特許第6843023号(P6843023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843023
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】電子線照射装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/00 20060101AFI20210308BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20210308BHJP
   A61L 2/08 20060101ALI20210308BHJP
   B01J 19/12 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   G21K5/00 C
   G21K5/04 E
   A61L2/08 108
   B01J19/12 C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-174435(P2017-174435)
(22)【出願日】2017年9月12日
(65)【公開番号】特開2019-49499(P2019-49499A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 龍太
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 武史
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/175065(WO,A1)
【文献】 特開2017−122691(JP,A)
【文献】 特開2016−176943(JP,A)
【文献】 特開昭57−158600(JP,A)
【文献】 特開2014−134548(JP,A)
【文献】 特開2009−35330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00
G21K 5/04
A61L 2/08
B01J 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電子線発生器が配置された真空チャンバと、この真空チャンバに気密に接続されて前記電子線発生器からの電子線を導く真空ノズルと、この真空ノズルの先端に配置されて前記電子線を当該真空ノズルの内部から外部まで透過させる窓箔と、前記真空ノズルの外周を囲うように設けられる外周管と、前記真空ノズルと外周管との隙間である冷媒路に冷却用の気体を供給する冷却気体供給部とを備える電子線照射装置であって、
前記窓箔に密着するとともに前記真空ノズルの先端に接触する熱伝透過箔を備え、
前記熱伝透過箔が、熱伝導率[W/(m・K)]を密度[kg/m]で除した値が63×10−3以上の材質で構成されたものであり、
前記真空ノズルの少なくとも先端部が、熱伝導率が銅以上の材質で構成されたものであることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
熱伝透過箔が、ベリリウム、カーボン材、アルミニウム若しくはケイ素、またはこれらの化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
窓箔および熱伝透過箔のうち耐食性の低い方が、真空ノズル側にして配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
真空ノズルの先端と熱伝透過箔または窓箔との間に接着部材を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電子線照射装置の製造方法であって、
窓箔に熱伝透過箔を密着させて積層箔とする積層箔形成工程と、当該積層箔を真空ノズルの先端に配置する積層箔配置工程と、当該真空ノズルを真空チャンバに接続する接続工程とを備え、
前記積層箔形成工程が、前記窓箔と熱伝透過箔との密着を、圧接で行うことを特徴とする電子線照射装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ノズルの先端から電子線を照射する電子線照射装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空ノズルを備える電子線照射装置は、当該真空ノズルの先端から電子線を照射するという特性から、真空ノズルを容器などの開口部に挿入して電子線を照射することで、当該容器の内面を滅菌することが可能である。このような電子線照射装置は、飲食品用または医療用などの容器の滅菌に使用されている。
【0003】
飲食用または医療用などの容器は、大量に使用されるものであるから、滅菌においても、大量に行われる必要がある。このため、このような滅菌を行う電子線滅菌設備には、通常、多くの電子線照射装置が設けられている(例えば、特許文献1の図11参照)。また、電子線滅菌設備では、電子線の照射により、オゾンガス、硝酸ガスおよびX線など、有害な気体および電磁波が発生するので、これらを対処する装置もある。このため、電子線滅菌設備は、一般に、大型化および複雑化しやすい。
【0004】
したがって、電子線滅菌設備では簡素化が望まれており、そのためには、電子線滅菌設備の主要な構成装置である個々の電子線照射装置を、簡素な構成にする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5753047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に記載の電子線照射装置は、出口窓8(以下では窓箔という)が支持体26(以下ではグリッドという)で支持された構成である。このような構成では、グリッドが電子線の照射を妨げるので、照射する電子線の歩留りが低くなる。このため、前記電子線照射装置では、電子線の必要な照射を得るために、高出力の電子線を発生させなければならない。その結果、高出力の電子線を透過させる窓箔の発熱も大きくなるので、窓箔を十分に冷却するために、窓箔に冷却用の気体を直射させるような複雑な冷却機構が必要になる(特許文献1の図1a参照)、という問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、窓箔を冷却するための複雑な構成を不要にした、簡素な構成の電子線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、第1の発明に係る電子線照射装置は、内部に電子線発生器が配置された真空チャンバと、この真空チャンバに気密に接続されて前記電子線発生器からの電子線を導く真空ノズルと、この真空ノズルの先端に配置されて前記電子線を当該真空ノズルの内部から外部まで透過させる窓箔と、前記真空ノズルの外周を囲うように設けられる外周管と、前記真空ノズルと外周管との隙間である冷媒路に冷却用の気体を供給する冷却気体供給部とを備える電子線照射装置であって、
前記窓箔に密着するとともに前記真空ノズルの先端に接触する熱伝透過箔を備え、
前記熱伝透過箔が、熱伝導率[W/(m・K)]を密度[kg/m]で除した値が63×10−3以上の材質で構成されたものであり、
前記真空ノズルの少なくとも先端部が、熱伝導率が銅以上の材質で構成されたものである。
【0009】
また、第2の発明に係る電子線照射装置は、第1の発明に係る電子線照射装置における熱伝透過箔が、ベリリウム、カーボン材、アルミニウム若しくはケイ素、またはこれらの化合物である。
【0010】
さらに、第3の発明に係る電子線照射装置は、第1または第2の発明に係る電子線照射装置において、窓箔および熱伝透過箔のうち耐食性の低い方が、真空ノズル側にして配置されたものである。
【0011】
加えて、第4の発明に係る電子線照射装置は、第1乃至第3のいずれかの発明に係る電子線照射装置において、真空ノズルの先端と熱伝透過箔または窓箔との間に接着部材を備えるものである。
【0012】
また、第5の発明に係る電子線照射装置の製造方法は、第1乃至第4のいずれかの発明に係る電子線照射装置の製造方法であって、
窓箔に熱伝透過箔を密着させて積層箔とする積層箔形成工程と、当該積層箔を真空ノズルの先端に配置する積層箔配置工程と、当該真空ノズルを真空チャンバに接続する接続工程とを備え、
前記積層箔形成工程が、前記窓箔と熱伝透過箔との密着を、圧接で行う方法である。
【発明の効果】
【0013】
前記電子線照射装置およびその製造方法によると、窓箔が十分に冷却されるので、窓箔を冷却にするための複雑な構成が不要になり、その結果、簡素な構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
図2】同電子線照射装置の要部を拡大した要部拡大図である。
図3】同電子線照射装置における積層箔および接着部材を示す縦断面の分解斜視図である。
図4】本発明の実施例に係る電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
図5】同電子線照射装置の要部の一つである真空ノズルの先端部を拡大した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る電子線照射装置について、図1および図2に基づき説明する。
【0016】
図1に示すように、この電子線照射装置1は、内部に電子線発生器21が配置された真空チャンバ2と、この真空チャンバ2に気密に接続されて前記電子線発生器21からの電子線Eを導く真空ノズル3と、この真空ノズル3の先端に配置されて前記電子線Eを当該真空ノズル3の内部から外部まで透過させる窓箔4とを備える。
【0017】
前記真空チャンバ2は、前記電子線発生器21からの電子線Eを加速するために、内部が真空にされる。前記電子線発生器21は、電子線Eを発生させるための電力を、図示しないが、例えば前記真空チャンバ2の外部に配置された電源から供給される。前記真空ノズル3は、当該真空チャンバ2とともに内部が真空にされる。前記窓箔4は、前記真空ノズル3の先端を密封し、透過させた電子線Eを当該真空ノズル3の外部に照射させる。前記電子線Eの透過により窓箔4が発熱するので、この窓箔4を冷却するために、前記電子線照射装置1は以下の構成を備える。
【0018】
すなわち、図2に示すように、前記電子線照射装置1は、さらに、前記真空ノズル3の外周を囲うように設けられる外周管7と、前記真空ノズル3と外周管7との隙間8である冷媒路8に冷却用の気体C(例えば空気)を供給する冷却気体供給部9と、前記窓箔4に密着するとともに前記真空ノズル3の先端に接触する高熱伝導率で低密度の熱伝透過箔6とを備える。加えて、前記真空ノズル3の少なくとも先端部が、熱伝導材料(熱伝導率が銅以上の材質)で構成される。言い換えれば、前記電子線照射装置1は、窓箔4の熱が熱伝透過箔6により速やかに前記真空ノズル3の先端部に伝えられ、こうして伝えられた熱が前記真空ノズル3と外周管7との隙間8に供給された冷却用の気体Cに速やかに奪われる構成である。このため、窓箔4が十分に冷却されることから、前記外周管7は、冷却用の気体Cを窓箔4に直射させる必要がなくなるので、内径が一定(公差など製造上の誤差を含む)の管が採用される。なお、前記真空ノズル3の熱伝導材料(熱伝導率が銅以上の材質)で構成される先端部は、窓箔4から伝えられた熱が冷却用の気体Cに速やかに奪われる長さであればよく、例えば、前記真空ノズル3の内径の4倍以上の長さである。前記先端部が真空ノズル3の内径の4倍以上であれば、冷却用の気体Cに晒される先端部の面積は、窓箔4の面積(正確には真空ノズル3の内側における面積)の16倍以上、つまり、先端部に窓箔4から伝えられた熱が冷却用の気体Cに速やかに奪われる面積となる。
【0019】
上述した、高熱伝導率で低密度の熱伝透過箔6とは、熱伝導率[W/(m・K)]を密度[kg/m]で除した値が63×10−3以上の材質からなる箔であり、数式で表すと次の(1)を満たす材質からなる箔である。
熱伝導率[W/(m・K)]/密度[kg/m]≧63×10−3・・・(1)
【0020】
前記熱伝透過箔6は、高熱伝導率により窓箔4の熱を速やかに前記真空ノズル3の先端部に伝えるだけでなく、低密度により電子線Eが透過しても発熱しにくいものである。前記熱伝透過箔6の具体的な材料の例、つまり、上述した数式(1)を満たす材料の例としては、ベリリウム、カーボン材(例えば、グラファイト、グラフェン、またはカーボンナノチューブなど)、アルミニウム若しくはケイ素、またはこれらの化合物である。なお、前記窓箔4と、この窓箔4に密着された熱伝透過箔6とを、以下ではまとめて積層箔46という。
【0021】
ここで、真空ノズル3の先端部と熱伝透過箔6とは、これら3,6の材料によっては接着しにくい場合もある。この場合、縦断面の分解斜視図である図3に示すように、真空ノズル3の先端および熱伝透過箔6のいずれにも接着しやすい接着部材36を介在させてもよい。この接着部材36は、電子線Eを妨げないためにも、輪形状のものが採用される。接着部材36が介在した場合でも、熱伝透過箔6の熱を真空ノズル3の先端部に速やかに伝えるために、熱伝透過箔6と真空ノズル3の先端とを接触させるのが好ましい。なお、図3に示した構成の他に、真空ノズル3の先端および窓箔4のいずれにも接着しやすい接着部材36を介在させて、真空ノズル3の先端および窓箔4を間接的に接着させる構成でもよい。
【0022】
熱伝透過箔6の熱を真空ノズル3の先端部に速やかに伝えるという観点からは、熱伝透過箔6と真空ノズル3の先端との両接触面を滑らか(例えば、算術平均粗さRa≦0.4)にすることが好ましい。勿論、これらの両接触面は、滑らかにされることで、熱が速やかに伝えられるだけでなく、より気密に接続されることになる。
【0023】
以下、前記電子線照射装置1の製造方法について説明する。
【0024】
この前記電子線照射装置1の製造方法は、窓箔4に熱伝透過箔6を密着させて積層箔46とする積層箔形成工程と、当該積層箔46を真空ノズル3の先端に配置する積層箔配置工程と、当該真空ノズル3を真空チャンバ2に接続する接続工程とを備える。これらの工程において、積層箔形成工程の後に積層箔配置工程となるが、接続工程の順序はどこでもよい。
【0025】
前記積層箔形成工程は、前記窓箔4と熱伝透過箔6との密着を、圧接で行う。ここで、圧接とは、窓箔4と熱伝透過箔6との両接触面を密着させ、熱および/または圧力を加えることで、それぞれ4,6の原子同士を金属融合させて接合する方法であり、例えば拡散接合である。積層箔46が圧接で形成されることにより、窓箔4と熱伝透過箔6との密着が強固になる。このため、積層箔46は、内部が真空の真空ノズル3を密閉することで受ける大きな気圧、および、電子線Eの透過による発熱のような厳しい条件での使用においても、破損しにくくなる。
【0026】
前記積層箔配置工程は、形成された積層箔46を真空ノズル3の先端に配置するために、例えばろう付けにより、前記積層箔46を真空ノズル3の先端に接着させる。
【0027】
前記接続工程は、真空チャンバ2と真空ノズル3とを、直接的に接続し、または、図示しないフランジなどを介して間接的に接続する。この接続工程での真空チャンバ2は、既に電子線発生器21および電源などの必要な機器が配置されたものでもよく、または、当該接続工程の後に必要な機器を真空チャンバ2に配置してもよい。
【0028】
以下、前記電子線照射装置1の動作について説明する。
【0029】
まず、図示しない電源から電子線発生器21に電力を供給することで、図1および図2に示すように、電子線発生器21から電子線Eを発生させる。この電子線Eは、真空チャンバ2および真空ノズル3の内部で加速されるとともに、真空ノズル3に案内された後、積層箔46を透過する。これにより、主として窓箔4が発熱するが、この窓箔4の熱が熱伝透過箔6により速やかに前記真空ノズル3の先端部に伝えられる。こうして伝えられた熱が、前記真空ノズル3と外周管7との隙間8に供給された冷却用の気体Cに速やかに奪われる。このため、窓箔4が十分に冷却される。
【0030】
このように、前記電子線照射装置1によると、窓箔4が十分に冷却されるので、窓箔4を冷却にするための複雑な構成が不要になり、その結果、簡素な構成にすることができる。
【0031】
また、熱伝透過箔6が、ベリリウム、カーボン材、アルミニウム若しくはケイ素、またはこれらの化合物のような、入手容易な材料から構成されるので、一層簡素な構成にすることができる。
【0032】
さらに、図3に示す接着部材36を介在させた場合、熱伝透過箔6が真空ノズル3の先端に強固に接着されるので、耐久性を向上させることができる。
【0033】
加えて、前記電子線照射装置1の製造方法によると、圧着により、窓箔4と熱伝透過箔6との密着が強固になるので、耐久性を一層向上させることができる。
【0034】
ところで、前記実施の形態では、真空ノズル3の少なくとも先端部が熱伝導材料(熱伝導率が銅以上の材質)として説明したが、これは、真空ノズル3の少なくとも先端部において、窓箔4からの熱を冷却用の気体Cに奪わせるためである。このため、真空ノズル3における熱伝導材料(熱伝導率が銅以上の材質)の部分は、できる限り大きな面積で冷却用の気体Cに晒される方が好ましい。すなわち、真空ノズル3における熱伝導材料(熱伝導率が銅以上の材質)の部分は、外周管7に囲われる部分の全てであることが好ましい。なお、図1および図2に示すように、真空ノズル3の全てが熱伝導材料(熱伝導率が銅以上の材質)で構成されると、冷却用の気体Cだけでなく、外周管7に囲われていない部分からも熱が奪われるので、一層好ましい。
【0035】
また、前記実施の形態では、積層箔46において、熱伝透過箔6が真空ノズル3側として図示したが、窓箔4が真空ノズル3側でもよい。積層箔46において、耐食性の低い方を真空ノズル3側にすることで、腐食しにくくなるので、耐久性を一層向上させることができる。
【0036】
さらに、前記実施の形態では、冷却気体供給部9が冷却用の気体Cを供給するものとして説明したが、冷却気体供給部9が冷却用の気体Cを供給および回収する(つまり冷却用の気体Cを循環させる)ものであってもよい。なお、冷却気体供給部9の代わりに、冷却用の液体(水または油など)を供給および循環させる冷却液体供給部を採用してもよい。これにより、冷却用の液体が効率よく先端部から熱を奪うことになるので、一層好ましい。
【0037】
加えて、前記実施の形態では、真空ノズル3の先端部における外面が平坦であるとして図示したが、当該先端部の外面に多数の溝を形成することで、冷却用の気体Cに晒される当該先端部の面積を増やしてもよい。特に、これら多数の溝を真空ノズル3の軸に直交する方向に形成する(つまり多数の周溝にする)ことで、冷却用の気体Cが効率よく先端部から熱を奪うことになるので、一層好ましい。勿論、これら多数の溝は、多数の突条でもよい。また、先端部から熱が一層効率よく冷却用の気体Cに奪われるようにするために、前記先端部に冷却用のフィンを設けてもよい。
【0038】
また、前記実施の形態では、熱伝透過箔6の形状および厚さについて具体的に説明しなかったが、窓箔4の熱を速やかに前記真空ノズル3の先端部に伝え、且つ、低密度により電子線Eが透過しても発熱しにくいものであればよい。例えば、窓箔4が大気に晒されることにより奪われる熱以外(対流熱伝達および熱輻射以外)を、全て真空ノズル3の先端部に伝える厚さが好ましい。具体的には、窓箔4が厚さ5μmのチタン箔で、且つ熱伝透過箔6が厚さ8μmのアルミニウム箔であれば、電子線Eの透過により当該チタン箔に発生する熱のうち約99%以上が真空ノズル3の先端部に伝えられて、冷却される。このため、チタン箔に残る熱は、僅かなので、チタン箔が大気に晒されることにより十分に奪われる。したがって、チタン箔の温度上昇が抑えられる。比較のために、熱伝透過箔6が無い従来の場合(つまり窓箔4のみの場合)で、窓箔4が厚さ10μmのチタン箔であれば、電子線Eの透過により当該チタン箔に発生する熱のうち約75%が真空ノズル3の先端部に伝えられて、冷却される。このため、チタン箔に残る熱は、僅かではないので、チタン箔が大気に晒されても十分に奪われない。したがって、チタン箔の温度上昇が抑えられない。
【0039】
これを確かめるためのシミュレーションを行った。まず条件として、チタン箔およびアルミニウム箔の厚さをそれぞれ上述の通りにし、真空ノズル3の内径を4mmにし、真空ノズル3の先端および基端の温度がそれぞれ700Kおよび400Kとなるように電子線Eを発生させた。その結果、真空ノズル3の先端に配置された箔がチタン箔(厚さ5μm)およびアルミニウム箔(厚さ8μm)の場合、強制空冷が無くても、前記チタン箔は7.6Wも冷却された。これに対して、真空ノズル3の先端に配置された箔がチタン箔(厚さ10μm)のみの場合、強制空冷が有っても、前記チタン箔は1.2Wしか冷却されなかった。したがって、真空ノズル3の先端に配置された箔は、窓箔4および熱伝透過箔6である方が、つまり積層箔46である方が、大電流の電子線Eに耐え得るといえる。
【実施例】
【0040】
以下、前記実施の形態をより具体的に示した実施例に係る電子線照射装置1について図面に基づき説明する。以下、前記実施の形態で省略した構成に着目して説明するとともに、前記実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
図4に示すように、本実施例に係る電子線照射装置1は、真空チャンバ2および真空ノズル3の内部を真空にするための真空ポンプ12と、当該真空チャンバ2と真空ポンプ12とを接続する真空L字管13とを備える。また、前記電子線照射装置1は、前記真空ノズル3を真空チャンバ2に固定するとともに冷媒路8に冷却用の気体Cを導く外部フランジ18と、当該外部フランジ18と冷却気体供給部9とを接続する冷媒管19とを備える。
【0042】
前記真空チャンバ2は、電子線発生器21を固定するための内部フランジ22を有する。この内部フランジ22は、真空チャンバ2における真空ノズル3とは反対側の端部に配置される。なお、前記真空ノズル3は、銅合金で構成される。前記真空ポンプ12は、真空チャンバ2および真空ノズル3の内部を、電子線Eを加速するのに適した真空度(高真空〜超高真空)にし得る性能を有する。前記真空L字管13は、前記真空ポンプ12の軸を前記真空チャンバ2の軸と平行にしつつも、真空チャンバ2の内部における電子線Eから真空ポンプ12を遠ざける位置にする。これにより、真空ポンプ12で磁気が発生しても、その磁気から電子線Eが受ける影響を小さくし得る。
【0043】
前記外部フランジ18は、真空チャンバ2に対して片持ちとなる真空ノズル3を安定して保持するとともに、冷媒管19から冷媒路8までの構造、つまり、冷却用の気体Cを冷媒管19から冷媒路8まで導く構造を簡素にする。前記冷媒管19は、特に限定されないが、冷却用の気体Cが真空ノズル3以外の熱(余分な熱)を奪わないためにも、短い方が好ましい。
【0044】
図5に示すように、窓箔4は、電子線Eを透過させるとともに、内部が真空の真空ノズル3を密閉することで受ける大きな気圧に耐え得るものであれば限定されないが、例えばチタン箔が採用され、その厚さが均一で1μm〜10μm程度(好ましくは3μm〜5μm程度)である。熱伝透過箔6は、例えばアルミニウム箔が採用され、その厚さが同様に均一で2μm〜20μm程度(好ましくは5μm〜15μm程度)である。このように、窓箔4および熱伝透過箔6からなる(厳密には後述する境界層5も存する)積層箔46は、極めて薄い上に常に大きな気圧を受けているので、不慮の衝突などにより割れやすい。このため、真空ノズル3の先端に配置された積層箔46が外周管7に十分に囲われるような構造、すなわち、外周管7の先端を真空ノズル3の先端よりも突出させた構造にする。なお、この突出させる長さは、積層箔46が外周管7で保護される程度であればよいが、例えば真空ノズル3の内径以上である。
【0045】
以下、前記電子線照射装置1の製造方法について説明する。
【0046】
積層箔形成工程として、前記窓箔4と熱伝透過箔6との密着を、拡散接合で行う。拡散接合により、図5に示すように、窓箔4と熱伝透過箔6との境界に、窓箔4の材料と熱伝透過箔6の材料との化学結合により境界層5が形成される。この境界層5は、窓箔4と熱伝透過箔6とが密着するための厚さで足りる。したがって、拡散接合に要する時間は、境界層5が当該厚さに至るまでで足りる。
【0047】
以下、前記電子線照射装置1の動作について説明する。
【0048】
まず、図4に示すように、真空ポンプ12により、真空チャンバ2および真空ノズル3の内部を、電子線Eを加速するのに適した真空度(高真空〜超高真空)にする。次に、図示しない電源から電子線発生器21に電力を供給することで、電子線発生器21から電子線Eを発生させる。この電子線Eは、真空チャンバ2および真空ノズル3の内部で加速されるとともに、真空ノズル3に案内された後、積層箔46を透過する。これにより、主として窓箔4が発熱するが、この窓箔4の熱が熱伝透過箔6により速やかに前記真空ノズル3の先端部に伝えられる。真空ノズル3は全て銅合金で構成されているので、熱伝透過箔6からの熱は真空ノズル3全体に伝えられる。こうして伝えられた真空ノズル3の熱の多くは、前記真空ノズル3と外周管7との隙間8に供給された冷却用の気体Cに速やかに奪われる。このため、窓箔4が十分に冷却される。
【0049】
このように、本実施例に係る電子線照射装置1によると、前記実施の形態に係る電子線照射装置1の効果に加えて、次の効果も奏する。すなわち、図5に示すように、本実施例に係る積層箔46は、窓箔4と熱伝透過箔6と密着を強固にする境界層5を有するとともに、外周管7に囲われており、さらに、図4に示すように、真空ノズル3が外部フランジ18に固定されることで真空チャンバ2に接続されているので、耐久性をより一層向上させることができる。
【0050】
ここで、前記実施例において、真空ノズル3の詳細を具体的に定めた上でのシミュレーション結果は、次のようになった。すなわち、真空ノズル3の長さを150mm、内径を4mm、肉厚を1mm、および材料を銅にして、真空ノズル3の先端および基端の温度がそれぞれ400Kおよび300Kとなるように電子線Eを発生させた場合、7.48Wもの熱量が奪われて、冷却が十分にされた。比較のために、真空ノズル3の材料をステンレスに変更して、それ以外は同一の条件にした場合、1.64Wの熱量のみが奪われて、冷却が十分にされなかった。
【0051】
ところで、前記実施の形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態および実施例で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
C 冷却用の気体
E 電子線
1 電子線照射装置
2 真空チャンバ
3 真空ノズル
4 窓箔
6 熱伝透過箔
7 外周管
8 隙間(冷媒路)
9 冷却気体供給部
21 電子線発生器
図1
図2
図3
図4
図5