(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加飾シート片を前記被加飾体に密着させる工程が、さらに前記チャンバー内の上部チャンバー側を加圧する工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載のホットスタンプ成形方法。
前記加飾シート片を固定した被加飾体を載置する工程が、さらに当該被加飾体の周囲に枠体を載置する工程を含むことを特徴とする、請求項3または4に記載のホットスタンプ成形方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の各実施形態では、同一又は対応する部分については同一の符号を付して説明を適宜省略する場合がある。また、以下に用いる図面は本実施形態を説明するために用いるものであり、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0017】
(実施形態の概要)
本実施形態に係るホットスタンプ成形装置1は、上部チャンバー102と下部チャンバー104の間を分画シート18や押圧体38で分画することにより、大面積の加飾シートの替わりに、加飾シート片36を用いることができる。加飾シート片36を用いることにより、局所的な熱変形を抑制することが可能となる。そして、加飾シート片36を用いることで、加飾シートの使用量を抑制することができ、加飾が必要な部分に、必要なだけの3次元加飾を実現することができる。
【0018】
(実施形態の詳細)
以下、図を用いて本実施形態の詳細について説明する。
【0019】
(第一の実施形態)
図1に示すように、第一の実施形態に係るホットスタンプ成形装置1は、上部チャンバー102、吊持部12、下部チャンバー104、支持部14、載置台16、加圧タンク24、および真空ポンプ22を備える。また、ホットスタンプ成形装置1は不図示のヒータ20を備える。
【0020】
ホットスタンプとは、加熱した箔(加飾シート)を被加飾体に押圧し、転写する技術を指す。ホットスタンプは箔押しとも呼ばれる。塗装と異なり、ホットスタンプは直接塗工(直接印刷)を必要としない。またホットスタンプは、乾燥工程を必要としないという利点がある。
【0021】
<上部チャンバー102>
上部チャンバー102は、次項の下部チャンバー104とともに、チャンバー10を構成する。チャンバー10は、内部に載置した被加飾体を加工するための筐体である。上部チャンバー102は吊持部12により吊持される。上部チャンバー102は不図示の駆動装置により、上昇および下降することができる。上部チャンバー102が下降して下部チャンバー104と密接することで、チャンバー10内に密閉空間を形成することができる。
【0022】
<下部チャンバー104>
下部チャンバー104はチャンバー10を構成する。下部チャンバー104は内部に支持部14、載置台16を備える。本実施形態において、支持部14は固定されている。しかしながら、支持部14の構造はこれに限られるものではなく、支持部14が駆動装置によって上昇または下降し、載置台16が応動するものであっても良い。
【0023】
<載置台16>
載置台16は下部チャンバー104内に設置される台である。載置台16は支持部14に支持される。載置台16は後述する下治具30や被加飾体32、枠体34を載置する。載置台16は、上下方向に貫通する小さな穴を多数備える。後述する真空ポンプ22がこの小さな穴を通じて載置台16上の空気を除去し、減圧する。
【0024】
<真空ポンプ22>
真空ポンプ22はチャンバー10内を減圧するためのポンプである。真空ポンプ22は下部チャンバー104側から空気を除去する。
図1は真空ポンプ22が通気管を通じて下部チャンバー104と接続されている様子を示す。真空ポンプ22としては、例えば市販の気体輸送式真空ポンプが用いられる。本実施形態の真空ポンプ22は、チャンバー10内を0.06MPa以下に減圧することができる。
なお、真空ポンプ22を通気管により上部チャンバー102と接続し、上部チャンバー102側も減圧できるようにしてもよい。この場合、上部チャンバー102と下部チャンバー104の圧力差を制御することが出来る。
【0025】
<加圧タンク24>
加圧タンク24は、チャンバー10内を加圧するための装置である。本実施形態において、加圧タンク24は上部チャンバー102側から加圧する。
図1は加圧タンク24が通気管を通じてチャンバー10と接続されている様子を示す。上部チャンバー102側を加圧することで、後述する分画シート18や押圧体38に圧が掛かり、加飾シート片36を被加飾体32に密着させる。加圧タンク24としては市販の加圧ポンプが好適に用いられる。本実施形態の加圧タンク24はチャンバー10内を0.1MPa以上に加圧するものであり、好ましくは0.5MPa以上に加圧するものである。
【0026】
<下治具30>
下治具30は被加飾体32を固定するための治具である。
図1に示すように、下治具30は載置台16上に載置される。被加飾体32の形状に合わせ、下治具30の形状は適宜変更することができる。
【0027】
<被加飾体32>
被加飾体32は加飾の対象となる部材である。被加飾体32は立体形状を有しており、一部または全体に凸形状や凹形状を有してもよい。被加飾体32として例えば、自動車のラジエータグリルやエアコンの吹出口、センターパネルなどが挙げられる。
図2に示すように、被加飾体32は下治具30に固定される。
【0028】
<枠体34>
枠体34は上下方向が開放された、上面視で四角形の枠である。
図3に示すように、枠体34は載置台16上に載置され、また、枠体34は被加飾体32を囲うように配設される。枠体34の高さは、加飾フィルムが固定された被加飾体32よりも高くなるよう設計される。
なお、枠体34の上面視形状は四角形に限られるものではなく、例えば円形や、四角以外の多角形であってもよい。
【0029】
被加飾体32周囲に枠体34を配設することにより、後述する押圧体38が加飾シート片36を真上から押圧することができ、均一な加飾が可能になるという利点がある。また、被加飾体32周辺に押圧体38、枠体34、載置台16で囲われた閉鎖空間が形成されることにより、被加飾体32周辺の減圧が効率的に行われる。さらに、被加飾体32の物理的な強度が高くない場合に、被加飾体32に過大な圧力が掛かることを抑制し、被加飾体32を保護するという利点もある。
【0030】
<ヒータ20>
ヒータ20は加飾シート片36を加熱するための加熱装置である。例えば、ヒータ20は上部チャンバー102の内側上部に配設され、チャンバー10内部全体を加熱する。ただし、これに限られるものではなく、他の部位に備え付けられていても良い。例えば、ヒータ20は下部チャンバー104に配設されていても良い。またその他の例として、ヒータ20が電熱線を備えており、この電熱線を上記枠体34に巻き付けることで枠体34周辺を加熱するようにしても良い。この場合、枠体34内部に配設される加飾シート片36を選択的かつ効率的に加熱できるという利点がある。
【0031】
<加飾シート片36>
加飾シート片36は、被加飾体32の加飾部分の大きさに合わせてあらかじめ裁断された加飾シートである。加飾シート片36は意匠性のある表面部を具備する。また加飾シート片36は、複数の層を備える。本実施形態における加飾シート片36は、少なくとも接着層、装飾層、および保護層を備える。接着層は加熱条件下において被加飾体に接着する層である。接着層として例えば、熱可塑性接着剤や、粘着剤が挙げられる。装飾層は加飾後の被加飾体の意匠性に寄与する層である。装飾層には例えば、木目調や石目調、光沢調の意匠が印刷、及び蒸着される。保護層は加飾シート片の表面を保護する層である。当該保護層により、被加飾体は耐傷性や耐候性を得ることができる。
【0032】
図4に示すように、加飾シート片36は被加飾体32上に固定される。即ち、被加飾部分に少なくとも一つの加飾シート片36が固定される。被加飾体32上に加飾シート片36を固定する方法は任意の方法が用いられる。例えば、クリップやピンのような固定器具により固定する方法や、粘着テープのような粘着体で固定する方法が用いられる。枠体34を用いる場合、加飾シート片36の大きさは、枠体34と同等か、枠体34よりも小さい。
【0033】
加飾シート片36を用いることで加飾シートの使用量を節約できる。例えば被加飾体32と被加飾体32の間など、加飾を要しない部分に加飾シート片36を用いる必要がないためである。また、2以上の加飾部位が近接する場合において、当該2箇所の加飾部位を1枚の加飾シートで加飾すると、それぞれの加飾部に掛かる応力により、加飾のずれが生じる可能性がある。これに対し、それぞれの加飾部位に別個独立した加飾シート片36を用いることで、加飾シート同士が相互作用せず、加飾のずれを抑制できる。
【0034】
<押圧体38>
押圧体38は加飾シート片36を被加飾体32に押圧するための弾性体である。押圧体38は枠体34の上側を覆うように配設される。
図5は押圧体38が枠体34上に架設された状態を示す。下治具30、被加飾体32、および被加飾体32上の加飾シート片36は、載置台16、枠体34および押圧体38に囲われた空間内に包含される。
後述するチャンバー内の圧変化工程において、押圧体38は加飾シート片36を物理的に押圧し、加飾シート片36と被加飾体32を密着させる。
【0035】
押圧体38を構成する素材として例えば、アクリル(メタクリル)樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴムなどのゴム、またはアルミニウムなどの金属薄膜、が好適に用いられる。このような素材を用いることにより、押圧体38はチャンバー内の圧変化工程において変形することができる。
【0036】
<分画シート18>
分画シート18は上部チャンバー102と下部チャンバー104を分画するシートである。
図6に示すように、分画シート18は上部チャンバー102の開口部を覆うように配設される。本実施形態において、分画シート18は上部チャンバー102端部に固定される。
分画シート18は気密性を保つため、空気を通さない素材が用いられる。分画シート18を構成する素材として例えば、アクリル(メタクリル)樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴムなどのゴム素材が好適に用いられる。
なお、後述する変形例のように(
図13、
図14)、押圧体38と分画シート18は一体化させても良い。
【0037】
分画シート18は、後述するチャンバー10内の圧変化工程において、上部チャンバー102と下部チャンバー104との間の圧力差を維持する。加飾シートにより上部チャンバー102と下部チャンバー104を分画する場合と比較すると、加飾機能を有しない分画シート18を別途用いることで、加飾シートを節約できる利点がある。
【0038】
<真空成形方法>
本実施形態のホットスタンプ成形方法は、上述のホットスタンプ成形装置1を使用して被加飾体32の表面に加飾シート片36を密着させて成形する真空成形方法であって、以下の工程を備える。以下、図を参照しつつ説明する。
【0039】
(1)上部チャンバー102と下部チャンバー104を備えるチャンバー10内に、加飾シート片36を固定した被加飾体32を載置する工程、
(2)前記上部チャンバー102と下部チャンバー104を密接させ、チャンバー10を密閉する工程、
(3)前記加飾シート片36を加熱した状態で前記チャンバー10内を減圧し、前記加飾シート片36を前記被加飾体32に密着させる工程、
(4)チャンバー10内の上部チャンバー102側を加圧する工程、
(5)加圧・減圧状態を解除し、チャンバー10を開放して加工後の被加飾体32を取り出す工程
【0040】
(1)上部チャンバー102と下部チャンバー104を備えるチャンバー10内に、加飾シート片36を固定した被加飾体32を載置する工程
図1はチャンバー10内部の載置台16上に、下治具30を載置した状態を示す。下治具30を用いることにより、後述する被加飾体32が加飾中に移動し、加飾部分にずれが生じることを防ぐ。図に示すように、下治具30は載置台16上に複数載置することができる。
なお、本実施形態では下治具30を用いる方法を説明するが、被加飾体32が加工中に移動等せず、安定するのであれば、下治具30は用いなくてもよい。
【0041】
図2は下治具30に被加飾体32を固定した状態を示す。被加飾体32を下治具30に固定する方法は任意の方法が用いられる。例えば、被加飾体32と下治具30が嵌合して固定する方法であっても良いし、クリップやピンのような固定器具や粘着テープのような粘着体を用いて固定する方法でも良い。
【0042】
図3は固定した被加飾体32の周辺に枠体34を載置した状態を示す。枠体34は被加飾体32を囲うように配設される。なお、枠体34を用いない例については後述する。1つの被加飾体32に対して1つの枠体34を用いるが、これに限られるものではなく、複数の被加飾体32に対して1つの枠体34を用いても良い。1つの被加飾体32に対して1つの枠体34を用いると、押圧体38による圧を真上から掛けることができる。これにより、加飾シート片36に意図しない方向からの圧が掛かって加飾位置がずれることが抑制される。
【0043】
図4は被加飾体32上に加飾シート片36を固定した状態を示す。加飾シート片36は被加飾体32に接するように固定される。被加飾体32上に加飾シート片36を固定する方法は任意の方法が用いられる。例えば、クリップやピンのような固定器具により固定する方法や、粘着テープのような粘着体で固定する方法が用いられる。
【0044】
図5は加飾シート片36の上側に押圧体38を配設した状態を示す。本実施形態では、枠体34上に押圧体38を架設している。なお、図中の加飾シート片36と押圧体38の間に隙間があるが、これに限られるものではなく、押圧体38は加飾シート片36に接触していても良い。
【0045】
図6は上部チャンバー102端部に分画シート18を固定した状態を示す図である。上述の通り、分画シートは上部チャンバー102と下部チャンバー104の圧力差を維持する。
なお、分画シートはこの段階で取り付けるのではなく、あらかじめ上部チャンバー102に固定していても良い。
【0046】
本実施形態において、下治具30に被加飾体32を固定した後に加飾シート片36を固定しているが、加飾シート片36を被加飾体32に固定した後に下治具30に固定しても良い。
【0047】
(2)前記上部チャンバー102と下部チャンバー104を密接させ、チャンバー10を密閉する工程
図7はチャンバー10を密閉した状態を示す。
図7中の白抜き矢印は、上部チャンバー102が下降したことを示す。本実施形態では、上部チャンバー102を下降させ、下部チャンバー104と密接させる。このとき、上部チャンバー102と下部チャンバー104で形成された内部空間は密閉された状態であり、気密性を有する。また、分画シート18は上部チャンバー102と下部チャンバー104を分画し、上部チャンバー102と下部チャンバー104間で空気の移動は生じない。なおこの状態において、分画シート18は押圧体38と接触し、緊張状態にあることが好ましい。押圧体38を固定するためである。
【0048】
(3)前記加飾シート片36を加熱した状態で前記チャンバー10内を減圧し、前記加飾シート片36を前記被加飾体32に密着させる工程
図8は加飾シート片36を加熱した状態を示す。不図示のヒータ20によってチャンバー10内部を加熱する。熱可塑性を有する加飾シート片36が加熱により柔らかくなり、被加飾体32に密着しやすくなる。
加飾シート片36が加工しやすくなる温度は素材によって異なるが、通常この工程におけるチャンバー10内部の温度は90度から200度になるよう設定され、特に100度から140度の間が好適に用いられる。
【0049】
図9はチャンバー10内を減圧した状態を示す図である。本工程では、真空ポンプ22が下部チャンバー104内を減圧する。載置台16に複数の穴が開いているため、押圧体38、枠体34、載置台16で囲われる被加飾体32周辺の空間(以後「被加飾体周辺空間」と呼称する)が減圧される。
なお本実施形態において減圧とは、下部チャンバー104内部が0.06MPa以下になることを意味する。
【0050】
減圧により、被加飾体32と加飾シート片36の間から空気が抜けるため、被加飾体32と加飾シート片36が密着する。
また、被加飾体周辺空間が減圧されることにより、弾性を有する押圧体38は、被加飾体周辺空間の体積が小さくなるよう変形する。この結果、押圧体38が加飾シート片36を押圧するため、被加飾体32と加飾シート片36がさらに密着する。
【0051】
本実施形態において加飾シート片36を加熱した後にチャンバー10内を減圧しているが、これに限られたものではなく、加飾シート片36の加熱とチャンバー10内の減圧は同時に行っても良いし、チャンバー10内を減圧してから加飾シート片36を加熱しても良い。ただし、加飾シート片36を加熱した後にチャンバー10内を減圧した方が、作業効率的に好ましい。
【0052】
(4)チャンバー10内の上部チャンバー102側を加圧する工程
図9に示すように、チャンバー10には加圧タンク24に接続されている。本実施形態におけるホットスタンプ成形装置1は分画シート18を備えているため、分画シート18より上側と下側で圧の状態を変えることができる。
本実施形態において、まず上部チャンバー102側の減圧状態を解除することにより、押圧体38が加飾シートを強く押圧する。その後、加圧タンク24を用いて上部チャンバー102側を加圧状態にする。この加圧により、押圧体38が加飾シート片36をさらに強く押圧するため、加飾シート片36と被加飾体32はより強力に密着する。
なお、本項の加圧工程が無くても加飾シート片36と被加飾体32は密着するが、加圧工程を加えることにより加飾シート片36と被加飾体32は強力に密着する。
【0053】
なお本実施形態において、上部チャンバー102内は0.1MPa以上0.8MPa以下に設定される。加飾シート片36を被加飾体32に密着させる観点から、0.5MPa以上0.8MPa以下であることが好ましい。
【0054】
本実施形態において、所望の圧力になるまでチャンバー内を減圧し、または加圧する。例えば一つの実施形態において、減圧時間は1分間であり、加圧時間は1分間である。これより長くしても密着の程度は変化しない。
【0055】
(5)加圧・減圧状態を解除し、チャンバー10を開放して加工後の被加飾体32を取り出す工程
図10は減圧・加圧状態を解除し、チャンバー10内を常温に戻して開放した状態を示す。
図10中の白抜き矢印は、上部チャンバー102が上昇したことを示す。上記所定の減圧・加圧時間経過後は、減圧・加圧状態を解除し、被加飾体周辺空間を常圧に戻す。また、チャンバー10を開放することで、被加飾体32を冷却(放冷)する。
なおここで、加飾シート片36の余剰部分を除去する工程を加えても良い。例えば、抜型やレーザーカットを用いて余剰部分を除去することができる。
【0056】
以上に述べたように、 本実施形態に係るホットスタンプ成形装置1は、上部チャンバー102と下部チャンバー104の間を分画シート18や押圧体38で分画することにより、大面積の加飾シートの替わりに、加飾シート片36を用いることができる。加飾シート片36を用いることにより、局所的な熱変形を抑制することが可能となる。また、加飾シート片36を用いることで、加飾シートの使用量を抑制することができ、加飾が必要な部分に、必要なだけの3次元加飾を実現することができる。さらに、加飾シート片36を用いることができるため、被加飾体32に求められる耐傷性を付与することができる。
【0057】
本実施形態に係る成形装置、成形方法は、車両部品の加飾に好適に用いられる。具体的には、スポイラー、サイドスカート、バンパー、コンビネーションランプ、ヘッドランプ、フェンダー、インスツルメントパネル、ホイール、トップカウリング、ラジエータグリルの加飾に好適に用いられる。これらの部品は複雑な立体形状を有し、かつ加飾を要する部分と加飾を要しない部分が明確に分かれるためである。スポイラー、コンビネーションランプ、ヘッドランプなどの小型の部品の場合、大判の加飾シートを用いると加飾シートの不要部分が多くなるため、特に本実施形態の成形装置、成形方法が有効に用いられる。
【0058】
(第二の実施形態)
第二の実施形態は、複数の被加飾部分を備える被加飾体32に、複数の独立した加飾シート片36を固定し、加飾するものである。
【0059】
図11は、2組の枠体34と押圧体38が載置された状態を示す。1つの枠体34内部には、2箇所の加飾部分を備える被加飾体32が1つ載置されている。また、2箇所の加飾部分のそれぞれに、独立した加飾シート片36が固定される。なお、2箇所の加飾部分のそれぞれに異なる意匠の加飾シート片36を用いることもできるため、デザイン設計の自由度が向上する。
ここで、
図11はチャンバー10を密閉する前の状態を示している。第一の実施形態の説明における
図6に対応する。ホットスタンプ成形方法は上述した方法と同様であるため省略する。
【0060】
独立した複数の加飾シート片36を用いることで、加飾が必要な部位にのみ加飾を施すことができる。載置台16全面を覆う大きさの加飾シートを用いる場合と比べ、加飾シートを節約することが可能となる。
【0061】
(第三の実施形態)
第三の実施形態も第二の実施形態と同様、複数の加飾部分を備える被加飾体32に、複数の独立した加飾シート片36を固定し、加飾するものである。
【0062】
図12は1つの枠体34内に複数の加飾部分を備える1つの被加飾体32を載置した状態を示す。本実施形態において、1つの枠体34内に4か所の加飾部分を備える被加飾体32を載置台16上に載置する。4か所の加飾部分のそれぞれに、独立した別個の加飾シート片36を固定することができる。
ここで、
図12はチャンバー10を密閉する前の状態を示している。第一の実施形態の説明における
図6の状態に対応する。ホットスタンプ成形方法は上述した方法と同様であるため省略する。
【0063】
このようなホットスタンプ成形方法が適する被加飾体32の例として、車両のラジエータグリルなどが挙げられる。
ラジエータグリルの様に、被加飾体の基体部分が占める面積が大きい一方で、加飾部分の面積が小さい被加飾体の場合、スプレー塗装では加飾不要な部位にも加飾されてしまう可能性がある。また、被加飾部分よりも加飾部分の面積が小さいラジエータグリルの形状を鑑みると、不要な塗装を防ぐマスキング自体が大掛かりになる。さらに、加飾シートを用いた加飾であっても、ラジエータグリルのように作業面積が大きく、かつ加飾部分が全体として曲面を備える被加飾体の場合、大判の加飾シートを用いて加飾すると、被加飾体の中心部分と周辺部分で加飾態様に差異が生じてしまうという問題があった。
【0064】
よって、被加飾体が、基体部分と、当該基体部分より突出する複数の被覆部を兼ね備える場合、加飾シート片36を用いる本実施形態のホットスタンプ成形方法は特に有効な加飾方法となる。基体部分と、当該基体部分より突出する複数の被覆部を兼ね備えるという点で、フォグランプカバーの加飾にも本実施形態の成形方法が好適に用いられる。
【0065】
本実施形態のホットスタンプ成形方法であれば、100マイクロメートル以上の膜厚を備える加飾シート片36を用いることができるため、1回の加工で上記要件を満たす耐傷性をラジエータグリルに付与することが可能となる。
また、被加飾体の形状に合わせて加飾シート片を用意できるため、被加飾体の中心部分と周辺部分の加飾に差異が生じにくいという利点もある。
【0066】
(変形例)
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
以下の変形例で参照する図面は、いずれもチャンバー10を密閉する前の状態を示している。第一の実施形態の説明における
図6の状態に対応する。
【0067】
(変形例1)
図13は本実施形態の変形例を示したものである。上述の実施形態では、押圧体38と分画シート18が別々に用意されていた。しかし、これに限られるものではなく、
図13に示すように、押圧体38と分画シート18が一体になっていても良い。これは、分画シート18の所定の位置に押圧体38を埋め込んだものである。この場合、同一の枠体34を用いて連続して加飾を行う際に、毎回押圧体38を配設しなくても良いという利点がある。
【0068】
(変形例2)
図14に示すように、押圧体38を複数用意するのではなく、押圧体38を分画シート18と一体化させ、1枚にしても良い。この場合、連続して加飾を行う際に、毎回押圧体38を配設しなくても良いという利点がある。さらに、押圧時に押圧体38と枠体34とのずれが生じにくくなるという利点がある。
【0069】
(変形例3)
図15に示すように、枠体34を用いずに加飾することもできる。この場合、枠体34を載置する工程を省くことができるという利点がある。本変形例において、載置台16の縁部分に載置する被加飾体32と、載置台16の中央部分に載置する被加飾体32では、押圧体38に掛かる圧力に差が生じるため、そのような差異が大きく影響しない被加飾体32の加飾に有効に用いられる。例えば、被加飾体32が少数の場合の加飾である。
【0070】
(変形例4)
図16に示すように、分画シート18を上部チャンバー102ではなく、下部チャンバー104に固定しても良い。この場合、上部チャンバー102の下降時に押圧体38がずれることを防ぐことができるという利点がある。
【0071】
上述した実施形態において、加飾シート片36は少なくとも接着層、装飾層、および保護層を備えていたが、意匠性や耐傷性を向上させるための機能性素材をさらに含んでいても良い。例えば、加飾シート片36の耐傷性を向上させるためのフィラーや、意匠性を向上させるための金属微粒子などが挙げられる。
【0072】
本実施形態において、減圧工程の完了後に加圧工程を開始しているが、この2つの工程を明確に区切る必要はなく、被加飾体の特性に応じて適宜調整しても良い。例えば、減圧工程がある程度進んだところで、下部チャンバー104側の減圧を進めつつ、上部チャンバー102側の減圧を解除し、上部チャンバー102側を加圧しても良い。このような調整により、工程時間を短くすることができる。
【課題】被加飾体が加飾を要する面積に関わらず、加飾シートの中央部で局所的な熱変形や、エアー溜りやしわが発生することを抑制する、ホットスタンプ成形装置およびホットスタンプ成形方法を提供する。
【解決手段】上部チャンバー102と下部チャンバー104の間を分画シート18や押圧体38で分画することにより、大面積の加飾シートの替わりに、加飾シート片36を用いることができる。そして、加飾シート片36を用いることにより、局所的な熱変形を抑制することが可能となり、また、加飾シートの使用量を抑制することができ、加飾が必要な部分に、必要なだけの3次元加飾を実現することができる、ホットスタンプ成形装置1である。