特許第6843383号(P6843383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843383
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】遷移金属代替金属材料
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/04 20060101AFI20210308BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20210308BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20210308BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C22C5/04
   B01J23/46 301A
   B01D53/94 245
   B01D53/94 222
   B01D53/94 280
   F01N3/10 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-14554(P2017-14554)
(22)【出願日】2017年1月30日
(65)【公開番号】特開2018-123351(P2018-123351A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 寛
(72)【発明者】
【氏名】笠井 秀明
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−084667(JP,A)
【文献】 特開2001−158926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/04
B01D 53/94
B01J 23/46
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RuB(0.1<x<0.5)で表される金属材料からなるNOx還元用触媒。
【請求項2】
RuB0.25で表される請求項1のNOx還元用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒材料として有用かつ希少なロジウム等の遷移金属を代替する遷移金属代替金属材料及びそれを用いた触媒活性が顕著な触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金系貴金属は触媒材料として有用である。たとえば、ガソリン内燃機関の排ガス浄化触媒には、排ガスに含まれ3種類の有害成分、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を処理する三元触媒がよく知られている。3つの有害成分のうち、HCとCOは、酸化し、NOは還元することにより無害化する。同じ雰囲気下で酸化と還元を同時に行うことが求められ、現行の三元触媒にはプラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)が使われている。中でも特にNOx還元にはロジウムが必須とされている。
【0003】
代表的な貴金属の平成26年10月における価格を表1に示す。
【0004】
【表1】
【0005】
内燃機関では、環境負荷低減及び二酸化炭素排出を抑制する観点からも、一層の省燃費化が要求され、現状、リーンバーン(理論空燃比より薄い燃料混合気燃焼)化する傾向があり、そのため排ガスは酸化雰囲気になりNOxの還元を担う高価格なロジウムの使用量低減は特に難しい。
【0006】
一方、特許文献1では、京都大学北川宏教授のグループが、彼らの提唱する「元素間融合技術」を用いて創出した人工ロジウムが提案されている。この人工ロジウムは、周期表においてRhの左右に位置するRuとPdを混合して合金化することで作り出された。ロジウム(Rh)の周りのみを抜粋した表2の周期表の並びからもわかるようにRuは一原子あたり44個の電子、Rhは45個の電子、Pdは46個の電子を持つ。RuとPdを等量、原子レベルで、均等に混合すれば、平均してRhと同じ1原子あたり45の電子を持つことになり、その物質の電子状態はRhと類似するであろうという考え方に基づいている。
【0007】
【表2】
【0008】
特許文献1の出願以前にPdRu合金が使われなかったのは、PdRu合金は摂氏845度以下では相分離をおこし、合金を形成できなかったためである。特許文献1の発明者らは、相分離系材料であるPdRu合金において、ナノ粒子化(粒子径5nm程度)することにより、合金相が安定化することを見い出し、PdRuナノ合金を「元素間融合技術」である溶液還元法にて合成し、触媒活性が顕著であることを示している。
【0009】
しかしながら、表1からもわかる通り、PdRu合金の場合には、その材料となるRuは他の貴金属より比較的安価ではあるものの、Pdは依然として高価な部類の貴金属である。このため、高価な貴金属Pdを用いないで、触媒活性が顕著である新しい材料の実現が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5737699号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H. Kishi, et al., Journal of Physics: Condensed Matter, Vol. 24, pp.262001 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解消し、触媒材料としても有用な遷移金属を代替する新しい材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、上記課題を解決するために、第1に、RuB(0.1<x<0.5)で表される金属材料からなるNOx還元用触媒が提供される。
【0014】
第2に、上記第1の発明において、RuB0.25で表される請求項1のNOx還元用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、遷移金属として比較的安価なルテニウムをベースとして、ホウ素をドープしたルテニウム化合物(RuB(0.1<x<0.5))により、ロジウムを代替する金属材料からなるNOx還元用触媒を提供することが可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、内燃機関の排ガスに含まれる窒化酸化物を還元させる触媒活性が高いNOx還元用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】Rh(111)表面のRh原子の局所電子エネルギー状態密度を示す図である。
図2】Ru(0001)表面のRu原子の局所電子エネルギー状態密度を示す図である。
図3】RuB0.25(0001)表面のRu原子の局所電子エネルギー状態密度を示す図である。
図4】RuB0.25(000l)面でのNO解離吸着反応を調べた結果を示す図である。図において、 (1)Ru原子、(2)B原子、(3)酸素原子、(4)窒素原子、(5)NO分子、(6)吸着した酸素原子、(7)吸着した窒素原子(注:図中の丸付数字は、便宜上カッコつき数字で表す。)である。
図5】RuとRuB0.25の結晶構造の安定性を調べた結果を示す図である。図において、 (1)Ru原子、(2)B原子、(3)サブ表面から表面上に出てきたB原子(注:図中の丸付数字は、便宜上カッコつき数字で表す。)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
本発明者らは、前記の京都大学北川宏教授のグループが提唱した「元素間融合技術」を用いて創出した人工ロジウムに関する技術が掲載されている特許文献1におけるPdRu合金について考察し、高価な貴金属Pdを用いないで、触媒活性が顕著であるRh代替合金の創生について鋭意検討を行った。
【0028】
そして、Rh代替合金の創生には、触媒反応が起こりうるRh表面の電子エネルギー状態密度の解析が重要であるという点に着目した。
【0029】
触媒反応が起こりうるRh(111)表面のRh原子の局所電子エネルギー状態密度(LODS)を図1に示す。Rhの高活性なNO還元能は、非特許文献1で報告されているように、フェルミレベル直上のピーク(図中、矢印で示すピーク)に由来することがわかっている。エネルギー原点はフェルミレベルである。図1から、図中、矢印で示すピークがフェルミレベルの近傍に位置することにより、高活性のNO還元能が発現することが考えられる。
【0030】
一方、Ru(0001)表面のRu原子の局所電子エネルギー状態密度を図2に示す。この図2図1と対比すると、Ruでは、図1で示したものと同様のピークがフェルミレベルより高エネルギー側に離れていることがわかる。本発明者らは、RhとRuの電子エネルギー状態密度の相違に着目し、何らかの手法でRuの電子エネルギー状態密度を低エネルギー側(図2中左側)にシフトさせ、上記のピークをフェルミレベル近くへ移動させて、Rhの電子エネルギー状態密度に近い状態とすることにより、Rhと同様な高活性なNO還元能が達成できるのではないかと考えた。
【0031】
仮に電子数を増やすことができれば、Ruの電子エネルギー状態密度を低エネルギー側にシフトさせることが期待される。しかしながら、一般に、電子数を増やすことは、原子核の陽子数を上回る電子を与えることであり、物質を局所的に負に帯電させることを意味し、電子を安定に存在させることは難しい。
【0032】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を行い、遷移金属であるRuの電子数を増やす手法として、s電子とp電子を価電子として有する原子をドープし、Ruのd状態を電子充填させる手法を用いることにより、電子を安定に存在させることができる知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0033】
s電子とp電子を価電子として有することができる原子としては、ホウ素、リチウム、ベリリウム、又は炭素を挙げることができる。
【0034】
また、本発明者らは、s電子とp電子を価電子として有する原子をドープし、Ruのd状態を電子充填させる手法を用いることにより、電子を安定に存在させて、Rh代替金属材料を創生することを検討するにあたり、遷移金属Mに、ホウ素、リチウム、ベリリウム及び炭素の群から選ばれる少なくとも一種をドープすることにより、遷移金属Mと周期律表右隣の遷移金属M+1の間の電子数を持つ、遷移金属M+1を代替しうる遷移金属代替金属材料とすることにより、触媒活性能が優れた新規な遷移金属代替材料を創生しうることができる知見をも得た。
【0035】
本発明の遷移金属代替金属材料は、遷移金属Mに、ホウ素、リチウム、ベリリウム及び炭素の群から選ばれる少なくとも一種がドープされ、遷移金属Mと周期律表右隣の遷移金属M+1の間の電子数を持つ、遷移金属M+1を代替しうることを特徴とするものである。
【0036】
本発明の遷移金属代替金属材料としては、典型的なものとして、ロジウム代替ルテニウム金属材料があり、これは、遷移金属としてのルテニウムに、ホウ素、リチウム、ベリリウム及び炭素の群から選ばれる少なくとも一種をドープすることにより、ロジウム代替ルテニウム金属材料とするものである。
【0037】
ロジウム代替ルテニウム金属材料の組成は下記の式で表される
RuA
上式において、0<x<1、より好ましくは0.1<x<0.5である。Aはホウ素、リチウム、ベリリウム及び炭素の中から選ばれる少なくとも一種である。xが上記式の範囲であると、高価性なNO還元能が達成でき、優れた触媒能を有するものとなる。その中でも特に好ましいものは、RuB0.25である。
【0038】
以下の説明では、添加原子がホウ素である場合を例として説明する。
【0039】
s電子とp電子を価電子として有するホウ素(B)原子をRu原子の近傍に配置すると、Bのsp軌道は、Ruのd軌道と混成し、結合軌道と反結合軌道を形成する。反結合軌道はフェルミレベルより高エネルギー側に出現し、電子はすべて結合軌道に充填される。結合軌道も、Bのsp軌道とRuのd軌道との混成軌道であるが、Ruのd軌道の方がBのsp軌道よりもエネルギーが低いため、結果としてエネルギーの低いRuの電子充填が進むことになり、BドープされたRuのdバンドは低エネルギー側に沈み、該当のピークもフェルミレベル近傍へシフトする。典型的な好ましい実施形態として、図3にRuB0.25(0001)表面での電子エネルギー状態密度を示す。
【0040】
BをドープしたRu(000l)表面で、のNO解離吸着反応を調べた結果を図4に示す。図4において、(1)Ru原子、(2)B原子、(3)酸素原子、(4)窒素原子、(5)気相中のNO分子、(6) 表面に吸着した酸素原子、(7) 表面に吸着した窒素原子(注:図中の丸付数字は、便宜上カッコつき数字で表す。)である。
【0041】
NOの解離吸着反応は、NOの還元反応の律速反応である。図4の上側の図より分子吸着(状態1)の吸着エネルギーが−2.47eV、分子解離吸着(状態9)の吸着エネルギーが−3.28eV、分子吸着状態からの分子解離に要するエネルギーは1.35eVであり、気相から飛来するNO分子を考えた場合(状態0から)は、活性化障壁がないことがわかる。
【0042】
表3に、Pt、Pd、Rh表面との比較を示す。
【0043】
【表3】
【0044】
どの表面も分子解離吸着状態は、安定であるが、NO分子解離の反応に活性化障壁が無いのは、この中では既存のRhと本発明のRuB0.25だけである。
【0045】
図5にRuとRuB0.25の結晶構造の安定性を調べた結果を示す。図5(b)において、(1)Ru原子、(2)B原子、(3)サブ表面から表面上に出てきたB原子(注:図中の丸付数字は、便宜上カッコつき数字で表す。)である。
図5(a)より、RuB0.25では、Ru純金属と同じく六方最密充填構造(hcp)が立方最密充填(面心立方格fcc)構造より安定なことがわかる。なおBのドーピングにより格子定数は純金属より増加している。
【0046】
また、図5(b)より、サブ表面のBが、表面に析出し排出されるエネルギーは、1.34eVと高く、RuB0.25は安定であることがわかる。
【0047】
本発明において、RuAを製造する方法としては、例えば、原料となるRuおよびAイオンまたは錯体を還元剤または電気化学的に還元し、凝集させてRuAナノ粒子を作成する液相還元法、原料を高温プラズマ中で蒸発させ急冷させてRuAナノ粒子を作成する熱プラズマ法、原料をレーザー蒸発で急速に蒸発させた後凝集させるレーザー蒸発法を用いることができる。または、上記手法でRuナノ粒子を作成し、その後イオン注入法によりAをドープする方法を用いることができる。
【0048】
以上、遷移金属をRu、添加元素としてBを用いる場合について説明してきたが、本発明によれば、同様な原理により、遷移金属Mに、ホウ素、リチウム、ベリリウム及び炭素の群から選ばれる少なくとも一種がドープされ、遷移金属Mと周期律表右隣の遷移金属M+1の間の電子数を持つ、遷移金属M+1を代替しうる遷移金属代替金属材料を提供することができる。
【0049】
また、本発明によれば、遷移金属Mに、ホウ素、リチウム、ベリリウム及び炭素の群から選ばれる少なくとも一種をドープすることにより、遷移金属Mと周期律表右隣の遷移金属M+1の間の電子数を持つ、遷移金属M+1を代替しうる遷移金属代替金属材料からなる触媒活性に優れた触媒を提供することができる。
【0050】
典型的な触媒としては、遷移金属としてのルテニウムに、ホウ素、リチウム、ベリリウム及び炭素の群から選ばれる少なくとも一種がドープされた、ロジウム代替ルテニウム金属材料である遷移金属代替金属材料からなる触媒活性に優れた触媒を挙げることができる。
【0051】
ロジウム代替ルテニウム金属材料である遷移金属代替金属材料からなる触媒活性に優れた触媒において、ロジウム代替ルテニウム金属材料については、前述したとおりのものである。
図1
図2
図3
図4
図5