特許第6843199号(P6843199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843199
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   B60K 20/02 20060101AFI20210308BHJP
   B60K 20/00 20060101ALI20210308BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B60K20/02 A
   B60K20/00 F
   A01B63/10 Z
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-160024(P2019-160024)
(22)【出願日】2019年9月3日
(62)【分割の表示】特願2018-63398(P2018-63398)の分割
【原出願日】2014年7月8日
(65)【公開番号】特開2019-214377(P2019-214377A)
(43)【公開日】2019年12月19日
【審査請求日】2019年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 基成
(72)【発明者】
【氏名】山内 輝仁
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−044812(JP,A)
【文献】 特開2002−073187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/00
A01B 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、車輪と、前記エンジンからの動力を前記車輪に伝達するトランスミッションと、多機能操作具と、を備えた作業車であって、
前記トランスミッションは、
油圧制御により変速切り替え衝撃が抑制されるように構成された主変速ユニットと、
シンクロメッシュタイプの副変速ユニットと、を有し、
前記多機能操作具は、
少なくとも車両前後方向に揺動可能に支持されるとともに、車両前後方向への揺動により、前記トランスミッションを増速制御及び減速制御する揺動体と、
前記揺動体の自由端部に設けられたグリップ本体と、
前記グリップ本体の車両横断方向で一方側領域に位置する凸状湾曲面と前記グリップ本体の車両横断方向で他方側領域に位置する垂直状側面とを有し、前記グリップ本体に形成された握り部と、
前記握り部の前記他方側領域において前記垂直状側面の下端縁から車両横断方向に延びるように形成された操作者対向面と、を有し、
変速補助ボタンが、垂直状側面に設けられ、
前記副変速ユニットの変速を伴う変速段の変更操作は、前記変速補助ボタンが押されている間に可能である作業車。
【請求項2】
前記多機能操作具は、揺動軸廻りに揺動可能に支持され、前記揺動体は前記揺動軸廻りに揺動するアーム部材として構成され、前記変速段の変更は、前記握り部が前記揺動軸廻りに揺動することにより実行される請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記副変速ユニットの変速を伴わない前記主変速ユニットのみの変速を含む変速段の変更操作は、前記変速補助ボタンが押されていない間に可能であり、前記変速補助ボタンが押されていない間は、前記副変速ユニットの変速を伴う変速段の変更が不可能である請求項1又は2に記載の作業車。
【請求項4】
前記握り部の下部部分から外方に延びる小指球載せを有する請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項5】
前記握り部は、前記凸状湾曲面が操作者の手のひらを支持可能であり、且つ、前記小指球載せが前記操作者の手の小指球を支持可能に構成されている請求項4に記載の作業車。
【請求項6】
前記握り部は、前記垂直状側面が前記操作者の手の親指を支持可能に構成されている請求項5に記載の作業車。
【請求項7】
前記小指球載せが前記凸状湾曲面の下縁部から外方に延出している請求項4から6のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項8】
少なくとも一つの操作スイッチは、少なくとも一つの走行操作スイッチと少なくとも一つの作業操作スイッチとを含み、少なくとも一つの前記走行操作スイッチと少なくとも一つの前記作業操作スイッチとが、前記操作者対向面に設けられている請求項1から7のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項9】
少なくとも一つの操作スイッチは、前記握り部の裏面に設けられたシャトル副ボタンを含み、
シャトルボタンが、グリップ本体の他の水平面に設けられ、
前記シャトル副ボタン及び前記シャトルボタンのうちの一方が他の操作スイッチと同時に操作された場合に、特定の機能を発揮するように構成されている請求項1から8の何れか一項に記載の作業車。
【請求項10】
少なくとも一つの操作スイッチは、走行操作スイッチ群に属する少なくとも1つの走行操作スイッチを含み、前記走行操作スイッチに、前進と後進とを切り替えるシャトルボタンが含まれており、前記シャトルボタンが前記操作者対向面または前記垂直状側面に配置されている請求項1から9のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項11】
前記シャトルボタンの機能を有効または無効にするシャトル許可スイッチが、前記グリップ本体の前記垂直状側面または裏面とは反対側の側面に配置されている請求項10に記載の作業車。
【請求項12】
前記握り部は、車両横断方向で前記操作者対向面に隣接して配置されている請求項1から11のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項13】
前記握り部と前記操作者対向面とは、上面の高さが異なるように配置されている請求項1から12のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項14】
前記垂直状側面は、前記握り部の上面と操作者対向面とを連結するように設けられている請求項1から13のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項15】
前記多機能操作具は、揺動軸廻りに揺動可能に支持され、前記多機能操作具の前記グリップ本体は前記揺動体に固定され、前記揺動体は車両横断方向に延びる前記揺動軸廻りに揺動する請求項1から14のいずれか一項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行速度を変更するトランスミッションと作業装置とを制御するための多機能操作具を備えた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両を制御するためのアームレスト操作装置が特許文献1に開示されている。このアームレスト操作装置には、アームレストに載せた腕の前方に上方に突き出しているトランスミッション制御レバーが配置されており、アームレストに載せた腕の指でトランスミッション制御レバーを掴んで揺動操作することで車両の走行速度が調整可能である。さらに、このトランスミッション制御レバーの側面には、トランスミッションをシフトアップさせるボタンと、トランスミッションをシフトダウンさせるボタンと、トランスミッションをパーキング位置にシフトさせるボタン(スイッチ)が配置されている。したがって、運転者は、トランスミッション制御レバーを掴んだ手の親指で上記のボタン群を操作することができる。しかしながら、このトランスミッション制御レバーは、立設した円柱体のような形状であり、その側面に3つのボタンが縦方向に並んでいるので、運転者はトランスミッション制御レバーを横から挟むように掴むことになり、そのような状態で特定のボタンを選択して操作することを続けると手に負担がかかる。
【0003】
特許文献2には、特許文献1と同様なアームレスト操作装置が開示されている。このアームレスト操作装置では、アームレストに載せた腕の前方には、コンピュータなどの入力デバイスとして用いられているマウスのような形状のグリップ操作手段が配置されている。このグリップ操作手段は、いくつかの凸状湾曲面の組み合わせによってその表面が形成され、その外面には、手のひらを載せる載せ面を形成している上面や複数のボタン群を配置した操作用側面が含まれている。載せ面に載せた手の親指でボタン操作することで、トランスミッションのシフトアップやシフトダウン、作業装置の昇降操作などを行うことができる。しかしながら、このグリップ操作手段では、載せ面と操作用側面が1つの凸状の湾曲面を形成しているので、手のひらを載せ面に載せると、自然と親指が操作用側面に触れるような姿勢となる。このため、載せ面に手を載せた操作者は、不要なボタンを押さないように心掛けなければならない。このことは、操作者に負担を与えることになり、手を載せ面に載せることで手をリラックスさせようとする効果を減じさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開公報2005/0133292号
【特許文献2】欧州特許公開公報2277736号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情に鑑み、適切な操作が可能な多機能操作具を備えた作業車が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の作業車は、エンジンと、車輪と、前記エンジンからの動力を前記車輪に伝達するトランスミッションと、多機能操作具と、を備えた作業車であって、記トランスミッションは、油圧制御により変速切り替え衝撃が抑制されるように構成された主変速ユニットと、シンクロメッシュタイプの副変速ユニットと、を有し、前記多機能操作具は、少なくとも車両前後方向に揺動可能に支持されるとともに、車両前後方向への揺動により、前記トランスミッションを増速制御及び減速制御する揺動体と、前記揺動体の自由端部に設けられたグリップ本体と、前記グリップ本体の車両横断方向で一方側領域に位置する凸状湾曲面と前記グリップ本体の車両横断方向で他方側領域に位置する垂直状側面とを有し、前記グリップ本体に形成された握り部と、前記握り部の前記他方側領域において前記垂直状側面の下端縁から車両横断方向に延びるように形成された操作者対向面と、を有し、変速補助ボタンが、垂直状側面に設けられ、前記副変速ユニットの変速を伴う変速段の変更操作は、前記変速補助ボタンが押されている間に可能である。
ここで、多機能操作具は、走行速度を変更するトランスミッションと作業装置とを備えた作業車両を制御するための多機能操作具であり、車両前後方向に揺動可能に支持されるとともに、前方向への揺動によって前記トランスミッションを増速制御し、後方向への揺動によって前記トランスミッションを減速制御する揺動体と、前記揺動体の自由端部に設けられたグリップ本体と、前記グリップ本体の車両横断方向で一方側領域に形成された凸状湾曲面を有する握り部と、前記グリップ本体の車両横断方向で他方側領域に形成されるとともに前記握り部の側面である垂直状側面と、前記他方側領域において前記垂直状側面の下端縁から車両横断方向に延びるように形成された操作者対向面と、前記垂直状側面と前記操作者対向面とに配置された操作スイッチ群とからなってもよい。
【0007】
この構成によれば、操作者の手のひらで握られる握り部の側方に、垂直状側面と操作者対向面とによって境界付けられた空間が作り出され、その空間に、握り部を握っているまたは握り部に載せている手の親指が、実質的には宙ぶらりんの姿勢で位置することになる。なお、親指はこの空間内を比較的自由に運動することができるので、以後この空間を親指自由空間と称する。また、垂直状側面と操作者対向面には操作スイッチ群が配置されているので、親指の親指自由空間でのわずかな移動を経て適切に目標の操作スイッチを操作することができる。操作しない場合には、親指は親指自由空間に自然な(楽な)姿勢で待機すればよく、不用意に操作スイッチを操作してしまうような不都合も低減される。
【0008】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記握り部の下端縁に前記握り面から外方に突き出した小指球載せが形成されている。この小指球載せは、凸状湾曲面を有する握り部に載せた手のひらがずれ落ちるのを防止する。これにより、操作者は、手のひらを長時間、楽に握り部に載せておくことができる。
【0009】
この多機能操作具の最も基本的な操作機能は、前方向への揺動によって車両を増速させ、後方向への揺動によって車両を減速させることであり、その操作は、握り部に載せた手のひらを前後方向(車両走行方向)に揺動させることで実現する。その際、握り部に載せた手の親指は比較的自由な状態となっているので、垂直状側面や操作者対向面に親指に配置されている操作スイッチはスムーズに親指によって操作可能である。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記操作スイッチ群は、前記トランスミッションの変速段を変更する走行操作スイッチ群と前記作業装置を制御する作業操作スイッチ群とからなり、前記操作者対向面には、前記走行操作スイッチ群に属する少なくとも1つの走行操作スイッチと、前記作業操作スイッチ群に属する少なくとも1つの作業操作スイッチとが配置されている。特に、車両の増減速操作と同時に、あるいは当該操作に続いて操作される機会の多い操作スイッチが垂直状側面や操作者対向面に配置されていると好都合である。
【0010】
本発明による多機能操作具では、握り部に手のひらを載せた場合、親指は垂直状側面と操作者対向面とによって境界付けられた親指自由空間に位置し、中指や人差し指はグリップ本体の前記垂直状側面とは反対側の側面に位置することになる。このことから、中指や人差し指と向き合う側面に操作スイッチを配置することは好都合である。本発明の好適な実施形態の1つでは、前記操作スイッチ群に属する操作スイッチを含む他の人為操作具と同時操作されることで特定の機能を有効にする特定機能スイッチが設けられており、前記特定機能スイッチが、前記垂直状側面、または前記グリップ本体の前記垂直状側面とは異なる側面、あるいはその両方に配置されている。これにより、親指と中指(または人差し指)とは共同して容易に物を挟み付けることができるという、手の関節構造仕組みを有効に利用することができる。
【0011】
前進と後進とを切り替えるシャトルスイッチは、車両の増減速操作と連係して操作される機会の多い操作スイッチである。また、シャトルスイッチは、車両の大きな状態変化である前進と後進との切り替えを行うため、操作者は十分な意識をもって操作する必要がある。このような意識を操作者に持ってもらうためには、シャトルスイッチ以外に、別なスイッチを設け、それら2つのスイッチの操作によって前進と後進との切り替えが実現すると好都合である。しかも、その2つのスイッチの操作は、握り部に載せた手の指の自然な動きだけで行えると操作性が向上する。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行操作スイッチ群に前進と後進とを切り替えるシャトルスイッチが含まれており、前記シャトルスイッチが前記操作者対向面上で前記垂直状側面に近接して配置されており、前記シャトルスイッチの機能を有効または無効にするシャトル許可スイッチが前記グリップ本体の前記垂直状側面とは反対側の側面に前記特定機能スイッチとして配置されている。
【0012】
本発明は、上述した多機能操作具だけを主題としているのではなく、そのような多機能操作具を備えたアームレスト操作装置も主題としている。本発明による、上述した多機能操作具を備えたアームレスト操作装置では、一体的に構成されるアームレスト支持台が備えられ、前記アームレスト支持台が車体前後方向に沿って前領域と中間領域と後領域とに区分けされており、前記多機能操作具は前記前領域に配置され、アームレスト台が前記後領域に配置され、前記中間領域にエンジン制御用スイッチ群と前記作業車両用の油圧制御スイッチ群が配置されている。このアームレスト操作装置では、アームレスト台に載せた腕の手のひらを多機能操作具の握り部に載せることで、腕の負担は軽減され、手のひらと指とを用いて快適に多機能操作具を操作することができる。また、アームレスト台と多機能操作具との間の中間領域に種々のスイッチ群が配置されており、操作スイッチ群をまとめて配置することでき、配線コストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の基本的な構成を説明する模式図である。
図2】本発明による多機能操作具を有するアームレスト操作装置の実施形態の1つを装備した作業車両の一例であるトラクタの側面図である。
図3】トラクタに装備されたアームレスト操作装置の側面図である。
図4】アームレスト操作装置の平面図である。
図5】アームレスト操作装置に設けられた多機能操作具の上方からみた斜視図である。
図6】多機能操作具の側方からみた斜視図である。
図7】多機能操作具の後方からみた斜視図である。
図8】多機能操作具の上方からみた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による多機能操作具の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて本発明を特徴付けている基本的な構成を説明する。
図1には、アームレスト操作装置4を構成するアームレスト台40に、揺動軸P1周りで揺動可能に支持された多機能操作具5が示されている。この多機能操作具5は、走行速度を変更するトランスミッションと作業装置とを備えた、トラクタやフロントローダのような作業車両を制御するために用いられる。多機能操作具5は、実質的には、グリップ本体5Aと揺動体5Bとからなる。揺動体5Bは、図1では、揺動軸P1周りで揺動するアーム部材として形成されている。この実施形態では、揺動体5Bがほぼ垂直となる揺動中立位置から、揺動体5Bを一方方向に揺動させることで車両を増速させ、他方方向に揺動させることで車両を減速させるように構成されている。
【0015】
グリップ本体5Aは、揺動体5Bの自由端部側に設けられている。図1に示すように、グリップ本体5Aは、右側領域、ここではほぼ右側半分領域に形成された握り部50と、左側領域、ここではほぼ左側半分領域に形成された、操作スイッチ群9のための延長部51とからなる。グリップ本体5Aは、凸状湾曲面52と垂直状側面53と裏面54a(図7参照)と底面54b(図7参照)とによって外周面が形成されている。凸状湾曲面52は、握り部50を掴む手のひらがスムーズに覆いかぶさるような形状を有する。垂直状側面53は、凸状湾曲面52の左端縁に対してほぼ垂直に延びた面である。握り部50の下端縁、つまり底面54bと凸状湾曲面52との境界領域の少なくとも一部に、外方に突き出した舌片が小指球載せ55として形成されている。この小指球載せ55は、握り部50に載せた手のひらが下方にずれ落ちないようにその手の小指球を保持する形状を有する。
【0016】
延長部51の上面はほぼ平坦な面またはわずかに凸に湾曲した面を有している。延長部51の上面は、実際の適用に当たっては操作者に対向するように配置されるため、以後操作者対向面56と称する。延長部51の操作者対向面56は握り部50の垂直状側面53の下端縁から左方向に延びるような形態で、握り部50と延長部51とがつながっており、操作者対向面56と垂直状側面53とがほぼ直角に交わっている。したがって、操作者対向面56と垂直状側面53とによって境界づけられる空間は、握り部50に載せた手の親指がある程度自由に動かせる広さを持っている。それゆえ、この空間は親指自由空間TSと称している。
【0017】
垂直状側面53と操作者対向面56とには、操作スイッチ群9に属する少なくとも1つの操作スイッチ(ボタンやレバーなどを含む)が配置される。操作スイッチ群9には、トランスミッションの変速段を変更する走行操作スイッチ群と前記作業装置を制御する作業操作スイッチ群とが含まれている。図1の例では、操作者対向面56には走行操作スイッチ群に属する走行操作スイッチと作業操作スイッチ群に属する作業操作スイッチとが混在配置されている。垂直状側面53には走行操作スイッチ群に属する操作スイッチが配置されており、これらの操作スイッチは基本的には握り部50に載せた手の親指で操作し易いように配置されている。握り部50の裏面54aにも、走行操作スイッチ群に属する操作スイッチが、握り部50に載せた手の中指または人差し指で操作し易いように配置されている。
【0018】
アームレスト操作装置4は、取付ベースとして機能するアームレスト支持台4Aを備えている。このアームレスト支持台4Aは、前領域と中間領域と後領域とに区分けされている。前領域には多機能操作具5が配置され、後領域に操作者の腕を載せるアームレスト台40が配置されている。多機能操作具5の設置個所以外の前領域及び中間領域にはエンジン制御用スイッチ群や作業車両用の油圧制御スイッチ群などが配置されている。このアームレスト操作装置4は、一体的に、作業車両の運転座席の側方から前方にかけての領域に取り付けられる。
【0019】
次に、本発明による多機能操作具を有するアームレスト操作装置の具体的な実施形態の1つを説明する。図2は、そのようなアームレスト操作装置を装備した作業車両の一例であるトラクタの側面図である。このトラクタは、図2で示されているように、前輪2aと後輪2bとによって支持されているトラクタの車体1の前部にエンジン20が搭載され、エンジン20の後方にトランスミッション22が搭載されている。車体1の後方には作業装置3としてロータリ耕耘装置がリンク機構30を介して昇降自在に装備されている。このトラクタは四輪駆動型であり、エンジン20の動力は、トランスミッション22に内装された走行用の変速機構を介して前輪2a及び後輪2bに伝達される。さらに、エンジン20の動力は、トランスミッション22から後方に突き出しているPTO軸31を介して作業装置3にも伝達される。エンジン20はボンネット21によって覆われている。ボンネット21の後方かつトランスミッション22の上方でキャビン10が車体1に支持されている。
【0020】
キャビン10の内部は運転空間として機能し、その前部には、前輪2aの操向操作を行うステアリングハンドル11が、その後部で、左右一対の後輪フェンダ15の間には、運転座席12が配置されている。運転座席12の側方から前方にかけて、多機能操作具5を有するアームレスト操作装置4が設けられている。アームレスト操作装置4の前側には運転者に種々の情報を視覚的に報知するディスプレイ13が設けられている。
【0021】
図3に示されているように、アームレスト操作装置4は、図示されていない支持フレームに固定される取付ブラケット4Bに固定されるアームレスト支持台4Aを備えている。
取付ブラケット4Bには前方に延びながら上方に向かって傾斜している支持ロッド4Cが固定されており、支持ロッド4Cの先端部に液晶パネルなどのディスプレイ13が取り付けられている。このディスプレイ13はタッチパネルを通じて入力操作が可能なものであり、運転者による各種操作入力を受け入れることができる。
【0022】
図4から明らかなように、アームレスト操作装置4は、平面視において、前領域4a、中間領域4b、後領域4cに区分けすることができる。後領域4cには腕を載せる、クッション性のあるアームレスト台40が設けられている。前領域4aのほぼ左半分に、後で詳しく説明する、多機能操作具5が設けられている。前領域4aのほぼ右半分には、操作スイッチ群9として、第1操作スイッチ群9aと第2操作スイッチ群9bとが配置されている。中間領域4bにも、操作スイッチ群9として、左から、第3操作スイッチ群9c、第4操作スイッチ群9d、第5操作スイッチ群9eが配置されている。各操作スイッチ群9には、ボタン、スイッチ、ダイヤル、レバー、ジョイスティックなどの各種の型式で形成される操作スイッチが設けられている。
【0023】
図5から図8には、種々の方向からみた多機能操作具5が示されている。なお、この多機能操作具5は右手操作用である。多機能操作具5のグリップ本体5Aは、図6図7で模式的に示されているように、車体1のほぼ横断方向に延びている揺動軸P1周りで搖動する揺動体5Bに取り付けられている。その際、揺動体5Bはグリップ本体5Aの底面54bに形成されたブッシュ部59に嵌入されている。ブッシュ部59の下端周囲にはスカート59aが形成されている。このスカート59aはアームレスト支持台4Aに形成されている揺動用孔に対する案内部材及び防塵部材として機能する。
【0024】
グリップ本体5Aは、握り部50と、握り部50の左側から延びた延長部51とからなるが、一体的に成形されている。もちろん、分割成形された後に接合される構成であってもよい。握り部50は、平面視で(図8参照)、やや変形した1/8円の形状であり、上面は凸状湾曲面52であり、底面54bはほぼ平坦面である。また、裏面54aは、延長部51と共通のほぼ平坦な面となっている(図7参照)。凸状湾曲面52は、指を少し内側に曲げた際に手の平が作り出す窪みに適応するような湾曲形状である。手のひらを凸状湾曲面52に載せ、親指を除く指を裏面54aに当てて、握り部50を挟み込みことで手は安定した状態となり、握り部50の左側に位置する親指は自由な状態となる。
【0025】
握り部50の左側面は、ほぼ平坦な垂直状側面53として形成されており、延長部51の上面に形成された略平坦な操作者対向面56との間に親指の自由な動きを許す親指自由空間TSが作り出されている。垂直状側面53と操作者対向面56とのなす角度は、110度程度である。また、操作者対向面56が運転座席12に着座した運転者の視線と対向するように、操作者対向面56の握り部50に対する捩じり角が設定されている。
【0026】
握り部50の右の下端縁から垂直状側面53と操作者対向面56との境界縁にかけて舌片状に突き出た小指球載せ55が形成されている。その突出幅は、ほぼ小指が載る程度である。
【0027】
なお、このトランスミッション22は、6つの副変速ユニットと4つの主変速ユニットを備えており、この主変速ユニットは油圧の適正制御によって変速切り替え衝撃が抑制された変速ユニットである。副変速ユニットと主変速ユニットとの変速段を組み合わせることで24段の変速が実現する。この変速段の切り替え、つまりシフトアップまたはシフトダウンは、握り部50の搖動軸P1周りの揺動、結果的には揺動体5Bの揺動によって実行される。つまり、握り部50に手のひらを載せながら、握り部50を前方に変位させるとシフトアップが実行され、握り部50を後方に変位させるとシフトダウンが実行される。
【0028】
図5に示されているように、この実施形態では、操作者対向面56には、走行に関する操作スイッチ群9に属するシャトルボタン91と変速比固定ボタン93、作業に関する操作スイッチ群9に属するアップダウンボタン92、2つの油圧制御スイッチ94a、94bが設けられている。シャトルボタン91は、操作者対向面56のほぼ上半分(前半分)の最も垂直状側面53に近い位置に配置されている。アップダウンボタン92は、シャトルボタン91の左隣りに配置されており、変速比固定ボタン93はさらにシャトルボタン91の左隣りに配置されている。油圧制御スイッチ94a、94bは操作者対向面56のほぼ下半分(前半分)に横並び配置されている。また、垂直状側面53には、変速補助ボタン95が配置されている。さらに、図7に示されているように、握り部50の裏面54aには、シャトル補助ボタン96が配置されている。このシャトル補助ボタン96は、握り部50の凸状湾曲面2に手のひらを載せた手の人差し指または中指で簡単に操作可能である。
【0029】
シャトルボタン91は、シャトル補助ボタン96を押すとともにシャトル上向き矢印の箇所を押すことでトランスミッション22を前進に切り替え、また、シャトル補助ボタン96を押すとともに下向き矢印の箇所を押すことでトランスミッション22を前進に切り替える機能を有する。つまり、シャトル補助ボタン96を中指か人差し指(もちろん薬指でや小指でも可能である)押した状態で、親指でシャトルボタン91を押すことで、トラクタの前進と後進を選択することができる。
【0030】
上述したように、この実施形態で採用されているトランスミッション22は、油圧の適正制御によって変速切り替え衝撃が抑制された変速ユニットと、通常のシンクロメッシュタイプの副変速ユニットとを有している。したがって、副変速ユニットの切り替えを伴わない主変速ユニットだけの4つの変速段の変更操作と、副変速ユニットの切り替えを伴う変速段の変更操作とは、その違いを意識して操作することが望ましい。このことから、握り部50の搖動軸P1周りの揺動操作による変速切り替え(シフトアップ、シフトダウン)において、副変速ユニットの切り替えを伴わない、主変速ユニットだけの変速段の変更操作は、変速補助ボタン95を押さなくとも有効であるが、副変速ユニットの切り替えを伴う変速段の変更操作は、変速補助ボタン95を押さなければ無効となるように構成されている。副変速ユニットの切り替えを伴う変速段の変更操作は、変速補助ボタン95を押しながら行う必要がある。その際には、親指で変速補助ボタン95を押しながら、手のひらで握り部50を前方または後方に変位させることになる。
【0031】
また、このトランスミッション22を制御するトランスミッション制御コントローラには、車速に応じて適切な変速比を設定する機能が備えられている。しかしながら、作業時等では、一時的に車速が変動しても変速比はそのままに維持することが好ましい場合がある。この問題を解決するため、変速比固定ボタン93は、変速比を強制的に固定するボタンで、ブレーキ操作などの車速が低下しても、トランスミッション22の変速比を変更させない指令をトランスミッション制御コントローラに与えることができる。
【0032】
アップダウンボタン92は、上下2つのボタン部に分かれており、上ボタン部を押すことで作業装置3を上昇させ、下ボタン部を押すことで作業装置3を下降させる。油圧制御スイッチ94a、94bは、作業装置3に接続される油圧配管の弁を制御するものである。
〔別実施形態〕(1)上述した実施形態では、トランスミッション22として多段ギヤ変速機構を備えたものが搭載されており、握り部50の搖動軸P1周りの揺動操作により、段階的な変速段の切り替えが実現されていた。これとは異なり、トランスミッション22として無段変速機構を備えたものが作用された場合には、握り部50の搖動軸P1周りの揺動操作により、無段階の変速が実現するように構成することができる。つまり、握り部50を搖動軸P1周りで中立位置から前方に揺動すれば、増速側に連続的に変速され、握り部50を搖動軸P1周りで中立位置から後方に揺動すれば、減速側に連続的に変速される。
(2)上述した実施形態で提示された、グリップ本体5Aに配置された操作スイッチ群9の種類と配置は一例であり、必要に応じて、操作スイッチ群9から選ばれた操作スイッチを任意に配置することができる。
(3)握り部50や延長部51の形状も、図示された形状に限定されるものではない。握り部50の上面形状は、少なくともその外形輪郭が手のひらを自然な状態で受け入れるような凸湾曲状であればよい。延長部51の形状も、握り部50との間で、親指自由空間TSが形成されるとともに、複数の操作スイッチが握り部50に載せた手の親指で操作可能に配置できるものであればよい。またその面は粗面であってもよいし、光沢面であってもよい。
(4)上述した実施形態では、グリップ本体5A及び揺動体5Bは、揺動軸P1周りにだけ揺動変位するものであったが、上位スティックのように、他の軸心周りの変位や、球状継手を用いた全方位変位可能なものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、トラクタ以外のコンバインや田植機などの農作業車両、フロントローダやバックホウなどの建設機械など、種々の作業車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 :車体
3 :作業装置
4 :アームレスト操作装置
4A :アームレスト支持台
40 :アームレスト台
5 :多機能操作具
5A :グリップ本体
5B :揺動体
50 :握り部
51 :延長部
52 :凸状湾曲面
53 :垂直状側面
54a :裏面
54b :底面
55 :小指球載せ
56 :操作者対向面
22 :トランスミッション
9 :操作スイッチ群
TS :親指自由空間
P1 :揺動軸
図1
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