(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
双方向の無線通信における複信方式として知られる時分割複信(TDD:Time Division Duplex)方式は、送信と受信で同じ周波数を用い、時間軸上において基地局から移動局へ向けた下り通信(DL:Down Link)サブフレームと、移動局から基地局へ向けた上り通信(UL:Up Link)サブフレームとを一定間隔で交互に送受信する。
【0003】
TDD方式では、同じ周波数を時分割するため、伝搬遅延などでULサブフレームとDLサブフレームが衝突しないようにガードタイムを設ける必要がある。一般に、TDD方式ではサブフレーム長やガードタイム長を固定長で設定しているため、フレーム長は固定である。
【0004】
図4は、フレーム長を固定にした場合の送受信タイミングチャートの例である。Δτは伝播遅延時間であり、移動局と基地局間との距離に依存して変化する時間である。Tはフレーム長、T
DLはDLサブフレーム長、T
ULはULサブフレーム長である。T
SWは移動局及び基地局がそれぞれ有する各SW(スイッチ)部による送信アンテナから受信アンテナへの切替マージン時間及び受信アンテナから送信アンテナへの切替マージン時間である。T
SWは実際のSW切替時間に対して十分に余裕があるよう設定し、移動局と基地局が互いに既知とする。T
t,BSは基地局が送信処理に要する時間、T
t,MSは移動局が送信処理に要する時間である。
【0005】
基地局は送信タイミングを生成後、基地局送信処理時間T
t,BSだけ待った後に送信を開始する。基地局が送信開始後、Δτだけ経過して移動局が受信し始める。移動局は受信完了後、基地局に対して送信を開始する。移動局は送信タイミングを生成後、移動局送信処理時間T
t,MSだけ後に送信を開始する。移動局が送信開始後、同様にΔτだけ経過して基地局が受信し始める。これらの一連の送受信処理がTDD方式では繰り返される。
【0006】
ULサブフレームとDLサブフレームが衝突しないように、基地局及び移動局はフレーム長として現フレームの送信タイミングから次フレームの送信タイミングまでの時間Tをカウントして待つ必要がある。フレーム長Tを固定にすることは、特にΔτが短い場合において伝送効率の低下に繋がる。そのため、伝搬距離が時々刻々と変動する移動伝送では、フレーム長を適応的に変動させることで伝送効率を向上させるTDD方式が提案されている。
【0007】
従来技術として、例えば、特許文献1には、受信信号からフレーム先頭を検出し、送信タイミング調整時間を算出することで、伝搬距離に応じた必要最小限のガードタイムとなるように、フレーム長を適応的に可変させながら送信タイミングの制御を行う発明が開示されている。
【0008】
図5は、フレーム長を可変にした場合の送受信タイミングチャートの例である。T
BS(n)は基地局側のn番目のフレーム長、T
MS(n)は移動局側のn番目のフレーム長を示している。T
r,BSは基地局が同期処理に要する時間、T
r,MSは移動局が同期処理に要する時間、T
w,BSは基地局が受信タイミングから次フレームの送信タイミングまでカウントする時間、T
w,MSは移動局が受信タイミングから次フレームの送信タイミングまでカウントする時間である。
【0009】
フレーム長を固定にした場合と同様の繰り返しの送受信処理の中で、移動局は、受信タイミングから次フレームの送信タイミングまでの時間T
w,MSをカウントし、送信タイミンを生成する。移動局は送信タイミングを生成後、移動局送信処理時間T
t,MSだけ後に送信を開始する。移動局が送信開始後、同様にΔτだけ経過して基地局が受信し始める。同様に基地局は、受信タイミングから次フレームの送信タイミングまでの時間T
w,BSをカウントし、送信タイミングを生成する。基地局は送信タイミングを生成後、基地局送信処理時間T
t,BSだけ後に送信を開始する。このとき、T
w,BSとT
w,MSは固定長であるため、繰り返しの送受信処理において伝搬遅延時間Δτに応じて、T
BS(n)とT
MS(n)は適応的に可変となることから、伝送効率を向上させることが可能である。
【0010】
ところで、例えば、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重方式)信号を用いたシステムでは、受信側は時間軸上の受信信号に対してFFT(Fast Fourier Transform)演算処理を行うことにより、周波数軸上の信号に変換を行う。FFT演算処理を行うには、有効シンボルに付加されているガードインターバル信号を含む当該シンボル内の信号を、予め設定されているFFTポイント数分だけ取り込み、演算を行う。シンボルの先頭の検出には、ガードインターバルの自己相関やプリアンブル信号を利用して求めた相互相関を用いる。上記相関演算で受信信号に含まれる最も大きい送信信号成分のピーク値と、当該ピークの位置を検出し、それらを基準にしてFFT窓(FFT処理の対象となるデータの取り込み区間)を設定することが必要となる。
【0011】
上記相関演算を用いて受信タイミングを検出する際、移動伝送ではシャドウイング等の要因で瞬時的に相関演算のピーク値が雑音レベルに埋もれることや、マルチパスフェージングによって先行波より遅延波の相関値が高くなることが生じるため、適切な受信タイミングを検出できない場合が生じる。このような場合にピーク位置を補間し、受信タイミングを再現することでTDD方式の安定性を高める技術(以下、相関位置保護と呼ぶ)が知られている。相関位置保護では、例えば、前フレームのピーク位置に基づいて、受信タイミングを決定する。フレーム間の伝搬遅延の変動が緩やかであれば、前フレームで検出した受信タイミングを用いて現フレームの受信タイミングを補間しても影響は少ない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明に係る無線通信システムの概要について説明する。本発明に係る無線通信システムは、移動局と基地局の間でTDD方式の双方向通信を行うシステムである。以下の説明では、基地局が本発明に係る第1の無線通信装置に対応し、移動局が本発明に係る第2の無線通信装置に対応する。
【0021】
移動局では、自己相関や相互相関の演算結果に基づいて、現在のフレームにおける受信信号の受信タイミングの検出を行う。次いで、検出した受信タイミングと過去のフレームにおいて検出した受信タイミングを用いて平均値を求めることで、現在のフレームの受信タイミングを算出する。次いで、前回のフレームで受信した、基地局側で算出されたフレーム周期情報の復号結果を用いて、現在のフレームの受信タイミングの補正を行う。現在のフレームにおける受信信号の復号結果から得られるフレーム周期情報は、バッファメモリに格納しておき、次回のフレームにおいて受信タイミングの補正に用いる。フレーム周期情報に伝送エラーが生じた場合は、そのフレーム周期情報の格納は行わない。その後、従来技術と同様に、相関位置保護を行った受信タイミングから次の送信タイミングまでの移動局送信処理時間をカウントし、フレームの送信タイミングを算出する。移動局は、得られた送信タイミングで、基地局に送信を開始する。
【0022】
フレーム周期情報としては、例えば、基地局で現フレームの送信タイミングから受信タイミングまでに計上されるカウント値や、任意の伝播遅延時に計上されるカウンタ値を基準値として用意しておき、現フレームの送信タイミングから受信タイミングまでに計上されるカウンタ値と基準値との差分などが挙げられる。
【0023】
基地局では、自己相関や相互相関の演算結果に基づいて、現在のフレームにおける受信信号の受信タイミングの検出を行う。次いで、基地局の送信タイミングから検出した受信タイミングまでの時間をカウントし、過去のフレームにおいて同様にカウントした値との平均値を算出する。そして、基地局の送信タイミングからのカウント値が平均値に達したタイミングを、現在のフレームの受信タイミングとする。基地局は、得られた受信タイミングで、移動局からの受信信号の復号処理を行う。
【0024】
また、基地局では、送信タイミングから相関位置保護を行った受信タイミングまでの時間をカウントし、そのカウント値から伝搬遅延時間を算出する。そして、伝搬遅延時間から算出されるフレーム長を用いて、次回のフレームの送信タイミングを算出する。また、伝搬遅延時間を考慮したフレーム周期情報をFB(Feed Back)情報として、基地局側で算出したフレーム周期情報を得られた送信タイミングで、移動局に送信を開始する。
【0025】
以上のような処理を行うことで、TDD伝送において、移動局と基地局が共に相関位置保護と適応的なフレーム長の制御を両立させることが可能となる。また、更なる効果として、FB情報に瞬時的に伝送エラーが生じてフレーム周期情報を正常に受信できなくても、過去のフレーム周期情報を用いることにより、受信タイミングの補正をすることが可能となる。また、フレーム周期情報として装置に依存しない情報のみを用いるので、移動局と基地局が異なる製造会社の装置であっても、本発明は有効である。したがって、本発明によれば、受信信号品質の劣化や信号同期の破綻を回避しながら、高い伝送効率のTDD方式の通信を実現することが可能である。
【0026】
以下、本発明に係る無線通信システムの実施例について、
図1、
図2を参照して説明する。
図1、
図2には、本例の無線通信システムにおける移動局及び基地局の構成例を示してある。本例の無線通信システムは、基地局と移動局がFBループを成して互いにTDD方式の双方向通信を行なうシステムであり、移動局と基地局が共に送受信制御部を備える。以下、OFDM変調された信号を送受信する伝送システムにおいて説明を行うが、シングルキャリア変調においても本発明は適用可能である。
【0027】
図1に示す移動局は、アンテナ104を有しており、アンテナ104がSW(スイッチ)部103に接続されている。SW部103は、TDD方式を採用する伝送システムにおいて、送信を行う際には送信回路とアンテナ104を接続し、受信を行う際には受信回路とアンテナ104を接続するように切り替える。
【0028】
移動局は、送信RF部102、受信RF部105、及びSW部103を有する送受信RF(Radio Frequency)部と、送信データバッファ100、送信処理部101、信号同期部106、相関位置保護部107、周期情報バッファ108、受信処理部109、及び送信タイミング生成部110を有する送受信制御部と、を備えている。
【0029】
図2に示す基地局は、アンテナ111を有しており、アンテナ111がSW部112に接続されている。SW部112は、TDD方式を採用する伝送システムにおいて、受信を行う際には受信回路とアンテナ111を接続し、送信を行う際には送信回路とアンテナ111を接続するように切り替える。
【0030】
基地局は、送信RF部121、受信RF部113、及びSW部112を有する送受信RF部と、信号同期部114、相関位置保護部115、受信処理部116、伝搬遅延カウンタ117、送信タイミング生成部118、FBフレーム生成部119、及び送信処理部120を有する送受信制御部と、を備えている。
【0031】
基地局の送受信制御部は、移動局からの受信信号に基づいて、送信タイミング生成部118で後述のTDDサブフレームの先頭を示すフレーム送信タイミングパルスの生成やフレーム周期情報を生成し、FBフレーム生成部119、相関位置保護部115及び伝搬遅延カウンタ117に出力する。
【0032】
FBフレーム生成部119は、フレーム周期情報を移動局と事前に取り決めたフレームフォーマットでFBフレームに格納し、送信処理部120へ出力する。
【0033】
送信処理部120は、マッピング処理部、プリアンブル付加部、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)演算部やガードインターバル付加部を備え、FBフレーム生成部119から入力されたデータに対して、マッピング、プリアンブル信号付加、周波数軸信号から時間軸信号への変換、ガードインターバル付加に関する処理を施し、送信RF部121へ出力する。
【0034】
送信RF部121は、送信処理部120から入力された信号に対して、D/A(Digital to Analog)変換、BB(Base Band)帯からRF帯へのアップコンバージョン等を行ってSW部112へ出力し、SW部112によって送信回路とアンテナ111が接続されてアンテナ111より送信信号として出力される。
【0035】
基地局から送信された無線信号は、移動局内のアンテナ104で受信され、その受信信号がSW部103へ出力され、SW部103によってアンテナ104と受信回路が接続されて送受信制御部内の受信RF部105へ出力される。
【0036】
受信RF部105は、受信信号に対して、RF帯からBB帯へのダウンコンバージョン、A/D(Analog to Digital)変換などの処理を施し、その受信信号を信号同期部106へ出力する。
【0037】
信号同期部106は、受信RF部105からの入力信号に対して、ガードインターバルの自己相関演算やプリアンブル信号による相互相関演算の結果に基づいて、n番目のフレームにおける受信信号の受信タイミングt
MS,nの検出を行う。受信タイミングは、マルチパスフェージングの影響により、必ずしも受信信号に含まれる最も大きい送信信号成分のピーク値とは限らない。従って、任意の相関閾値以上が得られる先頭の相関位置をピーク位置として受信タイミングを検出する。信号同期部106は、受信タイミングを検出した受信信号を相関位置保護部107へ出力する。
【0038】
相関位置保護部107は、検出した受信タイミングt
MS,nと過去のフレームにおいて検出した受信タイミングを用いて平均値を算出し、n番目のフレームの受信タイミングt ̄
MS,nを生成する。n番目のフレームの受信タイミングt ̄
MS,nは、下記(式1)で表される。
【0040】
相関位置保護部107は更に、後述するn−1番目のフレームで受信したFB情報に含まれる、基地局側で算出されたフレーム周期情報ΔT
f,n-1の復号結果を用いて、検出した受信タイミングの補正を行う。
受信タイミングの補正方法としては、例えば、伝播遅延時間の変動は十分に少ないと仮定し、前フレームのフレーム周期情報を用いて、前フレームの受信タイミングと同じ受信タイミングを生成する方法が挙げられる。また、周期情報バッファ108に格納した過去のフレーム周期情報から外挿による補間処理を行い、現フレームの受信タイミングを推定する方法も挙げられる。
フレーム周期情報ΔT
f,n-1は、下記(式2)で表される。T
DL及びT
SWは移動局と基地局共に既知の情報である。
【0042】
T
DL、T
SWは、移動局及び基地局ともに既知の情報である。従って、値の増減は伝播遅延時間Δτのみに依存しているため、例えば、伝播遅延のないフレーム長を基準値として設けておき、その差分を用いて受信タイミングの補正を行うことで伝播遅延に適応した受信タイミングが得られる。
補正後の受信タイミングt' ̄
MS,nは、フレーム周期情報ΔT
f,n-1とその基準値情報ηを用いて、一例として、下記(式3)で表される。
【0044】
n番目のフレームにおける移動局の受信信号の復号結果から得られるフレーム周期情報ΔT
f,nは、周期情報バッファ108に格納しておき、次フレームにおいて受信タイミングの補正に用いる。フレーム周期情報に伝送エラーが生じた場合は、n番目のフレームのフレーム周期情報の格納は行わない。
【0045】
相関位置保護部107は、上記のような相関位置保護による補正後の受信タイミングを示すフレーム受信タイミングパルスや受信信号を受信処理部109に出力する。
受信処理部109は、ガードインターバル除去部、FFT演算部やデマッピング処理部を備え、相関位置保護部107からの入力信号に対して、受信信号のガードインターバル除去やFFTによる時間軸信号から周波数軸信号への変換を行い、受信データをデマッピング処理する。また、FB情報から得られたフレーム受信タイミングパルス及びフレーム周期情報を送信タイミング生成部118及び周期情報バッファ108に出力する。
【0046】
送信タイミング生成部118は、フレーム受信タイミングパルスに基づいて、相関位置保護を行った受信タイミングから次のフレームの送信タイミングまでの移動局送信処理時間T
w,MSをカウントし、次のフレームの送信タイミングを示すフレーム送信タイミングパルスを生成する。相関位置保護を行った受信タイミングから固定の遅延時間経過後にフレーム送信タイミングパルスが生成され、送信データバッファ100に出力される。
【0047】
送信データバッファ100は、フレーム送信タイミングパルスに基づいて、バッファ内の送信データを送信処理部101に出力する。
【0048】
送信処理部101は、マッピング処理部、プリアンブル付加部、IFFT演算部やガードインターバル付加部を備え、送信データバッファ100から入力されたデータに対して、マッピング、プリアンブル信号付加、周波数軸信号から時間軸信号への変換、ガードインターバル付加に関する処理を施し、送信RF部102へ出力する。
【0049】
送信RF部102は、送信処理部101から入力された信号に対して、D/A変換、BB帯からRF帯へのアップコンバージョン等を行ってSW部103へ出力し、SW部103によってアンテナ104と送信回路が接続されてアンテナ104より送信信号として出力される。
【0050】
移動局から送信された無線信号は、基地局内のアンテナ111で受信され、その受信信号がSW部112へ出力され、SW部112によってアンテナ111と受信回路が接続されて送受信制御部内の受信RF部113へ出力される。
【0051】
受信RF部113は、受信信号に対して、RF帯からBB帯へのダウンコンバージョン、A/D変換などの処理を施し、その受信信号を信号同期部114へ出力する。
【0052】
信号同期部114は、受信RF部113からの入力信号に対して、信号同期部106と同様にガードインターバルの自己相関演算やプリアンブル信号による相互相関演算の結果に基づいて、n番目のフレームにおける受信信号の受信タイミングt
BS,nの検出を行う。信号同期部114は、受信タイミングを検出した受信信号を相関位置保護部115へ出力する。
【0053】
相関位置保護部115は、基地局の送信タイミングから検出した受信タイミングt
BS,nまでの時間ΔT
c,nをカウントし、過去のフレームにおいて同様にカウントした値との平均値ΔT ̄
c,nを算出する。ΔT ̄
c,nは、下記(式4)で表される。
【0055】
相関位置保護部115は、基地局の送信タイミングからのカウント値がΔT ̄
c,nに達したら、n番目のフレームの受信タイミングt' ̄
BS,nを生成する。受信タイミングt' ̄
BS,nは、下記(式5)で表される。ここで、t
txBS,nは、n番目のフレームの送信タイミングを示している。
【0057】
相関位置保護部115は、上記のような相関位置保護による補正後の受信タイミングt' ̄
BS,nを示すフレーム受信タイミングパルスを伝搬遅延カウンタ117に出力すると共に、受信信号を受信処理部116に出力する。
【0058】
受信処理部116は、ガードインターバル除去部、FFT演算部やデマッピング処理部を備え、相関位置保護部115からの入力信号に対して、受信信号のガードインターバル除去やFFTによる時間軸信号から周波数軸信号への変換やチャネル推定を行い、受信データをデマッピング処理する。
【0059】
伝搬遅延カウンタ117は、送信タイミング生成部118からのフレーム送信タイミングパルスに基づいてクロックによるカウントを開始し、相関位置保護部115からのフレーム受信タイミングパルスに基づいてカウントを終了する。これにより、伝搬遅延時間Δτを含んだ伝搬に要する時間ΔT
c,nをカウントできる。伝搬遅延カウンタ117は、カウンタ情報を送信タイミング生成部118に出力する。
【0060】
送信タイミング生成部118は、伝搬遅延カウンタ110からのカウンタ情報に基づいて、TDDサブフレームの先頭(次のフレームの送信タイミング)を示すフレーム送信タイミングパルスと移動局に送信するフレーム周期情報を生成し、FBフレーム生成部119、相関位置保護部115及び伝搬遅延カウンタ117に出力する。
【0061】
送信タイミング生成部118では、送信タイミングパルスが立ち上がった時にカウンタを回していき、カウント数が後述する伝播遅延時間Δτ
nを用いて算出したフレーム長になった段階で再度、送信タイミングパルスが立ち上がるように設計することで伝播遅延に適応した送信タイミングを生成できる。従って、n番目のフレームにおけるフレーム長T
BS(n)は、下記(式6)で表される。
【0063】
FBフレーム生成部119は、フレーム周期情報を移動局と事前に取り決めたフレームフォーマットでFBフレームに格納し、送信処理部120へ出力する。これにより、フレーム周期情報を含む信号が、基地局から移動局にフィードバックされることになる。
【0064】
図3には、本例の無線通信システムによる送受信タイミングチャートの例を示してある。
図3より、n番目のフレームにおける基地局の送信タイミングから受信タイミングまでのカウンタ値ΔT
c,nは、下記(式7)で表される。カウント値ΔT
c,nは、n番目のフレームのフレーム長に相当する。また、下記(式7)は、下記(式8)に変形できる。
【0067】
T
t,BSは基地局がDLサブフレームを送信するのに必要な送信処理時間であり、事前に設計段階で知る事が可能である。Δτ
nは伝播遅延時間であり、移動局と基地局間との距離に依存して変化する時間である。T
DLはDLサブフレーム長である。T
SWは各SW部の送信アンテナから受信アンテナへの切替マージン時間及び受信アンテナから送信アンテナへの切替マージン時間である。T
SWは実際のSW切替時間に対して十分に余裕があるよう設定し、移動局と基地局が互いに既知とする。T
r,BSは基地局がULサブフレームを受信してから相関保護位置部115で同期検出されるまでの処理遅延時間であり、事前に設計段階で知る事が可能である。
【0068】
上記(式7)より得られたカウンタ値ΔT
c,nを用いて、制御に必要なフレーム周期情報ΔT
f,nは、下記(式9)で算出される。
【数9】
【0069】
T
t,BSとT
r,BSは事前に設計段階で知る事ができる情報であるため、カウンタ値ΔT
cから減算した情報をフレーム周期情報ΔT
f,nとして送信することで、移動局側は基地局側の情報を知らずともタイミング制御することが可能となる。基地局は、上記(式9)より得られたフレーム周期情報ΔT
f,nを移動局にFB伝送する。
【0070】
上述した一連の送信処理及び受信処理により、基地局が送信開始可能になると基地局から信号が送信され、送信された信号が移動局で受信され、移動局が送信開始可能になると移動局から信号が送信されるという処理が、時間軸上で繰り替えし実行される。
【0071】
以上のように、本例の基地局は、移動局からの信号の受信タイミングを検出する信号同期部114と、移動局への信号の送信動作を開始した送信タイミングから信号同期部114により検出された受信タイミングまでの時間に基づいて、信号同期部114により検出された受信タイミングを補正する相関位置保護部115と、相関位置保護部115による補正後の受信タイミングに基づいて、移動局への次の信号の送信動作を開始する送信タイミングを生成する送信タイミング生成部118と、相関位置保護部115による補正量を示すフレーム周期情報を生成するFBフレーム生成部119と、送信タイミング生成部118による送信タイミングの生成に応じて、FBフレーム生成部119により生成されたフレーム周期情報を含む信号を移動局に送信する送信処理部120とを備えている。
【0072】
また、本例の移動局は、基地局からの信号の受信タイミングを検出する信号同期部106と、基地局から受信した信号に含まれるフレーム周期情報を記憶する周期情報バッファ108と、周期情報バッファ108に記憶されているフレーム周期情報に基づいて、信号同期部106により検出された受信タイミングを補正する相関位置保護部107と、相関位置保護部107による補正後の受信タイミングに基づいて、基地局への次の信号の送信動作を開始する送信タイミングを生成する送信タイミング生成部109と、送信タイミング生成部109による送信タイミングの生成に応じて、次の信号を基地局に送信する送信処理部101とを備えている。
【0073】
このような構成により、相関位置保護と適応的なフレーム長の制御を両立させて伝送効率を向上させるTDD方式の無線通信システムにおいて、受信信号品質の劣化や信号同期の破綻を回避することが可能となる。
【0074】
ここで、上記実施例の説明では、フレーム周期情報を上記(式9)で求めたが、上記(式7)で求めたカウンタ値ΔT
c,nもしくはそれに準ずる情報をフレーム周期情報としてFB伝送しても良い。例えば、任意の伝搬遅延時に計上されるカウンタ値を基準値として用意しておき、現フレームの送信タイミングから受信タイミングまでに計上されるカウンタ値と基準値の差分値情報などが挙げられる。差分値情報をフレーム周期情報として用いた場合、FB伝送に必要な情報量が少なくなるという利点がある。
【0075】
また、上記実施例の説明では、相関位置保護部107で、信号同期部114においてピーク位置が取得できていればそのピーク位置を使用すると説明したが、前フレームまでのピーク位置を用いて平均化処理や補間処理などを施しても良い。
【0076】
また、上記実施例の説明では、移動局から基地局へのUL通信及び基地局から移動局へのDL通信に関してSISO(Single Input Single Output)伝送を前提に説明したが、SIMO(Single Input Multiple Output)伝送、MISO(Multiple Input Single Output)伝送、MIMO(Multiple Input Multiple Output)を用いても良い。
【0077】
また、上記実施例の説明では、基地局がフレーム周期情報を生成し、マスターとして制御を司っていたが、移動局がフレーム周期情報を生成し、マスターとして制御を司っても良い。すなわち、移動局を本発明に係る第1の無線通信装置として動作させ、基地局を本発明に係る第2の無線通信装置として動作させてもよい。
【0078】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は、ここに記載された無線通信システムに限定されるものではなく、上記以外の無線通信システムに広く適用することができることは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、本発明に係る処理を実行する方法や方式、そのような方法や方式を実現するためのプログラム、そのプログラムを記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0079】
この出願は、2018年9月20日に出願された日本出願特願2018−175753を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。