(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィラーが、金属炭化物ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、シリカナノ粒子、炭素ナノ粒子、金属炭酸塩ナノ粒子、金属窒化物ナノ粒子、金属水酸化物ナノ粒子、金属硫酸塩ナノ粒子、チタン酸バリウムナノ粒子、又はこれらの組み合わせを含むナノフィラーを含む、請求項1に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、カルサイトナノ粒子、シリカナノ粒子、炭化ケイ素ナノ粒子、アルミナナノ粒子、ジルコニアナノ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、窒化アルミニウムナノ粒子、窒化ホウ素ナノ粒子、ドロマイトナノ粒子、ベーマイトナノ粒子、水酸化マグネシウムナノ粒子、硫酸カルシウムナノ粒子、硫酸バリウムナノ粒子、硫酸マグネシウムナノ粒子、又はこれらの組み合わせを含むナノフィラーを含む、請求項1又は2に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、金属炭化物マイクロ粒子、金属酸化物マイクロ粒子、シリカマイクロ粒子、炭素マイクロ粒子、金属炭酸塩マイクロ粒子、金属窒化物マイクロ粒子、金属水酸化物ナノ粒子、金属硫酸塩マイクロ粒子、チタン酸バリウムマイクロ粒子、セノスフェア、又はこれらの組み合わせを含むマイクロフィラーを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、カルサイトマイクロ粒子、シリカマイクロ粒子、炭化ケイ素マイクロ粒子、アルミナマイクロ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、窒化アルミニウムマイクロ粒子、窒化ホウ素マイクロ粒子、ドロマイトマイクロ粒子、ベーマイトマイクロ粒子、グラスバブルズ、又はこれらの組み合わせを含むマイクロフィラーを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、有機酸、有機塩基、シロキサン、シラン、又はこれらの組み合わせを含む表面改質剤を含み、前記表面改質剤が、前記フィラーの表面に結合若しくは会合しているか、又はその両方である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、シリカナノ粒子、シリカマイクロ粒子、セノスフェア、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、炭化ケイ素ナノ粒子、炭化ケイ素マイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、前記表面改質剤が、シラン又はシロキサンを含む、請求項6に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、カルサイトナノ粒子、カルサイトマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、アルミナナノ粒子、アルミナマイクロ粒子、ドロマイトナノ粒子、ドロマイトマイクロ粒子、ベーマイトナノ粒子、ベーマイトマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、前記表面改質剤が、有機酸又は有機塩基を含む、請求項6又は7に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、カルサイトナノ粒子、カルサイトマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、前記表面改質剤が、オルガノスルホネート、オルガノホスフェート、又はこれらの組み合わせを含む、請求項8に記載の樹脂ブレンド。
前記フィラーが、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、前記表面改質剤が、有機酸を含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の樹脂ブレンド。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の定義された用語の用語解説に関して、これらの定義は、特許請求の範囲又は本明細書の他の箇所において異なる定義が提供されていない限り、本出願全体について適用されるものとする。
【0010】
用語解説
ある特定の用語が、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用されており、これらの大部分については周知であるが、何らかの説明が必要とされる場合もある。本明細書において使用する場合、以下のようであると理解されたい。
【0011】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」という用語は、「少なくとも1つの」と交換可能に使用され、記載されている要素のうちの1つ又は複数を意味する。
【0012】
「及び/又は(and/or)」という用語は、一方又は両方を意味する。例えば「A及び/又はB」は、Aのみ、Bのみ、又はAとBとの両方を意味する。
【0013】
本明細書で使用する場合、末端値による数値範囲での記述には、その範囲内に包含されるあらゆる数値が含まれる(例えば1〜5には1、1.5、2、2.75、3、3.8、4、及び5が含まれる)。
【0014】
特に指示がない限り、本明細書及び実施形態で使用する量又は成分、特性の測定値などを表す全ての数は、全ての場合、「約」という用語によって修飾されていると解するものとする。したがって、特に指示がない限り、前述の明細書及び添付の実施形態の列挙において示す数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に依存して変化し得る。最低でも、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして通常の丸め技法を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは請求項記載の実施形態の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
【0015】
用語「含む(comprises)」及びその変化形は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲において現れる場合、限定的な意味を有しない。
【0016】
「好ましい」及び「好ましくは」という言葉は、一定の状況下で一定の利益を提供できる、本開示の実施形態を指す。しかし、他の実施形態もまた、同じ又は他の状況において好ましい場合がある。更には、1つ以上の好ましい実施形態の記述は、他の実施形態が有用ではないことを示唆するものではなく、本開示の範囲から他の実施形態を排除することを意図するものではない。
【0017】
本明細書全体を通して、「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「1つ以上の実施形態」、又は「実施形態」に対する言及は、「実施形態」という用語の前に、「例示的な」という用語が含まれているか否かに関わらず、その実施形態に関連して説明される具体的な特色、構造、材料、又は特徴が、本開示のある特定の例示的な実施形態のうちの少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。それゆえ、本明細書全体を通した様々な箇所での、「1つ以上の実施形態では」、「一部の実施形態では」、「いくつかの実施形態では」、「一実施形態では」、「多くの実施形態では」、又は「実施形態では」などの表現の出現は、必ずしも本開示の特定の例示的な実施形態のうちの同じ実施形態に言及しているわけではない。更に、特定の特徴、構造、材料、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わされてもよい。
【0018】
本明細書で使用する場合、用語「フタロニトリル」は、2つの隣接ニトリル基を有する特徴的なベンゼン誘導体を有する化合物を含む。図示されたフタロニトリル基において、Rは、例えば、これらに限定されるものではないが、エーテル、チオエーテル、アリール、アルキル、ハロゲン、アミン、エステル、又はアミド、ヘテロアルキル、又は(ヘテロ)ヒドロカルビルである。
【化2】
【0019】
本明細書で使用する場合、「ビスフェノールMジフタロニトリルエーテル」は、ビスフェノールMのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0020】
本明細書で使用する場合、「ビスフェノールTジフタロニトリルエーテル」は、ビスフェノールTのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0021】
本明細書で使用する場合、「ビスフェノールPジフタロニトリルエーテル」は、ビスフェノールPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0022】
本明細書で使用する場合、「レゾルシノールジフタロニトリルエーテル」は、レゾルシノールのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0023】
本明細書で使用する場合、「粒子」は、最大寸法の最小寸法に対するアスペクト比が50:1未満であり、繊維を除く。本明細書で使用する場合、「ナノ粒子」は、D90粒径が1マイクロメートル未満(例えば、「サブミクロン」)の粒子を指す。本明細書で使用する場合、「粒径」は、粒子の最長寸法を指す。ナノメートルスケールの粒子の粒径を測定する好適な方法としては、透過電子顕微鏡法(TEM)が挙げられる。本明細書で使用する場合、「マイクロ粒子」は、D90粒径が1ミリメートル未満の粒子を指す。マイクロメートルスケールの粒子の粒径を測定する好適な方法としては、動的光散乱が挙げられる。本明細書で使用する場合、「D90」は、粒子の集団の90パーセントが特定の粒径値を下回る粒径を有することを指す。
【0024】
本明細書で使用する場合、「ナノフィラー(nanofiller)」は、(高さ、幅、及び長さのうちの)少なくとも2つの寸法が1マイクロメートル未満である、樹脂ブレンドに含まれる添加剤を指す。本明細書で使用する場合、「マイクロフィラー(microfiller)」は、(高さ、幅、及び長さのうちの)少なくとも2つの寸法が1ミリメートル未満である、樹脂ブレンドに含まれる添加剤を指す。
【0025】
本明細書で使用する場合、「アルキル」は、直鎖状、分枝状、及び環状アルキル基を含み、非置換及び置換アルキル基の両方を含む。特に指示がない限り、アルキル基は、典型的には1〜20個の炭素原子を含む。本明細書で使用される「アルキル」の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、イソブチル、t−ブチル、イソプロピル、n−オクチル、n−ヘプチル、エチルヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル及びノルボルニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。別途注記のない限り、アルキル基は、一価であっても多価であってもよい。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロアルキル」は、独立して、S、O、Si、P、及びNから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を有する直鎖、分枝鎖、及び環状アルキル基、並びに非置換及び置換アルキル基の両方を含む。特に指示がない限り、ヘテロアルキル基は、典型的には、1〜20個の炭素原子を含む。「ヘテロアルキル」は、以下に記載する「ヘテロ(ヘテロ)ヒドロカルビル」の部分集合である。本明細書で使用する場合、「ヘテロアルキル」の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、3,6−ジオキサヘプチル、3−(トリメチルシリル)−プロピル、及び4−ジメチルアミノブタニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。別途注記のない限り、ヘテロアルキル基は、一価であっても多価であってもよい。
【0027】
本明細書で使用する場合、「アリール」は、6〜18個の環原子を含有する芳香族であり、縮合環を含有してもよく、飽和であっても、不飽和であっても、芳香族であってもよい。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナントリル、及びアントラシルが挙げられる。ヘテロアリールは、窒素、酸素、又は硫黄等のヘテロ原子を1〜3個含有するアリールであり、縮合環を含有してもよい。ヘテロアリールのいくつかの例は、ピリジル、フラニル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、ベンゾフラニル、及びベンズチアゾリルである。別途注記のない限り、アリール及びヘテロアリール基は、一価であっても多価であってもよい。
【0028】
本明細書で使用する場合、「(ヘテロ)ヒドロカルビル」は、(ヘテロ)ヒドロカルビルアルキル及びアリール基、並びにヘテロ(ヘテロ)ヒドロカルビルヘテロアルキル及びヘテロアリール基を含み、後者は、エーテル等の1つ又は複数のカテナリー酸素ヘテロ原子又はアミノ基を含む。ヘテロ(ヘテロ)ヒドロカルビルは、任意に、エステル、アミド、ウレア、ウレタン、及びカーボネート官能基を含む、1つ又は複数のカテナリー(鎖内)官能基を含有してもよい。特に指示がない限り、非ポリマー(ヘテロ)ヒドロカルビル基は、典型的には、1〜60個の炭素原子を含有する。このような(ヘテロ)ヒドロカルビルのいくつかの例は、本明細書で使用する場合、上記「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」、及び「ヘテロアリール」について記載したものに加えて、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、4−ジフェニルアミノブチル、2−(2’−フェノキシエトキシ)エチル、3,6−ジオキサヘプチル、3,6−ジオキサへキシル−6−フェニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「重合した生成物(polymerized product)」は、重合性組成物の重合反応の結果を指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「残基」は、記載されている式中の結合している官能基又は結合している基を除去(又は反応)した後に残る基の(ヘテロ)ヒドロカルビル部分を定義するために用いられる。例えば、ブチルアルデヒド、C
4H
9−CHOの「残基」は、一価のアルキルC
4H
9−である。フェニレンジアミンH
2N−C
6H
4−NH
2の残基は、二価のアリール−C
6H
4−である。
【0031】
ここで本開示の様々な例示的な実施形態が記述される。本開示の例示的な実施形態には、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を加えてもよい。したがって、本開示の実施形態は、以下に記載の例示的な実施形態に限定されるものではないが、特許請求の範囲に記載されている限定及びそれらの任意の均等物により支配されるものであることを理解すべきである。
【0032】
本開示は、一般に、樹脂ブレンド及び物品に関する。第1の態様では、樹脂ブレンドが提供される。樹脂ブレンドは、第1のフタロニトリル樹脂と、フィラーと、ビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂とのブレンドを含む。第2の態様では、物品が用意される。物品は、第1の態様による樹脂ブレンドの重合生成物を含む。好ましくは、物品は、200〜350℃のガラス転移温度を示す。本開示は、1又は複数のフィラーを液体フタロニトリルモノマー樹脂中に分散するプロセス及びそれを(例えば、粒子及び/又は繊維)充填ポリマーネットワークへと硬化するプロセスを詳述する。いくつかの実施形態において、本開示は、液体フタロニトリルモノマー樹脂及び粒子充填液体フタロニトリルモノマー樹脂を利用した繊維強化ポリマーネットワーク複合材物品の製造のためのプロセスを詳述する。フタロニトリル樹脂及び充填フタロニトリル樹脂は、200℃未満の温度で液体樹脂を与える新規フタロニトリルモノマー樹脂技術を利用し、150℃未満でも、フタロニトリルモノマー樹脂のポリマーネットワーク形成反応の特徴的な重合温度範囲を下回る温度でフタロニトリル樹脂に微粒子を配合する能力を付与する。粒子充填フタロニトリル重合ネットワークは、純なまま(ニート)のフタロニトリルで硬化されたポリマーネットワークと比較して、強度及び劣化耐性などの他の材料特性を維持しながら、より大きな剛性、及び場合によってはより高い軟化温度、靭性及び/又は熱伝導率を示すことが発見された。フタロニトリル樹脂及び粒子充填フタロニトリル樹脂の低粘度により、これらの樹脂を、繊維強化ポリマー複合材物品の製造において従来のフタロニトリル樹脂システムよりも好適とすることができる。
【0033】
多官能フタロニトリルモノマー樹脂は、重合時に優れた熱安定性及び耐劣化性を提供するネットワーク形成樹脂の1つの部類である。フタロニトリル樹脂は、芳香族構造の大部分を組み込んだ多数のフタロニトリルモノマーの剛性がある構造により、200℃近く及び200℃を超える高い融解温度を有し、フタロニトリル重合ネットワークの熱的性能を維持する。フタロニトリル部分はまた、剛性かつ平面状であり、結晶化する傾向がある。これらの分子構造属性は、多官能性フタロニトリル樹脂の高い融解温度に寄与する。樹脂のコストの高さは、無水物及びイミド樹脂に類似した高価な出発材料、並びに多段階合成経路を使用する樹脂合成によってもたらされる(Sharman,W.M.and J.E.Van Lier,Synthesis of Phthalocyanine Precursors,in The Porphyrin Handbook,K.M.Kadish,K.M.Smith,and R.Guilard,Editors.2003,Academic Press:Amsterdam.p.1−60).
【0034】
フタロニトリルは、触媒又は硬化剤によって促進された場合に、付加重合反応を起こす。既知のフタロニトリル重合用触媒系は、塩基及びアルコールの添加並びに加熱、好適な還元剤の添加及び加熱、並びに金属又は有機金属又は金属塩の添加及び加熱である(米国特許第4,304,896号(Keller et al.)。多数の金属により、フタロニトリル重合が生じることがわかっている(McKeown,N.B.,The Synthesis of Symmetrical Phthalocyanines,in The Porphyrin Handbook,K.M.Kadish,K.M.Smith,and R.Guilard,Editors.2003,Academic Press:Amsterdam.p.61−124)。第一級アルコールの不在下では、第一級アミンがフタロニトリル硬化剤として作用する(米国特許4,408,035号(Keller)及び米国特許4,223,123号(Keller et al.)。触媒又は硬化剤に促進されるフタロニトリル重合反応は、200℃〜250℃の温度で、かなりの速度で進行する。アミン硬化されたフタロニトリル重合ネットワークは、高いガラス転移温度、良好な耐熱劣化性及び耐熱酸化劣化性によって付与される卓越した熱安定性を示し、本質的に不燃性で、吸湿性が低い(Dominguez,D.D.and T.M.Keller,Properties of phthalonitrile monomer blends and thermosetting phthalonitrile copolymers.Polymer,2007.48(1):p.91−97)。
【0035】
フタロニトリル樹脂と(例えば、微粒子又は繊維)フィラーとの配合及び該樹脂のネットワーク化されたポリマーへの重合は、フタロニトリル樹脂の物理的特性及び反応特性から、困難である。これは、特定の特性が強化された充填フタロニトリル重合ネットワークの開発を阻害した。製造上許容可能な粘度で液体樹脂の溶融を維持するために、フタロニトリル樹脂の融解温度には、200℃を超える温度でフィラー配合を進行させる必要がある。フタロニトリル樹脂の高温配合は、例えば、多数の鉱物フィラー及びフィラー表面改質添加剤で、該フィラー及び添加剤のフタロニトリルのネットワーク重合開始活性のために、禁止されてきた。したがって、フタロニトリル樹脂を、金属及び金属塩等の鉱物フィラー並びに有機酸及び有機塩基等の表面改質剤と、200℃を超える温度で配合することは、多くがフタロニトリル重合を開始させる触媒活性を有することから、問題となる。高い配合温度は、フタロニトリル重合を容易に促進するのに十分であり、その結果、樹脂粘度の増加、樹脂可使時間の短縮、及び樹脂のゲル化による固化により、充填樹脂の加工が不可能になる。したがって、従来のフタロニトリル樹脂とフィラー及び/又はその他の添加剤とを配合することは、モノマー樹脂を溶融及び液化するために必要な高温により、困難である。製造上許容可能な粘度を達成するために必要なこれらの同じ高温は及び樹脂の短い可使時間は、繊維強化ポリマー複合材においてマトリックス樹脂システムとしてのフタロニトリル樹脂及び粒子充填フタロニトリル樹脂の利用を制限してきた。したがって、繊維強化ポリマー複合材におけるフタロニトリル樹脂の商業的導入も困難である。
【0036】
BMPNの構造は、ビスフェノールPジフタロニトリル(BPPN)及びその他のフタロニトリル樹脂と比較して、フタロニトリルの融解温度を大幅に抑制すると考えられる。BMPNとBPPNとを比較したとき、融解温度の低下は、劇的である。BMPN樹脂とBPPN樹脂とは異性体であり、中央フェニル環での結合性によって構造が異なる。BMPNは中央フェニル環でメタ結合性を有し(下の式I参照)、BPPNは、中央フェニル環でパラ結合性を示す(下の式II参照)。意外にも、結合性の違いは融解温度に変換され、BMPNの160℃に対して、BPPNでは213℃である。BMPNの融解温度は、他の報告されているビスフェノールフタロニトリルよりも低い(Takekoshi,T.,Synthesis of High Performance Aromatic Polymers via Nucleophilic Nitro Displacement Reaction.Polymer,1987.19(1):p.191−202)。
【0037】
興味深いことに、BMPNは、その融解温度未満の温度で過冷却液体として存在できることを示し、これは他のビスフェノール系フタロニトリル樹脂では示されていない特性である。この属性は、融解温度未満の温度での液状樹脂加工を可能にし、樹脂の硬化発熱と樹脂融解温度との間のデルタTを大きくすることにより、BMPNに加工上の利点を加える。デルタTが大きくなると、他のフタロニトリル樹脂システムと比べて、BMPN樹脂システム(例えば、硬化剤又は触媒が添加されたBMPN)の加工範囲が大きくなり、ゲル時間が長くなる。この過冷却液体特性は、樹脂融解温度未満の温度(135℃)での樹脂粘度をモニターすることによって例示されている。測定は、異なるフローサンプリング条件下におけるBMPN樹脂の遅い結晶化時間、及び過冷却液体状態を維持する手段としての短い持続時間の低剪断流の使用を示す。
【0038】
ビスフェノールMジフタロニトリル(BMPN)及びBMPN系フタロニトリル樹脂ブレンド技術により、200℃未満の温度でのフタロニトリル樹脂を溶融することが可能になる。BMPN樹脂ブレンド技術は、樹脂ブレンド成分として、BMPN樹脂に加えて1又は複数の追加のフタロニトリル樹脂を用いる。BMPNの160℃という低い融解温度及び過冷却液体挙動により、樹脂及び樹脂ブレンドが200℃よりも十分に低い温度で、更にはBMPNの融解温度よりも低い温度でさえも、液体状態を長時間維持することを可能にする。BMPNが他のフタロニトリル樹脂との樹脂ブレンドにおいて、樹脂成分として用いられた場合、フタロニトリルブレンドは、50〜60℃もの低温まで液体粘度を維持することができ、これは樹脂ブレンドのガラス転移温度に近い。従来の配合方法は、フタロニトリルモノマー樹脂との配合が、高い融解温度及び樹脂重合により困難又は不可能のいずれかであったのに対し、BMPN及びBMPN系フタロニトリル樹脂ブレンドは、200℃未満の温度で液体粘度を維持できることにより、フタロニトリル樹脂を樹脂フィラー及び/又はその他の添加剤と配合することが可能になることが発見された。
【0039】
本開示は、BMPN系フタロニトリルブレンドと、表面改質していない(bare)粒子及び表面改質された粒子(例えば、カルサイト、シリカ、炭化ケイ素、アルミナ、窒化ホウ素、及びグラスバブルズ)とを、200℃未満の温度で、硬化開始の物理的又は熱的徴候なく配合することを示す。利用される配合技術としては、インペラ混合、高剪断混合、ミリング、遠心混合、及びフタロニトリルモノマー樹脂中への粒子の溶液分散が挙げられる。本開示は、未充填BMPN系フタロニトリル樹脂ブレンドシステム及び粒子充填BMPN系フタロニトリル樹脂ブレンドシステムを用いる樹脂含浸による繊維強化ポリマー複合材の製造方法を更に示す。繊維の樹脂含浸は、200℃を十分に下回る温度で実施され、樹脂システムは低粘度及び長い可使時間が維持される。
【0040】
コストは、フタロニトリル樹脂が商業的妥当性を得ることへの障害となってきた。フタロニトリル樹脂の高コストの原因をたどると、前駆体樹脂合成材料及び多段階合成スキームのコストにあることがわかった。本明細書に開示される少なくともいくつかの実施形態の充填BMPN樹脂及び樹脂ブレンドは、従来のフタロニトリル樹脂と比べて低コストのフィラーを組み込むことによるコスト面での利点から有益となる、加工可能な充填フタロニトリル樹脂を可能にする。溶液分散及びストリッピングは、樹脂材料コストと比べて大幅なコスト削減をもたらし、例えばカルサイト粒子の混合及びミル加工及び他の粒子の樹脂への遠心混合は、更により大きなコスト削減の機会を提供する。
【0041】
上記のように、第1の態様では、第1のフタロニトリル樹脂と、フィラーと、ビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂とのブレンドを含む、樹脂ブレンドが提供される。第2の態様では、第1の態様による樹脂ブレンドの重合生成物を含む物品が提供される。
【0042】
本開示の樹脂ブレンドにおいては、通常、ビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂が、式Iのものである。
【化3】
【0043】
式Iのモノマーは、ビスフェノールMのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルと呼ばれることもある。式Iのモノマーの重合した生成物は、典型的には、200〜250℃のガラス転移温度を示す。
【0044】
本開示による樹脂ブレンドの選択的実施形態では、第1のフタロニトリル樹脂が、式II、式III、又は式IVのものであるか、あるいはそれらの組み合わせである。
【化4】
【化5】
【化6】
【0045】
式IIのモノマーは、ビスフェノールPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、又はBPPNとも呼ばれることもある。式IIのモノマーの重合した生成物は、典型的には、250〜300℃のガラス転移温度を示す。式IIIのモノマーは、ビスフェノールTのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、又はBTPNとも呼ばれることもある。式IVのモノマーは、レゾルシノールのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、又はRPNとも呼ばれることもある。いくつかの実施形態において、第1のフタロニトリル樹脂は、式IIのビスフェノールPジフタロニトリルエーテル樹脂を含む。いくつかの実施形態において、第1のフタロニトリル樹脂は、式IIIのビスフェノールTジフタロニトリルエーテル樹脂を含む。いくつかの実施形態において、第1のフタロニトリル樹脂は、式IVのレゾルシノールジフタロニトリルエーテル樹脂を含む。
【0046】
2種のフタロニトリル樹脂の量は特に限定されない。一部の実施形態において、第1のフタロニトリル樹脂のビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂に対する重量比は、10:90〜90:10(両端の値を含む)、又は15:85〜85:15(両端の値を含む)、又は30:70〜70:30(両端の値を含む)の範囲である。選択的実施形態において、樹脂ブレンドは、式I、式II、式III及び式IVのそれぞれのモノマーのブレンドを含む。
【0047】
いくつかの実施形態において、本開示による樹脂ブレンドは、少なくとも1つの追加のフタロニトリル樹脂を更に含む。追加のフタロニトリル樹脂の例としては、例えば、ビスフェノールAのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールAのビス(2,3−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールAPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールAFのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールBのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールBPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールCのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールC2のビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールEのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールFのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、3,3’,5,5’−テトラメチルビスフェノールFのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールFLのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールGのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールSのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールPHのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールTMCのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールZのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、カテコールのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、フェノールの3,4−ジシアノフェニルエーテル、フェノールの2,3−ジシアノフェニルエーテル、4−tert−ブチルフタロニトリル、4−ブトキシフタロニトリル、4−クミルフェノールの3,4−ジシアノフェニルエーテル、2−アリルフェノールの3,4−ジシアノフェニルエーテル、オイゲノールの3,4−ジシアノフェニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、(2種類以上の樹脂の)樹脂ブレンドは、25℃で固体である。
【0048】
BMPN、BPPN、及びBTPNの合成は、DMSO中の炭酸カリウムで触媒される、ビスフェノールのフェノール残基による4−ニトロフタロニトリルのニトロ基の求核置換によって行うことができる。反応は、窒素雰囲気下で、周囲温度にて行うことができる。
【0049】
重合ネットワークの形成方法は、典型的には、式Iのモノマーを得ることと、当該モノマーを少なくとも1種の追加のフタロニトリル樹脂、硬化剤、触媒(例えば、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノン−5−エン又は1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の塩基;還元剤、例えば、ヒドロキノン及び1,2,3,6−テトラヒドロピリジン;金属、有機金属又は金属塩、例えば、銅、鉄、銅アセチルアセトネート、ナフテン酸亜鉛、ジブチルスズジラウレート、塩化第一スズ、塩化第二スズ、塩化銅、塩化鉄、及び/又は炭酸カルシウム)、又はこれらの組み合わせをとブレンドしてモノマーブレンド(又は樹脂ブレンド)を形成すること;及びモノマーブレンドを300℃以下の温度で処理して完全重合したネットワークを形成することを含む。一般的に、組成物を、約50〜300℃、例えば約130〜300℃の温度で約1〜480分間加熱する。好適な熱源としては、誘導加熱コイル、オーブン、ホットプレート、ヒートガン、レーザーを含む赤外線源、マイクロ波源が挙げられる。
【0050】
溶媒は、加工助剤として使用することが可能である。有用な溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノン等のケトン;アセトアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド(dimethylforamide)、N−メチルピロリジノン等のアミド;テトラメチレンスルホン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、ブタジエンスルホン、メチルスルホン、エチルスルホン、プロピルスルホン、ブチルスルホン、メチルビニルスルホン、2−(メチルスルホニル)エタノール、2,2’−スルホニルジエタノール等のスルホン;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート;エチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、メチルホルメート等のカルボン酸エステル;並びにテトラヒドロフラン、塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ニトロメタン、グリコールサルファイト及び1,2−ジメトキシエタン(グリム)等のその他の溶媒である。
【0051】
方法の一部の実施形態では、モノマーブレンドは、空気中で300℃以下の温度に曝される。任意に、モノマーブレンドは、大気圧で300℃以下の温度に曝される。
【0052】
本開示の樹脂ブレンドに含まれるフィラーは、特に限定されず、ナノ粒子、マイクロ粒子、不連続繊維、連続繊維、及びこれらの組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施形態では、フィラーが、金属炭化物ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、シリカナノ粒子、炭素ナノ粒子、金属炭酸塩ナノ粒子、金属窒化物ナノ粒子、金属水酸化物ナノ粒子、金属硫酸塩ナノ粒子、チタン酸バリウムナノ粒子、又はこれらの組み合わせを含む、ナノフィラーを含む。任意に、フィラーが、カルサイトナノ粒子、シリカナノ粒子、炭化ケイ素ナノ粒子、アルミナナノ粒子、ジルコニアナノ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、窒化アルミニウムナノ粒子、窒化ホウ素ナノ粒子、ドロマイトナノ粒子、ベーマイトナノ粒子、水酸化マグネシウムナノ粒子、硫酸カルシウムナノ粒子、硫酸バリウムナノ粒子、硫酸マグネシウムナノ粒子、又はこれらの組み合わせを含むナノフィラーを含む。本明細書で使用する場合、材料の前にある「ナノ」又は「マイクロ」という用語は、それぞれナノ粒子又はマイクロ粒子としてのその材料の呼称と互換可能である(例えば、「ナノシリカ」は「シリカナノ粒子」と互換可能であり、「マイクロカルサイト」は「カルサイトマイクロ粒子」と互換可能である等)。例えば、限定するものではないが、いくつかの好適なナノ粒子としては、Nalco Company(Naperville,IL)から商標名NALCO 15827で入手可能なシリカナノ粒子;及び3M Technical Ceramics(Kempten,Germany)から商標名VSN1393で入手可能な炭化ケイ素ナノ粒子が挙げられる。
【0053】
典型的には、本開示による樹脂ブレンド中に存在するナノフィラーは、樹脂ブレンドの総重量を基準にして1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、8重量%以上、10重量%以上、12重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、又は更には25重量%以上;及び樹脂ブレンドの総重量を基準にして40重量%以下、38重量%以下、36重量%以下、34重量%以下、32重量%以下、30重量%以下、28重量%以下、26重量%以下、24重量%以下、22重量%以下、20重量%以下、18重量%以下、又は15重量%以下の量で存在する。別の言い方をすれば、ナノフィラーは、樹脂ブレンドの総重量を基準にして、1〜40重量%、1〜20重量%、3〜15重量%、20〜40重量%、又は25〜40重量%の量で存在し得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、フィラーが、金属炭化物マイクロ粒子、金属酸化物マイクロ粒子、シリカマイクロ粒子、炭素マイクロ粒子、金属炭酸塩マイクロ粒子、金属窒化物マイクロ粒子、金属水酸化物ナノ粒子、金属硫酸塩マイクロ粒子、チタン酸バリウムマイクロ粒子、セノスフェア(cenospheres)、又はこれらの組み合わせを含むマイクロフィラーを含む。任意に、フィラーが、カルサイトマイクロ粒子、シリカマイクロ粒子、炭化ケイ素マイクロ粒子、アルミナマイクロ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、窒化アルミニウムマイクロ粒子、窒化ホウ素マイクロ粒子、ドロマイトマイクロ粒子、ベーマイトマイクロ粒子、グラスバブルズ、又はこれらの組み合わせを含むマイクロフィラーを含む。例えば、限定するものではないが、いくつかの好適なマイクロ粒子としては、3M Company(St.Paul,MN)から3M窒化ホウ素クーリングフィラーPLATELETSの商標名で入手可能な窒化ホウ素マイクロ粒子;3M Company(St.Paul,MN)から3MグラスバブルズIM16Kの商標名で入手可能なグラスバブルズ;Micron Corp(新日鉄住金マテリアルズ株式会社(日本)の子会社)からミクロンTA6Y1アルミナの商標名で入手可能なアルミナマイクロ粒子が挙げられる。
【0055】
典型的には、本開示による樹脂ブレンド中に存在するマイクロフィラーは、樹脂ブレンドの総重量を基準にして1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、又は更には60重量%以上;及び樹脂ブレンドの総重量を基準にして90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、75重量%以下、70重量%以下、65重量%以下、55重量%以下、45重量%以下、35重量%以下、25重量%以下の量で存在する。別の言い方をすれば、ナノフィラーは、樹脂ブレンドの総重量を基準にして、1〜90重量%、1〜50重量%、5〜35重量%、20〜55重量%、又は60〜90重量%の量で存在し得る。
【0056】
概して、本開示の任意の表面改質剤は、少なくとも結合基と相溶化セグメントとを含む。相溶化セグメントは、フィラーの硬化性樹脂との相溶性を改善するように選択される。概して、相溶化基の選択は、硬化性樹脂の性質、フィラーの濃度、及び所望の相溶性の度合いを含む、多くの要因によって決まる。有用な相溶化基としては、例えば、限定するものではないが、ポリアルキレンオキシド残基(例えば、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、及びこれらの組み合わせ)、芳香族残基(例えば、フェニル、フェニルアルキレン、置換フェニレン、及びこれらの組み合わせ)、カルボニル残基(例えば、ケトン、エステル、アミド、カルバメート、及びこれらの組み合わせ)が挙げられる。結合基は、粒子表面に結合し、表面改質剤をフィラーに結び付ける。カルサイト粒子の場合、表面改質剤がシリカと共有結合する多くのシリカ系ナノ粒子システムとは異なり、本開示の表面改質剤は、カルサイト粒子とイオン結合又は物理的に結合する(例えば、会合する)。フィラー表面及び表面改質剤によっては、表面改質剤は、フィラーの表面に共有結合、イオン結合又は物理的結合のうちの1つ以上であってもよい。
【0057】
いくつかの好適な表面改質剤は、有機酸、有機塩基、シロキサン、シラン、又はこれらの組み合わせを含む。表面改質剤の種類は、フィラーの材料に応じて決まることになる。例えば、フィラーが、シリカナノ粒子、シリカマイクロ粒子、セノスフェア、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、炭化ケイ素ナノ粒子、炭化ケイ素マイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含むとき、表面改質剤は、シラン又はシロキサンを含んでもよい。フィラーが、カルサイトナノ粒子、カルサイトマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、アルミナナノ粒子、アルミナマイクロ粒子、ドロマイトナノ粒子、ドロマイトマイクロ粒子、ベーマイトナノ粒子、ベーマイトマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含むとき、表面改質剤は有機酸又は有機塩基を含んでもよい。フィラーが、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含むとき、表面改質剤は有機酸を含んでもよい。フィラーが、カルサイトナノ粒子、カルサイトマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含むとき、表面改質剤はオルガノスルホネート及び/又はオルガノホスフェートを含んでもよい。例えば、オルガノスルホネート及びオルガノホスフェートのスルホネート末端及びホスフェート末端は、それぞれ、表面改質剤のスルホネート及びホスフェートとカルサイトのカルシウムとの間のイオン錯体の形成によって、カルサイト表面に会合する。表面改質剤の有機末端は、フタロニトリル樹脂においてカルサイトを安定化し、液体樹脂溶融物中にカルサイトを分散し、硬化ポリマーネットワークにおいてカルサイトを安定化する。本開示の少なくともいくつかの実施形態では、ポリプロピレンオキシド及びポリエチレンオキシドを、本明細書に記載の表面改質剤のいずれかの有機末端として使用して、モノマー樹脂及びポリマーネットワークに会合する。
【0058】
例えば、本開示によれば、カルサイト及び表面改質剤は、フタロニトリル樹脂中にインペラ混合及びミル加工された。表面改質剤は、カルサイト表面に吸着し、樹脂中のカルサイトを安定化させる。アルミナ、窒化ホウ素、及びグラスバブルズは、フタロニトリル樹脂中に遠心混合された。シリカ及び炭化ケイ素は、対照的に、フェニルトリメトキシオキシシランで表面改質され、これはシリカと炭化ケイ素の水/アルコールゾル中で加水分解され、粒子表面の反応性表面シラノールと縮合した。粒子ゾルは、フタロニトリル樹脂と混合され、溶媒ストリッピングされた。フェニル改質された表面は、シリカナノ粒子及び炭化ケイ素ナノ粒子をフタロニトリル樹脂中に相溶化する。充填樹脂は、硬化剤や触媒を添加した場合に、未充填樹脂に匹敵する可使時間を維持する。
【0059】
カルサイト充填されたBMPNフタロニトリル樹脂又は樹脂ブレンドの配合技術としてのインペラ混合及びミル加工は、他の配合技術と比較して、プロセスの簡便さ、容易さ、及び低コストをもたらす。インペラ混合は、カルサイトを樹脂中に分散させ、粒径をマイクロメートルの粒径まで破壊する。後続プロセスとしてのミル加工は、カルサイトをナノメートルの粒径まで破壊し、表面改質剤は、カルサイトを樹脂中で安定化させる。インペラ混合にミル加工を追加することで、フィラーの低コストを、充填樹脂のコストへと有効に転化できる。BMPN樹脂及びBMPN系フタロニトリルブレンドは、200℃を十分に下回る温度で液体状態を維持することによって、従来のフタロニトリル樹脂では不可能であった混合及びミル加工を配合技術として可能にする。
【0060】
60℃付近の温度で、樹脂の粘度を低下させるために溶媒が添加されることが多い。フタロニトリル樹脂と混和可能な好適な溶媒のいくつかとしては、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。より高い温度(例えば、120℃を超えるが200℃未満)では、混合及びミル加工を、液体樹脂溶融物に溶媒を添加することなく実施できる。高温混合及びミル加工の利点は、溶媒ストリッピングがなくなることである。
【0061】
フィラー表面用の表面改質剤は、表面改質剤の一端が優先的にフィラー表面に会合し、表面改質剤の他端が優先的にモノマー樹脂に会合し、樹脂及び重合ネットワーク中で粒子の相溶性を維持するように選択される。表面改質剤の濃度は、樹脂中の遊離表面改質剤を最小限にし、開放されたフィラー(例えば、カルサイト)表面を避けるように調整することができ、遊離表面改質剤及び開放されたフィラー表面はいずれも、200℃超でのフタロニトリル重合を触媒する。
【0062】
いくつかの実施形態において、フィラーが、強化連続繊維(reinforcing continuous fibers)又は強化不連続繊維(reinforcing discontinuous fibers)のうちの少なくとも1つを含む。例示的な繊維としては、炭素(例えば、グラファイト)繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ホウ素繊維、炭化ケイ素繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維、及びポリエチレン繊維が挙げられる。また、材料の組み合わせが使用されてもよい。概して、繊維の形態は、特に限定されない。例示的な連続繊維形態としては、個々の連続繊維の単方向アレイ、糸、ロービング、編組、及び不織マットが挙げられる。不連続繊維は特に限定されず、例えば、ガラス、アルミナ、アルミノシリケート、炭素、玄武岩、又はこれらの組み合わせなどの無機繊維が挙げられる。不連続繊維は、典型的には、5cm未満の平均長さを有する。不連続繊維は、例えば、細断、剪断、及びミル加工等の当該技術分野において既知の方法によって、連続繊維から形成されてもよい。典型的には、多数の不連続繊維が、10:1以上のアスペクト比を備える。
【0063】
好適な不連続繊維は、セラミック繊維等の様々な組成を有することができる。セラミック繊維は、様々な市販のセラミックフィラメントから製造できる。セラミック繊維を形成するのに有用なフィラメントの例としては、商標名NEXTEL(3M Company,St.Paul,MN)で販売されているセラミック酸化物繊維が挙げられる。NEXTELは、操作温度では低い伸長及び収縮率を有する連続フィラメントセラミック酸化物繊維であり、良好な化学物質耐性、低い熱伝導率、熱ショック耐性、及び低い多孔性を提供する。NEXTEL繊維の具体的例としては、NEXTEL312、NEXTEL440、NEXTEL550、NEXTEL610、及びNEXTEL720が挙げられる。NEXTEL312及びNEXTEL440は、Al
2O
3、SiO
2、及びB
2O
3を含む耐熱性アルミノボロシリケートである。NEXTEL550及びNEXTEL720は、アルミノシリカであり、NEXTEL610は、アルミナである。製造の際に、NEXTELフィラメントは、有機サイジング剤又は仕上げ剤でコーティングされ、これが、繊維加工の補助剤として機能する。サイジング剤は、フィラメント又はセラミック繊維を700℃の温度で1〜4時間ヒートクリーニングすることによって、セラミックフィラメントから除去することができる。窒化ホウ素繊維は、例えば、米国特許第3,429,722号(Economy)及び米国特許第5,780,154号(Okano et al.)に記載のようにして製造できる。
【0064】
セラミック繊維は、他の好適なセラミック酸化物フィラメントからも形成できる。そのようなセラミック酸化物フィラメントの例としては、Central Glass Fiber Co.,Ltd.から市販のもの(例えば、EFH75−01、EFH150−31)が挙げられる。約2%未満のアルカリを含有するか、又は実質的にアルカリを含まないもの(すなわち、「Eガラス」繊維)である、アルミノボロシリケートガラス繊維もまた、好ましい。Eガラス繊維は、多数の商業的供給業者から市販されている。
【0065】
セラミック繊維は、比較的一様な長さを有するように切断又は細断することができ、これは、セラミック材料の連続フィラメントを、他の切断操作の中でもとりわけ、機械的剪断操作又はレーザー切断操作で切断することによって達成することができる。このような切断操作の高度に制御された性質を考慮すると、セラミック繊維のサイズ分布は非常に狭く、複合材特性を制御することができる。セラミック繊維の長さは、例えば、CCDカメラ(Olympus DP72,Tokyo,Japan)及び分析ソフトウェア(Olympus Stream Essentials,Tokyo,Japan)を搭載した光学顕微鏡(Olympus MX61,Tokyo,Japan)を使用して測定できる。セラミック繊維の代表試料をガラススライド上に広げ、少なくとも200個のセラミック繊維の長さを10倍で測定することによって、試料を調製してもよい。
【0066】
樹脂ブレンド中に分散される不連続繊維の量は特に限定されない。多数の繊維は、多くの場合、樹脂ブレンドの少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、又は少なくとも25重量%;及び樹脂ブレンドの最大50重量%、最大45重量%、最大40重量%、又は最大35重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、繊維は、樹脂ブレンド中に、樹脂ブレンドの1重量%〜50重量%、又は2重量%〜25重量%、又は5重量%〜15重量%(両端の値を含む)の量で存在する。いくつかの実施形態において、不連続繊維は、樹脂ブレンドの5重量%〜50重量%(両端の値を含む)の量で存在する。
【0067】
例えば、カルサイトと表面改質剤とをインペラ混合し、その後カルサイトを400nm未満の寸法にミル加工することによって製造されたカルサイト充填BMPN系樹脂システムは、繊維強化ポリマー複合材の製造に用いられてきた。ナノメートル寸法の粒子は、樹脂及び粒子の繊維束への浸透(粒子を濾過することなく)を可能にする。BMPN系樹脂システムの低粘度は、200℃を十分に下回る温度での繊維の含浸を可能にする。本開示は、繊維強化ポリマー複合材の製造における繊維の液体フタロニトリル樹脂含浸の製造方法としての樹脂トランスファー成形も記載する。BMPN系樹脂によって可能になる繊維の他のインライン液体樹脂含浸法としては、引抜及びフィラメントワインディングが挙げられる。繊維強化ポリマー複合材は、カルサイト充填フタロニトリル樹脂システムに用いられるプロセスと類似の樹脂トランスファー成形プロセスを使用した、未充填BMPN系樹脂システムでも実証されている。
【0068】
溶液分散後の溶媒ストリッピングは、BMPNフタロニトリル及びフタロニトリル樹脂ブレンドにシリカ及び炭化ケイ素を導入するための好ましい方法となり得る。シリカ及び炭化ケイ素の溶液分散法は、フタロニトリル樹脂の費用と比べて低コストであり、200℃未満の温度で液体樹脂溶融物中に十分に分散した粒子が得られる。例えば、シリカ及び炭化ケイ素は、それぞれ、水/アルコール懸濁液中でフェニルトリメトキシシランで表面改質され、フタロニトリル樹脂と混和可能な溶媒(例えば、メトキシプロパノール、アセトン、MEK、MIBK、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、ジアセトンアルコール、DMF、DMSO)へと移送される。粒子ゾルを、高温(例えば、120℃を超える)で、樹脂が低粘度の液体樹脂溶融物である未希釈のフタロニトリル樹脂に添加した。粒子ゾルは、樹脂粘度を低下させるために混和可能な溶媒で希釈したフタロニトリル樹脂に、より低い温度(例えば、120℃未満)で添加することができる。溶媒は、200℃未満の温度で粒子充填樹脂からストリッピングされ、その際BMPNフタロニトリル樹脂又は樹脂ブレンドは液体溶融状態のままである。粒子のフェニル処理された表面は、粒子を液体樹脂溶融物中及び硬化ポリマーネットワーク中で安定化する。
【0069】
アルミナ、窒化ホウ素、グラスバブルズ及びシラン表面改質されたグラスバブルズの遠心混合は、BMPNフタロニトリル及びフタロニトリル樹脂ブレンド中への粒子分散の短時間で効率的な手段を提供する。粒子は、200℃未満、好ましくは100℃〜150℃の温度で、液体樹脂中に分散され、その際の樹脂粘度及び遠心ミキサーの回転数(RPM)は、分単位のオーダーで、目に見える粒塊を生じることなく良好に混合した粒子を与える。
【0070】
粒子充填BMPN樹脂及び樹脂ブレンドは、材料特性及びコストの点で、従来のフタロニトリル樹脂を上回る利点を提供する。例えば、カルサイト充填フタロニトリル重合ネットワークは、より高い剛性を有し、いくつかの例では、同等の強度を維持しながら、より高いガラス転移温度又は僅かに高い靭性を有する。シリカ充填フタロニトリル重合ネットワークは、同等の強度を維持しながら、より高い剛性及び靭性を有する。アルミナ及び窒化ホウ素フタロニトリル重合ネットワークは、より高い剛性及び熱伝導率を有する。グラスバブルズ充填フタロニトリル重合ネットワークは、より高い剛性及びより低い密度を有する。
【0071】
粒子充填BMPNフタロニトリル樹脂及び樹脂ブレンドは、200℃未満の温度で液体溶融物として加工することができる。充填樹脂にジアニリン系硬化剤(例えば、4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリン)を添加した場合、充填樹脂システムは、樹脂ゲル化前に、加工温度によって制御された粘度及び可使時間を有した。充填樹脂を硬化剤と共に200℃近く及び200℃を超える温度に加熱すると、フタロニトリルは容易に重合してネットワークポリマー固体になる。充填樹脂の液体様の粘度及び可使時間により、樹脂を型成形して粒子充填ポリマーネットワーク物品及び繊維強化ポリマー複合材物品にすることが可能になる。
【0072】
充填樹脂からの繊維強化ポリマー繊維状複合材物品の製造は、1マイクロメートル未満、より好ましくは400ナノメートル未満の球に設計された粒子フィラーの特徴的なサイズによって可能になり、これは例えば、ミル加工されたカルサイト及び溶液分散シリカ及び炭化ケイ素が充填されたフタロニトリル樹脂で実証されている。繊維強化ポリマー複合材の製造は、カルサイト充填BMPN系樹脂システム及び未充填のBMPN系樹脂システムの樹脂トランスファー成形によって実証された。
【0073】
本開示の少なくともいくつかの実施形態による組成物は、1又は複数の硬化剤を含む。このような硬化剤は、多くの場合、一級アミン等のアミン化合物、例えばアニリン官能性残基を含むものを含む。所望により、様々な硬化剤の組み合わせを使用することができる。硬化剤は、典型的には、樹脂ブレンドの少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%又は更には少なくとも20重量%、及び樹脂ブレンドの最大40重量%、最大35重量%、最大30重量%、又は更には最大25重量%、例えば、樹脂ブレンドの0〜40重量%の量で存在する。重合中の硬化剤の損失を避けるために、典型的には、より高分子量及びより低揮発性のアニリン官能性硬化剤が望ましい。ジアニリン系硬化剤は、硬化剤の重量当たりのアニリン官能性がより高いことから、有用となり得る。フタロニトリル重合を促進すると推定されるジアニリン系硬化剤の例としては、例えば、4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジオキシ)ジアニリン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェニル−1,1’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−スルホニルジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2−メチルアニリン)、3,3’−メチレンジアニリン、3,4’−メチレンジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−(イソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(p−フェニレンオキシ)ジアニリン、及び4,4’−ジアミノベンゾフェノンが挙げられるが、これらに限定されない。第一級アミンに促進されるフタロニトリル硬化反応は、200℃〜250℃の温度で許容可能な速度で進行する。アミン硬化されたフタロニトリル重合ネットワークは、高いガラス転移温度、良好な耐熱劣化性及び耐熱酸化劣化性によって付与される卓越した熱安定性を示し、更には本質的に不燃性で、吸湿性が低い。
【0074】
いくつかの他の任意の添加剤も、本開示による組成物、2コンポーネント系、及び/又は樹脂ブレンドに含んでもよく、その例としては、強化剤、フィラー、及びこれらの組み合わせが挙げられる。このような添加剤は、様々な機能を提供する。例えば、有機粒子などの強靭化剤は、硬化を妨げることなく、硬化後に、組成物に強度を追加し得る。1つの化合物が、2つ以上の異なる機能を形成してもよいことは、当業者に理解されよう。例えば、化合物は、強靭化剤及びフィラーの両方として機能してもよい。いくつかの実施形態では、このような添加剤は、樹脂ブレンドの樹脂と反応しない。いくつかの実施形態では、このような添加剤は、反応性官能基を、特に末端基として含んでもよい。このような反応性官能基の例としては、これらに限定されないが、アミン、チオール、アルコール、エポキシド、ビニル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0075】
有用な強靭化剤は、ゴム相及び熱可塑性相の両方を有するポリマー化合物、例えば、重合したジエンゴムコア及びポリアクリレートポリメタクリレートシェルを有するグラフトポリマー;ゴムポリアクリレートコア及びポリアクリレート又はポリメタクリレートシェルを有するグラフトポリマー;並びにフリーラジカル重合性モノマー及び共重合性ポリマー安定剤からエポキシド中にてin situで重合されるエラストマー粒子である。
【0076】
米国特許第3,496,250号(Czerwinski)に開示されるように、第1の種類の有用な強靭化剤の例としては、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルのシェル、モノビニル芳香族炭化水素、又はこれらの混合物がグラフト化されている重合されたジエンゴム状骨格又はコアを有する、グラフトコポリマーが挙げられる。例示的なゴム状骨格は、重合されたブタジエン又はブタジエン及びスチレンの重合された混合物を含む。重合されたメタクリル酸エステルを含む例示的なシェルは、低級アルキル(C1〜C4)で置換されたメタクリレートである。例示的なモノビニル芳香族炭化水素は、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルビニルベンゼン、イソプロピルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びエチルクロロスチレンである。グラフトコポリマーは、樹脂の重合を阻害する官能基を含有しないことが重要である。
【0077】
第2の種類の有用な強靭化剤の例は、アクリレートコア−シェルグラフトコポリマーであり、ここで、コア又は骨格鎖は0℃未満のガラス転移温度を有するポリアクリレートポリマー、例えば、ポリメチルメタクリレート等の25℃超のガラス転移温度を有するポリメタクリレートポリマー(シェル)がグラフト化されたポリブチルアクリレート又はポリイソオクチルアクリレートである。
【0078】
有用な第3の部類の強靭化剤は、組成物の他の構成成分と混合する前に、25℃未満のガラス転移温度(T
g)を有するエラストマー粒子を含む。これらのエラストマー粒子は、フリーラジカル重合性モノマー及び共重合性ポリマー安定剤から重合される。フリーラジカル重合性モノマーは、ジオール、ジアミン、及びアルカノールアミンなどの共反応性二官能性水素化合物と組み合わせた、エチレン性不飽和モノマー又はジイソシアネートである。
【0079】
有用な強靭化剤としては、コアが架橋スチレン/ブタジエンゴムであり、シェルがポリメチルアクリレートである、メタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)コポリマーなどのコア/シェルポリマー(例えば、Rohm and Haas(Philadelphia,PA)から入手可能なACRYLOID KM653及びKM680)、ポリブタジエンを含むコアと、ポリ(メチルメタクリレート)を含むシェルと、を有するもの(例えば、Kaneka Corporation(Houston,TX)から入手可能なKANE ACE M511、M521、B11A、B22、B31、及びM901、並びにATOFINA(Philadelphia,PA)から入手可能なCLEARSTRENGTH C223)、ポリシロキサンコア及びポリアクリレートシェルを有するもの(例えば、ATOFINAから入手可能なCLEARSTRENGTH S−2001、及びWacker−Chemie GmbH,Wacker Silicones(Munich,Germany)から入手可能なGENIOPERL P22)、ポリアクリレートコア及びポリ(メチルメタクリレート)シェルを有するもの(例えば、Rohm and Haasから入手可能なPARALOID EXL2330、及び武田薬品工業(大阪)から入手可能なSTAPHYLOID AC3355及びAC3395)、MBSコア及びポリ(メチルメタクリレート)シェルを有するもの(例えば、Rohm and Haasから入手可能なPARALOID EXL2691A、EXL2691、及びEXL2655)など、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
上記で使用したように、アクリルコア/シェル材料のための「コア」は、0℃未満のT
gを有するアクリルポリマーであることが理解され、「シェル」は、25℃より高いT
gを有するアクリルポリマーであることが理解されよう。
【0081】
他の有用な強靭化剤としては、B.F.Goodrich ChemicalCo.からの商標名HYCAR CTBN 1300X8、ATBN 1300X16、及びHYCAR 1072で入手可能なものなどのカルボキシ化されたアミン末端のアクリロニトリル/ブタジエン加硫性エラストマー前駆物質、商標名HYCAR CTBで入手可能なものなどのブタジエンポリマー、3M Co.(St.Paul,MN)からの分子量10,000の一級アミン末端化合物であるHCl101(すなわちポリテトラメチレンオキサイドジアミン)、及びHuntsman Chemical Co.(Houston,TX)からの商標名JEFFAMINEで入手可能なものなどのアミン官能性ポリエーテルが挙げられる。有用な液体ポリ−ブタジエンヒドロキシル末端樹脂としては、Petroflex(Wilmington,DE)からLIQUIFLEXの商標名で、及びSartomer(Exton,PN)からHT45の商標名で入手可能なものが挙げられる。
【0082】
強化剤は、エポキシ末端化合物を含んでもよく、これは、ポリマー骨格に組み込まれ得る。典型的な、好ましい強化剤の一覧には、アクリルコア/シェルポリマー、スチレン−ブタジエン/メタクリレートコア/シェルポリマー、ポリエーテルポリマー、カルボキシル化アクリロニトリル/ブタジエン、及びカルボキシル化ブタジエンが挙げられる。エポキシ樹脂を持つ化合物内の鎖延長剤の提供から、上述した強靭化剤が無くとも、利点を得ることができる。しかし、特定の利点は、前に示唆したように、強靭化剤の存在又は異なる薬剤の組み合わせから得られる。
【0083】
所望の場合、強靭化剤の様々な組み合わせを用い得る。使用する場合、強靭化剤は少なくとも3重量%、又は少なくとも5重量%の量で樹脂ブレンド中に存在する。使用する場合、強靭化剤は35重量%以下、又は25重量%以下の量で樹脂ブレンド中に存在する。
【0084】
その他の任意による添加剤又は補助剤は、所望のように、組成物に添加されてもよい。このようなその他の任意による添加剤の例としては、着色剤、酸化防止安定剤、熱分解安定剤、光安定剤、流動化剤、増粘剤、艶消し剤、追加のフィラー、結合剤、発泡剤、殺真菌剤、殺菌剤、界面活性剤、可塑化剤、ゴム強化剤、及び当業者に既知のその他の添加剤が挙げられる。このような添加剤は、典型的には、実質的に非反応性である。存在する場合、これらの補助剤は、又はその他の任意による添加剤は、それらの意図された目的に有効な量で加えられる。
【0085】
好適な追加充填材料の例としては、強化等級カーボンブラック、フルオロプラスチック、粘土、及びこれらのいずれかの任意の割合での任意の組み合わせが挙げられる。
【0086】
本明細書で使用する場合、語句「強化等級カーボンブラック」は、約10ミクロン未満の平均粒径を有する任意のカーボンブラックを含む。強化等級カーボンブラックに関するいくつかの特に好適な平均粒径は、約9nm〜約40nmの範囲である。強化等級ではないカーボンブラックとしては、平均粒径が約40nmより大きいカーボンブラックが挙げられる。カーボンナノチューブもまた、有用なフィラーである。カーボンブラックフィラーは、典型的には、組成物の伸長、硬度、磨耗耐性、伝導度、及び加工性のバランスをとるため、用いられる。好適な例としては、MTブラックス(メディアム・サーマル・ブラック)(名称:N−991、N−990、N−908、及びN−907)、FEF N−550、並びに大粒径ファーネスブラックが挙げられる。
【0087】
更なる有用なフィラーとしては、ケイソウ土、硫酸バリウム、タルク、及びフッ化カルシウムが挙げられる。任意的な構成成分の選択及び量は、特定の用途の必要性に依存する。
【0088】
樹脂ブレンド及び物品を含む様々な実施形態を提供する。
【0089】
実施形態1は、第1のフタロニトリル樹脂と、フィラーと、ビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂とのブレンドを含む、樹脂ブレンドである。
【0090】
実施形態2は、フィラーが、金属炭化物ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、シリカナノ粒子、炭素ナノ粒子、金属炭酸塩ナノ粒子、金属窒化物ナノ粒子、金属水酸化物ナノ粒子、金属硫酸塩ナノ粒子、チタン酸バリウムナノ粒子、又はこれらの組み合わせ等のナノフィラーを含む、実施形態1に記載の樹脂ブレンドである。
【0091】
実施形態3は、フィラーが、カルサイトナノ粒子、シリカナノ粒子、炭化ケイ素ナノ粒子、アルミナナノ粒子、ジルコニアナノ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、窒化アルミニウムナノ粒子、窒化ホウ素ナノ粒子、ドロマイトナノ粒子、ベーマイトナノ粒子、水酸化マグネシウムナノ粒子、硫酸カルシウムナノ粒子、硫酸バリウムナノ粒子、硫酸マグネシウムナノ粒子、又はこれらの組み合わせを含むナノフィラーを含む、実施形態1又は2に記載の樹脂ブレンドである。
【0092】
実施形態4は、フィラーが、金属炭化物マイクロ粒子、金属酸化物マイクロ粒子、シリカマイクロ粒子、炭素マイクロ粒子、金属炭酸塩マイクロ粒子、金属窒化物マイクロ粒子、金属水酸化物ナノ粒子、金属硫酸塩マイクロ粒子、チタン酸バリウムマイクロ粒子、セノスフェア、又はこれらの組み合わせを含むマイクロフィラーを含む、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0093】
実施形態5は、フィラーが、カルサイトマイクロ粒子、シリカマイクロ粒子、炭化ケイ素マイクロ粒子、アルミナマイクロ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、窒化アルミニウムマイクロ粒子、窒化ホウ素マイクロ粒子、ドロマイトマイクロ粒子、ベーマイトマイクロ粒子、グラスバブルズ、又はこれらの組み合わせを含むマイクロフィラーを含む、実施形態1〜4のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0094】
実施形態6は、フィラーが、有機酸、有機塩基、シロキサン、シラン、又はこれらの組み合わせを含む表面改質剤を含み、表面改質剤が、フィラーの表面に結合若しくは会合しているか、又はその両方である、実施形態1〜5のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0095】
実施形態7は、フィラーが、シリカナノ粒子、シリカマイクロ粒子、セノスフェア、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、炭化ケイ素ナノ粒子、炭化ケイ素マイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、表面改質剤が、シラン又はシロキサンを含む、実施形態6に記載の樹脂ブレンドである。
【0096】
実施形態8は、フィラーが、カルサイトナノ粒子、カルサイトマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、アルミナナノ粒子、アルミナマイクロ粒子、ドロマイトナノ粒子、ドロマイトマイクロ粒子、ベーマイトナノ粒子、ベーマイトマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、表面改質剤が、有機酸又は有機塩基を含む、実施形態6又は7に記載の樹脂ブレンドである。
【0097】
実施形態9は、フィラーが、カルサイトナノ粒子、カルサイトマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、表面改質剤が、オルガノスルホネート、オルガノホスフェート、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態8に記載の樹脂ブレンドである。
【0098】
実施形態10は、フィラーが、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアマイクロ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化マグネシウムマイクロ粒子、又はこれらの組み合わせを含み、表面改質剤が、有機酸を含む、実施形態6〜8のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0099】
実施形態11は、ナノフィラーを、樹脂ブレンドの総重量を基準にして40重量%以下の量で含む、実施形態1〜10のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0100】
実施形態12は、ナノフィラーを、樹脂ブレンドの総重量を基準にして1重量%以下の量で含む、実施形態11に記載の樹脂ブレンドである。
【0101】
実施形態13は、マイクロフィラーを、樹脂ブレンドの総重量を基準にして90重量%以下の量で含む、実施形態1〜10のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0102】
実施形態14は、マイクロフィラーを、樹脂ブレンドの総重量を基準にして1重量%以下の量で含む、実施形態13に記載の樹脂ブレンドである。
【0103】
実施形態15は、触媒、硬化剤、強靭化剤、及びこれらの組み合わせから選択される、少なくとも1種の添加剤を更に含む、実施形態1〜14のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0104】
実施形態16は、硬化剤が、第一級アミンを含む、実施形態15に記載の樹脂ブレンドである。
【0105】
実施形態17は、第一級アミン硬化剤が、アニリン官能性残基を含む、実施形態16に記載の樹脂ブレンドである。
【0106】
実施形態18は、硬化剤が、樹脂ブレンドの総重量を基準にして0〜40重量%の量で存在する、実施形態15〜17のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0107】
実施形態19は、ビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂が、式Iのものである、実施形態1〜18のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【化7】
【0108】
実施形態20は、第1のフタロニトリル樹脂が、式II、式III、又は式IVのものであるか、あるいはそれらの組み合わせである、実施形態1〜19のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【化8】
【化9】
【化10】
【0109】
実施形態21は、第1のフタロニトリル樹脂が、式IIのビスフェノールPジフタロニトリルエーテル樹脂を含む、実施形態20に記載の樹脂ブレンドである。
【0110】
実施形態22は、第1のフタロニトリル樹脂が、式IIIのビスフェノールTジフタロニトリルエーテル樹脂を含む、実施形態20又は21に記載の樹脂ブレンドである。
【0111】
実施形態23は、第1のフタロニトリル樹脂が、式IVのレゾルシノールジフタロニトリルエーテル樹脂を含む、実施形態20〜22のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0112】
実施形態24は、第1のフタロニトリル樹脂のビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂に対する重量比が、10:90〜90:10の範囲(両端の値を含む)である、実施形態1〜23のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0113】
実施形態25は、第1のフタロニトリル樹脂のビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂に対する重量比が、15:85〜85:15の範囲(両端の値を含む)である、実施形態1〜24のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0114】
実施形態26は、第1のフタロニトリル樹脂のビスフェノールMジフタロニトリルエーテル樹脂に対する重量比が、30:70〜70:30の範囲(両端の値を含む)である、実施形態1〜24のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0115】
実施形態27は、フィラーが、強化連続繊維又は強化不連続繊維のうちの少なくとも1つを含む、実施形態1〜26のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0116】
実施形態28は、実施形態1〜27のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドの重合生成物を含む、物品である。
【0117】
実施形態29は、200〜350℃のガラス転移温度を示す、実施形態28に記載の物品である。
【実施例】
【0118】
本開示の利点及び実施形態を、以下の実施例により更に例示するが、これらの実施例に記載の特定の材料及びその量は、他の条件及び詳細と同様に、本発明を不当に限定するものと解釈すべきではない。これらの実施例では、全てのパーセント、割合及び比は、特に指示のない限り、重量に基づく。
【0119】
全ての材料が、特に記載がないか又は明らかでない限り、例えばSigma−Aldrich Chemical Company;Milwaukee,WIから市販されているか、又は当業者に公知である。
【0120】
次の略語を以下の実施例で使用する。すなわち、g=グラム、hr=時間、kg=キログラム、min=分、mol=モル、cm=センチメートル、mm=ミリメートル、nm=ナノメートル、mL=ミリリットル、L=リットル、MPa=メガパスカル、及びwt.=重量。
【表1】
【0121】
方法
APPNの調製方法
APPN、アリルフェノールフタロニトリル(すなわち、4−(2−アリルフェノキシ)フタロニトリル)は、4−ニトロフタロニトリルと2−アリルフェノールとの求核置換反応から誘導した。1000mL三つ口反応フラスコに、50g(0.289mol)の4−ニトロフタロニトリル、38.75g(0.289mol)の2−アリルフェノール、79.83g(0.578mol)の無水K
2CO
3、及び300gの乾燥DMSOを添加し、室温にて窒素雰囲気下で48時間攪拌した。反応溶液を、ブフナー漏斗で#4ワットマン濾紙を通して濾過し、未溶解塩を除去した。濾過した反応液に300mLのMTBEを添加し、続いて300mLのDI水を添加した。水の添加により、上方の有機相と下方の水相とを相分離させた。下方の水相を、2Lの分液漏斗内に分離した。その後3回150mLのDI水を添加し、その都度下方の水相を分離して、有機相を抽出した。有機相を、分液漏斗の頂部から1000mL丸底フラスコに注ぎ出した。BUCHI ROTAVAPOR R−215ロータリーエバポレータ(BUCHI Rotavapor(New Castle,DE)から商標名「BUCHI ROTAVAPOR R−215」)で有機相からMTBEを除去し、淡褐色の粘性液体が残った。この液体を回収し、120℃に設定した対流オーブン内で乾燥した。樹脂は冷却すると結晶化した。生成物61.02g(81.2%)は65℃の融解温度を有し、赤外線分析により所望の化合物であると同定した。
【0122】
PS−ナノシリカの調製方法
249.5kgのNALCO 15827を、攪拌しながらケトルに添加した。2.105kgのトリメトキシフェニルシランを203.2kgの1−メトキシ2−プロパノール中に含むプレミックスを、NALCO 15827が入っているケトルに圧送し、30分間混合した。この溶液を、反応温度149℃、圧力20.4気圧(2.07MPa)で、米国特許第8,394,977号に記載の高温管型反応器に圧送した。混合物を149℃で35分間保持し、その後に周囲温度まで冷却した。TGAによる固形分の測定値は、24重量%のPS−ナノシリカであった。
【0123】
PS−ナノ炭化ケイ素の調製方法
20.5重量%のVSN1393炭化ケイ素水溶液276gを、凝縮器、攪拌機、温度監視装置及び温度計を取り付けたフラスコに入れた。周囲温度で攪拌しながら、250gの1−メトキシ−2−プロパノールと0.405gのトリメトキシフェニルシランとのプレミックスを、5分間かけてフラスコにゆっくりと添加した。フラスコ溶液を90〜95℃の温度範囲に加熱した。フラスコ溶液の温度を90〜95℃で20時間保持した。フラスコ溶液を自然冷却させた。TGAによる固形分の測定値は、6.0重量%のPS−ナノ炭化ケイ素であった。
【0124】
粒子濃度測定方法
粒子充填フタロニトリル(PN)樹脂又はポリマーネットワークの試料20〜50mgを、TA Instruments モデルTGA500熱重量分析計(TA Instruments(New Castle,DE)から入手)に置いた。試料温度を50℃から900℃まで30℃/分で空気中で上昇させ、次いで、900℃で3分間保持した。残留物重量は、試料の粒子重量であり、重量%濃度として記録される。カルサイト粒子の特異な事例では、残留物重量は、ナノカルサイト(例えば、カルサイトナノ粒子)から全ての有機物及び二酸化炭素を揮発させた後に試料中に残るCaOであると推定した。重量%のCaO残留物を0.56で割ることにより、元の試料中のナノカルサイト濃度を計算した。
【0125】
複素剪断粘度の測定方法
平行板形状の応力制御レオメータTA instruments Discovery Series HR−2(TA Instruments(New Castle,DE)より入手)を使用して、複素剪断粘度を測定した。ツーリングは、上部の40mmのトッププレートと下部の温度制御ペルチェプレートを利用した。上部プレートと下部プレートとの間の隙間は0.5mmであった。粘度は、1Hzの周波数で6秒間(3秒間のコンディショニング工程と3秒間の測定工程に分けられる)の1%ひずみ振動を適用することによって測定した。
【0126】
動的機械分析器(DMA)による動的弾性率及びガラス−ゴム転移温度の測定方法
TA Instruments QシリーズDMA(TA Instruments(New Castle,DE)から入手した)を使用して、低ひずみ線形粘弾性を測定した。動的機械測定は、単一片持ち梁形状(single cantilever beam geometry)を使用して実施した。1Hzの周波数で20μmの制御された変形振幅にて、連続振動を適用したときの低ひずみ同相及び位相外れの変形応答を測定し、測定中に昇温して、得られる貯蔵弾性率及び損失弾性率、並びに損失正接を計算した。温度は、ガラスからゴムへの転移温度範囲にわたって、3℃/分で昇温させた。ガラス転移温度は、貯蔵弾性(E’)開始温度によって特性評価される。
【0127】
引張試験実施方法
試験片寸法及び測定方法は、ASTM D638−14 「Standard Test Method for Tensile Properties of Plastics」に従った。厚さ0.125”(3.18mm)の1型試験片6点を装填し、破断損傷するまでの変位を測定した。平均特性測定及び標準偏差誤差限界を、試験片寸法及び荷重対変位測定値に基づいて計算した。試験片を、トレーサブルな較正を行ったMTS Sintech10/Dロードフレーム(MTS(Eden Prairie,MN)より入手)で試験した。
【0128】
コンパクトテンション試験の実施方法
試験片寸法及び測定方法は、ASTM D5045 「Standard Test Method for Plane−Strain Fracture Toughness and Strain Energy Release Rate of Plastic Materials」に従った。1.25”×1.20”×0.25”(3.18cm×3.05cm×1.27cm)の寸法を有する正方形様の試験片6点に、試験規格に従って切欠き及び予亀裂を施した。K
1C測定値は、連続負荷実験で測定された、亀裂伝播を開始させるP
Q負荷から計算した。試験片を、トレーサブルに較正したMTS Sintech10/Dロードフレーム(MTS(Eden Prairie,MN)より入手)で試験した。
【0129】
熱伝導率の測定方法
低速ダイヤモンド鋸を使用して、厚さ2.0mm、直径12.5mmの測定値のディスク状試験片を、円筒状の出発材料から切断した。各ディスク状試験片の密度を、アルキメデス法の水置換を用いて測定した。試験片に、DGF−123ドライグラファイトフィルム潤滑剤(Miracle Power Products Corporation(Cleveland,OH)より、商標名「DGF−123 DRY GRAPHITE FILM LUBRICANT」で入手)を、試験片が黒く不透明になるまでスプレーコーティングした。試料の試験片と共に、CORNING PYROCERAM−GLASS CODE 9606(Corning Incorporated(Corning,NY)、商標名「CORNING PYROCERAM−GLASS CODE 9606」)の基準試料にスプレーし、システム対照及び熱容量測定の基準試験片として、測定に含めた。熱拡散率及び比熱容量は、LFA 467 HYPERFLASH−Light Flash Apparatus(Netzsch Instruments North America,LLC(Burlington,MA)より)を用いて、ASTM E1461−13「Standard Test Method for Thermal Diffusivity by the Flash Method」に従って測定した。所与の試料について、熱拡散率及び熱容量計算のために、各温度点で5つのサーモグラムを収集することによって、3点の試験片を評価した。3点の試験片の結果を使用して、平均値を計算及び報告した。各試験片の熱伝導率(k)を、平均試料熱拡散率(a(アルファ))、比熱容量(C
P)、及び密度(r(ロー))の積として計算した(すなわち:k=a*C
P*r)。試験片熱伝導率の標準偏差は、構成成分の標準偏差の伝播によって計算した。
【0130】
比較例A
BMPN、RPN、及びBTPNの質量比4/1/1のブレンド288gを、平底アルミニウムパン内で190℃の温度で溶融及び混合した。フタロニトリル樹脂ブレンドを100℃に冷却した。樹脂ブレンドは液体状態のままであった。比較例AのPN樹脂ブレンドの複素剪断粘度を、100〜200℃の温度の関数として
図1に示す。
【0131】
12gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを樹脂ブレンドに添加し、135℃で樹脂中に混ぜ込んだ。フタロニトリル樹脂システムの最終組成(重量分率)は、フタロニトリル樹脂ブレンドが0.96、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤が0.04であった。樹脂システムを、厚さ0.0625インチ(0.16cm)、0.125インチ(0.32cm)、及び0.25インチ(0.64cm)の160℃に予熱されたプラーク成形型に注入した。樹脂充填されたプラーク成形型を、200℃に設定した空気循環オーブン内に置き、5時間硬化した。樹脂システムは、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。5時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。PN硬化されたプラークを型から取り出し、300℃で24時間、自立状態で(free standing)後硬化を実施した。24時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。上記の方法を用いて、プラークを機械的試験のための試験片に切断した。比較例Aの試料の機械的特性を、下の表1にまとめる。
【0132】
図2には、比較例Aの未充填硬化PNシステムのコンパクトテンション破壊面のSEM画像を示す。
【0133】
実施例1
300gのPN樹脂ブレンド(それぞれ4:1:1重量部のBMPN、RPN、BTPN)をステンレス鋼製ビーカーに秤取し、300gのMIBKを加えた。MIBK中の樹脂の溶解を助けるため、MIBK中のPN樹脂ブレンドを100℃に加熱した。PN/MIBK溶液を周囲温度まで冷却した。15.0gのJAS及び300gのALBAFIL(3回に分けて100gずつ添加)を、PN/MIBK溶液に添加した。JASとALBAFILとを、Cowlesブレードで攪拌することによってPN/MIBK溶液中にブレンドした。スラリーを1時間攪拌した後、サーモスタット付き循環浴(ISOTEMP 6200 R20、Fisher Scientific(Pittsburgh,PA)から)に接続された二重壁ステンレス鋼製ミル容器(55℃の浴温で予熱)に移した。
【0134】
ミル加工は、0.25mmの分離スクリーンを取り付け、155gの0.5mmイットリア安定化ジルコニアビーズを装填したHockmeyer Immersion Micromill(Hockmeyer(Harrison,NJ))で実施した。ミル加工は2時間実施し、最初の30分間は3000rpmで開始して、その後、ミル加工の終了までに3500rpmに上昇させた。ミル加工中に追加の50gのMIBKを添加した(最初の30分の後に40g、1時間30分後に10g)。ナノカルサイト濃度は、上記の粒子濃度測定方法を用いて、31.08重量%と測定された。得られた試料は、米国特許出願公開第2011/0245376号(Schultz et al.)の段落[0047]に記載のカルサイト粒径手順に従って測定したときに、平均粒径238nm、標準偏差49nm及びD90が303nmの粒径分布を有した。
【0135】
ミル加工した材料から、BUCHI ROTAVAPOR R−215(BUCHI Rotavapor(New Castle,DE)から商標名「BUCHI ROTAVAPOR R−215」で入手)を用いてMIBKをストリッピングした。浴温は80℃で開始し、溶媒除去を停止するまで、ゆっくりと150℃に上昇させた。淡緑色のもろい粉末を得た(PN樹脂中に約51重量%のJAS−ナノカルサイト)。充填樹脂の流動温度は約170℃と測定された。その後、未希釈のPN樹脂ブレンドの添加により、充填樹脂をJAS−ナノカルサイトが38重量%になるように希釈した。混合物を170℃に加熱した後、ステンレス鋼製ビーカー内で、3ブレードインペラで攪拌した。最後の乾燥工程は、200℃に設定した真空オーブン内で1Torr(133.3Pa)で1時間実施し、いかなる残留溶媒も除去した。38重量%のJAS−ナノカルサイト/PN樹脂の溶融粘度を、100〜200℃で測定した。ナノカルサイト濃度は、熱重量分析により36.0重量%と測定された。実施例1のJAS−ナノカルサイト/PN樹脂の複素剪断粘度を温度の関数として
図1に示し、比較例のPN樹脂と比較する。
【0136】
実施例2
実施例1のJAS−ナノカルサイト充填BMPN、RPN及びBTPN樹脂ブレンド400gを、平底アルミニウムパン内で150℃の温度に加熱した。10.4gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンをこの樹脂ブレンドに添加し、樹脂中に混ぜ込んだ。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンは、JAS−ナノカルサイト充填PN樹脂ブレンドのPN樹脂ブレンド部分に対して0.04の重量分率で添加した。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを樹脂中に溶融及びブレンドした後、樹脂システムを135℃で脱気して、封入空気を除去した。JAS−ナノカルサイト充填PN樹脂システムの最終組成(重量分率)は、ナノカルサイトが0.351、JASが0.018、PN樹脂ブレンドが0.606、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤が0.025であった。樹脂システムを、厚さ0.0625インチ(0.16cm)、0.125インチ(0.32cm)、及び0.25インチ(0.64cm)の160℃に予熱されたプラーク成形型に注入した。樹脂充填されたプラーク成形型を、200℃に設定した空気循環オーブン内に置き、5時間硬化した。樹脂システムは、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。5時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。プラークを型から取り出し、300℃で24時間、自立状態で後硬化を実施した。24時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。上記の方法を用いて、プラークを機械的試験のための試験片に切断した。実施例2の機械的特性を、下の表1にまとめる。
【0137】
実施例3
579.9gのPN樹脂ブレンド(それぞれ4:1:1重量部のBMPN、RPN、BTPN)を、シリコーン油(210H Fluid、BOSS Products(Elizabethtown,KY)から)を満たしたサーモスタット付き循環浴(Model Polystat 3007 100 CS、Cole Parmer(Court Vernon Hills,IL)から)に接続された二重壁ステンレス鋼製ミル容器に秤取した。浴温度は160℃に設定した。樹脂は、溶融して、測定温度155℃の低粘度液体になった。23.8gのBYKーW9012及び870gのALBAFIL(500gを1回添加、及び370gを1回添加)をPN樹脂ブレンドに添加した。BYK−W9012とALBAFILとを、Cowlesブレードで攪拌することによってPN樹脂ブレンド中にブレンドした。スラリーを1時間攪拌した。充填液体樹脂を、150℃で脱気して、ミル加工中に入った封入空気を除去した。マイクロカルサイト濃度は、熱重量分析により45.3重量%と測定された。120℃における複素剪断粘度は、8.8Pa・sと測定された。
【0138】
実施例4
実施例3のBYK−W 9012−マイクロカルサイト充填BMPN、RPN及びBTPN樹脂ブレンド20gを、平底アルミニウムパン内で150℃の温度に加熱した。0.438gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンをこの樹脂ブレンドに添加し、樹脂中に混ぜ込んだ。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンは、BYK−W 9012−マイクロカルサイト充填PN樹脂ブレンドのPN樹脂ブレンド部分に対して0.04の重量分率で添加した。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを樹脂中に溶融及びブレンドした後、樹脂システムを135℃で脱気して、封入空気を除去した。マイクロカルサイト充填PN樹脂システムの最終組成(重量分率)は、ナノカルサイトが0.443、BYK−W 9012が0.021、PN樹脂ブレンドが0.515、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤が0.021であった。樹脂システムを160℃に加熱し、厚さ0.0625インチ(0.16cm)の160℃に予熱されたプラーク成形型に注入した。樹脂充填されたプラーク成形型を、200℃に設定した空気循環オーブン内に置き、5時間硬化した。樹脂システムは、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。5時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。プラークを型から取り出し、300℃で24時間、自立状態で後硬化を実施した。24時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。上記の方法を用いて、プラークを機械的試験のための試験片に切断した。25℃における貯蔵弾性率E’は4.8GPaと測定され、貯蔵弾性開始温度E’(開始)は254℃と測定された。
【0139】
実施例5
43.16重量%のBYK−W 9012−マイクロカルサイトのPN樹脂ブレンド(それぞれ4:1:1重量部のBMPN、RPN、BTPN)中分散液1194gを、シリコーン油(210H Fluid、BOSS Products(Elizabethtown,KY)から)を満たしたサーモスタット付き循環浴(Model Polystat 3007 100 CS、Cole Parmer(Court Vernon Hills,IL)から)に接続された二重壁ステンレス鋼製ミル容器に秤取した。浴温度は160℃に設定した。BYK−W 9012−マイクロカルサイト分散液を、0.25mmの分離スクリーンを取り付け、155gの0.5mmイットリア安定化ジルコニアビーズを装填したHockmeyer Immersion Micromill(Hockmeyer(Harrison,NJ,USA))でミル加工した。ミル加工は3時間実施し、最初の30分間は2500rpmで開始して、ミル加工の終了までに3000rpmに上昇させた。充填液体樹脂を、150℃で脱気して、ミル加工中に入った封入空気を除去した。ナノカルサイト濃度は、熱重量分析により41.2重量%と測定された。得られた試料は、米国特許出願公開第2011/0245376号(Schultz et al.)の段落[0047]に記載のカルサイト粒径手順に従って測定したときに、平均粒径340nm、標準偏差204nm及びD90が481nmの粒径分布を有した。実施例5のBYK−W 9012−ナノカルサイト/PN樹脂の複素剪断粘度を温度の関数として
図1に示し、比較例のPN樹脂と比較する。
【0140】
実施例6
実施例5のBYK−W 9012−ナノカルサイト充填BMPN、RPN及びBTPN樹脂ブレンド450gを、平底アルミニウムパン内で150℃の温度に加熱した。11.8gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンをこの樹脂ブレンドに添加し、樹脂中に混ぜ込んだ。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンは、ナノカルサイト−BYK−W 9012充填PN樹脂ブレンドのPN樹脂ブレンド部分に対して0.04の重量分率で添加した。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを樹脂中に溶融及びブレンドした後、樹脂システムを135℃で脱気して、封入空気を除去した。ナノカルサイト充填PN樹脂システムの最終組成(重量分率)は、ナノカルサイトが0.400、BYK−W 9012が0.020、PN樹脂ブレンドが0.555、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤が0.025であった。樹脂システムを160℃に加熱し、厚さ0.0625インチ(0.16cm)、0.125インチ(0.32cm)、及び0.25インチ(0.64cm)の160℃に予熱されたプラーク成形型に注入した。樹脂充填されたプラーク成形型を空気循環オーブン内に置き、200℃で5時間硬化した。樹脂システムは、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。5時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。プラークを型から取り出し、300℃で24時間、自立状態で後硬化を実施した。24時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。上記の方法を用いて、プラークを機械的試験のための試験片に切断した。試験片の寸法及び試験手順は、試験方法の項に記載している。実施例6の試料の機械的特性を、下の表1にまとめる。
【0141】
図3には、実施例6のナノカルサイト充填硬化PNシステムのコンパクトテンション破壊面のSEM画像を示す。
【0142】
比較例B
BMPNとRPNとの質量比2/1のブレンド288gを、平底アルミニウムパン内で190℃の温度で溶融及び混合した。フタロニトリル樹脂ブレンドを100℃に冷却した。樹脂ブレンドは液体状態のままであった。比較例BのPN樹脂ブレンドの複素剪断粘度を、100〜200℃の温度の関数として
図2に示す。
【0143】
12gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを樹脂ブレンドに添加し、135℃で樹脂中に混ぜ込んだ。フタロニトリル樹脂システムの最終重量組成は、フタロニトリル樹脂ブレンドが0.96、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤が0.04であった。樹脂システムを、厚さ0.0625インチ(0.16cm)、0.125インチ(0.32cm)、及び0.25インチ(0.64cm)の160℃に予熱されたプラーク成形型に注入した。樹脂充填されたプラーク成形型を、200℃に設定した空気循環オーブン内に置き、5時間硬化した。樹脂システムは、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。5時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。PN硬化されたプラークを型から取り出し、300℃で24時間、自立状態で後硬化を実施した。24時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。上記の方法を用いて、プラークを機械的試験のための試験片に切断した。比較例Bの試料の機械的特性を、下の表1にまとめる。
【0144】
実施例7
200gのPS−ナノシリカの水/1−メトキシ2−プロパノール中懸濁液から、BUCHI ROTAVAPOR R−215を用い、1−メトキシ−2−プロパノールを逆添加して、水をストリッピングした。最終溶液は、1−メトキシ−2−プロパノール中に51.5重量%のPS−ナノシリカであった。265gのBMPN系樹脂ブレンド(それぞれ2:1重量部のBMPN及びRPN)を1185gのTHF/アセトン(30/70)に溶解した。THF/アセトン中のPN樹脂ブレンド1423gを、1−メトキシ−2−プロパノール中の275gのPS−ナノシリカに添加し、BUCHI ROTAVAPOR R−215を用いて、初期浴温度100℃で、溶媒の大部分が除去されるまで、時間をかけて125℃に昇温して、溶媒ストリッピングした。最終ストリップを180℃で行って残留溶媒を除去した。PS−ナノシリカ充填PN樹脂を、まだ高温の間に、ロータリーエバポレータフラスコから取り出した。樹脂は、最後に、発泡崩壊するまで真空オーブン内で185℃で脱気した。ナノシリカ濃度は、熱重量分析により36.5重量%と測定された。実施例7のPS−ナノシリカ/PN樹脂の複素剪断粘度を温度の関数として
図2に示し、比較例8のPN樹脂ブレンドと比較する。
【0145】
実施例8
実施例7のPS−ナノシリカ充填PN樹脂ブレンド400gを、平底アルミニウムパン内で150℃の温度に加熱した。10.6gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンをこの樹脂ブレンドに添加し、樹脂中に混ぜ込んだ。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンは、フェニル−ナノシリカ/PN樹脂のPN樹脂ブレンド部分に対して0.04の重量分率で添加した。4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを樹脂中に溶融及びブレンドした後、樹脂システムを真空オーブン内で150℃で脱気して、封入空気を除去した。PS−ナノシリカ/PN樹脂システムの最終組成(重量分率)は、PS−ナノシリカが0.356、PN樹脂ブレンドが0.619、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤が0.025であった。樹脂システムを175℃に加熱し、厚さ0.0625インチ(0.16cm)、0.125インチ(0.32cm)、及び0.25インチ(0.64cm)の175℃に予熱されたプラーク成形型に注入した。樹脂充填されたプラーク成形型を、200℃に設定した空気循環オーブン内に置き、5時間硬化した。樹脂システムは、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。5時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。プラークを型から取り出し、300℃で24時間、自立状態で後硬化を実施した。24時間後、プラークを5℃/分で40℃まで冷却した。上記の方法を用いて、プラークを機械的試験のための試験片に切断した。実施例8の試料の機械的特性を、下の表1にまとめる。
【0146】
図4には、実施例8のナノシリカ充填硬化PNシステムのコンパクトテンション破壊面のSEM画像を示す。
【表2】
【0147】
実施例9
200gのPS−ナノシリカの水/1−メトキシ2−プロパノール中懸濁液を、ホイルパン内で室温にて空気乾燥して粉末にした。粉末を、約30重量%の固形分でアセトンに入れ、SILVERSONミキサー(Silverson Machines Inc.(East Longmeadow,MA)から)を用いて、十分に分散するまで高剪断混合した。このPSのアセトン中懸濁液を、53マイクロメートルのナイロンメッシュを通して注入し、大きな塊を除去した(目に見える塊がなかった)。懸濁液は、アセトン中に29.1重量%のPS−ナノシリカと測定された。
【0148】
31.6gのBMPN系樹脂ブレンド(それぞれ4:1:1重量部のBMPN、RPN、BTPN)を168.4gのMIBKに溶解した。73gのPN樹脂ブレンドのMIBK溶液を、26.4gのPS−ナノシリカのアセトン溶液に添加し、BUCHI ROTAVAPOR R−215を用いて、初期浴温度65℃で、溶媒の大部分が除去されるまで、時間をかけて160℃に昇温して、溶媒ストリッピングした。樹脂を、まだ高温の間に、ロータリーエバポレータフラスコから取り出した。最終ストリップ及び脱気を真空オーブン内で185℃で行い、残留溶媒及び封入空気を除去した。ナノシリカ濃度は、熱重量分析により40.7重量%と測定された。実施例8のPS−ナノシリカ/PN樹脂の複素剪断粘度を温度の関数として
図1に示し、比較例AのPN樹脂と比較する。
【0149】
実施例10
200gのPS−ナノシリカの水/1−メトキシ2−プロパノール中懸濁液から、BUCHI ROTAVAPOR R−215を用い、1−メトキシ−2−プロパノールを逆添加して、水をストリッピングした。最終溶液は、1−メトキシ−2−プロパノール中に50.4重量%のPS−ナノシリカであった。31.6gのBMPN系樹脂ブレンド(それぞれ4:1:1重量部のBMPN、RPN、BTPN)を168.4gのMIBKに溶解した。70℃に予熱した73gのPN樹脂ブレンドのMIBK溶液を、70℃に予熱した15.2gのPS−ナノシリカの1−メトキシ−2−プロパノール溶液に添加した。BUCHI ROTAVAPOR R−215を用いて、初期浴温度100℃で、溶媒の大部分が除去されるまで、時間をかけて160℃に昇温して、PS−ナノシリカ/PN樹脂溶液から溶媒をストリッピングした。樹脂を、まだ高温の間に、ロータリーエバポレータフラスコから取り出した。最終ストリップ及び脱気を真空オーブン内で185℃で行い、残留溶媒及び封入空気を除去した。ナノシリカ濃度は、熱重量分析により41.2重量%と測定された。
【0150】
実施例11
400gのPS−ナノ炭化ケイ素の水/1−メトキシ−2−プロパノール中懸濁液(6重量%炭化ケイ素)を、室温にてホイルパン中で空気乾燥し、自由流動する粉末にした。粉末を、約30重量%の固形分でアセトンに入れ、SILVERSONミキサーを用いて、十分に分散するまで高剪断混合した。PS−ナノ炭化ケイ素のアセトン中懸濁液を、100マイクロメートルのナイロンメッシュを通して注入し、大きな塊を除去した。懸濁液は、熱重量分析により、アセトン中に28.5重量%のPS−ナノ炭化ケイ素と測定された。
【0151】
50gのBMPN系樹脂ブレンド(それぞれ2:1重量部のBMPN及びRPN)を325gのTHFに溶解した。PN樹脂固形分濃度は、THF中13.4重量%で測定した。304gのPN樹脂ブレンドのTHF溶液を、81gのPS−ナノ炭化ケイ素のアセトン溶液に添加し、BUCHI ROTAVAPOR R−215を用いて、初期浴温度95℃で溶媒ストリッピングし、揮発分の大部分を除去した。油浴の温度を上昇させ、150℃で10分間の後、165℃で30分間とした。樹脂を、まだ高温の間に、ロータリーエバポレータフラスコから取り出した。PS−ナノ炭化ケイ素濃度は、熱重量分析により、34.8重量%と測定された。
【0152】
実施例12
40gのMicron TA6Y1アルミナを、20gのBMPN系樹脂ブレンド(それぞれ4:2:3重量部のBMPN、RPN、APPN、)中に、Speedmixer(モデルDAC 400 KLV、FlackTek Inc.(Landrum,SC)から、商標名「SPEEDMIXER DAC 400 KLV」)を用いて、130℃に予熱したPN樹脂ブレンドの4重量%の量で添加された4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤と共に、分散した。アルミナ及びPN樹脂システムは、2750rpmで5分間混合した。この混合物は、アルミナ添加後に低粘度液体であった。その後20gのアルミナを4回添加した後、130℃に予熱し、2750rpmで5分間混合することで、材料の総重量は140gとなり、充填樹脂中のアルミナの最終重量分率は0.857となった。充填樹脂の粘度は増加したが、120℃に加熱すると自由流動すると予想された。樹脂の粘度は、2.3Pa・sと測定された。小さいバイアルにアルミナ/樹脂混合物を充填し、125℃に設定したオーブン内に置いた。混合物を125℃のオーブン内で1時間静置したときに、目に見える沈降の明らかな徴候はなかった。充填樹脂システムを、175℃で3時間、200℃で5時間、及び300℃で24時間加熱することによって硬化させた。充填ポリマーネットワークの剛性は、単一片持ち梁形状を使用した動的機械分析によって、25℃で14.8GPaと測定され、貯蔵弾性開始温度E’(開始)は310℃と測定された。熱伝導率は、2.4+/−0.2W/m.Kと測定された。
【0153】
実施例13
5gの窒化ホウ素粒塊小板を、30gのBMPN系樹脂ブレンド(それぞれ4:2:3重量部のBMPN、RPN、APPN)中に、DAC 400 KLV Speedmixerを用いて、130℃に予熱したPN樹脂ブレンドの4重量%で添加された4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤と共に、分散した。窒化ホウ素及びPN樹脂システムは、2750rpmで5分間混合した。この混合物は、窒化ホウ素添加後に低粘度液体であった。その後20gの窒化ホウ素を3回添加した後、130℃に予熱し、2750rpmで5分間混合することで、材料の総重量は50gとなり、充填樹脂中の窒化ホウ素の最終重量分率は0.4となった。充填樹脂の粘度は増加したが、120℃に加熱すると自由流動すると予想された。樹脂の粘度は、2.5Pa・sと測定された。充填樹脂システムを、175℃で3時間、200℃で5時間、及び300℃で24時間加熱することによって硬化させた。充填ポリマーネットワークの剛性は、単一片持ち梁形状を使用した動的機械分析によって、25℃で5.0GPaと測定され、貯蔵弾性開始温度E’(開始)は295℃と測定された。
【0154】
実施例14
実施例14は、実施例13と同様に実施したが、窒化ホウ素粒塊を初期添加5g、その後20gを3回添加する代わりに、iM16Kグラスバブルズを初期添加5g、その後20gを2回添加した点が異なっていた。充填樹脂中のiM16Kグラスバブルズの最終重量分率は0.3であった。樹脂の粘度は、3.0Pa・sであると測定された。充填ポリマーネットワークの剛性は、単一片持ち梁形状を使用した動的機械分析によって、25℃で3.6GPaと測定され、貯蔵弾性開始温度E’(開始)は320℃と測定された。
【0155】
実施例15
実施例15は、iM16Kグラスバブルズの代わりにAPS−iM16Kグラスバブルズを使用した点を除き、実施例14と同様に実施した。樹脂の粘度は、1.9Pa・sであると測定された。充填ポリマーネットワークの剛性は、単一片持ち梁形状を使用した動的機械分析によって、25℃で3.5GPaと測定され、貯蔵弾性開始温度E’(開始)は、320℃と測定された。
【0156】
実施例16
質量比4/1/1のBMPN、RPN、及びBTPNを400gを、16.67gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤と135℃で攪拌してブレンドし、周囲温度まで冷却した。BMPN系樹脂ブレンドシステムを、2100cc Series RTMインジェクタ(Radius Engineering,Inc.(South Salt Lake,UT)から)のインジェクタシリンダに加えた。固体樹脂をインジェクタシリンダ内で140℃で溶融させた後、攪拌用エアミキサーヘッドを用いて真空(0.1Torr(13.3Pa)未満)下で脱気した。6K HEXTOW IM7炭素繊維(Hexcel Corp.(Stamford,CT)から、商標名「HEXTOW IM7 CARBON FIBER」)の5枚朱子織の布地14層を、対称な擬似等方性レイアップ構造に積み重ねたものを、閉鎖した金型内に入れた。二つ割金型の内寸は、330mm×330mm×4mmであった。この金型を約180kNのクランプ力でホットプレス内に保持した(約870kPaのクランプ圧)。金型を0.1Torr(13.3Pa)未満の絶対圧まで真空排気し、160℃の射出温度まで予熱した。射出は、140℃に加熱したインジェクタシリンダ、インジェクタシリンダから140℃に加熱した金型への加熱ライン、及び金型温度160℃で実施した。金型充填プロセスの間、0.1Torr(13.3Pa)未満の真空を適用した。金型出口で樹脂が検出されると、出口弁を閉じた。樹脂を、最大100psi(690kPa)の圧力で射出した。パネルを205℃で約15時間硬化させた。このパネルを離型し、300℃に設定した空気対流オーブン内で24時間の後硬化を実施した。パネルは、気孔率が低く全体的に優れた品質を示した。布地特性及び測定されたパネル厚に基づいて、繊維体積分率は67%と推定された。
【0157】
図6は、複数の繊維610及び樹脂マトリックス615を含む、実施例16の硬化複合材パネル600の光学顕微鏡画像である。
【0158】
実施例17
実施例5のBYK−W 9012−ナノカルサイト充填BMPN系樹脂130gを、追加の質量比4/1/1のBMPN、RPN及びBTPNブレンド樹脂300gと、160℃で溶融ブレンドした。樹脂を135℃まで冷却した後、15.58gの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤と攪拌してブレンドし、周囲温度まで冷却した。ナノカルサイトの質量分率は、0.12と算出された。BYK−W 9012−ナノカルサイト充填BMPN系樹脂を、2100 cc Series RTMインジェクタのインジェクタシリンダに添加した。固体樹脂をインジェクタシリンダ内で140℃で溶融させた後、攪拌用エアミキサーヘッドを用いて真空(0.1Torr(13.3Pa)未満)下で脱気した。HexForce SGP196−P平織物(197g/m2、6K Hexcel IM7GP炭素繊維)の7層を、[0]
7レイアップ構造に積み重ねたものを、閉鎖した金型内に入れた。二つ割金型の内寸は、330mm×330mm×1.4mmであった。この金型を約180kNのクランプ力でホットプレス内に保持した(約870kPaのクランプ圧)。金型を0.1Torr(13.3Pa)未満の絶対圧まで真空排気し、160℃の射出温度まで予熱した。射出は、140℃に加熱したインジェクタシリンダ、インジェクタシリンダから140℃に加熱した金型への加熱ライン、及び金型温度160℃で実施した。金型充填プロセスの間、0.1Torr(13.3Pa)未満の真空を適用した。金型出口で樹脂が検出されると、出口弁を閉じた。樹脂を、最大100psi(690kPa)の圧力で射出した。パネルを205℃で6時間硬化させた。このパネルを離型し、300℃に設定したオーブン内で24時間の後硬化を実施した。パネルは、気孔率が低く全体的に優れた品質を示した。布地特性及び測定されたパネル厚に基づいて、繊維体積分率は57%と推定された。
【0159】
図7は、複数の繊維710及びナノカルサイト充填樹脂マトリックス715を含む、実施例17の硬化複合材パネル700の研磨断面の光学顕微鏡画像である。
図8は、複数の繊維810及びナノカルサイト充填樹脂マトリックス815を含む、実施例7の複合材パネル800の研磨断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。カルサイトナノ粒子812は高倍率のSEM像で確認できる。
【0160】
本明細書では特定の例示的な実施形態について詳細に説明してきたが、当業者には上述の説明を理解した上で、これらの実施形態の修正形態、変形形態、及び均等物を容易に想起できることが、諒解されるであろう。更には、本明細書で参照される全ての刊行物及び特許は、個々の刊行物又は特許を参照により組み込むことが詳細かつ個別に指示されている場合と同じ程度に、それらの全容が参照により組み込まれる。様々な例示的な実施形態について説明してきた。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。