(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のゴム弾性体におけるフッ素系塗膜は、耐燃料油性を有すると考えられているものの、ゴムからなる環状のシール基材の伸縮に対する追従性が十分でなく、経時的にフッ素系塗膜にひび割れ等が生じる可能性がある。そのひび割れ等を介して環状のシール基材を構成するゴムが燃料油に曝されると、ゴムから可塑剤や老化防止剤が抽出されてしまう。ゴムから可塑剤や老化防止剤が抽出されると、エンジンの燃料経路(例えば燃料タンク等)に用いられる金属の腐食が生じてしまうという問題がある。
【0005】
かかる問題に鑑みて、本発明は、燃料油に対するバリア性を有し、当該バリア性を長期間に亘って維持可能である、エンジンの燃料経路に用いられるシール材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、エンジンの燃料経路に用いられるシール材であって、ゴムからなる環状のシール基材と、前記シール基材を被覆す
る被膜とを備え、前記被膜は、少なくともフッ素ゴムを含有
し、前記シール基材の表面積を基準として前記シール基材を50%伸長させたときに前記被膜に亀裂を生じさせないように追従可能であることを特徴とするシール材を提供する。
【0007】
なお、シール基材の伸縮に追従可能な被膜とは、シール基材が伸縮したときに被膜に亀裂等が生じないことを意味し、具体的にはシール基材をその表面積を基準として50%伸長させたときに被膜に亀裂が生じないこと、好ましくは80%伸長させたときに被膜に亀裂が生じないことを意味するものとする。
【0008】
上記シール材において、前記被膜の膜厚が、5〜50μmであるのが好ましく、前記フッ素ゴムが、2元系又は3元系共重合体であるのが好ましく、前記被膜は、固体潤滑剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をさらに含有するのが好ましい
。
【0009】
また、本発明は、エンジンの燃料経路に用いられるシール材を製造する方法であって、被膜形成用組成物を含む表面処理剤をゴムからなる環状のシール基材に塗布する工程と、前記表面処理剤が塗布された前記シール基材を
130〜150℃の温度範囲で加熱することで、前記シール基材の表面に前記シール基材の伸縮に追従可能な被膜を形成する工程とを有し、前記被膜形成用組成物は、少なくともフッ素ゴムを含み、
前記被膜を形成する工程において、前記シール基材の表面積を基準として前記シール基材を50%伸長させたときに亀裂が生じないように追従可能な前記被膜を形成することを特徴とするシール材の製造方法を提供する。
【0010】
上記シール材の製造方法において、前記表面処理剤が塗布された前記シール基材を、130〜150℃の温度範囲で加熱するのが好ましく、前記被膜の膜厚が5〜50μmとなるように、前記表面処理剤を前記シール基材に塗布するのが好ましく、前記フッ素ゴムが、フッ化ビニリデン(VDF)と、テトラフルオロエチレン(TFE)とを共重合して得られる2元系共重合体や、フッ化ビニリデン(VDF)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)と、テトラフルオロエチレン(TFE)とを共重合して得られる3元系共重合体等の2元系又は3元系フッ素ゴムであるのが好ましく、前記被膜形成用組成物は、固体潤滑剤としてのテトラフルオロエチレン(PTFE)をさらに含むのが好ましい。前記シール基材を構成する前記ゴムは、アクリロニトリルブタジエンゴム又は水素化ニトリルゴムであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃料油に対するバリア性を有し、当該バリア性を長期間に亘って維持可能である、エンジンの燃料経路に用いられるシール材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るシール材を有する燃料タンクの概略構成を示す部分断面図であり、
図2は、本実施形態に係るシール材の概略構成を示す斜視図(
図2(A))及び切断端面図(
図2(B))である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態における燃料タンク1は、エンジンの燃料経路の一部をなす、燃料油を収容する容器であって、上容器11と、下容器12とを備える。上容器11及び下容器12は、燃料油としてのガソリン、軽油等による腐食の生じにくい金属材料により構成され、好適には防錆処理が施された金属、例えばアルミニウム、銅、クロム、ニッケルめっき合金、ステンレス等の従来公知の材料により構成される。
【0015】
燃料タンク1の上容器11と下容器12との互いの対向面11A,12Aには、その周方向に沿って凹溝部11B,12Bが形成されており、対向面11A,12A同士を対向させるようにして上容器11と下容器12とを合わせることで、凹溝部11B,12B同士によって形成される空間としてのOリング収容部13が構成される。
【0016】
本実施形態に係るシール材2は、凹溝部11B,12Bにより構成されるOリング収容部13内に嵌り込むようにして設けられる。これにより、上容器11と下容器12との間(対向面11A,12Aの間)から、収容されている燃料油が漏出しないようにシールされる。
【0017】
本実施形態に係るシール材2は、
図2(A)及び(B)に示すように、平面視略円環状であって、断面略円形のOリングであるが、この態様に限定されるものではない。本実施形態に係るシール材2は、取り付けられる対象物に対応した平面視形状や断面形状を有していればよい。シール材2の形状としては、例えば、Oリング、パッキン、ガスケット等のシール材として従来公知の形状である、略方形状、略矩形状、断面略角形状、環状側面に一定間隔に成型された突起を有する形状等が挙げられる。また、シール材2の寸法等は、特に制限されるものではなく、シール材2が取り付けられる対象物に応じて適宜設定され得るものである。
【0018】
本実施形態に係るシール材2は、環状のシール基材21と、環状のシール基材21の表面を被覆する被膜22とを備える。環状のシール基材21は、シール材として機能するゴム弾性体により構成されていればよく、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、シリコーンゴム(VMQ、FVMQ)、ウレタンゴム(AU、EU)、フッ素ゴム(FKM、FEPM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)等を用いることができ、特に好ましくはアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)である。NBRは、機械特性(耐老化性、耐久性)に優れるため、環状のシール基材21を構成するエラストマーとして好適な材料である。また、NBRやHNBRは一般的に耐油性に優れており、エンジンの燃料経路におけるシール材の材料として用いられるが、長時間燃料油に曝されることで膨潤し、可塑剤や老化防止剤が抽出されてしまう。その結果として、燃料タンク1等の燃料経路を構成する金属材料の腐食を生じさせるおそれがある。本実施形態に係るシール材2は、ゴムからなる環状のシール基材21の表面を被覆する被膜22を備えることで、燃料油に対するバリア性を奏することができる。
【0019】
環状のシール基材21の表面を被覆する被膜22は、少なくともフッ素ゴムを含有する。フッ素ゴムを含有することで、後述する実施例からも明らかなように、適度な追従性を有し、かつシール材2が長期間にわたって燃料油に曝されても、燃料油に対するバリア性を維持することができる。
【0020】
被膜22に含まれるフッ素ゴムとしては、比較的低温(例えば、130〜150℃程度)で硬化可能なものである限り、特に制限されるものではなく、例えば、フッ化ビニリデン(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体等の2元系共重合体や、フッ化ビニリデン(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニル共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/トリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/ペンタフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネン共重合体等の3元系共重合体が挙げられる。これらのうち、被膜22に含まれるフッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとを共重合して得られるものが好適である。
【0021】
被膜22には、固体潤滑剤が含まれているのが好ましい。固体潤滑剤が含まれていることで、シール材2に非粘着性及び低摩擦性を付与することができる。固体潤滑剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ヘキサフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、二硫化モリブデン、有機モリブデン化合物、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、二硫化タングステン等が挙げられ、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好適である。被膜22における固体潤滑剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、1〜50質量部程度であればよく、好ましくは1〜10質量部程度である。
【0022】
被膜22には、カーボンブラックが含まれているのが好ましい。カーボンブラックが含まれていることで、被膜22の強度を増大させることができる。カーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、導電性カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックの含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、5〜30質量部程度であればよく、好ましくは5〜10質量部程度である。なお、カーボンブラックは、被膜22に着色(黒色等)することを目的として含有せしめるものでもある。被膜22への着色を目的とする観点から、カーボンブラックに代えて、又はカーボンブラックとともに顔料(黒色顔料等)、染料(黒色染料等)等が被膜22に含まれていてもよい。
【0023】
被膜22には、架橋剤が含まれていてもよく、架橋剤としては、例えば、ポリオール架橋剤が用いられ得る。具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。架橋剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、0.1〜5質量部程度であればよい。
【0024】
被膜22には、架橋助剤が含まれていてもよい。架橋助剤としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、第4級アンモニウム塩としての5−ベンジル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムテトラフルオロボレート等が挙げられる。架橋助剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、1〜100質量部程度であればよい。
【0025】
なお、被膜22には、その他の添加剤として、ガラス繊維、炭素繊維等の充填材;可塑剤;ステアリン酸塩、ラウリン酸塩等の加工助剤;難燃剤;帯電防止剤;着色剤等が含まれていてもよい。
【0026】
本実施形態における被膜22の膜厚は、例えば、5〜50μm程度であり、好ましくは5〜26μm程度である。被膜22の膜厚が5μm未満であると、環状のシール基材21の表面を均質に被覆することが困難となって、燃料油に対する所望とするバリア性が奏され難くなるおそれがある。また、被膜22の膜厚が50μmを超えると、環状のシール基材21の伸縮に被膜22が追従し難くなり、環状のシール基材21の伸縮時に被膜22に亀裂が生じやすくなるおそれがある。
【0027】
本実施形態に係るシール材2において、トルエン50質量%とイソオクタン50質量%とを含むFuelCに40℃の温度環境下で48時間浸漬した後の体積抵抗値(Ω・cm)と、当該FuelCに浸漬する前の体積抵抗値(Ω・cm)とが、実質的に同一であるのが好ましい。FuelCへの浸漬前後における体積抵抗値(Ω・cm)が実質的に同一であるということは、被膜22による燃料油に対するバリア性が維持されていることを意味する。FuelCへの浸漬後の体積抵抗値は、1.0×10
6(Ω・cm)以上であるのが好ましく、1.0×10
7(Ω・cm)以上であるのがより好ましい。FuelCに48時間浸漬した後のシール材2の体積抵抗値が1.0×10
6(Ω・cm)未満であると、燃料タンク1の腐食が生じやすくなるおそれがある。
【0028】
本実施形態に係るシール材2において、被膜22は所定の追従性を有する。シール材2(環状のシール基材21)は、燃料タンク1内に収容される燃料油の減少や、燃料油に曝され続けることによる膨潤等により伸縮することがある。このシール材2(環状のシール基材21)の伸縮に被膜22が追従できないと、被膜22に亀裂が生じてしまい、環状のシール基材21が燃料油に直接曝されてしまうおそれがある。しかしながら、被膜22が所定の追従性を有する(環状のシール基材21の伸縮に追従可能である)ことで、被膜22に亀裂を生じさせるのを防止することができる。
【0029】
本実施形態において「所定の追従性を有する(環状のシール基材21の伸縮に追従可能である)」とは、シール材2をその表面積を基準として50%(1.5倍)伸長させたときに被膜22に亀裂が生じない程度に追従することを意味し、シール材2をその表面積を基準として80%(1.8倍)伸長させたときに被膜22に亀裂が生じない程度に追従するのが好ましい。
【0030】
本実施形態に係るシール材2の表面(被膜22の表面)の粘着力は、1〜100gfであるのがより好ましく、1〜50gfであるのが特に好ましい。シール材2の表面の粘着力が100gfを超えると、シール材2を燃料タンク1のOリング収容部13に組み付ける作業の困難性が増大してしまうおそれがある。本実施形態に係るシール材2の表面(被膜22の表面)の粘着力は、当該シール材2を所定の温度(例えば40℃)の燃料油に所定の時間(例えば48時間)浸漬させた後においても、浸漬前に比して実質的に変化しないのが好ましい。浸漬後のタック値が浸漬前と実質的に変化しないことで、エンジンの燃料経路のオーバーホール時等においても、当該シール材2を容易に取り外すことが可能となる。
【0031】
なお、本実施形態における「粘着力」は、以下の方法で測定され得る。
シール材2をプローブタック試験装置(製品名:タッキング試験機TAC−II,レスカ社製)に取り付け、シール材2の表面に対し100gfの荷重を印加しながら3秒間プローブ(SUS製の円柱プローブ(直径:5.1mm))を接触させた後、プローブを垂直方向に600mm/minの速度で剥離し、剥離するために要する力として粘着力(gf)が求められる。
【0032】
本実施形態に係るシール材2は、以下のようにして製造することができる。
まず、環状のシール基材21を作製する。環状のシール基材21は、その形状に則したキャビティーを有する上型及び下型を含む金型を準備し、当該金型のキャビティーに環状のシール基材21を構成する未加硫のゴム組成物を充填して、熱加硫する。このようにして、ゴムからなる環状のシール基材21が作製される。
【0033】
次に、ゴムからなる環状のシール基材21の表面に被膜形成用組成物を含む表面処理剤を塗布して、未硬化の塗膜を形成する。被膜形成用組成物を含む表面処理剤は、上述したフッ素ゴムとともに、固体潤滑剤(PTFE等)、カーボンブラック、その他添加剤等を溶剤(例えば酢酸ブチル等)に添加し、常温で3〜12時間撹拌し、次いでエタノールに溶解した架橋剤、架橋助剤、その他の添加剤等を添加し、常温で5〜10分程度攪拌することで調製され得る。
【0034】
環状のシール基材21の表面に被膜形成用組成物を含む表面処理剤を塗布する方法としては、環状のシール基材21の表面に均質な塗膜を形成することができる限りにおいて特に制限されず、従来公知の塗布方法を利用することができる。例えば、スプレーコート法、ディッピング法、タンブリング法等が挙げられる。
【0035】
続いて、表面に塗膜が形成された環状のシール基材21を130〜150℃で10〜30分間程度加熱する。これにより当該塗膜を硬化させて、環状のシール基材21の表面を被覆する被膜22が形成される。
【0036】
一般に、フッ素ゴム系の表面処理剤を用いてゴム基材表面に被膜を形成する場合、当該表面処理剤を塗布して形成される塗膜を160〜280℃程度で焼成して硬化させる。しかし、ゴム基材がNBRからなるものである場合、当該温度雰囲気に曝されることで、NBRが劣化し硬度が上昇してしまうという問題がある。本実施形態における製造方法においては、比較的低温で焼成して塗膜を硬化させることができるため、環状のシール基材21を構成するNBR等のゴムの硬度の上昇を抑制することができる。また、上記表面処理剤に含まれる被膜形成用組成物によって形成される被膜22は、ゴムからなる環状のシール基材21の伸縮に追従可能な特性を有するため、環状のシール基材21の伸縮等によって被膜22に亀裂が生じるおそれもない。よって、本実施形態における製造方法により製造されるシール材2よれば、燃料油に対するバリア性を奏し得るとともに、当該バリア性を長期間に亘って維持することができる。
【0037】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0038】
上記実施形態におけるシール材2の使用態様として、エンジンの燃料経路の一部をなす燃料タンク1に用いられる態様を例に挙げて説明したが、この態様に限定されるものではない。例えば、シール材2は、キャブレターに使用されるOリングであってもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例等により何ら限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕
フッ素ゴム(VDF/HFP/TFE共重合体)5質量部、固体潤滑剤(喜多村社製,PTFEパウダーKTL−8F)2質量部、カーボンブラック0.1質量部、架橋助剤(酸化マグネシウム)1質量部及び溶剤(酢酸ブチル)90質量部を、室温下にて5時間攪拌し、その後、エタノール0.72質量部に架橋剤(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)0.48質量部を溶解させた溶液を添加し、室温下で5分間撹拌し、被膜形成用組成物を含む表面処理剤を調製した。
【0041】
NBRゴムからなる試験片(100mm×100mm)を準備し、当該試験片の両面に対し上記被膜形成用組成物を含む表面処理剤をスプレー塗布し(スプレー圧:0.2MPa)、その後150℃で30分間焼成することで、塗膜を硬化させ、試験片に被膜(厚さ5μm)を形成した。
【0042】
〔実施例2〕
被膜の厚さを8μmに変更した以外は、実施例1と同様にして被膜が形成された試験片を準備した。
【0043】
〔実施例3〕
モノマー組成の異なるフッ素ゴムを用いた以外は、実施例1と同様にして被膜形成用組成物溶液を調製し、試験片に被膜(厚さ5μm)を形成した。
【0044】
〔実施例4〕
被膜の厚さを7μmに変更した以外は、実施例3と同様にして被膜が形成された試験片を準備した。
【0045】
〔実施例5〕
被膜の厚さを10μmに変更した以外は、実施例3と同様にして被膜が形成された試験片を準備した。
【0046】
〔実施例6〕
被膜の厚さを14μmに変更した以外は、実施例3と同様にして被膜が形成された試験片を準備した。
【0047】
〔実施例7〕
被膜の厚さを24μmに変更した以外は、実施例3と同様にして被膜が形成された試験片を準備した。
【0048】
〔比較例1〕
表面処理剤としてダイキン工業社製のGLS−213Lを用い、当該表面処理剤をスプレー塗布した試験片を280℃で20分間焼成した以外は、実施例1と同様にして被膜(厚さ5μm)が形成された試験片を準備した。
【0049】
〔比較例2〕
表面処理剤として菱江化学社製のマーベルコートRFH−10を用いた以外は、実施例1と同様にして被膜(厚さ5μm)が形成された試験片を準備した。
【0050】
〔比較例3〕
表面処理剤としてAGCコーテック社製のオブリガートSS0063を用いた以外は、実施例1と同様にして被膜(厚さ5μm)が形成された試験片を準備した。
【0051】
〔比較例4〕
被膜の厚さを129μmとした以外は、比較例3と同様にして試験片を準備した。
【0052】
〔試験例1〕
実施例1〜7及び比較例1〜4の試験片、並びに被膜を形成していない試験片(参考例1)について、FuelCへの浸漬前及び48時間浸漬後(40℃)の体積抵抗値(Ω・cm)を、JIS K 6271に則して測定した。結果を表1に示す。
【0053】
〔試験例2〕
実施例1〜7及び比較例1〜4の試験片、並びに被膜を形成していない試験片(参考例1)について、FuelCへの浸漬前及び48時間浸漬後(40℃)のそれぞれにおける追従性に関する試験を行った。この試験は、試験片を面積基準で25%まで及び50%まで伸長させながら当該試験片の被膜に亀裂が生じているか否かを、走査型顕微鏡を用いて観察することにより行われた。結果を表1に示す。なお、表1における「追従性」の項目において、50%伸長時までに被膜に亀裂が生じなかったものを「○」、50%伸長時までに被膜に亀裂が生じたものを「×」とした。
【0054】
〔試験例3〕
実施例1〜7及び比較例1〜4の試験片、並びに被膜を形成していない試験片(参考例1)をプローブタック試験装置(製品名:タッキング試験機TAC−II,レスカ社製)に取り付け、試験片の表面に対し100gfの荷重を印加しながら3秒間プローブ(SUS製の円柱プローブ(直径:5.1mm))を接触させた後、プローブを試験片の表面に対する垂直方向に600mm/minの速度で剥離し、剥離するために要する力(粘着力,gf)を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、NBRからなる基材の表面にフッ素ゴム系の被膜を形成することで、FuelCへの浸漬前後における体積抵抗値を実質的に変化させない効果が奏されることが確認された。また、実施例1〜7においては、FuelCへの浸漬前後における追従性が良好であり、80%伸長時においても被膜に亀裂が生じなかったが、比較例1〜4においては、当該追従性に劣る結果となった。特に、比較例1においては、FuelCへの浸漬前の状態で20%伸長時において亀裂が生じるとともに、試験片が破断してしまった。比較例1の試験片は、被膜形成時に高温で焼成していることで、NBRの硬度が上昇し、ゴム弾性が低下してしまったものと推察される。