【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1に係る移動型放射線量計測装置の概略構成図である。移動型放射線量計測装置8は、発音体1、無線通信部2及び外部入力部3を含む入出力部と、計測・演算部4と、姿勢制御センサ5及びホールセンサ6を含むセンサ部と、装置全体に電力を供給する電源7とを備える。
【0016】
移動型放射線量計測装置8では、例えば、ガンマ線を検出対象とするシンチレーション検出器(放射線検出器)であり、後述する検出部12からのデータを一定時間間隔(放射線検出器の仕様により0.5s間隔、1.0秒間隔かの時間が定まる)で計測・演算部4がサンプリングする。また同時に、計測・演算部4は、3次元の姿勢制御センサ5から一定時間間隔(例えば姿勢制御センサ5から速度を演算するには10ms〜100msの分解能が適している)で移動型放射線量計測装置の移動速度情報をサンプリングする。
【0017】
ここで、本実施例でガンマ線によって計測する理由は、土壌汚染等の浸透している汚染の計測をベータ線で行うとすると、土による遮蔽によって計数値が減少するためである。
【0018】
なお、高線量のバックグラウンド中でガンマ線を計測する場合は、土壌等の計測対象以外の周囲から線量を計測するため、ベータ線を計測する場合に比べてバックグランドの計数値及び変動が増大する。このため、バックグランドの変動の影響を減少させるために、線量に適する標準偏差の計数を調整する必要がある。
【0019】
計測・演算部4では、外部入力部3から得られる情報により移動にかかる基準速度を設定するために、指定された移動距離と掛かる時間(例えば5mを移動するのに掛かる秒数)から得られた移動速度を校正することができる。ここで、外部入力部3は、計測を開始する前に、バックグラウンド付近を移動しながら姿勢制御センサ5の動きを捉え速度を把握するための開始・停止スイッチである。この外部入力部3によって、速度校正をすることができる。なお、同時にバックグラウンド計測をすることもできる。
【0020】
また、計測・演算部4は、計測中に使用者が計測をはじめていることを認識および計測によって得られる放射線検出器からの計数率の大きさがどの程度かを把握するために、発音体1から数段階の周期の異なるビープ音を発する。
【0021】
さらに、計測・演算部4は、収集したサンプリングデータを内部にデータを蓄積し数値演算することができ、姿勢制御センサ5又はホールセンサ6から得たデータを速度データに変換する。また一定の時間間隔(例えば放射線検出器からデータを得る周期が最も長いインターバルとなることからその時間タイミングに合わせるなど)で無線通信部2に対し、その間に処理したデータを装填し無線伝送の準備を行う。
【0022】
無線伝送は、伝送する無線通信の距離および周囲の環境条件を勘案して、IEEE802.15.1またはIEEE802.15.4に代表される通信規格に準拠した無線通信部2を接続し使用する。データの転送量は数バイトで構成される計数率と速度情報であり、ASCII形式で表されるシリアル転送方式で送る。
【0023】
図2は、移動型放射線量計測装置8を用いて放射線量を計測する状況を説明するための図である。移動型放射線量計測装置8は手持ちが可能であり、使用者10がハンドヘルド端末として手で持ちながら、または腰付近に装着した状態で例えば地表から1メートルの高さを基準にして移動させて計測することができる。また、例えば地表から1〜10cmの高さを基準にして、車輪を備える押し台車9に移動型放射線量計測装置8を載せて移動させて走査する場合と、人が徒歩で探索する際に足首付近に移動型放射線量計測装置8を装着した状態で一時的に小停止しながら走査する場合において用いることができる。いずれの場合にも駆動電力は
図1の電源部7から供給される。
【0024】
図3は、移動型放射線量計測装置8を(a)足に装着する場合と(b)台車に搭載する場合を説明するための図である。
【0025】
同図(a)足に装着し、歩行による計測をする場合においては、移動型放射線量計測装置8に内蔵する姿勢制御センサである加速度センサ5を用いて、足を挙げるなどによって挙動軸23が周期的に振れる時間間隔tとその片足の歩幅の大きさlによって歩いている速度vを式(1)で表される演算処理を行い推定することができる
【0026】
【数1】
同図(b)台車に搭載し、車輪による計測をする場合においては半径rの車輪25に電磁石を取り付け、車輪が回転することを利用して電磁石が通過する側面にホールセンサ6を装着することで、式(2)に示す通り、車輪25が一回転する時間間隔tを用いて容易に速度vに換算し算出することができる
【0027】
【数2】
(本実施例の目的)
ここで、本実施例の目的は、表面汚染放射線量の検出限界を基準指標として、幾つかの数値指標を定義し、移動しながら検出器を走査し基準線量以上の線量レベルを探索して、静止計測時の線量計測と同等の結果を算出し推定することにある。
【0028】
具体的には、地表面高さが1mで0.23μSv/hが静止時に計測できる場所では、地表高さ10cmでは1μSv/hとして換算することができることが過去の調査より分かっている。このような環境において、およそ50mm/sの一定速度の範囲で、静止状態においてサンプリング地点の間隔がおよそ30cm〜60cmの範囲内であれば、速度が約15cm/sまでであれば1サンプリング地点あたり2〜4サンプリングすることが可能である。これより遅い速度での移動ではより多くのサンプリングを得ることができる。このように検出器を移動させながら計測するには、どれだけのサンプリング数を必要とするかが検出精度を高めるために重要な要素となる。
【0029】
また、ホットスポットとなる核種は幾つかの種類の放射線を放射する。ここで、ベータ線には最大飛程があり、また土による遮蔽率が大きい。移動しながらでこぼこな地表を実測する場合においては、土による遮蔽の影響が少ない、ガンマ線の方が検出推定に対して有利に作用する。
【0030】
一方、ガンマ線を測りホットスポット箇所の評価をする場合には、表面汚染を検出しようとする場所においては、有意な表面汚染と判断されない検出基準以下の放射線量が時間的、空間的に確率的な変動をもって推移している。ホットスポットが放射する線量についても同様な環境で変動を持っており、先行技術の主張する重要な技術要素であるサンプリングの推移の起点がバックグラウンド(又は非有意な表面汚染)の変動によるものか、ホットスポット(又は有意な表面汚染)の要因かを判断していない。これにより、確率変動によるばらつきをホットスポット要因による計数率変化と判断することによる誤った演算、推定をする可能性、頻度が高くなる場合がある。
【0031】
本実施例のバックグラウンド判定では、移動計測する前にスクリーニングとしてバックグラウンド変動を統計処理し、バックグラウンドレベルを予め算出する。また、外来ノイズによる間違った検出データを得る場合においても、それがホットスポット要因による立ち上がりと区別する仕組みとして、1および2サンプリング前の時系列データとの増減率を取ることで誤判定を防ぐ2次的なフィルタリング処理を施す。
【0032】
速度計測については、一定の速度設定の下(50mm/s)でのサンプリングデータの挙動として、割り掛けし推定値を得ている。本実施例での速度計測では、速度の大きさに応じて静止時の換算係数を用いて推定することにより速度に応じた演算処理を行っている。速度計測の方法は、例えば、移動型放射線量計測装置にセンサを内蔵し、速度量を推定することができる。センサにかかるコストを考慮し、速度は直接計測されないものの演算部において加速度の変化量とその周期から速度を換算し算出することができる。また、外部から速度をとらえることのできる位置センサやモーションフローによるカメラ画像、モータの回転数などから速度を得ることも可能である。
【0033】
(移動型放射線量計測システム)
図4は、移動型放射線量計測システムの概略ブロック図である。移動型放射線量計測システム100は、移動型放射線量計測装置8と電子端末35を備えている。なお、移動型放射線量計測装置8と電子端末35の機能をまとめた、一体型の移動型放射線量計測装置であってもよいことは言うまでもない。
【0034】
移動型放射線量計測装置8は、移動にかかる基準速度を設定するための入力部11と、放射線量を検出する検出部12と、放射線検出器が移動する時の速度を測定するセンサ13と、移動速度を校正する計測・演算部14と、電子端末35へデータを無線送信する送信部16とを備えている。
【0035】
電子端末35は、送信部16からデータを無線受信する受信部17と、後述するソフトウェア処理部110を備えている。電子端末35は、例えばデータ処理のための演算を高速に行うことができるPC(パーソナルコンピュータ)端末あるいは指圧感知式入力(タッチパネル)により操作が可能なタブレット端末であってよい。これら端末内ではソフトウェア処理によって受信したサンプリングデータを演算処理し目的とするホットスポット要因から検出される放射線量を推定する。
【0036】
図5は、移動型放射線量計測システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
図5を用いて、
図4のソフトウェア処理部110の動作を説明する。
【0037】
フィルタ処理部18では、統計的なばらつきを含むサンプリングデータをフィルタ処理する(S110)。逐次得られる時系列データ32(時刻t=t0, t1, t2 … における放射線量の検出データx=x1, x2, x3, …)は確率的な変動を持つ分布31のようなばらつきを持つ(ガウス性を持つと呼ぶ)。
【0038】
図6は、確率的挙動のばらつきを説明するための図である。ばらつきの範囲が±σ(1標準偏差)内のデータは約68%を占めることが知られている。
【0039】
フィルタ処理部18では、ホットスポット以外(すなわち非有意汚染)の線量の任意の標準偏差を背景情報(バックグラウンド)33とする。
【0040】
図7は、放射線量のサンプリングデータ32とバックグランド放射線量33とを説明するための図である。横軸は時間tであり、縦軸はCPM(Count Per Minutes)であり、1分間あたりに放射線検出器12の検出器部分の測定有効面積を通った放射線のうち計数された数を示す。この場合、収束の度合いを早めることを目的として、式(3)に示す通り、サンプリングデータからN個を抽出した移動平均MAによってばらつきを低減する前処理を行う場合もある
【0041】
【数3】
バックグラウンドレベルを定めるには、放射線検出器12によって指し示す放射線量が基準とする放射線量に満たない安定した地点において、例として60秒から180秒のデータを捕捉して算出するのがよい。
【0042】
図8は、地表面放射能汚染探索の環境を説明するための図である。移動型放射線量計測装置8が地表面放射能汚染物質34を探索する前に、上述した、基準放射線量に満たない安定した地点を走査し、データを捕捉して算出するのがよい。
【0043】
図9は、移動型放射線量計測装置8及び電子端末35の外観図である。移動型放射線量計測装置8が予め、基準放射線量に満たない安定した地点を走査し、そのデータを電子端末35にデータ転送している。
【0044】
図10は、複数走査での挙動を説明するための図である。8.85cm/s走査時の3種類のサンプリングデータ(A、B、C)及びバックグランド(BG)のデータである。A、B及びC共に点42でピークを迎えており、ここに地表面放射能汚染物質34があることがわかる。しかし、点41のようにCのみがピークを迎えている場合もあり、点41にも汚染物質があると誤診断をする可能性がある。
【0045】
またフィルタ処理部18では、検出器内部の異常値や宇宙線による外来バーストノイズを除去する機構として、式(4)に示す通り、逐次得られる時系列データから2サンプリング秒遅れの差分を取りその最小値がトレンドを持つかどうかによってホットスポット要因による検出の始まりか否かを判別することが可能な場合がある
【0046】
【数4】
次に、関数処理部19は、式(5)に示す通り、複数のフィッティングパラメータβ45を持つ関数モデルにサンプリングデータを入れた関数値を求める(S120)
【0047】
【数5】
本実施例による放射線量の算出では、先述により得られたサンプリングデータおよび速度計測データを入力データとして曲線あてはめ(関数フィッティング)法を用いた動的放射線量のモデル推定を行う。関数は式(5)のガウス関数モデルを用いる。
【0048】
核種崩壊で放出される放射線の計数値は統計的変動を受ける。また、放射線を計測する際においても適切なパラメータ係数を見つけ出すことでガウス関数に近似することが可能となる。具体的には、後述するように、複数サンプリング値と式の差の二乗和を目的関数として極小値となるような反復演算を施すことにより係数を推定する演算を行う(非線形最小二乗法)。
【0049】
このときAは求める移動中の放射線量計測のピークレベルであり、Bはバックグラウンドレベル、μは速度に応じてピークまでに到達する時間となる。σはピークまでを中心とした関数の半値幅を示している。フィッティングによる利点は、モニタリングデータが元来確率的に内包しているばらつきを関数モデル自体の近似曲線で平滑することができる点にある。
【0050】
最初のパラメータは式(6)に示す通り、推定値に近い値を初期値としておく必要がある。これは反復演算を繰り返すことで、式(7)に示す目的関数rが周辺の最適解に収束することが理由である
【0051】
【数6】
【数7】
最小二乗処理部20では、目的関数を最小二乗処理によって式(8)の解としてS(β)を最小にするβを求めることと同値となる(S130)
【0052】
【数8】
図11は、関数モデルフィッティングを説明するための図である。ホットスポット要因による線量を示す時系列データ43からS130までの処理を施すことによってフィッティング関数44を得ることができる。
【0053】
図12は、算出したフィッティングパラメータを示す図である。このように、動的な線量推定部21では、フィッティングパラメータ45が決定され、移動中における検出線量レベル、すなわち動的な放射線量が推定される(S140)。
【0054】
最後に、判定部22では、移動速度における検出線量レベルを静止時における検出線量レベルに換算し、静止時相当の放射線量を検出できたかを判定する(S150)。予め予備実験にて求めた移動速度に対する検出レベルの減少比率から換算テーブルを用いて近似補間しこれを算出する。
【0055】
図13は、近似補間による推定を示す図である。46が近似補間を示す。換算テーブルは、速度サンプル毎に放射線量係数を予め予備実験にて用意することができるので、走査によって移動中における線量レベルが推定した後に、移動速度における減少比率を示す換算テーブルから静止時に換算した線量レベルとして推定することが可能となる。
【0056】
前述の移動速度を演算算出する過程において、現在は移動方向が直進し進行する1軸方向成分のパラメータを抽出しているが、移動型放射線量計測装置を使用する使用者が対象領域を平地など面的に探索する場合、x-y軸の2次元に移動する方向ならびに距離を同時に推定し記録することが可能である。また、山間部の里山と呼ばれる傾斜地を探索するような場合において、x-y軸のほかに高さ方向を示すz軸を含む3次元空間を移動する際の方向並びに位置を推定し記録することができるのは勿論である。
【0057】
(効果)
本実施例によれば、バックグラウンドレベルとホットスポット要因による検出レベルを分離することができる。これによって、汚染開始の位置をより明確にすることができ、また、変動ばらつきのあるサンプリングデータをそのまま取り扱うことなくフィッティング関数を使ったばらつきに敏感にならない推定をすることで変動ばらつきによる誤判定を防いでいる。
【0058】
さらに、本実施例によって実現する歩行しながらの放射線量の走査、探索を考慮した場合においては、歩行が難しくなるほど遅い速度であり、かつ歩行する周囲の環境条件によって速度量が異なる場合に対応することができる。
【0059】
また、本実施例によれば、関数モデルが曲線形状を前提とする非線形性を有しているため、その軌跡に接近、近似させることを目的としたフィッティングによる最適化演算処理を施すことができる。
【0060】
さらにこのフィッティングには、対象区間全体のサンプリングポイントを使用し、区間全体にかかる確率的なばらつきを相殺する目的で差の二乗和を最小にする非線形の最小二乗法を用いていることから非線形のまま演算処理を行うことができる。
【0061】
以上、本発明の実施例(変形例を含む)について説明してきたが、これらのうち、2つ以上の実施例を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、これらのうち、1つの実施例を部分的に実施しても構わない。さらには、これらのうち、2つ以上の実施例を部分的に組み合わせて実施しても構わない。
【0062】
例えば、本発明は、足に移動型放射線量計測装置を取り付けた場合、平地のみならず、里山などの傾斜地を探索する際に適用できる。また、歩行による計測は、片足のみならず、両足に移動型放射線量計測装置を取り付けることによって、同時間内で同対象範囲を2倍の時間をかけて計測できるため、計数が増加し精度の高い計測ができる。
【0063】
本発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。例えば、速度演算に利用している姿勢制御センサを3軸の制御パラメータとして利用することによって、これまでの技術が直線軸(1軸)のみの移動検出にしか対応していなかったのに対して、平面軸(2軸)、さらには傾斜を含む空間軸(3軸)の走査および移動型放射線探索検出の解析が可能となる。