(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842998
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】コエンザイムQ10フィルム製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/122 20060101AFI20210308BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20210308BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20210308BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20210308BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20210308BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20210308BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20210308BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20210308BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20210308BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20210308BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20210308BHJP
【FI】
A61K31/122
A61P39/06
A61K9/70
A61K47/36
A61K47/14
A61K8/02
A61K8/73
A61K8/35
A61K8/37
A61Q19/00
A23L33/10
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-106378(P2017-106378)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-203618(P2018-203618A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】301049744
【氏名又は名称】日清ファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】藤本 理夏子
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓子
(72)【発明者】
【氏名】前川 智宏
【審査官】
榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−077023(JP,A)
【文献】
特開2013−249283(JP,A)
【文献】
特開2009−029755(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/022187(WO,A1)
【文献】
特開平11−196785(JP,A)
【文献】
特表2010−504993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A23L 33/00−33/29
A61K 8/00− 8/99
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
A61Q 1/00−90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクテニルコハク酸澱粉で乳化されたコエンザイムQ10及びアルギン酸、その塩又はそのエステルから選ばれるアルギン酸類を含む、コエンザイムQ10フィルム製剤。
【請求項2】
オクテニルコハク酸澱粉が分子量2000以上である、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記アルギン酸類の配合量が製剤中、10〜94質量%である、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
オクテニルコハク酸澱粉とコエンザイムQ10を混合して乳化し、生成したコエンザイムQ10乳化物にアルギン酸、その塩又はそのエステルから選ばれるアルギン酸類を加えて混合してフィルム化することを特徴とする、コエンザイムQ10フィルム製剤の製造方法。
【請求項5】
前記オクテニルコハク酸澱粉が分子量2000以上である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルギン酸類の配合量が製剤中、10〜94質量%である、請求項4又は5に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱性に優れたコエンザイムQ10フィルム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ10(補酵素Q10)は全身のミトコンドリア内に存在するビタミン類似の脂溶性物質である。コエンザイムQ10は、酸化的リン酸化反応における電子伝達に補酵素として機能することから、全身のエネルギー産生に関与し、また抗酸化機能も有することから、細胞を酸化ストレスから保護している。コエンザイムQ10は鬱血性心不全等の心臓血管疾患に対する治療薬としてだけでなく、サプリメントや食品としても広く利用されている。しかし、コエンザイムQ10は融点の低い脂溶性物質であり、不安定で熱等によって分解してユビクロメノール等を生成するという問題がある。
【0003】
そのためコエンザイムQ10は、油に溶解してカプセルに充填した製剤としたり、賦形剤と共に粉末化して錠剤などの形態で利用されている。しかしながらカプセル剤や錠剤は、摂取する際に水と共に服用する必要があり、利便性にやや劣り、口から服用する以外の摂取ができないという問題があった。
【0004】
フィルム剤は、薄いフィルムの形態の製剤であり、そのまま口に含んで口中で溶解させて摂取することが可能である。フィルム形態は嚥下機能の低下した高齢者でも摂取しやすい形態であるため、非常に有用である。またフィルム形態は、皮膚に貼り付けて経皮的に吸収することも可能であり、利便性に優れる形態の製剤である。一方で薄いフィルム状であるため、割れたり欠けたりして被破壊性に劣る面があり、又フィルムが柔らかすぎても硬すぎても、包装から取出す等の操作に気を使う必要がある。
【0005】
特許文献1には、シクロデキストリンに包接させたサプリメント成分を、加食性フィルムに保持させたフィルム状食品が記載されている。特許文献2には、不安定性成分を、水溶性ポリマーフィルム中に組み込まれた組成物が記載されている。しかしながらこれらの発明のものでは、コエンザイムQ10を配合すると、フィルム形態にしようとすると割れやすくて取扱性に劣るものしか得られず、これを避けるため厚さを厚くすると、硬くなりすぎてやはり取扱性に劣るものになってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−72915号公報
【特許文献2】特開2008−503580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、コエンザイムQ10を含みながら、取扱性に優れたコエンザイムQ10フィルム製剤及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水溶性高分子又は乳化剤で乳化されたコエンザイムQ10及びアルギン酸、その塩又はそのエステルから選ばれるアルギン酸類を含む、コエンザイムQ10フィルム製剤、並びに水溶性高分子又は乳化剤とコエンザイムQ10を混合して乳化し、生成したコエンザイムQ10乳化物にアルギン酸、その塩又はそのエステルから選ばれるアルギン酸類を加えて混合してフィルム化することを特徴とする、コエンザイムQ10フィルム製
剤の製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明には以下の態様が含まれる。
(1)水溶性高分子又は乳化剤で乳化されたコエンザイムQ10及びアルギン酸、その塩又はそのエステルから選ばれるアルギン酸類を含む、コエンザイムQ10フィルム製剤。(2)前記水溶性高分子が分子量2000以上の加工澱粉である、(1)の製剤。
(3)前記乳化剤がショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤を含む、(1)又は(2)のいずれかの製剤。
(4)前記アルギン酸類の配合量が製剤中、10〜94質量%である、(1)〜(3)の製剤。
(5)水溶性高分子又は乳化剤とコエンザイムQ10を混合して乳化し、生成したコエンザイムQ10乳化物にアルギン酸、その塩又はそのエステルから選ばれるアルギン酸類を加えて混合してフィルム化することを特徴とする、コエンザイムQ10フィルム製剤の製造方法。
(6)前記水溶性高分子が分子量2000以上の加工澱粉である、(5)の製造方法。
(7)前記乳化剤がショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤を含む、(5)又は(6)のいずれかの製造方法。
(8)前記アルギン酸類の配合量が製剤中、10〜94質量%である、(5)〜(7)の製造方法。
【0010】
本発明のコエンザイムQ10フィルム製剤は、脂溶性のコエンザイムQ10を予め水溶性高分子又は乳化剤で乳化したコエンザイムQ10乳化物を、アルギン酸類を用いてフィルム化することによって製造することができる。
【0011】
本発明で用いられるコエンザイムQ10は、生体から抽出されたものや、合成法で製造されたもの、発酵法で製造されたもの等、公知の手段で得られたものが利用できる。本発明のフィルム製剤中のコエンザイムQ10配合量は、最大で72質量%程度まで配合可能である。コエンザイムQ10配合量が72質量%を超えると、フィルム化が困難になる。また、コエンザイムQ10を多くすると、乳化やフィルム化のための成分が相対的に少なくなるため、フィルム製剤の取扱性が低下する恐れがあり、一方でコエンザイムQ10を少なくすると、その効果が得られにくくなる。よって好ましくはコエンザイムQ10の配合量は、10〜60質量%程度であり、より好ましくは20〜55質量%程度である。
【0012】
本発明の製造方法では、コエンザイムQ10はフィルムを製する前に乳化されている必要がある。コエンザイムQ10は脂溶性であり、各種の水溶化成分や界面活性剤成分を用いて乳化することが可能である。本発明で乳化に用いる水溶性高分子としては、一般的に食品や医薬品分野において乳化に用い得る成分のうち、分子量が2000Da以上のものである。2000Da未満であると、得られるフィルム製剤の柔軟性が足りず、割れやすい製剤となる。分子量は好ましくは4000〜100万Daである。
【0013】
本発明で用いられる水溶性高分子としては、上記分子量のものであって、アラビアガム、キサンタンガム等のガム類、プルラン、水溶性大豆多糖類等の水溶性多糖類、オクテニルコハク酸澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉等の加工澱粉等が挙げられ、これらの中でも加工澱粉が好ましく、オクテニルコハク酸澱粉が最も好ましい。
本発明で用いられる乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン、サポニン、カゼイン、カゼインナトリウム等の食品用乳化剤として使用されている合成又は天然の乳化剤がいずれも使用できるが
、なかでも、ショ糖脂肪酸エステル又はグリセリン脂肪酸エステルは取扱性等の点から特に好ましい。
【0014】
コエンザイムQ10乳化物におけるコエンザイムQ10と水溶性高分子又は乳化剤の配合量は、特に限定されるものではないが、コエンザイムQ10は10〜80質量%、水溶性高分子又は乳化剤が10〜70質量%である。またコエンザイムQ10と水溶性高分子又は乳化剤との配合比率は、40:60〜70:30、好ましくは45:55〜60:40である。
【0015】
コエンザイムQ10乳化物には、コエンザイムQ10と水溶性高分子又は乳化剤に加えて、乳化助剤や乳化安定剤を加えてもよい。そのような成分としては、グリセリンやソルビトール等の多価アルコール、コハク酸、クエン酸等の有機酸等である。これらの乳化助剤や乳化安定剤の配合量は、コエンザイムQ10乳化物中30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0016】
コエンザイムQ10乳化物は、上記成分を混合し、高速撹拌や剪断処理等を行って、微細な粒子の乳化物を調製する。この際、コエンザイムQ10は室温では結晶であるため、加熱してコエンザイムQ10を溶解した状態で乳化物にするのが好ましい。例えば、コエンザイムQ10の融点より高い温度である45〜90℃でコエンザイムQ10を溶解し、その他の成分と混合し、次いで公知の手段、例えば高圧ホモジナイザーを使用して乳化物を調製してもよいし、水溶性高分子又は乳化剤を45〜90℃の水溶液にしておき、ここにコエンザイムQ10を徐々に加えながら乳化物を調製してもよい。なお水溶液とする場合、乳化直後は乳化液の状態であるが、これを一旦乾燥して粉末状にしてもよく、またはそのまま次工程のフィルム成形工程に供してもよい。
【0017】
上記のようにして得られたコエンザイムQ10乳化物は、次いで、アルギン酸類と混合後にフィルム剤として成形される。フィルム剤中のアルギン酸類の含有量は、10〜94質量%である。10質量%未満であると、フィルム剤が割れやすくなり、94質量%を超えると、フィルム剤が硬くなり、いずれも取扱性が低下する。アルギン酸類の配合量は、好ましくは30〜60質量%である。
なお、コエンザイムQ10の乳化とフィルム化を同一の工程で行ってフィルム剤として成形しようとしても、所望のコエンザイムQ10フィルム製剤を得ることはできない、本発明のコエンザイムQ10フィルム製剤を得るためには、まずコエンザイムQ10乳化物を生成した上で、これをアルギン酸類と混合後にフィルム剤として成形する必要がある。
【0018】
アルギン酸類としては、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸エステルが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アルギン酸塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等の1価塩;アルギン酸カルシウム等の2価塩;アルギン酸アンモニウム等の塩基性塩が挙げられる。アルギン酸エステルとしては、例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステルが挙げられる。これらのアルギン酸類の中でも特に、アルギン酸ナトリウムが好ましい。
【0019】
本発明のフィルム剤には、上記コエンザイムQ10乳化物及びアルギン酸類に加えて、必要に応じて、グリセリン等の可塑剤、甘味料、香料、着色料、乳化剤等を配合してもよく、その配合量はフィルム剤中20質量%以下程度である。
【0020】
本発明のフィルム剤のフィルム厚は、フィルム剤の使用態様により適宜設定することができるが、硬すぎず柔らかすぎず、取扱しやすさの観点からは、30〜500μm程度の厚さにするのが好ましい。
【0021】
本発明のフィルム剤を製造するに当り、コエンザイムQ10乳化物を生成した後のフィルム化自体は公知の方法で行うことができ、例えば、上記原料を水に分散するか、前記の乳化液にアルギン酸類を加え、この分散液を平滑な平面に塗布し、乾燥することで製造することができる。別法としては、上記原料を好ましくは粉末状にして均一に混合し、40〜70℃程度の熱をかけながらハンマーやローラー等で圧延して製造することができる。また、ゆっくりと回転するローラー上に先の分散液を塗布し、ローラーを回転しながら熱風等で乾燥しながら剥離することで、連続的に製造することもできる。
【0022】
本発明のコエンザイムQ10フィルム製剤は、適当なサイズ、例えば、1cm×2cm程度のシート状にして、そのまま服用して舐め溶かして摂取してもよいし、皮膚にテープ剤を介して貼り付けて、経皮吸収製剤として利用してもよい。したがって本発明のコエンザイムQ10フィルム製剤は、医薬品、食品、化粧料としての利用が可能である。
【実施例】
【0023】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム(分子量4500Da、松谷化学工業製)10gに精製水100gを加え、溶解して約60℃まで加温した。これにコエンザイムQ10(日清ファルマ製)10gを添加して混合し、高圧ホモジナイザーで均一な乳化液を製造した。乳化液にアルギン酸ナトリウム(キミカ製)80gを加えてよく混合した。この液をステンレス製のトレイ上に薄く広げ60℃の恒温槽で乾燥し、フィルム製剤を製造した。ほぼ平滑なフィルム剤が得られ、厚さは約400μmであった。
【0025】
(比較例1)
オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム(松谷化学工業製)10gに精製水100gを加え、溶解して約60℃まで加温した。これにコエンザイムQ10(日清ファルマ製)10g及びアルギン酸ナトリウム(キミカ製)80gを添加して高速撹拌混合した。この液をステンレス製のトレイ上に薄く広げ60℃の恒温槽で乾燥し、フィルム製剤を製造した。やや厚みにムラがあるが、平均的な厚さは約400μmであった。
【0026】
(比較例2)
γシクロデキストリン(分子量1300Da、シクロケム製)10gに精製水100gを加え、溶解して約60℃まで加温した。これにコエンザイムQ10(日清ファルマ製)10gを添加して混合し、包接体溶液を製造した。この包接体溶液にアルギン酸ナトリウム(キミカ製)8
0gを加えてよく混合した。この液をステンレス製のトレイ上に薄く広げ60℃の恒温槽で乾燥し、フィルム製剤を製造した。シワが多いフィルム剤であり、平均的な厚さは約400μmであった。
【0027】
(試験例1)
実施例1及び比較例1〜2のフィルム製剤4cm×4cmのシート状に切出し、90度即ち直角に折り曲げ、次に反対方向に折り曲げる操作を繰り返し行って、シートの折り曲げしやすさ及び割れやすさを評価した。評価は10回行い、それぞれ下記評価基準に従って行った。その結果を10回の平均値として表1に示す。
【0028】
(評価点)
5:適度に折り曲げに対する粘りがあり、繰り返し折り曲げても割れない
4:折り曲げに粘りがあるが、5回折り曲げると割れる
3:折り曲げに粘りがあるが、3回折り曲げると割れる
2:やや硬くて2回折り曲げると割れる
1:硬くて1回折り曲げ中に割れるか又は折り曲げできない
【0029】
【表1】
【0030】
(実施例2〜8)
配合量を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にフィルム製剤を製造した。各製造例を試験例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】