(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
石油精製時の回収等で生産される硫黄は、硫酸等の工業製品、ゴム等の添加剤、肥料等の多岐にわたる用途に使用される。しかし、これらの用途で消費される硫黄の量は、硫黄の生産量を下回っており、余剰の硫黄の保管が問題となっている。そこで、硫黄の新たな用途が検討され、硫黄が二次電池の正極の材料として利用されるようになった。硫黄の理論電池容量は、リチウム二次電池の正極活物質として通常使用されているLiCoO
2の理論電池容量より大きい。そのため、リチウム又はナトリウムが負極の材料とされ、硫黄が正極活物質とされる二次電池が数多く報告されている。このうち、ナトリウム−硫黄電池は実用化されているが、硫黄正極の活性が高められるよう、その動作温度が300℃と高温になる必要があり、電池デバイス自体の大きさとも相俟って、通常の環境下で使用され難い。更に、硫黄正極を備える二次電池の充放電が繰り返されると、硫黄が電解液中に溶出して電池を構成する金属と化学反応し金属硫化物を生成するため、電池容量が低下し、二次電池の寿命は短かった。
【0003】
そこで、含硫黄材料の、金属硫化物の電解液への溶出が抑制された正極活物質としての使用が提案され、分子状硫黄(S
8)とビニル化合物とのラジカル重合(逆加硫)によって合成された含硫黄材料が検討された(例えば、非特許文献1参照)。更に、特定のジアリル化合物又は炭素数5〜20のアルキル基を有する特定のモノアリル化合物と分子状硫黄(S
8)が混合され加熱されて得られる含硫黄ポリマーが正極の材料として使用される二次電池(例えば、特許文献1参照)、イオン性基を有する特定のモノアリル化合物と分子状硫黄(S
8)が混合され加熱されて得られる含硫黄ポリマーが正極の材料として使用される二次電池(例えば、特許文献2参照)が検討された。
【0004】
近年、二次電池の正極として利用可能な含硫黄材料の硫黄含有量の更なる増大が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされており、本発明が解決しようとする課題は、硫黄含有量が大きな、二次電池の正極活物質として利用可能な含硫黄樹脂の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ジチオール化合物と分子状硫黄(S
8)を反応させて得られる含硫黄樹脂の硫黄含有量は大きく、当該含硫黄樹脂は二次電池の正極活物質として利用可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は
[1]以下の式(1)
【化1】
(式中、Rは置換又は非置換の直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基、主鎖中に−O−を1以上有する置換若しくは非置換の直鎖又は分岐の炭素数2〜20のアルキレン基、置換又は非置換の芳香族基、置換又は非置換の炭素数3〜7のシクロアルキレン基からなる群より選ばれるいずれか1つを表す。Xは1以上の正の整数を表し、各単位中のXの数は異なっていてよい。)で表される繰り返し単位を有する含硫黄樹脂に関する。更に、本発明は、
[2]Rは直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基、−CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2−、−CH
2CH
2OCH
2CH
2−からなる群より選ばれるいずれか1つを表す、[1]に記載されている含硫黄樹脂、
[3]含硫黄樹脂に対する硫黄含有量が50〜95質量%である、[1]又は[2]に記載されている含硫黄樹脂、
[4][1]〜[3]のいずれかに記載されている含硫黄樹脂を含有する二次電池用正極、
[5][4]に記載されている二次電池用正極を備える二次電池、
[6]以下の式(2)
HS−R−SH (2)
(式中、Rは置換又は非置換の直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基、主鎖中に−O−を1以上有する置換若しくは非置換の直鎖又は分岐の炭素数2〜20のアルキレン基、置換又は非置換の芳香族基、置換又は非置換の炭素数3〜7のシクロアルキレン基からなる群より選ばれるいずれか1つを表す。)で表されるジチオール化合物と分子状硫黄(S
8)を反応させる、含硫黄樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の含硫黄樹脂は、融解された分子状硫黄(S
8)とジチオール化合物の1段階の反応で合成される。本発明の含硫黄樹脂は熱可塑性を示し、低いガラス転移温度を有しているから、その成形性は高く、本発明の含硫黄樹脂の成形体にひび割れ、切断等の破損が生じても加熱プレスにより修復される。更に、本発明の含硫黄樹脂の硫黄含有量は大きく、二次電池の正極活物質として利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の含硫黄樹脂は、以下の式(2)
HS−R−SH (2)
(式中、Rは置換又は非置換の直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基、主鎖中に−O−を1以上有する置換若しくは非置換の直鎖又は分岐の炭素数2〜20のアルキレン基、置換又は非置換の芳香族基、置換又は非置換の炭素数3〜7のシクロアルキレン基からなる群より選ばれるいずれか1つを表す。)で表されるジチオール化合物と分子状硫黄(S
8)を反応させて製造される。
【0013】
上記「置換又は非置換の直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基」の「直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基」は、二価の飽和の炭素数1〜20の炭素鎖である。当該アルキレン基として、具体的には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン、トリデシレン、テトラデシレン、ペンタデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン、ノナデシレン、イコシレン等が挙げられる。
【0014】
上記「置換又は非置換の直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基」の置換基は、水酸基、フッ素原子、下記に示す芳香族基、ジアルキルアミノ基、アルキルオキシカルボニル基、アルコキシ基、含窒素ヘテロ環基等である。上記ジアルキルアミノ基、アルキルオキシカルボニル基、及びアルコキシ基におけるアルキルは、直鎖又は分岐の炭素数1〜4のアルキルであり、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチルである。上記含窒素ヘテロ環基は、具体的には、ピロリジン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、オキサゾリジン、イソオキサゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等である。
【0015】
上記「主鎖中に−O−を1以上有する置換若しくは非置換の直鎖又は分岐の炭素数2〜20のアルキレン基」として、具体的には、−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−ペンチレン−、−エチレン−O−へキシレン−、−エチレン−O−ヘプチレン−、−エチレン−O−オクチレン−、−エチレン−O−ノニレン−、−エチレン−O−デシレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−エチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−ペンチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−ヘキシレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−ヘプチレン−、−エチレン−O−ブチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−ペンチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−ブチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−ブチレン−O−ペンチレン−、−エチレン−O−ブチレン−O−ヘキシレン−、−エチレン−O−ペンチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−ペンチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−ペンチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−ペンチレン−O−ペンチレン−、−エチレン−O−ヘキシレン−O−エチレン−、−エチレン−O−ヘキシレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−ヘキシレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−ヘプチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−ヘプチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−オクチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−ペンチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−O−ペンチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−ブチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−ブチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−エチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−ペンチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−ペンチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−エチレン−O−ヘキシレン−O−エチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−エチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−エチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−エチレン−O−ペンチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−プロピレン−O−エチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−ブチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−プロピレン−O−ペンチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−ブチレン−O−エチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−ブチレン−O−エチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−ブチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−ブチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−プロピレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−ブチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−O−エチレン−、−プロピレン−O−ブチレン−、−プロピレン−O−ペンチレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−へキシレン−、−プロピレン−O−へキシレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−ヘプチレン−、−プロピレン−O−ヘプチレン−、−プロピレン−O−ノニレン−、−プロピレン−O−エチレン−O−プロピレン−、−プロピレン−O−エチレン−O−ブチレン−、−プロピレン−O−エチレン−O−ペンチレン−、−プロピレン−O−エチレン−O−ヘキシレン−、−プロピレン−O−エチレン−O−ヘプチレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−ブチレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−ペンチレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−ヘキシレン−、−プロピレン−O−ブチレン−O−プロピレン−、−プロピレン−O−ブチレン−O−ブチレン−、−プロピレン−O−ブチレン−O−ペンチレン−、−プロピレン−O−ペンチレン−O−プロピレン−、−プロピレン−O−ペンチレン−O−ブチレン−、−プロピレン−O−ヘキシレン−O−プロピレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−、−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−O−プロピレン−、−ブチレン−O−ブチレン−、−ブチレン−O−ペンチレン−、−ブチレン−O−ヘキシレン−、−ブチレン−O−ヘプチレン−、−ブチレン−O−オクチレン−、−ブチレン−O−エチレン−O−ブチレン−、−ブチレン−O−プロピレン−O−ブチレン−、−ブチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−、−ブチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−、−ブチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−O−ブチレン−、−ペンチレン−O−ペンチレン−、−ペンチレン−O−へキシレン−、−ペンチレン−O−へキシレン−、−ペンチレン−O−ヘプチレン−、−ペンチレン−O−エチレン−O−ペンチレン−、−ペンチレン−O−ペンチレン−O−ペンチレン−、−ペンチレン−O−ペンチレン−O−ペンチレン−O−ペンチレン−、−へキシレン−O−へキシレン−、−へキシレン−O−へキシレン−O−へキシレン−、−ヘプチレン−O−ヘプチレン−、−オクチレン−O−オクチレン−、−ノニレン−O−ノニレン−、−デシレン−O−デシレン−等が挙げられる。
【0016】
上記「主鎖中に−O−を1以上有する置換若しくは非置換の直鎖又は分岐の炭素数2〜20のアルキレン基」の置換基は、上記「置換又は非置換の直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基」の置換基と同様である。
【0017】
上記「−O−を1以上有する置換又は非置換の直鎖又は分岐の炭素数2〜20のアルキレン基」の置換基が、水酸基、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、含窒素ヘテロ環基等であるとき、好ましくは、上記置換基が酸素原子に結合した炭素原子に存在しない。
【0018】
上記「置換又は非置換の芳香族基」の「芳香族基」は、二価の芳香族環である。芳香族環は、単環又は多環の炭素数6〜10のアリール基、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を1〜4個有する5〜7員の単環又は多環のヘテロアリール基、及び、ベンゼン環とヘテロ原子として窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を1〜4個有する5〜7員の複素環が縮合した縮合環からなるヘテロアリール基を包含する。
【0019】
芳香族環として具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、ピレン、ピロール、フラン、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、イソインドール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾイソキサゾール、ベンズイソチアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンズチアジアゾール、ピロロピリジン、ピロロピラジン、プリン、キノリン、イソキノリン、シノリン、キナゾリン、キノキサリン等が挙げられる。
【0020】
上記「置換又は非置換の炭素数3〜7のシクロアルキレン基」は、二価の環状アルキレン基である。上記「置換又は非置換の炭素数3〜7のシクロアルキレン基」として、具体的には、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン等が挙げられる。
【0021】
上記「置換又は非置換の芳香族基」及び上記「置換又は非置換の炭素数3〜7のシクロアルキレン基」の置換基として、上記「置換又は非置換の直鎖の炭素数1〜20のアルキレン基」の置換基と同様の置換基が挙げられる。
【0022】
本発明の含硫黄樹脂の製造方法は特定の方法に限定されない。当該製造方法の具体例は以下のとおりである。
分子状硫黄(S
8)は、有機溶媒に不溶又は溶解しづらいため、本発明の含硫黄樹脂合成の第一段階は、硫黄の反応容器中での加熱による融解である。硫黄は多くの同素体(S
8、S
6、S
12、S
18、S
20等)を持ち、それぞれが融点を有する。硫黄の最安定な同素体は環状構造をした分子状硫黄(S
8)であり、分子状硫黄(S
8)は3つの結晶形(α硫黄、β硫黄及びγ硫黄)をもち、それらの融点はそれぞれ112.8℃、119.6℃、106.8℃である。そのため、120℃以上の温度での加熱が分子状硫黄(S
8)の融解のために必要である。また、分子状硫黄(S
8)は安定構造のα硫黄から温度の上昇とともにβ硫黄、λ硫黄、μ硫黄へと転移していき、159.4℃以上で環状硫黄のラジカル開裂が進み、2価のラジカルができる。このようにして、分子状硫黄(S
8)は159.4℃以上の温度でラジカルを発生するため、融解温度は上記温度より低く設定する必要がある。分子状硫黄(S
8)の融解温度は、好ましくは120℃〜155℃、より好ましくは135℃〜155℃、更に好ましくは145℃〜155℃、最も好ましくは150℃〜155℃である。
【0023】
次いで、上記式(2)で表されるジチオール化合物が溶融された分子状硫黄(S
8)に加えられ、ジスルフィド−チオール交換反応が行われ、上記式(1)で表される本発明の含硫黄樹脂が1段階で合成される。その際、上記式(2)で表されるジチオール化合物が溶融された分子状硫黄(S
8)に均一に分散されるよう、反応中、攪拌が行われてよい。
【0024】
上記ジスルフィド−チオール交換反応の温度は、分子状硫黄(S
8)が融解している温度範囲であり、好ましくは120℃〜155℃、より好ましくは135℃〜155℃、更に好ましくは145℃〜155℃、最も好ましくは150℃〜155℃である。
【0025】
本発明の含硫黄樹脂は、式(1)
【化2】
で表わされる繰り返し単位を有する。ここで、Rは上記式(2)で表わされるジチオール化合物におけるRと同じである。
Xは、1以上の正の整数を表し、各単位中のXの数は異なっていてよい。Xの上限値は32である。
【0026】
本発明の含硫黄樹脂は、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒に可溶である。上記方法で合成された本発明の含硫黄樹脂は通常精製される必要はないが、高純度の含硫黄樹脂が必要とされる場合、反応生成物が上記有機溶媒に溶解され、ろ過されて、有機溶媒に不溶の硫黄が除かれる。また、ろ過後の溶液が、ゲルろ過クロマトグラフィー等の分子ふるいに供され、樹脂とモノマーが分離される。
【0027】
更に、本発明の含硫黄樹脂の構造が、NMR測定、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)/TOFMS(飛行時間型質量分析計)、IR測定等の分光学的手法により確認される。
【0028】
本発明の含硫黄樹脂に対する硫黄含有量は、好ましくは60〜98質量%であり、より好ましくは70〜95質量%であり、更に好ましくは80〜95質量%である。
本発明の含硫黄樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは300〜20000、更に好ましくは1000〜10000、最も好ましくは2000〜5000である。また、本発明の含硫黄樹脂の数平均分子量(Mn)は、GPCによって測定され得る。
【0029】
本発明の含硫黄樹脂における、分子状硫黄(S
8)と上記式(2)で表される化合物とのモル比は、好ましくは1:0.01〜1:100であり、より好ましくは、1:0.05〜1:20であり、更に好ましくは1:0.25〜1:10である。
【0030】
本発明の含硫黄樹脂はガラス転移温度を有する。当該ガラス転移温度は、上記式(2)で表される化合物の構造により大きく異なる。本発明の含硫黄樹脂のガラス転移温度は、好ましくは40℃〜−55℃、より好ましくは30℃〜−50℃、更に好ましくは20℃〜−50℃である。本発明の含硫黄ポリマーのガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)のような周知技術によって測定され得る。
本発明の含硫黄樹脂は高い弾性を有し、建築、自動車産業等のエラストマー、ゴム材料として利用され得る。
【0031】
更に、本発明の含硫黄樹脂は熱可塑性を示し、導電助剤と混練され、二次電池用正極に成形され得る。導電助剤として、具体的には、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛等の炭素粉末;アルミニウム、チタン等の正極電位において安定な金属の微粉末等が挙げられる。
【0032】
本発明の二次電池用正極が含有する本発明の含硫黄樹脂と導電助剤の配合割合は、本発明の含硫黄樹脂:導電助剤(質量比)として好ましくは1〜20:1であり、より好ましくは5〜10:1である。
【0033】
本発明の二次電池用正極が成形される際、バインダーが本発明の含硫黄樹脂及び導電助剤と共に混練されてよい。バインダーの具体例として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
【0034】
本発明の二次電池用正極を備える本発明の二次電池の負極の好ましい材料は、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、及びナトリウムから選ばれるいずれか一つであり、より好ましい当該材料はリチウムである。
【0035】
本発明の二次電池の集電体は、二次電池用正極で一般に用いられる集電体である。本発明の二次電池の集電体として、具体的には、ステンレス箔、ステンレスメッシュ、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボン不織布、カーボン織布等が挙げられる。好ましい集電体はステンレスメッシュである。
【0036】
本発明の二次電池の電解質は、二次電池で一般に用いられる電解質である。本発明の二次電池の電解質として、具体的には、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、3−メトキシプロピオニトリル、メトキシアセトニトリル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチルロラクトン、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、1,3−ジオキソラン、メチルホルメート、2−メチルテトラハイドロフラン、3−メトキシ−オキサゾリデン−2−オン、スルホラン、テトラハイドロフラン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、水等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合されて使用される。好ましい電解質は1,2−ジメトキシエタンと1,3−ジオキソランが1:1(体積比)で混合されている混合物である。
【0037】
本発明の二次電池の形状は制限されない。本発明の二次電池は、コイン形、ボタン形、シート形、積層形、円筒形、偏平形、角形、電気自動車等に用いる大型二次電池であり得る。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲は、これらに限定されない。合成された含硫黄樹脂の分析方法は以下のとおりである。
【0039】
(1)
1H NMR分析及び
13C NMR分析
試料が溶媒である重水素化クロロホルムに濃度0.1Mとなるように溶解され、日本電子(株)製JNM-ECA(
1H NMR、
13C NMR)により、内部標準物質としてトリメチルシランを用いて測定された。
【0040】
(2)示差走査熱量(DSC)分析
(株)日立ハイテクノロジーズ製DSC7020が使用され、試料が昇温速度10℃/minで加熱され、分析された。
【0041】
(3)熱重量測定
(株)島津製作所製Thermo Plus Evo IIが使用され、試料樹脂が昇温速度10℃/minで加熱され、分析された。
【0042】
実施例1
分子状硫黄(S
8)(キシダ化学(株)製)3質量部とジチオール化合物であるビス(2−メルカプトエチル)エーテル(BMEE)(TCI(株)製)0.809質量部(分子状硫黄とジチオール化合物のモル比=2:1)がサンプル瓶に加えられ、155℃で5時間攪拌された。その後、反応生成物が室温になるまで放置され、固化された樹脂[S−BMEE(0.5)]が回収された。BMEE、S−BMEE(0.5)が試料とされ、
1H NMR分析、
13C NMR分析及び熱重量測定が行われた。
1H NMRスペクトル、
13C NMRスペクトル、熱重量測定の結果が、それぞれ、
図1、
図2、
図3に示されている。
【0043】
図1より、BMEEの末端のSH基に由来するピークが、S−BMEE(0.5)のスペクトルからほぼ消失していることが分かる。
図2より、BMEEの−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−骨格が、S−BMEE(0.5)にあることが分かった。よって、S−BMEE(0.5)は、上記式(1)のR=−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−である含硫黄樹脂であることが分かる。なお、
図1及び
図2中に、溶媒に混入していたテトラヒドロキシフラン(THF)に由来するピークが観察された。
【0044】
図3より、S−BMEE(0.5)の質量が200〜300℃において大幅に減少したことが分かる。これは、単体硫黄に見られる挙動と同じであり、硫黄の分解(昇華)により起こったと考えられる。従って、その際に生じる「減少量=硫黄の量」と考えられ、S−BMEE(0.5)の硫黄の含有量は約94質量%と見積もられた。
【0045】
実施例2
分子状硫黄(S
8)(キシダ化学(株)製)1質量部とジチオール化合物である3、6−ジオキサ−1、8−オクタンジチオール(DODT)(TCI(株)製)0.356質量部(分子状硫黄とジチオール化合物のモル比=2:1)がサンプル瓶に加えられ、155℃で5時間攪拌された。その後、反応生成物が室温になるまで放置され、固化された樹脂[S−DODT(0.5)]が回収された。分子状硫黄(S
8)、S−DODT(0.5)が試料とされ、DSC分析及び熱重量測定が行われた。DSCチャート、熱重量測定の結果が、それぞれ、
図4、
図5に示されている。
【0046】
図4より、S−DODT(0.5)は、分子状硫黄(S
8)の融点より低い融点を有し、ガラス転移温度も有する、上記式(1)のR=−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−である含硫黄樹脂であることが分かる。
図5より、S−DODT(0.5)の質量が200〜300℃において大幅に減少したことが分かる。S−DODT(0.5)の硫黄の含有量は約92質量%と見積もられた。
【0047】
実施例3
実施例1で製造されたS−BMEE(0.5)8質量部、ケッチェンブラック(ライオン(株)製EC600JD)1質量部及びPTFE((株)ダイキン製ポリフロンPTFEファインパウダー)が混練され、正極が成形された。リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)が1、2−ジメトキシエタン(DME)と1、3−ジオキソラン(DOX)が体積比1:1で混合されている溶媒に溶解されている電解液(濃度1M)と当該正極が使用される、
図6に示されるようなコインセル型二次電池が作製された。更に、正極の材料が実施例1で製造されたS−BMEE(0.5)9質量部及びケッチェンブラック(ライオン(株)製EC600JD)1質量部とされる以外、上記コインセル型二次電池と同様にされてコインセル型二次電池が作製された。これら2つのコインセル型二次電池のサイクリックボルタンメトリー(CV)が、電気化学測定システム(北斗電工(株)製HZ−5000)が使用され、電位走査範囲0.8〜3.0V、走査速度5mVs
−1として測定された。結果が
図7に示されている。
【0048】
図7より、正極の材料として、含硫黄樹脂及びケッチェンブラックと共にバインダーであるPTFEが使用されていない二次電池は、正極の材料としてPTFEが使用されている二次電池と同様の電気化学的酸化−還元反応を示した。