(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842996
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】防振グロメット及び防振グロメットを用いた防振構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20210308BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20210308BHJP
F16F 1/377 20060101ALI20210308BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
F16F15/08 E
F16F1/36 K
F16F1/377
F16B5/02 Y
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-105802(P2017-105802)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-200086(P2018-200086A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(72)【発明者】
【氏名】楠田 達希
【審査官】
鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭52−085094(JP,U)
【文献】
欧州特許出願公開第03045762(EP,A1)
【文献】
実開平6−32788(JP,U)
【文献】
中国実用新案第205971161(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00− 15/36,
1/00− 6/00
F16B 13/14, 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状弾性材料により円筒状に形成されたグロメット本体を有し、
前記グロメット本体の上部には、先端側に向かってテーパ状に縮径され斜面部を有して円錐台状に形成されたグロメット円錐台部が連設され、
前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部とを連結する連結部位に、円周方向に環状溝が形成され、
前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部の軸方向には、ボルトを挿通可能な挿通孔が貫通形成され、
前記挿通孔の内周部には、軸方向に向かって、縦長溝が複数形成され、
前記グロメット円錐台部の頂部から前記斜面部にわたって、該斜面部に沿って上下方向の傾斜溝が形成されていることを特徴とする防振グロメット。
【請求項2】
前記傾斜溝は、前記グロメット円錐台部の頂部から前記斜面部を下方に向かうに従って幅が広くなって、台形形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の防振グロメット。
【請求項3】
前記縦長溝は、少なくとも1組が対向して設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の防振グロメット。
【請求項4】
前記傾斜溝と前記縦長溝とは、前記グロメット円錐台部の頂部からの軸方向の長さが互いに略等しいことを特徴とする請求項1、2又は3記載の防振グロメット。
【請求項5】
前記傾斜溝と前記縦長溝とは、前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部の円周方向の等角度間隔で複数が形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の防振グロメット。
【請求項6】
前記傾斜溝と前記縦長溝とは、前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部の軸回りの角度位置が異なっていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の防振グロメット。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の防振グロメットと、
振動源に連結された振動側の支持板を備え、
前記支持板の長円形の挿入孔に前記グロメット円錐台部が挿通され、前記支持板が前記環状溝に嵌着すると共に、
前記挿通孔にボルトが挿通され、該ボルトが防振側の部材のボルト孔に螺合され、
前記振動側の支持板と前記防振側の部材との間に、前記防振グロメットが介在されることを特徴とする防振グロメットを用いた防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用精密機器等を防振支持する防振グロメット及び防振グロメットを用いた防振構造に関し、詳しくは、車載用精密機器を支持するブラケットに設けられた挿入孔への挿入を容易にでき、挿入孔から抜けにくくした防振グロメット及び防振グロメットを用いた防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ABS(Antilock Brake System)やESC(Electronic Stability Control)等の車載用精密機器は、車体に取付けるにあたって、防振グロメットを用いて防振支持するようにしている(特許文献1)。
【0003】
図6に示すように、防振グロメット100は、ゴム状弾性材料により略円筒状に成形され、円筒の中心に挿通孔101が設けられている。この防振グロメット100の側面の外周部には、全周に亘って環状溝102が形成されている。
【0004】
振動側である車体等に固定された支持板(ブラケット)103には、長円形の挿入孔104が設けられている。この挿入孔104に、防振グロメット100の先端側(
図6中、上方側)が挿入される。この挿入孔104の内周縁は、環状溝102に嵌合する。
【0005】
防振グロメット100は、後端面(
図6中、下端面)105を精密機器等の防振側の被支持部材106に当接させる。後端面105は、被支持部材106に設けられたボルト孔107を囲む周囲部に当接する。
【0006】
そして、防振グロメット100の先端面から、挿通孔101にボルト108を挿通させる。このボルト108をボルト孔107に螺合させることにより、防振グロメット100は、振動側の支持板103と、防振側の被支持部材106との間に介在して、被支持部材106を防振支持する。防振グロメット100は、支持板103から被支持部材106へ伝達される振動を吸収し、振動伝達を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−020427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
防振グロメット100の先端側を挿入孔104に挿入するときに、防振グロメット100の弾性が強いと、変形させることが困難であり、挿入孔104への挿入が困難となる。
【0009】
防振グロメット100の挿入孔104への挿入を容易にするために、挿入荷重(挿入に必要な押圧力)を大きくできる設備を設置することも考えられるが、挿入荷重が設備能力を超えてしまうと、装着不能となってしまう。
【0010】
防振グロメット100の性能としては、挿入孔104への挿入を容易にすることが大切であり、さらに挿入後に容易に抜けない保持力が求められる。
【0011】
そこで本発明は、車載用精密機器を支持するブラケットに設けられた挿入孔への挿入を容易にでき、挿入孔から抜けにくくした防振グロメット及び防振グロメットを用いた防振構造を提供することを課題とする。
【0012】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0014】
1.
ゴム状弾性材料により円筒状に形成されたグロメット本体を有し、
前記グロメット本体の上部には、先端側に向かってテーパ状に縮径され斜面部を有して円錐台状に形成されたグロメット円錐台部が連設され、
前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部とを連結する連結部位に、円周方向に環状溝が形成され、
前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部の軸方向には、ボルトを挿通可能な挿通孔が貫通形成され、
前記挿通孔の内周部には、軸方向に向かって、縦長溝が複数形成され、
前記グロメット円錐台部の頂部から前記斜面部にわたって、該斜面部に沿って上下方向の傾斜溝が形成されていることを特徴とする防振グロメット。
2.
前記傾斜溝は、前記グロメット円錐台部の頂部から前記斜面部を下方に向かうに従って幅が広くなって、台形形状に形成されていることを特徴とする前記1記載の防振グロメット。
3.
前記縦長溝は、少なくとも1組が対向して設けられていることを特徴とする前記1又は2記載の防振グロメット。
4.
前記傾斜溝と前記縦長溝とは、前記グロメット円錐台部の頂部からの軸方向の長さが互いに略等しいことを特徴とする前記1、2又は3記載の防振グロメット。
5.
前記傾斜溝と前記縦長溝とは、前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部の円周方向の等角度間隔で複数が形成されていることを特徴とする前記1〜4の何れかに記載の防振グロメット。
6.
前記傾斜溝と前記縦長溝とは、前記グロメット本体と前記グロメット円錐台部の軸回りの角度位置が異なっていることを特徴とする前記1〜5の何れかに記載の防振グロメット。
7.
前記1〜6の何れかに記載の防振グロメットと、
振動源に連結された振動側の支持板を備え、
前記支持板の長円形の挿入孔に前記グロメット円錐台部が挿通され、前記支持板が前記環状溝に嵌着すると共に、
前記挿通孔にボルトが挿通され、該ボルトが防振側の部材のボルト孔に螺合され、
前記振動側の支持板と前記防振側の部材との間に、前記防振グロメットが介在されることを特徴とする防振グロメットを用いた防振構造。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車載用精密機器を支持するブラケットに設けられた挿入孔への挿入を容易にでき、挿入孔から抜けにくくした防振グロメット及び防振グロメットを用いた防振構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1に示す防振グロメットの形状を示す平面図
【
図3】
図1に示す防振グロメットの形状を示す縦断面図
【
図4】
図1に示す防振グロメットの使用状態を示す断面斜視図
【
図5】
図1に示す防振グロメットの変形状態を示す平面図
【
図6】従来の防振グロメットの使用状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の防振グロメットの形状を示す斜視図である。
【0018】
本発明の実施形態の防振グロメット1は、
図1に示すように、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)により円筒状に形成されたグロメット本体1bを有している。
【0019】
このグロメット本体1bの上部(
図1中の上方)には、グロメット円錐台部1aが連設されている。グロメット円錐台部1aは、先端側(
図1中の上方)に向かってテーパ状に縮径され、斜面部6を有して円錐台状に形成されている。
【0020】
グロメット本体1bとグロメット円錐台部1aとは、一体的に連設されており、これらが連結する連結部位には、円周方向に環状溝4が形成されている。
【0021】
グロメット本体1bとグロメット円錐台部1aの軸方向には、ボルトを挿通可能な挿通孔2が貫通形成されている。この挿通孔2と、グロメット本体1b及びグロメット円錐台部1aとは同軸である。挿通孔2は、防振グロメット1の先端(
図1中の上方)及び基端(
図1中の下方)に向けて開放されている。
【0022】
図2は、
図1に示す防振グロメットの形状を示す平面図である。
図3は、
図1に示す防振グロメットの形状を示す縦断面図である。
【0023】
挿通孔2の内周部2aには、
図2及び
図3に示すように、軸方向に向かって、縦長溝5aが複数形成されている。また、テーパ状となされたグロメット円錐台部1aの斜面部6には、グロメット円錐台部1aの頂部3から斜面部6にわたって、斜面部6に沿って上下方向の傾斜溝5bが形成されている。
【0024】
図4は、
図1に示す防振グロメットの使用状態を示す断面斜視図である。
【0025】
この防振グロメット1は、
図4に示すように、車体等に固定された支持板(ブラケット)200に設けられた挿入孔201に、グロメット円錐台部1aが挿入され、挿入孔201の内周縁が環状溝4に嵌着することにより、防振グロメット1を用いた防振構造を構成する。
【0026】
図5は、
図1に示す防振グロメットの変形状態を示す平面図である。
【0027】
挿入孔201は、
図5に示すように、長円形に形成されている。グロメット円錐台部1aを挿入孔201に挿入するには、グロメット円錐台部1aの斜面部6を挿入孔201の内周縁に当接させ、防振グロメット1を、軸方向に挿入孔201側に向けて押圧する。このとき、防振グロメット1の後端面1cを支持板200側に向けて押圧することが好ましい。
【0028】
防振グロメット1を挿入孔201に向けて押圧すると、グロメット円錐台部1aは、挿入孔201の短径部の両側内周縁に斜面部6を押圧され、
図5中矢印Aで示すように、求心方向に変形される。このとき、グロメット円錐台部1aは、挿入孔201の長径方向には、
図5中矢印Bで示すように、拡大方向に変形される。このような変形により、グロメット円錐台部1aは、挿入孔201に挿入され、挿入孔201を通過する。すると、
図4に示すように、挿入孔201の短径部の両側内周縁は、グロメット円錐台部1aの後方の環状溝4に嵌入する。この嵌入により、防振グロメット1は、支持板200により保持される。
【0029】
この防振グロメット1においては、挿通孔2の内周部2aに縦長溝5aが形成され、グロメット円錐台部1aの斜面部6に傾斜溝5bが形成されて、頂部3の近傍が部分的に肉薄となされていることにより、グロメット円錐台部1aの変形が容易となっている。すなわち、この防振グロメット1においては、グロメット円錐台部1aを挿入孔201に挿通させるために必要な後端面1cに対する押圧力(挿入荷重)が小さくなっている。
【0030】
また、この防振グロメット1においては、防振グロメット1が挿入孔201に保持されるための構造、すなわち、環状溝4の前後の形状が従来の防振グロメットから変更されていないので、従来の防振グロメットと同程度の保持力(抜けにくさ)を確保することができる。
【0031】
そして、防振グロメット1の後端面1cは、精密機器の筐体等、被支持部材202に当接される。このとき、後端面1cは、被支持部材202に設けられたボルト孔203の周囲に当接される。
【0032】
本発明において、このとき、防振グロメット1と被支持部材202との間には、カラー204を介在配置してもよい。このカラー204は、金属や合成樹脂材料により、防振グロメット1の後端面1cと被支持部材202の外面との間に介在される円環板状部と、挿通孔2に挿入され該挿通孔2の内周面に沿う円筒状部とが一体的に連設されて構成されている。
【0033】
次に、挿通孔2には、頂部3側からボルト205が挿通される。このボルト205は、被支持部材202のボルト孔203に螺入される。ボルト205が螺入されることにより、防振グロメット1は、支持板200と被支持部材202との間に介在して、該被支持部材202を防振支持する。すなわち、この防振構造においては、振動側の支持板200から防振側の被支持部材202へ伝達される振動が吸収され、振動伝達が低減される。
【0034】
ところで、この防振グロメット1の傾斜溝5bは、グロメット円錐台部1aの頂部3から斜面部6を下方に向かうに従って幅を広くして、台形形状に形成することが好ましい。傾斜溝5bが台形形状を有していることにより、グロメット円錐台部1aの肉厚に応じて傾斜溝5bの幅が広くなる(つまり、グロメット円錐台部1aの肉厚が厚い部分ほど傾斜溝5bの幅が広くなる)ので、グロメット円錐台部1aは、挿入孔201への挿通のための変形がより容易となる。
【0035】
縦長溝5aも同様に、頂部3から離れるに従って幅を広くして、台形形状に形成することが好ましい。この場合も、グロメット円錐台部1aの肉厚に応じて縦長溝5aの幅が広くなる(つまり、グロメット円錐台部1aの肉厚が厚い部分ほど縦長溝5aの幅が広くなる)ので、グロメット円錐台部1aは、挿入孔201への挿通のための変形がより容易となる。
【0036】
なお、縦長溝5aは、少なくとも1組を対向させて設けることが好ましい。縦長溝5aが対向されて設けられていることにより、グロメット円錐台部1aの変形が軸対称となるので、挿入孔201への挿通がより容易となる。傾斜溝5bについても同様である。
【0037】
また、縦長溝5a及び傾斜溝5bは、防振グロメット1の頂部3からの軸方向の長さを互いに略等しくすることが好ましい。挿通孔2の内周部2a及びグロメット円錐台部1aの斜面部6で、縦長溝5a及び傾斜溝5bの頂部3からの軸方向長さが互いに略等しいことにより、グロメット円錐台部1aの変形を容易としながら、挿入孔201による保持力を確保することができる。
【0038】
縦長溝5a及び傾斜溝5bは、防振グロメット1の軸回りの等角度間隔に複数を形成することが好ましい。防振グロメット1の軸回りの等角度間隔で複数の縦長溝5a及び傾斜溝5bを形成することにより、グロメット円錐台部1aの変形が軸回りについて均等になり、挿入孔201への挿入を円滑に行うことができる。
【0039】
縦長溝5a及び傾斜溝5bは、挿通孔2の内周部2a及びグロメット円錐台部1aの斜面部6で、防振グロメット1の軸回りの角度位置を異ならせることが好ましい。挿通孔2の内周部2a及びグロメット円錐台部1aの斜面部6で、縦長溝5a及び傾斜溝5bの角度位置が異なっていることにより、内周部2aの縦長溝5a及び斜面部6の傾斜溝5bが重なることによってグロメット円錐台部1aに極端な肉薄部が形成されることが防止される。極端な肉薄部が形成されないことにより、グロメット円錐台部1aは、挿入孔201への挿通のための変形が容易とされながらも、必要な剛性を維持することができる。
【0040】
なお、この防振グロメット1において、縦長溝5a及び傾斜溝5bは、
図1〜
図5に示したような各4箇所に限定されず、各2箇所、各3箇所、あるいは、各々を5箇所以上に形成してもよい。また、縦長溝5a及び傾斜溝5bの形状は、
図1〜
図5に示したような台形形状に限定されず、種々の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 防振グロメット
1a グロメット円錐台部
1b グロメット本体
1c 後端面
2 挿通孔
3 頂部
4 環状溝
5a 縦長溝
5b 傾斜溝
6 斜面部
200 支持板
201 挿入孔
202 被支持部材
203 ボルト孔
204 カラー
205 ボルト