(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843326
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】縫針、縫針の製造方法及び縫製方法
(51)【国際特許分類】
D05B 85/00 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
D05B85/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-96728(P2016-96728)
(22)【出願日】2016年5月13日
(65)【公開番号】特開2017-202215(P2017-202215A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104021
【氏名又は名称】オルガン針株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157912
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 健
(74)【代理人】
【識別番号】100074918
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬川 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輝明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 潤一
【審査官】
住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭39−002157(JP,Y1)
【文献】
特開2014−008097(JP,A)
【文献】
特開昭55−107566(JP,A)
【文献】
実開平01−161289(JP,U)
【文献】
米国特許第03469548(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第03531464(DE,A1)
【文献】
特開昭49−27356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B1/00−97/12
B21G1/02
A61B17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンに取り付けて使用される縫針であって、
円錐の先端を斜めに切り取った形状の針先を備え、この針先に前記円錐の中心線に対して傾斜する平坦面が形成されており、
前記円錐の中心線と前記平坦面とで形成される鋭角の角度が、前記円錐の中心線と前記円錐のテーパ面とで形成される鋭角の角度よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする、縫針。
【請求項2】
前記縫針の先端は、前記円錐の中心線に対して偏心した位置にあることを特徴とする、請求項1記載の縫針。
【請求項3】
ミシンに取り付けて使用される縫針において、
円錐形状に形成した縫針の先端を斜めに切削することで、前記円錐の中心線に対して傾斜する平坦面を針先に形成し、
前記円錐の中心線と前記平坦面とで形成される鋭角の角度が、前記円錐の中心線と前記円錐のテーパ面とで形成される鋭角の角度よりも大きくなるように形成したことを特徴とする、縫針の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、先端形状に特徴を有する縫針に関する。
【背景技術】
【0002】
縫製対象物に対して縫針を斜めに入れて縫製する場合がある。例えば、特許文献1(特に第3実施形態や第4実施形態)に記載されているように、まっすぐな縫針を使用して畳を返し縫いするときには、縫製対象物である畳に対して縫針が斜めに入ることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3369476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したような畳縫製では、ボードと呼ばれる内装材を何枚か重ねて畳表で覆ったものに縫針を貫通させて縫う必要がある。このため、縫針は、縫製対象物を貫通しやすく、かつ、縫製対象物に食いつきやすくする必要がある。
【0005】
しかしながら、縫針にまっすぐな針を使用した場合、針先が縫製対象物に食いつかず、針先が縫製対象物の表面を滑る(いわゆる針流れが生じる)場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、縫製対象物に対して縫針を斜めに入れて縫製する場合でも、針流れが生じにくい縫針を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、以下を特徴とする。
【0008】
請求項1記載の発明は、ミシンに取り付けて使用される縫針であって、円錐の先端を斜めに切り取った形状の針先を備え、この針先に前記円錐の中心線に対して傾斜する平坦面が形成されており、前記円錐の中心線と前記平坦面とで形成される
鋭角の角度が、前記円錐の中心線と前記円錐のテーパ面とで形成される
鋭角の角度よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、上記した請求項1に記載の発明の特徴点に加え、前記縫針の先端は、前記円錐の中心線に対して偏心した位置にあることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、ミシンに取り付けて使用される縫針において、円錐形状に形成した縫針の先端を斜めに切削することで、前記円錐の中心線に対して傾斜する平坦面を針先に形成し、前記円錐の中心線と前記平坦面とで形成される
鋭角の角度が、前記円錐の中心線と前記円錐のテーパ面とで形成される
鋭角の角度よりも大きくなるように形成したことを特徴とする。
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記の通りであり、縫針は、円錐の先端を斜めに切り取った形状の針先を備え、この針先に円錐の中心線に対して傾斜する平坦面が形成されている。このような縫針を使用すれば、平坦面を利用して針先が縫製対象物に食いつきやすくすることができる。
【0013】
また、この縫針は、通常の製造工程で製造される針の先端を斜めに切削するだけで製造できるので、加工が容易であり、安価に製造することができる。
【0014】
なお、円錐のテーパ角度に対して平坦面が角度をつけ過ぎると、食いつきは良くなるものの、貫通性能が低下したり、針穴跡が大きくなったりするという問題がある。このため、平坦面の角度や大きさは、縫製対象物の角度や硬さ等の条件を考慮して設定する必要がある。この点、本発明の縫針によれば、様々な設定の縫針が容易に製造できるので、平坦面の角度や大きさを容易に調整することができる。よって、針流れを防止するとともに、貫通力を維持し、針穴跡を目立たなくした縫針を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】縫針の針先を拡大した図であって、(a)正面図、(b)平面図、(c)側面図である。
【
図2】縫針を畳縫製に使用したときの概略図である。
【
図3】(a)縫針と縫製対象物との関係を示す図、(b)偏心していない縫針と縫製対象物との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態に係る縫針10は、真っすぐに形成されて、縫製対象物20に対して針を斜めに入れるような縫製に適したものであり、ミシン30によって往復動させられて使用される。この縫針10は、
図1に示すように、縫製対象物20に挿入される棒状の針幹部13と、この針幹部13の先端側に形成された針先部14と、を備えている。なお、特に図示しないが、針幹部13の反先端側には柄部が設けられており、この柄部をミシン30の針支持部31に取り付けることで、縫針10がミシン30に固定されて使用される(
図2参照)。また、針幹部13には、縫製に使用する糸を通すための針穴や、針穴に糸を導くための糸溝が形成されている。
【0018】
この縫針10の針先部14は、
図1に示すように、円錐の先端を斜めに切り取った形状となっている。詳しくは、
図4に示すように、針幹部13の断面中心を結んだ縫針10の中心線Xを想定したときに、この中心線X上に頂点を有する円錐形状の一部である円錐部15と、この円錐部15の頂点部分を所定の平面で切断したときに形成される平坦面16と、が針先部14に形成されている。なお、本実施形態においては、円錐部15を完全な円錐形状の一部としているが、円錐部15を形成する円錐形状は完全な円錐でなくてもよい。円錐部15は、円錐状に先細りの形状であればよく、例えば、砲弾形状としてもよいし、底面に相当する断面が楕円形状であってもよい。
【0019】
なお、平坦面16が縫針10の中心線Xに対して傾斜しているため、平坦面16は先端方向に先細りとなっており、最も先端側が縫針10の針先端11となっている。この針先端11は、
図4に示すように、縫針10の中心線Xに対して偏心した位置に形成されている。このように縫針10の針先端11が縫針10の中心線Xに対して偏心することで、針先端11に最も近い側(
図4における左側)と針先端11に最も遠い側(
図4における右側)とで、針先端11へ向かう傾斜角度が異なるように形成されている。
【0020】
具体的には、針先端11に最も近い側においては、円錐部15のテーパ面が針先端11まで延びているため、このテーパ面によって針先端11へ向かう傾斜角度が決定されている。この傾斜角度を、中心線Xと円錐部15のテーパ面とで形成される角度Aとする。また、針先端11に最も遠い側においては、平坦面16が設けられているため、この平坦面16によって針先端11へ向かう傾斜角度が決定されている。この傾斜角度を、中心線Xと平坦面16とで形成される角度Bとする。このとき、角度A<角度Bの関係が成り立つように形成されている。
【0021】
なお、詳しくは後述するが、角度Bを大きくすれば針滑りは起きにくくなるものの、針穴跡が大きくなり、また、縫製対象物20を貫通しにくくなってしまう。よって、角度Bは針滑りの改善と、針穴跡の縮小及び貫通力の確保とをバランスする適切な値とする必要がある。バランスの良い角度Bの値は縫製対象物20や縫針10の太さ等によっても変動するが、角度Bは25〜50度の範囲であることが望ましい。また、角度Aとの比較で言えば、角度Bは角度Aの2〜20倍の範囲であることが望ましい。また、十分な貫通力を得るためには、縫針10の針先端11の角度(角度A+角度Bの値)は、20〜60度の範囲であることが望ましく、30〜45度の範囲であることが更に望ましい。
【0022】
また、縫製対象物20へのダメージを考慮すると、中心線X方向へ見たときの平坦面16の長さも重要となる。平坦面16の長さを長くすれば針滑りは起きにくくなるものの、針穴跡が大きくなってしまうためである。ここで、
図4に示すように、中心線X方向へ見たときの平坦面16の長さをL1、中心線X方向へ見たときの円錐部15の長さをL2とすると、L1≦L2の関係が成り立つ。L1の値は、L2の50%以下が望ましく、L2の20〜40%の範囲であることが更に望ましい。
【0023】
この縫針10を製造するときには、まず、公知の方法により先端が偏心していない針を作成する。すなわち、円錐部15の先端が縫針10の先端となるような針を作成する。その後、この円錐部15の先端を斜めに切削することで、縫針10の中心線Xに対して傾斜する平坦面16を針先部14に形成する。
【0024】
なお、本実施形態においては、この平坦面16にめっき加工(例えば無電解Niめっき)が施されている。このように切削面にめっき加工を施すことで、針先部14に物が付着しにくくなっている。このため、例えば縫針10を畳縫製に使用した場合、木製の粉末を固めて形成したボードを貫通させたときに、ボードの成分が縫針10に付着することを防止できる。
【0025】
図2は、この縫針10を使用した縫製方法について説明する図である。この
図2で示すように、縫針10はミシン30の針支持部31に装着されて使用される。ミシン30は、縫針10を装着した針支持部31を往復動させるための駆動部32を備えている。駆動部32が作動すると、縫針10が往復動し、これによって縫製対象物20の縫製が行われる。このとき、縫製対象物20はミシン30に対して斜めに固定されている。
図2においては、縫製対象物20である畳をミシン30に対して斜めに固定し、畳の縁が縫針10の針先端11に臨むように配置されている。このような状態でミシン30を作動させると、
図3(a)に示すように、縫製対象物20に対して縫針10が斜めに入る。このとき、縫製対象物20の表面21と縫針10の中心線Xとが鈍角を形成する側(
図3(a)における右側)に平坦面16が臨むように縫針10が取り付けられている。このように縫針10を配置して使用することで、針流れを有効に防止することができる。
【0026】
すなわち、
図3(b)に示すように従来の縫針10'を使用した場合、針先部14'と縫製対象物20の表面21とで形成される最大角度θ2が鈍角に近くなるため、縫針10'を押す力が縫製対象物20の表面21に対して水平方向に働きやすくなっていた。このような力が働くことで、縫針10'が縫製対象物20の表面21を滑りやすくなっていた。また、このような従来の縫針10'を畳縫製に使用すると、重ねたボードを貫通させる必要があるため、何度もボードに縫針10'を食い付かせる必要がある。このとき、ボードを貫通するごとに上糸のテンションが増すため、縫針10'が撓んで針滑りが生じやすくなっていた。
【0027】
本実施形態に係る縫針10は、このような従来の縫針10'の問題を解消し、針滑りを有効に防止するためのものである。すなわち、
図3(a)に示すように、平坦面16が設けられることで平坦面16と縫製対象物20の表面21とで形成される角度θ1が直角に近くなっており、縫針10を押す力が縫製対象物20の表面21に対して垂直方向に働きやすくなっている。また、平坦面16が縫製対象物20の表面21に当たることで、面で縫製対象物20に当たり、摩擦が大きくなる。このため、縫針10が縫製対象物20の表面21に食いつきやすくなっており、縫針10が縫製対象物20の表面21を滑ることなく縫製対象物20を貫通するようになっている。
【0028】
ところで、従来にも先端を偏心させた針は存在するものの、先端の加工が困難であった。よって、製造コストが嵩むという問題や、縫製対象物20ごとに最適な設定の針を容易に製作できないといった問題があった。この点、本実施形態によれば、切削加工によってどのような平坦面16を形成するかが容易に変更可能である。よって、針の進入角度、縫製対象物20の硬さ、針穴跡の許容範囲などを考慮して、使用環境に適した縫針10を容易に得ることができる。
【0029】
なお、上記した実施形態においては、畳縫製に縫針10を使用する例について説明したが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、オーバーロックミシンや曲げ針用ミシンなどを使用した縫製(針が斜めに入る縫製)や、その他、貫通力が求められる縫製に、本発明の縫針10は使用可能である。
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば、縫針10は、円錐の先端を斜めに切り取った形状の針先を備え、この針先に縫針10の中心線Xに対して傾斜する平坦面16が形成されている。このような縫針10を使用すれば、平坦面16を利用して針先が縫製対象物20に食いつきやすくすることができる。
【0031】
また、この縫針10は、通常の製造工程で製造される針の先端を斜めに切削するだけで製造できるので、加工が容易であり、安価に製造することができる。
【0032】
なお、円錐のテーパ角度に対して平坦面16が角度をつけ過ぎると、食いつきは良くなるものの、貫通性能が低下したり、針穴跡が大きくなったりするという問題がある。このため、平坦面16の角度や大きさは、縫製対象物20の角度や硬さ等の条件を考慮して設定する必要がある。この点、本実施形態の縫針10によれば、様々な設定の縫針10が容易に製造できるので、平坦面16の角度や大きさを容易に調整することができる。よって、針流れを防止するとともに、貫通力を維持し、針穴跡を目立たなくした縫針10を容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0033】
10,10' 縫針
11,11' 針先端
13,13' 針幹部
14,14' 針先部
15,15' 円錐部
16 平坦面
20 縫製対象物
21 表面
30 ミシン
31 針支持部
32 駆動部
X 中心線