特許第6843330号(P6843330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6843330炭素繊維強化・改質ポリプロピレン系樹脂の発泡成形体の製造方法
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  • 特許6843330-炭素繊維強化・改質ポリプロピレン系樹脂の発泡成形体の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843330
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化・改質ポリプロピレン系樹脂の発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/32 20060101AFI20210315BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20210315BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20210315BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C08J9/32CES
   C08L23/26
   C08K7/06
   C08L63/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-85590(P2016-85590)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-186492(P2017-186492A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】599168257
【氏名又は名称】エフテックス有限会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515305566
【氏名又は名称】株式会社中屋敷技研
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 隆
(72)【発明者】
【氏名】工藤 真明
(72)【発明者】
【氏名】掛端 康成
(72)【発明者】
【氏名】高村 智美
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 幸介
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−172916(JP,A)
【文献】 特開昭59−080453(JP,A)
【文献】 特開2001−002946(JP,A)
【文献】 特開2017−075290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00−9/42
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン系樹脂100重量部、(B)ポリプロピレン系粉体樹脂1〜20重量部、(C)有機不飽和酸化合物0.1〜3重量部、(D)有機過酸化物0.01〜0.50重量部、(E)展着剤0.01〜1重量部から成る組成物を、反応押出法によりポリプロピレンの融点以上の温度で反応させ、更にこの改質ポリプロピレンと炭素繊維チョップ(F)5−50重量部とを加熱溶融し、JIS−K7210法に準拠したMFR(230℃、荷重2.16Kg)を0.5〜10g/10分とした複合材(G)を、発泡剤(H)の存在下に加熱溶融させて成形することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂の発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記の発泡剤(H)が、マイクロカプセル、化学発泡剤またはそれを包含するマスターバッチ、または炭酸ガスを含有することを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記の複合材(G)に、エポキシ系結合剤および有機金属系触媒からなる増粘剤(I)を加えて発泡剤(H)の存在下に加熱溶融させて成形することを特徴とする請求項1および請求項2のいずれか一項に記載の炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂の発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量化、高強度、リサイクル可能の炭素繊維強化・改質ポリプロピレン系樹脂の発泡成形体を製造する方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン樹脂は、五大汎用性熱可塑性樹脂の一種としてその成形加工性の良さと軽量性、機械的強度、剛性等に優れた物性を有し、繊椎、フィルム、プラスチックス等として広範囲に使用されている。特に、プラスチックス分野では、成形品がボトル、シート、容器、日用品、自動車の内装材およびバンパー、機械部品、電気・電子材料、建材、土木材、各種工業用品等に広く活用されている。
また、ポリプロピレン樹脂は、更にガラス繊維または炭素繊維を混合して熱可塑性複合材にする事に依り、機械的強度や耐熱性等の諸特性が改善され、一層高級な用途に使用されて来ている。特に、ガラス繊維が安価であるので、これで強化された複合材が大量に使用されている。一方、炭素繊維は高強度であるがあまりにも高価格であるために用途が限定されており、ABS樹脂との複合材として特殊用途に少量にしか使用されて来なかった。
近年、土木・建築、自動車産業、新幹線車両業、宇宙航空産業、リニヤーモーターカー等の先端産業分野、特に航空飛翔体(ドローン)に於いては、構成材料の機械的強度の改善による一層の軽量化・省エネルギー化をはじめ、耐食性、電気特性、耐熱性、放熱性等の一層の性能改善が求められている。
【0003】
本発明者らは、先の先行発明として特許文献1および特許文献2に示される様に、ポリエステル樹脂で末端にカルボキシル基を保有する中分子量体を反応押出法を採用し、エポキシ樹脂系結合剤(鎖延長剤とも称す)および触媒に依り、ポリエステル同士を反応させて数分以下の短時間で高分子量化する高生産性を実現し、コンパクトで安価な設備を使用する反応押出法による製造法を提供した。また、本発明者らは、特許文献3に示される様に、ポリエチレンテレフタレート(PETと略称)に回収炭素繊維・6mm長の15および30重量%をエポキシ樹脂系結合剤(鎖延長剤)および触媒の存在下に二軸押出機で反応押出法にて反応させて、回収炭素繊維強化・改質ぺっと樹脂とし、それらの機械的強度を引張強度で約2倍から2.4倍および曲げ弾性率で約4倍から6.8倍に大幅改善している。また、本発明者は、特許文献4では、ラージトウ(Large Tow:LTと略称)のPAN系レーヨンを原糸とした安価な炭素繊維チョップ(6mm長、米国ZOLTEK社製、50,000本束:50K−LT)を使用し、同様にして炭素繊維強化・改質ぺっと樹脂とし、15%および30%含有物の機械的強度を引張強度で約3倍から4倍および曲げ弾性率で約6倍から10倍に一層大幅に改善している。
これらの先行発明により、カルボキシル基を含有する熱可塑性樹脂と炭素繊維とは、極めて密着性が良くて機械的強度が大幅に改善出来ることが実証された。しかしながら、耐衝撃強度の改善は不充分であった。その原因は、従来の押出装置では、炭素繊維チョップ(6mm長)とペット樹脂の加熱、混練物として製造されたペレットにおいて、その繊維長か約0.3mm長に激減したからであった。また一方、ぺっと樹脂は、その比重1.35がポリプロピレンの比重0.90に比べると約4割も大きく重いので、高強度ではあるが軽量化には必ずしも適しないことが指摘された。
【0004】
ポリプロピレンについては、表面処理されたガラス繊維とは親和性が高いのでガラス繊維強化ポリプロピレンが以前から使用されて来た。しかしながら、ガラス繊維強化ポリプロピレンをペレットにする際に押出装置のスクリューで繊維長が1/10程度(3mm長チョップが0.3mmの残存長)にまで破砕・短縮される。従って、本来期待された機械的物性が得られなかった。
本発明者らは、ポリプロピレンを不飽和有機酸などで改質し、高強度、軽量の炭素繊碓強化・改質ポリプロピレン樹脂を開発し、先に出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】第3503952号公告
【特許文献2】国際公開WO2009/004745 A1
【特許文献3】特開2015−007212号
【特許文献4】特開2015−157939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
土木・建築、自動車産業、新幹線車両業、リニヤーモーターカー等の先端産業分野に於ける構成材料の機械的強度の改善による一層の軽量化・省エネルギー化をはじめ、耐食性、電導性、耐熱性、放熱性等の一層の性能改善をすることが求められている。本発明は、強度の不足している合成木材の強度改善による住宅屋外の構造物、高層建築の軽量化資材、沿岸高速道路の高強度・耐食資材、海洋構築物の耐食・高強度資材などの耐食資材、特に、自動車用途等の用途開発を目的とする。
現在急速に発展している産業用飛翔体(ドローン)の機体資材用として、発泡によりさらなる軽量で高強度の新素材が求められている。
【課題を解決しょうとするための手段】
【0007】
本発明は、軽量で強度の改善された炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂の発泡体の製造法を提供するものである。特に、従来のガス発泡体よりも強度が強いマイクロカブセル(MC)発泡体とする製造方法を提供するものである。
【0008】
本発明は、更に詳しくは下記の製造方法を提供するものである。
本発明は、第1に(A)ポリプロピレン系樹脂100重量部、(B)ポリプロピレン系粉体樹脂1−2 0重量部、(C)有機不飽和酸化合物0.1〜3重量部、(D)有機過酸化物0.01〜0.50重量部、(E)展着剤0.01〜1重量部から成る組成物を、反応押出法によりポリプロピレンの融点以上の温度で反応させ、更にこの改質ポリプロピレンと炭素繊維チョップ(F)5−50重量部とを加熱溶融し、JIS−K7210法に準拠したMFR(230℃、荷重2.16Kg)を0.5〜10g/10分とした複合材(G)を、発泡剤(H)の存在下に加熱溶融させて成形することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂の発泡成形体の製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明は、第2に前記の発泡剤(H)が、マイクロカプセル、化学発泡剤またはそれを包含するマスターバッチ、または炭酸ガスを含有することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂の発泡成形体の製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明は、第3に前記の複合材(G)に、エポキシ系結合剤および有機金属系触媒からなる増粘剤(I)を加えて発泡剤(H)の存在下に加熱溶融させて成形することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂の発泡成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素繊維との密着性が画期的に改善された改質ポリプロピレン系樹脂と大量生産とコストダウンが進行しているラージトウ方式の炭素繊維(ZOLTEKチョップ)とから成る複合材を使用し、高速度に高強度軽量の発泡体を成形できる。本発明による特にMC発泡成形体は、軽量で、高強度で、リサイクルも可能であるので、当面は産業用飛翔体(ドローン)、更なる将来の自動車用途の巨大市場に使用されるものと期待される。耐食性、耐熱性、伝熱性、導電性、耐油性、耐候性等の諸物性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)成分のポリプロピレン系樹脂]
本発明における主原料としての(A)成分のポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン・ホモポリマー、ポリプロピレン・エチレンブロックコポリマー、ポリプロピレン・エチレンランダムコポリマー、ポリプロピレン・エチレンスーパーランダムコポリマーまたはそれらの回収された成形品の再循環物を使用する事ができる。強度の大きい炭素繊維強化複合材を望む場合は、ポリプロピレン・ホモポリマーを選択する。耐衝撃強度の大きい炭素繊維強化複合材を望む場合は、ポリプロピレン・エチレンブロックコポリマーを選択する。本発明においては、D成分の有機過酸化物の触媒作用により、分子切断による分子量低下が起るので、主原料としては分子量が大きくMIの小さいグレードを選択することが好ましい。即ち、JIS−K7210法に準拠したMI(230℃、荷重2.16Kg)が0.5〜10g/10分であることが好ましい。中空成形グレードが好ましい、主原料につき、その配合量は、100重量部とする。
【0013】
[(B)成分のポリプロピレン系粉体樹脂]
(B)成分は、微量の(C)成分の有機不飽和酸化合物0.1〜3重量部および(D)成分の有機過酸化物0.01〜0.50重量部を均一分散させる助材としての役割を持つ。ポリプロピレン・ホモポリマー、ポリプロピレン・エチレンブロックコポリマー、ポリプロピレン・エチレンランダムコポリマー、ポリプロピレン・エチレンスーパーランダムコポリマーまたはそれらの回収された成形品の再循環物を粉体状態で使用する事ができる。MIも、0.5〜10g/10分であることが好ましい。助材につき、その配合量は、1〜20重量部とする。
【0014】
[(C)成分の有機不飽和酸化合物]
(C)成分は、無水マレイン酸およびその誘導体を使用できるが、無水マレイン酸であることが好ましい。その役割は、(D)成分の有機過酸化物がポリプロピレンを攻撃して分子鎖にラジカルを発生させた時に反応して、ポリプロピレンにカルボキシル基を賦与して止まり、本来無極性のポリプロピレンを改質することにある。その配合量は、0.1〜3重量部であり、0.2〜1重量部が好ましい。0.1重量部以下では、ポリプロピレン系樹脂の改質効果が不充分である。3重量部を越えると反応押出時に未反応物が残留すると共に揮発して人体への障害を引き起こす恐れがあるからである。
【0015】
[(D)成分の有機過酸化物]
(D)成分の有機過酸化物は、樹脂のメルトフロー改質剤、マレイン化剤およびグラフト化剤として多種類の物、例えば日油(株)のパーヘキサ・シリーズ(HC、C、22、25Bなど)、パーブチル・シリーズ(C、D、Pなど)、パークミル・シリーズ(Dなど)が使用できる。また、有機過酸化物の保管安全対策のために、効力が40%のマスターバッチをより好適に使用することができる。市販品のジクミルジパーオキサイト(Aldrich製)を好適に使用することができる。配合量は、0.01〜0.50重量部である。0.01重量部以下では、ポリプロピレン系樹脂の改質効果が不充分である。0.50重量部以上では、ポリプロピレン系樹脂の低分子量化が過剰に進行してしまう。
【0016】
[(E)成分の展着剤]
(E)成分の展着剤の役割は、微量の(C)成分の有機不飽和酸化合物の微粉0.1〜3重量部および(D)成分の有機過酸化物の微粉0.01〜0.50重量部を(B)成分のポリプロピレン系粉体樹脂の表面に均一付着させる役割を持つ。流動パラフィンが好適である。パラフィンオイル、石油ワックスなども使用できる。配合量は、0.01〜1重量部である。
【0017】
[(F)成分の炭素繊維]
本発明における(F)成分の炭素繊維は、高強度の工業製品を使用する事が好ましい。最優先候補としては、米国ZOLTEK社のラージトウ(Large Tow: フィラメント数50,000本/束)を高速焼成して量産できる安価な炭素繊維チョップ(米国・ZOLTEK社のLT‐レーヨン系炭素繊維「Panex35」6mm長)が特に好ましい。第2優先としては、東レ(株)の航空機機体用の高性能PAN系炭素繊維「トレカ」T500、T600、T700シリーズも使用できる。また、産業用途のカットファイバーのT008シリーズ、T010シリーズ、TS12−006(カット長 3−12mm)も原料として使用できる。しかしながら、このPAN系炭素繊維(Regular Tow: フィラメント数12,000−24,000本/束)は高性能ではあるが高価すぎるので、その製造法に依り将来のコストダウンが困難である。一方、「トレカ」ミルドファイバーのMLDシリーズ(繊維長 30−150μm)なども原料として使用できるが、複合材の強度は小さい。他方、一般的にこれらの炭素繊維工業製品は、カルボキシル基の含有量が比較的多く存在する。
第3優先として、(株)クレハおよび大阪ガスケミカル(株)のピッチ系炭素繊維の工業製品も使用することが出来る。これらは比較的に官能基の含有量が多いが、強度がかなり小さい。成形品の強度に等方性の利点を持つので、精密成形分野では、好ましく使用できる。
代表的な工業製品の炭素繊維の仕様を、ガラス繊維と比較して表1に示した。炭素繊維は、大量生産でコストダウン出来れば、安価なガラス繊維に比べても軽量化、高強度、リサイクル性の長所が大いに発揮出来るものと想定できる。
【0018】
【表1】
【0019】
[(H)成分の発泡剤]
発泡剤(H)は、マイクロカプセル(MC)、化学発泡剤またはそれを包含するマスターバッチ、または炭酸ガス(超臨界ガスを含む)を使用する事ができる。
マイクロカプセルは、徳山積水工業(株)のアドバンセルシリーズ(例えば、P501E2など)を使用する事ができる。また、松本油脂製薬(株)のマツモトマイクロスフェアー:F、FNシリーズ(例えば、F−190Dなど)を使用する事ができる。
【0020】
[(I)成文の増粘剤]
本発明の増粘剤は、結合剤(A剤)と結合反応触媒(B剤)とから成る、A剤の結合剤は、重量平均分子量が1,000〜300,000であることが好ましく、該分子内に2〜100個のエポキシ基を含有する高分子型多官能エポキシ化合物を単独または2種類以上の混合体として使用することができる。高分子量の骨格を形成する樹脂にエポキシ環を含むグリシジル基をペンダント状に吊下げたものや分子内にエポキシ基を含むものの市販品、例えば、日油(株)の「マープルーフ」シリーズ、BASFジャパン(株)の「ジョンクリルADR」シリーズを使用することができる。
多官能エポキシ化合物の配合量は、(A)成分のポリエステル100重量部に対して0.1〜5重量部である。それは、((B)成分の増粘効果のある炭素繊維の種類と添加量に依っても大幅に異なる。一般的には、0.1重量部未満では分子量と溶融粘度の増加効果が不充分のため、成形加工性も不充分で成形品の基本物性や機械的特性が劣ることになる。2重量部を越えると逆に成形加工性が悪化し、樹脂の黄変・着色とゲルやフィッシュアイ(FE)が副生したりする。
【0021】
[B剤の結合反応触媒]
B剤の結合反応触媒は、(1)アルカリ金属の有機酸塩、炭酸塩および炭酸水素塩、(2)アルカリ土類金属の有機酸塩、炭酸塩および炭酸水素塩からなる群から選ばれた少なくとも一種類以上を含有する触媒である。有機酸塩としては、カルボン酸塩、酢酸塩等が使用できるが、カルボン酸塩の中で特にステアリン酸塩が好ましい。カルボン酸の金属塩を形成する金属としては、リチウム、ナトリウムおよびカリウムのようなアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムのようなアルカリ土類金属を使用できる。
この結合反応触媒としてのカルボン酸塩の配合量は(A)成分のポリプロピレン100重量部に対して0.01〜1重量部である。特に、0.1〜0.5重量部であることが好ましい。0.01重量部未満では触媒効果が小さく、共重合反応が未達となって分子量が充分増大しないことがある。1重量部を超えると局部反応によるゲル生成や加水分解の促進による溶融粘度の急上昇による押出成形機内のトラブルなどを惹起させる。
【実施例】
【0022】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明のポリプロピレンおよび炭素繊維強化・改質ポリプロピレン樹脂についての評価方法は以下の通りである。
(1)メルトマスフローレート(MFR)およびメルトインデックス(MI)の測定法
JIS K7210(ISO 1133、ASTM D 1238)の条件に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。但し、樹脂は予め80℃×2時間、熱風乾燥または真空乾燥したものを使用した。熱可塑性樹脂の溶融粘度を表示する指標として、学術的および国際的用語として「MFR」が使用されている。一方、樹脂製造メーカーのカタログ値、研究所および成形加工業の製造現場ではより簡便な「MI」を採用している。温度および荷重の条件が同一の場合は、両者が同一の数値と成る故に、本発明では両用語を併用している。
(2)比重の測定法
JIS K7112のA法(水中置換法)に従い、樹脂ペレットまたは成形体の小片についてメタノールを液体として測定した。または、JIS K7222の寸法測定法でも測定した。
(3)ペレットの機械的強度の測定法
[1]試作ペレットが1Kg以下の少量の場合は小型試験片を作成して実施した。
例えば、住友重機械工業(株)製の射出成形機SE18DUZ(型締め圧18トン、スクリュー径16mm)を使用し、成形温度270℃、金型温度35℃、冷却時間15−20秒の条件で成形した。
試験片の形状:引張試験片 JIS K7162 5A型(厚み2mm)
曲げ試験片 短冊型 80mm×10mm(厚み4mm)
[2]試作ペレットが多量の場合(3Kg以上)は多目的試験片を作成して実施した。
試験片の形状:ISO 20753、JIS K7139 A1型
全長さ120mm、厚み4mm、チャック部幅20mm、くびれ部幅10mm、 同その長さ80mm(Zランナー方式)
引張試験:引張強度は、試験速度2mm/分にて実施し、3−5点の平均値で評価した。ヤング率は、最大荷重の25%と75%の直線回帰により算出した(JIS K7073ほか)。
曲げ試験:曲げ強度は、3点曲げを試験速度5mm/分にて実施し、3−5点の平均値で評価した。曲げ弾性率は、最大荷重の25%と75%の直線回帰により算出した(JIS K7074ほか)。
(4)射出成形体の機械的強度の測定法
ペレットの射出成形体の機械的強度の測定法に準じて、成形体の各箇所を切抜いて実施した。
(5)発泡体の物性の測定法
発泡成形体から幅10mmに切出して測定した。
【製造例】
【0023】
[改質ポリプロピレン系樹脂(以下PPと略称)P1、P2、P3およびP4の製造例]
[製造例1]改質PPのP1; A成分としてポリプロピレン・ホモポリマーのペレット(中空グレード、MI 0.5:曲げ弾性率1.8GPa、シャルピー衝撃強度9.0KJ/m)100重量部、B成分としてポリプロピレン・粉体(サンアロマー(株)製、MI 0.3)20重量部、C成分として無水マレイン酸(試薬1級)1重量部、D成分としてジクミルパーオキサイド(ALDLICH社製)0.100重量部、E成分として流動パラフィン0.2重量部を使用した。
まず、ポリプロピレン・粉体Bをタンブラーに投入し、ついで流動パラフィンEを追加して5分間攪拌してから微粉砕したジクミルパーオキサイドDを入れて更に5分間攪拌した。次いで、やはり微粉砕した無水マレイン酸Cを入れて更に5分間攪拌した。最後に、ポリプロピレン・ホモポリマーのペレットAを投入し、10分間攪拌することにより、均一混合した。
東芝機械(株)製の単軸押出機(口径65mm、L/D30、改造・1ベント式、改造・圧縮式スクリュー)を使用し、この押出機の7ブロックから成るシリンダーとダイスの設定温度を170−280℃とした前記のA、B、C、DおよびE成分の混合組成物を原料供給ホッパーに投入し、容量式計量フィーダーで計量しながら押出して反応押出を行うことにより、改質ポリプロピレン樹脂P1の製造を実施した。樹脂温度244℃、樹脂圧力10MPaであった。
ストランドを口径3mmの斜め下方向のノズルから水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して半透明白色樹脂ペレットP1約20Kgを製造した。金型出口から水盤中へのストランドは弓なり状であり溶融張力が非常に低下していた。そのペレット形状は、円柱状で直径約2.5mm×長さ約3mmであった。
【0024】
[製造例2]改質PPのP2; A成分のポリプロピレン・ホモポリマーのペレット、B成分のポリプロピレン・粉体、C成分の無水マレイン酸およびE成分の流動パラフィンは、同一物で同一比率であるが、D成分のジクミルパーオキサイドの比率のみを0.050重量部と半減させて、製造例1と同様条件にて改質ポリプロピレン樹脂P2の製造を実施した。樹脂温度241℃、樹脂圧力16MPaであった。ストランドを口径3mmの斜め下方向のノズルから水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して半透明白色樹脂ペレットP2約20Kgを製造した。金型出口から水盤中へのストランドはほぼ直線状であり溶融張力がかなり保持されていた。そのペレット形状は、円柱状で直径約2.5mm×長さ約3mmであった。
【0025】
[製造例3]改質PPのP3; A成分のポリプロピレン・ホモポリマーのペレット、B成分のポリプロピレン・粉体、およびE成分の流動パラフィンは、同一物で同一比率であるが、C成分の無水マレイン酸の比率を2重量部に倍増させ、またD成分のジクミルパーオキサイドの比率を0.075重量部と製造例1および2の中間とし、製造例1と同様条件にて改質ポリプロピレン樹脂P3の製造を実施した樹脂温度238℃、樹脂圧力14MPaであったストランドを口径3mmの斜め下方向のノズルから水中に連続的に押出し、回転カッタ−で切断して半透明白色樹脂ペレットP3約20Kgを製造した。金型出口から水盤中へのストランドはやや弓なり状であり溶融張力がかなり低下したが、水冷されたストランドは未改質のポリプロピレンとは異なり、無水マレイン酸の倍増添加で保水性が著しく改善された。そのペレット形状は、円柱状で直径約2.5mm×長さ約3mmであった。
【0026】
[製造例4]改質PPのP4; A成分としてポリプロピレン・ブロックコポリマーのペレット(中空グレード、MI 0.7: 曲げ弾性率1.1GPa、シャルピー衝撃強度91KJ/m)100重量部、B成分としてポリプロピレン・粉体(サンアロマー(株)製、MI 0.3)20重量部、C成分として無水マレイン酸(試薬1級)2重量部、D成分としてジクミルパーオキサイド0.075重量部、E成分として流動パラフィン0.2重量部を使用した。
製造例1と同様条件にて改質ポリプロピレン樹脂P4の製造を実施した。樹脂温度238℃、樹脂圧力16MPaであった。ストランドを口径3mmの斜め下方向のノズルから水中に連続的に押出し、回転カッタ−で切断して半透明白色樹脂ペレットP4約20Kgを製造した。金型出口から水盤中へのストランドはやや弓なり状であり溶融張力がかなり低下したが、水冷されたストランドは未改質のポリプロピレンとは異なり、無水マレイン酸の倍増添加に依り保水性が著しく改善された。そのペレット形状は、円柱状で直径約2.5mm×長さ約3mmであった。
【0027】
[改質PPのP1−P4にZOLTEK製炭素繊維チョップ(6mm長)の30%をサイドフィード方式で混合した短繊維ペレットNZP1−4の製造と物性評価]
この旧来法では、炭素繊維チョップ(6mm長)を使用しても、残存繊維長が0.3mmの短繊維ペレットしか製造できない。
[製造例5−8]短繊維ペレットNZP1−4; 日立造船(株)製の同方向2軸押出機(口径35mm、L/D30:サイドフィーダー付きに改造)を使用し、この押出機の8ブロックから成るシリンダ−とダイスの設定温度を150−260℃およびスクリュー回転数150rpmとした。
容量式計量フィーダーを使用し、第1ホッパーから改質ポリプロピレン系樹脂ペレットP1−P4をそれぞれのケースで押出し、また第2ホッパーからZOLTEK炭素繊維チョップを炭素繊維の含有量が30%になる速度で連続的にサイドフィードした。
ストランドを口径3mmの斜め下方向のノズルから水中に連続的に押出し、回転カッタ−で切断して黒色樹脂ペレットをそれぞれのケース約5Kgを製造した。金型出口から水盤中へのストランドはほぼ直線状であり溶融張力が増加していた。その形状は、円柱状で直径約3.4mm×長さ約6mmであった。また、短繊維ペレットNZP1−4のMFR(230℃、荷重2.16Kg)は、1.1−4.8g/10分であった。いずれも、押出成形に適している。
[射出成形片の成形例]この炭素繊維強化・改質ペット樹脂の黒色ペレットNZP1−4を80℃2時間熱風乾燥し、日精樹脂工業(株)製のハイブリッド式射出成形機FNZ140(型締め圧140トン、スクリュー径40mm)を使用し、成形温度230℃、金型温度67−68℃、射出圧力30−40MPa、射出速度160mm/s、スクリュー回転数80rpmおよび冷却時間15秒の条件にて、下記の射出成形体を成形した。
多目的試験片の形状:ISO 7139、JIS K7139 A1型
全長さ120mm、厚み4mm、チャック部の幅20mm、くびれ部の幅10mm、
同その長さ80mm(Zランナー方式)
【0028】
これらのZOITEK炭素繊維(CF30%)強化・改質ペット樹脂ペレット4種は、バリの副生が少くて良好な射出成型性を示した。試験片の表面は平滑であった。引張速度2mm/分および曲げ速度5mm/分での機械的強度の試験等を実施した。このペレットの物性値を表4に示した。
本製造例4件は、ZOLTEK30%のサイド・フィード方式であり、射出成形片は炭素繊維が整列しやすいため、機械的強度が比較的大きく観測された。
製造例5のNZP1は、更に高い最高の機械的強度値を実証した。即ち、NZP1の引張強度94MPaは、比較例3のブレンドの2.4倍、比較例2のポリプロピレン・ホモポリマーの3.1倍である。また、曲げ弾性率15.8GPaは、比較例2のブレンドの1.1倍、比較例1のポリプロピレン・ホモポリマーの13.2倍である。また、その他のNZP2、NZP3およびNZP4も、比較例2のブレンドと比較例1のポリプロピレン・ホモポリマーに比べて優れた物性を示した
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態におけるシャルピー衝撃試験片の破断面のSEM写真(700倍)である。左側のAは、製造例5の炭素繊維強化・改質ポリプロピレン(NZP1)のシャルピー衝撃試験片の破断面を示す。炭素繊維と改質ポリプロピレンの密着性が良く、炭素繊維の切断が多い。右側のBは、比較例2の炭素繊維とポリプロピレンのブレンドのシャルピー衝撃試験片の破断面を示す。炭素繊維とポリプロピレンの密着性が悪く、炭素繊維がポリプロピレンから素抜けしている。
【0030】
【表2】
【比較例1】
【0031】
ポリプロピレン・ホモポリマーのカタログ値を使用している。
【比較例2】
【0032】
製造例5−8とほぼ同じ操作にて、サイドフィード方式でZOLTEK炭素繊維(30%)とポリプロピレン・ホモポリマーのブレンドを製造した。但し、ポリプロピレン・ホモポリマー(MI1.5)とポリプロピレン・ホモポリマー(MI 30: ノバテック)の等量混合ペレットを使用した。また、ほぼ同じ操作にて、射出試験片を作製し、機械的評価等の試験を実施した。
【実施例1】
【0033】
[ZOLTEK炭素繊維(30%)強化・改質ポリプロピレン樹脂ペレットNZP5とマイクロカプセル発泡剤の水平式押出法による細平板および発泡板の製造]
製造例6に準じて、ZOLTEK炭素繊維(30%)強化・改質ポリプロピレン樹脂の黒色ペレットNZP5(MFR 1.5g/10分: 260℃、荷重2.16Kg)約50Kgを製造した。
ZOLTEK炭素繊維(30%)強化・改質ポリプロピレン樹脂ペレットNZP5の100重量部、増粘剤マスターバッチ(エフテックス製5010E)ゼロまたは10重量部、マイクロカプセル発泡剤マスターバッチ(徳山積水化学製)8または12重量部を事前に混合し、ホッパーに投入し、発泡体の製造をした
(株)テクノベル製の2軸押出機(口径15mm、L/D30)に、原料供給機、異形金型、樹脂圧力測定センサー、空冷機、ステンレス製滑行板、水盤、引取り機を設置した。上記の配合物を、スクリュー温度180−250℃、回転数1150rpm、金型温度230−250℃において、ペレット等の配合物の供給速度1−2Kg/h、引取り速度1−2m/分にて水平方向に押出した。樹脂の溶融粘性、流動性および引け等を考慮して、異形金型は、矩形形(巾25mm: 中央部間隙2.5mm、両端部間隙1.5mm)を、また発泡板用には鼓形(巾25mm: 中央部間隙3.0mm、両端部R付き)を使用した。試験結果を表3にまとめて示した。
この水平式押出法による異形成形においては、樹脂圧力が高くなるほどに成形体の製造が安定し、また成形体が異形金型の巾(25mm)および間隙(3.0mm)に近づくほど、発泡成形が成功に近づく。本発明では、発泡倍率として1.5−2倍程度を企画した天然木材や合成木材の巨大市場の用途を想定している。
比較例3−S1の細平板の製造では、原料NZP5の樹脂圧力が0.1MPaであり、樹脂の溶融張力も低くて細平板の左右と上下にネックインが生じ、成形体が細くて薄くなった。比較例3−S2の細板製造では、増粘剤7.5部を添加したら巾と厚みが夫々大きくなり、かなり改善された。そこで、本例1−MC1〜本例1−MC4の発泡板製造では、増粘剤MBを10に増加して発泡試験を実施した。MC発泡剤による発泡板は、その巾(25mm)が異形金型の巾(25mm)と同一であり、ネックインがなくて成形加工が順調であった。一方、厚みが金型の厚み(3mm)よりもやや薄くなったが、吐出発泡体の冷却条件に依る。寸法調整用の雌型金型の設置で改善できる。で
【0034】
【表3】
【0035】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の高強度・軽量の炭素繊維チョップ強化改質ペット樹脂のMC成形体の用途例としては、現在急速に発展している産業用飛翔体(ドローン)の機体資材用である。近未来の巨大市場の自動車分野が適用可能である。例えば、バックドア・インナーパネル、ラジエーターコアサポート、インストルメントパネルなど、あるいは電気自動車用のバッテリートレーおよびカバー、フェンダー、ルーフなどにも適用することができる。電気自動車を軽量化し、電池の搭載量をその分増加させて、電気自動車の弱点である航続距離を延ばすことができる。
本発明は、更に土木・建築資材の用途を対象とする。また、電波吸収性、導電性、耐熱性、放熱性等の一層の性能改善ができるので、この機能性材料分野の利用可能性も大きい。
図1