特許第6842795号(P6842795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842795生体サンプル中のミトコンドリア複製の機能不全をインビトロで調査するための方法、そのキット及び使用、早老症様の症候群又は症状に対する治療方法、並びに特定のプロテアーゼ阻害剤及び/又はニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物を同定するためのスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842795
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】生体サンプル中のミトコンドリア複製の機能不全をインビトロで調査するための方法、そのキット及び使用、早老症様の症候群又は症状に対する治療方法、並びに特定のプロテアーゼ阻害剤及び/又はニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物を同定するためのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20210308BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20210308BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210308BHJP
   C07D 487/22 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20210308BHJP
   C07F 13/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   C12Q1/68
   C12N9/99
   G01N33/50 P
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61K45/00
   A61P43/00 111
   C07D487/22
   A61K31/555
   A61P25/00
   A61P43/00 121
   C07F13/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2016-551745(P2016-551745)
(86)(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公表番号】特表2017-512979(P2017-512979A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】EP2015053167
(87)【国際公開番号】WO2015121459
(87)【国際公開日】20150820
【審査請求日】2018年1月5日
(31)【優先権主張番号】14305203.3
(32)【優先日】2014年2月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508029653
【氏名又は名称】アンスティテュ・パストゥール
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・アルノー・シャトル
(72)【発明者】
【氏名】ミリア・リクシェティ
(72)【発明者】
【氏名】アラン・サラサン
(72)【発明者】
【氏名】ドニ・ビアール
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/104225(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102007024382(DE,A1)
【文献】 国際公開第2013/149306(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0079360(KR,A)
【文献】 PHILIP, A. et al.,Cloning and Characterization of the Human Mitochondrial DNA Polymerase, DNA Polymerase gamma,GENOMICS,1996年,Vol. 36,pp. 449-458
【文献】 SAVOPOULOS, J.W. et al.,Expression, Purification, and Functional Analysis of the Human Serine Protease HtrA2,Protein Expression and Purification,2000年,Vol. 19,pp. 227-234
【文献】 CLEAVER, J.E. et al.,Clinical implications of the basic defects in Cockayne syndrome and xeroderma pigmentosum and the DNA lesions responsible for cancer, neurodegeneration and aging,Mechanisms of Ageing and Development,2008年,Vol. 129,pp. 492-497
【文献】 PASCUCCI, B. et al.,An altered redox balance mediates the hypersensitivity of Cockayne syndrome primary fibroblasts to oxidative stress,Aging Cell,2012年,Vol. 11,pp. 520-529
【文献】 TUMURHUU, G. et al.,MntBAP, a synthetic metalloporphyrin, inhibits production of tumor necrosis factor-alpha in lipopolyasccharide-stimulated RAW 264.7 macrophages cells via inhibiting oxidative stress-mediating p38 and SAPK/JNK signaling,FEMS Immunology and Medical Microbiology ,2007年,Vol. 49,pp. 304-311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS)、ウェルナー症候群(WS)、ブルーム症候群(BS)、ロートムンド-トムソン症候群(RTS)、ファンコニ貧血(FA)、血管拡張性失調症(A-T)、コケイン症候群(CS)、色素性乾皮症(XP)及び硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD)の中から選択される早老症候群に罹りやすい対象から取り出された生体サンプル中のmtDNA複製の機能不全を調査するためのインビトロの方法であって、前記方法が、
a.前記生体サンプルを、POLG1タンパク質、POLG2タンパク質、HTRA3タンパク質、又はこれらの種のあらゆる組合せの群において選択される少なくとも1つの種に特異的な少なくとも1つのマーカーと、前記マーカーがそれらのそれぞれの標的と反応することを可能とする条件で接触させる工程、並びに
b.工程a)においてその(それらの)それぞれの種と反応したマーカーの測定を介して、又は工程a)において前記マーカーをその(それらの)それぞれの種と反応させた後に得られる反応生成物の測定を介して、前記生体サンプル中のPOLG1タンパク質、POLG2タンパク質、HTRA3タンパク質、又はこれらの種のあらゆる組合せの群から工程a)において選択される少なくとも1つの種のレベルを決定する工程、並びに
c.工程b)において決定されるレベルを、工程a)及びb)に記載の群において前記工程を実行するために選択される各々の種について健康な対象について決定されるそれぞれの正常な閾値と比較する工程、並びに
d.工程c)においてなされる比較から、mtDNA複製における機能不全の存在について結論付ける工程
を含む、方法。
【請求項2】
上記に開示される工程を実行するために選択される各々の種のレベルが以下の通りである場合:
- 工程b)において決定されるPOLG1タンパク質のレベルが、工程c)において導入される正常な閾値と比べて少なくとも10%減少している、及び/若しくは
- 工程b)において決定されるPOLG2タンパク質のレベルが、工程c)において導入される正常な閾値と比べて少なくとも15%増加している、及び/若しくは
- 工程b)において決定されるHTRA3タンパク質のレベルが、工程c)において導入される正常な閾値と比べて少なくとも2倍増加している、
又は上記の測定の少なくとも2つが上記の閾値を満たす場合に、mtDNA複製の機能不全の存在の結論がなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
POLG1のRNAレベルに対応するPOLG1転写物のレベルも決定され、健康な対象について決定される正常な閾値と比較され、別の種及び/若しくはマーカーと組み合わせて又は組み合わせずに、POLG1タンパク質のレベルが正常な閾値と比べて少なくとも10%減少しており、且つ、POLG1転写物のレベルが、正常細胞に対してこの種について決定される正常な閾値の範囲内である場合、mtDNA複製の機能不全の存在の結論がなされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体サンプルが、早老症候群と診断されることを必要とするか及び/若しくは診断される対象、並びに/又は早老症候群の家族歴を有する対象由来である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記早老症候群が、コケイン症候群(CS)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記生体サンプルが、コケイン症候群(CS)の危険に関連するCSB又はCSA遺伝子における突然変異に関してホモ接合型であることがわかっている対象由来である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
POLG1タンパク質、POLG2タンパク質、HTRA3タンパク質のレベルが、免疫蛍光法によって、ウェスタンブロッティングによって、若しくはELISA試験によって決定され、及び/又は、決定される場合、POLG1のRNAのレベルが、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)によって決定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
単離された細胞又はその培養物からなる生体サンプルに対して行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記単離された細胞又はその培養物が、線維芽細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
POLG1、POLG2及びHTRA3の中から選択されるタンパク質に特異的な少なくとも1種の抗体、又はPOLG1、POLG2及びHTRA3に特異的な複数の抗体の組合せを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実行するのに好適なキット。
【請求項11】
POLG1のRNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対を更に含む、請求項3から9のいずれか一項に記載の方法を実行するのに好適な、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
mtDNA複製の機能不全を調査するための、請求項10又は11に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体、動物又はヒトから収集される生体サンプルにおけるミトコンドリアDNA(mtDNA)複製障害の現象を調査するためのインビトロの試験方法の分野に関し、特に、生理学的老化(本明細書では年齢的な老化又は生物としての老化とも称される)、若しくは生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化、若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、若しくはその神経変性障害若しくは症状に罹りやすい対象の健康状態をモニター及び/又は診断することに適用することができる方法に関する。また本発明は、本発明の方法を行うためのキット及びそれらの使用にも関する。
【0002】
また本発明は、mtDNAの複製、ミトコンドリアレベルでの酸化ストレスの機能不全及び/又は管理不良に関連する経路、特に、以下で定義されるような機能的なPOLG実体、より詳細には機能的なPOLG1タンパク質の異常なレベル、特にPOLG1タンパク質の異常に低いレベルを引き起こす欠陥のある経路に影響を与える、プロテアーゼ阻害剤、特にセリンプロテアーゼ阻害剤の投与を介して、生理学的老化若しくは病態生理学的老化、この後者のケースにおいて特に早期老化若しくは促進老化、若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又は神経変性障害に罹っている対象の症状を処置するか又は遅延させるための方法にも関する。
【0003】
また本発明は、コケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させる、及び/又は本明細書で開示されたようなタンパク質のレベルを回復させる、特にコケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるために、それを必要とする患者で使用するためのニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物にも関し、前記ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物は、特定の実施形態によれば、MnTBAPである。
【0004】
また本発明は、本発明の状況において特定のプロテアーゼ阻害剤及び/又は目的のニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物を同定するためのスクリーニング方法にも関する。
【0005】
本発明は、生理学的老化又は生理病理学的老化、特に早期老化症候群、特に早老症候群、例えば早期老化の徴候によって全て特徴付けられる疾患群であるコケイン症候群(CS)に直接的に関連する疾患及び症状の状況、及び早発の老化に関連するか又は神経変性障害の発病及び確立の間に観察されたミトコンドリアの機能不全の分析の状況に特に関連がある。
【0006】
本発明は、特にミトコンドリアレベルで変更された細胞における酸化ストレスの管理に関連する経路の関連性を強調する実験に依拠するものである。
【背景技術】
【0007】
コケイン症候群(CS)、(OMIMエントリー216400 http://www.omim.org/entry/216400、OMIMエントリー133540 http://www.omim.org/entry/133540)、いわゆるウェーバー-コケイン症候群又はニール-ディングウォール症候群は、光線過敏症、酸化損傷に対する過敏症、骨格異常、聴力損失、色素性網膜症、進行性神経障害、知的障害及び早期老化等の、神経学的な異常並びに数々の成長及び発達上の欠陥によって特徴付けられるまれな遺伝的障害である1
【0008】
CSは、西ヨーロッパにおいて、発生率が新生児2,700万人当たり1人の常染色体劣性障害である2。発生率は、移民集団では極めて高く、近親婚に起因する可能性がある2
【0009】
CSは、遺伝子CSA(又はERCC8)3及び/又はCSB(又はERCC6)4における突然変異に起因しており、これらは、UVによって誘導されたDNA損傷等の嵩高なDNA付加物を除去するDNA修復メカニズムであるヌクレオチド除去修復(NER)に必要である。同定されたCS患者の約70%はCSBに突然変異を有する5。特に、CSBは、発現された遺伝子の転写された鎖に存在する傷害に特異的に作用するNERのサブタイプであるTC-NER(又は転写と共役したNER)又はいわゆるTCRに関与する6。他のNERサブタイプのGG-NER(又はグローバルゲノムNER)は、ゲノム全体にわたりどこにでも作用し、CS患者では正常である。遺伝毒性物質で処置された細胞におけるTCRの非存在は、アポトーシスを引き起こす。CSA又はCSB遺伝子における突然変異は、UV損傷によって引き起こされた変更されたDNA構造の、転写と共役したヌクレオチド除去修復(TC-NER)経路を介した適切な性能の修復に影響を与えることが公知である。しかしながらCS診断の状況において、状況は、CSAにおいて、TC-NER経路に影響を与えるが酸化ストレス応答に影響を与えないことから、早発の老化の兆候がない極めて軽症の症候群(UV過敏性症候群、UVSS)に関連するいくつかの突然変異が存在するという事実のために複雑である11
【0010】
CSには少なくとも2つの形態があり、タイプIは、胎児の正常な成長、及び最初の2年又はその後に出現する異常、及び10〜20年の間の衰退によって特徴付けられ、タイプIIは、誕生後の早期に神経発達がないこと、及び通常最初の10年以内の死亡を伴う。
【0011】
現在のところ、CSA及びCSB突然変異に関する遺伝子型解析以外に、CSに関する大規模な診断方法も出生前試験もないことに留意することが重要である。CSの破壊的な表現型にもかかわらず、これまで、関連があり検出が容易な、UVSS及び正常細胞と比較したCS細胞における細胞の変更が指摘されたことはない。
【0012】
別の態様によれば、コケイン症候群(CS)は、早期老化の外観と神経/発達の異常という互いに関連する2つの主要な機能障害によって特徴付けられ得る。
【0013】
これらの機能障害に関して、CS患者はまた、低身長症、体重増加及び発達の不良、小頭症、聴力損失、目の異常、重症の虫歯、骨の異常、並びに脳走査で検出することができる脳の変化を含む様々な症状も提示する。またこれらの患者は、太陽光に対しても極めて過敏である(光線過敏症)。
【0014】
CSの欠陥は、互いに厳密な関連があるが、これらの欠陥のいずれかを他の欠陥と切り離すことができるという指摘はない。したがって、CSの欠陥を軽減するか又はそれから救う処置又は条件は、CSの症状の全てではないにしても複数に作用することが期待されると予想される。神経細胞及び神経系が、なかでもCS機能障害の最も過敏な標的である可能性もある。それゆえに、早期老化と神経学的な異常の両方の状況において、CSに作用することが期待される処置が有利に検討される可能性がある。CSのパラダイムに神経系を含めることにより適切な理解がもたらされ、その結果としてこの疾患の適切なケアの実現が可能になる。
【0015】
それゆえに、CSを有する個体、すなわちここではCS細胞を有する個体から、細胞における重要な分子レベルの機能障害を元に戻すか又は軽減する処置は、系統的に包含される神経系の細胞にまで及ぶ。また、これまでに実験室で神経変性疾患を研究するための理想的なモデルがないことにも留意すべきである。具体的に言えば、特に線維芽細胞への分析及び処置が、CS関連の変更に関するそれらのニューロンタイプの細胞への影響の代表例として検討される可能性がある。
【0016】
加えて、早期老化症候群で観察された変更は、より極めて速い速度ではあるが、正常な、すなわち生理学的な老化の間に起こる神経変性を含む生理学的な劣化の代表例であると考えられる。結果として、疾患におけるこれらの機能障害を少なくとも部分的に元に戻す処置は、正常な老化及び神経変性による劣化という状況でも意図されると予想される。
【0017】
一方CSに関与する分子メカニズムについて、現在広く認識されている見解は、TC-NERは、CSA及びCSB突然変異体において障害されていることから、DNA傷害の修復又はDNA損傷の前で行き詰まったRNAポリメラーゼIIの排除ができなくなり、それによってUV損傷後に転写がブロックされ、結果として全体的な転写の停止が生じるというものである。しかしながら、広範に研究されているCSB突然変異細胞は、TC-NERの機能障害以外にも転写の欠陥を有するようである7。この状況において、CSBは、数々の遺伝子及びネットワークの活性化に関与する転写因子と考えられる。
【0018】
しかしながら、CS患者の重症の表現型は、TC-NER及び転写における単一の欠陥に決着させることは困難である7
【0019】
実際に、CSB細胞、すなわちNardoら、2009 PNAS 106 (15) :620914で開示されたような障害されたCSB遺伝子を有することがわかっている患者からの細胞は、酸化損傷に対しても過敏である。実際に、CSA及びCSBは、内因性活性酸素種によって生じた酸化によるDNA傷害の修復に関与すると考えられており、通常は塩基除去修復(BER)経路によって修復される8。CSA/CSBは、BERタンパク質との直接的な相互作用によって、またBER遺伝子の発現をモジュレートすることによっても、BER経路をモジュレートする。核及びミトコンドリアのBERの両方が関与する。実際に、CSA及びCSBは、細胞核だけでなくミトコンドリアでも検出されている9、10。酸化ストレスの修復におけるCSA/CSBの密接な関係は、CSで観察された発達上の欠陥及び神経変性の説明になる可能性がある。しかしながら、CSA又はCSBの欠失によるBERの機能障害は軽症であることから、CSタンパク質は、酸化ストレスに対する応答において、より一般的にはCSの原因論において追加の役割があることを示唆している8
【0020】
興味深いことに、CSAにおける突然変異は、軽症皮膚の症状及び欠陥のあるTC-NERによって特徴付けられる常染色体劣性障害であるUV過敏性症候群(UVSS)とは関連していたが、CSの他の症状、特に酸化損傷に対する過敏症及び早発の老化とは関連していなかった11。したがって、CSA突然変異の表現型において、TC-NER及び酸化損傷修復における欠陥は切り離されており、これは、CS症状の多くは、転写関連のDNA修復というより酸化ストレスの管理に起因することを示唆している。
【0021】
実際に、NERにおける欠陥は、CSだけでなく、太陽に晒された皮膚の領域における腫瘍に対する感受性の増加によって特徴付けられる色素性乾皮症(XP)、並びに発達及び神経学的な異常と早期老化によって特徴付けられる硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD)にも関連する12。CS及びTTDは、がんのない障害である。XP及びTTDは、本質的に欠陥のあるGG-NERに関連する12
【0022】
より一般的には、コケイン症候群は、全て早期老化の徴候によって特徴付けられる疾患群である早老症候群に関すると考えられる。これらの症候群は、ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS)、ウェルナー症候群(WS)、ブルーム症候群(BS)、ロートムンド-トムソン症候群(RTS)、ファンコニ貧血(FA)、血管拡張性失調症(A-T)、コケイン症候群(CS)、色素性乾皮症(XP)及び硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD)を包含する13
【0023】
これらの症候群のいくつかは、複数の臓器及び組織が正常な老化に関連する表現型を複製するために、部分的早老症候群として分類される14
【0024】
HGPS及びWSは、最もよく特徴付けられたヒト早老性疾患のうちの2つである15。HGPSは、早老症の最も重症の形態の1つであり、新生児4〜800万人のうち1人の発生率を有し、生後1年の間にはっきりと認識できる臨床症状が発生し、11〜13歳の年齢中央値で患者は死亡する。またHGPSは、「幼児期の早老症」とも称される。WSは、新生児100万人当たり1人の発生率を有し(ただし日本では1:100,000)、ウェルナーの異型接合体は、一般的な集団において1/180である。症状は10歳未満から10歳代に出現し、期待寿命は47〜54歳に達する。またWSは、「成人性早老症」とも称される。
【0025】
ほとんどの早老症候群は、NER、BER、及び二本鎖切断(DSB)修復等の明確な修復システムの欠陥を包含する13、15。これらの突然変異が早老症を引き起こす正確なメカニズムはまだわかっていない。更に、早老症の程度は、これらの症候群のなかでも様々である。今のところ、なぜいくつかの遺伝子における突然変異が他の遺伝子における突然変異より重症の早老症候群を引き起こすのかについての指摘もない。
【0026】
HGPSは、4つの異なるタイプのラミンをコードするLMNAにおいて突然変異している。突然変異は、さらなるプロセシングを受けることができる50アミノ酸の欠失をもたらす潜在的なスプライス部位を活性化する(欠失したタンパク質は、プロジェリンと称される)。ラミンは、細胞核に構造及び形状を与える核ラミナの主成分を構成し、クロマチンの組織化並びにDNAの複製、転写、及び修復にも関与する。一般的な見解は、ラミンの突然変異は、恐らく複製及び修復因子が隔離されることによってDNA損傷応答が不十分になり、DNA複製フォークの行き詰まりを引き起こし、DSBに至るというものである。更に、ラミンの欠陥は、テロメアレベルでのDNA損傷のシグナル伝達を増加させて、テロメアの長さを短くし、早期の細胞老化を引き起こすと予想される。
【0027】
ウェルナー症候群は、WRN、ATPアーゼ-ヘリカーゼ(ATPを加水分解することによってDNA二本鎖をほどくRECQヘリカーゼファミリーに属する)の突然変異と関連がある。WRNタンパク質は、DNA複製、組換え及びテロメアの維持に関与しており、その機能障害は染色体異常を引き起こす。
【0028】
ブルーム症候群及びロートムント-トムソン症候群は、それぞれRECQヘリカーゼBLM及びRECQ4における突然変異に起因する。WRNヘリカーゼの場合と同様に、RECQ4及びBLMヘリカーゼは、ゲノムの完全性を維持するのに必要であるが、これらはそれらの機能とそれらの相互作用パートナーの点で異なっている16。ブルーム症候群は、極めて高レベルの自発的な姉妹染色分体交換(SCE)によって特徴付けられる。
【0029】
ファンコニ貧血に関与する少なくとも16種の遺伝子が同定されており、それらは全て、DNA損傷、特にDSBに応答して活性化されるDNA損傷のシグナル伝達経路(FA経路)に関連する。8つのFAタンパク質は、E3ユビキチンリガーゼと共に核に局在する複合体を形成することにより、標的タンパク質におけるモノユビキチン化を触媒する。このモノユビキチン化によりプロテアソームの分解は生じないが、標的タンパク質の細胞局在性又は機能を変更する可能性がある。
【0030】
血管拡張性失調症は、DNA損傷(特にDSB)のシグナル伝達のレベル及びDNA修復メカニズムの活性化において重要なセリンスレオニンキナーゼであるATMの遺伝子における突然変異に起因する。
【0031】
全ての早老性疾患は、若年齢で生理学的老化を模擬する臨床的な特徴を提示する。これらは、それ自身数々の生理学的プロセスの機能不全によって特徴付けられる正常なヒト老化(本明細書では生理学的若しくは年齢的な老化又は生物としての老化とも称される)に関連する正常なヒト老化及び/又は機能不全のプロセスへの見識、加えて生理病理学的老化、特に本明細書で開示されたような早期老化への見識をもたらす可能性がある15
【0032】
上記で列挙された表現「若年齢で生理学的老化」に記載の「若年齢」は、生理学的老化の症状の正常な発病年齢より若い年齢、又は一般的に老化に関連する状態又は疾患の頻度の増加と一致しない年齢を意味する。
【0033】
生理学的老化又は生理病理学的老化、特に早期老化の臨床症状としては、皮膚の弾力の損失を伴う皮膚萎縮、皮膚付属器の機能不全、中枢神経系の変性、神経変性の症状、糖尿病、脂肪組織量の変化、皮膚の色素沈着過度及び減少を伴う色素の変化(多形皮膚萎縮症)、局部的な皮膚線維症、早期の白髪化又は脱毛、骨粗しょう症、及びある特定のケースにおいて年配の患者で典型的に見られる腫瘍が挙げられる13。これらの症状は、正常な個体でも高齢で出現するが、生理学的老化にも関連する。
【0034】
この状況において、発明者らの調査は、特にCSの原因論の基礎となるメカニズムに重点を置いたものであり、このメカニズムは、生理学的老化又は生理病理学的老化、特に早期老化の症状を提示する全ての疾患にも適用することができる。これらの調査は、特に、一般的に老化に関連する機能不全のミトコンドリア経路、及び特にCS細胞における欠陥を説明する可能性があるまったく新しいメカニズムに着目した。
【0035】
上記で紹介した酸化ストレスの管理に関する考察に戻れば、ミトコンドリアは、概ね酸化ストレスの産生に関与しており、CS患者は、酸化損傷に対して高度に過敏である。酸化損傷は、ミトコンドリアDNAの複製及び転写に影響を与え、その結果としてミトコンドリアの機能の低下が起こることが公知である18。大規模なデータ群から、酸化損傷は生理学的老化にも関連することが示唆される18。それゆえに、CSのような早発の老化の症候群における変更は、生理学的老化で観察された機能不全を概括することから、生理学的老化を理解するための情報を提供するものとしても検討される(Dreesen及びStewart、2011 Aging、3:889〜895; Scaffidi及びMisteli、2006 Science 312: 1059〜1063)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】OMIMエントリー216400 http://www.omim.org/entry/216400
【非特許文献2】OMIMエントリー133540 http://www.omim.org/entry/133540
【非特許文献3】Nardoら、2009 PNAS 106 (15) :620914
【非特許文献4】Dreesen及びStewart、2011 Aging、3:889〜895
【非特許文献5】Scaffidi及びMisteli、2006 Science 312: 1059〜1063
【非特許文献6】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/5428
【非特許文献7】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_001119603.1
【非特許文献8】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=NP_001119603.1
【非特許文献9】Stumpf及びCopeland、2011、Cell. Mol. Life Science 68 :219〜233
【非特許文献10】Ropp及びCopeland、1996 Genomics 36 :449〜458
【非特許文献11】http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/gene/Family?family=ENSFM00610000964734;g=ENSG00000140521;r=15:89859534-89878092
【非特許文献12】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/11232
【非特許文献13】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_009146.2
【非特許文献14】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=NP_009146.2
【非特許文献15】Youngら、2011 Human Molecular Genetics 20 (15) :3052〜3066
【非特許文献16】http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/Gene/Family/Genes?cdb=compara;db=core;family=ENSFM00250000007196;g=ENSG00000256525;r=17:62473902-62493154
【非特許文献17】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/94031
【非特許文献18】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_444272.1
【非特許文献19】Nieら、2003 Biochemical Journal 371 :39〜48
【非特許文献20】Narkiewiczら、2009 Oncology reports 21 : 1529〜1237
【非特許文献21】http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/Transcript/Summary?db=core;g=ENSG00000170801;r=4:8271492-8308838;t=ENST00000307358
【非特許文献22】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_037379.1
【非特許文献23】http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/Transcript/Summary?db=core;g=ENSG00000115317;r=2:74757117-74760459;t=ENST00000352222
【非特許文献24】Reza Roostaら、2011 Advances in Environmental Biology、5(1): 145〜153
【非特許文献25】http://www.bioinformatics.nl/cgi-bin/primer3plus.cgi
【非特許文献26】Setzerら、2008. American J. Pathology 172:681〜90
【非特許文献27】Armstrongら、2010. Stem Cells 28:661〜673
【非特許文献28】Nieら、2006 Biology of reproduction 74: 366〜374
【非特許文献29】Linら、2006、Nature 443: 787〜95
【非特許文献30】Nedianiら、2011 Antioxidants & Redox signaling 14 (2) 289〜331
【非特許文献31】Takahashi, 2012 J. of Reproduction and Development 58 (1) :1〜9
【非特許文献32】Taverneら、2012 J.Appl. Physiol 112 : 1644〜1652
【非特許文献33】Cui, H.、Kong, Y.及びZhang, H. Oxidative stress, mitochondrial dysfunction, and aging. Journal of signal transduction 2012、646354、doi: 10.1155/2012/646354 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化、又は早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、若しくは神経変性障害若しくは関連する症状の診断若しくは処置の症状のより優れた診断及び処置への道を切り開く新しい要素の発見に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0038】
それゆえに本発明は、生理学的老化若しくは生理学的老化に関連する生理病理学的な状態、又は生理病理学的老化若しくは関連する症状若しくは状態、特に早期老化若しくは促進老化、若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状に罹りやすい対象から取り出された生体サンプル中の、mtDNA複製の機能不全(欠陥のあるmtDNA複製、又はそれとは異なり、mtDNA複製の機能障害又はmtDNA複製装置及び/又は機構の機能不全ともいわれる)を調査するためのインビトロの方法であって、
a.前記生体サンプルを、POLG1タンパク質、POLG1のRNA、POLG2タンパク質、POLGを標的とするプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質、及びHTRA3のRNA、HTRA2のRNA又はこれらの種のあらゆる組合せの群において選択される少なくとも1つの種に特異的な少なくとも1つのマーカーと、前記マーカーがそれらそれぞれの標的(特に、種)と反応できる条件で接触させる工程、並びに
b.工程a)においてその(それらの)それぞれの種と反応したマーカーの測定を介して、又は工程a)においてマーカーをその(それらの)それぞれの種と反応させた後に得られた反応生成物の測定を介して、前記生体サンプル中のPOLG1タンパク質、POLG1のRNA、POLG2タンパク質、POLGを標的とするプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質、及びHTRA3のRNA、HTRA2のRNA又はこれらの種のあらゆる組合せの群から工程a)において選択された少なくとも1つの種のレベルを決定する工程、並びに
c.工程b)において決定されたレベルを、前記工程を実行するために工程a)及びb)に記載の群において選択された各種の健康な対象で決定されたそれぞれの正常な閾値と比較する工程、並びに
d.工程c)でなされた比較から、mtDNA複製における機能不全の存在について結論付ける工程
を含む、方法に関する。
【0039】
本発明の状況において、本発明者らは、POLG実体、特にPOLG1タンパク質又はPOLG1及びPOLG2それ自身を機能不全にするような方式でPOLG実体に影響を及ぼす突然変異に起因しないにもかかわらず、機能不全のmtDNA複製は、本明細書で定義されるような発現されたPOLG実体、特に発現されたPOLG1又はPOLG1及びPOLG2の観察されたレベルと相関する可能性があることを示した。POLGに影響を及ぼす突然変異は、mtDNA枯渇症候群に関連することが実証される。しかしながら、本発明の状況において、POLG1である主要な複製酵素のレベル低下(それ以外では十分機能する)に起因するmtDNA複製の障害が明らかとなり得る。
【0040】
ミトコンドリアDNA複製は、いわゆるミトコンドリアDNAポリメラーゼガンマ(γ)ホロ酵素を含むミトコンドリア特異的なミトコンドリア複合体によって触媒され、この複合体は、単一の140kDaの触媒ユニット(核染色体の遺伝子座15q25におけるPOLG1遺伝子によってコードされる)及び固い二量体を形成する55kDaのアクセサリーサブユニット(核染色体の遺伝子座17qにおけるPOLG2遺伝子によってコードされる)からなるヘテロ三量体である。
【0041】
従って、POLG1タンパク質(配列番号1)(NCBI参照POLG1:遺伝子番号5428、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/5428、一次資料HGNC:9179、POLG1タンパク質のNCBI参照配列:NP_001119603.1、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_001119603.1)は、mtDNA複製に必要ないわゆるミトコンドリアDNAポリメラーゼガンマ(γ)の触媒サブユニットである。またPOLG1タンパク質は、文献では一般名称POLG又はPOLGAとも称される(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=NP_001119603.1で同義語の注釈を参照)。ヒトPOLG1(配列番号2)は、Stumpf及びCopeland、2011、Cell. Mol. Life Science 68 :219〜233又はRopp及びCopeland、1996 Genomics 36 :449〜458で論じられている。http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/gene/Family?family=ENSFM00610000964734;g=ENSG00000140521;r=15:89859534-89878092というページで示した通り、ヒトPOLG1に対応する数々のタンパク質転写物(スプライシングバリアント)がある。したがって、本明細書で述べられるようなPOLG1タンパク質は、データベース及び/又は文献及び/又は本明細書で開示されたような配列を有するタンパク質のネイティブ型、それに加えて、ネイティブのPOLG1タンパク質のポリペプチド配列と60%又は70%又は80%又は90%又は95%及び99%までの同一性を示すポリペプチド配列を有するそれらのアイソフォーム又はバリアントを意味する。
【0042】
POLG2タンパク質(配列番号3)(NCBI参照POLG2:遺伝子番号11232、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/11232、一次資料HGNC:9180、POLG2タンパク質のNCBI参照:NP_009146.2、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_009146.2)、又はいわゆるミトコンドリアDNAポリメラーゼサブユニットガンマ-2は、ヒトではPOLG2遺伝子によってコードされるタンパク質であり、POLGタンパク質の触媒サブユニットの処理能力を増加させるアクセサリータンパク質である。またPOLG2タンパク質は、文献では一般名称POLGBとも称される(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=NP_009146.2で同義語の注釈を参照)。ヒトPOLG2(配列番号4)は、Youngら、2011 Human Molecular Genetics 20 (15) :3052〜3066で論じられている。http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/Gene/Family/Genes?cdb=compara;db=core;family=ENSFM00250000007196;g=ENSG00000256525;r=17:62473902-62493154というページで示した通り、ヒトPOLG2に対応する数々のタンパク質転写物(スプライシングバリアント)がある。したがって、本明細書で述べられるようなPOLG2タンパク質は、データベース及び/又は文献及び/又は本明細書で開示されたような配列を有するタンパク質のネイティブ型、それに加えて、ネイティブのPOLG2タンパク質のポリペプチド配列と60%、70%又は80%又は90%又は95%及び99%までの同一性を示すポリペプチド配列を有するそれらのアイソフォーム又はバリアントを意味する。
【0043】
本明細書においてPOLG実体と言及される場合、POLG1タンパク質又はPOLG2タンパク質、又はその両方を指す。
【0044】
HTRA3タンパク質(配列番号5)(NCBI参照HTRA3:遺伝子番号94031、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/94031、一次資料HGNC:9180、HTRA3タンパク質のNCBI参照:NP_444272.1、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_444272.1)は、哺乳動物HTRAファミリーのメンバーであるセリンペプチダーゼ(又はセリンプロテアーゼ)である。ヒトHTRA3(配列番号6)及びヒトHTRA3は、Nieら、2003 Biochemical Journal 371 :39〜48又はNarkiewiczら、2009 Oncology reports 21 : 1529〜1237で論じられている。http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/Transcript/Summary?db=core;g=ENSG00000170801;r=4:8271492-8308838;t=ENST00000307358というページで示した通り、ヒトHTRA3に対応する数々のタンパク質転写物(スプライシングバリアント)がある。より詳細には、長い(L)形態及び短い(S)形態を生じるHTRA3には2つの転写物(異なるスプライシング)があり、これらはいずれも本明細書で論じられる。したがって、本明細書で述べられるようなHTRA3タンパク質は、データベース及び/又は文献及び/又は本明細書で開示されたような配列を有するタンパク質のネイティブ型、それに加えて、ネイティブのHTRA3タンパク質のポリペプチド配列と60%、70%又は80%又は90%又は95%及び99%までの同一性を示すポリペプチド配列を有するそれらのアイソフォーム又はバリアントを意味する。
【0045】
特定の実施形態において、上記に開示された工程を実行するために選択された各種のレベルが以下の通りである場合:
- 工程b)において決定されたPOLG1タンパク質のレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも10%減少している場合、及び/又は
- 工程b)において決定されたPOLG2タンパク質のレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも15%増加している場合、及び/又は
- 工程b)において決定されたHTRA3タンパク質、特にHTRA3タンパク質の長いアイソフォーム、及び/又はHTRA3のRNAのレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも2倍増加している場合、
又は上記の測定の少なくとも2つが上記の閾値を満たす場合に、本発明のmtDNA複製の機能不全の存在を調査する方法の工程d)の結論がなされる。
【0046】
「mtDNA複製の機能不全」は、アッセイされた生体サンプルの細胞においてmtDNA複製が変更されるか又は全体として障害されることを意味する。この表現は、本明細書において、欠陥のあるmtDNA複製又はmtDNA複製の機能障害の同義語として使用される。実際に、本発明者らは、mtDNA複製が機能不全のサンプルの細胞において、POLG1であるmtDNA合成に関与する酵素の量だけが、健康な対照細胞の場合より低いか又はかなり低いことを示した。更に、一つの観点では、mtDNA含量及びmtDNAの転写及び維持に関与する因子であるTFAMのレベルが概して変更され、又は他の観点では、本発明の状況において、影響を受けるのはmtDNA複製のプロセスであり、それ自身に欠陥のあるPOLG1ではないことを示す。最終的に、本発明者らは、POLGの欠陥を有する全ての試験されたCSサンプルにおいて、ミトコンドリアによるATP産生が低下し、それにより試験されたケースにおいてミトコンドリアの機能それ自身が影響を受けたことを示すことも証明した。これらの方法は、所与のアッセイされたサンプルにおいてmtDNA複製が障害されていることを実証するために使用することができる。
【0047】
「mtDNA複製の機能不全」の同義語として、表現「mtDNA複製装置及び/又は機構の機能不全」も使用することができる。実際に、POLG1は、mtDNA複製の主要な複製酵素である。POLG1が低下した場合、それは、上記で例示したように複製装置が機能不全であるということである。加えて、本発明者らは、POLG1の減少はmtDNA含量の変更をもたらす(本質的に減少させるだけでなく、増加させる)と述べている。それゆえに、本発明の範囲内でモニターされる種のレベルと、機能不全のmtDNA複製装置及び/又は機構とも相関するmtDNA複製が障害されているという事実との間に直接的な関係がある。mtDNA複製の障害は、実際に、上記で例示したような機能不全のmtDNA複製装置及び/又は機構によって証明される。
【0048】
「生体サンプル」は、生体組織又は流体、特に体内組織又は流体のサンプリングに由来するサンプルを意味しており、従って生体サンプルは、実質的に細胞で構成されており、例えば髄液、唾液、粘液、尿又は血液サンプル等の体液であるか、又はそれらに由来する細胞溶解産物を包含するか、及び/又は馴化培養培地を包含し、任意選択で組織(例えば、組織ホモジネート)、生検から誘導される。
【0049】
特定の実施形態において、アッセイされた生体サンプルは、線維芽細胞又はその培養物を含むか又は含有し、又は単離された細胞、特に線維芽細胞、又はその培養物からなる。しかしながら、他の細胞はまた、それらが培養で成長したものも同等とみなされると予想され、又はそれらは、上述したように生体サンプルから(例えば体液から)単離された細胞として使用される。
【0050】
特定の実施形態によれば、本発明のインビトロの方法は出生前試験手順で使用され、ここで試験される対象は、胎芽又は胎児である。このタイプの試験に一般的に使用されるサンプル(例えば羊膜組織)に加えて、親の材料(例えば線維芽細胞、生検細胞)を試験することも可能である。親は、CSA又はCSB突然変異に関して異型接合体であってもよく、親のPOLG/HTRA3値は対照(及びCS)とは異なっている可能性がある。これは実際に、本明細書で説明されるように本発明者らが試験した、CS表現型を有さない親のケース(CS358)に相当するようである。
【0051】
「生理病理学的老化又は関連する症状若しくは状態、特に早期老化若しくは促進老化、若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状」は、対象の年齢と臨床的に一致しない上記及びここで開示された全ての状態を意味し、特に、皮膚の弾力の損失を伴う皮膚萎縮、皮膚付属器の機能不全、中枢神経系の変性、神経変性の症状、糖尿病、脂肪組織量の変化、皮膚の色素沈着過度及び減少を伴う色素の変化(多形皮膚萎縮症)、局部的な皮膚線維症、早期の白髪化又は脱毛、骨粗しょう症、筋萎縮、体重の減少、脱毛症、後彎症、貧血、繁殖力の低下、及びある特定のケースにおいて年配の患者で典型的に見られる腫瘍、加えて眼筋麻痺、失調性ニューロパシー、炎症、小脳性運動失調、悪液質、ニューロンの損失、認知的及び運動的な体の応答の劣化のような神経変性障害に典型的な症状に至る状態を意味する。
【0052】
特定の実施形態によれば、本明細書で説明される方法及び手段は、生理学的老化を受けているか又はそれに苦しんでおり、それに関連する有害な結果を対象の健康又は対象の能力若しくは外観に有する対象に適用される。この状況において、「生理学的老化」又は「生理学的老化に関連する生理病理学的な状態」は、対象の老化に伴い、すなわち対象の年齢を考慮した場合に正常な老化を受けているヒトに対して通常なされる観察に相当する程度で出現する生理学的プロセスの劣化を意味する。更に特定の実施形態において、対象における「生理学的老化」の状況は、皮膚の弾力の損失等の毛髪及び/若しくは皮膚の損傷の症状、並びに/又はそれでもなお対象の年齢と相関する毛髪及び/若しくは皮膚の変更の観察によって決定することができる。
【0053】
別の特定の実施形態によれば、本明細書で説明される方法及び手段は、生理病理学的老化に罹りやすい対象に適用される。この状況において、「生理病理学的老化」は、観察された対象とほぼ同じ年齢であり、そのような対象と比べて健康障害又は状態を有すると診断されていない正常な対象に対して平均的になされる可能性がある観察を超えるとみなすことができる、対象において出現する生理学的プロセスの劣化を意味する。このカテゴリーは、早期老化若しくは促進老化のカテゴリー、又は早老症候群のカテゴリーに入る疾患、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状とは認められない疾患を有する対象を包含する。
【0054】
「POLG1タンパク質、POLG1のRNA、POLG2タンパク質、POLGを標的とするプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質、及びHTRA3のRNA、HTRA2のRNAの群において選択される少なくとも1つの種に特異的なマーカー」は、更に検出方法を行う場合、特に、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング、ELISA又はPCRベースの増幅方法、例えばRT-qPCR等の方法を行う場合、それぞれ、以下の種:POLG1タンパク質、POLG1のRNA、POLG2タンパク質、POLGを標的とするプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質、及びHTRA3のRNA、HTRA2のRNAの1つの定性的及び/又は定量的な存在を直接的又は間接的に具体的に解明するのに好適なマーカーを意味する。
【0055】
マーカーの特異性は、その標的と反応するが、検出可能な方式又は機能的に有効な方式でサンプルの他の化合物と反応しないその能力に関して査定される。
【0056】
例えば、DNA又はRNAに特異的に結合し、1つの末端に特異的な抗体によって認識されるリガンドを有するヌクレオチドプローブが開発されている。標的とハイブリダイズするとシグナルを放出する(したがって蛍光によって検出される)分子ビーコン(反対側の末端にフルオロフォア及びクエンチャーを有するDNA又はRNAを標的化するアンチセンスヌクレオチドプローブ)も開発されている。これらの実施形態は、本発明の範囲内で適切に使用することができるマーカーに関して上記で示された定義に包含される。
【0057】
これらに限定されないが、タンパク質、特にPOLG1、POLG2、上記で確認したようなプロテアーゼ、HTRA3、HTRA2のケースにおいて、このようなマーカーは、前記タンパク質、特にPOLG2及び/若しくはHTRA3タンパク質に特異的な抗体、又は前記タンパク質に十分特異的な数々の抗体の組合せ、並びに任意選択で上記で列挙された特異的な抗体とその(それらの)標的との複合体を明らかにするための二次抗体又は試薬(例えば色素)の1種又は複数であり得る。
【0058】
RNAの決定、特にPOLG1のRNA又はHTRA3のRNAの場合、このようなマーカーは、RNA標的(例えばPOLG1又はHTRA3のRNA)に対応するcDNAとの(塩基対形成による)ハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、又は対応する標的RNAとの直接のハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、及び任意選択で、核酸を検出するための少なくとも1つの標識又はマーカー、特にHTRA3のRNA又はcDNAマーカーを明らかにするためのリアルタイムPCR装置で検出可能な色素であり得る。特定の実施形態によれば、使用される特異的オリゴヌクレオチドプライマーの対は、標的RNAと、標的RNAをテンプレートとして使用して合成されたcDNAの両方とハイブリダイズすることが可能である。
【0059】
特定の実施形態によれば、上記で定義したようなタンパク質は、上記で定義したようなRNAと共に検出され、この目的のためにマーカーの好適な組合せを利用することができる。それゆえに、この実施形態によれば、組合せで使用されるマーカーは、それらの全ての組合せで上述した全てのものであり得る。それらは、特に、POLG1、POLG2、HTRA3、HTRA2の間で選択されるタンパク質に特異的な少なくとも1つの抗体、又はそれぞれPOLG1、POLG2、HTRA3、HTRA2に特異的な数々の抗体の組合せ、並びにHTRA3若しくはPOLG1のcDNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、並びに/若しくはHTRA3のRNA及び/若しくはPOLGのRNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、又は前記HTRA3若しくはPOLG1のcDNA若しくはRNAのそれぞれに特異的なプライマー対の組合せからなっていてもよい。
【0060】
「POLG1タンパク質に特異的なマーカー」は、POLG1タンパク質を特異的に標的化すること、更に任意選択で、特に免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング又はELISA検出方法を更に行う場合、POLG1タンパク質の定性的及び/又は定量的な存在を明らかにすることに好適なマーカーである。
【0061】
POLG1タンパク質レベルの測定のケースにおいて、このようなマーカーは、POLG1タンパク質に特異的な抗体又はPOLG1タンパク質に特異的な数々の抗体の組合せ、更に任意選択で、特に材料及び方法の章で本明細書で説明されたような、上記で列挙された特異的な抗体とその(それらの)標的との複合体を明らかにするための1種又は複数の二次抗体又は試薬であり得る。他のマーカーとしては、POLG1との結合能力又は相互作用能力を有する検出可能な分子を挙げることができる。
【0062】
「前記マーカーがそれらそれぞれの標的と反応できる条件」は、「マーカーがそのそれぞれの標的RNA及び/又はcDNAと反応できる条件」、又は「マーカーがそのそれぞれの標的タンパク質と反応できる条件」のいずれかを意味する。
【0063】
「マーカーがそのそれぞれの標的RNA及び/又はcDNAと反応できる条件」は、当業者公知の、及び/又は特に本明細書における材料及び方法の章で説明されるような市販のキットが使用される場合、製造元が提供する注意書きに記載されるような増幅方法を更に行うために、プライマーとそれらの核酸標的とのハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。
【0064】
「前記マーカーがタンパク質と反応できる条件」、特に前記マーカーがPOLG1タンパク質と反応できる条件は、特に、これらに限定されないが、当業者公知の、及び/又は特に本明細書における材料及び方法の章で説明されるような市販のキット及び/又は試薬が使用される場合、製造元が提供する注意書きに記載されるような免疫反応を起こすことができる条件を意味する。
【0065】
従って、「その(それらの)それぞれの種と反応したマーカーの測定」は、特に、上述したような、特に免疫蛍光法(IF)、ウェスタンブロット又はELISA検出方法による、タンパク質レベルの測定プロセスを指す。
【0066】
従って、「マーカーをその(それらの)それぞれの種と反応させた後に得られた反応生成物の測定」は、特に、上述したような、特にアッセイしたサンプル中に存在する前記RNAに、PCRベースの増幅方法、例えばRT-qPCRを行った後に得られた増幅産物によって反映されるようなRNAレベルの測定プロセスを指す。
【0067】
「前記生体サンプル中のPOLG1タンパク質、POLG1のRNA、POLG2タンパク質、POLGを標的とするプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質、及びHTRA3のRNA、HTRA2のRNA、又はこれらの種のあらゆる組合せの群から工程a)において選択された少なくとも1つの種のレベルを決定する工程」は、アッセイしたサンプル中の標的の種の量を示す絶対的又は相対的な値を得ることを意味し、この工程は、特に、
- アッセイしたサンプル中に存在する標的タンパク質の量を評価するために、上述したような、又は本明細書における材料及び方法の章で説明されるような免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング又はELISA検出方法を介して得られた結果(生データ又は変換データ)を解釈すること、又は
- アッセイしたサンプル中に存在する核酸に、PCRベースの増幅方法、例えばRT-qPCRを行った後に得られた結果(生データ又は変換データ)を解釈すること
のいずれかによってなされ、ここでレベルは、特に本明細書における材料及び方法の章で説明されるように、増幅の後に存在するアンプリコンの量及びPCRサイクルの量から推測される。
【0068】
特に、「POLG1タンパク質のレベルを決定する工程」は、絶対的又は相対的な値を得ることを意味し、この工程は、特に、アッセイしたサンプル中に存在するPOLG1タンパク質の量を評価するのに好適な、上述した、又は本明細書における材料及び方法の章で説明されるような免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング又はELISA検出方法を介して得られた結果(生データ又は変換データ)の解釈によってなされる。
【0069】
上記から、本明細書で開示されたような特異的な種のレベルを得るための本発明の範囲内で使用されるマーカーは、特定のマーカーとその標的との免疫学的な複合体の形成に基づくさらなる工程(例えば抗体若しくは標識された抗体又は抗体のセットが使用される場合)、及び/又は特定のマーカーと核酸標的とのハイブリダイゼーションに基づくさらなる工程(例えばプライマーが使用される場合)、それに続いて、当業界において公知の方法に係る及び/又は本明細書で開示された核酸増幅及び計数の後に必要に応じて前記レベルを直接的又は非直接的に明らかにするのに好適な手段であることが理解されると予想される。
【0070】
特定の実施形態によれば、特に、使用される検出方法が免疫蛍光法ではない場合、工程b)において決定されたPOLG1タンパク質のレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも10%減少している。
【0071】
一般的な方式において、説明された測定のために実行された方法において適切な単位の値に関して、パーセンテージが評価される。
【0072】
特定の実施形態によれば、特に、使用される検出方法が免疫蛍光染色である場合、工程b)において決定されたPOLG1タンパク質のレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも20%、又は少なくとも30%又は少なくとも40%、及び80%まで又は90%まで減少している。
【0073】
特定の実施形態によれば、特に、使用される検出方法が免疫蛍光法ではない場合、工程b)において決定されたPOLG2タンパク質のレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも15%増加している。
【0074】
特定の実施形態によれば、特に、使用される検出方法が免疫蛍光染色である場合、工程b)において決定されたPOLG2タンパク質のレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも25%、又は少なくとも35%又は少なくとも45%増加している。
【0075】
特定の実施形態によれば、特に、使用される検出方法が免疫蛍光染色ではない場合、工程b)において決定されたHTRA3タンパク質、特にHTRA3タンパク質の長いアイソフォーム、及び/又はHTRA3のRNAのレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも2倍増加している。
【0076】
正常な閾値と比べた増加のレベルは、使用される検出方法の定量化の感度に依存する可能性がある。
【0077】
特定の実施形態によれば、特に、HTRA3タンパク質のレベルを検出するのに使用される検出方法が免疫蛍光染色である場合、工程b)において決定されたHTRA3タンパク質、特にHTRA3タンパク質の長いアイソフォーム、及び/又はHTRA3のRNAのレベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも5倍、又は少なくとも10倍増加している。具体的な実施形態において、使用される検出方法が免疫蛍光染色である場合、HTRA3の前記レベルは、少なくとも50又は少なくとも60又は少なくとも70倍増加している。特定の実施形態において、本発明者らは、IFによってHTRA3のRNA(2〜160倍)及びHTRA3タンパク質(60〜3000倍)の大規模な増加を見出した。しかしながら、RNAを検出するのにRT-qPCRが使用される場合、得られた値が比較的低い可能性があるが、これは、1つのみのRNA分子を使用して複数のタンパク質が産生される可能性があるということと一致する。それゆえに、必要に応じて本明細書で開示されたような他のパラメーター(特に、種)とのあらゆる組合せでHTRA3のRNAのレベルが決定される特定の実施形態によれば、工程b)において決定されたHTRA3のRNAの前記レベルが、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも2倍増加している。
【0078】
特定の実施形態によれば、本明細書で提供される及び/又は当業者によって推測できる説明に従って結論付けるために、特に上述の閾値を満たしていれば、上記で示された全てのレベルは組み合わせて使用することができる。
【0079】
「POLGに関して健康な対象で決定された正常な閾値」は、健康な対象からの1つの生体サンプルをアッセイすることによって見出された、又はその代わりに数々の別個の健康な対象からの数々の生体サンプルをアッセイすることによって見出されたPOLGタンパク質のレベルを意味し、ここで結果得られた正常な閾値は、全てのアッセイされた健康な対象の生体サンプルのPOLGタンパク質のレベル値の数学的な平均として決定され、又はその代わりに数々の別個の健康な対象からの生体サンプルのプールをアッセイすることによって見出されたPOLGタンパク質のレベルを意味する。
【0080】
別の実施形態によれば、本発明のmtDNA複製の機能不全を調査するためのインビトロの方法はまた、他のマーカー(その結果として種)レベルの決定も包含し、ここで他のマーカーは、POLG1レベルの決定への追加のパラメーター(種)として、又はPOLG1タンパク質のレベル決定の代替物としての、POLG2タンパク質、前記マーカーが前記プロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質と反応できる条件で提供されたサンプル中のPOLG1を標的とするプロテアーゼ、又は前記マーカーがそれらそれぞれのRNA標的と反応できる条件で提供されたサンプル中のHTRA3のRNA若しくはHTRA2のRNAに特異的なマーカーである。
【0081】
このようなマーカーは、POLG2及び/若しくはHTRA3及び/若しくはHTRA2の間で選択されるタンパク質に特異的な抗体、又はPOLG2及び/若しくはHTRA3及び/若しくはHTRA2に特異的な数々の抗体の組合せ、並びに任意選択で、上記で列挙された特異的な抗体とその(それらの)標的との複合体を明らかにするための二次抗体又は試薬の1種又は複数であり得る。
【0082】
HTRA3のRNAの決定の場合、このようなマーカーは、HTRA3のcDNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、又はHTRA3のRNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、及び任意選択でHTRA3のRNA又はcDNAマーカーを明らかにするための、核酸を検出するための少なくとも1つの標識又はマーカー、特にリアルタイムPCR装置で検出可能な色素であり得る。
【0083】
特定の実施形態によれば、本発明のmtDNA複製の機能不全を調査するためのインビトロの方法は、上述の種のあらゆる組合せの決定、特にPOLG1及びPOLG2の決定の組合せ、又はPOLG1及びHTRA3の決定の組合せ、又はPOLG1、POLG2及びHTRA3の決定の組合せを包含する。
【0084】
特定の実施形態によれば、本発明のmtDNA複製の機能不全を調査するためのインビトロの方法は、上述の種のあらゆる組合せの決定、特にPOLG1及びHTRA3並びに任意選択でHTRA2の決定の組合せ、又はPOLG1、POLG2及びHTRA3並びに任意選択でHTRA2の決定の組合せを包含する。
【0085】
具体的な実施形態において、本発明の方法は、POLG1タンパク質のレベルがどうかの決定に加えて、
a.アッセイされた生体サンプルを、以下のマーカーのいずれか1つ:マーカーがPOLG2タンパク質と反応できる条件におけるPOLG2タンパク質に特異的なマーカー、マーカーがプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質と反応できる条件におけるPOLGを標的とするプロテアーゼに特異的なマーカー、マーカーがHTRA3のRNAと反応できる条件におけるHTRA3のRNAに特異的なマーカー、マーカーがHTRA2のRNAと反応できる条件におけるHTRA2のRNAに特異的なマーカー、又はこれらのマーカー及び/若しくは種のあらゆる組合せと更に接触させる工程、並びに
b.工程a)においてその(それらの)それぞれの種と反応したマーカーの測定を介して、又は工程a)においてマーカーをその(それらの)それぞれの種と反応させた後に得られた反応生成物の測定を介して、POLG2タンパク質、POLGを標的とするプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼ、例えばHTRA3タンパク質、HTRA2タンパク質、並びにHTRA3のRNA若しくはHTRA2のRNA又はこれらのマーカー及び/若しくは種のあらゆる組合せの群から工程a)において選択されたマーカーのレベルを更に決定する工程、並びに
c.工程b)において決定されたレベルを、工程b)に記載の各種の健康な対象で決定されたそれぞれの正常な閾値と比較する工程、及び
d.工程c)でなされた比較から、mtDNA複製における機能不全の存在について結論付ける工程
を含む。
【0086】
POLG2タンパク質又はHTRA3、若しくはHTRA2タンパク質のレベルは、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング又はELISA試験によって決定してもよい。HTRA3若しくはHTRA2のRNA又はPOLG転写物のレベルは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)によって決定してもよい。
【0087】
別の特定の実施形態によれば、上記の開示された工程を実行するために選択された各種のレベルが以下の通りである場合:
- 工程b)において決定されたPOLG1タンパク質のレベルが、POLG1タンパク質のレベルが免疫蛍光法によって決定されるとき、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも20%から90%まで減少している場合、及び/又は
- 工程b)において決定されたPOLG2タンパク質のレベルが、POLG2タンパク質のレベルが免疫蛍光法によって決定されるとき、工程c)で導入された正常な閾値と比べて少なくとも25%増加している場合、及び/又は
- 工程b)において決定されたHTRA3タンパク質、特にHTRA3タンパク質の長いアイソフォーム、及び/又はHTRA3のRNAのレベルが、免疫蛍光法又はリアルタイムPCR装置で検出可能な色素によってレベルが決定されるとき、工程c)で導入された正常な閾値と比べて、HTRA3タンパク質の場合少なくとも10倍及びHTRA3のRNAの場合少なくとも2倍増加している場合、又は
上記の測定の少なくとも2つが上記の閾値を満たす場合にmtDNA複製の機能不全の存在の上記工程d)の結論がなされる。
【0088】
本発明の方法の別の態様において、POLG1転写物のレベル(POLG1のRNAの同義語)も決定され、健康な対象で決定された正常な閾値と比較され、POLG1タンパク質のレベルが、特に検出に免疫蛍光法が使用される場合、正常な閾値と比べて少なくとも10%、特に少なくとも20%減少している場合、mtDNA複製の機能不全の存在の結論がなされ、POLG1転写物のレベルは、別の種と組み合わせて、又は組み合わせないで、正常な(特に非CS)細胞においてこの種で決定された正常な閾値の範囲内である。
【0089】
実際に、本発明者らは、CS患者の細胞において、POLG1タンパク質レベルとは対照的に、POLG1のRNAレベルは対照と比較して変化しないことを特に見出した。これは、POLG1タンパク質レベルにおけるバリエーションは、その不十分な発現というよりもタンパク質の分解(プロテアーゼ、特にHTRA3の作用に起因する可能性がある)に起因することを示す。
【0090】
更に、驚くべきことに、CS細胞において、POLG1タンパク質レベルが低い場合、対応するRNAレベルは正常である。それゆえに、これらの2つの種を用いた二重のチェックにより、POLG1タンパク質レベルにおけるバリエーションはPolG1遺伝子に影響を及ぼす突然変異に起因するのではなく、それが発現された後のPOLG1タンパク質の分解に起因するということにかなりの確信を持つことができる。
【0091】
結論として、本発明はまた、コケイン症候群(CS)又はその症状に罹りやすいか又はそれに罹っている対象から取り出された生体サンプルにおいて、mtDNA複製の機能不全を調査するためのインビトロの方法であって、
a.前記生体サンプルとPOLG1のRNAに特異的なマーカーとを、前記マーカーがその標的を認識して任意選択でそれと反応できる条件で接触させる工程、及び
b.前記生体サンプル中のPOLG1のRNAのレベルを決定する工程、及び
c.工程b)において決定されたレベルを、POLG1のRNAに関して健康な対象で決定された正常な閾値と比較する工程、及び
d.POLG1のRNAのレベルが、工程c)において正常細胞に対してこの種で決定された正常な閾値の範囲内である場合、工程c)でなされた比較から、mtDNA複製における機能不全の存在について結論付ける工程
を含む、方法にも関する。
【0092】
本発明の態様によれば、POLG1転写物(POLG1のRNAと同義)のレベルを明らかにするためのマーカーは、POLG1のcDNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、又はPOLG1のRNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、及び任意選択で、核酸を検出するための少なくとも1つの標識又はマーカー、特にリアルタイムPCR装置で検出可能な色素であり得る。この点において、材料及び方法の章で、好適に使用することができるこのようなマーカー又は色素の例を示す。
【0093】
POLG1のRNAに特異的なマーカーを含む上記の方法を行うことはまた、特にコケイン症候群(CS)又はその症状に罹りやすいか又はそれに罹っている対象から取り出された生体サンプルにおいて、必要に応じてmtDNA複製の機能不全を部分的に調査することを可能にする他のパラメーター(特に、種)と組み合わせて使用できるクロスチェックを行うこと、及び最終的に対象においてCSの出現を調査することも可能にする。他のパラメーターは、本明細書で開示されたタンパク質のレベルであってもよい。POLG1のRNAに特異的なマーカーを含む上記の方法は、本明細書で開示された全ての特徴に従って行ってもよい。
【0094】
本発明はまた、生理学的老化若しくは生理病理学的老化、又は促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状に罹りやすい対象の健康状態をモニター又は診断するための方法であって、前記方法は、POLG1及びその代わりに又は任意選択で本明細書で開示されたような1つ又は数々の他の種の決定を包含する、上記で開示されたような欠陥のあるmtDNA複製の決定方法を行うことを含み、更に前記方法は、
e.試験された生体サンプルが取り出された対象の健康状態について、mtDNA複製の機能不全の存在に基づき結論付ける工程
を更に含む、方法も包含する。
【0095】
特定の実施形態によれば、mtDNA複製の機能不全の存在の結論がなされる場合、該結論は、生理学的老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状の存在又はそれらの出現若しくは存在の危険があるということである。
【0096】
本発明の特定の実施形態において、アッセイされた生体サンプルは、生理学的老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状と診断されることを必要としているか及び/又は診断されている対象、及び/又は生理学的老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状の家族歴を有する対象由来である。
【0097】
上述した早老症候群は、ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS)、ウェルナー症候群(WS)、ブルーム症候群(BS)、ロートムンド-トムソン症候群(RTS)、ファンコニ貧血(FA)、血管拡張性失調症(A-T)、コケイン症候群(CS)、色素性乾皮症(XP)及び硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD)の間で選択されてもよく、神経変性障害は、アルツハイマー及びパーキンソン病の間で選択される。
【0098】
別の実施形態によれば、アッセイされた生体サンプルは、コケイン症候群(CS)の危険に関連するCSB又はCSA遺伝子に突然変異を有することがわかっている対象由来であり、特に、コケイン症候群(CS)の危険に関連するCSB又はCSA遺伝子における突然変異に関してホモ接合型であることがわかっている対象由来である。したがって、本発明は、アッセイしたサンプルに基づきミトコンドリアの機能障害の程度を明らかにすることができる。
【0099】
また本発明は、上記で定義したような生理学的老化若しくは生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状を処置するか又は遅延させるために、それを必要とする患者においてPOLGレベル(すなわち、本明細書で定義されるようなPOLG実体)を回復させる際に使用するための、POLG(すなわち、本明細書で定義されるようなPOLG実体)を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤にも関する。
【0100】
特定の実施形態によれば、また本発明は、上記で定義したような、生理学的老化若しくは生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状を処置するか又は遅延させるために、それを必要とする患者で使用するための、POLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤にも関する。
【0101】
「POLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤」は、POLG1を分解するプロテアーゼを標的とするプロテアーゼ阻害剤(システイン及びセリンプロテアーゼを標的化する全般的なプロテアソーム阻害剤、又はより特異的なセリンプロテアーゼ阻害剤)を意味する。このようなプロテアーゼ阻害剤は、POLG1を分解する、又は広範な特異性を有する、すなわちPOLG1を分解する数々のプロテアーゼに特異性を有する特定のプロテアーゼに特異的であり得る。またこのようなプロテアーゼ阻害剤も、システイン及びセリンプロテアーゼを標的化する可能性もある。
【0102】
特定の実施形態によれば、本発明のPOLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤は、本明細書で定義されるようなHTRA3タンパク質を標的化するプロテアーゼ阻害剤である。
【0103】
本発明者らによって実行された実験によれば、HTRA3タンパク質は、細胞において、例えば本明細書で開示された状態の代表的な細胞等においてPOLG1タンパク質が所定レベルに達した場合、主要な役割を有することが実際に実証された。
【0104】
また本発明者らは、CS患者においてHTRA2タンパク質のレベルが増加することも見出したことから、本発明は、特定の実施形態によれば、上記で定義したような、生理学的老化若しくは生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状を処置するか又は遅延させるために、それを必要とする患者においてPOLG1レベルを回復させる際に使用するためのHTRA2及び/又はHTRA3を標的化するプロテアーゼ阻害剤にも関する。
【0105】
ヒトHTRA2タンパク質の配列(HTRA2タンパク質のNCBI参照:NP_037379.1、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_037379.1)は、本明細書では配列番号7で提供される。ヒトHTRA2のDNA配列は、配列番号8で提供される。http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/Transcript/Summary?db=core;g=ENSG00000115317;r=2:74757117-74760459;t=ENST00000352222というページで示した通り、ヒトHTRA2に対応する数々のタンパク質転写物(スプライシングバリアント)がある。したがって、本明細書で述べられるようなHTRA2タンパク質は、データベース及び/又は文献及び/又は本明細書で開示されたような配列を有するタンパク質のネイティブ型、それに加えて、ネイティブのHTRA2タンパク質のポリペプチド配列と60%又は70%又は80%又は90%又は95%及び99%までの同一性を示すポリペプチド配列を有するそれらのアイソフォーム又はバリアントを意味する。
【0106】
別の特定の実施形態によれば、本発明のPOLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤は、本明細書で定義されるようなHTRA2タンパク質を標的化するプロテアーゼ阻害剤である。
【0107】
さらなる特定の実施形態によれば、本発明のPOLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤は、本明細書で定義されるようなHTRA3とHTRA2タンパク質の両方を標的化するプロテアーゼ阻害剤である。
【0108】
HTRA2及びHTRA3を包含するHTRAタンパク質は、エラスターゼ様又はキモトリプシン様プロテアーゼと分類される他のプロテアーゼとは異なり、トリプシン様セリンプロテアーゼである。
【0109】
それゆえに、特定の実施形態によれば、本発明の範囲内での使用に好適なプロテアーゼ阻害剤は、クニッツ型のトリプシン阻害剤のファミリーを包含するトリプシン様セリンプロテアーゼの阻害剤である。
【0110】
特定の実施形態によれば、本発明のPOLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤は、クニッツ型のトリプシン阻害剤のファミリーに属するプロテアーゼ阻害剤である。
【0111】
天然のトリプシン阻害剤は、セリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)としても公知であり、インビボでセリンプロテアーゼを阻害することによってタンパク質の活性化及び異化を制御する。トリプシン阻害剤には、4つの自然源、すなわちウシ膵臓、オボムコイド、ダイズ、及びライマメがある。全てのこれらの源は、本明細書に包含される天然のトリプシン阻害剤にとって好適な源である。
【0112】
クニッツ型のトリプシン阻害剤のファミリーの一部である分子としては、BPTI(Basic Pancreatic Trypsin Inhibitor、塩基性膵臓トリプシン阻害剤)、オボムコイド[ニワトリ卵白由来トリプシン阻害剤(II-O型又はIII-O型)とも称される]、クニッツダイズプロテアーゼ阻害剤、BBI[ボーマン-バーク(BBI)ダイズプロテアーゼ阻害剤]、LBTI、STI、Tia1、トリプシン阻害剤I-S型/II-S型が挙げられ、これらは、特定の実施形態によれば、本発明の範囲内でプロテアーゼ阻害剤として使用するのに好適であり、単独で、又はそれらの全ての組合せで取り扱われる。
【0113】
本発明の具体的な実施形態において、それを必要とする患者に投与しようとするプロテアーゼ阻害剤は、セリンプロテアーゼ阻害剤、例えばダイズトリプシン阻害剤(KSTI)である。
【0114】
「それを必要とする患者においてPOLG1レベルを回復させること」は、上記で定義したように、POLG1に関して健康な対象で決定された正常な閾値に等しいか又はそれに近いPOLG1レベル値を得ることを意味する。
【0115】
特定の実施形態によれば、生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又は上記で列挙されたその神経変性障害若しくは症状は、mtDNA複製の機能不全に関連しており、mtDNA複製の機能不全は、特に、本明細書で定義されるような本発明のmtDNA複製の機能不全を調査するための方法に従って決定される。
【0116】
特定の実施形態において、生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状は、機能的なプロテアーゼの異常な発現、特に機能的なPOLG、より詳細には機能的なPOLG1の異常な発現に関連し、異常な発現は、上記で述べたような健康な対象で決定された正常な発現値に対して定義され、前記活性値は、例えば免疫蛍光法又はウェスタンブロッティング又はELISA試験によって決定される、発現された機能的なプロテアーゼのレベルに対応する。
【0117】
「機能的なプロテアーゼ」は、健康な細胞の場合と同じ性能でその機能を発揮する能力を有するプロテアーゼを意味する。健康な細胞の場合と同じ性能で機能する能力は、目的のプロテアーゼをコードする突然変異体又はノックダウン/サイレンス若しくはノックアウト遺伝子を用いて、ウェスタンブロット(WB)又は免疫蛍光法(IF)によってPOLG1又は他のあらゆる目的のタンパク質のレベルを査定することにより生細胞で試験することができる。また機能的なPOLG1も、対応する遺伝子を配列決定すること、又は大規模なmtDNA枯渇がないこと(病理学的なPOLG1突然変異に関するケースのように)をチェックすることによっても検出することができる。このようなタンパク質抽出物における試験に関して、目的のプロテアーゼは、生化学的に単離され、インビトロで標識された基質を用いて試験されると予想され、ここでその基質の活性をモニターして、目的のプロテアーゼと接触した後のその消失をチェックすることができる。目的のプロテアーゼの単離は、数種のタンパク質、又は単離された目的のタンパク質のみを含有するサンプルの使用を包含し得る。
【0118】
特定の実施形態において、機能的なプロテアーゼの異常な発現は、予め決定された正常な発現値に対して増加している発現である(例えば、HTRA3のRNAの場合、少なくとも2倍の増加;及び/又はHTRA3タンパク質の場合、少なくとも10倍の免疫蛍光シグナル)。上述した健康な対象におけるタンパク質レベルの決定と同様に、当業者は、健康な細胞を含有するサンプル又はこのようなサンプルのプールに実行された実験からデータを回収することによって、前記予め決定された正常な発現値を決定する一般的な方法を使用することができる。
【0119】
本発明の具体的な実施形態において、それを必要とする患者に投与しようとするプロテアーゼ阻害剤は、プロテアソーム阻害剤、例えばMG132であるか、又はセリンプロテアーゼ阻害剤、例えばダイズトリプシン阻害剤(KSTI)である。
【0120】
本発明の特定の実施形態によれば、ベンジルオキシカルボニル類似体又はカルボベンゾキシ類似体のファミリーに関連するプロテアーゼ阻害剤として、プロテアソーム阻害剤が利用される。
【0121】
MG132は、そのIUPAC名:ベンジルN-[(2S)-4-メチル-1-[[(2S)-4-メチル-1-[[(2S)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル]アミノ]-1-オキソペンタン-2-イル]アミノ]-1-オキソペンタン-2-イル]カルバメートとしても公知の分子である。MG132の他の名称は、N-(ベンジルオキシカルボニル)ロイシニルロイシニルロイシナル、又はZ-Leu-Leu-Leu-al、又はカルボベンゾキシ-Leu-Leu-ロイシナルである。
【0122】
別の特定の実施形態によれば、本明細書で定義されるようなプロテアソーム阻害剤ではないプロテアーゼ阻害剤、又はより詳細には、上述したMG132を除いたプロテアーゼ阻害剤が利用される。
【0123】
より具体的な実施形態によれば、処置しようとする生理病理学的老化の状態が神経変性障害である場合、プロテアソーム阻害剤又はMG132を除いた、本明細書で定義されるようなプロテアーゼ阻害剤が利用される。
【0124】
MG132等のプロテアソーム阻害剤は、本発明に係る使用の状況で逆効果を招くとみなされる可能性があるそれらの細胞標的に毒作用を有することが実際に観察されている。
【0125】
上記で論じられたように、KSTIは、その単離及び特徴付けを説明するReza Roostaら、2011 Advances in Environmental Biology、5(1): 145〜153で開示されているように、ダイズにおける2つの主要なトリプシン阻害剤の1つである。KSTIは、特に、セリンプロテアーゼファミリーのなかでも少なくともHTRA2及びHTRA3プロテアーゼの両方を標的化することが公知である。
【0126】
本発明の特定の実施形態において、それを必要とする患者においてPOLGレベルを増加させることにおいて使用されるプロテアーゼ阻害剤は、コケイン症候群(CS)と診断されている患者に投与される。
【0127】
酸化ストレスの管理は、CSの欠陥のある細胞で変更され、CS細胞における欠陥を説明する本明細書に記載の新しいメカニズムに関与することから、本発明はまた、
a.コケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるため、及び/又は
b.HTRA2、HTRA3及びPOLG1、又はそれらの組合せの群において選択されるタンパク質のレベルを回復させて、特にコケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるため
の、それを必要とする患者における使用のための、ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物又はこのような化合物を含むか若しくはそれから本質的になる組成物にも関する。
【0128】
「ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物」は、活性酸素種(ROS)及び反応性窒素種(RNS)の一方又は好ましくは両方を捕捉することによってニトロソ酸化還元バランスに作用することを機能的に達成する化合物を意味する。このような化合物は、抗酸化剤、特にポルフィリンのコア又は部分を有する抗酸化剤であり得る。
【0129】
特定の実施形態によれば、前記「ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物」は、SODミメティック及びペルオキシニトライトスカベンジャーのカテゴリーに関する。
【0130】
別の特定の実施形態によれば、前記「ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物」は、細胞透過性のスーパーオキシドジスムターゼミメティック(ROSに対する)及びペルオキシニトライトスカベンジャー(RNSに対する)である。
【0131】
別の特定の実施形態によれば、前記「ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物」は、塩化ポルフィリン(porphyrin chloride)類似体のファミリーに関する。
【0132】
別の特定の実施形態によれば、前記「ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物」は、金属ポルフィリン、特にマンガンポルフィリンである。
【0133】
特定の実施形態によれば、ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物は、以下:
【0134】
【化1】
【0135】
並びに(I)及び(II)の混合物、又はそれらの類似体の間で選択される。
【0136】
「HTRA2、HTRA3及びPOLG、又はそれらの組合せの群において選択されるタンパク質のレベルを回復させること」は、上記で定義したように、更に実施例でも例示されるように、HTRA2及び/又はHTRA3及び/又はPOLG(すなわち、本明細書で定義されるようなPOLG実体)に関して健康な対象で決定された正常な閾値のそれぞれ又は組合せに等しいか又はそれに近い、HTRA2及び/又はHTRA3及び/又はPOLG(すなわち、本明細書で定義されるようなPOLG実体)のレベル値を、単独で、又はこれらの種の全ての組合せで得ることを意味する。
【0137】
上記の式(I)及び(II)によって例示される本発明の特定の実施形態に係るニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物は、文献ではMnTBAPという一般名称で公知である。
【0138】
この本発明の実施形態によれば、更に本明細書で開示されるように、MnTBAPは、分子式C48H28ClMnN4O8を有し、IUPAC名クロロ[4,4',4'',4'''-(5,10,15,20-ポルフィリンテトライル-κ2N21,N23)テトラベンゾアト(2-)]マンガン若しくは分類名クロロ[4,4',4'',4'''-(5,10,15,20-ポルフィリンテトライル-κ2N21,N23)テトラベンゾアト(2-)]マンガン又は塩化マンガン(3+)5,10,15,20-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィン-21,23-ジイド(1:1:1)に対応する化合物、又は名称Mn(III)メソ-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィンクロリド若しくはマンガン(III)-テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリン若しくはMn(III)テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリン、若しくはマンガン[III]テトラキス(5、10、15、20安息香酸)ポルフィリン、若しくはマンガン(III)テトラキス(4-安息香酸)塩化ポルフィリン若しくは使用される名称に適用される学術名に応じたそれらの均等物のいずれか1つを包含する。
【0139】
MnTBAPは、その塩の形態(II)で、又は複合体(I)として、又はそれらの混合物として見出される可能性がある。市販のMnTBAP調製物があるが、これは、MnTBAPを所定量のMn非含有のリガンドと共に含有する場合がある。このような調製物も、本発明を実行するのに好適である。
【0140】
(I)又は(II)の類似体としては、MnTBAPに関するマンガンポルフィリン、例えば、Mn[III]テトラ(4-ピリジル)ポルフィリン(MnTyP)を挙げることができる。類似体としては更に、銅含有ポルフィリン、例えば(3,5-ジイソプロピルサリチル酸)2銅(II)(CuDIPS)及びその誘導体を挙げることができる。
【0141】
別の特定の実施形態によれば、好適な「ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物」は、MNTEPyP及びその類似体、又はMNTMPyP及びその類似体である。
【0142】
「ニトロソ酸化還元ストレス」は、ニトロソ酸化還元バランスの変更を意味する。ニトロソ酸化還元バランスは、酸化窒素(NO)と活性酸素種(ROS)産生との相互作用からなる。ニトロソ酸化還元バランスは、生物において関連するシグナル伝達機能を有し、その機能障害は、機能不全を引き起こす可能性がある。
【0143】
特定の実施形態によれば、本発明の開示に係るニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物は、コケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるため、及び/又はHTRA2、HTRA3及びPOLG、又はそれらの組合せの群において選択されるタンパク質のレベルを回復させて、特にコケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるために使用され、ここでコケイン症候群(CS)又はその症状は、mtDNA複製の機能不全、特に本明細書で定義されるような本発明のmtDNA複製の機能不全を調査するための方法に従って決定されるmtDNA複製の機能不全に関連する。
【0144】
特定の実施形態によれば、本発明の開示に係るニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物は、HTRA2、HTRA3及びPOLG、又はそれらの組合せの群において選択されるタンパク質のレベルを回復させて、コケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるために使用される。
【0145】
特定の実施形態において、コケイン症候群(CS)又はその症状は、機能的なプロテアーゼの異常な発現、特に機能的なPOLG、より詳細には機能的なPOLG1の異常な発現に関連し、ここで異常な発現は、上記で述べたような健康な対象で決定された正常な発現値に対して定義され、前記活性値は、例えば免疫蛍光法又はウェスタンブロッティング又はELISA試験によって決定される、発現された機能的なプロテアーゼのレベルに対応する。「機能的なプロテアーゼ」及び「機能的なプロテアーゼの異常な発現」の定義は、上記で示される定義と同じである。
【0146】
本発明の特定の実施形態によれば、それを必要とする患者においてPOLG1レベルを増加させるため、及び/又は上記で定義したような生理学的老化若しくは生理病理学的老化、又はその神経変性障害若しくは症状を処置するか又は遅延させるための、POLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤の使用は、本明細書で説明される実施形態のいずれか1つに従ってこれまでmtDNA複製の機能不全を調査するための方法に供された個体に行われる。
【0147】
特定の実施形態によれば、コケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるため、及び/又はHTRA2、HTRA3及びPOLG、又はそれらの組合せの群において選択されるタンパク質のレベルを回復させるための本発明の開示に係るニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物の使用は、本明細書で説明される実施形態のいずれか1つに従ってこれまでmtDNA複製の機能不全を調査するための方法に供された個体に行われる。
【0148】
本発明の別の目的は、
a.生理学的老化若しくは生理病理学的老化、特に早期老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状を処置するか又は遅延させるため、及び/又は
b.HTRA2、HTRA3及びPOLG、又はそれらの組合せの群において選択されるタンパク質のレベルを回復させて、特にコケイン症候群(CS)又はその症状を処置するか又は遅延させるため
に、それを必要とする患者において、本明細書で定義されるようなPOLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤を、本明細書で定義されるようなニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物と組み合わせて使用すること、又は本明細書で定義されるようなニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物を、本明細書で定義されるようなPOLG1を分解するプロテアーゼと相互作用するプロテアーゼ阻害剤と組み合わせて使用することである。
【0149】
特定の実施形態によれば、前記プロテアーゼ阻害剤及びニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物の組合せでの投与は、それを必要とする患者に、同時になされるか、別々になされるか、又はプロテアーゼ阻害剤がニトロソ酸化還元ストレススカベンジャーの前又は後に投与される逐次的なレジメンでなされてもよい。
【0150】
細胞又は患者のいずれかに活性な化合物が投与される場合、適切な投薬レジメンは、当業者によって決定されてもよい。特に、患者に投与される用量は、作用を損なうことなく細胞に投与される用量と比べて著しく減少させることがよくある。
【0151】
また本発明は、本発明の方法を実行するのに好適なキットであって、
- HTRA3及び/若しくはPOLGのcDNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、並びに/又はHTRA3のRNA及び/若しくはPOLGのRNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、並びに任意選択で、以下の試薬の1種又は複数、
- ヌクレオチド(例えばdATP、dCTP、dGTP、dUTP)、
- 逆転写酵素、
- DNAポリメラーゼ、特に熱安定性DNAポリメラーゼ、例えばTaq DNAポリメラーゼ、
- 核酸を検出するための少なくとも1つの標識又はマーカー、特にリアルタイムPCR装置で検出可能な色素、
- 任意選択で、緩衝溶液、
- 任意選択で、プライマーがそれらの標的にハイブリダイゼーションするのに必要な試薬、
- 任意選択で、参照標識又はマーカー、並びに
- 使用説明と結果の解釈のための期待値を示す注意書き
を含む、キットにも関する。
【0152】
別の態様において、本発明のキット、すなわち本発明の方法を実行するのに好適なキットは、
- POLG1、POLG2、HTRA3、HTRA2の間で選択されるタンパク質に特異的な少なくとも1種の抗体、又はPOLG1、POLG2、HTRA3、HTRA2に特異的な数々の抗体の組合せ、並びに任意選択で、HTRA3及び/若しくはPOLG1のcDNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、並びに/又はHTRA3のRNA及び/若しくはPOLG1のRNAとのハイブリダイゼーションに特異的な特異的オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つの対、並びに任意選択で、以下の試薬の1種又は複数、
- 上記で列挙された特異的な抗体とその(それらの)標的との複合体を明らかにするための二次抗体又は試薬、
- 任意選択で、緩衝溶液、
- 任意選択で、アッセイプレート、並びに
- 使用説明と結果の解釈のための期待値を示す注意書き
を含む。
【0153】
また本発明は、mtDNA複製の機能不全を調査するため、及び/又は生理学的老化若しくは促進老化若しくは早老症候群、例えばコケイン症候群(CS)、又はその神経変性障害若しくは症状に罹りやすい対象の健康状態をモニター又は診断するための、上記で定義したようなキットの使用にも関する。
【0154】
本発明に係るキットで使用するのに好適な試薬の例は、本明細書における材料及び方法の章でも説明される。
【0155】
本発明の別の態様は、細胞中のPOLG1レベルを回復させることが可能なプロテアーゼ阻害剤を同定するためにプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングするため、及び/又は細胞中のPOLG1レベルを回復させることが可能なニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物を同定するためにニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物をスクリーニングするためのインビトロの方法であって、
i.POLG1のレベルが健康な対象に特徴的な細胞で決定された正常な閾値と比べて少なくとも10%、特に少なくとも20%減少した細胞又は細胞培養物、特に線維芽細胞又はそれらの培養物を、POLG1を特異的に認識するマーカーと接触させる工程、
ii.前記細胞を、プロテアーゼ阻害剤及び/又はニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物と接触させてアッセイする工程であって、工程i.及びii.は逆でもよい、工程、
iii.特性の変化、特に工程i.及びii.で接触させた細胞のPOLG1のレベルを測定及び/又は可視化する工程、並びに
iv.任意選択で、特性の変化、特に工程i)及びii)で接触させた細胞のPOLG1のレベルを記録又は定量化する工程
を含む、方法である。
【0156】
「ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物」の定義は、上記で示される。このような化合物の機能的な達成も本明細書で開示されている。ニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物は、本明細書で開示されるように、ROS及び/又はペルオキシニトライト[又は窒素酸化分子(nitro-oxidative molecule)]スカベンジャーであり得る。このようなニトロソ酸化還元ストレススカベンジャー化合物の細胞への投与は、最終的に前記細胞においてROSレベルを低下させる可能性がある。
【0157】
上記の工程iii)で述べられた特性の変化は、本発明の開示にも記載される。
【0158】
ここで、以下の図面、材料及び方法の章、並びに実験の章を参照して、本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0159】
図1】CS患者からの細胞におけるPOLG1レベルの減少を示す図である。(A)対照の健康な個体194人と比較した、突然変異したCSBを有し、タイプI又はタイプIIのCS又はUVSS症候群に関連する患者からの線維芽細胞におけるPOLG1のRT-qPCR;194個の値は他の健康な個体で確認された(示さず)。各番号は患者に対応しており、その下に疾患と突然変異した遺伝子が表示される。対照値=1;平均±標準偏差。異なるサンプル間で、POLG転写物において関連のある差は検出されない。(B)ヒト線維芽細胞の3次元再構築を、POLG1に関して免疫標識し(薄い灰色のスポット)、ヘキストで染色し(核、暗い灰色)、パネルBで測定した。(C)免疫蛍光法によるPOLG1の蛍光強度の定量化。3回の独立した実験からのn=30個の細胞;平均±SEM。全てのCSサンプルは、健康なサンプルと比較して有意に異なっている(p<0.001)。(D)対照、UVSS、及びCS患者からの細胞中の、POLG1及びハウスキーピング遺伝子GAPDHのウェスタンブロット。
図2】CSB遺伝子のサイレンシングが、HeLa細胞においてPOLG1レベルの安定な減少をもたらすことを示す図である。免疫蛍光法によるPOLG1の蛍光強度の定量化。CSBに関してサイレンシングした2つの独立したHeLa細胞株を使用した(「+siCSB」及び「+siCSB_1」)。空のプラスミド(siRNA配列なし)でトランスフェクトした細胞株は、斜線のカラムを用いて表示される。選択抗生物質の非存在下で細胞を21日間成長させることによって、siRNAプラスミドの損失によるサイレンシングの逆突然変異(クローン「+siCSB/Rev」及び「+siCSB_1/Rev」)を得た。3回の独立した実験からのn=30個の細胞;平均±SEM。全てのサンプルで、RT-qPCR及びウェスタンブロットによりCSBレベルを試験した。siCSB及びsiCSB_1では、それぞれ68%及び43%のサイレンシングが起こった)
図3】CS患者からの線維芽細胞におけるPOLG2のレベルの、対照と比較した増加を示す図である。(A)異なる個体からの線維芽細胞におけるPOLG2免疫蛍光の定量化。359以外のCSサンプルが、健康なサンプルと比較して有意に異なっている(p<0.001)。(B)図2で表示されるような、CSBに関してサイレンシングされたか又はサイレンシングの逆突然変異後のいずれかのHeLa細胞におけるPOLG2の免疫蛍光の定量化。対照の未処置細胞も、空のプラスミドの存在下で測定される。3回の独立した実験からのn=30個の細胞;平均±SEM。359以外のCSサンプルが、健康なサンプルと比較して有意に異なっている(p<0.001)。
図4】CSBの機能障害は、HTRA3レベルの増加を引き起こすことを示す図である。(A)異なる個体からの線維芽細胞中のHTRA3免疫蛍光の定量化。結果は対数目盛で示した;各カラム内に、3つの対照の平均と比較した増加倍率を表示する。177以外のCSサンプルが、健康なサンプルと比較して有意に異なっている(p<0.001)。(B)図2で表示されるような、CSBに関してサイレンシングされたか又は遺伝子サイレンシングの逆突然変異後のいずれかのHeLa細胞におけるHTRA3免疫蛍光の定量化。対照の未処置細胞も、空のプラスミドの存在下で測定される。3回の独立した実験からのn=30個の細胞;平均±SEM。
図5】PolG枯渇は、HtrA3過剰発現に依存する。HeLa親細胞、又は空のベクター(CTL-O)若しくはHtrA3をコードするベクターでトランスフェクトされた細胞(pBD3188の場合はHtrA3High1、及びpBD3189の場合はHtrA3High2)における(A)HtrA3及び(B)PolG1免疫蛍光の定量化。パネルAでは、各カラムの上部にHeLaと比較したHtrA3の増加倍率を示す。免疫蛍光の定量化、条件ごとに3回の独立した実験からのn=30個の細胞。
図6】HtrA2レベルは、HtrA3発現に依存しない。HeLa親細胞、又は空のベクター(CTL-O)若しくはHtrA3をコードするベクターでトランスフェクトされた細胞(pBD3188の場合はHtrA3High1、及びpBD3189の場合はHtrA3High2)におけるHtrA2免疫蛍光の定量化。免疫蛍光の定量化、条件ごとに3回の独立した実験からのn=30個の細胞。
図7】プロテアーゼ阻害剤で処置した後のCS細胞におけるPOLG1レベルの増加を示す図である。カラムは、健康な患者(198、194、及び911)、UVSS、並びにCSタイプI(539、548、及び359)及びタイプII(797、816、及び177)からの皮膚線維芽細胞におけるPOLG1の免疫蛍光を表示する。突然変異した遺伝子は、星印で表示される。各サンプルにつき、細胞は、未処置であるか(白色の)、又はエタノールで処置されるか(プロテアーゼ阻害剤を溶解させたときと同じ濃度で)、又はMG132若しくはKSTIで処置された。3回の独立した実験からのn=30個の細胞、平均±SEM。未処置細胞(黒色の星)又は未処置細胞の場合のみ健康なサンプル539、548、359、797、816、177に対応する健康な個体(灰色の星、四角)と比較して、P<0.001(***)であった。
図8a】CS細胞におけるニトロソ酸化還元ストレスの増加を示す図である。(a及びc)上のパネルは、ROSレベルを検出するためのDCF処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の着色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDCFの蛍光強度の定量化である。(b及びd)上のパネルは、ペルオキシニトライトレベルを検出するためのDHR123処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の染色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDHR123の蛍光強度の定量化である。(a)及び(b)、ヒト初代線維芽細胞;(c)及び(d)、不死化線維芽細胞及びCSBに関してサイレンシングされたHeLa細胞並びにそれらの復帰突然変異体(Table 1(表1)を参照)。スケールバー=10μm。免疫蛍光、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;t検定、198VI(初代線維芽細胞)、又はMRC-5(不死化線維芽細胞)又はHeLa(サイレンシングされた細胞株)に対して、***p≦0.001。
図8b】CS細胞におけるニトロソ酸化還元ストレスの増加を示す図である。(a及びc)上のパネルは、ROSレベルを検出するためのDCF処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の着色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDCFの蛍光強度の定量化である。(b及びd)上のパネルは、ペルオキシニトライトレベルを検出するためのDHR123処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の染色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDHR123の蛍光強度の定量化である。(a)及び(b)、ヒト初代線維芽細胞;(c)及び(d)、不死化線維芽細胞及びCSBに関してサイレンシングされたHeLa細胞並びにそれらの復帰突然変異体(Table 1(表1)を参照)。スケールバー=10μm。免疫蛍光、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;t検定、198VI(初代線維芽細胞)、又はMRC-5(不死化線維芽細胞)又はHeLa(サイレンシングされた細胞株)に対して、***p≦0.001。
図8c】CS細胞におけるニトロソ酸化還元ストレスの増加を示す図である。(a及びc)上のパネルは、ROSレベルを検出するためのDCF処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の着色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDCFの蛍光強度の定量化である。(b及びd)上のパネルは、ペルオキシニトライトレベルを検出するためのDHR123処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の染色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDHR123の蛍光強度の定量化である。(a)及び(b)、ヒト初代線維芽細胞;(c)及び(d)、不死化線維芽細胞及びCSBに関してサイレンシングされたHeLa細胞並びにそれらの復帰突然変異体(Table 1(表1)を参照)。スケールバー=10μm。免疫蛍光、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;t検定、198VI(初代線維芽細胞)、又はMRC-5(不死化線維芽細胞)又はHeLa(サイレンシングされた細胞株)に対して、***p≦0.001。
図8d】CS細胞におけるニトロソ酸化還元ストレスの増加を示す図である。(a及びc)上のパネルは、ROSレベルを検出するためのDCF処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の着色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDCFの蛍光強度の定量化である。(b及びd)上のパネルは、ペルオキシニトライトレベルを検出するためのDHR123処置細胞の3次元再構築(薄い灰色の染色)のヘキストでの対比染色である(核、濃い灰色)。下のパネルは、細胞1個当たりのDHR123の蛍光強度の定量化である。(a)及び(b)、ヒト初代線維芽細胞;(c)及び(d)、不死化線維芽細胞及びCSBに関してサイレンシングされたHeLa細胞並びにそれらの復帰突然変異体(Table 1(表1)を参照)。スケールバー=10μm。免疫蛍光、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;t検定、198VI(初代線維芽細胞)、又はMRC-5(不死化線維芽細胞)又はHeLa(サイレンシングされた細胞株)に対して、***p≦0.001。
図9a】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。細胞1個当たりのDCFの蛍光強度の定量化。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組の(pached)カラム]。
図9b】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。細胞1個当たりのDHR123の蛍光強度の定量化。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組のカラム]。
図9c】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。細胞1個当たりのHTRA2の蛍光強度の定量化。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組のカラム]。
図9d】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。細胞1個当たりのHTRA3の蛍光強度の定量化。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組のカラム]。
図9e】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。細胞1個当たりのPOLG1の蛍光強度の定量化。その下に、GAPDH及び未処置対照の198に正規化したPOLG1の免疫ブロット及びバンド強度の定量。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組のカラム]。
図9f】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。mtDNA含量のqPCR。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組のカラム]。
図9g】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。ATP合成における解糖及びOXPHOS(±オリゴマイシン)の割合。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組のカラム]。
図9h】ニトロソ酸化還元ストレスのスカベンジャーは患者の細胞において元のミトコンドリアのパラメーターを回復させることを示す図である。細胞1個当たりの総ATPレベル。免疫蛍光法、3回の独立した実験からのn=30個の細胞;免疫ブロット、ATP試験、及びqPCRについてn=3回の独立した実験。t検定、198VIに対して***p≦0.001。未処置の対照(健康な個体)198、194、及び911:白色のカラム;UVSS、CS-I、及びCS-II患者:それぞれ薄い、中程度の、及び濃い灰色のカラム。各サンプルにつき、未処置細胞は左に示され、MnTBAPで処置した細胞は右に示される[一組のカラム]。
【発明を実施するための形態】
【0160】
【表1】
【0161】
1.材料及び方法
免疫蛍光染色。スライド上で平板培養した細胞を2%PFAで固定し、0.5%Triton X-100で透過化した。スライドをブロッキング緩衝液(PBS中BSA5%)中で1時間インキュベートし、次いで一次抗体(SantaCruz Biotechnology社から購入した、又は他のあらゆる供給者より入手可能なPOLγ及びHTRA3)と共に室温で1時間インキュベートした。蛍光性の二次抗体(Invitrogen社製の、又は他のあらゆる供給元によるヤギ抗マウス及びヤギ抗ウサギAlexa(登録商標)Fluor 488、Alexa(登録商標)Fluor 555がコンジュゲートした二次抗体)を室温で1〜2時間インキュベートし、DNAを10μg/mlのヘキストで染色した。
【0162】
蛍光の定量化及び画像分析。Perkin-Elmer社のUltraview RSニプコースピニングディスク共焦点顕微鏡を使用して画像分析を実行した。IMARISソフトウェア(Bitplane社)の3D-ボリュームレンダリングを使用して全てのzスタックの3次元再構築を達成した。通常の蛍光顕微鏡も蛍光の定量化等のために使用することができ、この最後のケースでは、細胞の1部の断片のみが定量され、体積全体は定量されないと予想されるが、この定量化は比較研究にとって十分な場合がある(正常な細胞対患者の細胞)。3Dでの共焦点取得(スピニングディスクの非存在下であっても)は、体積全体及びサンプル間の差の定量化を可能にすることから、よりロバストである。
【0163】
RT-qPCR。RNAeasy Miniキット(Qiagen社)を使用してトータルRNAをHeLa細胞から単離し、DNaseI(Qiagen社)で処置し、次いでSuperscript(登録商標)III逆転写酵素(Invitrogen社)を使用して逆転写した。PowerSybr Green PCRマスターミックス(Applied Biosystems社)を使用してリアルタイム定量PCRを行い、StepOne(商標)プラスリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)を使用して色素の取り込みの速度をモニターした。各条件につき3つの生物学的な複製を使用した。StepOneプラスRT PCRソフトウェアv2.1及びMicrosoft社のエクセルによってデータを分析した。各標的の正規化(=ΔCT)のためにTBP転写レベルを使用した。発現倍率を計算するために、2-ΔΔCt方法を使用してリアルタイムPCRのCT値を分析した(Schmittgen及びLivak、2008)。Primer3Plusオンラインソフトウェア(http://www.bioinformatics.nl/cgi-bin/primer3plus.cgi)を使用して特注のプライマーを設計した。以下の表に、本発明者らが使用した特注のプライマー(配列番号9〜18)を列挙する。
【0164】
【表2】
【0165】
タンパク質抽出及びウェスタンブロット。溶解溶液(20mMトリス、18mMのNaCl、0.5%ラウリルβマルトシド、1mMのMgCl2、200mMのNa4P2O7、1mMのEGTA、20mMのNaF、2mMのNaVO4、1mMのペファブロック(Sigma社)、1mMのアプロチニン(Sigma社)、1mMのロイペプチン(Sigma社)によって細胞を溶解させた。ブラッドフォード試薬(Sigma社)でタンパク質含量を決定し、SDS-PAGEのために30μgのタンパク質をローディングした。ブロッティング後、Hybond ECLニトロセルロースフィルターを抗POLγ又は抗HTRA3抗体でプロービングした。Odyssey赤外線イメージングシステムスキャナー及びOdysseyアプリケーションソフトウェアv3.0(LI-COR Biosciences社)を使用して検出を行った。
【0166】
当業者公知の標準的な方法に従って、更に標準的なキットを使用した場合は製造元の推奨に従って、ELISA方法を行った。
【0167】
2.実験の章
A.診断
実験1(図1)
本発明者らは、免疫蛍光法及びウェスタンブロットによって測定されたPOLG1タンパク質レベルは、CS患者からの線維芽細胞(タイプI又はタイプIIのいずれかからの線維芽細胞であり、後者は最も重症の表現型を提示する)において、健康な個体及びUVSS患者からの線維芽細胞と比較して低下することを見出した(図1)。これらの個体において、mRNAレベルはそれほど異なっていない。
【0168】
実験2(図2)
複製のpEBVsiRNAプラスミド19を使用したHeLa細胞におけるCSBのサイレンシングは、CS患者で観察されたレベルに一致するレベルでpolGレベルの減少をもたらした(RT-qPCR及び免疫蛍光法によって試験した)(図2)。更に、siRNAをコードするプラスミドがないことによるサイレンシングの逆転は、元のPOLG1レベルへの回復をもたらした。これらの実験は、POLG1レベルの変更は、CSB不活性化に直接起因することを示す。
【0169】
実験3(図3)
POLG2は、POLG1の触媒サブユニットの処理能力を増加させるアクセサリータンパク質である20。本発明者らは、CSA突然変異の場合よりCSB突然変異の場合で作用が特に強いにもかかわらず、POLG2レベルは、健康な個体及びUVSSと比較して、CS患者からの細胞中で本質的に増加したことを観察した(図3A)。1つのCSのケース(患者539)において、POLG2の有意な増加はなかった。アクセサリータンパク質レベルの増加は、POLG1レベルの減少を埋め合わせて、DNAポリメラーゼ複合体の強化をもたらす可能性があるという仮説が立てられる。更に、HeLa細胞におけるCSBのサイレンシングはPOLG2のレベルの増加を引き起こし(図3B)、プラスミドの損失に関するサイレンシングの逆突然変異は、POLG2レベルの低下を引き起こすことから、POLG2レベルの増加は障害されたCSBに依存することが示される。
【0170】
実験4(図4)
通常のレベルのPOLG1転写物の存在下におけるCSBが変更された細胞(患者中で、遺伝子サイレンシングにより)におけるPOLG1レベルの低下は、翻訳が障害されているか又はタンパク質の分解が強化されるかのいずれかを示す。HTRA3(高温要求性因子A3)は、核でコードされるミトコンドリアのセリンプロテアーゼであり、これは、損傷を受けたタンパク質を分解し、発達中に場合によっては腫瘍抑制因子として機能する21。本発明者らは、CS患者からの線維芽細胞において、免疫蛍光法によって査定したところ、対照及びUVSS線維芽細胞と比較して劇的に高いHTRA3タンパク質のレベルを観察した(図4A)。更に、CBSがサイレンシングされたHeLa細胞は、HTRA3レベルを高度に増加させ、サイレンシングの逆突然変異はHTRA3レベルを大幅に減少させた(図4B)。これらのデータは、HTRA3レベルがCSBに依存することを示す。
【0171】
実験5(図5):PolGレベルはHtra3の過剰発現に依存することの実証
実験4では、HtrA3の増加とPolG1の枯渇との間に関連があることを示したが、HtrA3の増加がPolG1の枯渇を誘導したことは直接的に示されなかった。この実験は、これがそのケースであるという直接的な証拠を提供する。HeLa細胞におけるHtrA3タンパク質の過剰発現は、PolG1レベルを減少させることが示される。HtrA3の過剰発現(対数目盛)とPolG1枯渇の両方が、CS患者の細胞で検出されたレベルに匹敵するようである(図5)。またこれらのデータは、空のベクター(CTL-O)でのトランスフェクションの場合のように4倍もの増加でPolG1レベルを低下させることから、HtrA3レベルは、PolG1を枯渇させるために特に高くなければならないことも示す。
【0172】
実験6(図6):HtrA3はHtrA2レベルに影響を与えないことの実証
HtrA3は、HtrA2又はHtrA2の調節に関与するタンパク質を標的化し分解することができるセリンプロテアーゼである。本発明者らは、HtrA3を過剰発現するHeLa細胞におけるHtrA2レベルを査定し、HtrA2タンパク質の免疫蛍光は、HtrA3の数千倍の増加によって変更されなかったことを観察した(図6)。したがってHtrA2は、直接的にも間接的にもHtrA3レベルの影響を受けない。この発見は、HtrA3単独及び/又はHtrA2のレベルを低下させるための特異的なセリンプロテアーゼ阻害剤の使用にとって有意義である。
【0173】
B.治療戦略
上記で展開された理由から、早発の老化の表現型は、CS細胞及び老化に罹った細胞において酸化ストレスの管理不良に起因し、本明細書で説明されるような生理学的又は生理病理学的老化に至る可能性がある。
【0174】
前述の実験を介して、本発明者らは、CS患者からの細胞は、健康な個体及びUVSSからの細胞と比較して、核でコードされるミトコンドリアDNAポリメラーゼガンマ(POLG1)のより低いレベル(特に、免疫蛍光法によって試験した場合、例えば少なくとも20%の減少)、より高いレベルのアクセサリー因子POLG2(特に、免疫蛍光法によって試験した場合、例えば少なくとも25%の増加)、及び劇的により高いレベルのセリンプロテアーゼHTRA3(免疫蛍光法によって試験した場合、例えば少なくとも10倍の増加)によって特徴付けられることを示した。また本発明者らは、これらのタンパク質のレベルにおける変更はCSBの機能障害に関連があることも示した。
【0175】
したがって、CSBの機能障害は、Htra3レベルを直接的又は間接的に増加させ、このセリンプロテアーゼは順にPOLG1を包含するその標的を分解する。アクセサリータンパク質POLG2レベルが増加して障害されたミトコンドリアDNA複製複合体を補う可能性が高いにもかかわらず、ミトコンドリアDNAの複製は、CSBが作動しない場合に影響を受け、ミトコンドリア機能の低下を引き起こし、それによって酸化ストレスの発生が強化される。経時的に累積する増加した酸化ストレス及び影響を受けたミトコンドリア機能は、早発の老化の表現型を発生させる一因となる。
【0176】
HTRA3は、セリンプロテアーゼである。本発明者らは、プロテアーゼの阻害は、HTRA3レベルを減少させ、適正なPOLG1レベルの回復を助けるという仮説を立てた。したがって本発明者らは、2種のプロテアーゼ阻害剤、すなわち特異的なプロテアソーム阻害剤であるMG132、及び天然のセリンプロテアーゼ阻害剤であるダイズトリプシン阻害剤(KSTI)を試験した。
【0177】
実験7(図7)
MG132は、哺乳動物細胞においてユビキチンがコンジュゲートしたタンパク質の分解を低下させる有力で可逆的な細胞透過性のプロテアソーム阻害剤である。MG132は、そのアポトーシス誘導について知られており、更に特異性の理由はまだ解明されていないものの、正常細胞に対してがん細胞を特異的に標的化することでも知られている23、24。ダイズトリプシン阻害剤は、天然のセリンプロテアーゼ阻害剤である25、26。これは、クニッツダイズトリプシン阻害剤(KSTI)と称される。
【0178】
本発明者らは、健康な個体、UVSS並びにタイプI及びII(後者はより重症である)のコケイン症候群からの線維芽細胞を、プロテアーゼ阻害剤MG132(5μM)及びKSTI(100μg/ml)で5時間処置し、次いでPOLG1レベルに関して試験した。本発明者らは、MG132又はKSTIのいずれかでの処置は、健康な個体及びUVSSの線維芽細胞におけるPOLG1免疫蛍光レベルの増加をもたらしたことを見出した(図7)。2つのCSタイプIの線維芽細胞(539及び548)における有意な改変は観察されなかったが、それに対して、POLG1レベルが未処置の健康な個体のレベルを超えた場合、他のCSタイプI及びタイプIIの線維芽細胞(359、797、及び816)でいずれかの阻害剤の存在下におけるPOLG1レベルが増加したことを見出した。更に、一例において(177、CSタイプII)、MG132で処置した後に、POLGが健康な個体のレベルに増加した。患者177からの細胞におけるPOLG1レベルの限定的な増加は、これらの細胞はどちらもHTRA3レベルの増加を提示しないことを考えれば(示さず)、興味深いとみなされる。細胞177からのデータは、それらの欠陥は、ここで試験されたプロテアーゼ阻害剤によっても標的化される別のプロテアーゼに起因する可能性があることを示唆する。
【0179】
したがって、CS細胞におけるプロテアーゼ阻害剤での処置によって、少なくとも正常細胞でのレベルと同様の高さにPOLG1レベルを回復させる可能性がある。2つのケースにおいて、本発明者らはPOLG1レベルの増加を観察しなかったという事実は、追加のプロテアーゼ阻害剤を使用して他のプロテアーゼを標的化する可能性があることを示唆する。それゆえにHTRA3は、POLG1と相互作用する唯一のプロテアーゼではない可能性があり、標的としてHTRA3のみへの特異性を有するのではなく異なる特異性を有するプロテアーゼ阻害剤、特に広範な特異性を有するプロテアーゼ阻害剤によって、POLG1レベルの増加を目的とする処置が効果的になる可能性があることを示唆している。その代わりに、タンパク質がHTRA3又は他のプロテアーゼによって分解されるにあたり不良な標的になるように、POLG1基質は、他の酵素活性によって不適切に改変されたり、又はこれらの活性によって不十分に改変されたりする可能性がある。
【0180】
加えて、本発明者らは、コケイン症候群(CS)線維芽細胞における酸化ストレスの相対レベルの査定を目的とする実験も実行し、それによって前記線維芽細胞におけるプレミネントのニトロソ酸化還元の不均衡を明らかにした。
【0181】
実験8(図8)
本発明者らは、活性酸素種(ROS)を広く検出する蛍光プローブのジクロロフルオレセインジアセテート(DCFHDA)を使用して酸化ストレスの相対レベルを査定した29。本発明者らは、UVSS細胞が対照と比較して中程度(25%)のシグナル増加を提示するのに対して、全てのCS細胞はより高いレベル(1.6〜2倍)の酸化ストレスによって特徴付けられることを報告しており(図8a)、これは以前の発見に一致する30
【0182】
高いレベルのROSは酸化窒素(NO)と反応し、それによってNOをクエンチし、強力な酸化剤及びニトロ化剤であるペルオキシニトライト(ONOO-)の形成を促進させる31。ペルオキシニトライトを選択的に検出する蛍光プローブのジヒドロローダミン123(DHR123)を使用して29、本発明者らは、UVSS及びCS細胞がペルオキシニトライトを正常な線維芽細胞と比較して有意に蓄積することを観察した(図8b)。
【0183】
CSB依存性のROS及びペルオキシニトライトの蓄積がCSBがサイレンシングされた細胞及びCSB欠失細胞において確認され、加えてCSBを過剰発現する復帰突然変異体である細胞におけるCSBが有効な値の回復も確認された(図8c、d)。
【0184】
別の実験において、本発明者らは、ROS及びペルオキシニトライトの捕捉は、コケイン症候群(CS)患者からの線維芽細胞において変更されたミトコンドリアのパラメーターを救うことも示した。変更されたミトコンドリアのパラメーターは、特に、以下及び図9で例示されるような、HTRA2及び/又はHTRA3及び/又はPOLGタンパク質のレベルを意味する。
【0185】
実験9(図9)
本発明者らは、細胞1個当たりの、DCF及びDHR123のMnTBAP(Millipore社から購入)で処置する前及び後のTable 1(表1)に要約した細胞における蛍光強度[図9(a)及び(b)]、加えて細胞1個当たりのHTRA2[図9(c)]、HTRA3[図9(d)]、POLG1[図9(e)]の蛍光強度を定量化した。本発明者らはまた、Table 1(表1)に要約した細胞中のmtDNA含量及びATPレベルも評価した。
【0186】
実験10:培養における初代細胞のプロテアーゼ阻害剤KSTI及びMnTBAPに対する耐性
KSTI(セリンプロテアーゼ阻害剤)及びMnTBAP(ROS/RNSスカベンジャー)は24時間の処置によってCS表現型を救うため、本発明者らは、いずれかの薬物と共により長いインキュベート時間で培養した場合における細胞生存を査定した。本発明者らは、CS細胞に影響を及ぼすような薬物の用量:成人初代線維芽細胞IMR-90及びBJ(ATCCリポジトリより)に対して100μg/mlのKSTI及び100μMのMnTBAPを使用した。KSTIは、6日間の連続的な処置及び3日間のMnTBAPの後に細胞生存(細胞数及び細胞形状)に対して作用を示さなかった。より長いインキュベート時間及びより低い用量の薬物での生存を試験するための追加の実験が現在行われている。
【0187】
3.結論及び考察:試験されたアプローチの独創性及び実行された調査の程度
発明者らのデータは、他の疾患における早発の老化のプロセスにも、更に生理学的老化のプロセスにも関連するCS細胞における欠陥を説明するためのまったく新しいメカニズムを指摘する。発明者らのデータは、これらの細胞でDNA修復の変更が起こること、及びこれらの変更は、早発の老化の症状及び腫瘍を引き起こす可能性があることを排除しない。発明者らのデータは、CSを有する患者からの細胞は、正常な個体及びUVSS患者(これらの患者は、数々のCS患者のケースと同様にCSAに突然変異を有し、それ以外は、CSBに突然変異を有する)からの細胞と比較して、POLG1、すなわちミトコンドリアDNAを複製する核でコードされるDNAポリメラーゼの劇的な低下を提示することを示す。したがって本発明者らは、結論として、正常な個体からの細胞と比較して形状及びネットワークに明らかな改変がないにもかかわらず、mtDNAが適切に複製されず、それによってミトコンドリアが機能不全になると仮定している。このような機能不全は、本質的にミトコンドリアによって産生される酸化ストレスの増加を引き起こすと予想され、それによりCS細胞で観察された機能不全を引き起こす可能性がある。本発明者らは、この態様では、HeLa細胞においてサイレンシングされたCSBがCS細胞のように振る舞い、CSBが通常レベルに回復することにより(少なくとも)サイレンシングされていない細胞でみられるようなPOLG1の値に戻ることから、POLG1の減少はCSBの突然変異に関連することを示した。
【0188】
CS細胞におけるPOLG1レベルの減少は、触媒サブユニットを含有しないPOLG1の補因子であるPOLG2の増加に関連する。また本発明者らは、POLG1タンパク質レベルの、特に少なくとも20%の低下(ただし影響を受けないPOLG転写物のレベルではない)は、POLG1及び他のタンパク質を標的とする可能性があるセリンプロテアーゼであるHTRA3(転写物及びタンパク質)のレベルの増加(特に少なくとも10倍の増加)に起因することも示した。更に、プロテアーゼの特異的な[例えばダイズトリプシン阻害剤(KSTI)]、又は広範な(例えばMG-132)阻害剤でHTRA3を阻害することによって、本発明者らは、CS細胞(患者からの)において、加えてCSBがサイレンシングされたHeLa細胞において正常なPOLG1レベルを回復させた。
【0189】
A.診断
発明者らのデータは、コケイン症候群患者からの細胞におけるCSA及びCSBの突然変異、及びCSBのサイレンシングは、ミトコンドリアDNAポリメラーゼであるPOLG1の減少及びアクセサリー因子であるPOLG2の増加に関連することを示す。順に、POLG1の減少は、セリンプロテアーゼであるHTRA3における劇的な増加に関連する。POLG1、POLG2及びHTRA3レベルが、コケイン症候群、場合によっては一般的にその症状を上記で説明した早発の老化又は生理学的老化の事象のマーカーとして検討されると予想される。実際に、HTRA3又はPOLG1を標的化する別のプロテアーゼのレベルの増加は、このプロテアーゼの誤った調節により起こり、加齢により促進される可能性もあるが(正常な対象の場合)、POLG1レベルの減少をもたらし、順にPOLG2レベルの増加を誘導してmtDNA複製複合体の機能障害を補う。それによってmtDNA複製は障害され、ミトコンドリアは、それらの機能を十分に確保できず、ミトコンドリアによるATP産生の低下、抗酸化応答の減少、及びそれによる酸化ストレスの増加を伴う進行性の細胞器官の機能不全を引き起こし、最終的に全体的な細胞活性が変更され、それと共に老化した細胞及び生物の表現型を引き起こす。更に、文献によれば、DNA合成の間に生じたエラーを修正するポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性に影響を与えるPOLG1の突然変異も、老化の表現型と相関を有していた。またmtDNA複製の低下した効率は、変更されたレベルのPOLG1及びPOLG2の存在下の場合のように、mtDNAコピーの非効率的な精度をもたらす可能性もあることから、老化の表現型にも寄与する。
【0190】
酸化ストレスの過剰産生は全ての神経変性障害の中心的な特徴であることから、ミトコンドリアの機能不全は神経変性疾患にも関連していた(Linら、2006、Nature 443: 787〜95)。筋肉及び神経は、それらの高エネルギー要求のために、ミトコンドリアが障害されている場合、最も影響を受ける組織である。
【0191】
本発明者らは、CS患者からの細胞は、ミトコンドリアゲノムの複製に関与するミトコンドリアDNAポリメラーゼガンマ(POLG)の極めて低いレベルに関連することを見出した。健康な個体及びUVSS患者の細胞では、POLG1のレベルは変更されない。低いレベルは、タンパク質POLG1に影響するが、その転写物には影響せず、転写物はCS細胞において通常のレベルで産生される。本発明者らは、CSBのサイレンシングはPOLG1の低いレベルをもたらすことを実証し、それによってこのポリメラーゼのレベルはCSA及びCSBの機能障害と関連付けられる。
【0192】
本発明者らはまた、CS患者において、POLG1のより低いレベルは、健康な個体と比較して、関連タンパク質であるPOLG2のより高いレベルに関連することも見出した。
【0193】
更に、本発明者らは、CS細胞(患者から及びサイレンシング後)におけるPOLG1の減少したレベルは、POLG1を標的とする可能性があるセリンプロテアーゼであるHTRA3のより高いレベルに関連することを見出した。
【0194】
それゆえに、POLG1、POLG2タンパク質及びHTRA3タンパク質並びに転写レベルは、コケイン症候群の診断のための別個のマーカーとして、加えて本明細書で説明されるような一般的に老化に関連するミトコンドリアの機能不全のマーカーとして、及び神経変性障害において使用することができる。
【0195】
B.治療戦略
本明細書で提供される実験において、本発明者らは、抗プロテアーゼは低いPOLG1レベルを救うことを示した。したがって、抗プロテアーゼの投与は、CS患者にとって可能性のある療法である。ここで最長の期待寿命が約20歳であるこれらの患者に絶対的に提案される処置はないということを思い起こすことが重要である。
【0196】
遺伝子を配列決定するか、又は大規模なmtDNA枯渇(病理学的なPOLG1の突然変異のケースのような)がないかをチェックすることによって機能的なPOLG1を検出することは可能であるが、POLG1の突然変異は、子供において様々なレベルの筋肉及び神経の機能障害によって特徴付けられる重症の病理学的表現型に関連するが、早発の老化には関連しない。加えて、本発明の状況において処置を提供するために、POLG1が必ずしも機能的である必要はない。実際に、本発明の処置は、POLG1が機能的である場合、ミトコンドリアの機能だけを改善することができる。POLG1が機能的でなければ、本発明に係る処置は効率的ではないと予想される。
【0197】
本発明者らは、初代線維芽細胞をいずれかの阻害剤で処置することは、健康な個体におけるPOLG1レベルを増加させることを見出し、これは、POLG1は、実際にMG132又はKSTIによって標的化されるプロテアーゼによって分解されることを実証する。
【0198】
重要なことには、本発明者らは、POLG1レベルは、少なくとも1種のプロテアーゼ阻害剤の存在下でほとんどのCS細胞において増加しており、その結果としてPOLG1レベルを少なくとも未処置の健康な細胞と同様の高さにすることを見出した。
【0199】
したがって、コケイン症候群患者を処置するために、特に早発の老化の表現型を標的化するために、その低減がCS表現型の主要な指標であるPOLG1レベルを増加させるためにプロテアーゼ阻害剤を使用することが提唱される。
【0200】
コケイン症候群(CS)の線維芽細胞におけるROSの不均衡に関して、本発明者らは、CSA又はCSBにおいて突然変異したコケイン症候群患者からの細胞、及びCSB欠損不死化線維芽細胞(CsiAN)、加えてCSBがサイレンシングされたHeLa細胞(siCSBA及びsiCSBb)は、高いレベルのセリンプロテアーゼであるHTRA2及びHTRA3、順に低いレベルのミトコンドリアDNAポリメラーゼであるPOLGを提示することを示した。これらの変更が、CS細胞で観察されたミトコンドリアの機能障害の根底にあるようである。HTRA3及びPOLGレベルは、UVSS患者(早発の老化ではない)からのCSAで突然変異した細胞では変更されていない。何がHTRA3レベルをモジュレートするのか明らかに解明されていないが、本発明者らは、酸化ストレスを受けた組織でHTRA2の発現が増加することから類推して27、HTRA3の発現は、ストレスの存在下でも促進されると仮定している。CS細胞は、酸化ストレスを蓄積することが報告されている28。ROSレベルの変更も、ROSとNOとは関連しているため、ニトロソ酸化還元バランスに影響を与える可能性がある。ニトロソ酸化還元の不均衡は、細胞及び臓器不全において主要な役割を果たし、これは、CSの病原学の場合にも当てはまる(Nedianiら、2011 Antioxidants & Redox signaling 14 (2) 289〜331; Takahashi, 2012 J. of Reproduction and Development 58 (1) :1〜9; Taverneら、2012 J.Appl. Physiol 112 : 1644〜1652)。
【0201】
ROS及びペルオキシニトライトの捕捉は、コケイン症候群(CS)患者からの線維芽細胞において変更されたミトコンドリアのパラメーターを救うという事実に関して、本発明者らは、活性酸素種(ROS)及びペルオキシニトライトがセリンプロテアーゼの蓄積を誘導し、その結果としてPOLGの枯渇が生じる場合、ROS及びペルオキシニトライトスカベンジャーで処置したCS線維芽細胞において元のパラメーターが回復されると推測した。
【0202】
マンガン(III)テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリン(MNTBAP)は、スーパーオキシドジスムターゼを模擬し、ROS及びペルオキシニトライトを捕捉する合成金属ポルフィリンである32。MNTBAPでの24時間の処置は、対照及びUVSS線維芽細胞でDCFHDAにより測定されたROSのレベルの3分の2に減少させたことから、この分子のROSスカベンジャー作用が確認された(図9a)。重要なことに、処置は、CS細胞において80〜95%のROSの減少をもたらした。同様に、MNTBAPも、全ての対照及び患者の細胞においてDHR123により測定されたペルオキシニトライトのレベルを大いに低下させた(図9b)。
【0203】
本発明者らは、MNTBAPのROS及びペルオキシニトライトを捕捉する作用は、それまでの対照細胞におけるセリンプロテアーゼであるHTRA2のレベルの半分に低下させることができることを観察した。HTRA2の低下は、元々高いレベルのこのタンパク質を提示していたUVSS及び全てのCS細胞において、より劇的に高かった(図9c)。
【0204】
重要なことには、MNTBAPは、対照細胞ではHTRA3のレベルを増加させたが、UVSSでは低下させ、CS細胞では最も大きい程度に低下させてHTRA3の対照レベルを回復させた(図9d)。したがって、CSA/CSBが障害された細胞におけるHTRA3の過剰発現は、高いROS及びペルオキシニトライトレベルによって促進され、それに対してニトロ酸化ストレスは、CSA及びCSBが有効な線維芽細胞においてHTRA3発現を抑制する。
【0205】
MNTBAPによる窒素酸化分子の捕捉は、正常な線維芽細胞ではPOLG1レベルの増加をもたらし、UVSS及びCS細胞ではより大きい程度であったことから、患者の細胞は、POLG1の調節という状況で、ROS及びペルオキシニトライトレベルに対して特に過敏であることが示される(図9e)。更に、MNTBAPの存在下で、患者の細胞のmtDNA含量は、元の変更とは独立して対照の値と近くなる(図9f)。実際に、mtDNA含量は、元々低い含量のCS細胞で増加し、元々高い含量のCS細胞で減少する。興味深いことに、MNTABP処置は、対照の線維芽細胞においてmtDNA含量を変化させない。
【0206】
また本発明者は、CS細胞で報告されている解糖系のシフトは、MNTBAPでの24時間の処置の後に減弱し、ミトコンドリアによって産生されたATPの割合を増加させることも観察した(図9g)。UVSS及びCS細胞において、総ATPレベルはMNTABPの存在下で比較的高いままであるが、それに対して対照の線維芽細胞は、未処置細胞と比較して約75%の低減を提示する。これらのデータは、窒素酸化分子の捕捉は、ニトロソ酸化還元バランスが変更された細胞において回復作用を有するが、正常なバランスを有する細胞において主要なパラメーターを著しく変更する可能性があることを示す。
【0207】
したがって、結論として、変更されたミトコンドリアのパラメーター、特にその低減がCS表現型の主要な指標であるPOLGレベルを救うためにMnTBAPを使用すること、及び/又はコケイン症候群患者を処置するためにMnTBAPを使用することが提唱される。
【0208】
本明細書で開示された本発明者らの発見及び結論を短く要約すれば、文献のデータ30及び発明者らのデータは、CS細胞は酸化ストレスの増加を提示し、それにより酸化ストレス管理の変更を提示することを示すことに気付かされる。酸化ストレスの増加は、変更されたROSレベルをもたらし、順にニトロソ酸化還元バランスに影響を与えるが、これらの2つのパラメーターは関連しているためである(Nedianiら、2011 Antioxidants & Redox signaling 14 (2) 289〜331; Takahashi、2012 J. of Reproduction and Development 58 (1) :1〜9; Taverneら、2012 J.Appl. Physiol 112 : 1644〜1652)。また、CSBの突然変異もROSレベルの増加及びPOLG1/POLG2/HTRA3の変更をもたらす。発明者らのデータによれば、POLG1/POLG2の変更は、とりわけ変更されたミトコンドリアDNA含量及び変更されたミトコンドリアの質量、低下したミトコンドリア呼吸によって明らかにされるミトコンドリアの機能障害を誘導し、これは順により多くのROSを生成する可能性がある。更に、本発明者らは、CSBとROSレベルの調節との間に関係があると考えている。最終的には、CSBの突然変異は、ROS調節因子の発現に影響を与えることによってROSレベルを増加させる。またROSレベルも、機能不全のミトコンドリア(本発明者らが示した通りPOLG1/POLG2/HTRA3の変更に起因する)のために増加し、これは、CSBの突然変異にも依存するという事実である。これらの2つの態様の組合せは、老化の促進によって作用する不均衡なROSレベル(それによるニトロソ酸化還元レベル)をもたらす。ROSによる老化の促進は、広く容認されている文献で十分に論じられた老化のフリーラジカル及びミトコンドリアの理論の一部である18[Cui, H.、Kong, Y.及びZhang, H. Oxidative stress, mitochondrial dysfunction, and aging. Journal of signal transduction 2012、646354、doi: 10.1155/2012/646354 (2012)]。それゆえに、MnTBAPによるHTRA3分解のブロック又はROSの捕捉のいずれかが、ROSレベルの低下、それによる「正常な」状態の回復(ミトコンドリアの機能の回復)をもたらす。
【0209】
CS表現型に関する観察された及び本明細書で論じられた欠陥は、わずかな程度ではあるが正常な(生理学的な)老化中にも出現する可能性も考えられることから、本明細書で説明される処置はまた、予防的又は防止的な療法という状況でも検討される可能性がある。特定の実施形態によれば、本明細書で説明される全ての方法は、予防的又は防止的な目的で使用される。
【0210】
本発明の開示で使用される頭字語:血管拡張性失調症(A-T);塩基除去修復(BER);ブルーム症候群(BS);コケイン症候群(CS);DNAポリメラーゼガンマ(POLG1);DNAポリメラーゼサブユニットガンマ-2(POLG2);二本鎖切断修復(DSB);グローバルゲノムNER(GG-NER);ファンコニ貧血(FA);高温要求性因子A2(HTRA2);高温要求性因子A3(HTRA3);ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS);クニッツダイズトリプシン阻害剤(KSTI);マンガン(III)テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリン(MnaTBP);ミトコンドリアの転写因子A(TFAM);ヌクレオチド除去修復(NER);ロートムンド-トムソン症候群(RTS);活性酸素種(ROS);自発的な姉妹染色分体交換(SCE);転写と共役したNER(TC-NER、又はTCRとも称される);硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD);色素性乾皮症(XP);ウェルナー症候群(WS)。
【0211】
(参考文献)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図9a
図9b
図9c
図9d
図9e
図9f
図9g
図9h
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]