【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の第1の実施例に係る油圧ショベルの斜視図である。
図1に示すように、油圧ショベル600は、車体である下部走行体9および上部旋回体10と、作業装置15とを備えている。下部走行体9は左右のクローラ式走行装置を有し、左右の走行油圧モータ3b(左側のみ図示)により駆動される。上部旋回体10は下部走行体9上に旋回可能に搭載され、旋回油圧モータ4により旋回駆動される。上部旋回体10には、原動機としてのエンジン14と、エンジン14により駆動される油圧ポンプ装置2と、後述するコントロールバルブ20とを備えている。
【0015】
作業装置15は、上部旋回体10の前部に上下方向に回動可能に取り付けられている。上部旋回体10には運転室が備えられ、運転室内には走行用右操作レバー装置1a、走行用左操作レバー装置1b、作業装置15の動作及び上部旋回体10の旋回動作を指示するための操作装置である右操作レバー装置1c、左操作レバー装置1d等の操作装置が配置されている。
【0016】
右操作レバー装置1cは、例えば前後方向のレバー操作に応じてブーム11の動作を指示する信号(ブーム操作信号)を出力し、例えば左右方向のレバー操作に応じてバケット8の動作を指示する信号(バケット操作信号)を出力する。すなわち、本実施例における右操作レバー装置1cは、ブーム11を操作するためのブーム操作装置と、バケット8を操作するためのバケット操作装置とを構成している。
【0017】
左操作レバー装置1dは、例えば前後方向のレバー操作に応じて上部旋回体10の動作を指示する信号(旋回操作信号)を出力し、例えば左右方向のレバー操作に応じてアーム12の動作を指示する信号(アーム操作信号)を出力する。すなわち、本実施例における左操作レバー装置1dは、上部旋回体10を操作するための旋回操作装置と、アーム12を操作するためのアーム操作装置とを構成している。
【0018】
作業装置15は、相互に回動可能に連結された被駆動部材であるブーム11、アーム12、バケット8を有する多関節構造である。ブーム11は上部旋回体10の前側に上下方向に回動可能に連結されており、アーム12はブーム11の先端部に上下または前後方向に回動可能に連結されており、バケット8はアームの先端部に上下または前後方向に回動可能に連結されている。ブーム11はブームシリンダ5の伸縮により上部旋回体10に対して上下方向に回動し、アーム12はアームシリンダ6の伸縮によりブーム11に対して上下または前後方向に回動し、バケット8はバケットシリンダ7の伸縮によりアーム12に対して上下または前後方向に回動する。
【0019】
作業装置15の任意の点の位置を算出するために、油圧ショベル600は、上部旋回体10とブーム11との連結部近傍に設けられ、ブーム11の水平面に対する角度(ブーム角度)を検出する第1姿勢センサ13aと、ブーム11とアーム12との連結部近傍に設けられ、アーム12の水平面に対する角度(アーム角度)を検出する第2姿勢センサ13bと、アーム12とバケット8とを連結するバケットリンク8aに設けられ、バケットリンク8aの水平面に対する角度(バケット角度)を検出する第3姿勢センサ13cと、水平面に対する上部旋回体10の傾斜角度(ロール角、ピッチ角)を検出する車体姿勢センサ13dとを備えている。なお、第1姿勢センサ13aから第3姿勢センサ13cは相対角度を検出するセンサであってもよい。
【0020】
これらの姿勢センサ13a〜13dが検出した角度は姿勢信号として、後述する情報処理装置100に入力されている。姿勢センサ13a〜13dは、油圧ショベル600の車体および作業装置15の姿勢を検出する姿勢検出装置を構成している。
【0021】
コントロールバルブ20は、油圧ポンプ装置2から上述した旋回油圧モータ4、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、及び左右の走行油圧モータ3b等のアクチュエータのそれぞれに供給される圧油の流れ(流量と方向)を制御する。
【0022】
図2は、油圧ショベル600に搭載された制御システムの構成図である。
図2に示すように、制御システム500は、作業装置15の所定位置にある作業点(例えばバケット先端)を目標面に沿って移動させる際の補正速度信号を生成する情報処理装置100と、前記補正速度信号に応じてコントロールバルブ20の駆動信号を生成する制御弁駆動装置200とを含む。情報処理装置100は、例えば図示しないCPU(Central Processing Unit)と、CPUによる処理を実行するための各種プログラムを格納するROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disc Drive)などの記憶装置と、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)とを含むハードウェアを用いて構成されている。
【0023】
情報処理装置100は、右操作レバー装置1cからのブーム操作信号およびバケット操作信号と、左操作レバー装置1dからの旋回操作信号およびアーム操作信号とを受信し、第1姿勢センサ13a、第2姿勢センサ13b、第3姿勢センサ13c、及び車体姿勢センサ13dからそれぞれ第1姿勢情報、第2姿勢情報、第3姿勢情報、及び車体姿勢情報を受信し、設計データ入力装置18から設計面情報を受信し、補正速度信号を演算して制御弁駆動装置200に送信する。制御弁駆動装置200は、前記補正速度信号に応じて、制御弁駆動信号を生成し、コントロールバルブ20を駆動する。
【0024】
図3は、
図2に示す情報処理装置100の機能ブロック図である。
図3に示すように、情報処理装置100は、目標面設定部110と、目標速度演算部120と、目標速度補正部130とを含む。以下、公知技術を用いる目標面設定部110と目標速度補正部130については概要を述べ、目標速度演算部120については詳細を述べる。
【0025】
目標面設定部110は、姿勢センサ13a〜13dからの姿勢情報に応じて、設計データ入力装置18から入力される設計面情報から作業対象とする目標面の位置情報を抽出し、目標速度演算部120および目標速度補正部130へ出力する。なお、作業対象とする目標面の位置情報を抽出するに当たっては、作業装置15先端の鉛直下方にある設計面を目標面としてもよいし、鉛直下方に設計面が存在しない場合は作業装置15先端に対して前方あるいは後方にある設計面を目標面としてもよい。
ここで、目標面は角度と高さによって表される。目標面と車体との位置関係を
図8に示す。目標面角度は車体の前方向に対して目標面がなす角度とし、目標面高さはブーム11の回動中心から目標面までの垂直距離とする。
【0026】
図4は、本実施例における目標速度演算部120の機能ブロック図である。
図4に示すように、目標速度演算部120は、操作信号補正部121と、作業点速度演算部122とを含み、操作信号と姿勢情報と目標面の位置情報(角度と高さ)とに応じて、目標速度信号を演算し出力する。操作信号補正部121は、所定のデータテーブル(以下、補正係数決定テーブル)に基づいて、目標面の角度と高さに応じた補正係数k(0≦k≦1)を決定し、補正係数kをアーム12の操作信号に乗じ、また、(1−k)をブーム11の操作信号に乗じて、補正操作信号として出力する。
【0027】
図5は、補正係数決定テーブルの一例を示す図である。
図5に示すように、目標面角度の絶対値および目標面高さの絶対値が小さくなるにつれて、補正係数kは1に近づき、目標速度に対するアーム操作信号の寄与が大きくなり、かつ、目標速度に対するブーム操作信号の寄与が小さくなる。一方、目標面角度の絶対値および目標面高さの絶対値が大きくなるにつれて、補正係数kは0に近づき、目標速度に対するブーム操作信号の寄与が大きくなり、かつ、目標速度に対するアーム操作信号の寄与が小さくなる。なお、
図5中の斜線部は、作業装置15が届かず作業対象とできない範囲であるため、補正の対象とはしない。
【0028】
図4に戻り、作業点速度演算部122は、補正操作信号と姿勢情報に応じて、作業装置15の作業点(例えばバケット先端)に生じる速度を演算し、目標速度信号として出力する。
【0029】
図3に戻り、目標速度補正部130は、前記目標速度が目標面に近づく方向であれば、姿勢情報と目標面の位置情報とを用いて演算する目標面との距離に応じて、目標速度演算部120から得る目標速度信号のうち、目標面に対して垂直な成分の大きさが小さくなるように補正する。前記距離が大きければ、許容される前記垂直な成分の大きさは大きく、前記距離が小さければ小さい。これにより、作業装置15の作業点が目標面に侵入することを防ぐことができる。
【0030】
本実施例に係る油圧ショベル600の動作を
図9〜
図12を用いて説明する。
【0031】
図9は、油圧ショベル600が車体前方に位置する水平な目標面を掘削する様子を示す図であり、
図10は、油圧ショベル600が車体前方に位置する鉛直の目標面を掘削する様子を示す図である。
【0032】
図11および
図12は、油圧ショベル600が
図9および
図10に示す掘削動作を行った際の各種信号の時系列変化を表した概略図である。
図11および
図12はそれぞれ、(a)アーム12の操作信号および補正後の操作信号を表した図(補正前は点線、補正後は実線)、(b)ブーム11の操作信号および補正後の操作信号を表した図(補正前は点線、補正後は実線)、(c)目標速度補正部から出力される補正速度信号のうち、目標面に平行な速度成分を表した図、(d)目標速度補正部から出力される補正速度信号のうち、目標面に垂直な速度成分を表した図、(e)作業点と目標面の距離を表した図である。いずれも、横軸は時刻を表している。
【0033】
図11について説明する。
図11のA区間は、アーム12の操作信号が増加し、一定となるまでの様子を示している。A区間では、(a)アーム操作信号の増加に伴い、(c)平行速度が増加し、操作信号が一定となると平行速度もおおよそ一定となる。また、(b)ブーム操作信号はオペレータによる入力(点線)がゼロであっても、アーム動作によって生じる垂直速度を相殺するために、補正操作信号(実線)が生じる。
【0034】
図11のB区間は、作業点と目標面の距離が、何らかの原因で拡大した場合の様子を示している。B区間では、(e)距離の増加に伴い、(b)ブーム11の補正操作信号が減少する。また、目標速度補正部130のパラメータ設定によっては、(a)アーム12の補正操作信号に若干の変動が生じる可能性がある。このように、
図9に示す掘削動作では、アーム12の操作信号に応じた平行速度で掘削動作を行い、目標面と作業点との距離に応じた補正は主としてブーム11の操作信号に対して行われる。
【0035】
図12について説明する。
図12のA区間は、ブーム11の操作信号が減少し、一定となるまでの様子を示している。A区間では、(a)ブーム操作信号の減少に伴い、(c)平行速度が減少し、操作信号が一定となると平行速度もおおよそ一定となる。また、(b)アーム操作はオペレータによる入力(点線)がゼロであっても、ブーム動作によって生じる垂直速度を相殺するために、補正操作信号(実線)が生じる。
【0036】
図12のB区間は、作業点と目標面の距離が、何らかの原因で拡大した場合の様子を示している。B区間では、(e)距離の増加に伴い、(b)アーム12の補正操作信号が減少する。また、目標速度補正部130のパラメータ設定によっては、(a)アーム12の補正操作信号に若干の変動が生じる可能性がある。このように、
図10に示す掘削動作では、ブーム11の操作信号に応じた平行速度で掘削動作を行い、目標面と作業点との距離に応じた補正は主としてアーム12の操作信号に対して行われる。
【0037】
以上のように構成された本実施例に係る油圧ショベル600によれば、作業装置15の所定位置にある作業点(例えばバケット先端)の目標速度が演算される前に、掘削速度(目標面に平行な速度成分)に対する寄与が大きいアクチュエータの操作信号の重みが大きくなり、かつ、掘削速度に対する寄与が小さいアクチュエータの操作信号の重みが小さくなるように、操作装置1c,1dの各操作信号に対して重みづけがなされる。これにより、目標面と作業点との距離に応じた補正は主として掘削速度に対する寄与が小さいアクチュエータの操作信号に対して行われ、掘削速度に対する寄与が大きいアクチュエータの操作信号に対する補正が抑制されるため、オペレータが容易に意図通りの掘削速度で半自動掘削成形作業を行うことが可能となる。
【実施例2】
【0038】
本発明の第2の実施例について、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0039】
図6は、本実施例における目標速度演算部120の機能ブロック図である。
図6において、目標速度演算部120は、第1の実施例(
図4に示す)の構成に加えて、速度係数演算部123を含む。
【0040】
速度係数演算部123は、作業装置15の姿勢情報と目標面の位置情報(角度と高さ)とに基づき、各アクチュエータを個別に操作した場合の操作信号の値に対する作業点の速度の比である速度係数の目標面に平行な成分(以下、平行速度係数)を演算し、操作信号補正部121へ出力する。
【0041】
操作信号補正部121は、操作装置1c,1dの各操作信号を平行速度係数に応じて補正し、作業点速度演算部122へ出力する。ここで、アーム12の平行速度係数をax、ブーム11の平行速度係数をbx、アーム12の操作信号をas、ブーム11の操作信号をbsと置き、補正後の操作信号に´(プライム)を付加すると、操作信号補正部121による演算内容は以下の式で表される。
【0042】
【数1】
【0043】
【数2】
【0044】
このように操作信号を補正することで、作業点の目標面に沿った速度(平行速度)に対する寄与が大きいアクチュエータについて、大きな重みづけがされた補正操作信号が演算される。なお、操作信号補正部121における演算内容は、前記の式(1)及び(2)に限るものではない。
【0045】
以上のように構成された本実施例に係る油圧ショベル600によれば、作業装置15の所定位置にある作業点(例えばバケット先端)の目標速度が演算される前に、操作装置1c,1dの各操作信号に対して平行速度係数に応じた重みづけがなされる。これにより、目標面と作業点との距離に応じた補正は主として掘削速度に対する寄与が小さいアクチュエータの操作信号に対して行われ、掘削速度に対する寄与が大きいアクチュエータの操作信号に対する補正が抑制されるため、オペレータが容易に意図通りの掘削速度で半自動掘削成形作業を行うことが可能となる。
【実施例3】
【0046】
本発明の第3の実施例について、第2の実施例との相違点を中心に説明する。
【0047】
図7は、本実施例における目標速度演算部120の機能ブロック図である。
図7において、目標速度演算部120は、第2の実施例における操作信号補正部121(
図6に示す)に代えて、操作信号選択部124を含む。
【0048】
操作信号選択部124は、各アクチュエータの平行速度係数を比較し、平行速度係数が最も大きいアクチュエータの操作信号の重みが1となり、その他のアクチュエータの操作信号の重みが0となるように、各操作信号に対して重みづけを行う。その結果、
図9に示す掘削動作では、アーム操作信号のみに基づいて作業点の目標速度が演算され、
図10に示す掘削動作では、ブーム操作信号のみに基づいて作業点の目標速度が演算される。
【0049】
以上のように構成された本実施例に係る油圧ショベル600によれば、作業装置15の所定位置にある作業点(例えばバケット先端)の目標速度が演算される前に、平行速度係数が大きいアクチュエータの操作信号の重みが1となり、かつ、その他のアクチュエータの操作信号の重みが0となるように、操作装置1c,1dの各操作信号に対して重みづけがなされる。これにより、目標面と作業点との距離に応じた補正は主として掘削速度に対する寄与が小さいアクチュエータの操作信号に対して行われ、掘削速度に対する寄与が大きいアクチュエータの操作信号に対する補正が抑制されるため、オペレータが容易に意図通りの掘削速度で半自動掘削成形作業を行うことが可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。