特許第6843379号(P6843379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843379
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】根伸長促進剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/40 20060101AFI20210308BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20210308BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20210308BHJP
   C07D 213/80 20060101ALN20210308BHJP
   C07D 213/79 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   A01N43/40 101D
   A01P21/00
   A01G7/06 A
   !C07D213/80
   !C07D213/79
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-229009(P2016-229009)
(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公開番号】特開2018-83789(P2018-83789A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年7月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業マッチングプランナープログラム「新規園芸花卉切り花処理剤の実用化研究」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】野村 佳宏
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−342507(JP,A)
【文献】 特公昭50−026451(JP,B1)
【文献】 特開昭55−100304(JP,A)
【文献】 Stephenson, Richard B.,Effects of certain growth regulating substances on growth correlation in lettuce seedlings,Plant Physiology,1943年,18,37-50
【文献】 Bojarczuk, Krystyna; Jankiewicz, L. S.,Rooting of Syringa vulgaris L. softwood cuttings using auxin, vitamins, phenolic substances, indole, SADH and abscisic acid,Acta Agrobotanica,1975年,28(2),229-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
A01G 7/06
C07D201/00−519/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式(I)中、RはH、COOM、CONH、炭素数1〜4のアルキル基であって、それぞれ同じでも、異なっていてもよく、Mは水素、NH、もしくは1価または2価の金属カチオンである。)
で表される化合物を含む、植物の根の伸長促進剤であって、
前記化合物が、2,3−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、または2,5−ピリジンジカルボン酸、もしくはその塩であり、
前記植物がレタス、ニンジン、またはイネである、根の伸長促進剤
【請求項2】
請求項1に記載の根の伸長促進剤を植物苗に適用する工程を含む、植物苗の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の根伸長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国の稲作、野菜栽培、花き栽培においては、苗生産と栽培の分業化が一般化しており、苗の販売が拡大しつつある。これらの苗は、主につぎ木苗とセル成型苗の形態で販売されている。つぎ木苗は、初めにスイカで開発されたが、順次ナス、キュウリ、トマトなどに適用が拡大した。セル成型苗は、初めに花きの苗生産に導入され、その後葉菜類に拡大し急速に普及した。
【0003】
苗生産の効率化のためには、定時、定質、定量の確保が必須である。特に、稲作、野菜栽培、花き栽培では、定植時の苗の品質がその後の生育や収量に大きく影響するため、品質の安定した苗を生産することが重要である。苗に求められる品質として、根量が多く、育苗ポット内で老化していないことが挙げられる。さらに、セル成型苗には、地上部は健全に生育する一方で根鉢の形成がよく、本畑への植え付けが容易で活着がよいことが求められる。より具体的には、地上部の成長と比較して地下部(根部)の成長が勝っている苗が良苗とされており、そのような苗の栽培生産技術の開発が望まれている。
【0004】
イネ苗や野菜苗、花き苗の生産は、気温の低い早春期にビニールハウスなどで暖房しながら行われる場合も多い。この条件下では、幼苗の根の伸長を促進することにより、育苗期間を短縮でき、暖房経費の節減やビニールハウス使用の回転率を上げることができ、最終的に農業生産コストの低減を実現できる。
【0005】
従来、ピリジンカルボン酸(PCA)が植物の成長促進に及ぼす影響が検討されているが、根の伸長を促進させる効果は示唆されていない。特許文献1はニコチン酸アミドまたはその類縁化合物が植物の地上部の成長を促進する一方、地下部の成長を抑制することを開示している。特許文献2はニコチン酸アミドを含む植物成長補助剤を開示している。非特許文献1は2,3−ピリジンジカルボン酸(2,3−PDCA)と2,4−ピリジンジカルボン酸(2,4−PDCA)が切り花の保存期間を延長する作用を有することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49−054155号公報
【特許文献2】特開2006−008578号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】So Sugiyamaら、The Horticulture Journal 84(2):172−177.2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規な植物の根の伸長促進剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定のピリジンカルボン酸を、栽培土、栽培基質(ピートモス、バーミキュライトなど)、または水耕液中で、発芽直後の苗に供給することにより、根の伸長を特異的に促進できることを見出して本発明を完成した。ピリジン環の3位がカルボキシル基で置換された3−ピリジンカルボン酸、および3位に加えて2位、4位、5位、6位がカルボキシル基で置換されたピジリンジカルボン酸(PDCA)並びにその誘導体が、植物の根の伸長に有効に作用する。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(I):
【化1】
【0011】
(式(I)中、RはH、COOM、CONH、炭素数1〜4のアルキル基であって、それぞれ同じでも、異なっていてもよく、Mは水素、NH、もしくは1価または2価の金属カチオンである。)
で表される化合物を含む、植物の根の伸長促進剤に関する。
【0012】
前記化合物が、3−ピリジンカルボン酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、または2,5−ピリジンジカルボン酸、もしくはその塩であることが好ましい。
【0013】
前記植物がレタス、ニンジン、またはイネであることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記根の伸長促進剤を植物苗に適用する工程を含む、植物苗の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の根の伸長促進剤は、植物の根に特異的に作用してその伸長を促進し、根の活着率を向上し、苗の安定供給を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ゲランガム培地におけるPDCAアナログのイネの根の伸長に対する作用(実施例1および比較例1〜3)を示す。
図2】水耕栽培におけるPDCAアナログのイネの根の伸長に対する作用(実施例2〜5および比較例4〜6)を示す。
図3】水耕栽培におけるPDCAアナログおよびピリジンカルボン酸の、イネの根の伸長に対する作用(実施例6〜8および比較例7〜10)を示す。
図4】ゲランガム培地におけるPDCAアナログのレタスの根の伸長に対する作用(実施例9および比較例11〜13)を示す。
図5】ゲランガム培地におけるPDCAアナログのニンジンの根の伸長に対する作用(実施例10および比較例14〜16)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、下記式(I):
【化1】
【0018】
(式(I)中、RはH、COOM、CONH、炭素数1〜4のアルキル基であって、それぞれ同じでも、異なっていてもよく、Mは水素、NH、もしくは1価または2価の金属カチオンである。)で表される化合物を含む、植物の根の伸長促進剤に関する。
【0019】
前記式(I)中、Mは水素、NH、もしくは1価または2価の金属カチオンである。1価または2価の金属カチオンとしては、Na、K、Mg2+、Ca2+が挙げられる。これらの中でも、MはNa、Kであることが好ましい。
【0020】
前記式(I)中、RはH、COOM、CONH、炭素数1〜4のアルキル基である。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、およびそれらの水酸基(−OH)の置換体が挙げられる。
【0021】
前記化合物の具体例としては、3−ピリジンカルボン酸(3−PCA)、2,3−ピリジンジカルボン酸(2,3−PDCA)、3,4−ピリジンジカルボン酸(3,4−PDCA)、3,5−ピリジンジカルボン酸(3,5−PDCA)、2,5−ピリジンジカルボン酸(2,5−PDCA)、2−メチル−3−ピリジンカルボン酸(2−Me−3−PCA)、4−メチル−3−ピリジンカルボン酸(4−Me−3−PCA)、5−メチル−3−ピリジンカルボン酸(5−Me−3−PCA)、6−メチル−3−ピリジンカルボン酸(6−Me−3−PCA)、もしくはその塩が挙げられる。これらの中でも3−ピリジンカルボン酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、または2,5−ピリジンジカルボン酸が好ましく、3−ピリジンカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸がより好ましい。なお、IUPAC命名法により2,5−ピリジンジカルボン酸(2,5−PDCA)と表記される化合物は、3,6−ピリジンジカルボン酸と同じ化合物である。
【0022】
根の伸長促進剤の剤型としては、乳剤、水和剤、懸濁剤、水溶剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤が挙げられる。これらの剤型に製剤するために、固体担体や液体担体等の不活性担体を含有していてもよい。固体担体としては、デンプン、ゼオライト、タルク、酸性白土やケイ酸塩白土などの粘土鉱物が挙げられる。液体担体としては、水、希薄エタノール水溶液が挙げられる。
【0023】
根の伸長促進剤は、上述した以外に製剤用の補助剤を含有していてもよい。このような補助剤としては、界面活性剤、pH調整剤、固形化補助剤、粘着剤が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステルが挙げられる。
【0024】
根の伸長促進剤は、前記式(I)で表される化合物以外に、他の植物成長調整成分を含有していてもよい。このような植物成長調整成分としては、インドール酪酸やα−ナフチルアセトアミドのオーキシン類、ベンジルアデニンやフェニル尿素のサイトカイニン類が挙げられる。
【0025】
本発明の根の伸長促進剤は、植物の根に特異的に作用してその伸長を促進し、根の活着率を向上する。ここで、根の伸長は、発根量の増加、根の全長の増大、根重量の増加により評価可能である。本発明の根の伸長促進剤をイネに適用した場合には、適用した個体における種子根、冠根の伸長を促進できる。
【0026】
根の伸長促進剤の適用対象植物としては、特に限定されず、レタス、ニンジン、イネ、キュウリ、トマト、ナス、トウガラシ、キャベツ、ハクサイ、ホウレンソウ、チンゲンサイ、メロン、スイカ、オクラ、エンドウ、トルコギキョウ、パンジー、ビオラなどが挙げられる。これらの中でも、レタス、ニンジン、イネ、キュウリ、トマト、ナスが好ましく、レタス、ニンジン、イネがより好ましい。
【0027】
根の伸長促進剤の、植物への適用時期は特に限定されず、コーティング材に混和してコーティング種子を作製し播種前の種子に適用してもよく、発芽の後、一定期間後に適用してもよい。
【0028】
植物の根の伸長促進は、本発明の根の伸長促進剤を種子、植物体、栽培土壌または水耕液に適用することによって行われる。栽培土壌は、一般的な畑土壌、水田土壌に加えて、顆粒状に焼成した畑土壌を使用できる。ポット苗やプラグ苗の栽培では、有機質培土ピートモス、バーミキュライト、パーライトなどの単独または混合物からなる栽培基質を使用できる。水耕液は、窒素、リン、カリウムに加えて微量栄養素を含み、pHとイオン強度を調整した一般的な水耕液を使用できる。
【0029】
根の伸長促進剤の、植物への適用部位としては、植物の根、根と茎の接合部(クラウン)、茎、葉が挙げられる。播種前(発芽前)の種子に適用する場合には、種子に直接適用することができる。
【0030】
根の伸長促進剤の植物への適用量は、植物種、適用法、植物の栽培形態によっても異なるが、水耕施用の場合には0.005〜5.0mMが好ましく、0.05〜2.0mMがより好ましく、0.1〜1.0mMがさらに好ましい。根の伸長促進剤が2,5−ピリジンジカルボン酸を含む場合、水耕施用での根の伸長促進剤の適用量は0.005〜0.1mMが好ましく、0.005〜0.05mM以下がより好ましく、0.01〜0.03mMがさらに好ましい。
【0031】
根の伸長促進剤の植物への適用量は、土耕(土壌)施用の場合には0.05〜10mMが好ましく、0.5〜5.0mMがより好ましい。茎葉散布の場合には1.0〜10.0mMが好ましく、2.0〜5.0mMがより好ましい。種子処理の場合には1.0〜10.0mMが好ましく、2.0〜5.0mMがより好ましい。
【0032】
根の伸長促進剤を適用した後、根の伸長を促進する際の栽培温度は、10〜35℃が好ましく、15〜30℃がより好ましく、20〜25℃がさらに好ましく、21〜25℃がさらにより好ましい。適用対象植物がイネの場合、イネは高温を好むため、栽培温度は23℃以上であってもよく、25℃以上であってもよい。
【0033】
また、本発明は、前記根の伸長促進剤を植物に適用する工程を含む、植物苗の製造方法に関する。適用対象の植物は、種子、幼苗、定植期苗が挙げられる。本発明の製造方法により製造される苗の形態としては、種子発芽育成苗、つぎ木苗、セル成型苗、挿し木苗、断根苗が挙げられる。根の伸長促進剤の組成、適用対象の植物、適用量としては、前述した組成、植物、適用量を用いることができる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)ゲランガム培地における、2,3−PDCAのイネの根の伸長に対する作用
2,3−PDCAのストック溶液を、100mMで作成しNaOHでpH7に調整した。このストック溶液を用いて、2,3−PDCAを0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの濃度で含むゲランガム培地(ゲランガム濃度:1wt%)をガラス試験管内に作製した。
【0035】
イネ(品種:日本晴)種子を蒸留水に浸漬し,冷蔵室(4℃)で1週間静置した。低温浸漬処理後の種子を冷蔵室より取り出し、23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)で、吸水させた濾紙上に2〜3日間静置し、幼葉鞘と種子根が約1mm出た発芽種子を得た。前記ゲランガム培地上にイネの発芽種子を置床し、23℃に設定した人工気象器内で7日間育成した。伸長した種子根を図1に示す。
【0036】
(比較例1〜3)比較実験
2,3−PDCAに代えて、水(比較例1)、0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,4−PDCA(比較例2)、0.3mMのジベレリンA(GA)(比較例3)を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行った。
【0037】
実施例1では2,3−PDCAの濃度の増加に伴い、種子根の伸長促進効果が確認され、この効果は1.0mMの濃度で最大となった。一方、比較例2では2,4−PDCAの濃度の増加とともに根の伸長は抑制された。比較例3ではGA(ジベレリン)を0.3mMの濃度で用いた結果、地上部の成長促進は認められたが、種子根の伸長の促進効果はほとんど認められなかった。
【0038】
(実施例2〜5)水耕栽培法におけるPDCAアナログのイネの種子根と冠根の伸長に対する作用
実施例1のゲランガム培地を用いたイネの根の伸長試験では、ゲル内を伸長する際に根に圧力ストレスがかかっていることが推定された。そこで、圧力ストレスの影響を排除するため、水耕栽培を用いてPDCAアナログのイネの根の伸長に対する作用を解析した。
【0039】
2,3−PDCA(実施例2)、3,4−PDCA(実施例3)、3,5−PDCA(実施例4)、2,5−PDCA(3,6−PDCA)(実施例5)を、それぞれ0.01mM、0.03mM、0.1mM、0.3mMの濃度となるよう蒸留水に溶解させ、水耕液を調製した。なお、PDCAアナログのストック溶液は、実施例1と同様の方法で調製したものを使用した。各水耕液をプラスチック容器に入れ、液上にイネ種子を置床するフロートを浮かべた。
【0040】
実施例1と同様にイネ種子を発芽させ、発芽したイネ種子の中から、種子根および幼葉鞘の長さ(1mm)がそろっている個体を選抜し、フロート上に25個体ずつ置床した。これを23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)で7日間生育させた。7日間育成後には、PDCAアナログを添加しない対照は1本の種子根に加えて4〜6本の冠根が伸長した。各個体の写真を撮り、マップメーターを用いて各個体の1本の種子根と4〜6本の冠根の長さを合計した全根長を求めた。次に、各個体の全根長を大きさの順に並べ、中央の15個体の数値の平均値を求めた。この際、種子根が1本だけで冠根のない個体や成長量がきわめて小さいなどの異常な成長をした個体は除外し、両端の個体を必要数加えて15個体とした。7日間育成後の、イネ1個体あたりの全根長を図2に示す。
【0041】
(比較例4〜6)比較実験
2,3−PDCA、3,4−PDCA、3,5−PDCA、2,5−PDCAに代えて、2,4−PDCA(比較例4)、2,6−PDCA(比較例5)、ジベレリンA(GA)(比較例6)を用いた以外は、実施例2〜5と同じ操作を行った。
【0042】
図2に示すように、2,3−PDCA(実施例2)、3,4−PDCA(実施例3)、3,5−PDCA(実施例4)において根の伸長促進が確認された。2,5−PDCA(実施例5)においても0.03mMの濃度で促進が認められた。3,4−PDCA(実施例3)と3,5−PDCA(実施例4)では0.1mMおよび0.3mMの濃度で統計的に特に有意な伸長促進作用がみられた。2,3−PDCA(実施例2)では0.3mMのときに統計的に特に有意な促進作用がみられた。他方、2,4−PDCA(比較例4)と2,6−PDCA(比較例5)では伸長の阻害がみられた。
【0043】
2,3−PDCA(実施例2)により根の伸長が促進され、2,4−PDCA(比較例4)により根の伸長が阻害されたことは、実施例1および比較例2と同様の結果である。また、2,5−PDCA(実施例5)にも低濃度で促進が見られたことは、この化合物も潜在的な促進作用を持つことを示している。この結果は、ピリジン環の3位にカルボキシル基を持つPDCAが、栽培法によらず、イネの根の伸長を促進することを示す。
【0044】
(実施例6〜8)水耕栽培法におけるPDCAアナログおよびピリジンカルボン酸(PCA)アナログのイネの種子根と冠根の伸長に対する作用
3−PCA(実施例6)、2,3−PDCA(実施例7)、3,4−PDCA(実施例8)を0.03mM、0.1mM、0.3mMの濃度で蒸留水に溶解させた水耕液を調製した。これらをプラスチック容器に入れ、液上にイネ種子を置床するフロートを浮かべた。
【0045】
実施例2〜5と同様に、発芽したイネ種子の中から、種子根および幼葉鞘の長さのそろった(1mm)個体を選抜し、フロート上に25個体ずつ置床した。これを23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)で7日間生育させた。この時点では、対照は1本の種子根に加えて5〜6本の冠根が伸長した。各個体の写真を撮り、マップメーターを用いて各個体の1本の種子根と5〜6本の冠根の長さを合計した全根長を求めた。次に、各個体の全根長を大きさの順に並べ、中央の15個体の数値の平均値を求めた。この際、種子根が1本だけで冠根のない個体や成長量がきわめて小さいなどの異常な成長をした個体は除外し、両端の個体を必要数加えて15個体とした。7日間育成後の、イネ1個体あたりの全根長を図3に示す。
【0046】
(比較例7〜10)比較実験
3−PCA、2,3−PDCA、3,4−PDCAに代えて、2−PCA(比較例7)、4−PCA(比較例8)、2,4−PDCA(比較例9)、3−PCAアミド(ニコチン酸アミド)(比較例10)を用いた以外は、実施例6〜8と同じ操作を行った。
【0047】
図3に示すように、3−PCA(実施例6)、2,3−PDCA(実施例7)、3,4−PDCA(実施例8)では、種子根と冠根の伸長促進が確認された。他方、2−PCA(比較例7)、4−PCA(比較例8)、2,4−PDCA(比較例9)では伸長の阻害が確認された。また、3−PCAアミド(ニコチン酸アミド)(比較例10)においても、伸長阻害が認められた。この結果は、ピリジン環の3位に遊離のカルボキシル基を持つPCAとPDCAが、イネの根の伸長を促進することを示す。
【0048】
(実施例9)ゲランガム培地における、2,3−PDCAのレタスの根の伸長に対する作用
0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,3−PDCAを含むゲランガム培地(ゲランガム濃度:1wt%)をガラス試験管内に作製した。吸水させた濾紙上に、レタス(品種:ウェアヘッド)種子を播種し、冷蔵室(4℃)内の暗黒下で3日間静置した。低温処理後、種子を冷蔵室より取り出し、23℃に設定した人工気象器内(白色蛍光灯照明)に2〜3日間静置し、発芽させた。発芽した種子の中から、根の長さのそろった(3〜5mm)個体を選抜し、各試験水準の試験管内に3個体ずつ置床した。これを23℃(白色蛍光灯照明)に設定した人工気象器内で7日間生育させた。その後、各水準5本の試験管の中から平均的な根の伸長を示した試験管を選定し写真撮影した。それらの結果を図4に示した。
【0049】
(比較例11〜13)比較実験
2,3−PDCAに代えて、水(比較例11)、0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,4−PDCA(比較例12)、0.3mMのジベレリンA(GA)(比較例13)を用いた以外は、実施例9と同じ操作を行った。
【0050】
2,3−PDCA(実施例9)では、薬剤の濃度の増加に伴い、根の伸長が促進され、1.0mMの時に最長となった。一方、2,4−PDCA(比較例12)では、薬剤の濃度の増加とともに根の伸長は抑制された。また、0.3mM GA(比較例13)では、地上部の成長は促進されたが、根の伸長に関してほとんど影響は認められなかった。
【0051】
(実施例10)ゲランガム培地における、2,3−PDCAのニンジンの根の伸長に対する作用
ニンジン(品種:ラブリ−キャロット)種子を用い、実施例9と同様の方法で2,3−PDCAの作用を解析した。それらの結果を図5に示した。
【0052】
(比較例14〜16)比較実験
2,3−PDCAに代えて、水(比較例14)、0.1mM、0.3mM、1.0mM、3.0mMの2,4−PDCA(比較例15)、0.3mMのジベレリンA(GA)(比較例16)を用いた以外は、実施例10と同じ操作を行った。
【0053】
2,3−PDCA(実施例10)では、0.3〜3.0mMの濃度範囲で、根の伸長が促進された。一方、2,4−PDCA(比較例15)では、薬剤の濃度の増加とともに根の伸長は抑制された。また、0.3mM GA(比較例16)では、地上部および根ともに影響は認められなかった。

図1
図2
図3
図4
図5