(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のデュアルフューエルエンジンとして、まず最初に可変吸気弁タイミング(Variable Intake Valve Timing;VIVT)機構について説明する。
すなわち、本発明者らは、各VIVT角度で燃料ガス供給弁の開弁(供給開始)タイミングを変更して、THC濃度、燃焼状態から最適値を決定し、VIVT角度に応じて燃料ガス供給弁の開弁タイミングを設定することにより、ガス燃料エンジンの出力を上昇させる際に発生するノッキングを抑制して負荷上げ時間を短縮することができ、更にはトルクリッチ領域、トルクプア領域において燃料ガス供給弁の開弁タイミングに起因していた燃焼変動、回転速度ハンチングを改善できることを見いだした。
【0023】
エンジンのノッキング抑制技術として、可変吸気弁タイミング(VIVT)機構を用いて有効圧縮比を下げることができる。この点についてノッキング抑制技術を
図16A、16Bにより説明する。
図16Aは通常の4ストロークサイクルの工程を示し、
図16Bはミラーサイクルの工程を示している。
【0024】
例えばガス燃料エンジンにおいて、通常、吸気弁はピストンの下死点に閉まる(
図16A参照)。一方、
図16Bに示すように閉まるタイミングを下死点より早くすると、吸気弁の閉弁後にも混合気の膨張が続くため、筒内温度Tsが
図16Aの場合より下がる(Ts
*<Ts)。その分だけ上死点時の最高圧縮温度も低下することより(Tc
*<Tc)、自着火を防ぐことができてノッキングが抑制される。
ミラーサイクルの欠点として、圧縮温度が下がって低負荷域の着火性が悪化するため、起動時や低負荷時には
図16Aに示す通常の吸気弁の開弁タイミングに戻し、高負荷時のみ吸気弁の開弁タイミングを早くする必要がある。
【0025】
以下、本発明の実施形態によるエンジンとして、舶用エンジンに用いる例えば4ストロークのデュアルフューエルエンジン1について添付図面に基づいて説明する。
図1及び
図2に示す舶用のデュアルフューエルエンジン1(以下、単にエンジン1ということがある)は、運転中にディーゼルモードDとガスモードGとアシストモードAsのいずれかに切り換え可能である。
図1に示すデュアルフューエルエンジン1は、プロペラ等に連結された出力軸としてクランク軸2の機構を備えており、クランク軸2はシリンダーブロック3内に設置されたピストン4に連結されている。シリンダーブロック3内に設けたピストン4とエンジンヘッド5によって燃焼室6が形成されている。
【0026】
燃焼室6はエンジンヘッド5に装着されている吸気弁8及び排気弁9と、ディーゼルモードDで使用する燃料噴射弁10とによって密閉されている。エンジンヘッド5にはガスモードで使用するマイクロパイロット油噴射弁11が設置されている。燃料噴射弁10には燃料噴射ポンプ12が接続されている。エンジンヘッド5の吸気弁8を設置した吸気口には吸気管13が接続され、排気弁9を設置した排気口には排気管14が設置されている。吸気管13にはガス噴射を制御する電磁弁からなる燃料ガス供給弁15が設置され、その上流側にはエアクーラ16、排気管14に連通する過給機17が設置されている。
【0027】
ここで、本実施形態によるデュアルフューエルエンジン1は、
図2A、2B,2Cに示すように、ディーゼルモードDとガスモードGとアシストモードAsのいずれかに切り換えて運転できる。
図2Aに示すディーゼルモードDでは、例えばA重油等を燃料油として図示しない燃料タンクから燃料噴射ポンプに供給し、燃料噴射弁10から燃焼室6内の圧縮空気に機械的に噴射して着火し燃焼させることができる。
【0028】
図2Bに示すガスモードGでは、天然ガス等の燃料ガスを燃料ガス供給弁15で吸気管13に供給して空気流と予混合して混合気を燃焼室6内に供給し、混合気の圧縮状態で点火装置により点火を行い、この例ではマイクロパイロット油噴射弁11からパイロット燃料を噴射して着火し燃焼させる。マイクロパイロット油噴射弁11は例えば電子制御されていて強力な点火源としてパイロット燃料を少量噴射する。燃料ガス供給弁15は、わずかなストロークで大きな開口を形成して短時間で大量のガスを流すことができる電磁弁である。
図2Cに示すアシストモードAsでは、燃料噴射弁10から燃料油を調速制御によって燃焼室6内に噴射すると共に、燃料ガス供給弁15から燃料ガスを吸気管13内に供給する。
【0029】
ガスモードGは、ガス燃料(気体燃料)のみを燃料として用いて点火プラグで点火を行う運転様式、及び、熱源の大部分を占めるガス燃料の点火に少量の液体燃料(パイロット油)の噴射を用いる運転様式、の双方を含むものである。後者の運転様式における全燃料中の液体燃料の割合は、通常の場合、定格出力の熱量対比で全熱量の1%〜10%程度である。排出ガスに対する環境規制を達成する観点からは3%以下であることが望ましい。
アシストモードAsは、ガス燃料と液体燃料の双方を燃料とし、しかも液体燃料の供給量の調速制御を行う運転様式である。液体燃料を用いるアシストモードAsは、環境対策の側面から運転時間を必要最小限とし、アシストモードが必要でなくなった場合にはすぐにガスモードに復帰させることが好ましい。アシストモードAsでは、燃料噴射弁10から燃焼室6内に燃料油を噴射して燃焼させると共に、マイクロパイロット油噴射弁11からも燃焼室6内にパイロット燃料を噴射して燃焼させる。
ディーゼルモードDは、主にエンジンの始動時及び停止時に用いられ、液体燃料のみを燃料として運転を行う運転様式である。
【0030】
エンジン1は、燃料噴射弁10より液体燃料を燃焼室6内に噴射するディーゼルモードDで始動を行う。エンジン1に基準値以上のガス圧力が供給されていることが確認された後、燃料ガス供給弁15でガス燃料を吸気管13に供給して空気と混合してから燃焼室6内に流入させ、ガス燃料を燃焼させるガスモードGで運転を行う。
停止の際には再びディーゼルモードDに変更してから停止を行う。始動時と停止時以外はディーゼルモードDとガスモードGを変更可能である。
【0031】
定常的な運転の際には、回転速度と出力との関係で理論的には舶用三乗特性線に沿ってガスモードでエンジン1の運転が行われる。舶用三乗特性とは、固定ピッチプロペラを用いた船舶において出力が回転速度の3乗に比例する舶用主機関(エンジン1)の特性をいう。定常運転以外で、荒天時の船舶の運航や急速な進路変更などの操船がなされた場合には、舶用三乗特性を大きく超えて常用的な運転領域以上の出力が要求され、ガスモードGでの運転は出力が不足して運転が困難な場合があるため、一時的に液体燃料を燃焼室6内に供給して気体燃料と共にアシストモードAsで運転を行う。アシストモードAsでの運転は、調速制御で液体燃料を使用するため環境への影響を考慮して必要最小限の時間内で処理し、アシストモードAsが必要でなくなった場合には迅速にガスモードGに復帰することが望ましい。
【0032】
本実施形態によるデュアルフューエルエンジン1は、ガスモードGにおいて負荷上昇時の出力制御を行うガスエンジンシステムを備えている。このガスエンジンシステムの構造について説明する。
図1において、クランク軸2には回転速度センサ20とトルクセンサ21とが取付けられており、回転速度センサ20ではクランク軸2の回転速度(回転数)を計測し、トルクセンサ21ではエンジントルクを計測する。トルクセンサ21として、例えば軸にかかるトルクを歪によって検出するセンサが使用可能である。回転速度センサ20とトルクセンサ21で計測した測定データはエンジン1を制御する制御部22にそれぞれ信号出力する。
【0033】
制御部22では、回転速度センサ20とトルクセンサ21などからの信号に基づいてエンジン1の運転状態を検出する。即ち、回転速度センサ20で計測したクランク軸2の回転速度(回転数)をnとし、トルクセンサ21で計測したトルクをTとして、下記の式(1)と式(2)でエンジン1の出力(負荷)Aを演算する。但し、Ltはエンジン1の定格出力とする。
出力Lo=2πTn/60 (1)
出力(負荷)A=Lo/Lt×100 (2)
【0034】
なお、エンジン1の出力(負荷)を求める方法として、燃料の供給量その他のエンジン1の運転状態に関する情報から推測する方法と、エンジン1の出力軸の動力伝達系統にトルクセンサ21を備えて、実際にトルクの測定を行って出力を求める方法がある。ガス燃料エンジンでは、燃料となるガスは弾性体であるため液体燃料に比べて正確な燃料の供給量を得ることが相対的に難しい。そこで、トルクセンサ21によって実際にトルクの測定を行うことで出力を演算することが好ましい。
回転速度nを一定にした場合には、出力Aとトルク測定値Tは正比例の関係になる。回転速度nが一定の条件においては、出力Aが大きいほど、すなわちトルクデータTが大きいほど、より大きい割合で吸気弁8の閉じるタイミングの進角を設定することが望ましい。
【0035】
制御部22では、予め作成された吸気弁開閉タイミングの第一電気信号を決定する第一マップ24と第一電気信号及び開閉タイミングから第二電気信号を決定する第二マップ25とが記憶されている。制御部22では、回転速度センサ20とトルクセンサ21によって測定されたエンジン1の出力Aに対応する回転速度データnとトルクデータTに基づいて、上記(1)及び(2)式によりエンジン1の出力Aを演算する。回転速度nと出力Aにより第一マップ24で吸気弁8の開閉タイミングに対応する第一電気信号を選択する。この第一電気信号に基づいて第二マップ25で第一電気信号に対応する吸気弁8の開閉タイミングが決定される。なお、第一マップ24と第二マップ25の作成方法は後述する。
制御部22で設定された開閉タイミングの第二電気信号は電空変換器27に送信され、電空変換器27で開閉タイミングの信号が空気圧力に変換される。この空気圧力はアクチュエータ28に送られて可変吸気弁タイミング機構30の駆動を制御する。アクチュエータ28には第一減圧レギュレータ34と電空変換器27から駆動用と制御用の空気圧力P1,P2が供給される。
【0036】
なお、アクチュエータ28に供給する空気圧力は空気圧縮機32で圧縮されてエアタンク33に貯められる。エアタンク33内の空気圧力は第一減圧レギュレータ34により必要な圧力に減圧される。この際の圧力は第一減圧レギュレータ34のバルブ開度を変更することより調整し、駆動用の空気圧力P1としてアクチュエータ28に供給される。圧力計36で計測された圧力P1が規定値以下の場合には、エンジン1は始動できない。
電空変換器27を駆動するための空気圧力は、第一減圧レギュレータ34から第二減圧レギュレータ37でさらに減圧されて供給される。電空変換器27は入力される開閉タイミングの第二電気信号に対応する空気圧力を、アクチュエータ28の動作を調整するための空気圧力P2としてアクチュエータ28に供給する。これらの空気圧力P1,P2に基づいてアクチュエータ28のロッド28aを動作して可変吸気弁タイミング機構30を作動させる。
【0037】
アクチュエータ28は例えば公知のPシリンダ(ポジショナリ付きシリンダ)であり、第一減圧レギュレータ34と電空変換器27から入力される圧力P1、P2に基づいてロッド28aの進退を制御する。アクチュエータ28のロッド28aの移動長さを変化させることで、可変吸気弁タイミング機構30の駆動を制御して吸気弁8の閉じるタイミングを吸入下死点から進める(進角)か、または遅らせる(遅角)ことで、圧縮比を下げて制御を行う。
吸気弁8の開弁タイミングと閉弁タイミングの間の時間は変わらないので開弁のタイミングが吸入下死点から進むと閉弁のタイミングも吸入上死点から同一時間進む。しかも、本実施形態ではエンジン1の出力に応じて開弁と閉弁のタイミングを変更することでノッキングを抑制して負荷上げ時間を短縮させるようにした。エンジン1の出力Aと回転速度nに基づいて制御部22内の第一マップ24と第二マップ25により吸気弁8の開閉タイミングを設定し、アクチュエータ28と可変吸気弁タイミング機構30によって吸気弁8の開弁と閉弁のタイミングを、ノッキングを抑制できるように調整している。
【0038】
可変吸気弁タイミング機構30の構成は従来公知のものであり、
図17に示すものと同様な構造を備えている。即ち、可変吸気弁タイミング機構30は例えばアクチュエータ28のロッド28aの移動長さによって回転角度範囲が設定されるリンクシャフトと偏心カムを備えたカム軸とが平行に配設されている。リンクシャフトには排気用スイングアームが接続され、リンクシャフトの偏心した位置に設けたタペット軸に吸気用スイングアームが接続されている。吸気用スイングアームには吸気弁8が接続され、排気用スイングアームには排気弁9が接続されている。
【0039】
リンクシャフトの回転に応じたタペット軸の回転角度によってカム軸と吸気用スイングアームとの距離が変化し、カム軸の偏心カムが当たり始めるタイミングが変化する。これによって閉弁タイミングを進角(または遅角)に変更できる。タペット軸からカム軸中心までの距離が離れるほど吸気弁8の閉弁タイミングが早くなる。タペット軸の回転角度は、アクチュエータ28のロッド28aの移動長さによって変更される。ロッド28aの移動長さは、アクチュエータ28に供給される制御用空気の圧力P1,P2によって任意に変更される。
吸気弁8の閉開タイミングである進角の大きさは、リンクシャフトのタペット軸に連結された吸気用スイングアームにカム軸の偏心カムが当たり始めるタイミングで決まる。
【0040】
可変吸気弁タイミング機構30におけるタペット軸の回転装置は、アクチュエータ28に代えて、図示しないサーボモータを使用してもよい。この場合、制御部22の第二マップ25から発信された開閉タイミングの信号をサーボモータに入力させる。サーボモータは受けた信号に対応する量だけリンクシャフトを回転させてタペット軸を旋回させることでカム軸に対して接近離間させ、吸気弁8の開閉タイミングを変更することができる。なお、サーボモータを用いた場合、アクチュエータ28と空気圧縮機32〜圧力計38までの構成は不要である。また、電空変換器27に代えてコントローラでサーボモータを駆動させる。
【0041】
また、吸気管13にガス噴射を制御する燃料ガス供給弁15へのガス燃料の供給機構について説明する。
図1において、天然ガス等のガス燃料が貯蔵されたLNGガスタンク40からガス燃料がガス気化器41に供給され、更にガス圧力はガスレギュレータ42により必要なガス圧に減圧される。
このガス圧は燃料ガス圧力計43に表示され、ガスレギュレータ42のバルブ開度を変更することによって調整し、燃焼用のガス燃料として燃料ガス供給弁15から吸気管13内に供給される。吸気管13内ではガス燃料とエアクーラ16で冷却された過給の空気とが混合されて燃焼室6に供給される。負荷上げの際は、燃料ガス供給弁15の動作によりガス燃料の供給量を増加させる。
【0042】
制御部22で設定された開閉タイミングの第二電気信号は電空変換器27とは別にガスガバナ44を介して燃料ガス供給弁15に送信される。ガスガバナ44は、ガスモードにおけるガス燃料の供給量の調速制御(ガバナ制御)を行う。しかも、ガスガバナ44は、燃料ガス供給弁15を開弁してガス燃料を吸気管13内に供給する開弁タイミングを吸気弁8の閉じるタイミングの進角に応じて進角させるように制御する。ガス圧を調整するガスレギュレータ42と燃料ガス供給弁15の開弁タイミングを進角させ且つ調速制御を行うガスガバナ44とは、燃料ガス供給弁タイミング機構45に含まれる。
なお、ガスガバナ44は制御部22の外部に設置されていてもよい。燃料ガス供給弁タイミング機構45は第二マップ25からの第二電気信号を受信して吸気弁8の閉じるタイミングの進角に応じて燃料ガス供給弁15の開弁タイミングを進角させることができればよい。
【0043】
更に、制御部22には、アシストモードAsの際に液体燃料の調速制御を行うディーゼルガバナ48が設置されている。ディーゼルガバナ48は、開閉タイミングの第二電気信号を受信して燃料噴射ポンプ12に供給し、燃料噴射弁10から燃焼室6内に噴射する燃料油の供給量を制御する。ディーゼルガバナ48は制御部22の外部に設置されていてもよい。
ディーゼルガバナ48は、アシストモードAsにおいて液体燃料の調速制御を行い、目標となるエンジン1の回転速度に合致するように液体燃料の供給量を調速制御する。アシストモードAsからガスモードGに戻る際には液体燃料の調速制御を終了する。
なお、制御部22において、第一マップ24と第二マップ25を含む構成を運転制御部49として、運転制御部49とは別個にガスガバナ44とディーゼルガバナ48とを有している。
【0044】
次に制御部22内に記憶する第一マップ24と第二マップ25の作成方法について説明する。
図3はクランク軸2の回転速度とエンジン1の出力(負荷率)により、VIVT指令値(吸気弁閉じクランク角度,Intake Valve Closed timing,IVC)である吸気弁8の閉弁時のクランク角度を決定する第一マップ24の詳細を示す3次元マップである。
【0045】
図3において、常用的(実用的)に運転される領域Bを破線で示している。これに対して、発電で行われる回転速度を一定にした場合の出力の変化に対するVIVT指令値の変化(進角)を矢印線Cで示し、舶用で行われる回転速度と出力(負荷率)が同時に変化する場合のVIVT指令値の変化(進角)を矢印線Dで示す。矢印線Dは舶用三乗特性を示している。舶用三乗特性は出力が回転速度の3乗に比例する舶用主機関の代表的な特性を示すものであり、機関の定格回転速度、定格出力によって決定する回転速度と出力の特性曲線である。常用的な運転領域Bの領域内で舶用三乗特性線Dよりも出力(負荷率)が高い領域はトルクリッチ領域を示し、出力(負荷率)が低い領域はトルクプア領域を示す。
【0046】
第一マップ24は次の実験手順(1)〜(18)の行程に基づいて作成した。
実験には、実際に使用する同一機種のデュアルフューエルエンジン1を用いた。
(1)エンジン1を始動し、回転速度(回転数)nを400min
-1、出力(負荷)Aを10%、吸気弁8の閉弁タイミングを545deg(構造上、最も遅い閉弁タイミング)に設定する。
(2)エンジン1の駆動時に発生したノッキングと呼ばれる異常燃焼とそのときの排気温度を計測する。ノッキングは、各エンジンヘッド5に取付けた不図示のノックセンサにより発生を検出する。ノッキング現象発生時は,通常の燃焼波形に高周波の圧力変動が重なった波形となる。
【0047】
また、排気管14に取付けた温度センサによりノッキング測定時の排気温度を測定する。
(3)上記のノッキング測定時の排気温度の測定終了後、吸気弁8の閉弁タイミングを5deg減少させ、再度(2)の計測を行う。閉弁タイミングを500deg(構造上、最も早い閉弁タイミング)まで変更して計測を行う。
(4)上記(3)の計測が終了したら、出力Aを10%ずつ110%になるまで段階的に増加させて、再度(2)と(3)の計測を繰り返して行う。
【0048】
(5)上記(1)〜(4)の計測により、ノッキング強さが基準値以下であり、排気温度が500℃以下である場合を、ノッキングが抑制されてエンジン1が安全に運転可能であると判断する。
(6)上記(5)の計測結果から、X軸が出力A、Y軸が回転速度n、Z軸が開閉タイミングに設定された
図4の3次元グラフにおいて、安全に運転可能な計測点に●(黒丸)、安全ではない計測点に×をプロットする。これによって、出力Aと回転数nと閉弁タイミングとの関係におけるノッキング抑制範囲を選定できる。
(7)上記(1)〜(6)の計測工程を、回転速度nを100min
-1ずつ900min
-1まで上昇して行い、回転速度n毎の安全に運転できる範囲を計測する。
【0049】
(8)上記(7)の計測結果を回転速度n、出力A、閉弁タイミングの3軸で表したグラフが
図4である。
図4で、直線で囲われた範囲はノッキングが抑制されてエンジン1が安全に運転可能な範囲である。
(9)上記(1)〜(8)の実験により計測した
図4に示す安全にエンジンを運転できる直線で囲った3次元領域の範囲内で、窒素酸化物(以下、NOxという)が基準値以下であり、熱効率が一番高い設定を探すことを目的に更に実験を行う。
エンジン回転速度nを400min
-1、出力Aを10%、吸気弁8の閉弁タイミングを545degに設定する。
【0050】
(10)次にNOxと熱効率を計測する。NOxは排気管14に取付けた排ガス分析器で計測を行う。熱効率は、燃料配管に取付けた燃料流量計から計測される燃料流量Lとトルクセンサ21の計測結果より計算される出力Aにより下記の(3)式で計算する。
熱効率η=360Lo/H/L (3)
但し、H:燃料ガスの低位発熱量(J/Nm
3)
Lo:現時点の出力
L:燃料流量
【0051】
(11)上記(10)の測定終了後、吸気弁8の閉弁タイミングを5degずつ減少させ、再度(10)の計測を行う。閉弁タイミングは505degまで変更して計測を行う(
図9参照)。
(12)上記(10)と(11)の計測が終了したら出力を10%ずつ110%まで段階的に増加させ、再び(10)及び(11)の計測を繰り返して行う。閉弁タイミングは
図4で示す安全に運転できる範囲内で変更する。
【0052】
(13)上記(9)〜(12)の計測を、回転速度nを100min
-1ずつ段階的に900min
-1まで上昇して行い、各回転速度毎の最も性能の良い計測点を決定する。
(14)NOxが所定値以下であり、熱効率が一番高い、吸気弁8の閉弁タイミングを各回転速度nと出力A毎に設定する。この結果により、
図3に示す第一マップの原案が作成される。
【0053】
(15)任意の負荷上げパターンで回転速度nと出力Aを上昇させてノッキングを検出する。負荷上げパターンとは出力A(負荷率)と回転速度nの時間あたりの変化状態であり、舶用推進装置のプロペラ仕様(形状、回転数)によって変化する。
(16)上記(15)で検出されたノッキング強さが基準値以上であった計測点の閉弁タイミングを3deg減少させる。
(17)ノッキング強さが基準値以下になるまで、(15)、(16)の工程を繰り返し、ノッキングが抑制された閉弁タイミングを決定する。閉弁タイミングを減少させると熱効率は悪化する。NOx、ノッキング強さが基準値以下で熱効率が一番高い結果が得られた閉弁タイミングの設定を回転速度n、出力Aの設定値とする。
(18)上記(17)よりノッキングが抑制された閉弁タイミングを各回転速度n、出力Aでそれぞれ計測し、その結果により
図3に示す最終的な第一マップ24を作成した。
【0054】
図3には、回転速度と出力に応じたVIVT指令値が、3次元平面のグラフで示されており、図中上側がより閉弁タイミングが進角する方向である。3次元平面上で、破線で示された領域が実際の船舶推進装置の運転で使用される実用的な運転領域であり、良好な負荷上げパターンの1例を舶用三乗特性線Dで示す。実用的な運転領域における負荷上げでは、機関の出力が大きくなるほど閉弁タイミングの進角を大きくする制御を行う。
舶用三乗特性線Dで示した良好な負荷上げパターンの1例では、回転速度と出力の小さい図中右下の位置では進角は最少とされ、回転速度と出力が増すに従って進角を大きくする。進角を大きくする比率は一定ではないが、全体として出力が増すほど進角は大きくされる。なお、出力(負荷率)はトルクと回転速度の積で求められるため、出力軸のトルクが増すほど進角を大きくすると表現することもできる。
【0055】
次に、第二マップ25を下記の実験で作成した。
可変吸気弁タイミング機構30がアクチュエータ28によって回転制御されるとき、次の手順で第二マップ25を作成する。
(1)アクチュエータ28により閉弁タイミングを変更し、各閉弁タイミングに変更する際の圧力を計測する。
(2)電空変換器27の仕様より上記(1)の圧力を供給する為に必要な第二電気信号を調査する。
(3)上記(1)及び(2)の結果から、横軸に上記第一マップ24で選択した第一電気信号、縦軸に閉弁タイミング(第二電気信号)を示す第二マップ25を作成する。
【0056】
なお、上記の説明はアクチュエータ28を用いた場合であり、アクチュエータ28に代えてサーボモータによって可変吸気弁タイミング機構30を回転制御する場合には次のように行う。
(1)サーボモータに基づいて閉弁タイミングを変更し、各閉弁タイミングに変更する際の第二電気信号を計測する。
(2)上記(1)の結果により横軸に第一電気信号、縦軸に閉弁タイミング(第二電気信号)を示す第二マップ25を作成する。
第二マップ25は閉弁タイミング(第二電気信号)と第一電気信号との関係を表すマップである。
【0057】
図3に示す三次元マップにおいて、実線Cで示す発電用の特性線と舶用三乗特性線Dとで、出力によって最適なVIVT指令値が異なる。即ち、
図5に一例として示すように、出力が同一の場合でも回転速度が異なる場合には最適なVIVT指令値の吸気弁閉じクランク角度が異なる。
本実施形態において、VIVT指令値の変化に対応して、即ち、各種の吸気弁閉じクランク角度に対して、吸気弁8と排気弁9のバルブオーバーラップ時による未燃焼燃料ガスの排気管14への吹き抜けが少なくなるように燃料ガスを吸気管13に供給する燃料ガス供給弁15の開弁タイミングを設定する。そのために、先ず回転速度と出力に応じたVIVT指令値を設定する。厳密に言えば、空燃比や点火時期も熱効率やNOxを目安として最適な値に設定しておいた方が好ましいが、ここではエンジン1が安定して運転できているとしてこれらの条件は設定しない。
【0058】
燃料ガス供給弁15の開弁タイミングを設定する一例として、舶用三乗特性線Dにおける最適VIVT指令値に合わせたエンジン運転条件でのガスガバナ44による燃料ガス供給弁15の開弁タイミングの決め方を以下に説明する。
まず、エンジンの出力(負荷率)を25%、50%、75%、100%とした各運転条件において、吸気弁8の開くタイミングを目安として燃料ガス供給弁15から燃料ガスを供給するが、吸気管13内に燃料ガスを供給することから、燃料ガスは瞬時に吸気弁8に到達しない。そのため、燃料ガス供給弁15から吸気弁8までの距離を考慮した燃料ガス供給弁15の開弁タイミングのクランク角度位置を想定する。そして、燃料ガス供給弁15の開弁タイミングにおけるクランク角度位置をその前後で5deg刻みに変更して、その時の過給機17のガスタービン出口の排ガス中の未燃焼ガスであるトータルハイドロカーボン濃度(THC濃度)を測定する。それぞれの運転条件においてTHC濃度の計測を繰り返して実施する。THC濃度は水素炎イオン化法(JIS B 7956)で測定するのが好ましい。
【0059】
それぞれの条件に応じて燃料ガス供給弁15の開弁タイミングを変更し、各VIVT指令値(吸気弁閉じクランク角度)を例えば40%、65%、85%、100%に設定して、各VIVT指令値における燃料ガス開弁タイミングと測定したTHC濃度との関係を示すと
図6のようなる。
図6に示すように、燃料ガス供給弁15の開弁タイミングは、バルブオーバーラップ時に未燃焼燃料ガスの吹き抜けが少なく、THC濃度が最低になるクランク角度を基準とする。一方、出力変化によって急激に燃料ガス供給弁15の開弁タイミングが変化すると前述した燃焼変動や回転速度変動に繋がる。このため、出力に応じた燃料ガス供給弁15の開弁タイミングの変化量が極力小さい傾きになるように、選定した基準から±5deg.C.Aの範囲内で最適な燃料ガス供給弁15の燃料ガス開弁タイミングとなるクランク角度を選定し、それぞれの条件で最適な燃料ガス供給弁15の開弁タイミングに対応するクランク角度を決定する。
【0060】
このようにして決定した、舶用三乗特性線Dの最適VIVT指令値における最適な燃料ガス供給弁15の開弁タイミングのクランク角度と、出力(負荷率)の関係を、
図7の「回転速度変化」の折れ線で示す。
同様に、
図3の発電用特性線Cで行われる回転速度一定とした出力における最適VIVT指令値における最適な燃料ガス供給弁15の開弁タイミングのクランク角度と、出力(負荷率)との関係を、
図7の「回転速度一定」の折れ線で示す。
図7に示すように、最適な燃料ガス供給弁15の開弁タイミングは、出力が同一であっても回転速度が変化する条件と回転速度一定の条件とでは異なった結果となる。
【0061】
しかしながら、舶用三乗特性線Dの最適VIVT指令値における最適な燃料ガス供給弁15の開弁タイミングのクランク角度と、発電用特性線C(回転速度一定)の最適VIVT指令値における最適な燃料ガス供給弁15の開弁タイミングのクランク角度とは、
図8に示すように、出力に代えて、VIVT指令値を横軸にとって整理すると、一致した一つの線図特性を呈する。すなわち、最適燃料ガス供給弁15の開弁タイミングは出力に依存するものではなく、VIVT指定値(吸気弁閉じクランク角度)に依存することが判る。
【0062】
図8から明らかなように、可変吸気弁タイミング機構30によって吸気弁8の閉弁時期を変更すると、吸気弁8の閉じるタイミングの進角が進むほど、燃料ガス供給弁15の供給開始タイミングの進角の度合いがより大きくなる。
そのため、ガスガバナ44により、各条件において決定した最適な燃料ガス供給弁15の開弁タイミングのクランク角度を、VIVT指令値を基準として設定することで、VIVT指令値による燃料ガス供給弁15の開弁タイミングの最適化を図ることができる。なお、
図8において、計測していないVIVT指令値や燃料ガス供給開始時期等については、測定点前後のデータを結ぶ近似線により決定すればよい。
【0063】
次に、燃料ガス供給弁15による燃料ガス供給終了のタイミング制御について
図9から
図11により説明する。
図9は
図1に示すエンジン1の要部構成を示すものである。
図9において、制御部22には外部に目標回転速度指令部50が設置され、予め設定された目標回転速度が制御部22に入力される。制御部22のガス供給時間算出部51では回転速度センサ20の測定値により演算された実回転速度と目標回転速度との偏差に基づいて燃料ガス供給弁15の開弁期間を直接的にPID制御する。
ガス供給時間算出部51に接続されたガス供給弁制御部52では、燃料ガス供給弁15の開弁タイミングを起点として開弁すべき時間を演算して燃料ガス供給弁15に出力し、開弁すべき時間だけ燃料ガス供給弁15を開弁させるようにフィードバック制御する。
制御部22内には、目標回転速度指令部50で設定された目標回転速度により図示しないコントロールラックの目標位置を設定するラック目標値設定手段57が配設されている。ラック目標値設定手段57により設定されたラック位置の目標値により、燃料噴射弁10のラック位置をフィードバック制御する。
【0064】
燃料ガス供給弁15の閉弁タイミング制御は次のように行われる。即ち、
図10に示すように、制御部22では目標回転速度指令部50で設定された目標回転速度と実回転速度の偏差に基づいて、燃料ガス供給弁15の開弁期間を直接的にPID制御する。具体的には、目標回転速度と実回転速度の偏差に基づき、ガスガバナ44によって、フィードバック制御により実回転速度が目標回転速度に追従するように各燃料ガス供給弁15が開弁している時間を制御する。
ガス供給弁制御部52では、燃料ガス供給弁15の開弁タイミングを起点として算出された開弁期間に基づいて各燃料ガス供給弁15の閉弁タイミングの制御を行う。制御部22は、供給する燃料ガス量をあらかじめ演算せずに実回転速度が目標回転速度に一致するように、燃料ガス供給弁15の開弁期間を直接的にPID制御している。
【0065】
燃料ガスの供給圧力制御は、エンジン1の出力と回転速度のデータをパラメータとして設定した圧力ΔP値に、吸気管13内に設けた給気圧力計54により検出した給気圧力を加えた値と、燃料ガス圧力計43の値との偏差がなくなるように燃料ガスの圧力調整器55をフィードバック制御する。
液体燃料の燃料噴射ポンプ12及び燃料噴射弁10の制御は次のように行われる。即ち、
図11に示すように、制御部22では目標回転速度指令部50で設定された目標回転速度と実回転速度の偏差に基づいて、燃料噴射ポンプ12のラック位置を直接的にPID制御する。具体的には、目標回転速度と実回転速度の偏差に基づき、ディーゼルガバナ48によって、フィードバック制御により実回転速度が目標回転速度に追従するように燃料噴射ポンプ12のラック位置が変更されることにより、燃料噴射弁10から噴射される液体燃料の噴射量が増加、減少し、これによってエンジン1の回転速度が増加、減少する。
【0066】
上述した結果を表示した可変吸気弁タイミング機構30の進角とガスガバナ44による燃料ガス供給弁15の供給開始及び終了のタイミングの関係を示すと
図12のようになる。
図12において、エンジン1のクランク角度と吸気弁8及び排気弁9のバルブリフトとの関係を示している。吸気弁8の開閉作動を示す曲線において、実線で示すのはVIVT(可変吸気バルブタイミング)指令値が0%の場合であり、一点鎖線で示すのは進角時(VIVT指令値が100%)の場合の開閉作動イメージを示している。そして、VIVT指令値が0%の場合の燃料ガス供給弁15の開弁期間に対して、進角時(VIVT指令値が100%)の燃料ガス供給弁15の開弁期間がより長くなる。
【0067】
また、吸気弁8の閉弁タイミングが進角するに従って燃料ガスの供給圧力を高くして燃料供給量を増大することが好ましい。そのため、
図9において、吸気管13内への燃料ガスの供給圧力は、吸気管13内に設けた給気圧力計54により検出した給気圧力に圧力ΔP値を加えた大きさに設定する。圧力ΔPは予め測定した複数のエンジン1の出力と回転速度のデータをパラメータとして設定する。その結果、燃料ガス供給弁15から供給する燃料ガスの供給圧力は、吸気弁8が閉じるタイミングの進角に伴って高くすることになる。
【0068】
次に制御部22で制御されるエンジン1の運転における舶用三乗特性線とアシスト・オン(ON)領域とアシスト・オフ(OFF)領域との関係について説明する。
図13のグラフにおいて、横軸がエンジン1の回転速度を示すものであり、縦軸は出力(kw)である。
舶用三乗特性線は、固定ピッチプロペラを用いた船舶において、出力が回転速度の3乗に比例する舶用主機関の特性であり、エンジン1の基本的制御出力レベルである。しかし、出力と回転速度との関係が正確に3乗に比例するとは限らず、ある程度のずれを有する場合もある。図において、舶用三乗特性線に対してプラスマイナス10%の範囲を破線で示す。このプラスマイナス10%の範囲で、アシスト・オフラインが設定される。好ましくはアシスト・オフラインは舶用三乗特性線に沿って設定され、本実施形態では図中、長破線で示すように、舶用三乗特性線のやや上方に舶用三乗特性線に沿った線として設定される。このアシスト・オフラインの下側の領域がアシスト・オフ領域とされる。また、アシスト・オフラインの上側にアシスト・オンラインが設定される。好ましくは、アシスト・オンラインは舶用三乗特性線のある程度上方の常用的には運転されない出力においてエンジン1の特性に応じて設定される。本実施形態では、図中一点鎖線で示すように、アイドル回転速度から中間回転速度までは舶用三乗特性線を一定割合で上回り、中間回転速度から定格回転速度に達するにつれて舶用三乗特性線に近づく線として設定される。このアシスト・オンラインの上側の領域がアシスト・オン領域とされる。なお、これらアシスト・オンライン、アシスト・オフライン等は、制御における考え方を示すもので物理的な線を意味せず、好ましくはコンピュータのプログラムにおける機能として実装される。
【0069】
ガスモードGでの運転は定常的には舶用三乗特性線の付近でなされるが、矢印(A)で示すように、一時的に回転速度に対して出力が上がる場合がある。ガスモードGによる運転中に出力が上がりアシスト・オン領域に入るとアシストモードAsによる運転に移行する。その後、回転速度に対して出力が上がった状態が解消すると、矢印(B)で示すように出力が舶用三乗特性線付近まで下がる。出力が下がり、アシスト・オフ領域に入るとガスモードGでの運転に復帰する。
アシストモードAsでの運転は出力が増大したトルクリッチ領域に限られるため、環境対策の側面からも好適となる。また、アシストモードAsにおいては、図中、ガスガバナの指令イメージの破線で示されるように、回転速度に応じた所定値の気体燃料の供給を行うガスガバナの制御がなされる。
【0070】
次にガスモードGとアシストモードAsとの間の移行時の動作について
図14及び
図15に示すタイミングチャートで説明する。
図14は、ガスモードGからアシストモードAsに移行する際の動作を示すタイミングチャートである。荒天時の船舶の運航や急速な進路変更などの操船がなされた場合に、回転速度に対する出力(負荷)が上昇する。出力(負荷)が予め設定されたアシスト・オンラインを超えるとアシストモードAsに移行する。この場合、ガスガバナ44はガス燃料の供給量の調速制御を終了する。これとほぼ同時に、ディーゼルガバナ48で液体燃料の供給量の調速制御を開始し、且つガスガバナ44によるガス燃料の供給量を
図13で説明した回転速度に応じた所定値に急速に下げて、低い出力で安定させる。この低い出力のガスガバナ指令値は回転速度に応じて変化する。
【0071】
ガス燃料の供給量を所定値に下げる操作はごく短時間(例えば1秒以内)で行われる。ガス燃料の供給量が所定値に下がると、液体燃料の調速制御の作用により、目標となるエンジン1の回転速度を維持するように液体燃料の供給量が増加する。その結果として、エンジン1の回転速度に大きな影響を与えずに、ガスモードGからアシストモードAsへの移行が実施される。ガスモードGからアシストモードAsへの移行は、ガスガバナ44とディーゼルガバナ48により、ディーゼルモードDへの移行と同様にごく短時間(例えば1秒以内)で行うことが可能である。
【0072】
次に、
図15により、アシストモードAsからガスモードGへ復帰する際の動作を示すタイミングチャートについて説明する。
アシストモードAsで運転中、回転速度に対する出力(負荷)が低下し、出力(負荷)が予め設定されたアシスト・オフラインより低下するとガスモードGに復帰する。アシストモードAsからガスモードGに復帰する際、ディーゼルガバナ48で液体燃料の供給量の調速制御を終了すると共に、これとほぼ同時にガスガバナ44でガス燃料の供給量の調速制御を開始する。しかも、ディーゼルガバナ48は、液体燃料の供給量を連続的に例えば2段階に下げて、最終的にゼロまたは極めて小さい量とする。
【0073】
ディーゼルガバナ48による液体燃料の供給量を連続的に下げるパターンは、直線的、曲線的、あるいは、これらと実質的に同様の作用をもつ多段の階段状とすることができるが、本実施形態では2段階に分けて直線的に下げるようにした。
図15に示すように、機械式の燃料噴射ポンプ12の第一段f1では液体燃料の供給量を相対的に急速に低下させて出力を下げ、第二段f2の領域では出力の低下を低速で行う。第二段f2は実質的に液体燃料を噴射しない無噴射領域とされ、しかもその出力低下の移行期間はゆっくり下げるのが望ましい。第一段f1と第二段f2の境目では、ディーゼルガバナ48の指令はアイドル運転程度のガバナ指令とされている。
【0074】
ディーゼルガバナ48によって液体燃料の供給量を連続的に下げる操作は、前述のガス燃料の供給量を下げる操作と比較して、長い時間で行うことが望ましい。ディーゼルガバナ48による液体燃料の供給終了までの時間は出力に応じて異なるが、実質的には数秒程度とされる。液体燃料の供給量が連続的に下げられると、ガスガバナ44によるガス燃料の調速制御の作用により、エンジン1の目標となる回転速度を維持するようにガス燃料の供給量が増加する。結果的に、エンジン1の回転速度に大きな影響を与えずに、アシストモードAsからガスモードGへの復帰が実施される。
【0075】
ここで、ガスモードGへ復帰する前のアシストモードAsでは、ガス燃料が所定量供給されているため、ガスモードGへ復帰するステップを開始する時点で即座にガス燃料の供給量の調速制御を開始することができる。一般に、ガス燃料の供給をゼロから開始する場合には立ち上りが不安定で安定した制御を行うのに時間を要する。しかし、このアシストモードAsでは、すでに所定値の供給量でガス燃料が継続して供給されているため、速やかにガス燃料の調速制御を開始することができ、開始後の調速制御の追従性も高くなる。
よって、出力に応じて異なるものの、アシストモードAsからガスモードGへの移行において、実質的な液体燃料の供給停止を数秒で行うことが可能である。
【0076】
次に本実施形態による船舶推進用の4ストロークデュアルフューエルのエンジン1の運転方法を説明する。
エンジン1の始動時に、ディーゼルモードDで起動してガスモードGに移行させる。ガスモードGでは、定常的には舶用三乗特性線上で運転される。制御部22において、ガスガバナ44でガス燃料の供給量の調速制御を行い、
図13において、舶用三乗特性線に対してある程度出力のずれがあっても、アシスト・オンラインに到達しない場合には、ガスモードGにおいて回転速度と出力の制御が行われて定常運転される。ガスモードGでは、ガス燃料のみを燃料として用いて点火プラグで点火を行う運転様式、または、熱源の大部分を占めるガス燃料の点火に少量の液体燃料(パイロット油)の噴射を用いる運転様式のいずれかで運転される。少量の液体燃料を含む運転様式の場合、液体燃料の割合は、通常、定格出力の熱量対比で全熱量の1%〜10%程度であるが、排出ガスに対する環境規制を達成する観点から3%以下であることが望ましい。
【0077】
ガスモードGの運転において、エンジンの出力(負荷)をクランク軸2に設けた回転速度センサ20とトルクセンサ21によって検知する。回転速度センサ20ではクランク軸2の回転速度(回転数)を計測し、トルクセンサ21ではエンジントルクを計測する。回転速度センサ20とトルクセンサ21で計測した測定データはエンジン1の制御部22にそれぞれ信号出力する。
制御部22では、回転速度センサ20とトルクセンサ21等からの信号に基づいてエンジン1の運転状態の出力を検出する。エンジン1の加減速や海の荒れ等で出力(負荷)が上昇して、出力(負荷)が予め設定されたアシスト・オンラインを超えた場合、ガスモードGからアシストモードAsに移行する(
図14参照)。
【0078】
ガスモードGからアシストモードAsへの移行時において、ガスガバナ44によるガス燃料の調速制御が終了してガバナ指令値が急速に降下してガス燃料の供給量が所定値に低下すると同時に、ディーゼルガバナ48で液体燃料の供給量の調速制御が開始される。ガス燃料の供給量の低下は例えば1秒以内とごく短時間で行われる。同時にディーゼルガバナDによる調速制御により、目標となるエンジンの回転速度を維持するように液体燃料の供給量が増加する。その結果、エンジンの回転速度に大きな影響を与えないでガスモードGからアシストモードAsに短時間で移行する。これにより、ガスモードGにおけるノッキングや失火を未然に回避できる。
なお、アシストモードAsでの運転は一定割合の液体燃料を使用するため環境対策の側面から必要最小限の時間だけ運転するものとし、アシストモードAsが必要でなくなった時点で迅速にガスモードに復帰させる。
【0079】
アシストモードAsにおけるエンジン1の出力(負荷)が低下して、アシスト・オフライン以下になった場合、アシストモードAsを終了してガスモードGに移行させる(
図15参照)。
アシストモードAsからガスモードGに復帰する際、ディーゼルガバナ48で液体燃料の供給量の調速制御を終了すると共に、ほぼ同時にガスガバナ44によってガス燃料の供給量の調速制御を開始する。しかも、ディーゼルガバナ48は、液体燃料の供給量を例えば2段階に亘って連続的に下げ、最終的にゼロまたは極めて小さい量とする。
【0080】
液体燃料の供給量を下げる際、ディーゼルガバナ48の指令値は、第一段f1では急速に供給量を下げ、第二段f2では実質的に液体燃料を無噴射状態として比較的緩やかにガバナ指令値を下げる。液体燃料の供給量を連続的に下げる操作は、前述のアシストモード移行時にガス燃料の供給量を下げる操作と比較して長い時間、例えば数秒かけて行われる。
液体燃料の供給量が連続的に下げられると、ガスガバナ44によるガス燃料の調速制御により、エンジン1の目標となる回転速度を維持するようにガス燃料の供給量が急速に増加する。こうして、エンジン1の回転速度に大きな影響を与えずに、アシストモードAsからガスモードGへの復帰が実施される。
【0081】
しかも、アシストモードAsの段階でガス燃料が継続して所定量供給されているため、ガスモードGへ復帰する時点で即座にガス燃料の調速制御を開始できる。そのため、速やかにガス燃料の供給量の調速制御を開始でき、開始後の調速制御の追従性と安定性が高くなる。従って、アシストモードAsからガスモードGへの移行に際し、実質的なガス燃料の調速制御と液体燃料の供給停止または規制を数秒で行うことができる。
【0082】
また、ガスモードGへ復帰するステップをエンジン1の出力が下がる過程において実施することで、短時間でのガスモードへの復帰が容易となる。ガスモードへの復帰の際は、ノッキングや失火の発生が起こり得るが、エンジン1の出力が下がる過程においては、十分な空気量が確保された状態であるため適正な空燃比を維持しやすい。
しかも、エンジン1の出力が下がる過程では、調速制御上は燃料の供給を制限する方向であるため、急激なガス燃料の増加を抑制できてノッキングや失火が生じにくい。そこで、エンジン出力低下のタイミングにあわせてガスモードGへの復帰を行うことで、適正な燃焼を維持しつつ短時間でのガスモードGへの復帰を可能とする。アシストモードAsでのガス燃料の供給量は、エンジン1の出力が大きいほど大きい値となる。これにより、エンジン1の出力が大きい領域においても、アシストモードAsからガスモードGへの復帰を迅速に行うことができる。
【0083】
なお、ガスモードGによる運転では、負荷が増大してノッキングや失火の発生が予想される状況においても、ガスモードGからアシストモードAsに移行することで、エンジン1の運転を継続することができる。一方、アシストモードAsにおいては一定割合の液体燃料を使用するため、環境対策の側面からアシストモードAsでの運転は必要最小限とした。そして、アシストモードAsが必要でない状態に至ると、即座にガスモードGによる運転に復帰するようにした。
【0084】
舶用三乗特性線は、エンジン1の出力と回転速度との関係を示すものであるため、アシストモードAsへの移行、ガスモードGへの復帰の制御において、エンジン1の出力と回転速度の相互関係と連続性を踏まえた切り換えが迅速に行われることになり、出力と回転速度が複雑に変化する現実の操船状態においても適切な移行と復帰が行われる。しかも、アシストモードAsは、舶用三乗特性線よりも出力が高いトルクリッチ領域で行われるため、環境対策の面からも好適である。
【0085】
また、船舶推進用のエンジン1は定常的には概ね舶用三乗特性線上で運転されることから、アシストモードAsへの移行は必要な場合にのみ行われ、アシストモードAsの必要がなくなれば即座にガスモードGへ復帰する。そのため、本実施形態によるエンジン1及びその運転方法は、出力変動の激しいタグボートや作業船用のエンジンにおいて、より好適に使用できる。
本実施形態において、ガスモードGとディーゼルモードDでは、エンジン1の運転において制御が行われる運転パラメータ、例えば給気圧力に関する設定値、吸気弁の閉弁タイミングを変更する場合における可変吸気弁タイミング機構30の制御(VIVT指令値)の設定値、点火条件に関する設定値は、それぞれの運転モードに最適化された設定値とされる。一方、アシストモードAsでは、これら運転パラメータ、すなわち給気圧力に関する設定値、吸気弁の閉弁タイミングを変更する場合における可変吸気弁タイミング機構30の制御(VIVT指令値)の設定値、マイクロパイロット噴射弁11や点火プラグなどの点火装置の設定値、のうち少なくとも一つ以上についてガスモードGと共通の設定値が用いられる。
【0086】
上述したように本実施形態によるデュアルフューエルエンジン1とその運転方法によれば、ガスモードGからアシストモードAsへの移行が例えば1秒、アシストモードAsからガスモードGへの復帰が数秒という極めて短時間で迅速に移行制御できる。そのため、ガスモードGにおける、ノッキングや失火の発生を未然に回避できる。アシストモードAsでの運転は出力(負荷)が大幅に増加したトルクリッチ領域に限られ、液体燃料を用いるアシストモードAsの必要がなくなった場合では、迅速にガスモードGに復帰するため、環境対策の面からも優れた効果を得られる。
【0087】
なお、本発明によるエンジンは、上述した実施形態によるデュアルフューエルエンジン1とその運転方法に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能である。以下に、本発明の変形例等について説明するが、上述した実施形態で説明した部品や部材等と同一または同様なものについては同一の符号を用いて説明を省略する。