(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁気抵抗効果素子に与えられる被測定磁界を相殺するキャンセル磁界を発生するフィードバックコイルと、前記フィードバックコイルに与えられるキャンセル電流を制御するとともにそのキャンセル電流を検知する検知回路とを備えており、
前記フィードバックコイルが前記交番磁界印加部として使用される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の磁気センサは、GMR素子の延在方向すなわちストライプの長手方向において一様なリセット磁界を印加するために、GMR素子に対して十分な大きさのリセットコイルを形成する必要がある。また、磁気平衡式の磁気センサを構成する場合、リセットコイルに加えて、被測定電流からの誘導磁界を相殺するキャンセル磁界を発生するフィードバックコイルを形成する必要がある。したがって、電流センサのサイズが大きくなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、フリー磁性層の磁化状態を効率よくリセットすることができる磁気センサの提供を目的としている。
また本発明は、リセットコイルなどを設けることなく、フリー磁性層の磁化状態をリセットできる磁気センサの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明者らが検討した結果、フリー磁性層にバイアス磁界が印加されているGMR素子の感度方向(バイアス磁界と直交する方向)に交番磁界を印加することにより、フリー磁性層の磁化状態がリセットされて、初期の磁化状態に近づくという知見を得た。この知見に基づく本発明は、以下の構成を備えている。
【0009】
本発明は、ブリッジ回路を構成する複数の磁気抵抗効果素子が設けられている磁気センサにおいて、
前記磁気抵抗効果素子はそれぞれ、磁化方向が固定された固定磁性層と、外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層と、前記固定磁性層と前記フリー磁性層との間に位置する非磁性材料層とを有し、
前記フリー磁性層にバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加部と、
前記フリー磁性層に、前記バイアス磁界と交差する向きの交番磁界を印加する交番磁界印加部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の磁気センサは、前記磁気抵抗効果素子が、帯状に延在する複数の素子部がミアンダ形状に接続されており、
前記バイアス磁界印加部は、前記素子部の延在方向に前記バイアス磁界を印加し、
前記交番磁界印加部は、前記交番磁界を、前記素子部の延在方向と直交する前記磁気抵抗効果素子の感度軸方向に印加する、ものであっても良い。
本発明の磁気センサは、素子部のバイアス磁界の印加方向に直交する方向に交番磁界を印加することにより、効率よくフリー磁性層を初期の磁化状態にリセットすることができる。
【0011】
本発明の磁気センサでは、前記ブリッジ回路は、第1のハーフブリッジ回路および第2のハーフブリッジ回路を有するフルブリッジ回路として構成できる。
【0012】
また、前記バイアス磁界は、ハードバイアス磁界またはエクスチェンジバイアス磁界である。
【0013】
本発明の磁気センサは、例えば、前記磁気抵抗効果素子に与えられる被測定磁界を相殺するキャンセル磁界を発生するフィードバックコイルと、前記フィードバックコイルに与えられるキャンセル電流を制御するとともにそのキャンセル電流を検知する検知回路とを備えており、
前記フィードバックコイルが前記交番磁界印加部として使用されるものである。
フィードバックコイルを交番磁界印加部として用いることにより、交番磁界を印加するために別のコイルを設ける必要がなくなり、磁気センサのサイズを小さくすることができる。
【0014】
例えば、前記フィードバックコイルは、前記キャンセル電流が与えられない時間に前記交番磁界を発生する交番磁界印加部として使用される。
【0015】
本発明の磁気センサは、磁気シールドをさらに備えており、
前記磁気シールドは、前記被測定磁界を減衰させ、前記キャンセル磁界と前記交番磁界を増強するものが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、バイアス磁界が印加されたフリー磁性層に、バイアス磁界と交差する向きの交番磁界を印加することにより、フリー磁性層を初期の磁化状態にリセットすることができる。したがって、オフセット値が一定に保持された、高精度な磁気センサとすることができる。
また、本発明は、フィードバックコイルを備え、このフィードバックコイルを交番磁界印加部として使用することで、リセットコイルなどを別途に設ける必要がなくなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る磁気センサの構成の概略を示す概念図である。磁気センサ1は、フルブリッジ回路110と、フィードバックコイル121とを備えている。フルブリッジ回路110は、磁気抵抗効果素子122bと磁気抵抗効果素子122aからなるハーフブリッジ回路111Aと、磁気抵抗効果素子122cと磁気抵抗効果素子122dからなるハーフブリッジ回路111Bとが並列に接続された構成である。ハーフブリッジ回路111Aおよびハーフブリッジ回路111Bはそれぞれ、一端が電源電圧Vddに接続され、他端が接地電位GNDに接続されている。磁気抵抗効果素子122aおよび磁気抵抗効果素子122cのPin方向(X1方向)と、磁気抵抗効果素子122bおよび磁気抵抗効果素子122dのPin方向(X2方向)とは、180度異なっている。
【0019】
フルブリッジ回路110に外部磁界Hが印加されると、磁気抵抗効果素子122a〜122dのフリー磁性層44(
図6、
図7参照)の向きが外部磁界Hの方向に倣うように変化する。このとき、磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗値は、固定磁性層(第2磁性層)42cの固定磁化方向とフリー磁性層44の磁化方向との、相対角度に応じて変化する。このため、ハーフブリッジ回路111Bの中点端子131の出力電位(Out1)と、ハーフブリッジ回路111Aの中点端子132の出力電位(Out2)との差動出力(Out1)−(Out2)が、図中にHで示した矢印方向(感度軸方向、X1−X2軸方向)の磁界の検知出力(検知出力電圧)Vsとして得られる。検知出力Vsは増幅器124にて増幅され、フィードバックコイル121に与えられる。
【0020】
フルブリッジ回路110を構成する磁気抵抗効果素子122a〜122dのそれぞれには、上述した感度軸方向(X1−X2方向)と直交する、図中にBで示した矢印方向(バイアス磁界方向、Y2方向)にバイアス磁界が印加されている。磁気抵抗効果素子122a〜122dのフリー磁性層にバイアス磁界を印加することにより、フリー磁性層の磁化をY方向に揃え、好ましくはフリー磁性層の磁化を単磁区化し、外部磁界が与えられたときに、フリー磁性層の磁化が外部磁界の方向へ向きやすくなる。
【0021】
ただし、フリー磁性層に予想外の大きな外部磁界が印加され、フリー磁性層の磁化が強制的に外部磁界の方向へ向けられると、その後に外部磁界がゼロ(無磁界)になったときに、ヒステリシスによってフリー磁性層の初期の磁化状態、すなわちバイアス磁界の向きに揃えられた状態に戻らないことがある。この場合、外部磁界がゼロ(無磁界)の状態における差動出力(Out1)−(Out2)が0ではなくなり、検知出力Vsにオフセットが生じることによって、磁気センサ1の測定精度が低下する。
【0022】
そこで、磁気センサ1は、フリー磁性層の磁化状態を初期化するために、フィードバックコイル121から、磁気抵抗効果素子122a〜122dに対して、感度軸方向に交番磁界を印加する。バイアス磁界BがY2方向に印加されている状態で、感度軸方向(X1−X2方向)に交番磁界を印加することにより、フリー磁性層の磁化状態を初期化できるようにしている。このとき、バイアス磁界Bが印加されているため、交番磁界印加後にフリー磁性層の磁化方向が初期と逆向きに向いてしまうことを防止できる。これにより、フリー磁性層に大きな外部磁界が印加された場合に生じる検知出力Vsのオフセットを解消して、測定精度を高くすることが可能になる。
【0023】
このときの交番磁界は、フリー層に印加された外乱である前記外部磁界よりも絶対値が小さくても、フリー磁性層に、感度軸方向へ向きの異なる磁界を繰り返して与えることで、フリー磁性層の磁化状態を初期化するリセット処理が可能である。
【0024】
図1に示すように、フィードバックコイル121には、発振器140が並列して接続されている。この発振器140がフィードバックコイル121に交流電流を印加することにより、フィードバックコイル121から磁気抵抗効果素子122a〜122dに対して、交番磁界を印加することができる。発振器140がフィードバックコイル121に交流電流を印加するタイミングは、例えば、磁気センサ1の異常が検知された場合、または一定時間経過ごと、あるいは磁界検知中に定期的に行なうなどが挙げられる。なお、磁界検知中に交番磁界を発生させると、交番磁界が発生している間、磁界を検知することができないが、その後にフリー磁性層が初期化された精度の高い測定を行うことが可能となる。磁気センサ1の制御は、図示しないCPU等により行う。異常の検知は、例えば、記憶保持手段等にあらかじめ格納されている正常プロセスとの比較に基づいて行う。
【0025】
本実施形態の磁気センサ1は、フィードバック磁界を発生させるフィードバックコイル121を、交番磁界印加部として用いている。このため、フィードバックコイル121とは別に交番磁界印加部を備えたものと比較して、磁気センサ1のサイズを小さくすることができる。
【0026】
図2及び
図3は、本発明の実施の形態に係る磁気平衡式の磁気センサを示す説明図である。本実施の形態においては、磁気センサ1は、被測定電流Iが流れる導体11の近傍に配設される。この磁気センサ1は、導体11に流れる被測定電流Iによる誘導磁界(被測定磁界)を打ち消す磁界(キャンセル磁界)を生じさせるフィードバック回路12を備えている。このフィードバック回路12は、被測定電流Iによって発生する磁界を打ち消す方向に巻回されたフィードバックコイル121と、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dとを有する。
【0027】
フィードバックコイル121は平面コイルで構成されている。フィードバックコイル121は、平面コイルの形成面と平行な面内で誘導磁界とキャンセル磁界の両方が生じるように設けられていることが好ましい。
【0028】
磁気抵抗効果素子122a〜122dは、被測定電流Iからの誘導磁界(被測定磁界)の印加により抵抗値が変化する。この4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dにより磁界検出ブリッジ回路を構成している。このように磁気抵抗効果素子を有する磁界検出ブリッジ回路を用いることにより、高感度の磁気センサを実現することができる。検出感度を良好にする観点から、
図2及び
図3に示すようにフルブリッジ回路とすることが好ましいが、フルブリッジ回路の代わりに1つのハーフブリッジ回路を備えた磁気センサとして実施することもできる。
【0029】
この磁界検出ブリッジ回路は、被測定電流Iにより生じた誘導磁界に応じた電圧差を生じる2つの出力を備える。
図2に示す磁界検出ブリッジ回路においては、磁気抵抗効果素子122bと磁気抵抗効果素子122cとの間の接続点に電源Vddが接続されており、磁気抵抗効果素子122aと磁気抵抗効果素子122dとの間の接続点にグランド(GND)が接続されている。さらに、この磁界検出ブリッジ回路においては、磁気抵抗効果素子122a,122b間の接続点から一つの出力(Out1)を取り出し、磁気抵抗効果素子122c,122d間の接続点からもう一つの出力(Out2)を取り出している。
【0030】
これらの2つの出力は増幅器124を含む制御回路に送られ、フィードバックコイル121に、電流(フィードバック電流)として与えられる。このフィードバック電流は、誘導磁界に応じた出力(Out1)と出力(Out2)の電圧差をゼロにするように設定される。そして、誘導磁界とキャンセル磁界とが相殺される平衡状態となったときのフィードバックコイル121に流れる電流に基づいて検出回路(検出抵抗R)で被測定電流が測定される。
【0031】
図4は、
図2に示す磁気センサを示す断面図である。
図4に示すように、本実施の形態に係る磁気センサにおいては、フィードバックコイル121、磁気シールド30及び磁界検出ブリッジ回路が同一基板21上に形成されている。
図4に示す構成においては、フィードバックコイル121が、磁気シールド30と磁界検出ブリッジ回路110の間に配置され、磁気シールド30が被測定電流Iに近い側に配置されている。すなわち、導体11に近い側から磁気シールド30、フィードバックコイル121、磁気抵抗効果素子122a〜122dの順に配置する。これにより、磁気抵抗効果素子122a〜122dを導体11から最も遠ざけることができ、被測定電流Iから磁気抵抗効果素子に印加される誘導磁界を小さくすることができる。また、磁気シールド30を最も導体11に近づけることができるので、誘導磁界の減衰効果をより高めることができる。したがって、フィードバックコイルからのキャンセル磁界を小さくすることができ、検知動作のダイナミックレンジを広げることができる。
【0032】
図4に示す層構成について詳細に説明する。
図4に示す磁気センサにおいては、基板21上に絶縁層である熱シリコン酸化膜22が形成されている。熱シリコン酸化膜22上には、アルミニウム酸化膜23が形成されている。アルミニウム酸化膜23は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。また、基板21としては、シリコン基板などが用いられる。
【0033】
アルミニウム酸化膜23上には、磁気抵抗効果素子122a〜122dが形成されており、磁界検出ブリッジ回路110が作り込まれる。磁気抵抗効果素子122a〜122dとしては、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)などを用いることができる。本発明に係る磁気センサにおいて用いられる磁気抵抗効果素子の膜構成については後述する。
【0034】
磁気抵抗効果素子としては、
図3の拡大図に示すように、その長手方向が互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターン(ストライプ)の素子が折り返してなる形状(ミアンダ形状)を有するGMR素子であることが好ましい。このミアンダ形状において、感度軸方向(Pin方向)は、長尺パターンの長手方向(ストライプ長手方向)に対して直交する方向(ストライプ幅方向)である。このミアンダ形状においては、誘導磁界(被測定磁界)及びキャンセル磁界がストライプ長手方向に直交する方向(ストライプ幅方向)に沿うように印加される。また、フリー磁性層の磁化を初期化するための交番磁界もストライプ長手方向に直交する方向に印加される。
【0035】
このミアンダ形状においては、リニアリティを考慮すると、ピン(Pin)方向の幅が1μm〜10μmであることが好ましい。
【0036】
また、アルミニウム酸化膜23上には、電極24が形成されている。電極24は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。
【0037】
磁気抵抗効果素子122a〜122d及び電極24を形成したアルミニウム酸化膜23上には、絶縁層としてポリイミド層25が形成されている。ポリイミド層25は、ポリイミド材料を塗布し、硬化することにより形成することができる。
【0038】
ポリイミド層25上には、シリコン酸化膜27が形成されている。シリコン酸化膜27は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。
【0039】
シリコン酸化膜27上には、フィードバックコイル121が形成されている。フィードバックコイル121は、コイル材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。あるいは、フィードバックコイル121は、下地材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びめっきにより形成することができる。
【0040】
また、シリコン酸化膜27上には、フィードバックコイル121の近傍にコイル電極28が形成されている。コイル電極28は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。
【0041】
フィードバックコイル121及びコイル電極28を形成したシリコン酸化膜27上には、絶縁層としてポリイミド層29が形成されている。ポリイミド層29は、ポリイミド材料を塗布し、硬化することにより形成することができる。
【0042】
ポリイミド層29上には、磁気シールド30が形成されている。磁気シールド30を構成する材料としては、アモルファス磁性材料、パーマロイ系磁性材料、又は鉄系微結晶材料等の高透磁率材料を用いることができる。
【0043】
ポリイミド層29上には、シリコン酸化膜31が形成されている。シリコン酸化膜31は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。ポリイミド層29及びシリコン酸化膜31の所定の領域(コイル電極28の領域及び電極24の領域)にコンタクトホールが形成され、そのコンタクトホールに電極パッド32,26がそれぞれ形成されている。コンタクトホールの形成には、フォトリソグラフィ及びエッチングなどが用いられる。電極パッド32,26は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びめっきにより形成することができる。
【0044】
このような構成を有する磁気センサにおいては、
図4に示すように、被測定電流Iから発生した誘導磁界(被測定磁界)Aを磁気抵抗効果素子122a〜122dで受け、その誘導磁界をフィードバックしてフィードバックコイル121からキャンセル磁界Bを発生し、2つの磁界(誘導磁界A、キャンセル磁界B)を相殺して磁気抵抗効果素子122a〜122dに印加する磁界が零になるように適宜調整する。
【0045】
本発明の磁気センサにおいては、
図4に示すように、フィードバックコイル121に隣接して磁気シールド30を有する。磁気シールド30は、被測定電流Iから生じ磁気抵抗効果素子122a〜122dに印加される誘導磁界を減衰させる(磁気抵抗効果素子122a〜122dにおいては誘導磁界Aの方向とキャンセル磁界Bの方向が逆方向)と共に、フィードバックコイル121からのキャンセル磁界Bをエンハンスする(磁気シールド30においては誘導磁界Aの方向とキャンセル磁界Bの方向が同方向)ことができる。したがって、磁気シールド30が磁気ヨークとして機能するため、フィードバックコイル121に流す電流を小さくすることができ、省電力化を図ることができる。また測定動作のダイナミックレンジを広げることができる。また、この磁気シールド30により、外部磁界の影響を低減させることができる。
【0046】
さらに、フィードバックコイル121から交番磁界を発生して、フリー磁性層の磁化を初期化するリセット処理を行うときに、磁気シールド30は、交番磁界をエンハンスする効果を発揮でき、フリー磁性層に対して感度軸方向に絶対値の大きな交番磁界を与えて、フリー磁性層の初期化を行うことができる。
【0047】
上記構成を有する磁気センサは、磁気検出素子として磁気抵抗効果素子、特にGMR素子やTMR素子を有する磁界検出ブリッジ回路を用いる。これにより、高感度の磁気センサを実現することができる。また、この磁気センサは、磁気検出ブリッジ回路が膜構成の同じ4つの磁気抵抗効果素子で構成されている。また、上記構成を有する磁気センサは、フィードバックコイル121、磁気シールド30及び磁界検出ブリッジ回路が同一基板上に形成されてなるので、小型化を図ることができる。さらに、この磁気センサは、磁気コアを有しない構成であるので、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0048】
本発明の磁気センサにおいては、
図5に示すように、中点電位(Out1)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122b,122aの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向)が互いに180°異なっており(反平行)、中点電位(Out2)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122c,122dの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向)が互いに180°異なっている(反平行)。また、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化率は同じである。磁気抵抗効果素子122a〜122dは、強磁性固定層に対する印加磁界の角度が同一である場合、同一磁界強度で同一の抵抗変化率を示すことが好ましい。
【0049】
このように配置された4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dを有する磁気平衡式電流センサにおいて、磁気検出ブリッジ回路の2つの出力(Out1、Out2)の電圧差がゼロになるようにフィードバックコイル121から磁気抵抗効果素子にキャンセル磁界を印加し、その際にフィードバックコイル121に流れる電流値を検出することにより、被測定電流により生じた誘導磁界を測定する。
【0050】
図5に示すように、矢印方向に被測定電流Iが流れると、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dには、それぞれ誘導磁界A及びキャンセル磁界Bが印加される。このとき、被測定電流により発生する誘導磁界とキャンセル磁界の合成磁界強度がゼロとなる時に、磁気検出ブリッジ回路の中点電位差がゼロとなる。
【0051】
図6は、本発明の実施の形態に係る磁気センサにおける磁気抵抗効果素子の膜構成を示す図である。磁気検出素子122a〜122d(
図1〜
図3参照)は、
図6に示すように、基板40表面側から、下地層41、固定磁性層42、非磁性材料層43、フリー磁性層44、および保護層45の順に積層された構成とすることができる。これらの層は例えばスパッタ工程で成膜される。
【0052】
下地層41は、NiFeCr合金(ニッケル・鉄・クロム合金)あるいはCrなどで形成されている
【0053】
固定磁性層42は、第1磁性層42aおよび第2磁性層42cと、第1磁性層42aと第2磁性層42cと間に位置する非磁性中間層42bと、で構成されたセルフピン止め構造となっている。第1磁性層42aの固定磁化方向と、第2磁性層42cの固定磁化方向とは、相互作用により反平行となっている。非磁性材料層43に隣接する第2磁性層42cの固定磁化方向が、固定磁性層42の固定磁化方向である。この固定磁化方向が延びる方向は、磁気検出素子122a〜122dの感度軸方向である。
【0054】
第1磁性層42aおよび第2磁性層42cは、FeCo合金(鉄・コバルト合金)で形成される。FeCo合金は、Feの含有割合を高くすることにより、保磁力が高くなる。非磁性材料層43に接する第2磁性層42cはスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果(GMR効果)に寄与する層である。非磁性中間層42bはRu(ルテニウム)などで形成されている。Ruからなる非磁性中間層42bの膜厚は、3〜5Åまたは8〜10Åであることが好ましい。
【0055】
非磁性材料層43は、Cu(銅)などである。
フリー磁性層44は、その材料および構造が限定されるものではない。例えば、材料としてCoFe合金(コバルト・鉄合金)、NiFe合金(ニッケル・鉄合金)などを用いて、単層構造、積層構造、積層フェリ構造などとして形成することができる。
保護層45は、Ta(タンタル)などで形成される。
【0056】
図7は、本発明の実施の形態に係る磁気センサにおける磁気抵抗効果素子の他の膜構成を示す図である。同図に示す、磁気検出素子122a〜122d(
図1〜
図3参照)は、フリー磁性層44と保護層45との間に、反強磁性層46が設けられている点において、
図6に示した膜構成とは異なっている。
【0057】
反強磁性層46は、x−Mn合金(x・マンガン合金、x=Pt,Ir,Ru,Rh,Pd,Fe,Ni)、x−Cr合金(x・クロム合金、x=Al,Pt,Mn)およびx−O(xの酸化物、x=Fe,Co,Ni)などを用いることができる。これらの中では、PtMn合金(白金・マンガン合金)およびIrMn合金(イリジウム・マンガン合金)が好ましい。
【0058】
反強磁性層46を無磁場中または弱磁場中でアニール処理して規則化し、フリー磁性層44のとの間(界面)で交換結合を生じさせる。この交換結合によって、フリー磁性層44にバイアス磁界を印加することができる。
【0059】
続いて、磁気抵抗効果素子のフリー磁性層にバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加部について説明する。バイアス磁界印加部としては、ハードバイアス層によりハードバイアスを印加するハードバイアス構成および、反強磁性層によりエクスチェンジバイアスを印加するエクスチェンジバイアス構成が挙げられる。
【0060】
図8(A)に示すハードバイアス構成では、一対の磁気抵抗効果素子122a、122bとハードバイアス層(バイアス磁界印加部)53とが交互に配置されている。磁気抵抗効果素子122a、122bは、一方のハードバイアス層53側から他方のハードバイアス層53側に向って帯状に延在する複数の素子部57を有している。複数の素子部57は、一対のハードバイアス層53間において平行に配置されており、隣接する素子部57間が導電部58によってミアンダ形状に接続されている。各磁気抵抗効果素子122a、122bにおいて、平面視において素子部57の延在方向に対する直交方向がPin方向になっている。
【0061】
このハードバイアス構成では、各ハードバイアス層53が素子部57の延在方向に平行な一方向に着磁されている。したがって、磁気抵抗効果素子122a、122bに対して同一方向のバイアス磁界が印加される。
【0062】
ハードバイアス構成では、他の一対の磁気抵抗効果素子122c、122dも、磁気抵抗効果素子122a、122b同様、ハードバイアス層53と交互に配置されている。
【0063】
図8(B)に示すエクスチェンジバイアスを印加する構成では、ハードバイアス層を形成することなく、一対の磁気抵抗効果素子122a、122bに互いに逆向きのバイアス磁界を印加するように構成されている。このエクスチェンジバイアス構成でも、上記ハードバイアス構成と同様に、帯状に延在する複数の素子部66を平行に配置して、複数の素子部66間を導電部67によってミアンダ形状に接続している。各磁気抵抗効果素子122a、122bにおいて、平面視において素子部66の延在方向に対する直交方向がPin方向になっている。
【0064】
エクスチェンジバイアス構成では、フリー磁性層44と反強磁性層46(
図7参照)の界面における交換結合により、反強磁性層46からフリー磁性層44に対して、素子部66の延在方向に沿ったバイアス磁界が印加される。
【0065】
一対の磁気抵抗効果素子122a、122bでは、フリー磁性層と反強磁性層の界面における交換結合により、反強磁性層からフリー磁性層に対して、素子部66の延在方向に沿ったバイアス磁界が印加される。フリー磁性層及び反強磁性層は、一対の磁気抵抗効果素子122a、122bの製造プロセスにおいて磁界を印加しながら成膜されている。このとき、一対の磁気抵抗効果素子122a、122bで磁界の印加方向を逆にしてフリー磁性層と反強磁性層を成膜することで、磁気抵抗効果素子122a、122bで互いに逆向きのバイアス磁界を印加することを可能にしている。他の一対の磁気抵抗効果素子122c、122dにおいても同様に、素子部66の延在方向に沿ったバイアス磁界が印加される。
【実施例】
【0066】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0067】
図9は、本実施例の磁気センサを構成する磁気抵抗効果素子であるGMR素子の感度軸に直交する方向のR−H曲線を示すグラフである。同図に示すように、GMR素子のヒステリシスにより、その抵抗値は磁界の強度が変化する方向によって異なる。例えば、
図9に示すR−H曲線のGMR素子では、ゼロ磁界における抵抗値には、磁界が変化する方向によって10Ω程度の差がある。このゼロ磁界におけるGMR素子の抵抗値の差は、磁気センサ1のオフセット、すなわち、ゼロ磁界における中点131と中点132からとの出力に差が生じる原因となる(
図1参照)。そこで、磁界が変化する方向によらず所定の抵抗値となるバイアス磁界(Hex)を印加することにより、GMR素子のヒステリシスに起因する磁気センサのオフセットを小さくすることができる。
【0068】
しかし、GMR素子に大きな磁界が印加された場合、GMR素子のフリー磁性層の磁化状態が初期状態から変化する。そして、大きな磁界が取り除かれて、バイアス磁界(Hex)が印加された状態となっても、印加された大きな磁界の影響によって、磁化状態が初期状態には戻らない場合がある。このように、大きな磁界が印加された場合、GMR素子のフリー磁性層の磁化状態が初期状態に戻らず、抵抗が所定値からずれてしまうと、磁気センサにオフセットが生じる。
【0069】
なお、GMR素子のフリー磁性層に印加するバイアス磁界を十分に大きくすれば、GMR素子に大きな磁界が印加された場合にも、フリー磁性層の磁化状態を初期状態のまま維持することができる。しかし、GMR素子に印加するバイアス磁界を大きくすることは、磁気センサの出力が小さくなってしまい、応答速度が低下することから好ましくない。
【0070】
そこで、磁気センサに大きな磁界を印加してオフセットを生じさせた後、感度軸方向に交番磁界を印加することによる変化を調べるため、以下の測定を行った。
<測定条件>
Vdd:5V
印加した大きな磁界:バイアス磁界と逆方向に20mT
繰り返し測定した磁界(フリー磁性層の初期化するための交番磁界):感度軸方向すなわちバイアス磁界と交差する方向に±2mT
<GMR素子の膜構成(Å)>
下地層:NiFeCr(42Å)/第1磁性層:60FeCo(19Å)/非磁性中間層:Ru(3.6Å)/第2磁性層:90CoFe(24Å)/非磁性材料層:Cu(20Å)/フリー磁性層:90CoFe(10Å)/82.5NiFe(70Å)/反強磁性層:IrMn(80Å)/保護層:Ta(100Å)
<形状>
4μm幅×80μm長さ×9本 のミアンダ形状
なお、磁気シールド30は設けていない。
【0071】
図10は、バイアス磁界と逆方向にフリー磁性層が完全に反転する大きな強度の外部磁界を印加して、検知出力にオフセットが生じる状態に至った後に、バイアス磁界の方向と交差する方向である感度軸方向に±2mTの交番磁界を繰り返して与えたときの評価を示している。横軸の測定回は、+2mTと−+2mTの交番磁界を一周期与えたときを1回とした。
同図に示すように、交番磁界を1回与えた状態では、フリー磁性層反転後のヒステリシスの影響によってオフセット変動量が大きい。しかし、交番磁界を2回以上与えることで、オフセット変動量が急激に減少し、3回目以降はオフセット変動量がゼロ近傍で安定した。
【0072】
この結果から、フリー磁性層にExBiasが印加された状態で、バイアス方向と逆方向の大きな外乱磁界を与えた後であっても、感度方向に交番磁界を複数回与えることで、フリー磁性層の磁化方向を、初期状態に戻すことが可能である。