特許第6842756号(P6842756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842756
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】魚釣り用リール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/033 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   A01K89/033 501
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-6661(P2017-6661)
(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公開番号】特開2018-113900(P2018-113900A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】398010494
【氏名又は名称】株式会社エバーグリーンインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】武内 收
【審査官】 大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−050399(JP,A)
【文献】 特開2016−220689(JP,A)
【文献】 実開昭58−130465(JP,U)
【文献】 実開昭52−131490(JP,U)
【文献】 特開平11−196731(JP,A)
【文献】 米国特許第05086991(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00−89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に支持されたスプール軸と、前記スプール軸に回転可能に支持され釣り糸を巻き取るスプールと、前記スプールの釣り糸繰り出し方向回転のドラグ力を調整するドラグ機構と、前記釣り糸の繰り出しに伴って回転する前記スプールのオーバーランを抑制するブレーキ装置とを備えた魚釣り用リールにおいて、
前記ドラグ機構は、前記スプールと共に回転する第1摩擦板と、前記第1摩擦板と当接可能に対峙し前記スプールに釣り糸を巻き取り操作するハンドルの回転に伴って回転する第2摩擦板と、前記第2摩擦板に対して前記第1摩擦板が離間状態となるように付勢する付勢部材とを有し、前記付勢部材の付勢力に抗して前記第2摩擦板に対する前記第1摩擦板の摩擦係合力の強弱が調整される構成であり、
前記ブレーキ装置は、前記リール本体の側方から前記付勢部材の付勢力に抗して前記スプール軸をその軸方向へ押圧操作する押圧部材を有し、前記押圧部材による前記スプール軸の押圧にて前記第1摩擦板が前記第2摩擦板に当接し前記スプールのオーバーランを抑制する構成である、
ことを特徴とする魚釣り用リール。
【請求項2】
前記押圧部材は、前記スプール軸の端部と結合部で結合され、前記結合部よりも大径の押圧頭部を備え、前記リール本体の側面には前記結合部が貫通し前記押圧頭部が収容される凹部を有し、前記押圧部材の押圧操作前は前記付勢部材の付勢力にて前記押圧頭部が前記凹部の底部から所定間隔で離間した状態を保持し、前記所定間隔は、前記スプール軸の軸線方向への移動距離を制御する前記ドラグ機構のカム機構により設定される前記スプール軸の軸方向移動距離を確保する間隔である、
ことを特徴とする請求項1に記載の魚釣り用リール。
【請求項3】
前記押圧部材の押圧頭部は、前記結合部を有する円形状主体部と、前記円形状主体部から斜め前上方へ延びる補助部とを有し、前記凹部は前記円形状主体部及び前記補助部に合わせて形成されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の魚釣り用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣り用リールに関し、特に、釣り糸繰り出し時のリールのオーバーランを抑制するブレーキ装置を備えた魚釣り用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣り用リールには、スピニングリールや両軸受けリールがあり、特に両軸受けリールは、ジギング釣りやトローリング釣り等の大物釣りに適するように設計され、スプールへの釣り糸巻き取り用ハンドルを支持するハンドル軸がスプール軸と平行に配置され、スプール軸と同軸上にドラグ機構の摩擦係合部及びドラグ機構の調整用レバーを配置したレバードラグ式両軸受けリールは公知である(例えば、特許文献1)。
【0003】
前記両軸受けリールを釣り竿に取り付けた状態で魚釣りを行う場合、釣り竿を振って仕掛けを投げる方法と、仕掛けを投げずに仕掛けの錘を利用して釣り竿から仕掛けを真下に落として釣る方法がある。
前者の方法の場合、仕掛けを投げることによってドラグフリー状態のスプールが高速回転して釣り糸が繰り出されるが、風の影響等によって仕掛けが飛ぶスピードが低下したとき、スプールの回転がそれに伴って低下せずオーバーラン状態(空回り状態)となり、釣り糸が連続して繰り出されることにより、余分に繰り出された釣り糸がスプールの前方部分に絡まり、鳥の巣のように纏わりつく状態となることがある。
また後者の方法の場合は、潮の流れの影響によって釣り糸がドラグフリー状態のスプールから繰り出されるスピードが変化する。速いスピードで繰り出されていた状態から遅いスピードになったとき、スプールの回転がそれに伴って低下せずオーバーラン状態(空回り状態)となり、釣り糸が連続して繰り出されることにより、余分に繰り出された釣り糸がスプールの前方部分に絡まり、鳥の巣のように纏わりつく状態となることがある。
【0004】
このように、釣り開始時ドラグフリー状態のスプールから釣り糸が繰りだされるとき、釣り糸の弛み抑制の細かな操作を行うことが必要である。この抑制操作として、サミングと呼ばれる方法がある。これは、リールを掴んだ左手の親指によってスプールの上から繰り出される釣り糸を抑える度合いを調整する方法であるが、勢いよく繰り出される釣り糸を抑えるため、釣り糸によって指が傷つく虞があり、好ましくない。
【0005】
このため、スプールのオーバーラン状態(空回り状態)を機械的に抑制する装置として、両軸受けリールには、ハンドルの反対側のリール本体側面から左手によって操作可能なブレーキ装置が設けられたものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−196731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のものは、ハンドルの反対側のリール本体側面から操作可能な押しボタンが、リール本体の側面から突出状態に配置され、この押しボタンをバネ力に抗して押すことにより、ブレーキロッドが進出して先端のブレーキパッドがスプールの側面を押圧し、スプールの回転にブレーキが掛かる仕組みである。
【0008】
このブレーキ装置は、スプールの側面を押圧するため、押圧力がスプールに偏りを生じさせる作用となり好ましいものではない。
また、このブレーキ装置は、押しボタン、筒体、スライド軸、コイルバネ、耐摩耗性のブレーキシュー等の特別な部品が必要であり、更に、ブレーキシューが挿入される円形状の溝をスプールの側面に形成する等の特別な加工が必要となり、組み立て工数も多くなり、コストアップとなる。
【0009】
本発明は、このような点に鑑み、押圧力がスプールに偏りを生じさせることなく、且つ、簡単な部品の追加によって、釣りを始めるときにスプールから釣り糸を繰りだすときの釣り糸の弛み抑制の細かな操作を行うことに適するブレーキ装置を備えた魚釣り用リールを提供するものである。
このため、本発明は、両軸受けリールに備えたドラグ機構を利用するブレーキ装置を提供することに特徴がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明は、リール本体に支持されたスプール軸と、前記スプール軸に回転可能に支持され釣り糸を巻き取るスプールと、前記スプールの釣り糸繰り出し方向回転のドラグ力を調整するドラグ機構と、前記釣り糸の繰り出しに伴って回転する前記スプールのオーバーラン(空回り)を抑制するブレーキ装置とを備えた魚釣り用リールにおいて、
前記ドラグ機構は、前記スプールと共に回転する第1摩擦板と、前記第1摩擦板と当接可能に対峙し前記スプールに釣り糸を巻き取り操作するハンドルの回転に伴って回転する第2摩擦板と、前記第2摩擦板に対して前記第1摩擦板が離間状態となるように付勢する付勢部材とを有し、前記付勢部材の付勢力に抗して前記第2摩擦板に対する前記第1摩擦板の摩擦係合力(ドラグ力)の強弱が調整される構成であり、
前記ブレーキ装置は、前記リール本体の側方から前記付勢部材の付勢力に抗して前記スプール軸をその軸方向へ押圧操作する押圧部材を有し、前記押圧部材による前記スプール軸の押圧にて前記第1摩擦板が前記第2摩擦板に当接し前記スプールのオーバーラン(空回り)を抑制する構成である、
ことを特徴とする。
【0011】
第2発明は、第1発明において、
前記押圧部材は、前記スプール軸の端部と結合部で結合され、前記結合部よりも大径の押圧頭部を備え、前記リール本体の側面には前記結合部が貫通し前記押圧頭部が収容される凹部を有し、前記押圧部材の押圧操作前は前記付勢部材の付勢力にて前記押圧頭部が前記凹部の底部から所定間隔で離間した状態を保持し、前記所定間隔は、前記スプール軸の軸線方向への移動距離を制御する前記ドラグ機構のカム機構により設定される前記スプール軸の軸方向移動距離を確保する間隔である、
ことを特徴とする。
【0012】
第3発明は、第2発明において、
前記押圧部材の押圧頭部は、前記結合部を有する円形状主体部と、前記円形状主体部から斜め前上方へ延びる補助部とを有し、前記凹部は前記円形状主体部及び前記補助部に合わせて形成されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブレーキ装置は、ハンドルの反対側でリール本体の側面にスプール軸を押圧可能に配置された押圧部材を備え、ドラグ機構の第2摩擦板に対して第1摩擦板が離間状態となるように付勢する付勢部材の付勢力に抗して、第1摩擦板13Aを第2摩擦板に当接させることによって、釣り糸繰り出し時のスプール回転に所定のブレーキが掛かる仕組みである。
これによって、ドラグ機構の付勢部材に抗した押圧操作によって、スプールに適宜にブレーキを掛けるため、スプールの側面を押圧してブレーキをかける従来方式では、押圧力がスプールに偏りを生じさせる作用となるが、本発明では、スプール軸を押圧するため、スプールにこのような偏りの作用力が生じる虞がなく、安定したブレーキ作用を与えることができる。
【0014】
また、本発明のブレーキ装置では、従来のブレーキ装置として必要であった押しボタン、筒体、スライド軸、コイルバネ、耐摩耗性のブレーキシュー等の特別な部品も不要となり、更に、ブレーキシューが挿入される円形状の溝をスプールの側面に形成する等の特別な加工も不要となり、スプールに安定したブレーキをかけることができる。
【0015】
第2発明では、押圧頭部が凹部に収容される状態であるため、リールの側面からの押圧頭部の突出が抑えられることにより、リールを握る手が押圧頭部に触れても違和感が軽減される。
また、釣り糸が押圧部材や、押圧部材とスプール軸と結合部に絡まる虞がなく、安定した釣り操作及びブレーキ操作が達成できる。
【0016】
第3発明では、押圧頭部に円形状主体部から斜め前上方へ延びる補助部を有する。釣り操作時にハンドルの反対側のリール本体の側面に覆い被せる左手の親指と人差しの間の空間に、この補助部が位置するため、釣り操作時に補助部が邪魔にならず、しかもスプールにブレーキを掛けるときには、この主体部と共に補助部を押せば、主体部を無闇に大きくしなくてもブレーキを掛け易くなり、安定してブレーキを掛けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るレバードラグ式リールの左側を握った状態の説明図である。
図2】本発明の実施形態に係るレバードラグ式リールを上面から見た平面図である。
図3】本発明に係るレバードラグ式リールの内部構造を示す要部断面図である。
図4】本発明に係るレバードラグ式リールのブレーキ装置が作動する前の状態を示す断面図である。
図5】本発明に係るレバードラグ式リールのブレーキ装置が作動した状態を示す断面図である。
図6】本発明に係る第1カムの図であり、(イ)は第1カムの側面図、(ロ)は第1カムのカム面の平面図、(ハ)は第1カムのカム面の展開図である。
図7】本発明に係る第2カムの図であり、(イ)は第2カムのカム面の平面図、(ロ)は(イ)のB−B断面図である。
図8】本発明に係るブレーキ装置の押圧部材の一つの実施形態を示す第1側板カバー側の左側面図である。
図9】本発明に係るブレーキ装置の押圧部材の他の実施形態を示す第1側板カバー側の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、リール本体に支持されたスプール軸と、前記スプール軸に回転可能に支持され釣り糸を巻き取るスプールと、前記スプールの回転にドラグ力を調整するドラグ機構と、前記ドラグ機構を介して前記スプールを回転させるハンドルと、前記ドラグ機構のドラグ力を調整するドラグレバーとを備え、
前記ドラグ機構は、前記スプールと共に回転する第1摩擦板13Aと、前記第1摩擦板13Aと対峙する第2摩擦板13Bと、前記第2摩擦板13Bに対して前記第1摩擦板13Aが離間状態となるように付勢する付勢部材とを有し、
前記ハンドルの反対側で前記リール本体の側方から前記スプール軸を押圧操作可能に配置された押圧部材を有し、前記付勢部材の付勢力に抗した前記押圧部材の押圧にて、前記第1摩擦板13Aが前記第2摩擦板に当接する構成であるブレーキ装置を備える魚釣り用リールであり、以下にその実施例を記載する。
【実施例1】
【0019】
本発明に係る以下に記載する実施例は、両軸受けリール1の一つの形態であるレバードラグ式リール1について記載する。レバードラグ式リール1は、図2に示すように、その下側部に設けた金属製の取付け脚2を釣竿60の上側部に形成した取付け部に装着して取り付けられ、その取り付け状態において、多くの使用状態として採用される右側ハンドル操作の場合について説明する。
【0020】
本発明に係るレバードラグ式リール1は、図1に示すように、釣竿60の竿先に向かって右側に、釣糸62をスプール15に巻き取り操作するハンドル12及びドラグ機構13のドラグ力を調整するドラグレバー14が配置され、操作者のハンドル側の手(右手)でハンドル12を操作し、レバードラグ式リール1の反ハンドル側となる左側面に沿わせた操作者の反ハンドル側の手(左手LH)によって、釣竿60を下方から支えると共に左手LHの親指LH1によって、ドラグレバー14を操作可能とする小型のレバードラグ式リール1を構成している。
【0021】
このレバードラグ式リール1は、ジグと称される錘式のルアーを使用し、釣り竿から釣糸62を略真下へ向けて例えば海中50m乃至それ以上の深さまで垂らして比較的大きな魚を狙うジギング釣りとして好適なものである。
【0022】
以下、本発明に係るレバードラグ式リール1の構成について更に詳細に記載する。以下の説明において、レバードラグ式リール1の取付け脚2を釣竿60の上側部に形成した取付け部61に装着した状態において、レバードラグ式リール1を後方から釣竿60の竿先に向かって見た状態で、右側及び左側と呼称して説明することとする。
【0023】
本発明に係るレバードラグ式リール1は、リール本体11と、リール本体11に支持されたスプール軸16に回転自在に支持されたスプール15と、スプール15の釣り糸繰り出し方向回転のドラグ力を調整するドラグ機構13と、ドラグ機構13を介してスプール15を回転駆動する歯車装置GAと、歯車装置GAを回転駆動するハンドル軸を回転させるためのハンドル12と、ドラグ機構13のドラグ力を調整するドラグレバー14を備えている。また、ドラグ機構13は、ドラグ力の強弱調整範囲をプリセットするドラグ調整装置50を備えている。
【0024】
金属製のリール本体11は、円形状のスプール15の左側面を覆う側面視円形状の左側の第1側板11Aと、円形状のスプール15の右側面を覆う側面視円形状の右側の第2側板11Bが、複数の連結部11Cにて連結された状態で対向配置された構成を主体部とし、これに第1側板11Aの外側を覆うように第1側板11Aにネジ11Hで固定された側面視円形状の金属製の第1側板カバー11Dと、第2側板11Bの外側を覆うように第2側板11Bにネジ11Gで固定された金属製の第2側板カバー11Eを備えて構成である。ネジ11Hは、操作者の左手LHの手のひらが接触しないように、第1側板カバー11Dの外表面から突出しないように窪みに配置されている。
【0025】
第1側板カバー11Dの左側面は、操作者の左手LHの手のひらが沿い易いように、周縁部から中央部に向けて左外方へ大きな曲率で突出した曲面11D1をなし、略球面状に膨らんだ丸み形状を呈している。第2側板カバー11Eは、円形状のスプール15の右側面を覆う側面視円形状部分と、金属製のハンドル取り付け部12Tに連結された金属製のメインギア22を収容する部分とを一体形成した金属製の第2側板内カバー11E1と、ハンドル取り付け部12Tを収容する金属製の第2側板外カバー11E2とで構成している。第2側板内カバー11E1がネジ11Gで第2側板11Bに固定されており、第2側板内カバー11E1と第2側板外カバー11E2は、ハンドル取り付け部12Tがメインギア22と連結される部分で連通する状態にネジ11Jで結合されている。なお、第2側板内カバー11E1内のメインギア22を覆うために、ギアカバー11E3を備えており、ギアカバー11E3は、外側端が第2側板内カバー11E1に連接し内側端がネジ11Kで第2側板11Bに取り付けられた構成である。
【0026】
リール本体11には、スプール軸16の左右両側部が、第1側板11Aの一部である第1側板カバー11Dに設けた軸支持部11D2と、第2側板11Bの一部である第2側板カバー11Eに設けた軸支持部11D3に支持されており、それによって、リール本体11に対して金属製のスプール軸16が、回転不能且つスプール軸16の軸方向へ移動可能(左右移動可能)である。実施例では、第2側板カバー11Eの外面部(具体的には第2側板内カバー11E1の外面部)に、スプール軸16と同軸に膨出形成した膨出部11E1Bが形成されており、膨出部11E1Bを貫通してスプール軸16が、その軸方向に移動可能且つ回転不能に延出するように、膨出部11E1Bに軸支持部11D3が形成されている。軸支持部11D2の一部には、スプール軸16から突出した回り止めピン16Pが嵌まり込む溝11D21が形成されており、回り止めピン16Pが溝11D21に嵌まり込んだ状態で、スプール軸16が回転不能且つ軸方向へ移動可能(左右移動可能)である。
【0027】
釣り糸62を巻き取る金属製のスプール15は、釣り糸62を巻き取る円筒状の小径の糸巻き胴部15Aと、糸巻き胴部15Aの左右両側に設けた円形状の大径のフランジ部15B、15Cを一体形成している。スプール15は、左右両側部が軸受け17A、17Bを介してスプール軸16対して遊転可能に支持されている。この状態で、左側のフランジ部15Bは、リール本体11の第1側板11Aの内側に入り込んだ状態で配置され、右側のフランジ部15Cは、リール本体11の第2側板11Bの内側に入り込んだ状態で配置される。
【0028】
軸受け17Aは、スプール15の左側の第1凹部に装着されており、スプール軸16に取付けたワッシャ16Wと軸受け17Aとに付勢力が働く4枚の皿バネからなる第1付勢部材27によって、図3で右方向となる内方へ付勢され、スプール15の第1凹部に押し圧されている。軸受け17Bは、スプール15の右側の第2凹部に装着されており、後述の軸受け25との間のスプール軸16の周囲に配置したコイルバネからなる第2付勢部材28によって、スプール軸16の内方(図3で左方)に付勢されている。この第2付勢部材28によって、ドラグフリー状態において、第2摩擦板13Bから第1摩擦板13Aが離間するように、スプール15をスプール軸16の内方(図3で左方)に付勢する。
【0029】
スプール15は、リール本体11に回転自在に取り付けたハンドル12の回転操作によって、釣り糸62がスプール15に巻き取られる。スプール15は、2号撚り糸(PEラインと称する)の釣糸62を略600mの長さまで安定に巻回できるように、糸巻き胴部15A及び左右両側のフランジ部15B、15Cが形成されている。
【0030】
ハンドル12は、板状の金属製のハンドルアーム12Bと、ハンドルノブとして若干の弾力を有するゴムや合成樹脂などで形成した握り部12Dを備えており、ハンドル取り付け部12Tにてリール本体11に回転自在に取付けられている。具体的には、ハンドル取り付け部12Tは、第2側板カバー11E内(図示では第2側板外カバー11E2内)に設けた軸受け18A、18Bによって、スプール軸16の軸線16Sに平行な軸線12ASでもって金属製のハンドル軸12Aが回転自在に支持され、第2側板カバー11Eを貫通したハンドル軸12Aの外側端部(図示では右側端部)に、ネジ19によってハンドルアーム12Bの基部が固定され、ハンドルアーム12Bの先端部に握り部12Dをハンドルノブ支持軸部12Eによって回転自在に支持している。ハンドルノブ支持軸部12Eは、ハンドルアーム12Bに略直角に交差するように、ハンドルアーム12Bの先端部に固定したハンドルノブ軸12Cに、軸受け20A、20Bを介して握り部12Dと一体の筒部12D1が回転自在に支持された構成である。これによって、握り部12Dを操作者の右手によって握持した状態で、スプール15へ釣り糸62の巻き取りを行なう場合、ハンドル軸12Aを中心として握り部12Dを釣り糸巻き取り方向(レバードラグ式リール1の右側面視で時計方向)に回転させることに伴って、ハンドルノブ軸12Cを中心として握り部12Dが回転するため、スプール15へ釣り糸62の巻き取りを連続して行なうことができる。
【0031】
図2及び図3に示すように、ハンドルノブ(握り部)12Dは、両端間の中間部がハンドルノブ支持軸部12Eの先端にハンドルノブ支持軸部12Eと交差状態を保ちつつ回転自在に結合された棒状体を構成し、ハンドルノブ支持軸部12Eは、ハンドルノブ(握り部)12Dを握持する右手の親指と人差し指にて挟み持つことが可能な大きさと長さを備え、ハンドルノブ支持軸部12Eのハンドルアーム12Bに近接する部分の外周に、釣り糸巻き取り回転中常時ハンドルアーム12Bの先端12B1の弧状部よりも外方へ張り出す大きさに拡大する環状の指移動阻止部12Hを形成している。
【0032】
ハンドル12は、スプール15へ釣り糸62を巻き取る方向(図1に矢印Yで示す正方向回転という)へは回転できるがその逆方向回転はできないようにするために、第2側板カバー11E内(具体的には第2側板外カバー11E2内)において、軸受け18A、18B間にワンウェイクラッチ21が設けられている。ワンウェイクラッチ21は周知の構成であり、第2側板カバー11E側のアウターハウジングと、ハンドル軸12A側のインナーハウジングとの間に介在したローラの作用によって、ハンドル軸12Aが前記正回転方向のみ許容される周知の仕組みである。このため、ハンドル12の正方向回転によってハンドル軸12Aが正方向回転し、後述のドラグ機構13を介してスプール15が釣り糸62を巻き取る方向へ回転する。一方、釣り糸62の繰り出しによってスプール15が繰り出し方向回転(釣り糸62を巻き取る方向とは逆方向の回転)する場合、その回転が後述のドラグ機構13及びメインギア22等を介してハンドル軸12Aへ伝達されるが、ワンウェイクラッチ21の作用によってハンドル軸12Aは回転せず、従ってハンドル12も逆方向回転(釣り糸62を巻き取る方向Y方向とは逆方向の回転)しないように動作する。
【0033】
ハンドル12の正方向回転をスプール15へ伝達するために、ハンドル軸12Aの左端部に固定したメインギア22に噛み合うように金属製のピニオンギア23を備えている。軸受け24は、周知のボールベアリング型式の軸受けであり、その外輪が第2側板カバー11E内の凹部に装着され内輪がピニオンギア23の外周の外側端部に装着されており、それによって、ピニオンギア23が第2側板カバー11E内に回転自在に支持され、ピニオンギア23は、スプール軸16に対しては回転自在且つスプール軸16が軸方向移動自在なるように装着されている。この状態で、スプール軸16の軸方向移動は許容するが、メインギア22の回転に伴ってピニオンギア23が回転する関係である。また、ピニオンギア23の内側端部には、後述のドラグ機構13の第2摩擦板13Bと一体の取付け板13B1の内周部分が嵌合し、ピニオンギア23と第2摩擦板13Bが一体化されている。
【0034】
ドラグ機構13は、仕掛けに魚が仕掛けに掛った状態で、回転しないスプール軸16に回転自在に装着されたスプール15に釣り糸62を巻き取る場合、巻き取り操作するハンドルの回転をスプール15に伝達するための回転伝達力の強弱を調整すると共に、魚の引きによってスプール15の釣り糸繰り出し方向回転が生じる場合、この回転に制動力を加え、この制動力を調整し、また変更するためのものである。
【0035】
このためドラグ機構13は、ドラグ力の強弱を揺動動作にて調整する金属製のドラグレバー14と、スプール15と共に回転するようにスプール15の一側面であるハンドル側(図示では竿先方向に向かって右側)の円形状のフランジ部15Cの側面に固定した円板状の第1摩擦板13A(可動側ブレーキ板に相当)と、第1摩擦板13Aに当接可能に対峙しハンドル12の回転に伴って回転する円板状の第2摩擦板13B(固定側ブレーキ板に相当)と、スプール軸16に対してスプール15をスプール軸16の軸方向(ハンドル側となる図示では右側)に向けて付勢する4枚の皿バネからなる第1付勢部材27と、ドラグフリー状態で第2摩擦板13Bから第1摩擦板13Aが離間するようにスプール15をスプール軸16の軸方向(反ハンドル側となる図示では左側)に付勢するコイルバネからなる第2付勢部材28と、ドラグレバー14の揺動動作にてスプール軸16の軸方向移動を制御するカム機構30と、ドラグレバー14の揺動によるドラグ力の強弱調整範囲を予め所定の範囲に設定する(プリセットという)ドラグ調整装置50とを備えている。これによって、ドラグレバー14の揺動動作にて第1摩擦板13Aと第2摩擦板13Bとの摩擦係合力(ドラグ力)の強弱が調整され、スプール15の釣り糸繰り出し方向回転に加える制動力が調整される。
【0036】
なお、第1付勢部材27の付勢力(バネ力)は、第2付勢部材28の付勢力(バネ力)よりも大きく設定されている。また、第1付勢部材27と第2付勢部材28によって、スプール15の自由回転時のガタツキを防止している。
【0037】
第2摩擦板13Bは、スプール軸16に対して、ピニオンギア23の回転に伴って回転するが、スプール軸16が軸方向へ移動しても移動しないように移動不能且つ回転可能である。このため、第2摩擦板13Bは、軸受け25を介してスプール軸16に遊転可能に支持され且つスプール軸16の移動自在に支持される。この軸受け25は、周知のボールベアリング型式であり、その外輪が第2摩擦板13Bの凹部に装着され、内輪がスプール軸16に遊嵌されている。これによってスプール軸16に対して、ピニオンギア23と共に第2摩擦板13Bが回転自在であり、且つスプール軸16はその軸方向移動自在である。
【0038】
第2側板カバー11Eの外面部(具体的には第2側板内カバー11E1の外面部)に、スプール軸16と同軸に膨出形成した膨出部11E1Bは、スプール軸16のピニオンギア23よりもハンドル12側へ延出する部分を取り囲んで二段階に膨出形成されており、その二段階の二段目を貫通してスプール軸16がその軸方向に移動可能に延出するように、軸受け部11D3で支持されている。
【0039】
ドラグレバー14は、第2側板カバー11Eの外面部(具体的には第2側板内カバー11E1の外面部)の膨出部11E1Bに揺動自在(回動自在ともいう)に支持されている。具体的には、ドラグレバー14の基部に形成した円筒状の支持部14Aが、膨出部11E1Bの一段目の円筒状外面に揺動自在(回動自在ともいう)に組み合わされ、支持部14Aの内周の一部に形成した環状の係止部14Bが、膨出部11E1Bの二段目の外周面に取り付けたC形リングまたはE形リングの抜け止め部材141によって抜け止め保持されている。この状態でドラグレバー14は、第2側板内カバー11E1に対してスプール軸16を中心として揺動自在(回動自在ともいう)に保持される。なお、ドラグレバー14の揺動(回動ともいう)範囲は、略130度である。
【0040】
図6及び図7に示すように、カム機構30は、ドラグレバー14側の第1カム31と、第1カム31に噛み合うリール本体11側の第2カム32とで構成される。第1カム31は、環状の係止部141の外側面に沿って配置され、筒状の膨出部11E1Bを取り囲むように円筒状の支持部14Aの内側に回り止め状態に取り付けた傾斜カムである。第1カム31は傾斜カムと称するように、ハンドル12側へ向けて徐々に高く傾斜した円弧状のカム面31Aを形成している。製作のし易さ、取り付けのし易さ、ドラグ動作の安定化のために、第1カム31は図6(ロ)に示すように円形状リングをなし、カム面31Aは、スプール15の軸線16Sを中心とした半径方向の対称位置に形成された対称カム面31Aの構成であり、この対称のカム面31Aは、ハンドル12側から見て反時計回りに傾斜が徐々に強くなる(ハンドル12側へ近づくように高くなる)形状である。これによって第1カム31は、スプール軸16を中心としてドラグレバー14と共に揺動(回動)する。なお、第1カム31は、支持部14Aの内側に支持部14Aと一体形成でもよい。
【0041】
第2カム32は、第1カム31に対向配置したリール本体側カムであり、第1カム31のカム面31Aと相互摺動するカム部32Aを備えている。膨出部11E1Bの二段目の外周は、図示の六角形のような多角形部11E1B6を備え、第2カム32は、図7に示すように、この多角形部11E1B6に嵌合する内周面32B1とドラグレバー14の支持部14Aの先端部分の円形状の内周面に沿う円形状の外周面とを形成した環状のカム体32Bと、カム体32Bのスプール軸16を中心とした半径方向の180度対称位置で外方へ突出するように取付けた棒状の突起カム形態のカム部32Aとで構成されている。
【0042】
カム機構30として、第1カム31と第2カム32のいずれか一方が傾斜カム形態であり、他方が突起カム形態である技術は、例えば、特開平11−155442号公報で公知であるため、この基本的な技術のみは新規技術ではないが、安定動作を達成するための構成については、本発明によって新規に得られたものである。
【0043】
これによって、第2カム32は、膨出部11E1Bの多角形部11E1B6に回転不能状態で且つスプール軸16の軸方向へ移動可能状態であり、ドラグレバー14は、スプール軸16の軸方向へ移動不能状態であって第2カム32に対して揺動(回動)自在である。
【0044】
第1カム31のカム面の具体的な構成を図6の(イ)〜(ハ)に示す。図6の(イ)は第1カム31の側面図、図6の(ロ)は第1カム31の平面図、図6の(ハ)は第1カム31のカム面31Aの展開図である。これらの図において、スプール軸16の軸線16Sを中心とした半径方向の180度対称位置であるP及びQの範囲に、同じ形状でカム面31Aが形成されている。Aの範囲が平坦カム面であり、Bの範囲がきつい傾斜の第1傾斜カム面であり、Cの範囲が緩い傾斜の第2傾斜カム面であり、Dの範囲が更に緩い傾斜の第3傾斜カム面である。第2カム32のカム部は、図7の(イ)(ロ)に示すように、第2カム32の180度対称位置に設けた突起カム形態のカム部32Aが、P及びQの範囲でカム面31Aと相互摺動する。
【0045】
ドラグレバー14を手動操作することによって、ドラグ機構13の摩擦係合力(ドラグ力)の強弱を調整するが、その場合のドラグ力の強弱調整範囲の初期設定は、ドラグ調整装置50によって行なわれる。ドラグ調整装置50は、ドラグレバー14を揺動自在(回動自在ともいう)に支持する膨出部11E1Bの先端の多角形部11EB6よりも、ハンドル12側へ延出するスプール軸16の先端部分に形成した雄ネジ16A(図3の右端部外周面に二つの平行線で描いた部分)と、この雄ネジ16Aに螺合する雌ネジ51Aを内側に形成した有底円筒状をなし、第2カム32に相対回転可能に当接したドラグ調整部材51を備えている。
【0046】
ハンドル12側から見て、ドラグ調整部材51を時計回りに回動させることにより第2付勢部材28が圧縮されつつ、ドラグ調整部材51の前記雌ネジ51Aとスプール軸16の前記雄ネジ16Aの螺合長さが長くなり、スプール軸16がスプール15を伴ってハンドル12側(図3で右側)へ僅かに移動し、ドラグ力が僅かに強くなるドラグ力強設定状態となる。また、ハンドル12側から見て、ドラグ調整部材51を反時計回りに回動させることにより第2付勢部材28の圧縮が弱まり、前記雌ネジ51Aと前記雄ネジ16Aの螺合長さが短くなり、スプール軸16がスプール15を伴ってハンドル12側から離れる方向(図3で左側)へ僅かに移動し、ドラグ力が僅かに弱くなるドラグ力弱設定状態となる。このようにドラグ調整装置50によって、ドラグ力の強弱調整範囲の初期設定がなされる。
【0047】
ドラグ調整装置50にて一つの調整範囲に設定した場合、図3のスプール軸16の軸線16Sより上半分は、第1摩擦板13Aと第2摩擦板13Bの当接力が強い状態、即ちドラグ機構13による強ドラグ状態を示すものであり、図3のスプール軸16の軸線16Sより下半分が、第1摩擦板13Aと第2摩擦板13Bが離間した状態、即ちドラグ機構13によるドラグ力がゼロのドラグフリー状態を示すものである。
【0048】
第1摩擦板13Aと第2摩擦板13Bとの当接力の強弱が調整されることにより、ドラグ力が調整されるため、この動作を安定させるために、第1摩擦板13Aは耐熱性と耐磨耗性を備えたコルク、合成樹脂等で構成された僅かに弾性を備えたドーナツ状ディスクである。また、第2摩擦板13Bはステンレス等の金属製の円盤状である。
【0049】
ドラグレバー14の揺動によってドラグ力を調整する場合について説明する。ドラグレバー14をドラグフリーの状態とするためには、ドラグレバー14を図2のR方向(手前側、反時計回り)いっぱいまで(スタート位置まで)揺動(回動)する。これによって、第2カム32の180度対称位置に設けたそれぞれのカム部32Aが、第1カム31のカム面31Aの180度対称位置に設けたそれぞれのAの範囲(ドラグレバー14の揺動(回動)角度が10度の範囲)に位置し、第2付勢部材28の付勢によってスプール軸16がスプール15を伴って図3の左方向へ移動させるため、それによって第1摩擦板13Aが図3の左方向へ移動し、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bから離れた状態となる。これは、釣糸62を竿先方向へ引っ張る作用に対してドラグ力は掛からないゼロの状態である。即ち、スプール15の釣り糸繰り出し方向回転に対して、ドラグ機構13によるドラグ力が掛からない状態(ドラグフリー状態)となり、スプール15が自由回転状態となるため、キャスティングを行なえる状態となる。
【0050】
このAの状態からドラグレバー14を図2のF方向(前方、時計回り)へ揺動(回動)することにより生じる相対運動によって、第2カム32の180度対称位置に設けたそれぞれのカム部32Aが、第1カム31のカム面31AのAの範囲からカム面31AのBの範囲へ移行し、180度対称位置に設けたそれぞれのBの範囲(ドラグレバー14の揺動(回動)角度が20度の範囲)のカム面を第2カム32のカム部32Aが登ることにより、第2カム32が図3の右方向へ移動し、それに伴ってドラグ調整部材51が図3の右方向へ移動するため、ドラグ調整部材51によってスプール軸16が第2付勢部材28の付勢に抗してハンドル12側(図3で右側)へ引き寄せられて移動し、それに伴ってスプール15も第1付勢部材27を介して同じ方向へ移動する。このため、それぞれのカム部32Aがカム面31AのBの範囲の略中間位置から第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bに当接し、ドラグ力が掛かり始める状態となり、且つ、ハンドル12の回転によってスプール15が釣り糸62を巻き取り方向へ回転可能となる。
【0051】
この当接が始まった状態から更にドラグレバー14を図2のF方向(前方、時計回り)へ揺動(回動)することにより、第2カム32の180度対称位置に設けたそれぞれのカム部32Aが第1カム31のカム面31AのCの範囲へ移行し、180度対称位置に設けたそれぞれのCの範囲(ドラグレバー14の揺動(回動)角度が70度の範囲)のカム面を第2カム32のカム部32Aが登ることにより、第2カム32が図3の右方向へ移動し、それに伴ってドラグ調整部材51が図3の右方向へ移動するため、上記同様にドラグ調整部材51によってスプール軸16及びスプール15がハンドル12側(図3で右側)へ引き寄せられて移動し、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bに当接する当接力が徐々に強くなる。即ち、ドラグ力が徐々に強くなる。
【0052】
Bの範囲のカム面の傾斜をCの範囲のカム面の傾斜よりも強くしているのは、Aの範囲のドラグフリーの状態から速やかにドラグ作用開始状態へ移行できるようにするためであり、Bの範囲のカム面の傾斜の中間位置からドラグ作用が開始し、それ以降はCの範囲のカム面の傾斜に沿ってドラグ力が徐々に強くなるようにしている。
【0053】
Cの範囲を越えてドラグレバー14を図2のF方向(前方、時計回り)へ揺動(回動)することにより、第2カム32のカム部32Aが第1カム31のカム面31AのCの範囲からDの範囲へ移行し、Dの範囲(ドラグレバー14の揺動(回動)角度が30度の範囲)のカム面を第2カム32のカム部32Aが登ることにより、第2カム32が図7の右方向へ移動し、それに伴ってドラグ調整部材51が図3の右方向へ移動するため、上記同様にドラグ調整部材51によってスプール軸16及びスプール15がハンドル12側(図3で右側)へ引き寄せられて移動し、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bに当接する当接力が更に強くなる。Dの範囲の最終部がドラグレバー14の揺動(回動)動作の終点であり、このときドラグ力が最大となる。
【0054】
また、ドラグレバー14を図2のR方向(手前側、反時計回り)へ揺動(回動)することによって、第2カム32のカム部32Aが第1カム31のDの範囲、Cの範囲、Bの範囲を順次経ることに伴って、第1摩擦板13Aが図3の左方向へ移動してドラグ力が徐々に弱まる。
【0055】
上記のように、ドラグレバー14のF方向(前方、時計回り)、R方向(手前側、反時計回り)への揺動(回動)動作によって、ドラグ力の強弱を調整できるため、実釣中のハンドル12の操作並びにドラグレバー14の操作を適宜行なうことにより、実釣効果を得ることができる。
【0056】
そして、第2カム32の180度対称位置に設けたそれぞれのカム部32Aが、第1カム31の180度対称位置に設けたそれぞれのAの範囲に位置したとき、上記のように、第1摩擦板13Aが図3の左方向へ移動して、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bから離れた状態となるため、釣糸62を竿先方向へ引っ張る作用に対してドラグ力は掛からないゼロの状態である。
【0057】
上記の記載から明らかなように、第2カム32のカム部32Aが第1カム31のAの範囲に位置した状態では、スプール15は、ドラグ機構13との連繋やハンドル取り付け部12Tを含むハンドル12側との連繋も外れた状態であるため、スプール15の釣り糸繰り出し方向回転に対して殆んど抵抗がない状態となる。この状態で、キャスティングを行なう、即ち、ジグと称される錘式のルアーを使用した釣り糸62を釣り竿60から略真下へ向けて、例えば海中50m乃至それ以上の深さまで垂らした後、ドラグレバー14を図2のF方向(前方、時計回り)へ揺動(回動)することにより、上記のように、ドラグ機構13が作動してドラグが掛かる。このため、ドラグレバー14のF方向(前方、時計回り)及びR方向(手前側、反時計回り)への揺動(回動)動作と、ハンドル12の回転操作とを適宜行うことによって、釣り糸62を所望の状態に繰り出した状態にて実釣動作を行なうことができる。
【0058】
ドラグレバー14を安定して回動させるために、ドラグレバー14の一部である操作部14Dから突出する突起部14D1が、第2側板11Bの円弧状上面に形成した円弧上溝70に嵌り合って、ドラグレバー14の回動と共に前後に回動可能である。そして、ドラグレバー14の回動を段階的に行うための発音装置65をこの部分に設けている。
【0059】
レバードラグ式リール1は、図1及び図2に示すように、その下側部に設けた金属製の取付け脚2を釣竿60の上側部に形成した取付け部に装着して取り付けられ、その取り付け状態において、レバードラグ式リール1の左側面に沿わせた操作者の左手LHの中指や薬指などによって釣竿60を下方から支えると共に、その左手LHによってレバードラグ式リール1を握持し、左手LHの親指LH1によってドラグレバー14を操作可能とし、操作者の右手でハンドル12を操作可能とする構成である。また、左手LHの親指LH1は、ドラグレバー14から離した状態で、釣り糸62がスプール15へ略均等状態に巻き取られるように釣り糸62を案内するように操作することができる。
【0060】
両軸受けリールを釣り竿に取り付けた状態で魚釣りを行う場合、釣り竿を振って仕掛けを投げる方法では、仕掛けを投げることによってドラグフリー状態のスプールが高速回転して釣り糸が繰り出されるが、空気抵抗や風の影響等によって仕掛けが飛ぶスピードが低下したとき、スプールの回転がそれに伴って低下せずオーバーラン状態(空回り状態)となり、釣り糸が連続して繰り出されることにより、余分に繰り出された釣り糸がスプールの前方部分に絡まり、鳥の巣のように纏わりつく状態となることがある。
また、仕掛けを投げずに仕掛けの錘を利用して釣り竿から仕掛けを真下に落として釣る方法では、潮の流れの影響によって釣り糸がドラグフリー状態のスプールから繰り出されるスピードが変化する。速いスピードで繰り出されていた状態から遅いスピードになったとき、スプールの回転がそれに伴って低下せずオーバーラン状態(空回り状態)となり、釣り糸が連続して繰り出されることにより、余分に繰り出された釣り糸がスプールの前方部分に絡まり、鳥の巣のように纏わりつく状態となることがある。
【0061】
本発明は、このように、釣り開始時ドラグフリー状態のスプールから釣り糸が繰りだされるとき、釣り糸の弛み抑制の細かな操作を行うことができるブレーキ装置として、ドラグ機構13を利用するブレーキ装置100を提供する。
以下に、ブレーキ装置100の構成を記載する。
【0062】
上記のように、レバードラグ式リール1は、リール本体11に支持されたスプール軸16と、スプール軸16に回転可能に支持され釣り糸を巻き取るスプール15と、更に、スプール15と共に回転する第1摩擦板13Aと、第1摩擦板13Aに対峙する第2摩擦板13Bと、第2摩擦板13Bから第1摩擦板13Aが離間状態となるドラグフリー状態に付勢する付勢部材28とを有し、第1摩擦板13Aと第2摩擦板13Bの摩擦係合によってスプール15の回転に摩擦係合力(ドラグ力)を付与するドラグ機構13を備えている。
【0063】
ブレーキ装置100は、図3乃至図5に示すように、ハンドル12を操作する手(実施例では右手)とは逆の手(実施例では左手)で操作されるように、リール本体11の側方からスプール軸16を押圧操作可能とする押圧部材101を有する。付勢部材28の付勢力に抗して押圧部材101をスプール軸16の軸線16Sに沿って、軸方向(ハンドル12側の方向)へ押圧することによって、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bに当接する構成である。
【0064】
押圧部材101はスプール軸16と結合部102で結合されて一体化される。結合部102の構成は種々ある中で、簡単な構成として、スプール軸16の中心軸の延長上において、スプール軸16の端部からリール本体11の左側面へ向けて突出した軸外面に形成した雄ねじ軸部103と、押圧部材101の裏側からスプール軸16の中心軸方向へ突出した軸孔に形成した雌ねじ軸部104とがネジ結合される。このネジ結合によって、雌ねじ軸部104の先端が雄ねじ軸部103の根本部分でスプール軸16の端部に当接し、押圧部材101がスプール軸16と正規の結合となる仕組みである。なお、この構成とは逆の構成として、スプール軸16の端部に開口するようにスプール軸16の中心軸方向へ向かう軸孔に形成した雌ねじ軸部と、押圧部材101の裏側からスプール軸16の方向へ突出した軸外面に形成した雄ねじ軸部とがネジ結合される仕組みであってもよい。
【0065】
押圧部材101の押圧は、ハンドル12を操作する手とは逆の手で操作される。通常、右手でハンドル12を操作する場合、左手によって押圧部材101が押圧操作される。この押圧操作は前記逆の手の腹や指や指の付け根部分等で行うことに適する。この押圧部材101の押圧によって、ブレーキ装置100によりスプール15の釣り糸繰り出し方向回転に適宜のブレーキが掛かるように調節操作が可能となるようにするために、押圧部材101は、結合部102よりも大径の円形状の押圧頭部105を有する。リール本体11の左側面に開口するように、第1側板カバー11Dには、結合部102が貫通し押圧頭部105が収容される円形状の凹部106を有する。
【0066】
押圧部材101とスプール軸16が結合部102で結合された正規の状態において、押圧部材101の軸部104の先端がスプール軸16の端部に当接した状態である。この状態において、押圧部材101の押圧操作前は、図4に示すように、付勢部材28の付勢力にて押圧頭部105の裏面が凹部106の底部から所定間隔Zで離間した状態を保持し、この所定間隔Zは、スプール軸16の軸方向移動距離を確保する間隔、即ち、スプール軸16の軸線16S方向への移動距離を制御するカム機構30により設定されるスプール軸16の軸方向の移動距離を確保する間隔であり、押圧部材101の押圧操作によって、第1摩擦板13Aが移動して第2摩擦板13Bに当接する距離を確保することができる。
【0067】
押圧頭部105と凹部106とは円形状の外周面をなし、押圧頭部105の直径よりも凹部106の直径が僅かに大きい。図8では説明上、押圧部材101の押圧頭部105と凹部106との間に隙間を形成しているが、好ましくは、押圧頭部105と凹部106との外周面間の隙間は、この隙間に釣り糸が侵入しない程度が好ましい。
押圧頭部105の外面107は、リール本体11の左側面よりも若干突出状態であり、リール本体11の左側面を覆うように掴んだ左手の腹または指にて押圧頭部105の外面を押し易く、且つ左手の腹または指が接触した時の違和感を少なくするように、押圧頭部105の外面107は、外方に向けて曲面で突出し、押圧部材101を深く押し込んだ状態でも、凹部106の外周端部よりも押圧頭部105の外周面108が若干外方に位置する。これは、押圧頭部105を押したとき、左手の腹または指が凹部106内に入り込んで、凹部106の外周端部で怪我しないためである。
【0068】
この構成によって、ドラグ調整装置50にて一つの調整範囲に設定した場合、押圧部材101を押圧する前の状態では、図3の下半分及び図4に示すように、第2付勢部材28のバネ力により、第2摩擦板13Bから第1摩擦板13Aが離間するように、スプール15がスプール軸16の内方(図3で左方)に付勢された状態であり、スプール15は釣り糸62の繰り出し方向回転が自由となるドラグフリー状態である。
【0069】
このドラグフリー状態において、釣りを開始するときのキャスティングによって、スプール15が釣り糸62の繰り出し方向に回転する。このとき、図3の上半分及び図5に示すように、付勢部材28の付勢力に抗して押圧部材101を軸方向(スプール軸16の軸線16Sに沿ってハンドル12側)へ押圧することにより、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bに当接する。このため、押圧部材101をスプール軸16の軸線16Sに沿って軸方向へ押圧する押圧力を調整することによって、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bに当接する度合いを調整でき、上記のように空気抵抗や風の影響や潮の流れ等によって、釣り糸の繰り出し状態が変化したとき、その変化に対応してスプール15の釣り糸繰り出し方向回転にブレーキを掛ける微調整操作ができる。
これによって、スプール15がオーバーラン状態(空回り状態)となることを抑制し、釣り糸が弛んで絡まることを抑制することができる。
【0070】
押圧部材101の他の実施形態として、図9に示すように、押圧部材101の押圧頭部105は、円形状主体部105Aと、円形状主体部105Aから斜め前上方へ延びる補助部105Bとを有する。これに合わせて凹部106も、円形状主体凹部106Aと、円形状主体凹部106Aから斜め前上方へ延び補助部105Bを収容する補助凹部10Bとを有する。
この構成においても、上記同様に、押圧頭部105の外面107は、外方に向けて曲面で突出し、押圧部材101を深く押し込んだ状態でも、凹部106の外周端部よりも押圧頭部105の外周面108が若干外方に位置し、押圧頭部105を押したとき、左手の腹または指が凹部106内に入り込んで、凹部106の外周端部で怪我しない形態である。
図9では説明上、押圧部材101の押圧頭部105と凹部106との間に隙間を形成しているが、上記のように、好ましくは、押圧頭部105と凹部106との外周面間の隙間は、この隙間に釣り糸が侵入しない程度が好ましい。
【0071】
上記構成では、押圧部材101はスプール軸16と結合部102で結合されているが、これに替わる構成として、押圧部材101はスプール軸16と結合部102で結合されず、押圧部材101の雌ねじ軸部104 に相当する軸部を設け、この軸部がスプール軸16の端部に対応する状態で押圧部材101がスプール軸16方向へ移動可能に、且つ脱落しないように第1側板カバー11Dに支持される構成とする。
これによって、ドラグフリー状態では、第2付勢部材28のバネ力により、第2摩擦板13Bから第1摩擦板13Aが離間するように、スプール15がスプール軸16の内方(図3で左方)に付勢された状態でもって、押圧部材101がスプール軸16にて外方(図3で左方)に付勢される。そして、付勢部材28の付勢力に抗して押圧部材101を軸方向(スプール軸16の軸線16Sに沿ってハンドル12側)へ押圧することにより、第1摩擦板13Aが第2摩擦板13Bに当接する。
【0072】
また、レバードラグ式リール1の右側に配置されるドラグ調整部材51の回動位置を操作者に音で認識させるためと、ドラグ調整部材51の回動を段階的に行えるようにするために、図3に拡大図にて示すように、発音装置95を設けている。発音装置95は、ドラグ調整部材51に対向するカム体32Bの外側面に、球面状の窪み96が円形状に等間隔で形成され、ドラグ調整部材51からこの窪み96へ向けて、先端球面状部が突出するようにバネ98で付勢された進出体97によって構成されている。
【0073】
実釣中に釣針が岩等の異物に引っ掛かったときなどの異常時に、釣り竿60の強い引き上げ操作によってその引っ掛かりを外す、または釣り糸62を切る操作を行なうために、釣り糸62の繰り出し方向へのスプール15の回転を停止させるストップ装置85が、図3に示すように、レバードラグ式リール1の左側の第1側板11A内に収容されている。
【0074】
ストップ装置85は、スプール15の左側面に取り付けたラチェット車(つめ車)86の歯に対して係止と離脱を行なうロック部材87と、ロック部材87を操作するロック操作部88を備えており、通常時はロック部材87がラチェット車(つめ車)86の歯に係止状態ではなく、ロック操作部88が第1側板11Aの下部に露出するようにバネ付勢されている。そして、上記異常時には、ロック部材87がラチェット車86の歯に係止してスプール15の回転を停止させるように、ロック操作部88を回動操作する。
【符号の説明】
【0075】
1・・・・・・・両軸受けリール(レバードラグ式リール)
2・・・・・・・取付け脚
11・・・・・・リール本体
11A・・・・・第1側板
11B・・・・・第2側板
11C・・・・・連結部
11D・・・・・第1側板カバー
11D2・・・・軸支持部
11D3・・・・軸支持部
11E・・・・・第2側板カバー
11E1・・・・第2側板内カバー
11E1B・・・膨出部
11E2・・・・第2側板外カバー
12・・・・・・ハンドル
12A・・・・・ハンドル軸
12B・・・・・ハンドルアーム
12C・・・・・ハンドルノブ軸
12D・・・・・ハンドルノブ(握り部)
12D1・・・・筒部
12E・・・・・ハンドルノブ支持軸部
12H・・・・・指移動阻止部
12K・・・・・指受け部
12J・・・・・傾斜面
13・・・・・・ドラグ機構
13A・・・・・第1摩擦板
13B・・・・・第2摩擦板
14・・・・・・ドラグレバー
15・・・・・・スプール
16・・・・・・スプール軸
17A、17B・・・・軸受け
20A、20B・・・・軸受け
22・・・・・・・メインギア
23・・・・・・・ピニオンギア
24、25・・・・軸受け
27・・・・・・第1付勢部材
28・・・・・・第2付勢部材
30・・・・・・カム機構
31・・・・・・第1カム
31A・・・・・カム面
32・・・・・・第2カム
32A・・・・・カム部
32B・・・・・カム体
50・・・・・・ドラグ調整装置
51・・・・・・ドラグ調整部材
60・・・・・・釣り竿
62・・・・・・釣り糸
70・・・・・・円弧状溝部
75・・・・・・ブレーキ装置
80・・・・・・当接軽減部
85・・・・・・ストップ装置
95・・・・・・発音装置
100・・・・・ブレーキ装置
101・・・・・押圧部材
102・・・・・結合部
103・・・・・雄ネジ軸部
104・・・・・雌ネジ軸部
105・・・・・押圧頭部
106・・・・・凹部
107・・・・・押圧頭部の外面
108・・・・・押圧頭部の外周面 LH・・・・・左手
LH1・・・・左手の親指
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9