(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塩基性無機添加剤(A)が、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、ヒドロタルサイト、酸化亜鉛、窒化ホウ素、硫酸バリウム、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、およびクレー、ならびにそれらの混合物から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
自動変速機用のラジアルおよびアキシャル軸受、ダンパー、ショックアブソーバで使用される軸受、ポンプ用軸受、クラッチ部品用の油圧駆動シールリング、ギア、および移動電子装置の構造部品から選択される、請求項11または12に記載の完成物品。
【背景技術】
【0003】
例えば、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトンケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)およびポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)ポリマーを含む、PAEKポリマーは、それらの技術的特性、すなわち、高い融点、良好な熱安定性、高い剛性および強さ、良好な靭性ならびに特に優れた耐薬品性の例外的な均衡で周知である。したがって、PAEKポリマーは、多種多様な使用の可能性を有し、それらの有利な特性により、それらはエンジニアリングポリマーの最良のものでもって分類される。例えば、PEEKポリマーは、PEEKがフィルムなどの薄片で良好な伸びおよび良好な可撓性を有するので、耐高温性および耐火性フィルムの製造において、またはPEEKが良好な耐炎性を有し、非常に低い煤煙とともに自己消火性であり得るので、ワイヤーのコーティングのために増大する使用を見いだしている。
【0004】
PAEKポリマーの製造における目標の一つは、それらの機械的特性、例えば、強さ、破断点伸びおよび耐衝撃性を増強することである。
【0005】
PAEKポリマーならびに強化繊維および/または添加剤を含む組成物は、当技術分野で公知であり、「強化PAEKポリマー」と称することができる。
【0006】
米国特許第5844036号明細書(HOECHST CELANESE CORP)1998年12月1日には、ポリアリールエーテルケトン、強化繊維、例えば、チョップドガラス繊維およびチョップド炭素繊維フィラー(第6欄、最後から二番目の段落)ならびに固定化フィラーを含むポリエーテルエトン組成物が開示されている。強化繊維は、高い強さおよび剛性を与えると言われる一方で、固定化フィラーは、高温ねじれに対する耐性を与えると言われる。異なる性質の固定化フィラーが、この文書で列挙されており;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムおよび窒化ホウ素が挙げられているが、このような添加剤をガラス繊維と組み合わせて使用することの開示または具体的な示唆はない。表1により、種々のPEEK組成物、特にPEEK強化繊維としてガラス繊維(Corning 731 ED)および固定化フィラーとしてMICAを含有する、2種の組成物に対して得られた結果が報告されている。さらにより重要なことは、固定化フィラーの量が、組成物の全体積に対して比較的高い(組成物に対して30〜45体積%;第7欄、10〜11行)。
【0007】
米国特許第6191675号明細書(HITACHI,LTD)2001年2月20日は、高電圧変圧器に関し、とりわけ、変圧器用のボビン材料であって、樹脂(例えば、PEK)、ならびにガラス繊維、タルクおよびそれらの混合物であってもよい無機フィラー、または別の無機フィラー、例えば、炭酸カルシウムを含むボビン材料を開示している。ボビンがそこから得られる組成物中の無機フィラーの量は、組成物重量に対して10重量%〜70重量%の範囲である。特に表3中の実施例14および実施例18は、PEEK、ガラス繊維およびタルクを含む組成物に言及しており、ここで、タルクは、組成物の20重量%という量になる。
【0008】
米国特許出願公開第2004054021号明細書(SERGEANT KENNETH MALCOM)2004年3月19日は、ポリマー、特にPAEK、および分解性材料、特に水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウム/水和アルミナを含む混合物を加熱することを含む、発泡材料の製造方法に関する。ポリマーは、強化手段、例えば、炭素繊維および/またはガラス繊維を含んでもよい。この方法において、分解性材料は、分解して水を生成し、これは、そして次に、ポリマー性材料内に発泡をもたらす。実施例14は、10重量%のMg(OH)
2、MgCO
3,CaCO
3、FeO
3、MnO
4とブレンドされた30重量%のガラス繊維強化材を含む、PEEKから得られた押出物に言及している。
【0009】
米国特許出願公開第2006251878号明細書(VICTREX MFG LTD)2006年11月9日は、ポリマー材料、例えば、PEEK、および前記ポリマー材料を含む複合材料に関し、前記ポリマー材料は、市販のPEEKの比較的低い粘度を有する一方で、Victrex(登録商標)PEEK 150のものと同様の機械的特性を保持すると言われている。このポリマー材料は、ガラス繊維を含めて、繊維状フィラー、および例えば、炭酸カルシウムを含めて、非繊維状フィラーを含んでもよい。この材料中のフィラーの量は、材料の重量に対して20〜70重量%の範囲であり得る。
【0010】
米国特許出願公開第2009048379号明細書(SOLVAY ADVANCED POLYMERS LLC)2009年2月19日には、耐薬品性および耐環境応力破壊性を有するある特定のポリマー組成物であって、規定重量比でPAEK、ポリフェニレンスルホンおよびガラス繊維を含むポリマー組成物が開示されている。この組成物は、MgOおよびZnOを含めて、任意選択成分を含んでもよい。特に、実施例3には、Radel(登録商標)R−5100 NT PPSU、Victrex(登録商標)150P PEEKおよび塩基性の性質を有するガラス繊維である、Certainteed(登録商標)910Pガラス繊維を含む組成物が開示されている。
【0011】
欧州特許出願公開第2067823A号明細書(SOLVAY SA)2008年12月2日は、少なくともあるPAEKおよび少なくとも1種の高ガラス温度スルホンポリマーを含むポリマーブレンドに関する。この文書には、Victrex(登録商標)150P PEEK、Certainteed(登録商標)910Pガラス繊維およびZnOを含む対照組成物(表3)が開示されている。
【0012】
CN 101220196号明細書(NANJINH COMPTECH CO LTD)2008年7月16日は、一定量のポリエーテルエーエルケトン、ナノ粒子、充填材料および添加剤材料からなる、バルブシールの製造のためのPEEK複合材料に関する。充填材料は、ガラス繊維であり得、ナノ粒子の一つはMgOである。
【0013】
CN101508821号明細書(UNIV NORTHWESTERN POLYTECHNICH)2009年9月19日には、立体位置決めヘッドフレームに使用されるPEEK複合材料およびその調製方法が開示されている。この複合材料は、ガラス繊維および炭酸カルシウムを含む。
【0014】
CN 103013090号明細書(CHONGQING CINWO PLASTICS CO LTD;CHONGQING 863 TRAFFIC ENGINEERING TECHNOLOGY CT LTD PARTNERSHIP;CH)2013年4月3日は、PAEKに加えて、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、繊維(例えば、ガラス繊維)およびフィラー(炭酸カルシウムおよび硫酸カルシウムを含む)を含むPAEK複合材料に関する。複合材料は、固体潤滑剤として窒化ホウ素を含んでもよい。
【発明の概要】
【0015】
本出願人は今や驚くべきことに、PAEKポリマーの機械的特性、特に強さ、破断点伸びおよび耐衝撃性が、前記ポリマーに、酸性の性質を有するガラス繊維および/または中性の性質を有するガラス繊維(以後、それぞれ、「酸性ガラス繊維」および「中性ガラス繊維」とも称される)ならびに塩基性無機添加剤を添加することによって相当に改善され得ることを見出した。
【0016】
特に、本出願人は、機械的特性が、塩基性ガラス繊維および塩基性無機化合物と組み合わせてPAEKポリマーを含む公知の組成物に対して改善されること、ならびにこのような改善が、非常に低い量の塩基性無機化合物が使用される場合でさせも達成されることを認めた。
【0017】
したがって、本発明は、
(a)ポリ(アリールエーテルケトン)ポリマー[ポリマー(PAEK)];
(a−1)任意選択的に、芳香族スルホンポリマー[ポリマー(SP)];
(b)酸性ガラス繊維[ガラス繊維(F
ac)]および/または中性ガラス繊維(F
n)、ならびに
(c)塩基性無機添加剤[添加剤(A)]
を含む、ポリマー組成物[組成物(C)]に関する。
【0018】
第1の実施形態において、本発明は、酸性ガラス繊維(F
ac)を含む上で定義されたとおりのポリマー組成物(C)[組成物(C
ac)]に関する。
【0019】
第2の実施形態において、本発明は、中性ガラス繊維(F
n)を含む上で定義されたとおりのポリマー組成物(C)[組成物(C
n)]に関する。
【0020】
第3の実施形態において、本発明は、酸性ガラス繊維(F
ac)および中性ガラス繊維(F
n)を含む上で定義されたとおりのポリマー組成物(C)[組成物(C
ac+n)]に関する。
【0021】
好ましくは、組成物(C)は、組成物(C
ac)または組成物(C
n)であり;より好ましくは、組成物(C)は、(C
ac)である。
【0022】
本発明はさらに、組成物(C)を製造するための方法、および形成物品の製造のための、組成物(C)の使用に関する。
【0023】
一般的定義
明確さのために、本出願を通して、
− (PAEK)の一般式への言及はいずれも、特に断りのない限り、それぞれの一般式内に入る各具体的式を含むことが意図される;
− 「a(PAEK)」、「an acidic glass fiber(F
ac)」などのような表現における不定冠詞「a」は、特に断りのない限り、「1つ以上」、または「少なくとも1つ」を意味することが意図される;
− 名称、記号または式もしくは式の部分を特定する数字の前後の丸括弧「()」の使用、例えば、「(PAEK)」、「酸性ガラス繊維(F
ac)」などは、その名称、記号または数字を本文の残部からよりよく区別する単なる目的を有し;したがって、前記括弧は省略することもできる;
− 数値範囲が示される場合、範囲限界は含まれる;
− 用語「ハロゲン」は、特に断りのない限り、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を含む;
− 形容詞「芳香族の(aromatic)」または「アリール(aryl)」は、4n+2(ここで、nは、0または任意の正の整数である)に等しいπ電子の数を有する任意の単核または多核環式基(または部分)を意味する;
− 用語「方法(method)」は、方法「process」の同意語として使用され、逆もまた同様である。
【0024】
ポリ(アリールエーテルケトン)ポリマー[ポリマー(PAEK)]
本発明の目的のために、用語「(PAEK)ポリマー」は、繰り返し単位を含む任意のポリマーであって、前記繰り返し単位の50モル%超がAr−C(O)−Ar’基(ArおよびAr’は、互いに等しいかまたは異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(R
PAEK)である、ポリマーを意味することが意図される。繰り返し単位(R
PAEK)は一般に、以下の式(J−A)〜式(J−O):
(式中:
− R’のそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミンおよび第四級アンモニウムからなる群から選択され;
− j’は、ゼロであるか、または0〜4の整数である)
からなる群から選択される。
【0025】
繰り返し単位(R
PAEK)において、それぞれのフェニレン部分は独立して、繰り返し単位中でR’と異なる他の部分に対して1,2−、1,4−または1,3−結合を有してもよい。好ましくは、前記フェニレン部分は、1,3−または1,4−結合を有し、より好ましくは、それらは1,4−結合を有する。
【0026】
さらに、繰り返し単位(R
PAEK)において、j’は、好ましくは出現するごとにゼロであり、すなわち、フェニレン部分は、ポリマーの主鎖での結合を可能にするもの以外の他の置換基をまったく有しない。
【0027】
したがって、好ましい繰り返し単位(R
PAEK)は、以下の式(J’−A)〜(J’−O):
のものから選択される。
【0028】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、一般に、様々な商業的供給元から容易に入手可能な、結晶性芳香族ポリマーである。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、好ましくは、粘度を、濃硫酸中25℃および大気圧で測定して約0.5〜約1.8dl/gの範囲の減少した粘度を有する。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、好ましくは約0.050〜0.65kPa・sの溶融粘度(400℃、1000s
−1)を有する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(J’−A)である。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(J’−A)である。卓越した結果は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が繰り返し単位(J’−A)以外の繰り返し単位を含まない場合に得られた。例示的な実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の実質的にすべては、繰り返し単位(J’−A)である。
【0030】
本発明の別の好ましい実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(J’−B)である。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(J’−B)である。さらにより好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、繰り返し単位(J’−B)以外の繰り返し単位を含まない。例示的な実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の実質的にすべては、繰り返し単位(J’−B)である。
【0031】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(J’−C)である。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(J’−C)である。さらにより好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、繰り返し単位(J’−C)以外の繰り返し単位を含まない。例示的な実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の実質的にすべては、繰り返し単位(J’−C)である。
【0032】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも5モル%は、繰り返し単位(J’−D)である。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも10モル%、より好ましくは少なくとも20モル%、さらにより好ましくは少なくとも25モル%、最も好ましくは少なくとも30モル%は、繰り返し単位(J’−D)である。さらにより好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、25%の繰り返し単位(J’−D)および75%の繰り返し単位(J’−A)を含む。
【0033】
最も好ましくは、ポリマー組成物(C)のポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、すなわち、繰り返し単位(J’−A)のホモポリマーである。卓越した結果は、Solvay Speciality Polymers USA,LLC.から市販されているKetaSpire(登録商標)を使用する場合に得られた。
【0034】
ポリマー組成物(C)において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリマー組成物の(C)の全重量に基づいて、有利には少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、少なくとも4重量%、少なくとも5重量%、少なくとも6重量%、少なくとも7重量%、少なくとも8重量%、少なくとも9重量%、少なくとも10重量%、少なくとも11重量%、少なくとも12重量%、少なくとも13重量%、少なくとも14重量%、少なくとも15重量%、少なくとも16重量%、少なくとも17重量%、少なくとも18重量%、少なくとも19重量%、少なくとも20重量%、少なくとも21重量%、少なくとも22重量%、少なくとも23重量%、または少なくとも24重量%の量で存在する。
【0035】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)はまた、ポリマー組成物の(C)の全重量に基づいて、有利には最大で90重量%、最大で75重量%、最大で70重量%、最大で65重量%、最大で60重量%、最大で55重量%、最大で50重量%、最大で45重量%、最大で44重量%、最大で43重量%、最大で42重量%、最大で41重量%、最大で40重量%、最大で39重量%、最大で38重量%、最大で37重量%、最大で36重量%、最大で35重量%、最大で34重量%、最大で33重量%、最大で32重量%、最大で31重量%、最大で30重量%、最大で29重量%、最大で28重量%、最大で27重量%、または最大で26重量%の量で存在する。
【0036】
好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、2〜90重量%、より好ましくは3〜85重量%、さらにより好ましくは4〜80重量%、最も好ましくは5〜75重量%の範囲の量で存在する。
【0037】
芳香族スルホンポリマー[ポリマー(SP)]
本発明の目的のために、表現「芳香族スルホンポリマー「SP)」は、その繰り返し単位[繰り返し単位(R
SP)]の少なくとも50モル%が式(SP):
(SP)−Ar−SO
2−Ar’−
(ArおよびAr’は、互いに等しいかまたは異なり、芳香族基である)
の少なくとも1個の基を含む、任意のポリマーを意味することが意図される。
【0038】
繰り返し単位(R
SP)は一般に、式(R
SP−1):
(R
SP−1)−Ar
1−(T’−Ar
2)
n−O−Ar
3−SO
2−[Ar
4−(T−Ar
2)
n−SO
2]
m−Ar
5−O−
(式中、
− Ar
1、Ar
2、Ar
3、Ar
4、およびAr
5は、互いにおよび出現するごとに等しいかもしくは異なり、独立して、芳香族単核または多核部分であり;
− TおよびT’は、互いにおよび出現するごとに等しいかまたは異なり、独立して、結合、または1個もしくは2個以上のヘテロ原子を任意選択的に含む二価の基であり;好ましくは、T’は、結合、−CH
2−、−C(O)−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−C(=CCl
2)−、−SO
2−、−C(CH
3)(CH
2CH
2COOH)−、および式:
の基からなる群から選択され、好ましくは、Tは、結合、−CH
2−、−C(O)−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−C(=CCl
2)−、−C(CH
3)(CH
2CH
2COOH)−、および式:
の基からなる群から選択され;
− nおよびmは、互いに等しいかまたは異なり、独立して、ゼロまたは1〜5の整数である)
に適合する。
【0039】
芳香族スルホンポリマー(SP)は、典型的には、有利には少なくとも150℃、好ましくは少なくとも160℃、より好ましくは少なくとも175℃のガラス転移温度を有する。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(R
SP−2)および/または繰り返し単位(R
SP−3):
{式中:
− QおよびAr*は、互いにおよび出現するごとに等しいかまたは異なり、独立して、二価の芳香族基であり;好ましくは、Ar*およびQは、互いにおよび出現するごとに等しいかまたは異なり、以下の構造:
および対応する任意選択的に置換された構造[Yは、−O−、−CH=CH−、−C≡C−、−S−、−C(O)−、−(CH
2)
n−、−C(CF
3)
2−、−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−(CF
2)
n−(nは、1〜5の整数である)である]ならびにそれらの混合物からなる群から独立して選択される}
である。
【0041】
繰り返し単位(R
SP−2)は、好ましくは
を含む基およびそれらの混合物から選択される。
【0042】
繰り返し単位(R
SP−3)は、好ましくは
を含む基およびそれらの混合物から選択される。
【0043】
芳香族スルホンポリマー(SP)は、少なくとも50モル%、好ましくは70モル%、より好ましくは75モル%の繰り返し単位(R
SP−2)および/または(R
SP−3)を含み、さらにより好ましくは、それは、繰り返し単位(R
SP−2)および/または(R
SP−3)以外の繰り返し単位をまったく含まない。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(j)である。芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(j)である。さらにより好ましくは、芳香族スルホンポリマー(SP)は、繰り返し単位(j)以外の繰り返し単位をまったく、または繰り返し単位を実質的にまったく含まず、このようなポリマー(以後、ポリフェニルスルホン(PPSU))は、特にSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.から市販されているRadel(登録商標)PPSUとして入手可能である。
【0045】
本発明の別の好ましい実施形態において、芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(jjj)である。芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(jjj)である。さらにより好ましくは、芳香族スルホンポリマー(SP)は、繰り返し単位(jjj)以外の繰り返し単位をまったく、または繰り返し単位を実質的にまったく含まず、このようなポリマー(以後、ポリエーテルスルホン(PESU))は、特にSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.から市販されている、Veradel(登録商標)PESUとして入手可能である。
【0046】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(jv)である。芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(jv)である。さらにより好ましくは、芳香族スルホンポリマー(SP)は、繰り返し単位(jv)以外の繰り返し単位をまったく、または繰り返し単位を実質的にまったく含まず;このようなポリマー(以後、ポリスルホン(PSU))は、特にSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.から市販されている、Udel(登録商標)PSUとして入手可能である。
【0047】
好ましくは、芳香族スルホンポリマー(P)は、PPSU、PESU、PSUまたはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0048】
1種の芳香族スルホンポリマー(SP)のみがポリマー組成物(C)に存在する場合、それは、好ましくはポリフェニルスルホン(PPSU)である。2種の芳香族スルホンポリマー(SP)がポリマー組成物(C)に存在する場合、それらは、好ましくはポリフェニルスルホン(PPSU)およびポリスルホン(PSU)である。
【0049】
対象の芳香族スルホンポリマー(SP)は、有利には少なくとも20000g/モル、好ましくは少なくとも25000g/モル、より好ましくは少なくとも30000g/モル、最も好ましくは少なくとも35000g/モルの重量平均分子量を有する。それらはまた、有利には最大で70000g/モル、好ましくは最大で65000g/モル、より好ましくは最大で60000g/モル、最も好ましくは最大で55000g/モルの分子量も有する。
【0050】
ポリマー組成物(C)中に、芳香族スルホンポリマー(SP)は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、有利には少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、さらにより好ましくは少なくとも25重量%の全量で存在し得る。
【0051】
芳香族スルホンポリマー(SP)はまた、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、有利には最大で80重量%、好ましくは最大で70重量%、より好ましくは最大で65重量%、さらにより好ましくは最大で60重量%、なおさらにより好ましくは最大で55重量%、その上より好ましくは最大で50重量%、最も好ましくは最大で45重量%の全量で存在し得る。
【0052】
好ましくは、芳香族スルホンポリマー(SP)は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、10〜50重量%、より好ましくは15〜45重量%、さらにより好ましくは20〜40重量%、最も好ましくは25〜35重量%の全量で存在し得る。
【0053】
有利には、組成物(C)は、繰り返し単位(j)以外の繰り返し単位をまったく含まない(PPSU)、例えば、Radel(登録商標)PPSUを、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、すなわち、繰り返し単位(J’−A)のホモポリマー、例えば、KetaSpire(登録商標)PEEKと組み合わせて含む。
【0054】
ガラス繊維(F)
本発明の目的のために、表現「酸性ガラス繊維(F
ac)」は、典型的には脱イオン水中で測定された、そのpHが、最大で7.0、最大で6.9、最大で6.8、最大で6.7、最大で6.6、最大で6.5、最大で6.4、最大で6.3、または最大で6.2であるガラス繊維を意味する。
【0055】
好ましくは、酸性ガラス繊維(F
ac)は、典型的には25℃で、重量(F
ac)/[(重量(F
ac)+重量(脱イオン水)]×100と定義された、脱イオン水中20重量%スラリーのそのpHが、最大で7.0、最大で6.9、最大で6.8、最大で6.7、最大で6.6、最大で6.5、最大で6.4、最大で6.3、または最大で6.2であるガラス繊維である。典型的には、このようなスラリーのpHは、脱イオン水のpHよりも最大で0.5単位、最大で0.4単位、最大で0.3単位、最大で0.2単位、または最大で0.1単位高く;有利には、スラリーのpHは、脱イオン水のpHよりも低い。
【0056】
表現「中性ガラス繊維(F
n)」は、典型的には脱イオン水中で測定された、そのpHが、少なくとも7.0より高く、最大で8.2、最大で8.1、最大で8.0、最大で7.9、最大で7.8、最大で7.7、最大で7.6、または最大で7.5であるガラス繊維を意味する。
【0057】
典型的には、中性ガラス繊維(F
n)は、典型的には25℃で、重量(F
n)/[重量(F
n)+重量(脱イオン水)]×100と定義された、脱イオン水中20重量%スラリーのそのpHが、少なくとも7.0より高く、かつ最大で8.2、最大で8.1、最大で8.0、最大で7.9、最大で7.8、最大で7.7、最大で7.6、または最大で7.5であるガラス繊維である。
【0058】
塩基性ガラス繊維は、本発明の組成物(C)中には含まれないが、疑いを避けるために、表現「塩基性ガラス繊維」は、典型的には脱イオン水中で測定された、そのpHが、少なくとも8.2より高いガラス繊維を意味する。
【0059】
典型的には、塩基性ガラス繊維は、典型的には25℃で、重量(塩基性ガラス繊維)/[(重量(塩基性ガラス繊維)+重量(脱イオン水)]×100と定義された、脱イオン水中20重量%スラリーのそのpHが、8.2より高いガラス繊維である。
【0060】
表現「脱イオン水」は、その抵抗が、好ましくは25℃で18.0MΩ・cmより高い水を意味する。脱イオン水の好ましい例は、MilliQ(登録商標)水である。
【0061】
ガラス繊維は、異なるタイプのガラスを生成させるために調整され得るいくつかの金属酸化物を含有するシリカ系ガラス化合物である。主な酸化物は、ケイ砂の形態でのシリカであり;カルシウム、ナトリウムおよびアルミニウムなどの他の酸化物が、融解温度を低下させ、および結晶化を妨げるために組み込まれる。ガラス繊維は、長円形、楕円形または長方形を含めて、円形断面または非円形断面(いわゆる「扁平ガラス繊維」)を有してもよい。ガラス繊維は、エンドレス繊維またはチョップドガラス繊維として添加されてもよいが、チョップドガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は、一般に5〜20、好ましくは5〜15μm、より好ましくは5〜10μmの相当直径を有する。ガラス繊維の種類のすべて、例えば、A、C、D、E、M、S、R、Tガラス繊維(chapter5.2 3,pages43−48 of Additives for Plastics Handbook,2nd ed,John Murphyに記載されたとおりの)、もしくはそれらの任意の混合物、またはそれらの混合物が使用されてもよいが、しかしながら、R、SおよびTガラス繊維が好ましく、一方でSおよびTガラス繊維がさらにより好ましく、S繊維が最も好ましい。R、SおよびTガラス繊維は、ASTM D2343に従って測定して、典型的には少なくとも76、好ましくは少なくとも78、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも82GPaの弾性モジュラスを有する高モジュラスガラス繊維である。
【0062】
R、SおよびTガラス繊維は、当技術分野で周知である。それらは、特に、Fiberglass and Glass Technology,Wallenberger,Frederick T.;Bingham,Paul A.(Eds.),2010,XIVに記載されている。R、SおよびTガラス繊維は、ケイ素、アルミニウムおよびマグネシウムの酸化物から本質的に構成される。特に、それらのガラス繊維は、典型的には62〜75重量%のSiO
2、16〜28重量%のAl
2O
3および5〜14重量%のMgOを含む。ポリマー組成物に広く使用される通常のEガラス繊維とは対照的に、R、SおよびTガラス繊維は、10重量%未満のCaOを含む。
【0063】
酸性ガラス繊維(F
ac)は、例えば、AGYから、市場で入手可能である。優れた結果が、S2 553ガラス繊維としてAGYから入手可能な酸性ガラス繊維(F
ac)を使用して得られた。
【0064】
中性ガラス繊維(F
n)も、例えば、Owens Corningから、市場で入手可能である。良好な結果が、FC295−10PとしてOwens Corningから入手可能な中性ガラス繊維(F
n)を使用して得られた。
【0065】
塩基性無機添加剤(A)
本発明の目的のために、表現「塩基性無機添加剤(A)」は、典型的には脱イオン水中で測定された、そのpHが、少なくとも7.0、少なくとも7.1、少なくとも7.2、少なくとも7.3、少なくとも7.4、少なくとも7.5、少なくとも7.6、少なくとも7.7、少なくとも7.8、少なくとも7.9、少なくとも8.0、少なくとも8.1、少なくとも8.2、少なくとも8.3、少なくとも8.4、少なくとも8.5、少なくとも8.6、少なくとも8.7、少なくとも8.8、少なくとも8.9、少なくとも9.0、少なくとも9.1、少なくとも9.2、少なくとも9.3、少なくとも9.4、少なくとも9.5、少なくとも9.6、少なくとも9.7、少なくとも9.8、少なくとも9.9、または少なくとも10.0である、無機化合物である。
【0066】
好ましくは、「塩基性無機添加剤(A)」は、典型的には25℃で、重量(A)/[重量(A)+重量(脱イオン水)]×100と定義された、脱イオン水(ここで、脱イオン水は、上で定義されたとおりである)中10重量%スラリーのそのpHが、少なくとも7.0、少なくとも7.1、少なくとも7.2、少なくとも7.3、少なくとも7.4、少なくとも7.5、少なくとも7.6、少なくとも7.7、少なくとも7.8、少なくとも7.9、少なくとも8.0、少なくとも8.1、少なくとも8.2、少なくとも8.3、少なくとも8.4、少なくとも8.5、少なくとも8.6、少なくとも8.7、少なくとも8.8、少なくとも8.9、少なくとも9.0、少なくとも9.1、少なくとも9.2、少なくとも9.3、少なくとも9.4、少なくとも9.5、少なくとも9.6、少なくとも9.7、少なくとも9.8、少なくとも9.9、または少なくとも10.0である、無機化合物である。
【0067】
典型的には、このようなスラリーのpHは、脱イオン水のpHよりも少なくとも1.0、少なくとも1.1、少なくとも1.2、少なくとも1.3、少なくとも1.4、少なくとも1.5、少なくとも1.6、少なくとも1.7、少なくとも1.8、少なくとも1.9、少なくとも2.0単位高く、かつ脱イオン水のpHよりも最大で6.5、最大で6.4、最大で6.3、最大で6.2、最大で6.1、最大で6.0単位高い。
【0068】
好ましくは、塩基性無機添加剤(A)は、組成物(C)中に、組成物の重量に対して0.01重量%〜5重量%の範囲の量で含有される。より好ましくは、塩基性無機添加剤(A)の量は、組成物の重量に対して、0.01重量%〜0.5重量%、さらにより好ましくは0.1重量%〜0.5重量%の範囲である。
【0069】
塩基性無機添加剤(A)は、好ましくは、発泡が起こらないように、高温に加熱される場合、分解しないか、または少ない程度に分解するように選択される。好ましくは、塩基性無機添加剤(A)は、50℃から500℃の非等温TGA(熱重量分析)により15%未満の重量損失を示す。
【0070】
組成物(C)における良好な分散を確保するために、塩基性無機添加剤(A)は、好ましくは微細粉末として使用される。好ましくは、その粒子サイズ分布は、塩基性無機添加剤(A)の100%が150μm(100メッシュ)スクリーンを通過し;より好ましくは、塩基性無機添加剤(A)の少なくとも99%が75μm(200メッシュ)スクリーンを通過するようなものである。
【0071】
塩基性無機添加剤(A)の例には、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、ヒドロタルサイト[Mg
6Al
2CO
3(OH)
16・4(H
2O)]、酸化亜鉛、窒化ホウ素、硫酸バリウム、マイカ、シリカ、タルク[Mg
3Si
4O
10(OH)
2]、アルミナ、およびクレーならびにそれらの混合物が含まれる。
【0072】
好ましくは、塩基性無機添加剤(A)は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、ヒドロタルサイトまたはそれらの混合物である。より好ましくは、塩基性無機添加剤(A)は、酸化マグネシウムもしくは酸化カルシウム、またはそれらの混合物である。より好ましくは、塩基性無機添加剤(A)は、酸化マグネシウムである。好ましくは、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムは、組成物(C)中に、組成物の重量に対して0.1重量%〜0.5重量%、より好ましくは0.1重量%〜0.3重量%の範囲の量で含有される。特に、本出願人によって行われた実験は、酸化マグネシウムまたは酸化カルシウムが、ポリマー(PAEK)および酸性ガラス繊維(F
ac)または中性ガラス繊維(F
n)と組み合わされて、それぞれ、上で定義されたとおりの組成物(C
ac)および組成物(C
n)を与える場合、引張強さ、破断点引張り伸び、曲げ強さおよびノッチなしアイゾット衝撃の有意な増加が、ポリマー(PAEK)、塩基性無機添加剤(B)および塩基性ガラス繊維を含む組成物に対して、およびまた酸性または中性ガラス繊維のみと混合されている(それによって強化されている)ポリマー(PAEK)に対して認められることを実証した。
【0073】
優れた結果は、PAEKポリマーのみ、すなわち、PEEKポリマー、酸性ガラス繊維、および組成物の重量に対して0.10重量%〜0.30重量%の酸化マグネシウムを含む、組成物(C
ac)について得られた。
【0074】
任意選択成分
ポリマー組成物(C)は、追加の添加剤、例えば、紫外線安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、加工助剤、潤滑剤、難燃剤、および/または導電性添加剤(例えば、カーボンブラックおよびカーボンナノフィブリル)をさらに任意選択的に含んでもよい。
【0075】
ポリマー組成物(C)はまた、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)および芳香族スルホンポリマー(SP)以外のポリマーをさらに含んでもよい。特に、ポリマー組成物(C)は、ポリエーテルイミド、ポリフェニルスルフィドおよび/またはポリカーボネートなどのポリマーをさらに含んでもよい。
【0076】
ポリマー組成物(C)は、難燃剤、例えば、ハロゲンおよびハロゲン不含難燃剤をさらに含んでもよい。
【0077】
組成物(C)の製造方法およびその使用
ポリマー組成物(C)の調製は、上で定義されたとおりのポリマー(PAEK)および任意選択的に、上で定義されたとおりのポリマー(SP)を、上で定義されたとおりの塩基性無機添加剤(B)および上で定義されたとおりの任意の他の任意選択成分とブレンドし、続いて、上で定義されたとおりの酸性ガラス繊維(F)と溶融混合することによって行うことができる。熱可塑性成形組成物を調製するために適する任意の公知の溶融混合方法を、組成物(C)の製造のために使用することができる。このような方法は、典型的には熱可塑性ポリマーを熱可塑性ポリマーの溶融温度を超えて加熱し、それにより、熱可塑性ポリマーの溶融物を形成することによって行われる。
【0078】
組成物(C)の調製のための方法は、溶融混合装置で行うことができ、そのために、溶融混合によってポリマー組成物を調製する、当業者に知られた任意の溶融混合装置が使用できる。好適な溶融混合装置としては、例えば、ニーダ、バンバリー(Banbury)ミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機がある。
【0079】
好ましくは、所望の成分のすべてを押出機に(押出機のスロート、または溶融物のいずれかに)投与するための手段を備えた押出機が使用される。ポリマー組成物(C)の調製のための方法において、組成物を形成するための構成成分が、溶融混合装置に供給され、その装置内で溶融混合される。構成成分は、粉末混合物または顆粒ミキサー(乾燥ブレンドとしても知られる)として同時に供給されてもよいし、または別個に供給されてもよい。最良の結果のために、ポリマーとガラス繊維以外の成分との乾燥ブレンドは、押出機の供給スロート部分で押出機ホッパーに重量測定法で供給される一方で、ガラス繊維は、ポリマー組成物全体の目標重量%でやはり重量測定法で溶融物中に下流で計量される。溶融ポリマー中にガラス繊維を供給するこの手法は、完成配合物中の繊維の長さのより多くを保存し、したがって、ガラス繊維が、ポリマー、塩基性無機添加剤および他の任意選択成分と供給スロート部分に供給される場合と比べてより高い機械的特性に寄与する。
【0080】
本発明による組成物(C)は、典型的には1.35g/cm
3以上、典型的には1.40g/cm
3より高い最終密度を有する。
【0081】
組成物(C)は、好ましくは無機添加剤をまったく含まない同じ組成物の曲げ強さよりも少なくとも3%高い、より好ましくは無機添加剤をまったく含まない同じ組成物の曲げ強さよりも少なくとも4%高い、最も好ましくは少なくとも7%高い曲げ強さを示す。
【0082】
さらに、およびより重要なことには、組成物(C)、特にMgOおよびCaOを含む組成物(C
ac)および組成物(C
n)は、PAEK、塩基性無機添加剤、特にMgOおよび塩基性ガラス繊維を含む組成物の曲げ強さよりも、高い、典型的には少なくとも16%高い曲げ強さを示す。
【0083】
組成物(C)は、好ましくは無機添加剤をまったく含まない同じ組成物のノッチなしアイゾット耐衝撃性よりも少なくとも6%高い、より好ましくは無機添加剤をまったく含まない同じ組成物のノッチなしアイゾット耐衝撃性よりも少なくとも10%高い、最も好ましくは少なくとも14%高いノッチなしアイゾット耐衝撃性を示す。
【0084】
さらに、およびより重要なことには、組成物(C)、特にMgOおよびCaOを含む組成物(C
ac)および組成物(C
n)は、PAEK、塩基性無機添加剤、特にMgO、および塩基性ガラス繊維を含む組成物の曲げ強さよりも高い、典型的には少なくとも11%高いノッチなしアイゾット耐衝撃性を示す、組成物(C)は、様々な完成物品の製造のために工業で使用することができる。したがって、本発明のさらなる目的は、組成物(C)から作られた、またはそれを含む完成物品である。組成物(C)から製造され得る物品は、特に強さ、剛性および靭性の高いレベルを必要とするものである。
【0085】
有利には、物品は、射出成形物品、押出成形物品、造形物品、被覆物品、または注型物品である。
【0086】
物品の非限定的な例には、軸受物品、例えば、自動変速機用のラジアルおよびアキシャル軸受、ダンパー、ショックアブソーバで使用される軸受、任意の種類のポンプ、例えば酸ポンプでの軸受;クラッチ部品用の油圧駆動シールリング;ギアなどが含まれる。
【0087】
例示的な実施形態において、物品は軸受物品である。
【0088】
軸受物品はいくつかの部品を含んでもよく、ここで、前記部品の少なくとも1つ、および任意選択的にそれらのすべては、上に記載されたとおりの組成物(C)を含む。
【0089】
組成物(C)から作られた完成物品のさらなる非限定的な例は、移動電子装置の構造部品で表される。
【0090】
したがって、一実施形態において、本発明は、上に記載されたとおりの組成物(C)から作られた少なくとも1つの構造部品を備える移動電子装置、特にラップトップ、移動電話、GPS、タブレット、携帯情報端末、携帯記録装置、携帯再生装置および携帯ラジオ受信機に関する。
【0091】
本発明による組成物(C)から作られた移動電子装置の構造部品は、それを完成させるための任意の公知の方法、例えば、真空蒸着(蒸着される金属を加熱する様々な方法を含む)、無電解メッキ、電気メッキ、化学気相蒸着、金属スパッタリング、および電子ビーム蒸着によって、金属で被覆されてもよい。金属は、何らの特別な処理なしで構造部品に十分接着し得るが、通常は接着性を向上させるための当技術分野で周知の一部の方法が使用される。これは、合成樹脂表面を粗くするためのそれの単純な摩耗、接着促進剤の添加、化学エッチング、プラズマおよび/もしくは放射線(例えば、レーザまたはUV線)への曝露による表面の官能化、またはこれらの任意の組み合わせに及び得る。また、金属被覆法の一部は、構造部品が酸浴に浸漬される少なくとも1つの工程を含む。2種以上の金属または金属合金が、組成物(C)から作られた構造部品にメッキされてもよく、例えば、ある金属または合金が、その良好な接着性のために合成樹脂表面に直接メッキされてもよく、別の金属または合金が、それが比較的高い強さおよび/または剛性を有するために、その上にメッキされてもよい。金属被覆を形成するための有用な金属および合金には、銅、ニッケル、鉄−ニッケル、コバルト、コバルト−ニッケル、およびクロム、ならびに異なる層におけるこれらの組み合わせが含まれる。好ましい金属および合金は、銅、ニッケル、および鉄−ニッケルであり、ニッケルがより好ましい。構造部品の表面は、金属で完全または部分的に被覆されてもよい。好ましくは、表面積の50パーセント超が被覆され、より好ましくは表面のすべてが被覆される。構造部品の異なる領域において、金属層の厚さおよび/もしくは数、ならびに/または金属層の組成が変わってもよい。金属は、構造部品の一定の区域で1つ以上の特性を効率的に向上させるパターンで被覆されてもよい。
【0092】
本発明は、以下の節で、非限定的な実施例によってより詳細に開示される。
【0093】
参照により本明細書に援用される特許、特許出願および刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0095】
この節では、15の組成物(本発明による11の実施例、1つの比較例および3つの対照)に対して得られた結果が報告される。
【0096】
出発材料
PAEKポリマー
これらの実施例で使用したPAEKポリマーは、KetaSpire(登録商標)KT−880P、KT−820P PEEKポリマー(Solvay Specialty Polymers USA,L.L.Cから市販されている)であり、それぞれ、0.12−0.18kPa
−sおよび0.38−0.50kPa
−sの仕様溶融粘度範囲を有した。溶融粘度は、400℃の温度および1000s
−1の剪断速度で毛管レオメータにより測定した。
【0097】
実施例12で使用した芳香族スルホンポリマーは、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C)から市販されている、Radel(登録商標)R−5100NTポリフェニルスルホン(PPSU)であり、400℃および2.16kgの印加重量でASTM D 1238を使用して測定して、14.0〜20.00g/10分のメルトフロー範囲仕様範囲を有した。
【0098】
ガラス繊維
以下の種々のタイプおよびグレードのチョップドガラス繊維を試験組成物で使用した。
− OCV 910A:11ミクロンの名目繊維直径を有するOwens Corning VetrotexからのE−ガラスチョップドファイバガラス。このガラス繊維(そのサイジングを含む)は、酸性/塩基性が下位節で以下に報告される方法「分析法」に従って試験される場合、塩基性の性質を有する。
− AGY S2 553:7.5ミクロンの名目繊維直径および高温サイジングを有する、AGYからのS−ガラス繊維。このガラス繊維(そのサイジングを含む)は、酸性/塩基性が下位節で以下に報告される方法「分析法」に従って試験される場合、酸性の性質を有する。
− FC295−10P:10umの名目繊維直径および高温サイジングを有する、Owens CorningからのS−ガラス繊維。このガラス繊維(そのサイジングを含む)は、酸性/塩基性が下位節で以下に報告される方法「分析方法」に従って試験される場合、ほぼ中性の性質を有する。
【0099】
無機添加剤
試験組成物で使用した無機添加剤は、
− 酸化マグネシウムグレード:Kyowa Chemical IndustryからのKyowamag(登録商標)MF−150;
− 酸化カルシウムグレード:Atlantic Equipment EngineersからのCA602;
− 炭酸カルシウムグレード:Azalea ColorからのOmyacarb(登録商標)F;
− 酸化亜鉛グレード:Zincorp of AmericaからのKadox(登録商標)911;
− タルクグレード:Lintech InternationalからのMistron(登録商標)Vapor;
− 窒化ホウ素グレード:ESK CeramicsからのBoronid(登録商標)S1−SF
− 硫酸バリウムグレード:Spectrum Chemicals and Laboratory Products,Inc.からのUSP
であった。
【0100】
使用した正確な処方および原材料を表1〜表3に示す。
【0101】
組成物の調製
本発明による実施例の組成物および比較例1〜比較例3の組成物は、最初にPEEKポリマーを無機添加剤と所望の組成比で約20分間タンブルブレンドし、続いて48:1のL/D比を有する26mm直径のCoperion ZSK−26共回転部分噛み合い二軸スクリュー押出機を使用して所望のガラス繊維グレードの30%のガラス繊維と溶融混合することによって調製した。押出機は、12のバレルセクションを有し、バレルセクション2から11を通して以下のとおりの設定点温度に加熱した:
− バレル2:345℃;
− バレル4〜6:365℃;
− バレル7:360℃;
− バレル8:350℃;
− バレル9〜12:340℃;
− ダイ:340℃。
【0102】
PEEKポリマーと無機添加剤の乾燥ブレンドは、28lb/時間(12.7kg/時間)の名目押出量で重量式フィーダを使用してバレルセクション1で供給したが、ガラス繊維は、12lb/時間(5.4kg/時間)の名目押出量でバレルセクション7で押出機に供給した。押出機は、約200RPMのスクリュー速度で運転し、真空排気は、水分、およびコンパウンドからのすべての可能な残留揮発物をストリッピング除去するために、コンパウンディング中にバレルセクション10で適用した。単一ホールダイをコンパウンドすべてに使用し、ダイを出る溶融ポリマーストランドを水トラフ中で冷却し、次いで、ペレタイザで切断して、長さおよそ3.0mm、直径2.7mmのペレットを形成した。
【0103】
対照A、対照Bおよび対照Cは、PEEK樹脂およびガラス繊維(対照A:酸性ガラス繊維;対照B:中性ガラス繊維;対照C:塩基性ガラス繊維)のみを含む組成物であった。これらの場合、PEEKポリマーは、押出機のバレル1で供給したが、ガラス繊維は、実施例について上で述べたものと同様の加工条件でバレル7にて下流で計量した。
【0104】
以下の表1は、対照、比較例および本発明による実施例中の成分の量を詳細に報告する。
【0106】
射出成形
厚さ0.125インチのタイプI引張りASTM試験片および5インチ×0.5インチ×0.125インチの曲げ試験片を、供給業者によって提供されたPEEKポリマー射出成形ガイドラインを使用して射出成形した。このために、150トンToshiba射出成形プレスを使用した。
【0107】
組成物の試験
すべての試験片の機械的特性を、タイプI引張りバーおよび5インチ×0.5インチ×0.125インチの曲げバーからなる厚さ0.125インチのASTM試験の射出成形試験片を使用して試験した。以下のASTM試験法を評価に用いた。
− D638:引張り特性−引張り強さ、引張りモジュラスおよび破断点引張り伸び
− D790:曲げ特性−破断点曲げ強さ、曲げモジュラスおよび破断点曲げ歪み
− D256:ノッチ付きアイゾット耐衝撃性;
− D4812:ノッチなしアイゾット耐衝撃性。
【0108】
分析方法
1.ガラス繊維のスラリーのpHの測定
評価するためのガラス繊維は、受け入れたまま使用した。使用した脱イオン水は、>18MOhm.cm抵抗に到達すべくMillipore(登録商標)濾過システムを通しての濾過により得た(MilliQ(登録商標)水)。
【0109】
2.000gのガラス繊維を25mLのシンチレーションバイアルに導入した。8.000gのMilliQ(登録商標)水をバイアルに添加し、スラリーをシェーカー上で30分間振とうした。次いで、スラリーのpHを、Fisher ScientificからのpHメータpH Accumet AP 61を使用して、室温で組み合わせpH/ATC電極13−620AP50によって測定した。添加ガラス繊維なしのMilliQ(登録商標)水のpHは、7.5であった。
【0110】
2.無機添加剤のスラリーのpHの測定
評価するための無機添加剤は、受け入れたまま使用した。使用した脱イオン水は、>18MOhm.cm抵抗に到達するようにMillipore(登録商標)濾過システムを通しての濾過により得た(MilliQ(登録商標)水)。
【0111】
1.000gの無機添加剤を、25mLのシンチレーションバイアルに導入した。9.000gのMilliQ(登録商標)水をバイアルに添加し、スラリーをシェーカー上で30分間振とうした。
【0112】
次いで、スラリーのpHを、Fisher ScientificからのpH計 pH Accumet AP61を使用して、室温で組み合わせpH/ATC電極13−620AP50によって測定した。添加無機フィラーなしのMilliQ(登録商標)水のpHは、7.5であった。
【0113】
以下の表2は、各組成物中の水に対する添加剤(10%スラリー)のΔpH値および水に対するガラス繊維(20%スラリー)のΔpH値を報告する。
【0115】
機械的試験の結果
機械的試験の結果を以下に次の表3〜表5に報告し、この節で簡潔に検討する。
【0116】
表3は、PEEKポリマーおよび酸性ガラス繊維のみを含む組成物(対照A)に対してKetaSpire(登録商標)PEEKポリマー、塩基性無機添加剤および酸性ガラス繊維を含む組成物で行なった機械的試験の結果を報告する。
【0118】
対照組成物Aをかなり超える曲げ強さおよびノッチなしアイゾット衝撃値が、予想外にも、特に重量で100部当たり0.1および0.3部(phr)程度に低い酸化マグネシウムの添加、ならびにまた重量で100部当たり0.28部程度に低い酸化カルシウムの添加によって達成された。様々なレベルの有効性を有する同様の結果が、使用した様々な無機添加剤について見られた。表3におけるデータならびにまた
図1および
図2から、曲げ強さおよびノッチなしアイゾット衝撃における機械的特性の増強の大きさが、水中10重量%スラリーのpHにより測定して無機添加剤の塩基性の程度と相関したことがわかる。
【0119】
以下の表4は、KetaSpire(登録商標)PEEKポリマーおよび中性ガラス繊維のみを含む組成物(対照B)に対して、KetaSpire(登録商標)PEEKポリマー、塩基性無機添加剤(酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム、これらは、PEEKポリマーならびに酸性ガラス繊維と混合される場合に最良に機能した)および中性ガラス繊維(実施例10および実施例11)を含む組成物で行なった機械的試験の結果を報告する。
【0121】
表4で報告された結果は、塩基性添加剤をまったく含まない組成物に対して曲げ強さおよびノッチなしアイゾット衝撃の増加があることを実証する。
【0122】
表5は、KetaSpire(登録商標)PEEKポリマーおよび塩基性ガラス繊維のみを含む対照組成物(対照C)に対して、KetaSpire(登録商標)PEEKポリマー、塩基性無機添加剤および塩基性ガラス繊維を含む組成物(比較例1)で得られた結果を報告する。
【0124】
表5で報告された結果は、塩基性無機添加剤が、塩基性ガラス繊維のみと混合してのKetaSpire(登録商標)PEEKポリマーに添加される場合、改善がまったく得られないことを示す。
【0125】
表3および表4に含まれた結果と表5に含まれたものとの比較は、ポリマー(PAEK)、塩基性無機添加剤(B)、特に酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム、ならびに酸性ガラス繊維(F
ac)または中性ガラス繊維(F
n)を含む組成物が、ポリマー(PAEK)、塩基性無機添加剤(B)および塩基性ガラス繊維を含む組成物に対して曲げ強さおよびノッチなしアイゾット衝撃の改善された値を有していることを実証する。
【0126】
以下の表6は、比較例1、実施例2および実施例12の機械的特性を報告する。実施例12は、
− 42重量%のPEEK(KetaSpire(登録商標)KT−880P)+28重量%のPPSU(Radel(登録商標)R−5100NT)=70%
− 30重量%のAGY S2 553(酸性ガラス繊維)および
− 0.3phrのMgO
からなる組成物である。
【0127】
したがって、実施例12は、ポリマー(PAEK)の一部がポリマー(SP)で置き換えられている実施例2に対応する、本発明の組成物である。
【0128】
表で報告された結果は、酸性ガラス繊維を含む、実施例2および実施例12の組成物が、塩基性ガラス繊維を含む対応する組成物に対して、改善された機械的特性を有していることを示す。
【0130】
以下の表7は、酸性ガラス繊維が塩基性ガラス繊維OCV 910Aで置き換えられている対応する組成物(比較例2)と比較して実施例12の機械的特性を報告する。
【0131】
疑いを避けるために、比較例2は、
− 42重量%のPEEK(KetaSpire(登録商標)KT−880P)+28重量%のPPSU(Radel(登録商標)R−5100NT)=70%
− 30重量%のOCV 910Aファイバグラス(塩基性ガラス繊維)および
− 0.3phrのMgO
からなった。
【0132】
結果は、(PAEK)および(SP)ポリマーを含む、本発明の組成物が、酸性ガラス繊維の代わりに塩基性ガラス繊維を含む対応する組成物に対して、改善された機械的特性を有していることを示す。