(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの適用範囲は広がり、Internet of Things (IoT)に代表されるように、様々なものや人の状態を把握するため、センサ端末に無線機能を備え、容易にこれらの状態を示すセンサ情報を集約する無線センサネットワークに注目が集まっている。例えば、複数のユーザで同じチャネルを共有する一括集約型無線センサネットワークが提案されている(特許文献1、非特許文献1)。一方、スマートフォンなどのセルラーシステムやWiFiに代表される大容量データ通信も継続的な発展が進んでいる。その結果、無線通信システムの資源である周波数資源の枯渇が深刻さを増している。
【0003】
そのため、複数の無線システムが相互干渉を制御することで、同一の周波数資源の共用利用が進められている。代表例としては、ISM-BANDと呼ばれる2.4GHz帯において、無線LANやBluetooth(登録商標)およびセンサネットワークに用いられるZigbee規格など、多彩な無線システムによる周波数資源の共用利用が進められている。また、近年ではSubGHz帯と呼ばれる900MHzの特定小電力無線通信システム向けのシステムも多数登場し、センサ情報などの少量の情報伝送のための無線システムもISM-BANDと同様に周波数資源の共用利用が進められている。
【0004】
一般に周波数資源の共用利用という観点で、各無線システムが他の無線システムへの深刻な干渉を回避し、自身の無線システムの要求に合わせた周波数資源の利用が求められる。特に、セルラーシステムやWiFi、Zigbeeなどにおいて、多数の端末から1つの集約局へ情報伝達する無線システムが対象となる。その際、周波数資源を一定の帯域幅で分割したチャネルを定義し、各システムはチャネルを最小単位として選択的に使用する環境を想定する。ここでは、システムによる各チャネルの利用状況を把握するデータベースを想定する。このデータベースでは、各チャネルの平均的な利用率である占有率を包括的に観測しており、占有率を集約局に提供している。そして、集約局では、このデータベースより提供されたチャネルの占有率情報に基づき、チャネルの利用を決定する。
【0005】
例えば、各チャネルの利用状況をあらかじめ一定時間観測するデータベースを構築し、チャネルの利用状況を特徴づける統計モデルを各無線システムに提供する方法が検討されている(非特許文献2)。
【0006】
また、データベースにおいて各チャネルのプライマリシステムの利用情報を集約し、各チャネルの利用状況を統計モデル化する方法も検討されている。この場合、各チャネルの平均利用時間である占有率が用いられている(非特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の一態様に係る実施の形態(以下、本実施の形態)について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
(想定する無線通信システム概要)
図1に本実施の形態における無線通信システムの概念図を示す。複数の無線端末101、102(以下、MS)が一定のエリア内に分布し、1つの情報集約局104(以下、BS)が存在する。各MS101、102は個々に保有する情報をBS104へ伝送する。なお、伝送される情報の内容は例えば温度や湿度といったセンサで検出されるような情報である。このようなセンサ情報は一般にガウシアン分布で近似されるような確率分布を有している。
【0024】
このように多数のMSからBSへと情報を集約する方法は、セルラー方式における上り回線方式と呼ばれている。しかし、本実施の形態では、BSが各MSに向けて各々の情報を報知する下り回線方式においても適用することができるとする。ただ、説明の簡易化のため、上り回線方式を前提とする。上り回線による情報伝達は、無線センサネットワークを想定した場合、各MS101、102がセンサ情報を保有し、BS104へと情報を伝送するスター型のネットワーク構成と等価になる。
【0025】
無線通信では一般に、広帯域な周波数資源をチャネルと呼ばれる狭帯域の周波数資源に分割する。帯域と周波数の関係を
図2に示す。スター型のネットワークではMS101、102は多数のチャネルから1つあるいは複数を選択して情報を伝送する。ここでは、説明を簡易にするため、各MSは1つのチャネルを選択するものと想定する。いうまでもなく複数のチャネルを選択する場合においても、以降の方式を適用することは可能である。
【0026】
さらに本実施の形態においては、既存の無線システムの存在を仮定する。例えば、ISM-bandと呼ばれる2.4GHz帯もしくは5GHz、あるいはサブGHzと呼ばれる900MHz帯付近では、多数の無線システムが共存するため、システム相互の干渉を抑制すると同時に自局のチャネルを確保する周波数の共用化が進んでいる。よって本実施の形態において想定するシステムにおいても、こういった既存システムが使用している周波数チャネルに対しては、システム間相互干渉を回避するため、そのチャネルを同時には使用しない。実際に無線LANでは、電波を送信する前にキャリアセンスと呼ばれる信号検出をすることで、既存システムによるチャネル利用を検出し、同一周波数チャネルへの複数システムによる同時アクセスを回避し、相互干渉を抑制している。本実施の形態においても、各MS101、102がすべてのチャネルのキャリアセンスを行い、既存システムが利用していないときにチャネルを利用し、既存システムが利用しているときは情報送信を停止するとする。
【0027】
前記既存システムでも同じく、MSとBSがエリア展開する地域に存在するとする。キャリアセンスでは、伝搬路特有のフェージングやシャドーイングにより信号電力が大きく減衰するため、既存システムのアクセスが検出できなくなる誤検出や、既存システムのアクセスをしていないのにアクセスをしていると判断する誤警報が生じるため、一般に隠れ端末問題とよばれるシステム間相互干渉の発生や、さらされ端末問題と呼ばれる不要なチャネルの未使用状態が発生する。本実施の形態では、説明の簡単化のため、誤警報および誤検出は発生しないと想定するが、もちろん想定する環境においても適用可能である。以降、このような既存システムを本実施の形態ではプライマリシステム201、202(PS)とする。
【0028】
これらのPS201、202は利用するアプリケーションによって、チャネルを継続的に利用する時間長や利用する頻度および、利用する時間間隔がそれぞれ異なると考えられる。各PSがチャネルを利用するイメージを
図2に示す。プライマリシステムにおいては、各チャネルの利用状況をあらかじめ一定時間観測するデータベース105(スペクトラムデータベース)を構築し、チャネルの利用状況を特徴づける統計モデルを各無線システムに提供する方法が検討されている(非特許文献2)。本実施の形態においても、一定時間観測したデータベース105から各チャネルの統計モデルがBSに提供されていると想定する。
【0029】
BS104はデータベース105から提供される各チャネルの統計モデルに基づき、チャネルの利用方法となるチャネル利用ポリシーを決定する。ここでチャネル利用ポリシーは後述のようにチャネルの利用を示す係数wで決定し、チャネル利用重みを決定することと等価であるとする。そして、BS104が各MS101、102にチャネル利用重みを通知し、各MSはチャネル利用重み(w)に従い、チャネルを利用する。本実施の形態の方法は周波数共用に優れ、高い情報通知品質を達成するため、このチャネル利用重みポリシーを決定するところが中心となっている。以下、チャネル利用重みwの決定について説明する。
【0030】
(チャネル利用重みの決定)
各MS101、102から通知された情報は、BS104に提供され、情報の傾向分析が進められる。分析方法としては、情報分布をガウス確率分布でモデル化し、時間軸方向移動平均や分散を算出するカルマンフィルタリングや、ガウス混合モデルに基づき過去のデータとの分布誤差最小条件でモデル化をするEMアルゴリズムなどの既知の確率推論技術が適用できる。
【0031】
確率推論により、BS104は予測されるべき情報の平均値と分散値を得る。ここで、MS101、102の総数をKとしたときの、第k番目のMSに対する、i番目の通知時刻における情報の平均値 をm
k(i)、分散値を s
2k(i) とする。また、次の時刻の情報の予測値をx(i+1)とし、その予測値が発生する確率を p
k(x(i+1))とする。ここで、x(i+1) は 過去情報に基づく平均値 m
k(i), 分散値 s
2k(i) に従うガウス分布に従う不規則変数であり、x(i+1) ~ N(m
k(i), s
2k(i))と関係づけられるものとする。BS104は各通知時刻において、新たに得られた情報から確率推論により予測値である平均値と分散値の更新を続ける。
【0032】
( データベースから提供される各チャネルの利用予測モデル)
データベース1 0 5 では、各チャネルのプライマリシステムの利用情報を集約し、各チャネルの利用状況を統計モデル化する。プライマリシステムにおいては先述のように各チャネルの平均利用時間である占有率を用いる( 非特許文献3 ) 。占有率は、プライマリシステム(PS)がアクセスしている時間率と定義される。すなわち、PS201、2 02による信号放出時に、他の無線機において、一定の受信電力以上の検出エネルギーが受信された場合にP S が利用していると判断するキャリアセンスが実行される。このキャリアセンスを一定時間観測し、判断結果を1回のキャリアセンス試行あたりで規格化した値を占有率として算出する。ここで, キャリアセンスはMS101やMS102が実施してもよいし、他の無線機がキャリアセンスをした結果をデータベースへ提供してもよい。i番目の時刻における、第m番目のチャネル(m=1,2,. . . ,M, M:はチャネルの総数) に対する占有率を
rm(i)とする。
【0033】
(割り当て設計ポリシー:予測誤差最小基準に基づくチャネル利用重みの設計)
BS104は、i番目の時刻における各MS101、102の情報を、前記平均値m
k(i)と分散値s
2k(i)により一義的に求められるガウス分布に従う確率変数とみなし、次の時刻(i+1)における各MS101、102の情報の出現確率を予測する。また、データベース105からプライマリシステムの占有率情報を得ることで、近未来のチャネル利用の予測情報を得る。この情報予測とチャネル利用予測の二つを用いて、各MSがチャネルを利用する設計ポリシーを確立する。
【0034】
まず、ガウス確率分布でモデル化された情報予測においては、平均値m
k(i)を示す情報の出現確率が最も高い。よって、PSによるチャネルの占有が生じたりMSが情報を発しないなどが原因で受信が一時的に途切れたとしても、BS104は上記平均値をMSが伝送する情報であるとみなせば比較的高い精度で途切れた情報を補完することができる。しかし出現確率が低くても、MSが保有する情報がBS104の予測値に対して大きく異なることが実際にあり得る。この場合、BS104における情報認識に誤差が生じる。その誤差を抑制するためには、予測値との差が大きい情報を優先的にBSへ通知する必要がある。以下、その手法について説明する。
【0035】
まず、近未来であるi+1番目の時刻(次の時刻)における予測情報x(i+1)とk番目のMSにおける情報の平均値との差分情報は(m
k(i)-x(i+1))
2で表される。ここで、誤差情報の大きい情報を伝送するMSに対して、PSの利用頻度が低いチャネル、つまり低占有率チャネルを割り当てるとすると、予測情報x(i+1)に対するk番目のMSの誤差情報の期待値e(k,i)は、予測値が発生する確率p
k(x(i+1))を用いて次のように導出される。
【数1】
【0036】
ここで、k番目のMSにおいて、次の時刻における予測情報を示す確率変数x(i+1)に対してm番目のチャネルに割り当てを示す重み係数w(k,x(i+1),m)を導入する。この重み係数は1あるいは0のいずれかをとる。ここで、1は割り当てを0は非割り当てを意味する。このように考えれば本実施の形態におけるチャネルを割り当て方法は、誤差情報の期待値の総和を最小にする最小化問題として与えられる。
【0037】
誤差情報の期待値の総和Fは(1)式および重み係数w(k,x(i+1),m)を用いて、以下のように書ける。
【数2】
ここで、重み係数w(k,x(i+1),m)は以下の式(3)〜(6)で表記される。
【数3】
なお、先述のとおりr
m(i)は時刻iにおけるm番目のチャネルの占有率を表す。
【0038】
式(2)を最小にするように、チャネル割り当て重み係数w(m,x(i+1),k)を決定する。式(3)から式(6)は無線システムの要件を決める制約式である。式(3) は、w(m,k)のm番目のチャネルのk番目のMSにおける割り当ての有無を示し、1は割り当て、0は非割り当てを示す。式(4)はk番目のMSがx(i+1)の情報を伝送する際に、利用できるチャネルは1つであるという限定を意味する。式(5)は、m番目のチャネルを利用してx(i+1)の情報を送ることができるMSは1つである、という限定を意味する。式(6)はm番目のチャネルをk番目のMSが利用する際には、一つの情報のみを送信することに限定されること意味する。
【0039】
具体例として、LTEやWiFiなどでは、各MSに重複なくチャネルを割り当てるため、各情報は直交するリソースで伝送できる。つまり各MSは各チャネルで任意の情報を伝送できるため、(6)式の制約はなくなり、チャネル割り当て重みを2変数(つまりw(m,k))に変更することで、対応できる。
【0040】
一方、複数のユーザで同じチャネルを共有する、一括集約型無線センサネットワーク(非特許文献1)では、1つのチャネルに利用するMSを1つに限定する必要はなく、(5)式の制約が無くなる。よって重み係数はw(m,x(i+1))のように2変数に変更することができる。このように、制約式の選択と重みの変数を増減させることで、様々なシステムに本提案システムを適用することができる。
【0041】
この最適問題において、∀r
m (i)≧0であり、割り当て重みw(m,x(i+1),k)に対する係数はすべて正である。言い換えれば、期待差分情報はw(m,x(i+1),k)に対する正の線形和であるため、したがってこの最適問題は線形計画問題となる。この結果、予測値に対する実際の情報との差分が最小になるようにチャネル割り当てを決定することができる。
【0042】
(フローチャート)
図3および
図4に本実施の形態における一連の手続きの処理フローを示す。ここで
図3はMS側の処理フローを、
図4はBS側の処理フローを示す。まず、MS101と102は情報送信のために使用するチャネルにキャリアセンスを行い(
図3におけるステップ11、図中は数字のみ)、プライマリシステム(PS)が使用しているときはBSへの通知をスキップする(ステップ12)。プライマリシステムが使用していないとき、MS101、102のいずれかあるいは両方からBS104へ情報x(i+1)を通知する(ステップ13)。この際、通信開始直後は、過去(i<0)の統計データがないため、一定時間情報通知を続けてもよい。
【0043】
一方BS104は各MS別に情報を分離する処理をする(
図4、ステップ21)。一括集約法、LTE、WiFiいずれもMIMO技術が使われており、MSの情報が混信している可能性があるからである。なお、各チャネルを1つのMSが単独で使用する場合には、この処理を省略できる。
【0044】
次にBS104は過去の情報から、統計量として平均m
k(i)及び分散s
2k(i)の値を算出する(ステップ23)。さらに、サーバから各チャネルの占有率情報r
m(i)を得て(ステップ24)、情報をガウス確率分布でモデル化する。これら一連の処理により、得られた平均及び分散から各情報の発生確率p
k(x(i+1))を算出する(ステップ25)。
【0045】
さらにBS104は、情報発生確率が最大である平均m
k(i)を次の時刻の送信情報予測値x(i+1)と仮定し、各情報との予測値との差分情報の期待値e(k,i)(=(m
k(i)-x(i+1))
2)を計算、期待値最小条件でチャネル割り当て重みw(k,x(i+1),m)( 一括集約型無線センサネットワークの場合はw(m,x(i+1))でもよい)を設計する(ステップ26)。決定した割り当て重みを全MS101、102へ通知する(ステップ27)。
【0046】
各MSは受信した(
図3、ステップ14)割り当て重みw(k,x(i+1),m)に従い、送信方法を変更する(ステップ15)。最後に各MSは、BSが必要とする情報が得られたなど、規定回数に達したかどうかを判断し(ステップ16)、しない場合には、ステップ11に戻る。
【0047】
以上のステップを繰り返して、情報伝送を継続する。なお、MS104におけるチャネル割り当ての更新頻度は、情報が通知された毎に更新しても良いし、一定期間ごとに周期的に行ってもよい。
【0048】
以下、計算機シミュレーションにより上記実施の形態の有効性を評価した結果を実施例として示す。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
図1の一括情報集約型の無線センサネットワークを想定し、チャネル数を256とし、
図5のように、時間経過とともにMS101とMS102のセンサ情報(Data)が連続的に変化するモデルを定義した。無線センサネットワークにおける温度や湿度などのセンサ情報においてこのような傾向が認められる。センサ情報(Data)の分解能は0.1としているため、情報のダイナミックレンジは最大で25.6となる。なお、情報の外乱モデルとして、平均0分散0.1のガウス分布を仮定し、時間に対して独立であるとした。また、各チャネルの占有率は0から1の一様乱数とし、情報の統計モデル化のために、First In First Out(FIFO)型のメモリが使用されていることを想定し、メモリ長は1000とした。
【0050】
計算結果を
図6に、通知成功確率に対する累積分布関数(CDF)特性として示す。同図中、白の円(〇)が情報の確率モデルおよびチャネルの占有率を考慮せずにランダムに割り当てた場合(従来方式)、黒のダイヤ(◆)が、本実施例のチャネル割り当て方法で得た結果である。比較例として、情報の確率モデルのうち最も高頻度に発生すると予想するセンサ情報を優先的に低占有率のチャネルに割り当てた場合も示した(×)。
【0051】
従来方式(ランダム)の場合、一定の確率でプライマリが完全に占有したチャネルに情報が送られ、その結果通知が失敗する。一方、本実施例における方式では通知成功率がやや改善している。ただ、一見、比較例が最も高い通知成功確率を達成している。つまり本実施例の方法では、通知成功確率が比較例よりもCDF=0.1において10%程度低く抑えられている。言い換えれば10%程度、BSへの通知頻度を抑制している。比較例では最も高頻度に発生する情報を最も安全なチャネルに割り当てるのであるから、当然成功率は高くなる。
【0052】
しかし、予測誤差最小という観点からすれば本実施例の方法と比較例との評価は逆転する。
図7は各MS101、102が通知する情報に対するBS104が認識した情報との二乗誤差におけるCDF特性を示したものである。同図より、本実施例の方法(◆)が比較例(×)よりも低い二乗誤差特性を達成していることがわかる。つまり、最も高頻度に発生する情報は言い換えれば最も予測しやすい平均的な情報であり、このような情報の通知が失敗したとしても高い精度で補間ができる。逆に平均から大きく外れる情報は発生頻度は低いが予測誤差は大きい。本実施例の方法では、こういった予測誤差の大きい情報の通知の成功率が高められる。
【0053】
このように、本実施例の方法は従来の方法、さらに比較例の方法に比べて情報伝送をより少なく抑えると同時に、高品質な情報通信品質が達成できると考えられる。このことは、周波数資源の使用頻度を少なく抑えつつ、必要な情報を通知しているという観点で、高い周波数利用効率を達成しているといえる。