特許第6842794号(P6842794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842794
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】皮膚外用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/727 20060101AFI20210308BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 8/42 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/135 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/203 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/4166 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210308BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   A61K31/727
   A61K8/41
   A61K8/42
   A61K8/63
   A61K8/67
   A61K8/73
   A61K9/06
   A61K9/10
   A61K31/07
   A61K31/11
   A61K31/135
   A61K31/164
   A61K31/203
   A61K31/355
   A61K31/4166
   A61K31/455
   A61K31/704
   A61P17/00
   A61P17/04
   A61P17/16
   A61P29/00
   A61P43/00 107
   A61P43/00 121
   A61Q19/00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-76611(P2015-76611)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-196419(P2016-196419A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月27日
【審判番号】不服2020-2080(P2020-2080/J1)
【審判請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】500077144
【氏名又は名称】万協製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林 崇剛
(72)【発明者】
【氏名】濱口 高明
【合議体】
【審判長】 藤原 浩子
【審判官】 前田 佳与子
【審判官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−143517(JP,A)
【文献】 特開2010−180206(JP,A)
【文献】 特開2011−231128(JP,A)
【文献】 特開2003−81881(JP,A)
【文献】 特開2014−141470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00
A61K47/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヘパリン類似物質と、(B)トコフェロール酢酸エステルと、(C)アラントインと、(D)ジフェンヒドラミンと、(E)ステアリルアルコールと、(F)白色ワセリンを含み、(G)塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリウム、ビオゾール及びフェノールを含む殺菌剤パンテノール並びにスクワランを含まないクリームである皮膚外用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では生活環境の変化、急激な高齢化、様々なストレスなどによって、痒みを伴う皮膚疾患(特にアトピー性皮膚炎、乾燥性皮膚症、敏感肌など)を患う人が増加している。これらの皮膚疾患には、強い痒み・肌荒れが伴う。その治療には、クロタミトン・抗ヒスタミン剤などの鎮痒成分、ヘパリン類似物質などの保湿成分を有効成分とする外用剤が用いられている。
このうち、ヘパリン類似物質は、血行促進作用を持つムコ多糖類の多硫酸化エステルで、その構造中に硫酸基、カルボキシル基、水酸基などを多く含むことから、高い保湿能を有し、既に乾燥性皮膚疾患等の治療を目的として一般用医薬品としても利用されている。
乾燥性皮膚(老人・成人の乾皮症、小児の乾燥性皮膚)は、乾燥性皮膚疾患の代表的な症状であり、老人・成人においては皮膚の老化(加齢に伴う生理的変化)によって発生し、小児においては成人に比べて角質層が薄く、皮脂の分泌量が不安定でバリア機能がまだ安定していないことによって発生する。いずれの場合も、皮膚が乾燥して粗ぞうとなり、多くの場合に自覚症状として掻痒(かゆみ)を伴う。痒みの程度は強いことが多く、患者は常時しきりに激しく患部を掻くので痒みは増し、さらに掻きむしることによって皮膚に炎症が生じて症状が悪化し、二次的に湿疹化が進むことがある。
【0003】
このような悪循環を断ち切り、不快症状である痒みを緩和するとともに湿疹化を防止する目的として、多くの研究開発が行われている(特許文献1および2を参照)。
特許文献1には、外用抗ヒスタミン剤であるジフェンヒドラミンとヘパリン類似物質とを配合し、痒みを伴う乾燥性皮ふ疾患の効能・効果を持ち合わせた外用製剤が開示されている。しかし、ヘパリン類似物質の作用は不足した水分を補うことであり、ジフェンヒドラミンの作用は痒みを緩和することであり、いずれも対症療法的なものに過ぎないため、皮膚疾患を根本的に治療させることは難しかった。
すなわち、乾燥性皮膚疾患を部位別又は疾患別に記すと、手指の荒れ、ひじ・ひざ・かかと・くるぶしの角化症、手足のひび・あかぎれ、乾皮症、小児の乾燥性皮膚などが例示される。このうち、手指の荒れ、乾皮症、角化症においては病状を呈した皮膚組織が正常な状態までに置き換わるいわゆるターンオーバーを促進する作用が、ひび・あかぎれにおいては割れた皮膚組織の治療を促進する作用が、それぞれ必要であると考えられた。そこで、皮膚組織を正常な状態に回復するのを助けるビタミン(トコフェロール酢酸エステル)及び皮膚組織の修復作用を持つアラントインを添加するという工夫がなされた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−180206号公報
【特許文献2】特開2011−231128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の工夫にも拘わらず、痒みを伴う乾燥性皮膚疾患について、根本的な治療を促し得る皮膚外用製剤は、十分に提供されているとは言い難い状況であった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、痒みを抑えると共に皮膚組織を正常な状態に回復することにより、痒みを伴う乾燥性皮膚疾患を根本的に治療し得る皮膚外用製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための発明に係る皮膚外用製剤は、(A)ヘパリン類似物質と、(B)トコフェロール、トコフェロール酢酸エステル、ニコチン酸トコフェロール、リノレン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、パンテノール及びビタミンA類からなる群より選択される少なくとも一種と、(C)グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアリル、アラントイン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の抗炎症剤と、(D)ジフェンヒドラミン及び塩酸ジフェンヒドラミンからなる群から選択される少なくとも一種の鎮痒剤とを含むことを特徴とする。
本発明において、(A)ヘパリン類似物質の含量は、全体の0.2〜0.4質量%(好ましくは0.3質量%)、(B)トコフェロール、トコフェロール酢酸エステル、ニコチン酸トコフェロール、リノレン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、パンテノール及びビタミンA類からなる群より選択される少なくとも一種の含量は、全体の0.001〜1質量%(好ましくは0.01〜0.8質量%、更に好ましくは0.1〜0.7質量%、更に好ましくは0.4〜0.6質量%)、(C)抗炎症剤の含量は、全体の0.01〜5質量%(好ましくは0.05〜1質量%、更に好ましくは0.1〜0.5質量%)、(D)鎮痒剤の含量は、全体の0.1〜2質量%(好ましくは0.5〜1.5質量%)である。
【0007】
ヘパリンとは、生体内では主として肝臓において生成されるグリコサミノグリカンの一種である。抗凝固作用を有しており、血栓塞栓症・播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療薬、人工透析・体外循環における血液の凝固防止などの用途がある。ヘパリン類似物質とは、ヘパリン、及びヘパリンが修飾・一部分解されたものであって、ヘパリンと同様の生理活性を備えたものを意味する。
ビタミンA類とは、レチノール、レチナール、レチノイン酸及びこれらの3-デヒドロ体並びにこれらの誘導体を総称したものを意味する。
皮膚外用製剤の剤形としては、例えばクリーム、乳液、軟膏、ゲル剤などが含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、痒みを抑えると共に、皮膚組織を正常な状態に回復することにより、痒みを伴う乾燥性皮膚疾患を根本的に治療し得る皮膚外用製剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<試験方法>
1.各組成物の調製
有効成分として、ヘパリン類似物質、トコフェロール酢酸エステル、アラントイン及びジフェンヒドラミン含む皮膚外用製剤(試験組成物)としてのクリームを調製した。
一方、有効成分として、ヘパリン類似物質及びジフェンヒドラミンを含む皮膚外用製剤(比較組成物1)、及びヘパリン類似物質、パンテノール、トコフェロール酢酸エステル、アラントイン及びジフェンヒドラミンを含む皮膚外用製剤(比較組成物2)を調製した。なお、各組成物において、他の配合成分は同一に調製した。
各組成物の用量は、表1に記載の通りとした。
【0010】
【表1】
【0011】
2.角質水分量の測定
肌荒れによる痒みを訴える被験者各5名(全15名)を対象とし、肌荒れ改善効果を評価した。
具体的には、各被験組成物を手の甲に対し、就寝前及び乾燥が気になった時に適量を塗布させた。使用前と、使用開始5日後(使用後)の電気伝導度(μs)を表角層水分量測定装置(SKICON-200EX、アイ・ビー・エス株式会社製)により測定した。各水分値は、各被験者について、3点での測定値の平均値で示した。水分相対値として、使用後水分値/使用前水分値を算出した。
【0012】
3.官能評価試験
肌荒れによる痒みを訴える被験者各5名の患部に各被験組成物を塗布し、次の5種類のパラメータを用いて評価した。すなわち、(1)使用感(塗布しやすい場合を5点、塗布しにくい場合を1点)、(2)肌状態の改善(肌が乾燥した状態が改善された場合を5点、肌が乾燥した状態が改善しなかった場合を1点)、(3)かゆみ止め効果(かゆみが止まった場合を5点、かゆみが止まらなかった場合を1点)、(4)かゆみの再発抑制効果(塗った日に再発して患部を掻かなかった場合を5点、塗った日に再発して患部を掻いた場合を1点)、及び(5)肌改善の持続性(塗る前に肌が乾燥した状態が改善されてきたと感じた場合を5点、塗る前に肌が乾燥した状態が改善されてきていないと感じた場合を1点)とした。各パラメータについて、5段階で評価を行った。
各被験者による評点を合計し、合計点が21〜25点:◎、16〜20点:○、11〜15点:△、11点未満:×とした。
【0013】
<試験結果>
表2〜表4には、角質水分量(使用前及び使用後のもの)及び官能評価の結果を示した。
【0014】
【表2】
【0015】
【表3】
【0016】
【表4】
【0017】
上記結果に示すように、試験組成物は、比較組成物に比べると、水分相対値(使用後水分値/使用前水分値)に優れていた。また、官能評価においても、比較組成物よりも高値を示した。こうして、試験組成物は、角質を正常化して手荒れを改善する効果及びかゆみの再発をおさえて肌改善の持続性を上げる効果に優れていることが明らかになった。
<その他の組成物の調製>
次に、その他の組成物について調製を行った。
1.乳液の調製
ヘパリン類似物質0.3g、トコフェロール酢酸エステル0.5g、アラントイン0.2g及びジフェンヒドラミン1.0gに対し、セタノール1.0g、ステアリルアルコール0.5g、白色ワセリン4g、精製水適量を加えて乳液を調製した。
2.軟膏の調製
ヘパリン類似物質0.3g、トコフェロール酢酸エステル0.5g、アラントイン0.2g及びジフェンヒドラミン1.0gに対し、マクロゴール4000 30g、マクロゴール400適量を加えて軟膏を調製した。
3.ゲル剤の調製
ヘパリン類似物質0.3g、トコフェロール酢酸エステル0.5g、アラントイン0.2g及びジフェンヒドラミン1.0gに対し、エタノール40g、ヒプロメロース0.5g、ヒドロキシエチルセルロース0.5g、精製水適量を加えてゲル剤を調製した。
上記各組成物についてもクリームに示した効果と同様の効果が認められた。
このように、本実施形態によれば、痒みを抑えると共に皮膚組織を正常な状態に回復することにより、痒みを伴う乾燥性皮膚疾患を根本的に治療し得る皮膚外用製剤を提供できた。