【実施例】
【0034】
(実施例1)ゲランガム培地における、2,3−PDCAのイネの根の伸長に対する作用
2,3−PDCAのストック溶液を、100mMで作成しNaOHでpH7に調整した。このストック溶液を用いて、2,3−PDCAを0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの濃度で含むゲランガム培地(ゲランガム濃度:1wt%)をガラス試験管内に作製した。
【0035】
イネ(品種:日本晴)種子を蒸留水に浸漬し,冷蔵室(4℃)で1週間静置した。低温浸漬処理後の種子を冷蔵室より取り出し、23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)で、吸水させた濾紙上に2〜3日間静置し、幼葉鞘と種子根が約1mm出た発芽種子を得た。前記ゲランガム培地上にイネの発芽種子を置床し、23℃に設定した人工気象器内で7日間育成した。伸長した種子根を
図1に示す。
【0036】
(比較例1〜3)比較実験
2,3−PDCAに代えて、水(比較例1)、0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,4−PDCA(比較例2)、0.3mMのジベレリンA
3(GA
3)(比較例3)を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行った。
【0037】
実施例1では2,3−PDCAの濃度の増加に伴い、種子根の伸長促進効果が確認され、この効果は1.0mMの濃度で最大となった。一方、比較例2では2,4−PDCAの濃度の増加とともに根の伸長は抑制された。比較例3ではGA
3(ジベレリン)を0.3mMの濃度で用いた結果、地上部の成長促進は認められたが、種子根の伸長の促進効果はほとんど認められなかった。
【0038】
(実施例2〜5)水耕栽培法におけるPDCAアナログのイネの種子根と冠根の伸長に対する作用
実施例1のゲランガム培地を用いたイネの根の伸長試験では、ゲル内を伸長する際に根に圧力ストレスがかかっていることが推定された。そこで、圧力ストレスの影響を排除するため、水耕栽培を用いてPDCAアナログのイネの根の伸長に対する作用を解析した。
【0039】
2,3−PDCA(実施例2)、3,4−PDCA(実施例3)、3,5−PDCA(実施例4)、2,5−PDCA(3,6−PDCA)(実施例5)を、それぞれ0.01mM、0.03mM、0.1mM、0.3mMの濃度となるよう蒸留水に溶解させ、水耕液を調製した。なお、PDCAアナログのストック溶液は、実施例1と同様の方法で調製したものを使用した。各水耕液をプラスチック容器に入れ、液上にイネ種子を置床するフロートを浮かべた。
【0040】
実施例1と同様にイネ種子を発芽させ、発芽したイネ種子の中から、種子根および幼葉鞘の長さ(1mm)がそろっている個体を選抜し、フロート上に25個体ずつ置床した。これを23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)で7日間生育させた。7日間育成後には、PDCAアナログを添加しない対照は1本の種子根に加えて4〜6本の冠根が伸長した。各個体の写真を撮り、マップメーターを用いて各個体の1本の種子根と4〜6本の冠根の長さを合計した全根長を求めた。次に、各個体の全根長を大きさの順に並べ、中央の15個体の数値の平均値を求めた。この際、種子根が1本だけで冠根のない個体や成長量がきわめて小さいなどの異常な成長をした個体は除外し、両端の個体を必要数加えて15個体とした。7日間育成後の、イネ1個体あたりの全根長を
図2に示す。
【0041】
(比較例4〜6)比較実験
2,3−PDCA、3,4−PDCA、3,5−PDCA、2,5−PDCAに代えて、2,4−PDCA(比較例4)、2,6−PDCA(比較例5)、ジベレリンA
3(GA
3)(比較例6)を用いた以外は、実施例2〜5と同じ操作を行った。
【0042】
図2に示すように、2,3−PDCA(実施例2)、3,4−PDCA(実施例3)、3,5−PDCA(実施例4)において根の伸長促進が確認された。2,5−PDCA(実施例5)においても0.03mMの濃度で促進が認められた。3,4−PDCA(実施例3)と3,5−PDCA(実施例4)では0.1mMおよび0.3mMの濃度で統計的に特に有意な伸長促進作用がみられた。2,3−PDCA(実施例2)では0.3mMのときに統計的に特に有意な促進作用がみられた。他方、2,4−PDCA(比較例4)と2,6−PDCA(比較例5)では伸長の阻害がみられた。
【0043】
2,3−PDCA(実施例2)により根の伸長が促進され、2,4−PDCA(比較例4)により根の伸長が阻害されたことは、実施例1および比較例2と同様の結果である。また、2,5−PDCA(実施例5)にも低濃度で促進が見られたことは、この化合物も潜在的な促進作用を持つことを示している。この結果は、ピリジン環の3位にカルボキシル基を持つPDCAが、栽培法によらず、イネの根の伸長を促進することを示す。
【0044】
(実施例6〜8)水耕栽培法におけるPDCAアナログおよびピリジンカルボン酸(PCA)アナログのイネの種子根と冠根の伸長に対する作用
3−PCA(実施例6)、2,3−PDCA(実施例7)、3,4−PDCA(実施例8)を0.03mM、0.1mM、0.3mMの濃度で蒸留水に溶解させた水耕液を調製した。これらをプラスチック容器に入れ、液上にイネ種子を置床するフロートを浮かべた。
【0045】
実施例2〜5と同様に、発芽したイネ種子の中から、種子根および幼葉鞘の長さのそろった(1mm)個体を選抜し、フロート上に25個体ずつ置床した。これを23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)で7日間生育させた。この時点では、対照は1本の種子根に加えて5〜6本の冠根が伸長した。各個体の写真を撮り、マップメーターを用いて各個体の1本の種子根と5〜6本の冠根の長さを合計した全根長を求めた。次に、各個体の全根長を大きさの順に並べ、中央の15個体の数値の平均値を求めた。この際、種子根が1本だけで冠根のない個体や成長量がきわめて小さいなどの異常な成長をした個体は除外し、両端の個体を必要数加えて15個体とした。7日間育成後の、イネ1個体あたりの全根長を
図3に示す。
【0046】
(比較例7〜10)比較実験
3−PCA、2,3−PDCA、3,4−PDCAに代えて、2−PCA(比較例7)、4−PCA(比較例8)、2,4−PDCA(比較例9)、3−PCAアミド(ニコチン酸アミド)(比較例10)を用いた以外は、実施例6〜8と同じ操作を行った。
【0047】
図3に示すように、3−PCA(実施例6)、2,3−PDCA(実施例7)、3,4−PDCA(実施例8)では、種子根と冠根の伸長促進が確認された。他方、2−PCA(比較例7)、4−PCA(比較例8)、2,4−PDCA(比較例9)では伸長の阻害が確認された。また、3−PCAアミド(ニコチン酸アミド)(比較例10)においても、伸長阻害が認められた。この結果は、ピリジン環の3位に遊離のカルボキシル基を持つPCAとPDCAが、イネの根の伸長を促進することを示す。
【0048】
(実施例9)ゲランガム培地における、2,3−PDCAのレタスの根の伸長に対する作用
0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,3−PDCAを含むゲランガム培地(ゲランガム濃度:1wt%)をガラス試験管内に作製した。吸水させた濾紙上に、レタス(品種:ウェアヘッド)種子を播種し、冷蔵室(4℃)内の暗黒下で3日間静置した。低温処理後、種子を冷蔵室より取り出し、23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)に2〜3日間静置し、発芽させた。発芽した種子の中から、根の長さのそろった(3〜5mm)個体を選抜し、各試験水準の試験管内に3個体ずつ置床した。これを23℃(白色蛍光灯照明)に設定した人工気象器内で7日間生育させた。その後、各水準5本の試験管の中から平均的な根の伸長を示した試験管を選定し写真撮影した。それらの結果を
図4に示した。
【0049】
(比較例11〜13)比較実験
2,3−PDCAに代えて、水(比較例11)、0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,4−PDCA(比較例12)、0.3mMのジベレリンA
3(GA
3)(比較例13)を用いた以外は、実施例9と同じ操作を行った。
【0050】
2,3−PDCA(実施例9)では、薬剤の濃度の増加に伴い、根の伸長が促進され、1.0mMの時に最長となった。一方、2,4−PDCA(比較例12)では、薬剤の濃度の増加とともに根の伸長は抑制された。また、0.3mM GA
3(比較例13)では、地上部の成長は促進されたが、根の伸長に関してほとんど影響は認められなかった。
【0051】
(実施例10)ゲランガム培地における、2,3−PDCAのニンジンの根の伸長に対する作用
ニンジン(品種:ラブリ−キャロット)種子を用い、実施例9と同様の方法で2,3−PDCAの作用を解析した。それらの結果を
図5に示した。
【0052】
(比較例14〜16)比較実験
2,3−PDCAに代えて、水(比較例14)、0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,4−PDCA(比較例15)、0.3mMのジベレリンA
3(GA
3)(比較例16)を用いた以外は、実施例10と同じ操作を行った。
【0053】
2,3−PDCA(実施例10)では、0.3〜3.0mMの濃度範囲で、根の伸長が促進された。一方、2,4−PDCA(比較例15)では、薬剤の濃度の増加とともに根の伸長は抑制された。また、0.3mM GA
3(比較例16)では、地上部および根ともに影響は認められなかった。