(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るドレス良否判定装置およびドレス良否判定方法の実施形態を、[実施形態1]と[実施形態2]とに分けて説明する。
【0016】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係るドレス良否判定装置の構成図である。ドレス良否判定装置100は、抵抗溶接機200で用いられる電極230A、230Bのドレスの良否を判定する。
【0017】
図示するように、ドレス良否判定装置100は、電圧検出部110、一次電流センサ122、一次電流検出部124または二次電流センサ126、二次電流検出部128から構成される電流検出部120、抵抗値演算部130、ピーク値検出部140、時間計測部150、判定部160を有する。
【0018】
抵抗溶接機200は、加圧装置210、電極ホルダ220A、220B、電極230A、230B、溶接制御部250、変圧器260を有する。加圧装置210は電極ホルダ220Aを図示するように上下方向に移動させる。電極ホルダ220Aには電極230Aが取り付けられている。一方、電極ホルダ220Bは固定されている。電極ホルダ220Bには電極230Bが取り付けられている。電極230A、230Bには変圧器260の二次側が接続される。変圧器260はドレスの良否を判定する場合、板厚が厚めの単一の鋼板240を挟んだ電極230A、230B間にドレスの良否を判定するために設定された電流を流す。この電流は定電流制御によって供給される。この電流を直流インバータで供給する場合には、定パルス幅制御を行うことによって供給しても良い。また、この電流を交流から供給する場合には、一定の点弧角制御を行うことによって供給しても良い。溶接制御部250は加圧装置210および変圧器260の動作を制御する。
【0019】
電圧検出部110は、鋼板240を挟んだ電極230A、230B間の電圧を検出する。ドレスの良否を判定する場合には、加圧装置210が電極ホルダ220Aを下降させ、電極230Aと電極230Bとで鋼板240を一定の圧力で加圧する。その状態で変圧器260から電極230A、230B間にドレスの良否を判定するために設定された電流が供給される。電圧検出部110は、その設定された電流が供給されている間の電極230A、230B間の電圧変化を検出する。
【0020】
電流検出部120は、鋼板240を挟んだ電極230A、230B間に流れる電流を検出する。ドレスの良否を判定する場合には、変圧器260から電極230A、230B間にドレスの良否を判定するために設定された電流が供給される。電流検出部120は、この電流を検出する。この電流は、変圧器260の一次側または二次側で検出することができる。変圧器260の一次側でこの電流を検出する場合には、一次電流センサ122と一次電流検出部124とで検出する。また、変圧器260の二次側でこの電流を検出する場合には、二次電流センサ126と二次電流検出部128とで検出する。
【0021】
抵抗値演算部130は、電圧検出部110によって検出された電極230A、230B間の電圧と電流検出部120によって検出された電極230A、230B間を流れる電流とから電極230A、230B間の抵抗値を演算する。
【0022】
ピーク値検出部140は、抵抗値演算部130によって演算された抵抗値のピーク値を検出する。鋼板240に通電が開始されてから終了するまでの間は、電極230A、230Bと接触している部分の鋼板240の溶融状態が刻々と変化する。そのため、電極230A、230B間の抵抗値は、後述するように、時間の経過とともに二次曲線を描くように変化する。したがって、鋼板240に通電されている間に抵抗値のピークが現れる。
【0023】
時間計測部150は、鋼板240に通電してからピーク値検出部140がピーク値を検出するまでの時間を計測する。時間計測部150は、鋼板240の通電が開始されたことを電流検出部120が検出する電流値の急激な増加によって認識する。時間計測部150は、電流値の急激な増加を認識すると時間の計測を開始し、ピーク値検出部140が抵抗値のピーク値を検出した時点で時間の計測を終了する。
【0024】
判定部160は、時間計測部150によって計測された時間が許容範囲内にあれば電極230A、230Bのドレスは良好であると判定し、計測された時間が許容範囲内になければ電極230A、230Bのドレスは不良であると判定する。
【0025】
次に、上記のような構成のドレス良否判定装置によってなぜドレスの良否を判定できるのかについて説明する。
図2は、ドレス良否判定の原理説明に供する図である。
【0026】
図2は、溶接回数(打点数)が新品である0打点の場合、500打点使用した後の場合、1500打点使用した後の場合のそれぞれの場合において、鋼板240を電極230A、230Bで挟み、電極230A、230B間に、設定された電流を流した場合の、電極230A、230B間の抵抗値の変化曲線を示す。
【0027】
いずれの打点数の場合も、電極230A、230Bの先端が湾曲しているため、通電初期の抵抗値は高くなる。したがって、電極230A、230B間に通電が開始されてから少しの間、電極230A、230B間の抵抗値は上昇する。
【0028】
次に、鋼板240が軟化してくると、電極230A、230Bの先端と鋼板240との接触面積が広がり、電極230A、230B間の抵抗値にピークを迎え、その後は電極230A、230B間の抵抗値が徐々に低下する。
【0029】
打点数が0、500、1500の場合の抵抗値の変化曲線を比較すると、新品である0打点の場合にはピークの抵抗値はR1、500打点の場合にはピークの抵抗値はR2、1500打点の場合にはピークの抵抗値はR3である。また、ピークの抵抗値に至るまでの時間は、新品である0打点の場合には電極間の通電を開始してからT1、500打点の場合にはT2、1500打点の場合にはT3である。
【0030】
したがって、ドレスが良好であるか、不良であるかは、電極230A、230B間のピークの抵抗値がR1±αの間に入っているかどうかを見ることによって判定できる。実施形態1では、電極230A、230B間のピークの抵抗値を見てドレスの良否を判定している。また、ドレスが良好であるか、不良であるかは、電極230A、230B間の抵抗値がピークに至るまでの時間が、T1±αの間に入っているかどうかを見ることによっても判定できる。後述する実施形態2では、電極230A、230B間の抵抗値がピークに至るまでの時間を見てドレスの良否を判定している。
【0031】
図3は、実施形態1に係るドレス良否判定装置の動作フローチャートである。なお、この動作フローチャートは、実施形態1に係るドレス良否判定方法の各段階を示すものでもある。
図4は、実施形態1に係るドレス良否判定装置の動作説明に供する図である。以下、実施形態1に係るドレス良否判定装置100の動作を説明する。
【0032】
まず、抵抗溶接機200は、加圧装置210によって電極ホルダ220Aを下降させ、電極230A、230B間の鋼板240を所定の加圧力で加圧する(S100)。
【0033】
次に、溶接制御部250は、通電開始を指示し、電極230A、230Bを介して鋼板240に通電する(S110)。通電開始が指示されると、変圧器260が電極230A、230B間にドレスの良否を判定するために設定された電流を流す。この電流が流されると、
図4に示すように、電極230A、230Bが鋼板240と接触している接触部の温度(接触部温度)が急激に上昇する。また、電極230A、230Bが鋼板240と接触している接触部の面積(接触面積)が少しずつ上昇する。また、電極230A、230Bの変位(電極変位)は、鋼板240が次第に溶融していくので、少しずつ少なくなっていく。
【0034】
抵抗値演算部130は、電圧検出部110が検出する電極230A、230B間の電圧と、電流検出部120が検出する電極230A、230B間を流れる電流に基づいて、電極230A、230B間の抵抗値を演算する。ピーク値検出部140は、抵抗値演算部130が演算した電極間抵抗値を監視する(S120)。
【0035】
ピーク値検出部140は、電極間抵抗値のピーク値を検出する(S130)。抵抗値演算部130によって演算される電極230A、230B間の抵抗値(電極間抵抗値)は、
図4に示すように、通電開始とともに急激に上昇し、ピークを迎えた後に、急激に減少する。ピーク値検出部140は、このピーク値を検出する。
【0036】
時間計測部150は、通電が開始されてから、電極間抵抗値がピーク値に至るまでの時間を計測する(S140)。
図4に示すように、通電が開始されてから電極間抵抗値がピークに至るまでの時間Tを計測する。
【0037】
判定部160は電極品質を判定する(S150)判定部160は、
図4に示すように、時間計測部150によって計測された時間Tが、許容範囲として設定されているt2とt1との間にあれば、電極230A、230Bのドレスは良好であると判定する。一方、時間計測部150によって計測された時間Tが、t2とt1との間になければ電極230A、230Bのドレスは不良であると判定する。
【0038】
以上のように、実施形態1では、電極230A、230Bのドレス後に、抵抗溶接機200により鋼板240に電流を流し、電極230A、230B間の抵抗値が、通電を開始してからピーク値に至るまでの時間Tを計測し、計測された時間Tが許容値として設定されているt1≦T≦t2であれば、電極230A、230Bのドレスは良好であると判断している。なお、時間範囲t1≦T≦t2は、
図2の打点数が0の場合の時間T±αの時間範囲に整合する。この時間範囲にあれば、ドレス後の電極230A、230Bの先端形状はほぼ新品と同じ状態にまで修正されている。
【0039】
電極230A、230Bのドレスの良否の判断は、電極230A、230B間の抵抗値がピーク値に至るまでの時間Tを計測するだけで良いので、極めて短時間で正確に電極230A、230Bのドレスの良否を判定できる。
【0040】
[実施形態2]
図5は、実施形態2に係るドレス良否判定装置の構成図である。なお、実施形態2に係る抵抗溶接機200の構成は、
図1に示した実施形態1に係る抵抗溶接機200の構成と同一である。また、実施形態2に係るドレス良否判定装置100−2の構成は、
図1に示した実施形態1に係るドレス良否判定装置100と比較して、ピーク値検出部140が存在しないことと、実施形態1に係る判定部160の判定の方法とは異なる方法でドレスの良否を判定する判定部160−2が存在することとが異なっている。
【0041】
時間計測部150は、鋼板240に通電してから一定時間Tが経過するまでの時間を計測する。時間計測部150は、鋼板240の通電が開始されたことを電流検出部120が検出する電流値の急激な増加によって認識する。時間計測部150は、電流値の急激な増加を認識すると時間の計測を開始し、一定時間Tが経過すると、その旨を抵抗値演算部130に出力する。
【0042】
図6は、実施形態2に係るドレス良否判定装置の動作フローチャートである。なお、この動作フローチャートは、実施形態2に係るドレス良否判定方法の各段階を示すものでもある。
図7は、実施形態2に係るドレス良否判定装置の動作説明に供する図である。以下、実施形態2に係るドレス良否判定装置100−2の動作を説明する。
【0043】
まず、抵抗溶接機200は、加圧装置210によって電極ホルダ220Aを下降させ、電極230A、230B間の鋼板240を所定の加圧力で加圧する(S200)。
【0044】
次に、溶接制御部250は、通電開始を指示し、電極230A、230Bを介して鋼板240に通電する(S210)。通電開始が指示されると、変圧器260が電極230A、230B間にドレスの良否を判定するために設定された電流を流す。この電流が流されると、
図7に示すように、電極230A、230Bが鋼板240と接触している接触部の温度(接触部温度)が急激に上昇する。また、電極230A、230Bが鋼板240と接触している接触部の面積(接触面積)が少しずつ上昇する。また、電極230A、230Bの変位(電極変位)は、鋼板240が次第に溶融していくので、少しずつ少なくなっていく。
【0045】
時間計測部150は、通電が開始されてから一定時間Tが経過するまでの通電時間を監視する(S220)。時間計測部150は、
図6に示すように、通電が開始されてから一定時間Tに達したときには、その旨を抵抗値演算部130に出力する。
【0046】
抵抗値演算部130は、電圧検出部110が検出する電極230A、230B間の電圧と、電流検出部120が検出する電極230A、230B間を流れる電流に基づいて、電極230A、230B間の抵抗値を演算する(S230)。時間計測部150から通電が開始されてから一定時間Tに達したことが報知されると、抵抗値演算部130はその時の電極間抵抗値を判定部160−2に出力する。
【0047】
判定部160−2は電極品質を判定する(S240)。判定部160−2は、
図7に示すように、通電が開始されてから一定時間Tに達した時点の、抵抗値演算部130が演算した電極230A、230B間の抵抗値R(電極間抵抗値)が、許容範囲として設定されているr1とr2との間にあれば、電極230A、230Bのドレスは良好であると判定する。一方、抵抗値演算部130が演算した電極230A、230B間の抵抗値Rが、r1とr2との間になければ電極230A、230Bのドレスは不良であると判定する。
【0048】
以上のように、実施形態2では、電極230A、230Bのドレス後に、抵抗溶接機200により鋼板240にドレスの良否を判定するために設定された電流を流し、通電を開始してから一定時間Tが経過した時点の、電極230A、230B間の抵抗値Rが、許容値として設定されているr1≦R≦r2であれば、電極230A、230Bのドレスは良好であると判断している。なお、抵抗範囲r1≦R≦r2は、
図2の打点数が0の場合の時間R±αの抵抗範囲に整合する。この抵抗範囲にあれば、ドレス後の電極230A、230Bの先端形状はほぼ新品と同じ状態にまで修正されている。
【0049】
電極230A、230Bのドレスの良否の判断は、通電を開始してから一定時間Tが経過した時点の、電極230A、230B間の抵抗値を計測するだけで良いので、極めて短時間で正確に電極230A、230Bのドレスの良否を判定できる。
【0050】
以上、本発明に係るドレス良否判定装置およびドレス良否判定方法を実施形態1および実施形態2に分けて説明した。しかし、本発明に係るドレス良否判定装置およびドレス良否判定方法は、これらの実施形態の記載に限定されるものではない。