【文献】
イオン電極法による血液中ナトリウム、カリウム、塩素濃度の測定勧告法−標準血清による正確さの較正方法−,臨床化学,1993年,Vol.22, PP.279-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2種以上の濃度の異なる標準品を用いて補正係数CLJを算出する場合に於いて、各標準品に於いて式(2)を用いて補正係数CLJを算出し、各補正係数CLJの平均値を算出する、請求項1に記載の電解質計測系の補正方法。
前記イオン濃度差情報として、ナトリウムイオンの許容できる差の範囲が±1.50mmol/L以内であるとのナトリウムイオン濃度差情報、カリウムイオンの許容できる差の範囲が±0.100mmol/L以内であるとのカリウムイオン濃度差情報、クロライドイオンの許容できる差の範囲が±1.50mmol/L以内であるとのクロライドイオン濃度差情報によって構成される群からなる1種または2種以上のイオン濃度差情報を含むことを特徴とする、請求項6に記載の電解質計測機器。
【背景技術】
【0002】
特定のイオンと選択的に応答する電極をイオン選択性電極(ISE:Ion Selective Electrode)という。イオン選択性電極と参照電極(または比較電極、照合電極)を電解質溶液、或いは血清等の試料、若しくは検体に接触させると両電極間にイオン活量に応じた起電力が生じる。通常、イオン選択性電極法を原理とする電解質計測系に於いては、測定の正確さを担保するため、試料測定に先立ち、専用の校正液による校正が行われる。一般的に、校正液は濃度の異なる2種類の液からなり、それら校正液と被測定試料、若しくは検体の活量がほぼ等しいと考えられる場合、2濃度の校正液の濃度差に相当する起電力を基準とし、被測定試料と2濃度の校正液の内どちらか一方の校正液との間に生じる起電力から、その濃度を逆算する。校正液の濃度の組み合わせは、一般的に、測定対象想定濃度近傍とそれよりも高濃度との組み合わせからなるが、測定対象想定濃度近傍と低濃度、または測定対象想定濃度を中間に挟む高濃度と低濃度の組み合わせであっても構わない。また校正液の濃度は必ずしも2濃度である必要はなく、1濃度でも、3濃度でも、それ以上あっても構わない。
【0003】
イオン選択性電極の内部は、一般に内部液と呼ばれる濃度既知の電解質溶液で満たされており、イオン選択性電極応答膜(以後、電極膜)によって、測定対象イオンを含んだ試料と隔てられている。電極膜は、理想的には測定対象イオン以外には応答しないと考えられているが、実際には種々の妨害物質による干渉や試料の電導度、輸率、或いは浸透圧等の影響を受ける。イオン選択性電極法には、試料を稀釈せずにそのまま測定する非稀釈法と、適切な稀釈液で薄めて測定する稀釈法がある。
図1に一般的な計測系を、
図2により実際的なフロースルー型の計測系を、
図3に稀釈法に於いて多く用いられるディップ型の計測系を示した。フロースルー型の計測系は勿論、
図2以外であっても構わない。例えば、参照電極液をタンク中に内蔵したもの、或いは電極内に封入したもの、或いは他のタイプであっても構わない。
図3のようなディップ型の計測系に於いても、それは同様である。参照電極内部を満たす参照電極液は、理想的には、校正液と試料、若しくは検体間に生じる液絡電位(または界面電位、拡散電位、接触電位)を小さくするために高濃度の液が望ましいとされる。しかしながら、参照電極液と他の液との濃度差が大きい場合、液の拡散による測定値の変動が起こり易くなるため、実際には測定対象によって種々の濃度や組成の液が選ばれている。参照電極の主な役割は、想定している計測系における基準電位を提供することである(註:この先は、主として臨床分野における電解質の測定について記述するが、課題解決における基本的な考え方は、他のどの計測系でも同じである)。
【0004】
臨床分野における電解質の測定に於いては、測定値の正確さを担保するため、一般的に、標準品による再校正(補正)が行われる。計測系専用の校正液で系を校正後、更に標準品の認証値によって測定値の更なる正確さを担保するわけである。この際、校正液によって校正された計測系における標準品の測定値と、より上位の計測法で確認された標準物質の認証値がほぼ同じ値であれば標準品による補正は不用となる。しかし、差が生じた場合は補正が必要となる。差の大きさに大小はあるものの、一般的に、測定値と認証値は完全には一致しないため、多くの場合、補正が行われる。その補正方法には、主として(直線)回帰式が利用されている。
【0005】
さて、ここで一歩戻って、一般的に水溶液系の校正液を用いる計測系で血液や血清、或いは血漿を測定した場合に生じる測定値の問題について記載する。
水溶液を測定した場合と血液等を測定した場合、両液の電解質濃度が同じでも、それらの値に乖離が生じる。その主な原因は以下の二つである。
イ)液間電位 ロ)電極のイオン選択性
一般に二種以上の異なった物質や空間が接触すると、その界面にポテンシャルが発生する。イオン選択性電極法を原理とする電解質計測系の場合は、濃度や浸透圧等、性質が異なる二種の溶液界面に電位が発生する。具体的に示すと、溶液Aと溶液Bの濃度が十倍違うとき、その接触界面には約59.2mV(25℃)の電位が発生する。その電位が液間電位である。当然のように、AとBの溶液が同一の場合、液間電位は発生しない。
液間電位は、その性質から拡散電位、或いは界面電位とも呼ばれるが、その値は通常、ネルンストの式(
図4)を用いて求められる。英語で10を表す言葉にDecadeがあるが、十倍濃度の異なる二種類の溶液から発生する電位を表すときには、その頭文字をとって、○○mV/Dec.という慣用表現を用いることが多い。各電極に妨害イオン等が存在しない場合、理論的に、その値は59.2mV/Dec.となる。ある電極で、その値が許容範囲以上に低かった(または高かった)場合、その原因は、対象としている電極が劣化しているか、或いは何らかの妨害を受けていると推測される。
【0006】
液間電位によって生じる測定値の差を是正するには、幾つかの方法が考えられる。その一つに、無関係塩を加えるという方法がある。無関係塩とは、その計測系で対象としている測定物質以外の電解質を示す。水溶液と血液の組成の違いによって生じる液間電位の差は実際には僅かなものだが、それでも最終的には、測定対象イオンがナトリウムイオン(以下、Naイオンと表記)で、その濃度が140mmol/L程度のとき、1〜5mmol/L程度の差となって表われる。無関係塩がない場合、液間電位は検体の種類を変える毎に発生するが、無関係塩を加えると、その差が幾らか小さくなる。例を示せば、測定対象をNaイオンとし、検体1をNaC1:100mmol/L、検体2を同:200mmol/Lとし、参照電極の内部液をNaCl:1mmol/L、無関係塩をKCl:1000mmol/Lとした場合、ネルンストの式より、発生する電位は、
1)無関係塩を加えない場合 17.8mV
2)無関係塩を加えた場合 2.2mV
と求められる。(今回の場合、測定対象がNaイオンなので、カリウムイオン(以下、Kイオンと表記)を含む塩化カリウムが無関係塩となる)。
上記を濃度に換算すると、それぞれ、
1)無関係塩を加えない場合 2.0mmol/L
2)無関係塩を加えた場合 1.1mmol/L
となり、無関係塩を加えることによって、測定値が0.9mmol/L是正されたことがわかる。
【0007】
上記はごく単純な系だが、実際の組成の差はそう単純なものではない。よって無関係塩を加える是正方法にも、電極の選択性や安定性にかかわる深刻な問題が生じる。ナトリウムイオン選択性電極(以下、Na電極)やカリウムイオン選択性電極(以下、K電極)に於いては余り大きな問題は生じないが、それらの電極に比べてイオン選択性に劣る塩化物イオン選択性電極(以下、Cl電極)の場合、無視できない。例を示すと、例えば、無関係塩を酢酸ナトリウム:1000mmol/L、Cl電極の酢酸イオンに対する選択性を20倍として、上記と同様の計算をすると(註:塩化物イオン(以下、Clイオン)に対する無関係塩イオンは酢酸イオン)、
1)無関係塩を加えない場合 −17.8mV
2)無関係塩を加えた場合 −2.2mV
となり、ここまではNa電極の場合と(符号以外は)同様だが、Cl電極の場合には、上記の差に加えて、酢酸イオンがClイオンと誤って測定される濃度を算出する必要がある。先にイオン選択性を20倍と設定したので、酢酸イオン:1000mmol/LはClイオン:50mmol/Lと計算される。よって、Clイオンを測定したい場合、無関係塩濃度を余り高くすることができない。
【0008】
計測系の液間電位を近似的に求めるにはヘンダーソンの式(
図5)を用いる。例えば、以下のような稀釈系を想定する。
稀釈液の成分[Naイオン:1.0mmol/L、Kイオン:0.1mmol/L、Clイオン:1.5mmol/L、リチウムイオン(以下、Liイオン):0.4mmol/L、硫酸イオン:7.6mmol/L、トリエタノールアミン:15.2mmol/L(註:イオンとして挙動した場合の換算値)]、校正液1の成分[Naイオン:130mmol/L、Kイオン:4mmol/L、Clイオン:90mmol/L、酢酸イオン:4.8mmol/L、リン酸一水素イオン:22mmol/L]、校正液2の成分[それぞれ上記と同じ順に、200mmol/L、44mmol/L、200mmol/L、:4.8mmol/L、:22mmol/L]、被測定試料の成分[Naイオン:140mmol/L、Kイオン:2mmol/L、Clイオン:106mmol/L、酢酸イオン:6mmol/L、重炭酸イオン:30mmol/L、ブドウ糖1g/L]とし、稀釈倍率を51倍とすると、校正液1での校正シーケンスで発生する液間電位は−0.6656mV、校正液2での校正シーケンスで発生する液間電位は−1.067mV、試料の液間電位は−1.245mVと実測される。この値とヘンダーソンの式によって求めた値を比較すると
図6のようになる。
計測系に伴う機械的変動を考慮すると、ヘンダーソンの式によって求めた値が実測値にかなり近いことがわかる。これまでの記載から、各種溶液に於ける組成の差から液間電位が生じ、その値が測定値に差を齎すことは明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)補正方法
本願発明は、イオン選択性電極法を原理とする電解質計測系に於いて、検体の測定値を補正する方法に関する。
本願発明の補正方法は、標準品の測定値と、標準品の認証値の差がすべて校正液と標準品との液間電位の差に由来するとして補正係数を算出し、該補正係数を用いて、検体の測定値を補正するものである。
【0016】
図7に、本願発明の補正方法の一実施形態に係るフローチャートを示す。なお、本願発明の方法のフローはこれに限定されず、各工程の順番を適宜入れ替えることが可能である。
【0017】
(1)校正液電位差(ΔE)取得工程
まず、高濃度校正液と低濃度校正液の電位差(ΔE)を取得する。ΔEは、常法により取得することができ、例えば、作用電極と参照電極を組みわせた電位差計を用いて測定することができる。
【0018】
ΔEは、測定対象となるイオン種ごとに測定する必要がある。例えば、検体のNaイオンのイオン濃度の測定値を補正する場合には、Naイオン選択性電極を用いて、高濃度校正液と低濃度校正液とのΔEを測定し、Kイオンのイオン濃度の測定値を補正する場合には、Kイオン選択性電極を用いて、ΔEを測定する必要がある。
【0019】
(2)標準品イオン濃度測定工程
次いで、電解質計測機器を用いて標準品(認証標準物質、認証標準品)のイオン濃度を測定する。標準品は、認証値が定められているが、上述の通り、様々な理由で実際の測定値とずれがある。本工程では、標準品の実際の測定環境での測定値を取得する。校正液電位差(ΔE)取得工程と同様に、標準品の測定値は、測定した検体のイオン種ごとに測定する。
【0020】
標準品には、1種または、それぞれ濃度が異なる2種以上の標準品を用いることができる。
【0021】
(3)補正係数算出工程
校正液の電位差ΔE、及び標準品の測定値を取得後、以下の式(1)、及び式(2)を用いて、補正係数CLJを算出する。
【数1】
【数2】
【0022】
式(1)は、電極のスロープ値(mV/Dec.)αを算出する式である。
【0023】
M1、及びM2は、それぞれ低濃度校正液に含まれるイオンのイオン濃度(mmol/L)、及び高濃度校正液に含まれるイオンの濃度(mmol/L)を意味する。M1及びM2は、校正液に応じてそれぞれ既知の濃度である。
【0024】
スロープ値αは、測定するイオン種毎に算出する必要がある。
具体的には、低濃度校正液の、Naイオン濃度、Kイオン濃度、Clイオン濃度が、それぞれ140.0mmol/L、4.00mmol/L、100.0mmol/Lであり、高濃度校正液の同イオン濃度が、同じ順に160.0mmol/L、6.00mmol/L、120.0mmol/Lである場合を想定する。
この場合、Naイオンのスロープ値αを算出するためには、式1のM1に140.0を代入し、M2に160.0を代入する。同様に、Kイオンのスロープ値αを算出するためには、M1に4.00を代入し、M2に6.00を代入する。
Dc、及びDrは、それぞれ稀釈液の濃度、及び稀釈倍率を意味する。
稀釈法によるイオン選択電極法を用いた測定を行う場合には、式1のDc、Drに、それぞれ稀釈液の濃度、及び稀釈倍率を代入する。
【0025】
一方で、非稀釈法によるイオン選択電極法を用いた測定を行う場合には、以下に示す式(1)´のDcに0、Drに1を代入し、αを算出する。
【0027】
αを算出した後、式2を用いて、補正係数CLJを算出する。なお、CLJとは、液間電位相当値(Value corresponding to the liquid junction potential)の略称である。
【0028】
CLJを算出するためには、1種または2種以上の標準品の認証値と、標準品の測定値が必要である。
【0029】
1種の標準品を用いてCLJを算出する場合、式(2)で得られたCLJを補正係数CLJとする。一方で、2種以上の濃度の異なる標準品を用いて、CLJを算出する場合には、各標準品について上記の式(2)によりそれぞれCLJを算出し、各CLJの平均値(CLJ(平均値))を算出し、この平均値を補正係数CLJとする。平均には、算術平均(相加平均)、幾何平均(相乗平均)、調和平均、対数平均等、数多くの種類があるが、簡単のため、ここでは算術平均を用いて説明を行う。
【0030】
算術平均によるCLJの平均値は、以下の式(2)´により算出する。
【0032】
例えば、2種の標準品を用いてCLJ(平均値)を算出する場合、導出過程は以下の通りである。
【0034】
詳細に説明を加えると、計測系は、高低2種類の校正液及び1種類の参照電極液、イオン選択性電極各種、参照電極からなるとする。あるイオンに於けるスロープ(10倍濃度差を想定した校正液1、2間の勾配のこと)を、
スロープ(mV/Dec.)=(校正液2と校正液1の電位差)÷log(校正液2濃度/校正液1濃度)
(註:対数の底は10)と定義すると、高濃度(以下、Hと略記)、中濃度(以下、Mと略記)、低濃度(以下、Lと略記)の3濃度からなる標準品の場合、液間電位相当値は、以下で定義される。
CLJ(H)=スロープ(mV/Dec.)×log(測定値(mmol/L)(H)/認証値(mmol/L)(H))
CLJ(M)=スロープ(mV/Dec.)×log(測定値(mmol/L)(M)/認証値(mmol/L)(M))
CLJ(L)=スロープ(mV/Dec.)×log(測定値(mmol/L)(L)/認証値(mmol/L)(L))
【0035】
測定系のスロープがα(mV/Dec.)であり、あるイオンの標準品高濃度、標準品中濃度、標準品低濃度の認証値が、それぞれ、A1mmol/L、A2mmol/L、A3mmol/Lであり、測定値が、B1mmol/L、B2mmol/L、B3mmol/Lであったとすると、各CLJは以下となる。
CLJ(H)=α×log(B1/A1)
CLJ(M)=α×log(B2/A2)
CLJ(L)=α×log(B3/A3)
算術平均を用いる場合、全体としてのCLJは、以下である。
CLJ={CLJ(H)+CLJ(M)+CLJ(L)}÷3
実際に使用する場合は、上式に係数Kを加え、以下とする。
CLJ=K×{(CLJ(H)+CLJ(M)+CLJ(L)}÷3}
【0036】
ここで係数Kは、上記式に0.1〜2.0程度の値を0.1刻みで代入し、高濃度(H)、中濃度(M)、低濃度(L)、それぞれのCLJの平均値を算出することで求めることができる。具体的には、Kに0.1〜2.0を0.1刻みでそれぞれ代入して、それぞれの場合におけるCLJの平均値(CLJ(平均値)と称する)を算出する。
次いで、各CLJ(平均値)を用いて、後述する補正測定値算出方法により、補正後の測定値(H)、(M)、(L)を算出する。
次いで、「補正後の測定値と認証値の差(H)」、すなわち、「補正後の測定値(H)−認証値(H)」、を算出し、同様に「補正後の測定値と認証値の差(M)」、「補正後の測定値と認証値の差(L)」をそれぞれ算出する。
その後、「補正後の測定値と認証値の差(H)、(M)、(L)」のそれぞれの絶対値の和を算出し、該絶対値の和が最小となる係数Kを選択する。
【0037】
(4)検体イオン濃度測定工程
次いで、検体(測定対象)に含まれる各イオン(測定対象とするイオン)の測定値を取得する。
非稀釈法を用いる場合には、検体そのものの測定値を取得し、稀釈法を用いる場合には、稀釈した検体の測定値を取得する。
【0038】
(5)補正測定値算出方法
補正係数CLJを算出したら、次いで、前記補正係数CLJを用いて検体(測定対象)の測定値を補正し、補正測定値を算出する。補正測定値は、以下の式により算出することができる。
【0040】
ここで、非稀釈法により測定した場合には、Dr、Dcに0が代入され、以下の式(3)´により補正測定値を求めることができる。
【0042】
(2)電解質計測機器
また、本願発明は、イオン選択性電極法を原理とする電解質計測機器に関する。
以下、本願発明の一実施形態に係る電解質計測機器について説明する。
【0043】
図8に、本実施形態に係る電解質計測機器の機能ブロック図を示す。
本実施形態に係る電解質計測機器30は、測定対象、校正液、標準品を測定する測定部31を備える。
測定部31としては、イオン選択性電極法を原理とする電解質計測機器に一般的に用いられるイオン選択性電極を、測定対象となるイオンに応じて、適宜選択することができる。
【0044】
また、電解質計測機器は、記憶部32を備える。
記憶部32は、測定対象のイオン濃度の測定値を補正する補正係数を算出するための補正係数算出情報と、測定対象の測定値を補正して補正測定値を算出するための補正測定値算出情報を備える。
補正係数算出情報、及び補正測定値算出情報は、予め記憶部32に記憶されていても良く、インターネットを通じて、記憶部にインストールできる形態であっても良い。
【0045】
補正係数算出情報は、少なくとも前述の式(1)が含まれる式(1)情報と、式(2)が含まれる式(2)情報を含む。
補正測定値算出情報は、少なくとも前述の式(3)、及び式(3)´が含まれる式(3)情報を含む。
【0046】
記憶部32としては、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置が例示できる。
【0047】
更に、本願発明の電解質計測機器は、処理部33を備える。
処理部33は、補正係数算出情報を用いて補正係数を算出する。また、算出した前記補正係数、及び補正測定値算出情報を用いて補正測定値を算出する。
【0048】
処理部33としては、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置が例示できる。
【0049】
本願発明の電解質計測機器の使用方法について説明を加える。
まず、測定部31により、高濃度校正液と低濃度校正液の電位差を測定し、1種または2種以上の標準品のイオン濃度を測定する。
【0050】
測定部31が、電位差情報と標準品のイオン濃度の標準品測定値情報を取得すると、処理部33は、電位差情報、標準品測定値情報、及び補正係数算出情報に基づいて、補正係数CLJを算出し、CLJ情報として記憶部32に記憶する。CLJの算出過程は、上述した通りである。
【0051】
次いで、記憶部32にCLJ情報が記憶されている状態で、測定部31が検体のイオン濃度を測定することで、検体イオン濃度測定値情報を取得すると、処理部33は、CLJ情報、及び補正測定値算出情報を用いて、補正測定値を算出する。補正測定値の算出過程は、上述した通りである。
【0052】
算出された補正測定値は、補正測定値情報として、出力部34に出力される。
本実施形態に於いて出力部34は、電解質計測機器に備えられたディスプレイである。
【0053】
本実施形態の電解質計測機器、及びその使用方法について説明したが、本願発明はこれに限定されない。
記憶部32は、CLJ情報を一時的に記憶する形態であっても良く、恒常的に記憶し、キーボード、タッチパネル等の入力機器を用いて、計算に使用するCLJ情報を記憶部から読み出すことが可能な形態であっても良い。
【0054】
出力部34は、外部端末、例えば電解質計測機器と接続されたコンピュータであっても良い。
【0055】
また、測定部31から測定した電位差情報、及び標準品測定値情報を処理部33が自動で取得し、補正係数CLJを算出する形態であっても良く、一旦記憶部32に記憶し、使用者が任意のタイミングで補正係数CLJを算出する形態であっても良い。
【0056】
また、記憶部32は、更に、測定対象のイオンにおける、標準品の認証値情報と、標準品の認証値と補正された測定値との差の許容できる範囲が定められたイオン濃度差情報を記憶している形態であっても良い。
【0057】
この場合、処理部33は、標準品の認証値情報と補正測定値情報と、イオン濃度差情報を照らし合わせ、標準品の認証値と補正測定値との差が、イオン濃度差情報として記憶された許容できる範囲を超える場合には、補正測定値を算出しない形態とすることができる。この場合、処理部33は、測定部31が生の測定値情報を出力部34に出力する形態とすることができる。
【0058】
前記イオン濃度差情報としては、日本臨床化学会・血液ガス・電解質専門委員会における許容差限界値の指針、または、臨床検査精度管理調査の定量検査評価法と試料に関する日臨技(註:日本臨床衛生検査技師会の略記)指針に従って設定することができる。具体的には、日本臨床化学会・血液ガス・電解質専門委員会における許容差限界値の指針は、Na:±2.00mmol/L、K:±0.2mmol/L、Cl:±2.00mmol/Lである、また、臨床検査精度管理調査の定量検査評価法と試料に関する日臨技指針では、Na:±3.00mmol/L、K:±0.2mmol/L、Cl:±3.00mmol/Lである。
【0059】
従って、前記イオン濃度差情報として、ナトリウムイオンの許容できる差の範囲が±1.50mmol/L以内であるとのナトリウムイオン濃度差情報、カリウムイオンの許容できる差の範囲が±0.100mmol/L以内であるとのカリウムイオン濃度差情報、クロライドイオンの許容できる差の範囲が±1.50mmol/L以内であるとのクロライドイオン濃度差情報によって構成される群からなる1種または2種以上のイオン濃度差情報を含む形態とすることが好ましい。
【0060】
[実施例1−1(非稀釈法1)]
校正液1の濃度を健常人近傍とし、校正液2の濃度を健常人近傍より高濃度とした。参照電極液は校正液1、2よりも高濃度とし、具体的には、塩化アンモニウムを用いた。測定対象イオンは検体検査に於いて代表的な、Naイオン、Kイオン、Clイオンの3種類とした。計測系には、
図2に示したフロースルー系を用いた。校正液1の、Naイオン濃度、Kイオン濃度、Clイオン濃度は、それぞれ140.0mmol/L、4.00mmol/L、100.0mmol/Lとし、校正液2の同イオン濃度は、同じ順に160.0mmol/L、6.00mmol/L、120.0mmol/Lとした。両校正液のpHは7.4±0.1となるように調整した。
上記の計測系に於いて、イオン電極用認証実用標準物質(Working Certified Reference Serum for ISE、ISE CRS)(以下、CRSと略記)を測定し、以下の結果を得た。
【0061】
<Naイオン>
校正液2と校正液1の電位差:3.9239
スロープ:3.9239÷log(160/140)=67.6636(mV/Dec.)
CRS認証値:154.3(H)、141.0(M)、125.8(L)
CRS測定値:151.3(H)、138.7(M)、124.8(L)
差(測定値−認証値):−3.0(H)、−2.3(M)、−1.0(L)
各CLJ(H/M/L):−0.5731(H)、−0.4791(M)、−0.2251(L)
係数:1.1
CLJ:−0.4683
【0062】
液間電位補正後の測定値:153.8(H)、140.9(M)、126.8(L)
差(補正後の測定値−認証値):−0.5(H)、−0.1(M)、1.0(L)
註:10の階乗を10exp(x)と表す、すなわち、10の2乗であれば10exp(2)と表記することにした場合、高濃度(H)の計算は以下となる。
10exp{log(測定値)−(CLJ/スロープ)}=10exp{log(151.3)−(−0.4683/67.6636)}=153.8
【0063】
ここで、比較のため、CRS認証値と測定値から回帰計算をして求めた補正値(回帰)を示す。
Y切片:−8.5202
傾き:1.0766
回帰式で補正後の測定値:154.4(H)、140.8(M)、125.9(L)
差(回帰式測定値−認証値):0.1(H)、−0.2(M)、0.1(L)
【0064】
<Kイオンの場合>
校正液2と校正液1の電位差:10.6172
スロープ:10.6172÷log(6/4)=60.2935(mV/Dec.)
CRS認証値:5.48(H)、4.29(M)、3.40(L)
CRS測定値:5.33(H)、4.18(M)、3.33(L)
差(測定値−認証値):−0.15(H)、−0.11(M)、−0.07(L)
各CLJ(H/M/L):−0.7464(H)、−0.6551(M)、−0.5447(L)
係数:1.0
CLJ:−0.6488
液間電位補正後の測定値:5.46(H)、4.29(M)、3.41(L)
差(補正後測定値−認証値):−0.02(H)、0.00(M)、0.01(L)
【0065】
ここで、比較のため、CRS認証値と測定値から回帰計算をして求めた補正値(回帰)を示す。
Y切片:−0.0701
傾き:1.0421
回帰式で補正後の測定値:5.48(H)、4.29(M)、3.40(L)
差(回帰式):0.00(H)、0.00(M)、0.00(L)
【0066】
<Clイオンの場合>
校正液2と校正液1の電位差:−2.6127
スロープ:−2.6127÷log(120/100)=−32.9965(mV/Dec.)
CRS認証値:116.6(H)、102.8(M)、89.9(L)
CRS測定値:119.7(H)、105.8(M)、92.2(L)
差(測定値−認証値):3.1(H)、3.0(M)、2.3(L)
各CLJ(H/M/L):−0.3712(H)、−0.4122(M)、−0.3558(L)
係数:1.0
CLJ:−0.3797
液間電位補正後の測定値:116.5(H)、103.0(M)、89.7(L)
差(補正後測定値−認証値)):−0.1(H)、0.2(M)、−0.2(L)
【0067】
ここで、比較のため、CRS認証値と測定値から回帰計算をして求めた補正値(回帰)を示す。
Y切片:0.2996
傾き:0.9710
回帰式で補正後の測定値:116.5(H)、103.0(M)、89.8(L)
差(回帰式):−0.1(H)、0.2(M)、−0.1(L)
【0068】
いずれのイオンの場合も回帰式による補正には及ばないが、日本臨床化学会・血液ガス・電解質専門委員会における許容差限界値の指針は、Na:±2.00mmol/L、K:±0.2mmol/L、Cl:±2.00mmol/Lであり、また、臨床検査精度管理調査の定量検査評価法と試料に関する日臨技指針では、Na:±3.00mmol/L、K:±0.2mmol/L、Cl:±3.00mmol/Lであるため、液間電位を利用した本願発明の補正も十分な補正であるといえる。なお、無関係塩の説明のところで触れたが、上記説明(計算)より、電位補正に無関係塩を使い難いClイオンに於いて、液間電位補正が、より有効であることがわかる。
註:一般的に、標準品測定値が日臨技指針の半分の値を超えるとき、標準品による再補正が必要である、と考えられている。
【0069】
[実施例1−2(非稀釈法2)]
実施例1−1と同じCLJ設定で、別のCRSを用い、検体(コントロール)を測定した結果を示す。なお、係数Kの算出過程(一覧表)を
図9に示した。
【0070】
<Naイオンの場合>
CRS認証値:155.1(H)、141.7(M)、125.0(L)
CRS測定値:152.9(H)、139.0(M)、124.0(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:155.2(H)、141.1(M)、125.9(L)
液間電位補正後の検体の測定値:139.0(ノーマル。以下、Nと略記)、152.0(アブノーマル。以下、ANと略記)
Y切片:−3.9208
傾き:1.0425
回帰式で補正後の測定値:138.8(N)、152.2(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:139.0(N)、150.9(AN)
註:炎光光度計による測定はイオン電極を用いた測定よりもトレーサビリティー的に上位にある。すなわち、炎光光度計による測定値はCRSに於ける認証値と同様な扱い、となる。
上記した結果からわかるように、ノーマル検体ではCLJ補正後の測定値が炎光光度計の測定値に一致し、アブノーマル検体におけるCLJ補正後の測定値は、(CLJを用いない)回帰式補正後の測定値よりも、若干ではあるが、炎光光度計の測定値に近いことがわかる。
【0071】
<Kイオンの場合>
CRS認証値:5.50(H)、4.38(M)、3.22(L)
CRS測定値:5.41(H)、4.33(M)、3.22(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:5.46(H)、4.37(M)、3.25(L)
液間電位補正後の検体の測定値:4.14(N)、5.25(AN)
Y切片:−0.1309
傾き:1.0411
回帰式で補正後の測定値:4.14(N)、5.28(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:4.20(N)、5.25(AN)
上記した結果からわかるように、アブノーマル検体におけるCLJ補正後の測定値は、(CLJを用いない)回帰式補正後の測定値と異なり、炎光測定値と一致した。
【0072】
<Clイオンの場合>
CRS認証値:118.9(H)、102.3(M)、88.0(L)
CRS測定値:125.4(H)、110.4(M)、94.3(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:117.4(H)、103.3(M)、88.3(L)
液間電位補正後の検体の測定値:100.6(N)、115.8(AN)
Y切片:−6.1176
傾き:0.9923
回帰式で補正後の測定値:100.5(N)、116.7(AN)
CRSで回帰式補正した電量滴定の測定値:102.1(N)、116.2(AN)
【0073】
Clイオン選択性電極は、NaまたはKイオン選択性電極よりも共存イオンの影響を受け易いため(例えば、重炭酸イオン濃度が低いとき異常値になる等)、測定値にずれが生じ易いが、上記した結果からわかるように、ノーマル検体及びアブノーマル検体におけるCLJ補正後の測定値は、(CLJを用いない)回帰式補正後の測定値よりも、若干ではあるが、電量滴定法の測定値に近い。
【0074】
[実施例1−3(非稀釈法3)]
実施例1−2と同じCRS及び検体だが、そのCRSから求めたCLJ設定で再計算した結果を示す。なお、係数Kの算出過程(一覧表)を
図10に示した。
【0075】
<Naイオンの場合>
係数K:1.0
CRS認証値:155.1(H)、141.7(M)、125.0(L)
CRS測定値:152.9(H)、139.0(M)、124.0(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:155.0(H)、140.9(M)、125.7(L)
液間電位補正後の検体の測定値:138.8(N)、151.8(AN)
Y切片:−3.9208
傾き:1.0425
回帰式で補正後の測定値:138.8(N)、152.2(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:139.0(N)、150.9(AN)
上記した結果からわかるように、ノーマル検体ではCLJ補正後の測定値と(CLJを用いない)回帰式補正後の測定値は同じだが、アブノーマル検体におけるCLJ補正後の測定値は、(CLJを用いない)回帰式補正後の測定値よりも、若干ではあるが、炎光光度計の測定値に近い。
【0076】
<Kイオンの場合>
係数K:1.3
CRS認証値:5.50(H)、4.38(M)、3.22(L)
CRS測定値:5.41(H)、4.33(M)、3.22(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:5.48(H)、4.38(M)、3.26(L)
液間電位補正後の検体の測定値:4.16(N)、5.26(AN)
Y切片:−0.1309
傾き:1.0411
回帰式で補正後の測定値:4.14(N)、5.28(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:4.20(N)、5.25(AN)
上記した結果からわかるように、ノーマル検体及びアブノーマル検体に於けるCLJ補正後の測定値は、(CLJを用いない)回帰式補正後よりも炎光測定値に近い。
【0077】
<Clイオンの場合>
係数Kが1.0であり、実施例1−2と等しいため、結果は同じである。
【0078】
全体を通し、実施例1―2よりも、CLJ補正後の測定値の方が炎光(電量)測定値に近いことがわかる。
【0079】
[実施例2−1(稀釈法)]
校正液1の濃度を健常人近傍とし、校正液2の濃度を健常人近傍より高濃度とした。稀釈倍率は50倍(50+1倍)に設定した。稀釈液にもイオンを加えた。測定対象イオンは検体検査に於いて代表的なNaイオン、Kイオン、Clイオンの3種類とした。計測系には
図3に示したディップ系を用いた。校正液1の、Naイオン濃度、Kイオン濃度、Clイオン濃度は、それぞれ130.0mmol/L、4.00mmol/L、90.0mmol/Lとし、校正液2の同イオン濃度は、順に200.0mmol/L、44.0mmol/L、200.0mmol/Lとした。稀釈液の、Naイオン濃度、Kイオン濃度、Clイオン濃度は、それぞれ1.00mmol/L、0.10mmol/L、1.50mmol/Lとした。両校正液、及び、稀釈液のpHは7.3±0.1となるように調整した。
上記の計測系に於いて、CRSを測定し、以下の結果を得た。
【0080】
<Naイオンの場合>
校正液2と校正液1の電位差:8.4154
スロープ: 校正液2と校正液1の電位差÷log{(校正液2濃度+稀釈液濃度×稀釈倍率)/(校正液1濃度+稀釈液濃度×稀釈倍率)}=8.4154÷log{(200+1×50))/(130+1×50)}=58.9864(mV/Dec.)
CRS認証値:158.3(H)、142.5(M)、128.0(L)
CRS測定値:158.6(H)、143.4(M)、129.0(L)
差(測定値−認証値):0.3(H)、0.9(M)、1.0(L)
各CLJ(H/M/L):0.0344(H)、0.1248(M)、0.1464(L)
係数:1.2
CLJ:0.1222
液間電位補正後の測定値:157.6(H)、142.5(M)、128.2(L)
差(補正後測定値−認証値):−0.7(H)、0.0(M)、0.2(L)
註:10の階乗を10exp(x)と表す、すなわち、10の2乗であれば10exp(2)と表記することにした場合、高濃度(H)の計算は以下となる。
10exp([log{(測定値+稀釈液濃度×稀釈倍率)/(稀釈倍率+1)}−(CLJ/スロープ)}])×(稀釈倍率+1)−1×稀釈倍率=10exp([log{(158.6+1×50)/51)}−(0.1222/58.9864)}])×51−1×50=157.6
【0081】
ここで、比較のため、CRS認証値と測定値から回帰計算して求めた補正値(回帰)を示す。
Y切片:−4.3657
傾き:1.0252
回帰式で補正後の測定値:158.2(H)、142.7(M)、127.9(L)
差(回帰式):−0.1(H)、0.2(M)、−0.1(L)
【0082】
<Kイオンの場合>
校正液2と校正液1の電位差:40.1691
スロープ:40.1691÷log{(44+0.1×50)/(4+0.1×50)}=54.5810(mV/Dec.)
CRS認証値:5.90(H)、4.32(M)、3.28(L)
CRS測定値:5.85(H)、4.35(M)、3.34(L)
差(測定値−認証値):−0.05(H)、0.03(M)、0.06(L)
各CLJ(H/M/L):−0.1046(H)、0.0711(M)、0.1655(L)
係数:1.6
CLJ:0.0704
液間電位補正後の測定値:5.82(H)、4.32(M)、3.31(L)
差(補正後測定値−認証値):−0.08(H)、0.00(M)、0.03(L)
【0083】
ここで、比較のため、CRS認証値と測定値から回帰計算して求めた補正値(回帰)を示す。
Y切片:−0.2059
傾き:1.0428
回帰式で補正後の測定値:5.90(H)、4.33(M)、3.28(L)
差(回帰式):0.00(H)、0.01(M)、0.00(L)
【0084】
<Clイオンの場合>
校正液2と校正液1の電位差:−11.7914
スロープ:−11.7914÷log{(200+1.5×50)/(90+1.5×50)}=−53.1507(mV/Dec.)
CRS認証値:121.1(H)、104.1(M)、88.3(L)
CRS測定値:124.9(H)、108.1(M)、92.1(L)
差(測定値−認証値):3.8(H)、4.0(M)、3.8(L)
各CLJ(H/M/L):−0.4453(H)、−0.5048(M)、−0.5282(L)
係数:1.0
CLJ:−0.4928
液間電位補正後の測定値:120.7 (H)、104.2(M)、88.6(L)
差(補正後測定値−認証値):−0.4(H)、0.1(M)、0.3(L)
【0085】
ここで、比較のため、CRS認証値と測定値から回帰計算して求めた補正値(回帰)を示す。
Y切片:−3.7308
傾き:0.9989
回帰式で補正後の測定値:121.0(H)、104.2(M)、88.2(L)
差(回帰式):−0.1(H)、0.1(M)、−0.1(L)
【0086】
いずれのイオンの場合も回帰式による補正には及ばないが、実施例1(非稀釈法)の項で述べた理由により、液間電位を利用した本願発明も十分な補正であるといえる。なお、無関係塩の説明のところで触れたが、電位補正に無関係塩を使い難いClイオンに於いて、液間電位補正が、より有効であることがわかる。
【0087】
[実施例2−2(稀釈法2)]
実施例2−1と同じCLJ設定で、別のCRSを用い、検体(コントロール)を測定した結果を示す。なお、係数Kの算出過程(一覧表)を
図9に示した。
【0088】
<Naイオンの場合>
CRS認証値:155.6(H)、140.6(M)、125.5(L)
CRS測定値:155.0(H)、140.5(M)、125.5(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:155.3(H)、140.8(M)、125.7(L)
液間電位補正後の検体の測定値:141.3(N)、158.9(AN)
Y切片:−2.6099
傾き:1.0203
回帰式で補正後の測定値:141.3(N)、159.2(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:141.2(N)、159.7(AN)
【0089】
上記の結果から、ノーマル検体では、CLJ補正後の測定値と回帰式で補正後の測定値が炎光光度計の測定値と同程度のずれであることがわかる。逆に、アブノーマル検体では、絶対値で0.3、回帰式補正よりもずれが大きい。
【0090】
<Kイオンの場合>
CRS認証値:5.56(H)、4.48(M)、3.47(L)
CRS測定値:5.59(H)、4.52(M)、3.51(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:5.52(H)、4.46(M)、3.46(L)
液間電位補正後の検体の測定値:3.68(N)、5.57(AN)
Y切片:−0.0063
傾き:1.0647
回帰式で補正後の測定値:3.69(N)、5.61(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:3.72(N)、5.57(AN)
【0091】
上記の結果から、ノーマル検体では、CLJ補正後の測定値が回帰式で補正後の測定値よりも炎光光度計の測定値と絶対値で0.01乖離したが、逆にアブノーマル検体では炎光光度計の測定値と一致することがわかる。
【0092】
<Clイオンの場合>
CRS認証値:117.6(H)、102.3(M)、91.2(L)
CRS測定値:122.4(H)、108.5(M)、96.3(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:116.6(H)、103.1(M)、91.3(L)
液間電位補正後の検体の測定値:98.5(N)、116.9(AN)
Y切片:−6.9836
傾き:1.0147
回帰式で補正後の測定値:98.3(N)、117.5(AN)
CRSで回帰式補正した電量滴定の測定値:100.2(N)、115.2(AN)
【0093】
上記した結果は桁を丸めてあるが、CLJ値−炎光値、回帰値−炎光値を小数点以下3桁で比較すると、それぞれ、(−1.725、1.693)、(−1.934、2.320)となり、若干ではあるが、ノーマル検体、及びアブノーマルにおけるCLJ補正後の測定値は、(CLJを用いない)回帰式補正後の測定値よりも炎光測定値に近いことがわかる。アブノーマル検体に於ける差は絶対値で0.628であり、かなり大きい。
全体を通し、NaまたはK電極に比較し、イオン選択性が劣るCl電極イオンに於ける液間電位補正が効果的であることがわかる。
【0094】
[実施例2−3(稀釈法3)]
実施例2−2と同じCRS及び検体だが、そのCRSから求めたCLJ設定で再計算した結果を示す。なお、係数Kの算出過程(一覧表)を
図10に示した。
【0095】
<Naイオンの場合>
係数K:0.5
CRS認証値:155.6(H)、140.6(M)、125.5(L)
CRS測定値:155.0(H)、140.5(M)、125.5(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:155.1(H)、140.6(M)、125.6(L)
液間電位補正後の検体の測定値:141.2(N)、158.7(AN)
Y切片:−2.6099
傾き:1.0203
回帰式で補正後の測定値:141.3(N)、159.2(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:141.2(N)、159.7(AN)
【0096】
上記した結果から、ノーマル検体ではCLJ補正後の測定値が炎光光度計の測定値に一致していることがわかる。
【0097】
<Kイオンの場合>
係数K:1.1
CRS認証値:5.56(H)、4.48(M)、3.47(L)
CRS測定値:5.59(H)、4.52(M)、3.51(L)
液間電位補正後のCRSの測定値:5.54(H)、4.48(M)、3.47(L)
液間電位補正後の検体の測定値:3.70(N)、5.59(AN)
Y切片:−0.0063
傾き:1.0647
回帰式で補正後の測定値:3.69(N)、5.61(AN)
CRSで回帰式補正した炎光光度計の測定値:3.72(N)、5.57(AN)
【0098】
上記した結果から、ノーマル検体及びアブノーマル検体ともに、僅かではあるが、CLJ補正後の測定値が回帰式で補正後の測定値よりも炎光光度計の測定値に近いことがわかる。
【0099】
<Clイオンの場合>
係数Kが1.0であり、実施例2−2と等しいため、結果は同じである。
【0100】
全体を通し、実施例2−3の方が実施例2―2よりも、若干ではあるが、CLJ補正後の測定値の方が炎光測定値に近いことがわかる。
【0101】
実施例1−2、2−2及び、実施例1−3、2−3の結果を
図11に纏めた。
【0102】
実施例1、2として取り上げた上記の補正は、実用標準血清の、高濃度、中濃度、低濃度に於いて同じ液間電位で補正している。そのため、Naのアブノーマル検体で見られたような直線的な乖離が生じる可能性が残る。これを防ぐには、高濃度、中濃度、低濃度に於いて、それぞれに適するような、多項式、或いはロジスティック曲線等の非直線的補正を行えば良い。当然のように、それらの方法は一つではなく、多種考えられるが、いずれも直線近似ほど簡単なものではない。また、実用標準血清と測定値のずれが、高濃度、中濃度、低濃度で徐々に大きくなる(または小さくなる)場合であれば、計算式の扱いが比較的容易だが、今回の実施例1及び2のClイオンで見られたように、そうはならない場合(実施例1−1の各CLJ(H/M/L):−0.3712(H)、−0.4122(M)、−0.3558(L))、取り扱いが困難となる。
【0103】
補正係数CLJの算出法を算術平均(相加平均)から幾何平均(相乗平均)(以下の「※」参照)に変えた場合、その結果に大きな違いはなかった。例えば、実施例2−2のNaイオンの場合、補正前→算術平均→幾何平均相→電量値の順で、141.1→141.2→141.1→141.2、158.6→158.7→158.6→159.7、Kの場合、3.74→3.70→3.70→3.72、5.64→5.59→5.59→5.57、Clの場合、103.7→98.5→98.5→100.2、122.7→116.9→116.9→115.2であった。
※ CLJ=K×(CLJ(H)×CLJ(M)×CLJ(L))^(1/3)
ここで、x^(1/3)はxの三乗根(立方根)を表す。
【0104】
なお、幾何平均の場合、算術平均と異なり、補正前の測定値のいずれか(H、M、L)とCRSの認証値が等しいか、限りなく近い場合、補正係数CLJが0または0に限りなく近い値になるため、事実上、補正をしない場合と同じ結果となる。
【0105】
滑らかな曲線ではないが、非直線近似も試みた。実施例1−2のClイオンに対し、液間電位補正前の測定値(107.5)が、実用標準血清の高濃度(118.9)と中濃度(102.3)の中間にあるため、CLJには、CLJ(H)とCLJ(M)の平均値を用いた。すると、最初の計算では100.6であった液間電位補正後の測定値が100.8となり、僅かではあるが、炎光値との差が改善された(炎光値:102.1)。
【0106】
本願発明の本質的な説明は以上であるが、当然の如く、上記内容は本願発明を実施するための形態の例に過ぎず、本願発明を限定するものではない。
【課題】イオン選択性電極法を原理とする電解質計測系に於いて測定値の正確さを担保するには標準品の認証値を用いて測定値を補正する必要があるが、主として用いられる補正方法は回帰式によるものであり、検体が異常値の場合、その正確さを担保できない場合があった。検体が異常値の場合でも、その正確さを担保できるようにする。