件の相関度を、作製条件に含まれるパラメータ別に算出して出力する。
【0097】
制御部21は、目的変数とする物性値の種類、説明変数とする作製条件のパラメータの種類、各物性値の優先度、終了条件とする試料の作製量の上限値など、各種設定入力を受け付ける(ステップS203)。また、制御部21は、試料DB241に記憶されている試料情報を参照して、データセットの初期値を設定する設定入力を受け付ける(ステップS204)。例えば制御部21は、ステップS202で出力した試料情報をデータセットの初期値に設定する設定入力を受け付ける。あるいは制御部21は、ステップS203で設定された目的変数、説明変数などの設定内容に応じて、試料DB241に記憶されている試料情報に基づくシミュレーション(例えば主成分分析等)を行い、初期データセットを生成するようにしてもよい。
【0098】
制御部21は、ステップS203の設定内容、及びステップS204で設定されたデータセットを推定装置1に出力し、作製評価ユニット3と協働して最適試料の作製条件を逐次推定するよう指示する(ステップS205)。
【0099】
推定装置1及び作製評価ユニット3における処理が完了した場合、制御部21は、作製評価ユニット3で作製された各試料の作製条件及び物性値を含むデータセットを推定装置1から取得し、端末4に試料情報を出力する(ステップS206)。例えばサーバ2は、作製評価ユニット3で作製した各試料の試料情報を試料ID(識別情報)と関連付けて一覧表示させる。この場合に、例えばサーバ2は、作製評価ユニット3で計測した物性値の測定値と、ベイズ最適化によって探索した最適値との近似度合いに応じて順に一覧表示させる。また、例えばサーバ2は、物性値毎に最適値への近似度合いを、作製条件に含まれるパラメータ毎に物性値への相関度をそれぞれ適合表示バー101、相関度表示バー102などにより表示させる。制御部21はデータセットを試料DB241に記憶し(ステップS207)、一連の処理を終了する。
【0100】
以上より、本実施の形態3によれば、外部ユーザが試料DB241に蓄積された試料情報を利用可能となると共に、本システムを利用してマテリアルズ・インフォマティクスを好適に実施することができる。
【0101】
(実施の形態4)
本実施の形態では、上述の作製評価システムを利用して行った実験データを記載する。
【0102】
本願の発明者は、上述の作製評価システムを用いて、ガラス基板上に成膜したNbドープTiO薄膜の電気抵抗を最小化する実験を行った。成膜にはスパッタリング法を用い、ターゲットにはTi及びOの比率が異なるTi0.94Nb0.062及びTi1.98Nb0.023の2種類を用いた。ArガスとAr(99%)及びO2(1%)の混合ガスとの混合比を調整することで、電気抵抗が最小値を取る薄膜内の酸素含有量(酸素分圧)を探索した。全圧は0.50Paとし、RF電源の出力を100Wにして蒸着を行った。蒸着時間及び膜厚はそれぞれ、1時間、及び最大120nmであった。蒸着中の基板温度は室温とし、蒸着後に400℃で15分間の加熱処理を行うことで薄膜を結晶化させた。
【0103】
作製した薄膜の電気伝導性評価のため、測定室34にて電気抵抗を測定した。電気抵抗の測定は、アニール後に室温程度まで冷却し、測定室34に試料を搬送して行った。
【0104】
実施の形態1と同様に、電気抵抗の最小化はベイズ最適化により行った。具体的には、抵抗値の常用対数値の最小値を探索した。カーネル関数はRBFカーネル(Radial Basis Function Kernel)を採用し、分散は0.3を採用した。また、長さスケールは30と3の2つの数値を用い、信用区間の狭い方を採用した。獲得関数(A)にはLower confidence boundを採用し、A=−E+5σとして最小値を探索した。酸素分圧の数値範囲は2.0×10-4Pa〜5.0×10-3Paとし、当該数値範囲を128のグリッドに分割して探索を行った。最初の3回の成膜条件はまばらとなるように、グリッドの両端(2.0×10-4Pa及び5.0×10-3Pa)と中心(2.51×10-3Pa)に予め設定した。4回目以降の成膜条件をベイズ最適化により決定し、同一条件を再度選択しないように設定した。
【0105】
図12は、電気抵抗の酸素分圧依存性を示す実験データである。図12におけるグラフ(a)〜(c)及び(d)〜(f)はそれぞれ、ターゲットにTi0.94Nb0.062及びTi1.98Nb0.023を用いた場合の実験データである。グラフの横軸は酸素分圧(Pa)、縦軸は電気抵抗(Ω)である。グラフ中の各点はベイズ最適化による探索点であり、探索点の近傍に示す数字は探索回数を表す。例えばグラフ(a)〜(c)ではそれぞれ、7回目まで、12回目まで、及び18回目までの探索点が示されている。
【0106】
グラフ(a)〜(c)に示すように、ターゲットにTi0.94Nb0.062を用いた場合、14回目で電気抵抗が最小値を取り、15回目以降ではほぼ同じ酸素分圧を指示するようになり、探索が十分に収束した。これにより、最適な酸素分圧を7.29×10-4Paに決定することができた。グラフ(d)〜(f)に示すように、ターゲットにTi1.98Nb0.023を用いた場合、18回目で電気抵抗が最小値を取り、酸素分圧が2.43×104Paで収束した。Ti1.98Nb0.023を用いた場合、推定曲線がTi0.94Nb0.062の場合よりも右にシフトしており、ターゲットの酸素含有量が少ないことと合致している。
【0107】
本実験から、2つの特筆点を挙げることができる。1点目として、探索範囲内に極小領域が2つ存在する中で、正しい最小点を探索できている点である。極小領域が2つ出現する原因はTi35、Ti23などのチタン還元相の生成に由来するが、正しい最小値を探索できている。
【0108】
2点目として、手作業で実験を行う場合と比較して、実験時間を10分の1程度に短縮することができた点である。本実験では10回当たり24時間程度で成膜が完了し、1日から2日で最適化が完了した。人間が実験した場合、一日に平均して試料を2つ作製することができ、10回実験するには6日間を要する。ただし、6日間という期間は作業者が実験のみに従事できた場合の期間で、その他の活動時間も考慮すると10日間程度が必要になる。このように、本システムを利用することで研究を加速させることができる。
【0109】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0110】
1 推定装置
11 制御部
12 主記憶部
13 通信部
14 表示部
15 入力部
16 補助記憶部
P1 プログラム
2 サーバ
21 制御部
22 主記憶部
23 通信部
24 補助記憶部
P2 プログラム
241 試料DB
3 作製評価ユニット
4 端末
【要約】
【課題】マテリアルズ・インフォマティクスを好適に実施することができる作製評価システム等を提供する。
【解決手段】作製評価システムは、試料を作製する作製装置と、該作製装置が作製した前記試料の物性又は構造を表す物質情報を測定する測定装置と、前記作製装置及び測定装置に接続された推定装置1とを有する作製評価システムであって、前記推定装置1は、前記試料の作製条件と、該試料の前記物質情報とを含むデータセットに基づき、前記物質情報を最適化する前記作製条件を推定する推定部を備え、前記作製装置は、前記推定部が推定した前記作製条件に従って前記試料を作製し、前記推定装置1は、前記測定装置が測定した前記試料の前記物質情報と、該試料の前記作製条件とを前記データセットに追加するデータ追加部を備え、前記推定部は、前記作製条件及び物質情報が追加された前記データセットに基づいて前記作製条件を逐次推定することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12