特許第6842841号(P6842841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842841イオン注入用マスクの形成方法及び半導体デバイス製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842841
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】イオン注入用マスクの形成方法及び半導体デバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/266 20060101AFI20210308BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 21/268 20060101ALI20210308BHJP
   B23K 26/351 20140101ALI20210308BHJP
【FI】
   H01L21/265 M
   H01L21/265 Z
   H01L21/268 Z
   B23K26/351
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-91863(P2016-91863)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-199881(P2017-199881A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年2月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】添田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉紀
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/146749(WO,A1)
【文献】 特開昭59−195822(JP,A)
【文献】 特開2007−329402(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/105601(WO,A1)
【文献】 特開昭58−031521(JP,A)
【文献】 特開2006−269522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/266
H01L 21/265
H01L 21/268
B23K 26/351
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を少なくとも含む、開口部を有するイオン注入用マスクを半導体層又は基材上に形成する方法:
(a)粒子、及び分散媒を少なくとも含有している粒子分散体を、直接に又は転写基材を介して前記半導体層又は基材の全面又は一部に適用することによって、粒子のみからなる粒子膜を形成する工程;並びに
(b)前記粒子膜の一部にレーザー照射を行って、レーザー加工により前記粒子膜の光照射された部分を除去することによって、前記開口部を形成する工程
ここで、前記粒子がシリコン粒子であり、かつ前記シリコン粒子が、ホウ素又はリンをドーパントとして含有している
【請求項2】
前記イオン注入用マスクのシート抵抗が、1012Ω/□以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子分散体が一時的バインダー形成成分を更に含有している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記一時的バインダー形成成分が、ポリマーである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記粒子の抵抗率が1×10Ωcm以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記粒子分散体のうち前記粒子の占める割合が、1重量%〜90重量%の範囲である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン注入用マスクの前記粒子膜に40keVの運動エネルギーを有するAlイオンを1×1014cm−2の数密度で入射した際に、粒子膜を通過するAlイオンが、入射したイオンの数の1%以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の方法で形成したイオン注入用マスクの開口部を通じて、前記半導体層又は基材にイオンを注入する工程を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入用マスクの形成方法及び半導体デバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のパワー半導体デバイスのほとんどは、半導体Siを用いて製造されている。Siを用いたパワー半導体デバイスにおいては、Siの材料物性に起因する性能の限界に近付いている。半導体材料として半導体SiCを用いた場合、半導体Siを大きく上回る耐電圧特性、高飽和電子移動度、高い熱伝導度を有することから、パワー半導体デバイスの性能向上や、低損失化、及びデバイス冷却機構を簡略化によるシステムの小型化が可能であるため、次世代のパワー半導体材料として有望である。
【0003】
SiCパワーデバイスの製造のためには、SiC中の所望の部分にイオンを注入しキャリアをドープすることが必要である。SiCへのイオンドープにおいては、SiCのドーパントの拡散係数が小さく、熱拡散法の適用は困難であるため、イオン注入によるドーピング法が広く用いられる。
【0004】
SiCをイオン注入により低抵抗化する工程においては、高ドーズのイオン注入を行う必要がある。しかし室温で高濃度のイオン注入を行うと、SiCのアモルファス化が起きるため、期待するデバイス性能が得られない。また、一旦アモルファス化したSiCは、熱焼成などによっても、イオン注入前と同等の結晶性をもつ同多形の構造に復元することは困難である。
【0005】
そこで、SiCへのイオン注入工程において基材を200℃以上の高温に保持することにより、イオン注入と同時に基材の結晶性の回復を図り、デバイスの電気的特性の低下を防ぐ、高温イオン注入法が知られている。
【0006】
上記の高温イオン注入法では、イオン注入を200℃以上の高温で行うため、イオン注入用マスク層として、シリコンに対するイオン注入のような室温でのイオン注入で用いられるフォトレジスト材料、例えば化学増幅型フォトレジストを利用することができない。
【0007】
したがって、上記の高温イオン注入法においては、イオン注入用マスクとして、イオン注入工程の基材温度で十分な耐熱性を有するSiO等の無機膜、例えば化学気相堆積法(CVD:Chemical Vapor Deposition)などで堆積されたSiO等の無機膜を用いることが提案されている(例えば特許文献1)。このような耐熱性のイオン注入用マスクを半導体SiC上に予めパターニングすることにより、イオン注入用マスクの開口部を通じて、半導体SiC中の所望の領域にキャリアドーピングを行うことができる。
【0008】
このような耐熱性のイオン注入用マスクのパターニングには、フォトレジストをマスクとして用いた、ウェットエッチング法、反応性イオンエッチング法(RIE)などのドライプロセスが利用される。
【0009】
上記のイオン注入用マスク形成工程及びイオン注入工程の例を、図2を用いて説明する。
【0010】
まず、SiCエピタキシャル膜(1)を有するSiC基材(2)を提供し(図2(a))、このSiCエピタキシャル膜(1)上に、CVD法等によりSiO膜(3)を堆積させる(図2(b))。次に、SiO膜(3)上に感光性レジスト(4)を製膜する(図2(c))。その後、通常のフォトリソ工程である、パターニング露光及び現像を行い、感光性レジストのパターン形成を行う(図2(d))。その後、フッ化水素酸などにより、SiO膜の除去を行い、マスクパターン開口部(12)を有する所望のSiO膜パターンを得る(図2(e))。次いで、Oアッシングにより感光性レジストの剥離を行う(図2(f))。その後、ドーパントイオンのビーム(7)を用いて、200℃以上の高温でイオン注入を行って、イオン注入領域(6)を形成し(図2(g))、そしてフッ化水素酸などを用いたウェットプロセスでSiO膜を剥離する(図2(h))。
【0011】
このイオン注入プロセスは工程数が多く、煩雑で高コストプロセスであるため、プロセスの簡略化が求められている。
【0012】
プロセスを簡略化するために、化学増幅型フォトレジストをイオン注入用マスクとして利用して、室温においてイオン注入を行う手法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0013】
また、プロセスを簡略化するために、シロキサンを含有するフォトレジストをパターニング後、焼成し形成された、シロキサン含有フォトレジスト焼成パターンをイオン注入用マスクとして利用して、400℃等の高温においてにおいてイオン注入を行う手法が提案されている(例えば特許文献3)。
【0014】
また、真空プロセスと、基材又は基板上にパターニング露光する工程を省略し、簡便にイオン注入用マスク層を形成する手法としては、イオン注入用マスク材料が溶解した溶液を、インクジェット法を用いて基板又は基材上にパターニングすることで、イオン注入用マスクパターンを得る手法が提案されている(例えば特許文献4)。
【0015】
なお、基材及びイオン注入用マスクに発生する帯電(チャージアップ)の問題を解決するために、注入イオンと逆の極性を持つ低エネルギーの2次イオンシャワーを基材表面に供給し、基材の帯電の中和を図る手法(例えば特許文献5)、イオン注入を行う際、絶縁性のイオン注入用マスクを金属膜やドープされた半導体膜などの導電性帯電防止膜で予め被覆する手法を利用する手法(例えば特許文献6)が知られている。
【0016】
また、イオン注入用マスクのイオンブロッキング層としての性能向上を目的として、密度が大きくイオン遮蔽性能の高い、チタンやモリブデンなどの金属薄膜をイオン注入用マスクとして利用する手法が提案されている(例えば特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−324585号公報
【特許文献2】特開2008−108869号公報
【特許文献3】国際公開第2013/099785号
【特許文献4】国際公開第2001/011426号
【特許文献5】特開平6−295700号公報
【特許文献6】特開平7−58053号公報
【特許文献7】特開2007−42803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に記載された、CVD法で成長したSiO膜をイオン注入用マスクとして利用する手法は、耐熱性に優れ、高温でのイオン注入が可能であるが、SiO膜の形成に煩雑なCVD法を使用するため高コストである。また、SiO膜のパターニングに煩雑なプロセスにフォトリソグラフィー法を用いるため、パターニング露光や現像工程等の煩雑なプロセスが必要であるため高コストである。
【0019】
特許文献2に記載された、化学増幅型フォトレジストをイオン注入用マスクとして利用する手法は、耐熱性が低いため、高温イオン注入プロセスを適用できない課題がある。また、パターニング露光や現像工程等の煩雑なプロセスが必要であるため高コストである。
【0020】
特許文献3に記載された、パターニングされたシロキサン含有フォトレジストをイオン注入用マスクとして利用する手法は、高い耐熱性を有するため、高温イオン注入プロセスを適用できるが、パターニング露光や現像工程、高温での焼成工程等の煩雑なプロセスが必要であるため高コストである。
【0021】
特許文献4に記載された、インクジェット法によって基材又は基板上にイオン注入用マスク層を形成する手法は、真空プロセスや、基材または基板上にパターニング露光する工程を含まないため省プロセスであるが、インクジェット法で到達可能なパターン解像度は高くても50μm〜100μmであり、SiCパワーデバイスの形成に不十分である。
【0022】
本発明では、上述のような背景を鑑みてなされたものであり、特に、高温耐熱性かつ導電性を有し、半導体基材に対して金属不純物を生じる懸念がなく、1μm級の高解像度のイオン注入用マスクパターン形成が可能で、かつ低コストで高温のイオン注入プロセスに適用できる、半導体デバイス製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題に対して、本件の発明者らは下記の本発明に想到した。
【0024】
〈1〉下記工程を少なくとも含む、開口部を有するイオン注入用マスクを半導体層又は基材上に形成する方法:
(a)粒子、及び分散媒を少なくとも含有している粒子分散体を、直接に又は転写基材を介して上記半導体層又は基材の全面又は一部に適用することによって、粒子膜を形成する工程;並びに
(b)上記粒子膜の一部に光照射を行って、上記粒子膜の光照射された部分を除去することによって、上記開口部を形成する工程。
〈2〉上記光照射がレーザー照射である、上記〈1〉項に記載の方法。
〈3〉上記イオン注入用マスクが、粒子、及び耐熱性バインダーを含有している、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の方法。
〈4〉上記イオン注入用マスクのシート抵抗が、1012Ω/□以下である、上記〈1〉〜〈3〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈5〉上記粒子分散体が耐熱性バインダー形成成分を含有している、上記〈1〉〜〈4〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈6〉上記耐熱性バインダー形成成分が、シロキサンである、上記〈5〉項に記載の方法。
〈7〉上記粒子分散体が一時的バインダー形成成分を更に含有している、上記〈1〉〜〈6〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈8〉上記一時的バインダー形成成分が、ポリマーである、上記〈7〉項に記載の方法。
〈9〉上記粒子が、導電性及び/又は半導体粒子であり、かつ/又は
上記導電性及び/又は半導体粒子の材料の抵抗率が1×10Ωcm以下である、
上記〈1〉〜〈8〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈10〉上記粒子が、シリコン粒子である、上記〈9〉項に記載の方法。
〈11〉上記シリコン粒子が、ホウ素又はリンをドーパントとして含有している、上記〈10〉項に記載の方法。
〈12〉上記粒子分散体のうち上記粒子の占める割合が、1重量%〜90重量%の範囲である、上記〈1〉〜〈11〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈13〉上記イオン注入用マスクの上記粒子膜に40keVの運動エネルギーを有するAlイオンを1×1014cm−2の数密度で入射した際に、粒子膜を通過するAlイオンが、入射したイオンの数の1%以下である、上記〈1〉〜〈12〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈14〉上記〈1〉〜〈13〉項のいずれか一項に記載の方法で形成したイオン注入用マスクの開口部を通じて、上記半導体層又は基材にイオンを注入する工程を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
イオン注入用マスクを形成する本発明の方法は、高耐熱性を有し、かつ導電性を有するイオン注入用マスク層の形成を可能にする。また特に、イオン注入用マスクを形成する本発明の方法は、光照射によってパターンを形成するので、従来法と比較して、高い生産性及び低コストでイオン注入用マスクを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明におけるイオン注入のプロセスの模式図である。
図2図2は、従来技術におけるイオン注入のプロセスの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
《イオン注入用マスク形成用分散体》
本発明のイオン注入用マスク形成用分散体は、分散媒、及び分散媒中に分散している粒子を含有している。
【0028】
〈粒子〉
イオン注入工程におけるパターン形状を安定にする観点から、本発明で用いられる粒子は、イオン注入工程における半導体層又は基材の温度を超える融点を有する材料の粒子であることが好ましい。
【0029】
したがって、例えば本発明で用いられる粒子としては、例えば400℃以上、600℃以上、800℃以上、1000℃以上、1200℃以上、1500℃以上の融点を有する材料の粒子を用いることができる。
【0030】
本発明で用いられる粒子の平均一次粒径は、500nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、20nm以下、又は5nm以下にすることができる。また、本発明で用いられる粒子の一次粒径は0.1nm以上、又は1nm以上とすることができる。
【0031】
また、本発明で用いられる粒子の平均一次粒径は、粒子の粒径に起因するパターンの歪みを低減するため、200nm以下、100nm以下、50nm以下、20nm以下、又は5nm以下とすることが好ましい。
【0032】
ここで、本発明においては、粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察によって、撮影した画像を元に直接に投影面積円相当径を計測し、集合数100以上からなる粒子群を解析することで、数平均一次粒子径として求めることができる。
【0033】
本発明で用いられる粒子としては、単一の種類の粒子を用いてもよいし、2種類以上の粒子を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
イオン注入用マスクのような絶縁体膜で覆われた半導体へ高密度イオン注入を行う場合、基材及びイオン注入用マスクに発生する帯電(チャージアップ)が問題となる。イオン注入工程中に基材及びイオン注入用マスクが帯電すると、半導体中のイオン注入がなされた領域、イオン注入用マスクなどの絶縁体、及び半導体基材の間で電位差が生じ、放電現象が生じることがある。また、帯電により発生した空間電場により、注入されるイオン密度の不均一化が発生することがある。このような原因により、絶縁体膜で覆われた半導体へ高密度イオン注入を行う場合には、半導体デバイスの性能及び歩留まりの低下を招くことが知られている。この帯電現象は、特に半導体表面がSiOをはじめとした絶縁体膜で覆われている場合に顕著である。
【0035】
したがって、イオン注入用マスクに導電性を付与し、帯電の問題の解決を図る観点からは、本発明で用いられる粒子としては、導電性及び/又は半導体材料の粒子を用いることが好ましい。
【0036】
導電性及び/又は半導体材料は、本発明の方法によってイオン注入用マスクを形成し、そしてイオン注入を行ったときに、半導体層又は基材、及びイオン注入用マスクに発生する帯電(チャージアップ)を抑制するのに十分な導電性をマスクが有するように選択することができる。
【0037】
具体的には、この導電性及び/又は半導体材料としては、例えば1×1012Ωm以下、1×10Ωm以下、1×10Ωm以下、1×10Ωm以下、1Ωm以下、1×10−3Ωm以下、又は1×10−6Ωm以下の抵抗率を有する材料を選ぶことができる。
【0038】
これらのうち、100mA級の高ビーム密度で行われる高スループットのイオン注入工程においても帯電を防止する観点からは、この導電性及び/又は半導体材料として、好ましくは1×10Ωm以下、より好ましくは1Ωm以下、さらに好ましくは1×10−3Ωm以下、特に好ましくは1×10−6Ωm以下の抵抗率を有する材料を選ぶことができる。
【0039】
また、導電性及び/又は半導体材料は、膜厚0.5μmの粒子膜で形成されたイオン注入用マスク層を得たときに、このイオン注入用マスク層のシート抵抗が、1012Ω/□以下、1011Ω/□以下、又は1010Ω/□以下であるように選択することもできる。
【0040】
本発明で用いられる粒子としては、金属、半金属、又はそれらの組合せの粒子を使用してもよい。ここで、半金属としては、ケイ素、ゲルマニウム等を挙げることができる。
【0041】
半導体層又は基材を高温に加熱してイオン注入を行う工程において、金属不純物による半導体層又は基材の汚染を防ぐために、半導体材料の粒子を用いることがさらに好ましい。
【0042】
したがって、例えば本発明で用いられる粒子は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ダイヤモンド(C)、炭化シリコン(SiC)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)などの半導体材料の粒子であってよい。
【0043】
この半導体材料の粒子、特にシリコン粒子は、不純物ドーパントによって予めドーピングされ、それによって好ましい導電性を有していてもよい。
【0044】
この場合の半導体材料の粒子、特にシリコン粒子は、13族及び15族元素のうち少なくとも一種類の元素をドーパントとして含有していてよい。すなわち、ドーパントはp型であってもn型であってもよく、例えば、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、又はそれらの組み合わせからなる群より選択されるドーパント、例えばホウ素又はリンをドーパントを含有していてよい。
【0045】
特に、シリコン粒子が、ホウ素をドーパントとして含有している場合、ホウ素がシリコン粒子に好ましい導電性を提供する一方で、イオン注入工程においては、ホウ素がシリコン粒子から半導体基材に移動しにくい点で好ましい。
【0046】
半導体粒子、特にシリコン粒子におけるドーパントの濃度は、1018atoms/cm以上、1019atoms/cm以上、又は1020atoms/cm以上であってよい。
【0047】
半導体層又は基材を高温に加熱してイオン注入を行う工程において、金属不純物による半導体層又は基材の汚染を防ぐため、半導体粒子に含まれる金属不純物の濃度がそれぞれ、100ppb以下、50ppb以下、20ppb、又は10ppb以下である半導体粒子を用いることができる。ここで、半導体が金属を構成要素として含む化合物半導体である場合、「金属不純物」は、半導体を構成する金属以外の金属を意味している。
【0048】
本発明で用いられる粒子は、イオン注入用マスクを形成できる範囲で任意の濃度で用いることができる。例えば、本発明で用いられる粒子は、分散体に対して、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、又は20重量%以上であってよい。また、本発明で用いられる粒子は、分散体に対して、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、又は30重量%以下であってよい。
【0049】
粒子の濃度を上記の濃度とすることで、印刷法でパターニングを行うために好適な粘度を有する分散体を提供することができる。また、上記の濃度範囲であれば、分散体の印刷によって、イオン注入工程において十分なイオン遮蔽能を有するイオン注入用マスクパターンを形成することができる。
【0050】
〈分散媒〉
本発明の分散体は分散媒を含有する。分散媒の種類に特に制限はないが、本発明で用いる粒子を均一に分散できる分散媒を選択することが好ましい。また、この分散媒は、分散体に含まれる随意の他の成分、例えば耐熱性バインダー形成成分を溶解させることが好ましい。
【0051】
本発明の分散体に含有される分散媒の大気圧下での沸点は、100℃〜400℃であることが好ましい。沸点が100℃以上の分散媒を選択することで、分散体の製膜時に適切な速度で分散媒が蒸発し、均一な膜が得られる。また沸点が400℃以下の分散媒を選択することで、分散体の膜の製膜後に、分散体の膜に残存する分散媒を少なくすることができるため、焼成時の膜収縮によるクラックや表面平坦性の低下を抑制することができる。
【0052】
具体的な分散媒としては、本発明で用いる粒子と反応しない有機分散媒を用いることができる。具体的にはこの分散媒は、非水系分散媒、例えばアルコール、アルカン、アルケン、アルキン、ケトン、エーテル、エステル、芳香族化合物、又は含窒素環化合物、特にイソプロピルアルコール(IPA)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テルピネオール等であってよい。また、アルコールとしては、プロピレングリコール、エチレングリコールのようなグリコール(2価アルコール)を用いることもできる。なお、本発明で用いる粒子が金属及び/又は半導体の粒子である場合、これらの粒子の酸化を抑制するために、脱水分散媒であることが好ましい。
【0053】
〈耐熱性バインダー形成成分〉
本発明の分散体は、粒子同士を結着させ、安定なイオン注入用マスクを形成することを目的として、耐熱性バインダー形成成分を更に含有してもよい。
【0054】
ここで、本発明に関して、耐熱性バインダー形成成分は、イオン注入用マスクを使用してイオン注入を行う雰囲気、例えば400℃の温度の減圧雰囲気において安定なバインダーを形成できる成分を意味している。この耐熱性バインダー形成成分は、本発明の分散体の分散媒に溶解していることが均一性に関して好ましいが、溶解せずに分散していてもよい。また、この耐熱性バインダー形成成分は、本発明の分散体の膜の乾燥及び/又は焼成の際に化学的に変化して、耐熱性バインダーを形成するものであっても、化学的には変化せずに形状のみが変化して耐熱性バインダーを形成するものであってもよい。
【0055】
このような耐熱性バインダー形成成分は、シリカ、リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム等の無機バインダーを形成する無機バインダー形成成分であっても、フッ素系ポリマー等の有機バインダーを形成する有機バインダー形成成分であってもよい。無機バインダー形成成分としては、シロキサン化合物、リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム等を挙げることができ、また有機バインダー形成成分としては、フッ素系ポリマー等を挙げることができる。
【0056】
耐熱性バインダー形成成分を用いる場合には、分散体の層を形成した後に、耐熱性バインダー形成成分の焼成を目的とした、焼成を行うことが好ましい。焼成を行うことにより、イオン注入用マスク層を構成する粒子同士を結着させ、安定なイオン注入用マスクを形成することができる。また、焼成を行うことにより、イオン注入工程における、イオン注入用マスクからの放出ガスによる、イオン注入装置内の汚染及び真空度の低下を防ぐことができる。
【0057】
なお、耐熱性バインダーが、酸等によって溶解される材料である場合、例えば耐熱性バインダー形成成分がシロキサンであり、その焼成によって耐熱性バインダーとしてのガラス質材料が形成される場合、イオン注入後にイオン注入用マスクを酸等で処理することによって、イオン注入用マスクの除去性を向上させることができる。また、耐熱性バインダーが、イオン注入よりも高い温度での加熱によって融解又は分解する材料である場合、例えば耐熱性バインダーがフッ素系ポリマーである場合、イオン注入後にイオン注入用マスクを更に加熱処理することによって、イオン注入用マスクの除去性を向上させることができる。
【0058】
〈一時的バインダー形成成分〉
本発明の分散体は、形成される分散体の膜のパターンを安定に形成することを目的として、一時的バインダー形成成分を更に含有してもよい。
【0059】
ここで、本発明に関して、一時的バインダー形成成分は、イオン注入用マスクを形成する過程において形成される粒子膜を安定に形成するためのものであり、最終的なイオン注入用マスクを形成する際に加熱等によって除去されるものである。この一時的バインダー形成成分は、本発明の分散体の分散媒に溶解していることが均一性に関して好ましいが、溶解せずに分散していてもよい。また、この一時的バインダー形成成分は、本発明の分散体の膜の乾燥の際に化学的に変化して、一時的バインダーを形成するものであっても、化学的には変化せずに形状のみが変化して一時的バインダーを形成するものであってもよい。
【0060】
このような一時的バインダー形成成分は、ポリマー等の有機バインダーを形成する有機バインダー形成成分であってよい。有機バインダー形成成分としては、エチルセルロース等のポリマーを挙げることができる。
【0061】
一時的バインダー形成成分を用いる場合には、粒子膜を安定に形成及び/又は維持するという一時的バインダーの役割が終わった後で、一時的バインダーの除去を目的とした、焼成を行うことが好ましい。一時的バインダーの除去を行うことにより、イオン注入工程において、イオン注入用マスクからの放出ガスによる、イオン注入装置内の汚染及び真空度の低下を防ぐことができる。
【0062】
《イオン注入用マスク》
本発明のイオン注入用マスクは、粒子、及び随意の耐熱性バインダーを含有している。
【0063】
本発明のイオン注入用マスクが含有している粒子及び随意の耐熱性バインダーとしては、本発明の分散体に関して説明したものを挙げることができる。
【0064】
本発明のイオン注入用マスクは、40keVの運動エネルギーを有するAlイオンを1×1014cm−2の数密度で入射した際に、分散体膜を通過するAlイオンが、入射したイオンの数の1%以下であってよい。また、本発明のイオン注入用マスクのシート抵抗は、1012Ω/□以下、1011Ω/□以下、又は1010Ω/□以下であってよい。
【0065】
《イオン注入用マスクの形成方法、及び半導体デバイスの製造方法》
イオン注入用マスクを形成する本発明の方法は、粒子分散体を、例えば塗布法によって、直接に又は転写基材を介して半導体層又は基材に適用して分散体に含有されている粒子膜を得た後、この粒子膜に対して光照射、特にレーザー照射を行って、粒子膜の一部を除去することによって、粒子膜のパターンを半導体層又は基材上に形成する工程を含む。この方法では、半導体層又は基材上に形成された粒子膜、及び/又は転写基材上に形成された粒子膜を、乾燥及び/又は焼成する工程を更に含むことができる。
【0066】
また、半導体デバイスを製造する本発明の方法は、以下の工程を含む:
イオン注入用マスクを形成する本発明の方法で半導体層又は基材上にイオン注入用マスクを形成する工程、又は本発明のイオン注入用マスクを半導体層又は基材上に提供する工程、
イオン注入用マスクのパターン開口部を通して、半導体層又は基材にイオンを注入する工程、及び
イオン注入用マスクを除去する工程。
【0067】
半導体デバイスを製造する本発明の方法の例について、図1を参照して下記で説明する。
【0068】
まず、図1(a)に示すように、SiCエピタキシャル膜(1)を有するSiC基材(2)を提供し、そして図1(b)に示すように、粒子分散体に含有される粒子で構成されている粒子膜(11)を、SiC基材のエピタキシャル膜(1)上に任意の方法で形成する。光照射(5)を粒子膜の任意の部分に行うことによって、光照射がなされた部分の粒子膜を除去して粒子膜パターニングし、イオン注入用マスクを得る。これによれば、図1(c)に示すように、SiCエピタキシャル膜(1)を有するSiC基材(2)上に、マスクパターン開口部(12)を有するイオン注入用マスクが形成される。
【0069】
その後、粒子膜を乾燥及び焼成する随意の工程の後で、図1(d)に示すように、イオン注入装置を用い、イオン注入用マスク(11)のマスクパターン開口部(12)を通して、ドーパントイオンのビーム(7)でSiC基材(2)の表面のSiCエピタキシャル膜(1)中にイオン注入を行うことによって、イオン注入領域(6)が形成される。このとき、イオン注入される半導体層又は基材を、200℃以上の温度に加熱して、イオン注入の工程を行うことができる。
【0070】
その後、図1(e)に示すように、イオン注入用マスク(11)を溶解可能な薬液への浸漬等の手段によって、除去することができる。
【0071】
〈半導体層又は基材〉
半導体層又は基材としては、ドーパントを拡散させることを意図した任意の半導体層又は基材を用いることができる。
【0072】
したがって、半導体層又は基材としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ダイヤモンド(C)、炭化シリコン(SiC)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)、特に炭化シリコン(SiC)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
また、半導体層又は基材は、単一の層で構成されていてもよいし、1つ以上の半導体層を含む2種類以上の層で構成された積層体であってもよい。
【0074】
半導体層又は基材は、不純物ドーパントが1016cm−3以下の半導体層又は基材でもよく、不純物ドーパントで1016cm−3を超える濃度に予めドープされていてもよい。
【0075】
半導体層又は基材上に、金属膜や、金属の配線パターンが予め形成されていてもよい。
【0076】
〈イオン注入用マスクの形成方法〉
イオン注入用マスクを形成する本発明の方法は、粒子分散体を、例えば塗布法によって、直接に又は転写基材を介して半導体層又は基材に適用した後、光照射を粒子膜に行うことによって分散体粒子の除去を行い、粒子膜のパターンを半導体層又は基材上に形成する工程を含む。
【0077】
〈粒子膜の形成工程〉
分散体に含有されている粒子で構成されている粒子膜を半導体層又は基材上に形成する工程は、この膜を半導体層又は基材上に形成することが可能な任意の手段で行うことができる。このような手段としては、例えば、スピンコート法、グラビアオフセットコート法、インクジェット法、スクリーンイン印刷法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷、平板オフセット印刷、平版印刷法、樹脂凸版印刷法、フレキソ印刷法、マイクロコンタクト印刷法等が挙げられる。また、このような手段としては、予め別の基材上に任意の手法で形成した作製した粒子膜を半導体基材上に転写するラミネート法等を挙げることもできる。ただし、このような手段としては、これらに限定されない任意の手法を選択できる。
【0078】
上記の手法のうち、半導体デバイスの製造を効率的に行う観点からは、粒子膜を半導体層又は基材上の任意の位置に形成できる手法を用いることが好ましい。このような手段としては、例えば、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷、平板オフセット印刷、平版印刷法、樹脂凸版印刷法、フレキソ印刷法、マイクロコンタクト印刷法等が挙げられるが、これらに限定されない任意の手法を選択できる。
【0079】
粒子膜を半導体層又は基材上の任意の位置に形成する手法によれば、光照射によって粒子膜のパターンを形成する工程において、光照射を行う面積を小さくすることができるため、半導体デバイスの製造を効率的に行うことができる利点がある。
【0080】
粒子膜に含まれる分散媒の除去を目的として、パターニングされた粒子膜又はパターニングされる前の粒子膜を有する転写基材、半導体基板、又は半導体層を加熱することができる。分散媒の加熱除去の手法としては、オーブン、ホットプレート、赤外線など任意の加熱が可能な方法を用いることができる。
【0081】
粒子分散体が耐熱性又は一時的バインダー形成材料を含有する場合には、転写基材、半導体基板、又は半導体層の加熱温度を、バインダー形成材料がバインダーを形成して、その結着性能を発揮できる温度とすることができる。
【0082】
なお、粒子分散体が耐熱性バインダー形成材料を含有する場合には、上記の耐熱性バインダー形成材料がバインダーを形成してその結着性能を発揮できる温度に半導体層又は基材を加熱する工程は、粒子膜を半導体層又は基材上に形成する工程の後に行ってもよいし、分散体粒子への光照射によるパターニング工程の後に行ってもよい。
【0083】
〈粒子膜のパターニングによるイオン注入用マスク形成工程〉
その後、光照射を粒子膜の任意の部分に行うことによって、光照射がなされた部分の粒子膜を除去する。これによれば、イオン注入用マスク形成工程は、従来のパターニングに用いられてきたに用いられてきた感光性樹脂等の取り扱いが難しい成分を含有しなくてもよく、従来のパターニングに用いられてきたフォトリソグラフィー法等、複雑で高コストなプロセスを含まなくてもよい。
【0084】
光照射を粒子膜の任意の部分に行うことにより、この膜の光照射された部分を除去することによって、半導体粒子膜をパターニングし、イオン注入用マスクを形成する。この際の光照射の手段としては、例えば、レーザー加工、フォトマスク等を通じたフラッシュランプ加工、メーザー加工等が挙げられるが、これらに限定されない任意の手法を選択できる。
【0085】
これらの手段のうち、パワー半導体の製造で用いられる高解像度のパターニングを行う観点からは、レーザー加工等の10μm以下の解像度でパターニングが可能な手法を用いることが好ましい。
【0086】
レーザー加工に用いるレーザー光源に特に制限はないが、イオン注入用マスクを構成する粒子が吸収を有する波長を放出するレーザー光源を、好適に用いることができる。分散体に含有される粒子として、例えば、シリコン粒子を用いた場合、レーザー光源の波長は、例えば、1500nm以下、1200nm以下、600nm以下、又は550nm以下であってもよく、また100nm以上、200nm以上、又は350nm以上であってもよい。
【0087】
レーザー加工に用いるレーザー光源の集光径は、10000μm以下、1000μm以下、100μm以下、50μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、2μm以下、1μm以下とすることができる。また、半導体製造プロセスの効率化の観点から異なる集光径をもつ複数のレーザー光源を組みあわせて用いることができる。
【0088】
レーザー加工に用いるレーザー光のエネルギー密度は、例えば532nmの波長のレーザー光をレーザー光源として用いる場合、1mJ/cm以上、10mJ/cm以上、50mJ/cm以上、又は100mJ/cm以上であってもよく、100J/cm以下、10J/cm以下、1J/cm以下、500mJ/cm以下、300mJ/cm以下であってもよいが、好ましくは0.1〜10J/cmの範囲とすることができる。上記の範囲内であれば、半導体層又は基材に与える損傷を最小限にして、半導体粒子等で構成されている粒子膜をパターニングし、イオン注入用マスクを形成できる利点がある。
【0089】
(イオン注入用マスクの膜厚)
イオン注入用マスクを構成する粒子膜の膜厚は、任意の厚さを選択することができる。膜厚は、分散体の組成、印刷条件、印刷方法などによって異なるが、例えば、粒子膜の膜厚が0.1μm〜100μmとなるように塗布することできる。
【0090】
パターニングされた粒子膜を、イオン注入のマスク層として利用する観点からは、イオン注入のマスク層として十分な膜厚とすることが好ましい。したがって、例えば、イオン注入時の、SiC基材の温度、イオンの加速電圧、ドーパントイオン種などのイオン注入の侵入長に影響を与える要素を勘案して、得られるイオン注入用マスクが十分なイオン阻止能を有する膜厚であるように、粒子膜の膜厚を選択することができる。
【0091】
〈一時的バインダー除去を目的とした焼成〉
粒子組成物に一時的バインダーが含まれる場合には、一時的バインダーの除去を目的として、半導体基板、又は半導体層を、一時的バインダーの除去が可能な温度に加熱することができる。
【0092】
〈イオン注入工程〉
本発明の方法では次に、イオン注入用マスクのパターン開口部を通して、半導体層又は基材にイオンを注入する。
【0093】
イオン注入用マスクは、イオン注入温度が200〜1000℃であるSiC層又は基材へのイオン注入を含む半導体デバイスの製造プロセスに好ましく適用される。イオン注入温度は、200℃以上、250℃以上、300℃以上、又は350℃以上であり、またこの温度は、1000℃以下、800℃以下、700℃以下、600℃以下、又は500℃以下である。
【0094】
半導体層又は基材がSiC層又は基材である場合、イオン注入温度が200℃より低いと、注入層が連続的な非晶質となり、高温アニールを行っても良好な再結晶化が進行せず、低抵抗層が形成できないという懸念がある。また、この場合、イオン注入温度が1000℃より高いと、SiCの熱酸化やステップバンチングが起こるため、それらの部分をイオン注入後に除去する必要が生じる。
【0095】
本発明の方法でイオン注入用マスクを形成する際の解像度は好ましくは、7μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下、特に好ましくは1μm以下である。
【0096】
〈イオン注入用マスク除去工程〉
イオン注入用マスクは、イオン注入工程後に除去される。除去法としては、フッ化水素酸、バッファードフッ酸、フッ硝酸、又はTMAHなどを用いたウェットプロセス、プラズマ処理などのドライプロセスなどが挙げられるが、これらに限定されない。低コストという観点から、ウェットプロセスが好ましい。
【実施例】
【0097】
《実施例1〜5》
以下の実施例1〜5では、分散媒及び分散媒中に分散している粒子を含有している粒子分散体を調製し、スクリーン印刷法を用いて、SiC基材上に粒子膜を形成し、加熱して分散媒を除去した後、光照射を粒子膜の一部に行うことによってイオン注入用マスクのパターンを形成した。また、これらの実施例及び比較例について、粒子膜のパターン形成の可否、イオン注入時の帯電による問題の有無、及び粒子膜のイオン遮蔽性能について評価した。
【0098】
〈実施例1〉
(ホウ素(B)ドープシリコン粒子の作製)
シリコンナノ粒子は、モノシランガスを原料として、二酸化炭素レーザーを用いたレーザー熱分解(LP:Laser pyrolysis)法により作製した。このとき、モノシランガスと共に、ジボラン(B)ガスを導入して、ホウ素ドープシリコン粒子を得た。得られたホウ素ドープシリコン粒子のドーピング濃度は1×1021atom/cmであった。また、得られたホウ素ドープシリコン粒子の金属不純物含有量を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)を用いて測定したところ、Feの含有量は15ppb、Cuの含有量は18ppb、Niの含有量は10ppb、Crの含有量は21ppb、Coの含有量は13ppb、Naの含有量は20ppb、及びCaの含有量は10ppbであった。
【0099】
(ホウ素ドープシリコン粒子含有分散体の調製)
プロピレングリコール90重量%と、上記手法で作製したシリコンナノ粒子10重量%とを混合することにより、ホウ素ドープシリコン粒子含有分散体を調製した。
【0100】
(ホウ素ドープシリコン粒子膜の形成)
SiC基材上に、上記ホウ素ドープシリコン粒子含有分散体をスクリーン印刷法によって印刷することにより、1.5μmの厚さを有する、ホウ素ドープシリコン粒子膜を得た。
【0101】
そして600℃で焼成することにより、ホウ素ドープシリコン粒子膜に残留した分散媒の除去を行った。
【0102】
(ホウ素ドープシリコン粒子膜パターンの形成)
光照射の光源として、波長532nmであり、4.0J/cmのエネルギー密度を有し、パルス幅が100nsのレーザー光を、ホウ素ドープシリコン粒子膜に照射することにより、この膜のレーザー照射された部分を除去して、ホウ素ドープシリコン粒子膜のパターンを得た。
【0103】
(光学顕微鏡による観察)
イオン注入用マスクパターンを、光学顕微鏡を用いて観察し、5μmラインアンドスペースのパターン形成の可否を確認した。
【0104】
(イオン注入)
下記の条件で、イオン注入用マスクのマスクパターン開口部を通してSiC基材にイオン注入を行った:
イオン種:Al、
エネルギー量:40keV、
注入温度:400℃、
ドーズ量:1×1014Ions/cm
【0105】
Alイオン注入後、基材をバッファードフッ酸と濃硝酸の混合液に浸漬することにより、イオン注入用マスクを除去した。その後、Al濃度のSiC基材表面からの深さ依存性を、二次イオン質量分析(SIMS)装置を用いて測定した。
【0106】
SIMS測定は、イオン注入を行ったSiC基材のうち、Alイオン注入時に粒子膜パターンに被覆されていた領域、及びイオン注入用マスクの開口部であった領域のSiC基材表面に対して行った。
【0107】
なお、SIMS測定によって得られた、Alイオン濃度の深さ依存性プロファイルにおいて、Alイオン注入時に粒子膜パターンに被覆されていた領域の表面から50nmの深さの点におけるAlイオン濃度が、イオン注入用マスクの開口部であった領域のSiC基材表面から50nmの深さの点におけるAlイオン濃度の1/100倍以下である場合に、粒子膜パターンはイオン注入用マスク層としての性能を有すると判断した。
【0108】
〈実施例2〉
分散体として、プロピレングリコール90重量%、シリコンナノ粒子10重量%を混合する代わりに、プロピレングリコール90重量%、シリコン粒子5重量%、耐熱性バインダー形成成分としての有機シロキサン化合物5重量%を混合したことを除いて、実施例1と同様にして、分散体を調製し、粒子膜パターンを得た。さらに、実施例1と同様に、粒子膜パターン形成の可否、イオン注入時の帯電による問題の有無、及び粒子膜パターンのイオン遮蔽性能について評価した。
【0109】
〈実施例3〉
分散体として、プロピレングリコール90重量%、シリコンナノ粒子10重量%を混合する代わりに、プロピレングリコール90重量%、シリコン粒子5重量%、一時的バインダー形成成分としてのエチルセルロース5重量%を混合したこと、
分散体粒子膜の形成工程の後の粒子分散体からの分散媒除去を目的とした加熱の温度を250℃としたこと、
さらに、レーザー光照射による分散体粒子膜のパターニング後、一時的バインダー除去を目的として600℃の大気中で焼成を行ったこと
を除いて、実施例1と同様にして、分散体を調製し、粒子膜パターンを得た。
【0110】
さらに、実施例1と同様に、粒子膜パターン形成の可否、イオン注入時の帯電による問題の有無、及び粒子膜パターンのイオン遮蔽性能について評価した。
【0111】
〈実施例4〉
SiC基材上に、スピンオングラス(東京応化製、12000−T)をイソプロピルアルコールで希釈した溶液をスピンコートし、800℃での焼成を行うことによって、SiC基材上に50nmの厚みを有するスピンオングラス膜を予め形成したこと除いて、実施例1と同様にして、粒子膜パターンを得た。さらに、実施例1と同様に、粒子膜パターン形成の可否、イオン注入時の帯電による問題の有無、及び粒子膜パターンのイオン遮蔽性能について評価した。
【0112】
〈実施例5〉
光照射の光源として、波長532nmであり、4.0J/cmのエネルギー密度を有するレーザー光を用いる代わりに、波長532nmであり、0.5J/cmのエネルギー密度を有し、パルス幅が1.0nsのレーザー光を用いたことを除いて、実施例1と同様にして、分散体を調製し、粒子膜パターンを得た。さらに、実施例1と同様に、粒子膜パターン形成の可否、イオン注入時の帯電による問題の有無、及び粒子膜パターンのイオン遮蔽性能について評価した。
【0113】
〈実施例6〉
実施例6では、分散媒及び分散媒中に分散している粒子を含有している粒子分散体を調製し、スクリーン印刷法を用いて、ガラス基材上に粒子膜を形成し、加熱して分散媒を除去した後、光照射を粒子膜の一部に行うことによって粒子膜パターンを形成し、粒子膜パターンのシート抵抗の測定を行った。
【0114】
具体的には、基材としてSiC基材を用いる代わりに、ガラス基材を用いたことを除いて実施例1と同様にして、分散体を調製し、粒子膜パターンを得た。したがって、得られた粒子膜自体は、実施例1、4及び5で得られた粒子膜と実質的に同じである(基材は異なっている)。その後、シャドウマスクを通じて、粒子膜パターンの抵抗率測定を目的としたアルミニウム電極を、マスク層のパターン上に真空蒸着法を用いて形成した。
【0115】
抵抗率測定を目的としたアルミニウム電極のパターンとしては、1000μm×200μmの大きさを有する一組の矩形の電極の1000μmの辺同士が、200μmの間隔で対向するように配置された電極パターンを用いた。
【0116】
その後、蒸着したアルミニウム電極間に1μAの定電流を印加した時の、アルミニウム電極間での電位降下を測定することにより、マスク層のシート抵抗を求めたところ、20GΩ/□であった。
【0117】
実施例1〜5についての実験条件及び結果を、下記の表1にまとめている。
【0118】
【表1】
【0119】
〈評価結果〉
実施例1〜5の結果からは、形成した粒子膜のパターンが、帯電の問題なくイオン注入用マスク層としての利用が可能であることが理解できる。
【0120】
実施例1〜3の結果からは、分散体に、耐熱性バインダー形成成分(実施例2)又は一時的バインダー形成成分(実施例3)を添加することによっても、これらのバインダー形成成分を用いない実施例1の場合と同様に、分散体が好ましい印刷性を有し、かつ形成した粒子膜のパターンが、帯電の問題なくイオン注入用マスク層としての利用が可能であることが理解できる。
【0121】
実施例1及び2の比較からは、分散体に、耐熱性バインダー形成成分(実施例2)を添加することによって、最終的に得られたイオン注入用マスク層の形状安定性が改良されていることが観察された。また、実施例1及び3の比較からは、分散体に、一時的バインダー形成成分(実施例3)を添加することによって、レーザーの照射による粒子膜のパターニング工程における、粒子の層の形状安定性が改良されていることが観察された。
【0122】
実施例1及び4の結果からは、予め基材上に剥離層(実施例4)を形成しておくことで、イオン注入後の剥離性の向上を図った場合においても、分散体の膜が好ましいパターニング性を有し、かつ形成した粒子膜パターンが、帯電の問題なくイオン注入用マスク層としての利用が可能であることが理解できる。
【0123】
実施例1及び4の比較からは、予め基材上に剥離層(実施例4)を形成しておくことによって、Alイオン注入後のイオン注入用マスクの除去が促進されることが観察された。
【0124】
実施例6の結果からは、形成した粒子膜のパターンが、帯電の問題なくイオン注入用マスク層としての利用が可能なシート抵抗を有することが理解できる。
【符号の説明】
【0125】
1 SiCエピタキシャル膜
2 SiC基材
3 SiO
4 感光性レジスト
5 レーザー光
6 イオン注入領域
7 ドーパントイオンのビーム
11 イオン注入用マスク/粒子膜
12 マスクパターン開口部
図1
図2