(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843347
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】表面微細構造形成方法、構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/352 20140101AFI20210308BHJP
【FI】
B23K26/352
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-156703(P2016-156703)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-23991(P2018-23991A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】特許業務法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 博之
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
【審査官】
柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−514430(JP,A)
【文献】
特開2013−141701(JP,A)
【文献】
特開2017−000496(JP,A)
【文献】
特開2013−063446(JP,A)
【文献】
特開平10−097715(JP,A)
【文献】
特開平10−294024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物(200)の表面(210)に不規則構造を構成する微細な構造体(230)を形成する表面微細構造形成方法であって、
前記加工対象物(200)にレーザ光を照射して、前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の照射部分を局所的に加熱することにより、前記加工対象物(200)の前記表面(210)に前記構造体(230)として、前記表面(210)の一部が隆起した隆起構造、あるいは前記表面(210)の一部が凹凸した凹凸構造、あるいは前記隆起構造と前記凹凸構造との複合構造を形成するレーザ光照射工程を含み、
前記レーザ光照射工程では、前記レーザ光として赤外光のレーザ光を前記加工対象物(200)に照射すると共に、前記加工対象物(200)に対して前記レーザ光の照射位置を固定した状態で前記レーザ光を前記加工対象物(200)に照射することを特徴とする表面微細構造形成方法。
【請求項2】
前記レーザ光照射工程では、前記レーザ光として連続発振のレーザ光を前記加工対象物(200)に照射することを特徴とする請求項1に記載の表面微細構造形成方法。
【請求項3】
前記レーザ光照射工程では、前記加工対象物(200)が半導体材料で構成されたものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の表面微細構造形成方法。
【請求項4】
加工対象物(200)の表面(210)に不規則構造を構成する微細な構造体(230)を形成する構造体の製造方法であって、
前記加工対象物(200)にレーザ光を照射して、前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の照射部分を局所的に加熱することにより、前記加工対象物(200)の前記表面(210)に前記構造体(230)として、前記表面(210)の一部が隆起した隆起構造、あるいは前記表面(210)の一部が凹凸した凹凸構造、あるいは前記隆起構造と前記凹凸構造との複合構造を形成するレーザ光照射工程を含み、
前記レーザ光照射工程では、前記レーザ光として赤外光のレーザ光を前記加工対象物(200)に照射すると共に、前記加工対象物(200)に対して前記レーザ光の照射位置を固定した状態で前記レーザ光を前記加工対象物(200)に照射することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光照射工程では、前記レーザ光として連続発振のレーザ光を前記加工対象物(200)に照射することを特徴とする請求項4に記載の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光照射工程では、前記加工対象物(200)が半導体材料で構成されたものを用いることを特徴とする請求項4または5に記載の構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物に対する表面微細構造形成方法、及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ誘起表面散乱光干渉による方法(例えば、非特許文献1参照)や、表面張力波凍結機構による方法(例えば、非特許文献2参照)によって、加工対象物の表面を加工できることが知られている。
【0003】
これらの方法は、パルスレーザ光を加工対象物の表面に照射することにより、表面に爆発的な剥離を起こさせて表面を加工する、いわゆるレーザアブレーションによる方法として知られている。したがって、加工対象物はポリマー等のように比較的軟らかいものが対象になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jeff F. Young et al., Physical Review B, Vol.27, p.1155, 1983
【非特許文献2】H.Niino et al., Applied Physics Letters, Vol.55, p.510, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザアブレーションによる方法では、パルスレーザ光を発生させるための装置が必要である。また、加工対象物の表面の一部が溶融するので、デブリの発生にも対応しなければならない。このように、従来のレーザアブレーションによる方法では、加工に時間と手間が掛かってしまうという問題がある。
【0006】
なお、エッチングによる表面加工の方法も知られているが、水を使用することや、薬品の処理が煩雑であり、上記と同様に、短時間で容易に表面加工することは困難である。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、急速かつ容易に加工対象物の表面に微細な構造体を形成することができる表面微細構造形成方法を提供することを第1の目的とする。また、当該表面微細構造形成方法を用いた構造体の製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、加工対象物(200)の表面(210)に
不規則構造を構成する微細な構造体(230)を形成する表面微細構造形成方法であって、以下の点を特徴としている。
【0009】
すなわち、加工対象物(200)にレーザ光を照射して、加工対象物(200)のうちレーザ光の照射部分を局所的に加熱することにより、加工対象物(200)の表面(210)に構造体(230)として、表面(210)の一部が隆起した隆起構造、あるいは表面(210)の一部が凹凸した凹凸構造、あるいは隆起構造と凹凸構造との複合構造を形成するレーザ光照射工程を含み、レーザ光照射工程では、レーザ光として赤外光のレーザ光を加工対象物(200)に照射する
と共に、加工対象物(200)に対してレーザ光の照射位置を固定した状態でレーザ光を加工対象物(200)に照射することを特徴とする。
【0010】
これによると、加工対象物(200)にレーザ光を照射するだけで良いので、レーザ光を照射する装置の他に装置を必要としない。また、レーザ光を照射する工程の他に洗浄、塗布、エッチング等の他の工程やそのための準備が必要ない。このため、時間や労力を掛けずに構造体(230)を形成することができる。そして、加工対象物(200)にレーザ光を照射するだけで構造体(230)を形成することができるので、構造体(230)を容易に形成することができる。したがって、急速かつ容易に加工対象物(200)の表面(210)に微細な構造体(230)を形成することができる。
また、赤外光のレーザ光を用いることにより、微細な構造体(230)を確実に形成することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、レーザ光照射工程では、レーザ光として連続発振のレーザ光を加工対象物(200)に照射することを特徴とする。連続発振のレーザ光を用いることにより、微細な構造体(230)を確実に形成することができる。
【0013】
さらに、請求項
3に記載の発明では、レーザ光照射工程では、加工対象物(200)が半導体材料で構成されたものを用いることを特徴とする。加工対象物(200)として半導体材料で構成されたものを用いることにより、微細な構造体(230)を確実に形成することができる。
【0014】
上記では、加工対象物(200)の表面(210)に微細な構造体(230)を形成する表面微細構造形成方法について述べたが、加工対象物(200)に構造体(230)を形成する構造体の製造方法としても同様の特徴及び効果を有する。
【0015】
なお、この欄及び特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態において、レーザ光照射工程で用いられるレーザ光照射装置の全体構成を示した図である。
【
図2】レーザ光の照射時間を3秒とした場合にSiウェハの表面に形成された構造体を示した図である。
【
図3】レーザ光の照射時間を5秒とした場合にSiウェハの表面に形成された構造体を示した図である。
【
図4】レーザ光の照射時間を10秒とした場合にSiウェハの表面に形成された構造体を示した図である。
【
図5】レーザ光の照射時間を10秒とした場合にSiウェハの表面に形成された構造体を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図に基づいて説明する。本実施形態に係る表面微細構造形成方法及び構造体の製造方法は、加工対象物の表面に微細な構造体を形成するための方法である。以下では、加工対象物として半導体材料で構成されたSiウェハの表面に微細構造を形成する例について説明する。なお、「Siウェハの表面」とは、Siウェハの表面だけでなく当該表面を含んだ表層部も含んでいる。
【0018】
まず、レーザ光照射工程で用いるレーザ光照射装置について説明する。
図1に示されるように、レーザ光照射装置100は、レーザ光源110、集光レンズ120、及びステージ130を備えて構成されている。
【0019】
レーザ光源110は、Siウェハ200に対してレーザ光を発するものである。レーザ光源110として、レーザ光はSiウェハ200を透過していくがSiウェハ200の表面210近傍を十分に加熱できるもの、例えばレーザ光の波長が可視光あるいは赤外光であり、連続発振のレーザ光が用いられる。なお、この条件は一例であり、他の条件でレーザ光源110を駆動しても構わない。
【0020】
このように、Siウェハ200は、レーザ光の一部を吸収する。言い換えると、レーザ光は、エネルギーの一部がSiウェハ200に吸収されながらSiウェハ200を透過していく。つまり、上記のレーザ光の波長域では、Siウェハ200は半透明に構成されている。
【0021】
集光レンズ120は、レーザ光源110から発せられたレーザ光を入射してSiウェハ200の内部に集光するものである。例えば、集光レンズ120は、レーザ光の焦点140がSiウェハ200の表面210近傍に位置するようにSiウェハ200に対して配置される。すなわち、集光レンズ120は、Siウェハ200の表面210近傍を十分加熱するためにSiウェハ200の表面210近傍にレーザ光を集光する。
【0022】
なお、集光レンズ120はレーザ光源110と共にパッケージ化されている。このようなものとして、例えば、浜松ホトニクス社製のLD照射光源装置を用いることができる。一方、レーザ光照射装置100は、Siウェハ200の表面210近傍を十分加熱できるように構成されていれば良いので、集光レンズ120はレーザ光照射装置100に必須の構成ではない。すなわち、レーザ光照射装置100はレーザ光源110から照射されるレーザ光によってSiウェハ200の表面210近傍を十分加熱できる条件に設定されていれば良い。
【0023】
ステージ130は、Siウェハ200を乗せるための設置面131を有している。ステージ130は、石英ガラス板やAl板等の金属板で構成されている。本実施形態では、Siウェハ200の表面210側が集光レンズ120に向けられると共に、Siウェハ200の裏面220が設置面131に接触するように、Siウェハ200がステージ130の設置面131に設置される。以上が、レーザ光照射装置100の構成である。
【0024】
次に、Siウェハ200の表面210に微細な構造体を形成する方法について説明する。まず、Siウェハ200を用意し、上記のレーザ光照射装置100のステージ130の設置面131にSiウェハ200を配置する。
【0025】
続いて、レーザ光照射工程を行う。レーザ光の照射環境は、真空中や特定のガス中である必要は無い。空気中でSiウェハ200に対するレーザ光の照射を行う。
【0026】
具体的には、Siウェハ200の内部にレーザ光の焦点140を合わせて表面210の上方から内部にレーザ光を照射する。これにより、Siウェハ200のうちレーザ光の照射部分を局所的に加熱する。Siウェハ200の表面210に照射されるレーザ光の径は例えば400μm程度である。
【0027】
このレーザ光照射工程では、レーザ光として、連続発振のレーザ光をSiウェハ200に照射する。また、レーザ光として波長が915nmの赤外光のレーザ光をSiウェハ200に照射する。レーザ光の照射出力は例えば10W〜18Wである。Siウェハ200に対するレーザ光の照射時間は、数秒あるいは十数秒程度である。
【0028】
図2〜
図5は、Siウェハ200の表面210の結晶面が(100)面のものに対し、レーザ光の照射時間をそれぞれ異ならせて形成した構造体230を示している。
図2〜
図5は、構造体230を光学顕微鏡で観察したものを示している。
【0029】
図2は、レーザ光の照射時間が3秒の場合の構造体230を示している。
図2に示されるように、構造体230として縦横に延びるしわのような構造が形成された。すなわち、構造体230としてSiウェハ200の表面210の一部が凹凸した凹凸構造が形成された。しわのピッチは約5μmだった。
【0030】
図3は、レーザ光の照射時間が5秒の場合の構造体230を示している。
図3に示されるように、構造体230として大小様々な平面四角形状の凸状の島がいくつも形成された。すなわち、構造体230として、Siウェハ200の表面210の一部が隆起した隆起構造が形成された。
【0031】
図4及び
図5は、レーザ光の照射時間が10秒の場合の構造体230をそれぞれ示している。なお、
図4及び
図5は、レーザ光を照射したSiウェハ200がそれぞれ異なる。
【0032】
図4及び
図5に示されるように、構造体230として、凸状の島構造だけでなく、Siウェハ200の表面210の一部が凹んだ凹構造や、畝(うね)のような直線状の構造が形成された。畝の幅は約5μmで長さは100μm前後だった。特に、
図5に示された構造体230では、畝が中央部の構造を囲むように形成されており、迷路構造を構成していた。このように、レーザ光の照射時間を長くすることで隆起構造と凹凸構造との複合構造が形成されることがわかった。
【0033】
図4に示された構造体230と、
図5に示された構造体230とは、レーザ光の照射時間は同じであるが、同じ構造の構造体230は形成されなかった。これは、ステージ130の設置面131に対するSiウェハ200の密着性や配置位置、Siウェハ200の表面210の汚れ、傷等が影響したと考えられる。また、Siウェハ200に対するレーザ光の焦点140の深さが異なることによって焦点140の位置の加熱温度に違いが生じたことも構造体230の構造の違いに影響したと考えられる。
【0034】
そして、
図2〜
図5に示された各構造体230は、Siウェハ200の表面210に対するレーザ光の照射範囲とほぼ一致していた。すなわち、レーザ光の照射範囲内に構造体230を形成することができる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態では、加工対象物であるSiウェハ200にレーザ光を照射する方法が特徴となっている。この方法により、Siウェハ200の表面210に、当該表面210の一部が隆起した隆起構造、あるいはSiウェハ200の表面210の一部が凹凸した凹凸構造、あるいは隆起構造と凹凸構造との複合構造を有する構造体230を形成することができる。構造体230が形成された原因としては、レーザ光がSiウェハ200に照射されたことによって照射部分が熱膨張を起こしたことや、再結晶化したことが考えられる。
【0036】
そして、上記の構造体230の形成には、Siウェハ200にレーザ光を照射する装置の他に加熱等のプロセスに必要な装置を用いていない。もちろん、洗浄、塗布、エッチング等の他の工程やそのための準備も必要ない。このため、時間や労力を掛けずに構造体230を形成することができる。特に、パルスレーザを用いなくても、ランプアニールよりも速くSiウェハ200を局所的に加熱することができる。
【0037】
また、Siウェハ200にレーザ光を所定時間だけ照射することで表面210のうちレーザ光の照射範囲に構造体230を形成することができるので、構造体230の形成が非常に容易である。したがって、急速かつ容易にSiウェハ200の表面210に微細な構造体230を形成することができる。
【0038】
上記の構造体230は、例えば、加工対象物の表面の動摩擦係数のコントロールと方向性の付与に利用することが可能である。また、加工対象物の濡れ性制御や生体親和性の向上も見込める。濡れ性制御の具体例として、加工対象物の表面に微細構造を形成することで撥水効果を得ることが可能である。
【0039】
構造体230の別の応用例として、光デバイスの発光/受光効率の向上や、ナノインプリントの金型作製や、回折格子/散乱ターゲットの作製に役立つ可能性がある。さらに、MEMS要素部品やマイクロフィンガープリント(簡易識別用タグ)への応用も考えられる。蓮の葉の撥水効果のようなバイオミメティクス(生物模倣技術)への応用、プラズモンの発生を促す構造としての応用も考えられる。
【0040】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、Siウェハ200が特許請求の範囲の「加工対象物」に対応する。
【0041】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示された構造体230を形成する方法は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明を実現できる他の構成とすることもできる。例えば、SiC、GaN等の半導体材料、ダイヤモンド、LiTaO
3、LiNbO
3等のレーザ光の照射が可能な材料を加工対象物としても良い。この他、石英、ガラス、ポリマー、樹脂等の軟らかいものを加工対象物としても良い。金属材料も少なからず光を吸収するので、上記の方法により表面に構造体230を形成することは可能である。
【0042】
また、レーザ光照射工程におけるレーザ光の照射は、加工対象物の一カ所に対する照射だけでなく、表面210を走査しても良い。レーザ光を走査する場合、レーザ光の焦点140と加工対象物とを相対的に移動させれば良い。したがって、レーザ光源110及び集光レンズ120の位置を固定した状態でステージ130を移動させても良いし、ステージ130の位置を固定した状態でレーザ光源110及び集光レンズ120の位置を移動させても良い。
【0043】
さらに、上記のレーザ光照射工程では、Siウェハ200の内部にレーザ光の焦点140を合わせて表面210の上方から内部にレーザ光を照射していたが、これはレーザ光照射の一例である。Siウェハ200の内部にレーザ光の焦点140が位置していなくても良い。したがって、Siウェハ200の内部にレーザ光の焦点140を合わせずに表面210の上方からSiウェハ200にレーザ光を照射しても良い。
【符号の説明】
【0044】
110 レーザ光源
120 集光レンズ
140 焦点
200 Siウェハ(加工対象物)
210 表面
230 構造体