特許第6842777号(P6842777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842777ホスホン酸基およびホスホネート基を側鎖に有するラダー型ポリシルセスキオキサン、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体、及び、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842777
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ホスホン酸基およびホスホネート基を側鎖に有するラダー型ポリシルセスキオキサン、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体、及び、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/30 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   C08G77/30
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-501100(P2018-501100)
(86)(22)【出願日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2017003756
(87)【国際公開番号】WO2017145690
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2020年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-35903(P2016-35903)
(32)【優先日】2016年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】金子 芳郎
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第3780127(US,A)
【文献】 米国特許第3816550(US,A)
【文献】 特開2004−22393(JP,A)
【文献】 Siwen Li et al.,Synthesis and properties of phosphonic acid-grafted hybrid inorganic-organic polymer membranes,J. Mater. Chem.,2006年,16,858-864
【文献】 Grace Jones D. KALAW,Novel polysilsesquioxane hybrid membranes for proton exchange membrane fuel cell(PEMFC) applications,Separation Science and Technology,2008年,vol.43,p.3981-4008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2で表される、
【化1】

(式2中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数、Xはアルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、アンモニウム陽イオン、又はイミダゾリウム陽イオンを表す。)
ことを特徴とするラダー型ポリシルセスキオキサン。
【請求項2】
主鎖がねじれたロッド構造になっている、
ことを特徴とする請求項1に記載のラダー型ポリシルセスキオキサン。
【請求項3】
式2で表され、主鎖がねじれたロッド構造になっている複数のラダー型ポリシルセスキオキサンがヘキサゴナルに積層されている、
【化2】

(式2中、Xはアルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、アンモニウム陽イオン、又はイミダゾリウム陽イオン、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数を表す。)
ことを特徴とするラダー型ポリシルセスキオキサン積層体。
【請求項4】
式3で表される化合物を加水分解、縮合させて得られた式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンを塩基で処理し、
【化3】

(式3中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【化4】

(式1中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数を表す。)
式2で表され、主鎖がねじれたロッド構造になっている複数のラダー型ポリシルセスキオキサンがヘキサゴナルに積層された積層体を得る、
【化5】

(式2中、Xはアルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、アンモニウム陽イオン、又はイミダゾリウム陽イオン、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数を表す。)
ことを特徴とするラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホン酸基およびホスホネート基を側鎖に有するラダー型ポリシルセスキオキサン、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体、及び、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサンは、ケイ素原子(Si)に対して1つの有機置換基(R)と平均1.5個の酸素原子(O)が結合した(RSiO1.5の構造を持つ化合物の総称である。シルセスキオキサンは耐熱性、耐久性に優れるとともに、有機置換基の存在により有機材料との相溶性に優れることから、有機−無機ハイブリッド材料の分野を中心に近年注目されている。
【0003】
ラダー型ポリシルセスキオキサンは、一次元的にポリマー主鎖が延びており、側鎖にプロトン伝導性を示す置換基(例えばスルホ基やホスホン酸基)を含むラダー型ポリシルセスキオキサンは、熱安定性に優れ、かつ良好なプロトン伝導性を示すことが期待されている。このため、このようなラダー型ポリシルセスキオキサンは、固体高分子形燃料電池の固体電解質としての利用が検討されている。ラダー型ポリシルセスキオキサンの固体電解質への応用に関し、例えば、特許文献1、2などにプロトン伝導性膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−339961号公報
【特許文献2】特開2006−73357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2のプロトン伝導性膜は、スルホン酸基を有する炭素を主骨格とする有機高分子材料にラダー型も含む種々のシルセスキオキサンが複合化されたものである。このプロトン伝導製膜のプロトン伝導を担う部分は、主に有機高分子材料である。一部、スルホン酸基を含むシルセスキオキサンも用いられているが、その構造については不明瞭である。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、より耐熱性に優れるホスホン酸基およびホスホネート基を側鎖に有するラダー型ポリシルセスキオキサン、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体、及び、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係るラダー型ポリシルセスキオキサンは、
2で表される、
【化1】

(式2中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数、Xはアルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、アンモニウム陽イオン、又はイミダゾリウム陽イオンを表す。)
ことを特徴とする。
【0008】
また、主鎖がねじれたロッド構造になっていてもよい。
【0009】
本発明の第2の観点に係るラダー型ポリシルセスキオキサン積層体は、
式2で表され、主鎖がねじれたロッド構造になっている複数のラダー型ポリシルセスキオキサンがヘキサゴナルに積層されている、
【化2】

(式2中、Xはアルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、アンモニウム陽イオン、又はイミダゾリウム陽イオン、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数を表す。)
ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第の観点に係るラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の製造方法は、
式3で表される化合物を加水分解、縮合させて得られた式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンを塩基で処理し、
【化3】

(式3中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【化4】

(式1中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数を表す。)
式2で表され、主鎖がねじれたロッド構造になっている複数のラダー型ポリシルセスキオキサンがヘキサゴナルに積層された積層体を得る、
【化5】

(式2中、Xはアルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、アンモニウム陽イオン、又はイミダゾリウム陽イオン、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数を表す。)
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、より耐熱性に優れるホスホン酸基或いはホスホネート基を側鎖に有するラダー型ポリシルセスキオキサンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ラダー型ポリシルセスキオキサンのねじれ構造を模式的に示す図である。
図2】ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の構造を模式的に示す図である。
図3】実施例における生成物のH NMRスペクトルを示す図である。
図4】実施例における生成物のIRスペクトルを示す図である。
図5】実施例における生成物の29Si NMRスペクトルを示す図である。
図6】実施例におけるPSQ−PO(OH)の酸素雰囲気下でのTGA分析結果を示す図である。
図7】実施例におけるPSQ−PO(OH)の窒素雰囲気下でのTGA分析結果を示す図である。
図8】実施例におけるPSQ−PO(OH)のIRスペクトルを示す図である。
図9】実施例におけるPSQ−PO(OH)及びPSQ−PO(OK)のXRDパターンを示す図である。
図10】PSQ−PO(OK)のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ラダー型ポリシルセスキオキサン、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体)
本実施の形態に係るラダー型ポリシルセスキオキサンは、式1又は式2で表される。式1及び式2中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、nは正の実数を表す。また、式2中Xはアルカリ陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、アンモニウム陽イオン、又はイミダゾリウム陽イオンを表す。
【0015】
【化6】
【0016】
式1及び式2で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンは、ポリマー主鎖のSiにそれぞれ側鎖としてホスホン酸基或いはホスホネート基が結合している。即ち、ポリマー主鎖の一つのSiに対して一つのホスホン酸基或いはホスホネート基が結合している。この側鎖同士の電荷の反発により、式1及び式2で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンは、図1に示すように、ポリマー主鎖が一次元的に延びるとともに、主鎖がねじれたロッド構造となっている。
【0017】
そして、式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンでは、側鎖のホスホン酸基が連続的なプロトン伝達経路を形成し、高いプロトン伝導性を発揮する。
【0018】
また、本実施の形態に係るラダー型ポリシルセスキオキサンは、主鎖のSi−O−Si結合に由来する優れた耐熱性、耐久性、並びに、二重鎖構造の剛直な主鎖に由来する高いガラス転移点を備える。このため、ラダー型ポリシルセスキオキサンは、100℃を超える高温下(例えば、150℃〜200℃)での固体高分子形燃料電池の固体電解質として好適に利用され得る。
【0019】
更には、本実施の形態に係るラダー型ポリシルセスキオキサンは、ホスホン酸基或いはホスホネート基に由来する難燃性も備える。このため、本実施の形態に係るラダー型ポリシルセスキオキサンは、難燃性材料としても好適に利用され得る。そして、ラダー型ポリシルセスキオキサンは、水性溶媒や極性の高い有機溶媒に対する相溶性に優れ、可溶である。例えば、ラダー型ポリシルセスキオキサンを溶媒に溶解した溶液を種々の素材にコーティングして製膜することが可能であり、難燃性のコーティング材料としても利用可能である。
【0020】
また、式2で表されるホスホネート基を有するラダー型ポリシルセスキオキサンでは、図2に示すように、ロッド構造が規則的に配列してヘキサゴナルに積層された構造が構築される。
【0021】
(ラダー型ポリシルセスキオキサン、ラダー型ポリシルセスキオキサン積層体の製造方法)
上述した式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンは、式3で表される化合物の加水分解、重縮合により得られる。
【0022】
【化7】
【0023】
式3中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基である。アルキレン基がこれより長い場合、規則的な立体配位が困難になり、ラダー構造の形成を妨げるおそれがある。更に、得られるラダー型ポリシルセスキオキサンの耐熱性、耐久性が低くなるおそれがある。
【0024】
また、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。アルキル鎖が長いと後述の加水分解が生じにくくなるおそれがある。
【0025】
式3で表される化合物として、2−ジエチルホスフェートエチルトリエトキシシラン、2−ジエチルホスフェートブチルトリエチルシラン、2−ジエチルホスフェートヘキシルトリエチルシラン、2−ジメチルホスフェートメチルトリメトキシシラン、2−ジプロピルホスフェートプロピルトリプロピルシラン、2−ジブチルホスフェートブチルトリブチルシランなど種々の化合物が挙げられる。
【0026】
式3で表される化合物の加水分解、重縮合は、式3で表される化合物を濃塩酸等の強酸性水溶液と混合し、還流攪拌することで行うことができる。また、その温度は100℃程度、反応時間は12時間程度とすればよい。なお、濃塩酸は式3で表される化合物に対し、過剰量(例えば、モル比で120倍)加えることが好ましい。濃塩酸が少ない場合、リンに結合しているアルコキシ基の水酸基化が進行し難くなるためである。
【0027】
そして、反応させた後、開放系で加熱(50〜60℃程度)し、溶媒を蒸発させて除去することで、式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンが得られる。
【0028】
以下に、式3で表される化合物として、2−ジエチルホスフェートエチルトリエトキシシラン(DPETES)を用いて式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンの合成例を示す。
【0029】
【化8】
【0030】
更に、式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンを、塩基で中和することで、下記の合成例に示すように、水酸基のHが種々の陽イオンに置換され、ホスホン酸基がホスホネート基になった式2で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンが得られる。そして、式2で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンは、図2に示したように、ポリマー主鎖が規則的に配列したヘキサゴナルな積層体を構築する。
【0031】
以下に、式1で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンをKOHで処理し、式2で表されるラダー型ポリシルセスキオキサンの合成例を示す。
【0032】
【化9】
【実施例】
【0033】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0034】
1.0mmolのDPETESに10mLの濃塩酸(120mmol)を加え、100℃で12時間還流攪拌した。その後、この溶液を開放系で加熱(約50〜60℃、2〜3時間)し、溶媒を蒸発させて除去し、生成物を得た(収率93%)。
【0035】
得られた生成物が各種溶媒に溶解するか否か試みた。その結果を表1に示す。生成物は、水及びジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶であった。
【0036】
【表1】
【0037】
得られた生成物を重水に溶解させ、H NMRスペクトルを測定した。また、生成物のIRスペクトル、29Si NMRスペクトルを測定した。H NMRスペクトル、IRスペクトル、29Si NMRスペクトルをそれぞれ図3図4図5に示す。
【0038】
図3H NMRスペクトルを見ると、ホスホン酸エステルに由来するピークは観測されず、エチル基由来の2本のブロードなピークのみが観測された。
【0039】
図4のIRスペクトルを見ると、938cm−1、1010cm−1、及び、1187cm−1に、ホスホン酸基のP−OH、P(=O)OおよびP=Oに由来する吸収ピークがそれぞれ観測された。
【0040】
これらの結果から、ホスホン酸エステル基の加水分解反応が進行したことにより、生成物がホスホン酸基を有することを確認した。
【0041】
また、図4のIRスペクトルを見ると、1041cm−1および1135cm−1にSi−O−Si結合由来の吸収ピークが観測された。また、図529Si NMRスペクトルを見ると、3つのSi−O−Si結合を有するSi原子に由来するブロードなTピークが主に観測された。これらのことから、DPETESの加水分解/縮合反応が進行し、Si−O−Si結合が形成されたことが確認できる。
【0042】
これらの結果から、生成物は式4で示される側鎖にホスホン酸基を有するラダー型ポリシルセスキオキサン(以下、PSQ−PO(OH))であることを確認した。
【0043】
【化10】
【0044】
また、PSQ−PO(OH)について、酸素雰囲気下、及び、窒素雰囲気下にて、TGA(Thermogravimetric Analysis)測定を行った。その結果を図6図7に示す。
【0045】
図6図7のいずれにおいても、210℃付近から若干の重量減少が見られる。これは、以下のように、考えられる。図8のPSQ−PO(OH)の250℃での加熱後のIRスペクトルを見ると、1279cm−1にP−O−P=O結合のP=O結合に由来するピークが生じている。即ち、側鎖のホスホン酸基の脱水縮合が起こったため、重量が減少したものである。
【0046】
また、図6図7のいずれにおいても、460℃付近から大幅な重量減少が見られるが、これは主鎖に結合する側鎖のエチレン基が分解したためと考えられる。
【0047】
以上のことから、PSQ−PO(OH)は200℃付近まで熱的に安定であり、固体電解質として利用した場合、100℃を超える温度条件下での使用にも耐え得ることがわかる。
【0048】
続いて、PSQ−PO(OH)のXRD測定を行った。その測定結果を図9に示す。PSQ−PO(OH)のスペクトルでは、ブロードな回折ピークが観測され、規則的な積層構造に由来するピークは観測されなかった。
【0049】
続いて、PSQ−PO(OH)にKOHメタノール溶液(0.2mol/L)を加えて室温で攪拌(1時間)した。これにより、ホスホン酸基の−OHを−OKに変換した式5に示すホスホネート基を側鎖に有するラダー型ポリシルセスキオキサン(以下、PSQ−PO(OK))を得た。
【0050】
【化11】
【0051】
合成したPSQ−PO(OK)について、XRD測定を行った。その測定結果を図9に示す。PSQ−PO(OK)のスペクトルでは、d値の比が低角度側から1:1/√3:1/2:1/√7:1/3である回折ピークが観測された。これは典型的なヘキサゴナル相の回折パターンであり、ロッド状PSQ−PO(OK)が規則的に積層した構造を形成したことを示している。
【0052】
XRDパターンから計算されたロッド状PSQ−PO(OK)の直径は2nm以下であり、また、図529Si NMRスペクトルよりTピークが主に観測されたことから、非常に限られた空間の中でSi−O−Si結合からなるネットワーク構造が形成されていると考えられる。すなわち、合成されたPSQ−PO(OK)は、Si−O−Si結合から構成される8員環が一次元方向につながったラダー状構造を有することが示唆された。さらに、ラダー状構造を有するPSQ−PO(OK)が側鎖のアニオン同士の電荷の反発により、側鎖間距離が最も離れたコンフォメーションと考えられるねじれた構造(ロッド構造)を形成し、ヘキサゴナル積層体を構築していると考えられる。
【0053】
また、PSQ−PO(OK)のTEM(Transmission Electron Microscope)写真を図10に示す。TEM写真からも、PSQ−PO(OK)がヘキサゴナル積層体になっていることがわかる。
【0054】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内およびそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0055】
本出願は、2016年2月26日に出願された日本国特許出願2016−35903号に基づく。本明細書中に、日本国特許出願2016−35903号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るラダー型ポリシルセスキオキサンは、側鎖のホスホン酸基が連続的なプロトン伝達経路を形成し、高いプロトン伝導性を示すことから、燃料電池の電解質等への利用が期待される。また、主鎖のSi−O−Si結合に由来する耐熱性、耐久性に加え、ホスホン酸基或いはホスホネート基由来の難燃性から、難燃性材料としての利用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10