特許第6843045号(P6843045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6843045炭化水素油の水素化処理触媒、その製造方法及び水素化処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843045
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】炭化水素油の水素化処理触媒、その製造方法及び水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/19 20060101AFI20210308BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20210308BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20210308BHJP
   B01J 37/28 20060101ALI20210308BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20210308BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B01J27/19 M
   B01J37/03 B
   B01J37/04 102
   B01J37/28
   B01J35/10 301D
   C10G45/08 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-520286(P2017-520286)
(86)(22)【出願日】2016年4月7日
(86)【国際出願番号】JP2016061442
(87)【国際公開番号】WO2016189982
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2019年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-107670(P2015-107670)
(32)【優先日】2015年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162008
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 宣明
(72)【発明者】
【氏名】山根 健治
(72)【発明者】
【氏名】大橋 俊介
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−523340(JP,A)
【文献】 特表2003−503304(JP,A)
【文献】 国際公開第01/016026(WO,A1)
【文献】 特開2013−212449(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/162967(WO,A1)
【文献】 特開2006−341221(JP,A)
【文献】 特開平05−317706(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046323(WO,A1)
【文献】 特開2013−091010(JP,A)
【文献】 特開2000−135438(JP,A)
【文献】 特開平06−205990(JP,A)
【文献】 特開平07−286184(JP,A)
【文献】 LEWIS, J. A. et al,The effect of conditions of preparation on the form of alumina. I. Precipitation and subsequent calc,Journal of Applied Chemistry,1958年 4月,Vol.8, No.4,p.223-228, DOI:10.1002/jctb.5010080405,Experimental, Results, Table I
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C10G45/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ-リン混合担体を用いた炭化水素油の水素化処理触媒であって、
(1)前記担体はリンをP基準で0.5〜2.0質量%を含み、
(2)周期律表6A族の金属及び第8族の金属が前記担体に担持され、
(3)比表面積が150m/g以上であり、
(4)水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.40〜0.75ml/gであり、
(5)水銀圧入法で測定したLog微分細孔容積分布において、細孔直径6nm〜13nmの間に2つの極大ピークを有し、
(6)ASTM D4058−81で測定した摩耗強度が0.5%以下であり、
(7)木屋式硬度計で測定した耐圧強度が15N/mm以上である
ことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項2】
前記周期律表6A族の金属は、クロム、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一種の金属であり、
前記周期律表8族の金属は、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項1記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項3】
前記担体は、透過型フーリエ変換赤外分光光度計によって測定される酸性OH基に対応する3674〜3678cm−1の波数範囲にあるスペクトルピークの吸光度Saに対する、塩基性OH基に対応する3770〜3774cm−1の波数範囲にあるスペクトルピークの吸光度Sbの比率Sb/Saが0.30〜0.60の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項4】
アルミナ-リン混合担体を用いた炭化水素油の水素化処理触媒を製造する方法であって、
(1)pH2〜5に調整された酸性アルミニウム塩水溶液に、pHが7〜10になるように塩基性アルミニウム塩水溶液を添加し、得られたアルミナ水和物を洗浄することにより副生成塩が除去されたアルミナ水和物(A)を得る第1工程と、
(2)塩基性アルミニウム塩水溶液に、pHが6〜8になるように酸性アルミニウム塩水溶液を添加し、得られたアルミナ水和物を洗浄することにより副生成塩が除去されたアルミ水和物(B)を得る第2工程と、
(3)前記アルミ水和物(A)と(B)とを混合した後、リンを添加してアルミナ−リン水和物を得る第3工程と、
(4)前記アルミナ−リン水和物を順次熟成、捏和、成型、乾燥及び焼成してアルミナ−リン混合担体を得る第4工程と、
(5)周期律表6A族の金属及び第8族の金属を前記担体に担持させ、請求項1に記載の前記炭化水素油の水素化処理触媒を得る第5工程と、
を有することを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項5】
炭化水素油を、温度350〜450℃、圧力3〜20MPa、液空間速度0.1〜3hr−1の条件で水素存在下、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水素化処理触媒と接触させることを特徴とする炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の存在下で炭化水素油中の硫黄分を除去するための水素化処理触媒の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
金属汚染物質を含む残渣油などの重質炭化水素油に対して行われる水素化処理プロセスは、脱メタル選択性の高い脱メタル触媒と脱硫選択性の高い脱硫触媒とを組み合わせて充填した固定床反応塔にて水素気流中、高温高圧の反応条件で炭化水素油に対して水素化脱硫、水素化脱メタルを行うプロセスである。
近年の原料油において更なる重質化が進んでいることや水素化処理プロセス後の流動接触分解処理の負担軽減の要請から、水素化処理に用いられる触媒は、高い脱硫性能と触媒性能安定性が求められる。また、この触媒は、使用済み後の触媒再生時に割れや粉化が少なくなるように、使用前においても十分な強度と摩耗強度を有することが好ましい。
【0003】
特許文献1には、アルミナを主成分とする担体にカルシウム化合物を含有させることで、脱メタル性能が向上し、触媒の再生においても割れや粉化が抑えられる技術が記載されている。カルシウムはバナジウムとの親和力が強いため、脱メタル反応が進みやすくなる上、バナジウムが触媒中に固定化できるため再生性も向上する。しかし、表面積の少ないカルシウム化合物を添加すると、触媒の表面積の低下が起こるため脱硫性能及び脱硫性能安定性については改善の余地があった。
【0004】
特許文献2には、アルミナ-リン担体を用いた水素化処理触媒において、脱メタル性能及び脱アスファルテン性能向上を目指して、幅広い細孔分布を有することを特徴とする技術が開示されている。この技術はアスファルテン等の巨大分子の脱メタル反応性に優れているが、脱硫性能及び脱硫性能安定性において改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−186857号公報:請求項1、段落0014〜0018
【特許文献2】特開2013−91010号公報:請求項1、段落0012〜0019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い脱硫活性、大きな摩耗強度及び耐圧強度を有する炭化水素油の水素化処理触媒およびその製造方法を提供することにある。また、炭化水素油中の硫黄分を高い除去率で除去できる炭化水素油の水素化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、アルミナ-リン混合担体を用いた炭化水素油の水素化処理触媒であって、
(1)前記担体はリンをP基準で0.5〜2.0質量%を含み、
(2)周期律表6A族の金属及び第8族の金属が前記担体に担持され、
(3)比表面積が150m/g以上であり、
(4)水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.40〜0.75ml/gであり、
(5)水銀圧入法で測定したLog微分細孔容積分布において、細孔直径6nm〜13nmの間に2つの極大ピークを有し、
(6)ASTM D4058−81で測定した摩耗強度が0.5%以下であり、
(7)木屋式硬度計で測定した耐圧強度が15N/mm以上である
ことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒である。
前記第1の発明は、以下の特徴を備えていてもよい。
(i)前記周期律表6A族の金属は、クロム、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一種の金属であり、前記周期律表8族の金属は、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも1種の金属であること。
(ii)前記担体は、透過型フーリエ変換赤外分光光度計によって測定される酸性OH基に対応する3674〜3678cm−1の波数範囲にあるスペクトルピークの吸光度Saに対する、塩基性OH基に対応する3770〜3774cm−1の波数範囲にあるスペクトルピークの吸光度Sbの比率Sb/Saが0.30〜0.60の範囲にあること。
【0008】
第2の発明は、アルミナ-リン混合担体を用いた炭化水素油の水素化処理触媒を製造する方法であって、
(1)pH2〜5に調整された酸性アルミニウム塩水溶液に、pHが7〜10になるように塩基性アルミニウム塩水溶液を添加し、得られたアルミナ水和物を洗浄することにより副生成塩が除去されたアルミナ水和物(A)を得る第1工程と、
(2)塩基性アルミニウム塩水溶液に、pHが6〜8になるように酸性アルミニウム塩水溶液を添加し、得られたアルミナ水和物を洗浄することにより副生成塩が除去されたアルミ水和物(B)を得る第2工程と、
(3)前記アルミ水和物(A)と(B)とを混合した後、リンを添加してアルミナ−リン水和物を得る第3工程と、
(4)前記アルミナ−リン水和物を順次熟成、捏和、成型、乾燥及び焼成してアルミナ−リン混合担体を得る第4工程と、
(5)周期律表6A族の金属及び第8族の金属を前記担体に担持させ、第1の発明の前記炭化水素油の水素化処理触媒を得る第5工程と、
を有することを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法である。


【0009】
第3の発明は、炭化水素油を、温度350〜450℃、圧力3〜20MPa、液空間速度0.1〜3hr−1の条件で水素存在下、請求項1記載の水素化処理触媒と接触させることを特徴とする炭化水素油の水素化処理方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る、アルミナ-リン混合担体を用いた炭化水素油の水素化処理触媒は、
水銀圧入法で測定したLog微分細孔容積分布において、細孔直径6nm〜13nmの間に2つの極大ピークを有している。従って相対的に大きい細孔と小さい細孔とにより粒度配合を起こし、即ち大きい粒子の間に小さい粒子が入り込み、担体について大きな摩耗強度、耐圧強度が得られる。
また、透過型フーリエ変換赤外分光光度計を用いて得られる、酸性OH基の吸光度Saに対する塩基性OH基の吸光度Sbの比率Sb/Saが0.30〜0.60の範囲にあるため、担体に担持される水素化活性金属について高い分散性が得られ、高い脱硫性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一例の水素化処理触媒についてLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
図2】前記水素化処理触媒の透過型フーリエ変換赤外分光光度計による測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、アルミナ-リン混合担体(以下、単に「アルミナ-リン担体」ともいう)を用いた炭化水素油の水素化処理触媒(以下「本発明触媒」という)であり、以下に本発明触媒及びその製造方法の実施の形態について詳述する。

【0013】
[リンの含有]
本発明触媒を構成するアルミナ−リン担体は、担体全量基準でリンをP濃度換算量として0.5〜2.0質量%を含んでいる。より好ましくは、0.8〜1.8質量%である。担体におけるリン含有量が0.5質量%未満では、触媒強度が低下するおそれがある。リン含有量が2.0質量%を超えると、細孔直径15〜1000nmの範囲の細孔容積が大きくなりすぎ触媒強度が低下するおそれがあり、触媒嵩密度が低下して触媒性能も低下してしまうおそれもある。なお、アルミナ−リン担体は、アルミナとリンの酸化物だけでもよいし、他にシリカ、ボリア、チタニア、ジルコニア、マンガンなどの無機酸化物を含んでいてもよい。
【0014】
[水素化活性金属の担持]
本発明触媒は、周期律表第6A族の金属及び第8族の金属が水素化活性金属として担体に担持される。水素化活性金属の担持量は、触媒全量基準で酸化物として5〜30質量%の範囲が好ましい。水素化活性金属の担持量が5質量%以上であると、本発明の効果をより一層発揮することができる。また、水素化活性金属の担持量が30質量%以下であると、脱メタル性(脱メタル選択性)や触媒活性の安定性を維持でき、さらに生産コストを抑えられる点で好ましい。第6A族金属としては、クロム、モリブデンやタングステンが好ましく、第8族金属としては、鉄、ニッケルやコバルトが好ましい。
【0015】
[比表面積(SA)]
本発明触媒の比表面積は150m/g以上である。比表面積が150m/g未満の場合には、脱メタル性能への影響は小さいが、脱硫反応速度が低下する傾向にある。なお、本発明での比表面積はBET法で測定した値である。
【0016】
[細孔容積(PV)]
本発明触媒は、水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.40〜0.75ml/gである。全細孔容積が0.40ml/g未満の場合には金属による細孔閉塞により脱硫性能が低下しやすくなり、0.75ml/gより大きい場合には触媒強度が低下する。なお、本発明における全細孔容積は、細孔直径が3〜9000nm(分析値の生データの上下の値)の範囲の細孔容積を意味する。細孔直径は、水銀の表面張力480dyne/cm、接触角130°を用いて計算した値である。
【0017】
[細孔容積分布]
本発明触媒は、水銀圧入法で測定したLog微分細孔容積分布において、細孔直径6nm〜13nmの間に2つの極大ピークを有する。これら2つの極大ピークの少なくとも一方が細孔直径6nm未満の範囲にあると、脱メタル性能が低下し、2つの極大ピークの少なくとも一方が細孔直径13nmを越えると、脱硫性能が低下する傾向にある。また細孔直径6nm〜13nmの間に2つの極大ピークを有することにより、相対的に大きい細孔と小さい細孔とにより粒度配合を起こし、即ち大きい粒子の間に小さい粒子が入り込み、担体について大きな摩耗強度、耐圧強度が得られる。
【0018】
本発明触媒について取得したLog微分細孔容積分布の例を図1に示しておく。各図の横軸は細孔直径であり、縦軸は、差分細孔容積dVを細孔直径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値である。図1は、夫々後述の実施例1に対応する。
【0019】
[摩耗強度]
本発明触媒の摩耗強度は、0.5%以下である。触媒の摩耗強度が0.5%を超えると、使用済み後の触媒再生においても割れや粉化が発生しやすくなる。摩耗強度は、ASTM D4058−81で測定した値である。
【0020】
[耐圧強度]
本発明触媒の耐圧強度は、15N/mm以上である。触媒の耐圧強度が15N/mm未満であると、触媒を充填する際に壊れやすく、反応時に偏流や圧損の原因となるおそれがある。耐圧強度は、圧壊強度ともいわれ、本発明での耐圧強度は、木屋式硬度計で測定した値である。
【0021】
[担体に含まれる酸性OH基及び塩基性OH基]
本発明触媒の担体は、透過型フーリエ変換赤外分光光度計によって測定される酸性OH基に対応する3674〜3678cm−1の波数範囲にあるスペクトルピークの吸光度Saに対する、塩基性OH基に対応する3770〜3774cm−1の波数範囲にあるスペクトルピークの吸光度Sbの比率Sb/Saが0.30〜0.60の範囲にある。より好ましくは、0.40〜0.50の範囲である。活性金属は、アルミナ担体表面の特性により分散性が異なることが知られており、担体の表面のOH基について、酸性OH基と塩基性OH基との比率をこのように適正化することにより、担体がアルミナ−リン担体であることと相俟って、水素化活性金属について高い分散性が得られ、高い脱硫性能が得られる。図2に、本発明触媒の担体について、酸性OH基に対応する3674〜3678cm−1の波数範囲及び塩基性OH基に対応する3770〜3774cm−1の波数範囲を含む光吸収スペクトルの一例(後述の実施例1:担体中のリン含有量が、P濃度換算量として1.0質量%)を示しておく。この例では、酸性OH基に対応するスペクトルピークの吸光度Saは0.27であり、塩基性OH基に対応するスペクトルピークの吸光度Sbは0.13である。従って、比率Sb/Saの値は。0.48である。
吸光度の測定の具体的操作について記載しておく。試料20mgを成型容器(内径20mmφ)に充填して4ton/cm(39227N/cm)で加圧圧縮し、薄い円盤状に成型する。この成型体を、真空度が1.0×10−3Pa以下の条件下、500℃で2時間保持した後、室温に冷却して吸光度を測定する。
具体的には、TGS検出器にて、分解能4cm−1、積算回数を200回とし、波数範囲3000〜4000cm−1でベースライン補正し、その後、比表面積で補正した。吸光度は、単位表面積当りおよび単位質量当りに換算した。
単位表面積当たりの吸光度(m−2)=吸光度/成型体質量×比表面積
単位質量当たりの吸光度(g−1)=吸光度/成型体質量
【0022】
次に、本発明触媒を製造するための好適な実施形態について説明する。
[アルミナ−リン担体の製造方法]
(第1工程)
敷き水に酸性アルミニウム塩を添加し、Alとして例えば0.1〜2.0質量%、pH2.0〜5.0となるように調製した酸性アルミニウム水溶液を攪拌しながらその液温を例えば50〜80℃に加温する。酸性アルミニウム塩としては、水溶性の塩であればよく、例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが挙げられ、Al換算で0.5〜20質量%含む水溶液を用いることが望ましい。
次に、この酸性アルミニウム水溶液を攪拌しながら、pH7〜10となるように塩基性アルミニウムの水溶液を例えば30〜200分間で添加し、アルミナ水和物を得る。しかる後、アルミナ水和物を例えば40〜70℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物である副生成塩を除去し、ケーキ状のアルミナ水和物(A)を得る。塩基性アルミニウム塩としては、アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリなどが挙げられ、Al換算で2〜30質量%含む水溶液を用いることが望ましい。
【0023】
(第2工程)
敷き水に塩基性アルミニウム塩を添加し、Alとして例えば2.0〜7.0質量%、pH12〜14となるように調製した塩基性アルミニウム水溶液を攪拌しながらその液温を例えば40〜80℃に加温する。
次に、この塩基性アルミニウム水溶液を攪拌しながら、pH6〜8となるように酸性アルミニウムの水溶液を例えば5〜30分間で添加し、アルミナ水和物を得る。しかる後、アルミナ水和物を例えば40〜70℃の純水で洗浄し、ナトリウム塩、硫酸塩等の不純物である副生成塩を除去し、ケーキ状のアルミナ水和物(B)を得る。塩基性アルミニウム塩としては、既述の第1工程の説明にて挙げた薬剤を用いることができAl換算で2〜30質量%含む水溶液を用いることが望ましい。また酸性アルミニウム塩としては、既述の第1工程の説明にて挙げた薬剤を用いることができ、Al換算で2〜30質量%含む水溶液を用いることが望ましい。
【0024】
(第3工程)
ケーキ状のアルミナ水和物(A)及びアルミナ水和物(B)の各々に純水を加えて混合し、これらの混合物であるスラリー状のアルミナ水和物を得、このスラリー状のアルミナ水和物にリンを添加して、アルミナ-リン水和物を得る。リンは、担体中にP濃度として例えば0.5〜2.0質量%含まれるように添加される。リン源としては、リン酸、亜リン酸、リン酸アンモニア、リン酸カリウム、リン酸ナトリウムなどのリン酸化合物が使用可能である。アルミナ水和物(A)とアルミナ水和物(B)の混合比率は、A/B>0.7である。A/B<0.7の場合は、細孔直径6nm〜13nmの間の極大ピークが1つになり、摩耗強度、耐圧強度が低下する。
【0025】
(第4工程)
第3工程にて得られたアルミナ−リン水和物を還流器付きの熟成タンク内において、30℃以上、好ましくは80〜100℃で、例えば1〜10時間熟成する。次いで得られた熟成物を慣用の手段により、例えば加熱捏和して成形可能な捏和物とした後、押出成型などにより所望の形状に成型し、乾燥し、400〜800℃で0.5〜10時間焼成してアルミナ−リン担体を得る。
【0026】
(第5工程)
前述のアルミナ−リン担体を用いて、慣用の手段で周期律表第6A族金属及び第8族金属の各々から選ばれる金属を担持することにより、本発明の水素化処理触媒を製造することができる。このような金属の原料としては、例えば、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸コバルト、炭酸コバルト、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモン、及びパラタングステン酸アンモンなどの金属化合物が使用され、含浸法、浸漬法などの周知の方法などにより担体に担持される。金属担持後の担体は、通常400〜600℃で0.5〜5時間焼成され本発明の水素化処理触媒となる。
【0027】
第1〜第3工程のように、酸性アルミニウム塩水溶液に塩基性アルミニウム塩水溶液を添加して得られたアルミナ水和物(A)と、塩基性アルミニウム塩水溶液に酸性アルミニウム塩水溶液を添加して得られたアルミナ水和物(B)とを混合して担体を得ることにより、Log微分細孔容積分布において、細孔直径6nm〜13nmの間に2つの極大ピークを有する触媒を得ることができる。
なお、本発明触媒における比表面積及び全細孔容積についても、リンの添加量により制御することができる。
【0028】
本発明の水素化処理触媒は、バナジウムやニッケルなどの金属汚染物質を含む残渣油などの重質炭化水素油の水素化処理に使用され、既存の水素化処理装置及びその操作条件を採用することができる。前記操作条件の例を挙げると、温度350〜450℃、圧力3〜20MPa、液空間速度0.1〜3hr−1の条件で水素存在下、前記重質炭化水素油を本発明の水素化処理触媒と接触させる処理である。
また、本発明触媒の製造は簡便であるので生産性も高く、製造コスト的にも有利である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
[実施例1]
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水35.2kgを張り込み、攪拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Alとして濃度7質量%)13.0kgを添加し、60℃に加温して循環させた。この時のアルミナ水溶液(A1)のpHは2.3であった。次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液9.5kg(Alとして濃度22質量%)を攪拌及び循環させながら70℃を保ちながら、上記のアルミナ水溶液(A1)に180分で添加し、アルミナ水和物(A)を得た。添加後のpHは、9.5であった。アルミナ水和物(A)を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去した。洗浄ケーキに純水を加えて、Al濃度が8質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、ケーキ状のアルミナ水和物(A)を得た。
【0030】
一方、スチームジャケット付タンクに純水31kgを張り込み、攪拌しながら塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液(Alとして濃度22質量%)9.09kgを添加し、60℃に加温して循環させた。この時のアルミナ水溶液(B1)のpHは13であった。次に、酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液40kg(Alとして濃度2.5質量%)をローラーポンプを用いて混合水溶液をpHが7.2となるまで一定速度で添加(添加時間:10分)し、洗浄後のケーキ状のスラリーをAl濃度換算で10質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、15質量%アンモニア水でpHを10.5に調整した。これを還流器のついた熟成タンクにて95℃で10時間熟成し、アルミナ水和物(B)を得た。
【0031】
こうして得られたケーキ状のアルミナ水和物(A)及び(B)を共にAl酸化物換算で1.5kgずつ混合し純水を加えて、Al濃度が8質量%となるように調製した後、アルミナ水和物(A)及び(B)の混合物にリン酸49.0g(Pとして濃度61.6質量%)を添加した後、1時間撹拌しアルミナ−リン水和物を得た。撹拌終了後のスラリーを脱水し、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーにて練りながら所定の水分量まで濃縮捏和した。得られた捏和物を押出成形機にて1.7mmの四つ葉型の柱状に押し出し成形した。得られたアルミナ成形品は、110℃で12時間乾燥した後、さらに500℃で3時間焼成してアルミナ−リン担体aを得た。担体aは、リンがP濃度換算で1質量%、アルミニウムがAl濃度換算で99質量%(いずれも担体全量基準)含有されていた。
【0032】
酸化モリブデン70.6gと炭酸ニッケル32.1gとを、イオン交換水300mlに懸濁させ、この懸濁液を液容量が減少しないように適当な還流措置を施して95℃で5時間過熱した後、クエン酸44.1gを加えて溶解させ、含浸液を作製した。この含浸液を、500gの担体aに噴霧含浸させた後、250℃で乾燥し、更に電気炉にて550℃で1時間焼成して水素化処理触媒(以下単に触媒という場合もある)Aを得た。触媒Aの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、NiOが3質量%(触媒全量基準)であった。触媒Aの性状を表1に示す。なお、耐圧強度は木屋式硬度計で測定し(藤原製作所社製)、摩耗強度は、ASTM D4058−81に基づいて測定した。また、触媒Aの水銀圧入法で測定したLog微分細孔容積分布を図1に、担体aの透過型フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製、FT-IR-6100)測定結果を図2に示す。
【0033】
[実施例2]
実施例1において、添加するリン酸を74.2g添加すること以外は実施例1と同様にしてアルミナ−リン担体bを得た。担体bは、リンがP濃度換算で1.5質量%、アルミニウムがAl濃度換算で98.5質量%(いずれも担体全量基準)含有されていた。担体bを用いて実施例1と同様にして触媒Bを得た。触媒Bの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、NiOが3質量%(触媒全量基準)であった。触媒Bの性状は表1に示す。
【0034】
[実施例3]
実施例1において、混合するアルミナ水和物(A)をAl酸化物換算で2.1kgとアルミナ水和物(B)をAl酸化物換算で0.9kgとした以外は実施例1と同様にしてアルミナ−リン担体cを得た。担体cは、リンがP濃度換算で1質量%、アルミニウムがAl濃度換算で99質量%(いずれも担体全量基準)含有されていた。担体cを用いて実施例1と同様にして触媒Cを得た。触媒Cの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、NiOが3質量%(触媒全量基準)であった。触媒Cの性状は表1に示す。
【0035】
[実施例4]
実施例1において、炭酸ニッケルの代わりに炭酸コバルトを28.9g使用する以外は実施例1と同様にして触媒Dを得た。触媒Dの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、CoOが3質量%(触媒全量基準)であった。触媒Dの性状は表1に示す。
【0036】
[実施例5]
実施例1において、酸化モリブデンを73.2g、炭酸ニッケルを33.3g使用し、クエン酸の代わりにリン酸を29.7g使用する以外は実施例1と同様にして触媒Eを得た。触媒Eの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、NiOが3質量%(触媒全量基準)であった。また、担体中のリンを含む、触媒E全体のリンの含有量は、(4.0質量%)であった。触媒Eの性状は表1に示す。
【0037】
[比較例1]
実施例1において、リン酸を用いないこと以外は実施例1と同様にしてアルミナ担体dを得た。担体dを用いて実施例1と同様にして触媒Fを得た。触媒Fの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、NiOが3質量%(触媒全量基準)であった。触媒Fの性状は表1に示す。
【0038】
[比較例2]
実施例1において、添加するリン酸を310.9g添加すること以外は実施例1と同様にしてアルミナ−リン担体eを得た。担体eは、リンがP濃度換算で6質量%、アルミニウムがAl濃度換算で94質量%(いずれも担体全量基準)含有されていた。担体eを用いて実施例1と同様にして触媒Gを得た。触媒Gの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、NiOが3質量%(触媒全量基準)であった。触媒Gの性状は表1に示す。
【0039】
[比較例3]
実施例1において、混合するアルミナ水和物(A)をAl酸化物換算で3.0kgとアルミナ水和物(B)をAl酸化物換算で0kgとした以外は実施例1と同様にしてアルミナ−リン担体fを得た。担体fは、リンがP濃度換算で1質量%、アルミニウムがAl濃度換算で99質量%(いずれも担体全量基準)含有されていた。担体fを用いて実施例1と同様にして触媒Hを得た。触媒Hの金属成分は、MoOが12質量%(触媒全量基準)で、NiOが3質量%(触媒全量基準)であった。触媒Hの性状は表1に示す。
【0040】
[触媒活性評価試験]
実施例1〜5の触媒A〜E及び比較例1〜3の触媒F〜Hについて、固定床式のマイクロリアクターを用い、以下に示す条件で水素化脱メタル活性及び脱硫活性を調べた。上段に50%市販の脱メタル触媒CDS−DM5を充填し、下部50%に市販の脱硫触媒CDS−R25Nまたは触媒A〜Hを充填した。
反応条件;
触媒充填量 :400ml(市販脱メタル触媒200ml、触媒A〜H各200ml)
反応圧力 :13.5MPa
液空間速度(LHSV) :0.3hr−l
水素/油比(H/HC) :800Nm/kl
反応温度 :370℃
また、原料油には下記性状の常圧残渣油を使用した。
原料油性状;
密度(15℃) :0.9761g/cm
アスファルテン分 :3.4質量%
硫黄分 :4.143質量%
メタル(Ni+V)量 :80.5質量ppm
【0041】
活性試験における試験結果は、アレニウスプロットより反応速度定数を求め、CDS−DM5/CDS−R25Nの組み合わせ評価結果の反応速度定数を100%とし、脱メタル活性及び脱硫活性を算出した(相対活性)。反応速度定数は、下記(1)式に基づいて求めた。
=LHSV×1/(n−1)×(1/Pn−1−1/Fn−1) …(1)
ここで、
:反応速度定数
n:反応速度が原料油のメタル、硫黄濃度の何乗に比例するか(脱メタル反応では1.01、脱硫反応では2.0)
P:処理油中のメタル濃度(質量ppm)、硫黄濃度(%)
F:原料油中のメタル濃度(質量ppm)、硫黄濃度(%)
LHSV:液空間速度(hr−1
【0042】
触媒A〜Hの、脱メタル活性及び脱硫活性を表1に示す。
(表1)

図1
図2