【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年2月20日発行のTMS2017予稿集(Magnesium Technology 2017)p.525−531において発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、先端的低炭素化技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をいくつかの実施例を参照して詳細に説明する。
本発明のMg合金は、2.0質量%よりも大きく5.0質量%未満のZnと、少なくとも0.25質量%のCaと、0.20質量%以上のZrと、を含有し、残部がMg及び不可避不純物からなっている。
具体的には、Mg合金の組成として、Mg−3Zn−0.3Zr−0.3Ca合金やMg−4Zn−0.3Zr−0.3Ca合金が挙げられる。
ここで、Zn、Zr、Caの前に記載している数値は、各元素の質量%である。
上記の組成とする理由は、Mg−Zn−Zr合金の溶解・鋳造時、若しくは加工前の均質化処理の際に形成する微細なZnとZrもしくはMg,Zn、Zrよりなる数十ナノメートルサイズの析出物によって結晶粒の成長が抑制されることによる。
【0018】
上記の析出物の内、Zn
2Zrは比較的高密度に分散することから、材料の強化にも有効であると考えることができる。さらに、析出物のナノサイズ化によって破壊の起点となり難くなるため、常温成形性の低下には影響を及ぼさない析出物であると考えることができる。
【0019】
以上のことから、Mg−Zn−Zr基合金では、従来の時効処理を経ることなく、板材の加工後に溶体化処理を施すことで導入されたひずみを除去するだけで常温での2次加工性が期待できる。さらに、加工前の均質化処理中に形成したナノ析出物によって優れた強度を発現させる可能性がある新しいタイプの合金である。
【0020】
Mg合金の成形性、強度、延性を得るために、Znの含有量は、2.0質量%よりも大きくする。Znの含有量が5.0質量%以上では成形性が劣化するので、Znの含有量は5質量%未満とすることが好ましい。
【0021】
Ca添加量が0.2質量%である場合、(0001)極の配向度が低下しないが、0.3質量%のCa添加によって(0001)極の集合組織が大きく低下することから、Caの含有量は、少なくとも0.25質量%以上とすることが好ましい。
【0022】
強度の増大のために、Zrは0.20質量%以上とし、Caの含有量は、少なくとも0.25質量%以上とすることが好ましい。
高温安定でも安定なナノサイズの析出物の分散により結晶配向度の低下に起因する強度低下を補償し、常温加工性を損なわずに従来合金よりも優れた強度を得ることができる。従来は鋳造材の結晶粒組織を微細化する元素として添加されていたZrを用いて、上記のナノサイズの析出物の分散効果を発現させることができる。
【0023】
本発明のMg合金の、後述する溶体化処理後の組織について説明する。
本発明の溶体化処理後のMg合金、つまり溶体化処理材の組織においては、マグネシウム母相にナノメートル(nm)オーダーのZn
2Zrからなる析出物が分散している組織を有している。Zn
2Zrからなる析出物を、Zn
2Zr析出物と呼ぶ。
【0024】
本発明のMg合金の強度を増すためには、結晶粒をより微細にするとよい。さらに、マグネシウム母相に、合金元素として、Znを高濃度に固溶させる固溶強化によって強化すること、析出物を分散させることで析出強化を図ることが望ましい。つまり、Mg合金の強度を析出強化により増すためには、析出物の寸法が微細で、数密度が高いほどよい。具体的には、Zn
2Zr析出物の大きさは、幅が18.7±5.3nm、長さが35.0±13.3nmである。Zn
2Zr析出物の密度は、少なくとも1.47×10
20/m
3、例えば、3.08×10
20/m
3である。さらに、Caがマグネシウム母相とZn
2Zr析出物との界面に偏析している。
【0025】
本発明のMg合金をX線回折により測定すると、Mg合金の結晶粒の(0001)極の配向度は、圧延面から測定した(0001)極点図における(0001)極の強度にして6.0以下である。
【0026】
Mg合金の成形性をエリクセン試験機で測定すると、室温におけるエリクセン値は、6.5mm以上である。さらに、エリクセン値としては、6.5mm以上で7.9〜8mmである。
【0027】
本発明のMg合金の0.2%耐力は、130〜250MPa以上であり、Mg合金の引張強さは、200MPa〜300MPaであり、Mg合金の破断伸びは、20%〜35%である。
【0028】
本発明のMg合金のビッカ−ス硬さは、50HV以上とすることができる。
【0029】
本発明のMg合金は、以下の工程で製造することができる。
図1は、本発明のMg合金の製造方法を示すフロー図である。
図1に示すように、本発明のMg合金は、
Mg、Zn、Zr及びCaを溶解して鋳造固体を得る工程1と、
鋳造固体を均質化処理して均質化固体を得る工程2と
均質化固体を熱間加工して有形固体を得る工程3と、
有形固体を溶体化処理して冷却固体を得る工程4と、
を含む工程により製造することができる。
【0030】
工程4で得た冷却固体を時効処理してMg合金を製造してもよい。
【0031】
以下、各工程について説明する。
(工程1)
鋳造固体を得る工程であり、Mgと上記Mg合金の組成となるZn、Zr及びCaを鉄坩堝中で溶解して、溶湯とし、鋳型等に流し込んで冷却することで鋳造して、鋳造固体を得る。具体的には、例えば高周波誘導溶解炉を用いて上記組成の合金を溶解し、鉄鋳型を用いて鋳造することができる。
なお、溶解の際に用いる溶解炉は、高周波誘導溶解炉に限定されず、所望の組成の合金が作製できれば他の装置でもよい。鋳造固体を、急冷凝固鋳造、重力鋳造及び真空鋳造の何れかの方法で得てもよい。急冷凝固鋳造を用いれば高い生産性で、低コストの鋳造固体が得られる。
【0032】
(工程2)
鋳造固体を均質化処理して均質化固体を得る工程である。均質化処理では、鋳造固体中に存在する各成分の金属の分布を均質化し、溶湯の冷却中に形成する析出物をマトリックス中に固溶させる。均質化処理は、工程1で溶湯の冷却中に形成された析出物をマグネシウム母相に固溶させるための熱処理である。特にZnが高濃度にマクロ偏析している領域は、460℃前後、例えば400℃〜460℃、又は400℃〜450℃での熱処理から開始すると合金が融解するため、まず300℃〜350℃、例えば340℃前後で鋳造時に形成されMg−Zn相の初期溶融を抑制し、450℃における熱処理によってZnの分布を均質化する。均質化処理は、例えば、350℃で24時間、450℃で4時間行う。
【0033】
均質化処理の条件は、上記の条件(350℃で24時間+450℃で4時間)に限定はされない。所定の温度、時間条件における熱処理によって合金元素がマグネシウム母相に固溶する条件で熱処理を行えば良い。
【0034】
(工程3)
均質化固体を圧延又は押出などで熱間加工して有形固体を得る工程である。熱間加工としては、圧延加工、押出加工、または鍛造加工を用いることができる。例えば、圧延加工は、圧延機械を用いて行うことができる。鋳造材を圧延工程によって板材に加工することができる。
図2は、圧延工程を示す図である。
図2に示すように、圧延工程は、均質化処理の後に行うことができる。圧延の際の条件として試料温度、ロ−ル温度、圧下率、ロ−ル周速、中間熱処理の有無などの条件が存在するが、それらの例を表1に示す。
【0036】
表1に示すように、試料厚さが10mmから5mmまで圧延する際のロール温度や試料温度の一例は200℃、圧下率は例えば13.1%、ロール周速は1m/分である。試料厚さが5mmから1mmまで圧延する際のロール温度や試料温度の一例は200℃や300℃、圧下率は例えば20.5%、ロール周速は1m/分である。圧延中に中間熱処理を加えてもよい。中間熱処理の条件は、例えば450℃で5分である。
板材の製造方法は、上記の微細組織が作製できる展伸加工法であれば、圧延、鍛造や押出加工など如何なる方法でもよい。
【0037】
(工程4)
有形固体を溶体化処理して溶体化処理材、すなわち冷却固体を得る工程であり、熱間加工中に形成する析出物のなかでも特にMgとZnよりなる析出物(MgZn
2相)をマトリックス中に固溶させ、かつ再結晶した組織を形成させるために実施する熱処理工程である。溶体化処理は、例えば、電気炉で加熱して行うことができる。溶体化処理は、所定の温度、所定の時間の熱処理によって、工程3の熱間加工中に形成する析出物をマトリックス中に固溶し、かつ再結晶した組織を形成するように行えばよい。溶体化処理は、例えば、350〜450℃で0.5〜8時間程度行えばよいが、熱処理時間が長くなると製造コストの高騰につながるため、溶体化処理時間は必要最小限の時間でよい。溶体化処理した後これを冷却することで冷却個体が得られる。
【0038】
(工程5)
溶体化処理の後で、さらに冷却固体を時効処理してMg合金の時効処理材を得る工程である。この工程は必要に応じて行うことができる。時効処理は、溶体化処理材に析出物を分散させ、強度を付与するための熱処理工程である。
【0039】
工程5の時効処理は、溶体化処理材に析出物を分散させ、強度を付与する熱処理プロセスである。つまり、溶体化処理で得た合金元素が過飽和に固溶した冷却固体を熱処理して、強度が高く、かつ、延性を向上して加工性のよい本発明のMg合金を得る工程である。時効処理は、油浴(オイルバス)を用いて行うことができる。油浴の温度は、恒温槽で制御してもよい。
【0040】
時効処理は、例えば、140〜200℃で行うことができる。時効処理は、例えば最大高度に達するまでの時間、つまり5、6時間から10時間以上、より好ましくは100時間の範囲で行う。
【0041】
(時効処理後の微細組織)
本発明のMg合金の製造方法において、時効処理後のMg合金では、Zn
2Zr析出物に加えてMgとZnよりなる析出物(MgZn
2相)が形成されている。
【0042】
本発明のMg合金によれば、従来は優れた室温成形性を付与すると強度が低い材料しか得られなかったのに対して、高価かつ資源の少ない重希土類金属元素を用いることなく、比較的安価な合金元素の組み合わせとその微細組織によって、自動車応用に要求される特性を満たす優れた室温強度と成形性を有しているMg合金を提供することができる。
【0043】
本発明のMg合金によれば、従来は鋳造材の結晶粒組織を微細化する元素として添加されていたZrを用い、上記のナノサイズの析出物の分散効果を発現させることにより、高温でも安定なナノサイズの析出物により結晶配向度の低下に起因する強度低下を補償し、常温加工性を損なわずに、従来のMg合金よりも優れた強度を得ることができる。
【0044】
本発明のMg合金の製造方法によれば、高価かつ資源の少ない重希土類金属元素を用いることなく、比較的安価な合金元素及び単純な圧延と熱処理を組み合わせた製造方法により、自動車応用に要求される優れた室温強度と成形性を有しているMg合金を低コストで製造することができる。
【0045】
本発明のMg合金の製造方法によれば、圧延後に溶体化処理を施すことで、結晶粒の配向をランダムに配向させ、これにより優れた成形性を付与することができる。結晶粒の配向をランダムに配向させると強度が急激に低下するが、高温でも安定なナノサイズの析出物を形成することで成形性、強度、延性を両立させたMg合金を得ることができる。
次に、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0046】
実施例1のMg合金として、以下の組成のMg合金を作製した。Mg合金の添加物のZn、Zr、Caの前に記載した数字は、質量%を示している。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
均質化処理は、350℃で24時間、450℃で4時間の均質化処理を行った。
なお、均質化処理の条件は、後述する実施例2、3、5〜8、比較例1〜9においても実施例1と同じである。
【0047】
展伸加工は、ウエノテックス株式会社製の圧延機(特注品、製造番号:H9132)を用いて行った。圧延において、板材の温度は200℃、ロ−ル温度は200℃とし、中間熱処理は無しの条件で圧延した。圧延の条件を表2に示す。板材の温度、ロ−ル温度、中間熱処理の有無は、下記のように表記する。
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:200℃/200℃/無
【0048】
【表2】
【0049】
溶体化処理は、450℃で2時間行った。溶体化処理は以下のように表す。
溶体化処理:450℃で2時間
【0050】
図3は、実施例1のMg合金の溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す図である。光学顕微鏡像は、ニコン社の光学顕微鏡(Eclipse、LV−100)を用いて測定した。
図3で観察されるMg合金において、切片法により算出した結晶粒径は7.7μmである。結晶粒径は、米国材料試験協会(ASTM)のlineal intercept method (E112-13)に則って算出した。
【0051】
図4は、X線回折により測定した実施例1のMg合金を溶体化処理して得た溶体化処理材の結晶粒の(0001)極の配向度を示す(0001)極点図である。極点図の解析には、ResMat社製の解析ソフト(Textools,v3.3)を使用した。
図4に示すX線回折により測定した(0001)極の集合組織強度(maximum random distribution、m.r.d.又は集積度とも呼ばれる)は、4.8であり、(0001)極が圧延面法線方向(ND方向)から圧延方向(RD方向)に傾斜していることが判明した。
ここで、(0001)極の強度は(0001)極の配向度の相対強度(ランダムに配向した時を1とする)を示す尺度である。
【0052】
図5は、実施例1のMg合金の溶体化処理材のX線回折パターンを示す図である。縦軸は、X線回折強度(任意目盛)、横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度である2θを示している。X線回折は、リガク社の装置(Rigaku SmartLab)を用いて測定した。
図5に示すように、実施例1のMg合金の溶体化処理材では、マグネシウム母相中にZn
2Zr相が存在することが判明した。
【0053】
図6は、実施例1の溶体化処理材の引張応力−ひずみ曲線を示す図である。
図6の縦軸は応力(MPa)、横軸はひずみ(%)である。
図6に示す応力−ひずみ曲線から得た0.2%耐力(降伏強度とも呼ぶ)、引張強度、伸び及びエリクセン試験により評価した成形性(index Erichsen value)を表3に示す。応力−ひずみ曲線は、Instron社(Model 5567)を用いて測定し、エリクセン試験は、エリクセン社(111型)試験機を用いて測定した。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、実施例1の溶体化処理材において、0.2%耐力は176MPaであり、引張強度は265MPa、伸びは29%、エリクセン値7.5mm、の優れた常温成形性を有することが分かった。
【0056】
実施例1のMg合金の溶体化処理材の組織を、走査透過型電子顕微鏡でさらに詳細に調べた結果について説明する。
図7は、実施例1の溶体化処理材の透過型電子顕微鏡を用いて観察した、(a)HAADF−STEM像と、EDSで測定した(b)Zn、(c)Zr、(d)Caの面分布を示す図である。HAADF−STEM像(High-angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscopy、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡像)は、FEI社の走査透過電子顕微鏡(Titan、 G2 80−200)で観察した。エネルギー分散による元素分析(Energy Dispersion Spectroscopy,EDSとも呼ぶ)には、FEI社のEDS元素分析装置(Super X)を用いた。
図7に示すように、マグネシウム母相にZnとZrよりなる析出物、即ちZn
2Zr相が高密度に分散していることが分かる。これらの析出物の存在により底面の配向度が低いにもかかわらず、高い降伏強度を示す。
【0057】
図8は、3次元アトムプローブにより得た3次元アトムマップ図であり、(a)は合金元素の3次元分布、(b)はZn
2Zr析出物近傍の拡大した合金元素の3次元分布、(c)は(b)の深さ方向の原子分布を示す図である。3次元アトムプローブ(3 dimensional atom Probe, 3DAPとも呼ぶ)は、試料に高電圧を印加し、試料の表面から電界蒸発するイオンを、質量分析装置で検出して、個々に検出されたイオンを深さ方向へ連続的に検出し、検出された順番にイオンを並べることにより、3次元の原子分布を測定する方法である。3次元原子プローブは、国立研究開発法人物質・材料研究機構の発明者(宝野和博)が自作し、イオン分析には、カメカ社製の質量分析装置(ADLD detector)を用いた。
【0058】
X線回折と3DAP解析の結果から、これらの析出相はZn
2Zr相であることが確認され(
図5参照)、
図8から、CaがZn
2Zr相とマグネシウム母相との界面に偏析していることが判明した。
【0059】
(実施例1のMg合金の時効処理)
実施例1のMg合金の溶体化処理材の時効処理を、160℃で500時間行った。
図9は、時効時間とビッカース硬度の関係を示す図である。縦軸は、ビッカース硬度(HV)、横軸は時効処理時間(時)である。
図9に示すように、時効時間が10時間程度で溶体化処理材の硬度が増すことが分かる。
【0060】
図10は、160℃で64時間時効処理した時効処理材の引張応力−ひずみ曲線を示す図である。応力−ひずみ曲線から得られた0.2%耐力、引張強度、伸びを表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、実施例1の時効処理材において、0.2%耐力は194MPa、引張強度は269MPa、伸びは17%である。
【実施例2】
【0063】
実施例2のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無 :200℃/200℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
溶体化処理:450℃で2時間
【0064】
表3に示すように、実施例2の溶体化処理材の結晶粒径は8.6μmであり、集合組織強度は4.2であった。実施例1のMg合金の溶体化処理材と同様に、マグネシウム母相中にZn
2Zr相が存在することが判明した。さらに、表3に示すように、実施例2の溶体化処理材において、0.2%耐力は173MPa、引張強度は268MPa、伸びは27%であり、エリクセン値にして6.7mmの高成形性を有することが分かった。
【実施例3】
【0065】
実施例3のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:300℃/300℃/無
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、切片法により算出した結晶粒径は6.9μmであり、集合組織強度は、5.2であり、圧延方向に分散していることが分かった。
表3に示すように、実施例3の溶体化処理材において、0.2%耐力は183MPa、引張強度は271MPa、伸びは27%であり、エリクセン値にして6.8mmの高成形性を有することが分かった。
【実施例4】
【0066】
実施例4では、最初に溶解・鋳造を急冷凝固鋳造により行い、厚さが4mmの鋳造板を作製した以外は、以下のようにして溶体化処理材を作製した。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
均質化処理:350℃で5時間、420℃で4時間の均質化処理を行った。
圧延:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:300℃/200℃/無
溶体化処理:420℃で2時間
【0067】
図11は、実施例1のMg合金の溶体化処理材の光学顕微鏡像である。光学顕微鏡像は、ニコン社の光学顕微鏡(Eclipse、LV−100)を用いて得た。
図11で観察されるMg合金において、切片法により算出した結晶粒径は7.5μmである。
【0068】
図12は、X線回折により圧延面から測定した実施例4のMg合金の溶体化処理材の(0001)極の配向度を示す(0001)極点図である。
図12に示すX線回折により測定した(0002)極の集積度(maximum random distribution、m.r.d.又は集積度とも呼ばれる)は、3.5であった。
【0069】
図13は、実施例4の溶体化処理材の引張応力−ひずみ曲線を示す図である。
図6の縦軸は応力(MPa)、横軸はひずみ(%)である。
図13及び表3に示すように、実施例4の溶体化処理材において、0.2%耐力は179MPa、引張強度は269MPa、伸びは25%であり、エリクセン値にして7.8mmの高成形性を有することが分かった。
【実施例5】
【0070】
実施例5のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−3Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:200℃/200℃/無
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、実施例5の溶体化処理材の結晶粒径は10.1μmであり、集合組織強度は3.0であった。実施例1のMg合金の溶体化処理材と同様に、マグネシウム母相中にZn
2Zr相が存在することが判明した。さらに、表3に示すように、実施例5の溶体化処理材において、0.2%耐力は132MPa、引張強度は243MPa、伸びは31%であり、エリクセン値にして7.9mmの高成形性を有することが分かった。
【実施例6】
【0071】
実施例6のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−3Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:200℃/200℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、実施例6の溶体化処理材の結晶粒径は9.7μmであり、底面集合組織の集合組織強度は3.4であった。実施例1のMg合金の溶体化処理材と同様に、マグネシウム母相中にZn
2Zr相が存在することが判明した。さらに、表3に示すように、実施例6の溶体化処理材において、0.2%耐力は145MPa、引張強度は247MPa、伸びは33%であり、エリクセン値にして7.1mmの高成形性を有することが分かった。
【実施例7】
【0072】
実施例7のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−3Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:300℃/300℃/無
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、実施例7の溶体化処理材の結晶粒径は11.3μmであり、底面集合組織の集合組織強度は4.0であった。実施例1のMg合金の溶体化処理材と同様に、マグネシウム母相中にZn
2Zr相が存在することが判明した。さらに、表3に示すように、実施例7の溶体化処理材において、0.2%耐力は180MPa、引張強度は260MPa、伸びは28%であり、エリクセン値にして6.5mmの高成形性を有することが分かった。
【実施例8】
【0073】
実施例8のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−3Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無 :300℃/300℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、実施例8の溶体化処理材の結晶粒径は14.7μmであり、底面集合組織の集合組織強度は4.5であった。実施例1のMg合金の溶体化処理材と同様に、マグネシウム母相中にZn
2Zr相が存在することが判明した。さらに、表3に示すように、実施例8の溶体化処理材において、0.2%耐力は144MPa、引張強度は251MPa、伸びは32%であり、エリクセン値にして6.5mmの高成形性を有することが分かった。
【0074】
(比較例1)
比較例1のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無 :200℃/200℃/無
溶体化処理:375℃で2時間
図14は、比較例1の溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す図である。切片法により算出した比較例1の溶体化処理材の結晶粒径は7.9μmであった。
【0075】
図15は、比較例1の溶体化処理材のX線回折パタ−ンを示す図である。
図4と同様に、縦軸はX線回折強度(任意目盛)、横軸は角度2θ(°)である。
図15に示すように、比較例1の溶体化処理材では、実施例1とは異なり、Zn
2Zr相は形成されていないことを確認した。
【0076】
図16は、比較例1の溶体化処理材のX線回折より得た(0001)極点図を示す図である。
図16に示すように、比較例1の溶体化処理材は、強い底面集合組織を有し、(0001)極の集合組織強度は10.6であった。
【0077】
図17は、比較例1の溶体化処理材の引張応力−ひずみ曲線を示す図である。
図17の縦軸は応力(MPa)、横軸はひずみ(%)である。
図17に示すように、比較例1の溶体化処理材において、0.2%耐力は160MPa、引張強度は262MPa、伸びは34%であり、わずか3.5mmのエリクセン値しか示さなかった(表3参照)。
【0078】
(比較例2)
比較例2のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:200℃/200℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
溶体化処理:375℃で2時間
表3に示すように、比較例1の溶体化処理材の結晶粒径は9.0μmであり、底面集合組織の集合組織強度は14.7であった。比較例1と同様に、Zn
2Zr相は形成されていないことを確認した。さらに、表3に示すように、比較例1の溶体化処理材において、0.2%耐力は164MPa、引張強度は259MPa、伸びは34%であり、わずか2.8mmの低いエリクセン値を有することが分かった。
【0079】
(比較例3)
比較例3のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:300℃/300℃/無
溶体化処理:375℃で2時間
表3に示すように、比較例3の溶体化処理材の結晶粒径は10.8μmであり、底面集合組織の集合組織強度は13.9であった。比較例1と同様に、Zn
2Zr相は形成されていないことを確認した。さらに、表3に示すように、比較例3の溶体化処理材において、0.2%耐力は149MPa、引張強度は258MPa、伸びは30%であり、わずか2.7mmの低いエリクセン値を有することが分かった。
【0080】
(比較例4)
比較例4のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無 :300℃/300℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
溶体化処理:375℃で2時間
表3に示すように、比較例4の溶体化処理材の結晶粒径は13.7μmであり、底面集合組織の集合組織強度は13.4であった。比較例1と同様に、Zn
2Zr相は形成されていないことを確認した。さらに、表3に示すように、比較例1の溶体化処理材において、0.2%耐力は144MPa、引張強度は256MPa、伸びは28%であり、わずか2.6mmの低いエリクセン値を有することが分かった。
【0081】
(比較例5)
比較例5のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−5Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無 :200℃/200℃/無
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、比較例5の溶体化処理材の結晶粒径は13.4μmであり、Zn
2Zr相は形成されていないことを確認した。さらに、比較例5の溶体化処理材は、強い底面集合組織を有し、(0001)極の集合組織強度は7.3であった。
表3に示すように、比較例5の溶体化処理材において、0.2%耐力は146MPa、引張強度は262MPa、伸びは23%であり、わずか4.4mmの低いエリクセン値を有することが分かった。
【0082】
(比較例6)
比較例6のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−5Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無 :200℃/200℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、比較例6の溶体化処理材の結晶粒径は11.9μmであり、底面集合組織の集合組織強度は3.6であった。比較例1と同様に、Zn
2Zr相は形成されていないことを確認した。さらに、表3に示すように、比較例6の溶体化処理材において、0.2%耐力は124MPa、引張強度は257MPa、伸びは30%であり、わずか6.4mmのエリクセン値を有することが分かった。
【0083】
(比較例7)
比較例7のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製した。
合金組成:Mg−5Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:300℃/300℃/無
溶体化処理:450℃で2時間
表3に示すように、比較例7の溶体化処理材の結晶粒径は11.2μmであり、強い底面集合組織を有し、(0001)極の集合組織強度は8.3であった。比較例1と同様に、Zn
2Zr相は形成されていないことを確認した。さらに、表3に示すように、比較例7の溶体化処理材において、0.2%耐力は157MPa、引張強度は269MPa、伸びは31%であり、わずか3.1mmの低いエリクセン値を有することが分かった。
【0084】
(比較例8)
比較例8のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製したが、圧延加工ができなかったので、溶体化処理材は得られなかった。
合金組成:Mg−4Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:300℃/300℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
【0085】
(比較例9)
比較例9のMg合金の溶体化処理材は、以下のように作製したが、圧延加工ができなかったので、溶体化処理材は得られなかった。
合金組成:Mg−5Zn−0.3Zr−0.3Ca合金
展伸加工:板材の温度/ロ−ル温度/中間熱処理の有無:300℃/300℃/有
中間熱処理は、450℃で5分行った。
【0086】
上記実施例1〜8と比較例1〜9から、優れた常温加工性、つまり大きなエリクセン値を得るには、下記の点が満足されると良いことがわかった。
結晶粒の(0001)面の配向度:X線回折により測定した集合組織強度が6以下。
実施例1と比較例1より、少なくとも0.25質量%以上のCaを含むこと。Caの添加は(0001)面の配向度を低下させる役割がある。
Znの添加量は2.0質量%から5.0質量%未満、より好ましくは3.0質量%から5.0質量%未満であることが望ましい。比較例3より、5.0質量%までZnを添加すると、エリクセン値が急激に低下する傾向がある。
【0087】
上記実施例1〜8と比較例1〜9から、優れた強度、つまり0.2%耐力にして130〜250MPaを得るには、下記の点が満足されると良いことがわかった。
微細析出物が形成されること。実施例1と、比較例1〜4から、160MPaを超える0.2%耐力を発現する試料には高体積率の析出物が形成されている。
少なくとも上記の組成のCaを含むこと。実施例1と比較例1の比較から、Caの添加により析出物の体積率が飛躍的に増加する(
図5、15参照)。このことから、析出物の形成には少なくともCaの添加が必要不可欠である。
Znの濃度範囲としては2.0質量%よりも大きく、5.0質量%未満であることが望ましい。さらには、3.0質量%から4.5質量%の範囲であることが望ましい。
【0088】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。