【文献】
ZENG, M. et al.,Constructing antibacterial polymer nanocapsules based on pyridine quaternary ammonium salt,Materials Science & Engineering C,2019年11月20日,Vol. 108,110383
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高分子系ナノファイバーの表面に殺菌性ナノカプセルが付着しているブドウ状微粒集合体を有し、前記ブドウ状微粒集合体が木質繊維からなる用紙に配合された衛生用紙であって、
前記殺菌性ナノカプセルが、第4級アンモニウム塩を含有する核微粒子と、前記核微粒子を覆うように設けられた一層の被覆層とを有し、
前記被覆層が、シェラック樹脂、2-ヒドロキシエチル尿素、ポリアクリル酸、ゼラチン、炭酸カルシウム及びアルキルケテンダイマーとを含む混合物からなる衛生用紙。
請求項7又は8のいずれか1項記載の方法によって得られた殺菌性ナノカプセルを、表面を陰イオン化処理を施した高分子系ナノファイバーの当該表面に付着させる工程を有するブドウ状微粒集合体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、注目されているナノファイバーは、それ自体の物性に基づく単独利用のみならず、複合材料の分野では、汎用品、フィルター材料、エレクトロニクス部品、自動車用部品、医療・バイオ材料など、幅広い分野で実用化されつつあり、応用開発も盛んに行われている。
【0003】
ナノファイバーの主な特徴は、1)超比表面積効果(吸着性が高い、接着力が強い、分子認識性が高い)、2)ナノサイズ効果(低圧力損失、高透明性)、3)超分子配列効果(高強度、高電気伝導性、高熱伝導性)等が挙げられ、先端技術を支える材料として、世界各国で広範な分野での開発が活発に行われている(非特許文献1参照)。
【0004】
ナノファイバーの製造法(紡糸法)にはいくつかの方法があり、それぞれ対象となる材料や、ナノファイバーの繊維径、時間当たりの生産効率などが違うことから、用途に応じた紡糸方法が選択されている。
【0005】
主な紡糸法としては、高分子を溶媒に溶かして静電気力の反発により紡糸するエレクトロスピニング法、海島構造を持つ2種類の高分子の混合物から1種類のみを溶解して残りの微細繊維を取り出す複合溶融紡糸法、溶融樹脂をエアーで延伸するメルトブロー法、炭素酸化物と水素ガスを気相中で反応させる化学気相成長(CVD)法などが挙げられる。このうち、溶剤が不要で安全性が高いメルトブロー法は、低コストでナノファイバーを大量生産できることに加え、様々な樹脂原料を製造できることが特徴となっている。
【0006】
一方、マイクロカプセルの作製技術は1950年代のノンカーボン複写紙の製品化に始まり、70年代半ばで急速な発展を遂げた。
【0007】
マイクロカプセルは医薬品、農薬、食品、塗料、インク、接着剤など多岐にわたる領域で応用されている(非特許文献2、非特許文献3、特許文献1参照)。
【0008】
マイクロカプセル化による主な効果は、液体などの芯材を固定する形態安定化、周囲の物質と芯材物質との反応や混合を防ぐ隔離効果、芯材の保存効果、毒性や臭気などの遮蔽効果、芯材の放出を抑制する効果などが挙げられ、前述の多岐用途で使用されている。
【0009】
カプセル化の技法は機械的方法(オリフィス法)、物理的方法(相分離法など)、化学的方法(界面重合法など)の三つに大別され、それぞれの技法に適した芯材、壁材が使用される。
【0010】
従来から、殺菌成分、鎮痛成分、消臭成分、香料成分、抗酸化成分、スキンケア成分などを内包したマイクロカプセルは、衛生用紙、湿布、芳香剤、消臭剤、農薬など様々な分野で使用されている(特許文献2〜4等参照)。
【0011】
前記各種成分の中で、殺菌剤として現在広い分野で使用されているのが、陽イオン性界面活性剤(第4級アンモニウム塩)である。プラス電荷を持つ陽イオン性界面活性剤は、マイナスの電荷を持つ細菌表面への吸着速度が速く、迅速な殺菌効果の発現が見られるという優れた特徴を持っている。
【0012】
第4級アンモニウム塩の作用機構として、二つの作用があると報告されている。
【0013】
一つは、「細胞膜の物理的破壊」であり、アンモニウム分子のカチオンが細菌表面のアニオン部位と結合し、疎水的相互作用により細胞膜を物理的に破壊するという作用である(非特許文献5)。もう一つは、「細菌の代謝機能阻害」であり、第4級アンモニウム塩が細菌に強力に吸着反応し、細胞内の酵素を阻害することにより、代謝機能(成長)を抑制阻止するという作用である(非特許文献6)。
【0014】
従来、殺菌成分、鎮痛成分、消臭成分、香料成分、抗酸化成分、スキンケア成分などを内包したマイクロカプセル化の技法は種々検討され、実用化されているが、主な技法としては既述したように、機械的方法(オリフィス法)、物理的方法(相分離法など)、化学的方法(界面重合法など)が挙げられる。
【0015】
これらマイクロカプセル化の技術のうち、オリフィス法では、各種成分(芯物質)を含んだポリマー溶液を二重管から硬化液に滴下してマイクロカプセルを作製している。
【0016】
相分離法では、包む必要のある芯材を壁材が含まれた有機溶液中に分散させることで、芯材の周囲を包み覆わせるが、その際、溶液のpH値、濃度、温度等の条件を調整し、カプセル芯表面に壁材を徐々に堆積させる必要がある。
【0017】
界面重合法では、芯物質を含む疎水性有機溶剤と水との界面で重合反応を起こさせてマイクロカプセルを作製している。
【0018】
上述したマイクロカプセル化の技法は、いずれの技法でも工業生産において、工程が複雑になり量産は難しいという問題がある。
【0019】
近年、このようなマイクロカプセルの代替として上述したナノファイバーを用いた新たな機能性複合材料(素子)が要望されているが、未だ実現には至っていない。
【0020】
一方、従来より、殺菌成分を有する衛生用紙として、アルコールや次亜塩素酸ナトリウム等の水溶液を浸み込ませた湿式のウエットペーパー等が市販されている。
【0021】
衛生用紙の70年もの歴史の中で、殺菌効果を持つ製品は、不織布を用いたウェットティッシュのみであり、パルプを用いた乾いた状態のティッシュで殺菌効果を持つ製品は未だかつて誕生していない。
【0022】
主な原因は、ティッシュの材料であるパルプが有機物であるため、一般的に使用される殺菌剤(第4級アンモニウム塩等)の効力が低下し、また繊維に吸着されて濃度も低下する(非特許文献4)ことから、殺菌剤の殺菌作用を著しく低下させてしまう(殺菌効果80−90%減)ことにある。
【0023】
一般的に使用される消毒用ウェットティッシュの殺菌剤濃度は1000ppm、殺菌率は90%以上である。
【0024】
ウェットティッシュには、耐薬品性に優れ、吸湿性がない不織布(ポリプロピレン等)が使用され、一定の濃度(1000ppm)に調整した薬液の中に不織布を浸して製造される。
【0025】
消毒用ウェットティッシュは使用時に不織布から薬液が浸みだして効力を発揮するため、かなり過剰の薬液が用いられている。
【0026】
このような湿式の衛生用紙では、例えば不織布1トンに対して薬液1.7トン(薬剤濃度1000ppm)が使用されている。この薬液は殺菌効果はあるが人体には好ましくない成分であり、できるだけ少なくしたいものの、薬液を減らすことは困難であった。
【0027】
また、薬液を浸み込ませるため、製品の重量が重くなるとともに、密封状態で提供されたものを一度開封すると保存可能期間が短くなるという課題を抱えていた。更には用紙に水溶液を浸み込ませているため水に溶けない成分を使用することができない等の課題も抱えている。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る殺菌性ナノカプセルの構成例を模式的に示す断面図である。
【0040】
図1に示すように、本発明の殺菌性ナノカプセル1は、核微粒子2と、核微粒子2の表面を覆うように設けられた耐水性の第1の被覆層11と、第1の被覆層11の表面を覆うように設けられた耐水性の第2の被覆層12と、第2の被覆層12の表面を覆うように設けられ且つ陽イオン化された耐水性の第3の被覆層13とを有している。
【0041】
ここで、核微粒子2は、第4級アンモニウム塩(例えばキトサン第4級アンモニウム塩)を含有し、ナノメートルサイズ(約100nm)のほぼ球状の微粒子即ち微粒体からなる。
【0042】
本明細書において、「微粒体」とは、少なくとも2個以上の微粒素からなる組成体をいう。
また、「微粒素」とは、殺菌作用を維持する最小単位の粒子状物質をいい、少なくとも2個以上の分子からなるものである。
【0043】
本発明における核微粒子2は、少なくとも60個の微粒素からなる微粒体である。
キトサン第4級アンモニウム塩は、官能基として水酸基を有するものであり、後述する表面処理されたポリプロピレンナノファイバーとの親和性がよいものである。
【0044】
本発明では、キトサン第4級アンモニウム塩と同様の水酸基を有する第4級アンモニウム塩やカルボキシル基、あるいは水酸基とカルボキシル基の両方を有する第4級アンモニウム塩を使用することができる。
このような核微粒子2の外径は、70nm〜88nmである。
【0045】
第1の被覆層11は、2-ヒドロキシエチル尿素と、ポリアクリル酸と、ゼラチンとを含む混合物からなる。
第1の被覆層11の厚さは、3nm〜8nmである。
【0046】
第2の被覆層12は、ラック樹脂と、ポリビニルアルコールと、ポリアクリル酸とを含む混合物からなる。
第2の被覆層12の厚さは、4nm〜10nmである。
【0047】
第3の被覆層13は、炭酸カルシウムと、アルキルケテンダイマーとを含む混合物からなる。
第3の被覆層13の厚さは、5nm〜12nmである。
【0048】
[殺菌性ナノカプセルの製造工程]
図2は、本発明に係る殺菌性ナノカプセル及びブドウ状微粒集合体を用いた衛生用紙の製造方法の例を示すフロー図である。
以下、
図1〜
図4を参照して本発明の方法の例を説明する。
【0049】
<第4級アンモニウム塩水溶液の調製工程>
まず、第4級アンモニウム塩水溶液を調製する(
図2プロセスP1)。
【0050】
本工程では、第4級アンモニウム塩としてキトサン第4級アンモニウム塩(2-hydroxypropyl trimethyl ammonium chloride chitosan)を使用する。
【0051】
本発明の場合、キトサン第4級アンモニウム塩水溶液の濃度は特に限定されることはないが、各国の化粧品薬剤添加指標に基づくという観点からは、20〜1000ppmに設定することが好ましい。
【0052】
<核微粒子の作成工程>
次に、キトサン第4級アンモニウム塩からなる核微粒子2を作成する(
図2プロセスP2)。
本実施の形態では、例えば、次のような処理装置を用いて核微粒子2を作成する。
【0053】
この処理装置は、高速回転(8,000〜12,000rpm)可能で密閉可能な容器を有し、この容器内に上記キトサン第4級アンモニウム塩水溶液が収容されるようになっている。
【0054】
そして、この容器は、その内部の空気を真空排気するとともに容器内に空気を導入して容器内の圧力を調整することができるように構成されている。
【0055】
また、この処理装置は、容器内の温度を所定の温度に制御する温度制御機構と、容器内のキトサン第4級アンモニウム塩の水溶液に対して超音波を照射する超音波発振器を有している。
【0056】
このような構成を有する処理装置を用いて核微粒子2を作成するには、まず、容器内に、所定量(例えば45g程度)のキトサン第4級アンモニウム塩水溶液を入れて容器を回転させるとともに、容器内の真空排気及び容器内への空気の導入を行う。
【0057】
この場合、容器の回転速度を徐々に大きくし、容器内の真空排気量を徐々に大きくするとともに容器内への空気の導入量を徐々に減らすことによって容器内の圧力を徐々に減圧する。
【0058】
この工程中においては、容器内の温度が0℃より高く(例えば+2〜+5℃)なるように制御する。
【0059】
この工程により、容器内に収容されたキトサン第4級アンモニウム塩水溶液が撹拌されて分離、分散され、容器内において液滴になって浮遊する。
【0060】
そして、容器内の真空圧力が所定の値に到達した時点で、容器内の真空排気及び容器内への空気の導入を停止する。
【0061】
その後、容器の回転速度を例えば一定に保持し、容器内のキトサン第4級アンモニウム塩水溶液の液滴に対して例えば一定強度の超音波を照射する。
【0062】
この工程中においては、容器内の温度を徐々に下げ、0℃より低い一定温度(例えば−2〜−5℃)となるように制御する。
なお、容器内の圧力は、上述した真空圧力に維持されている。
【0063】
この工程により、容器内のキトサン第4級アンモニウム塩水溶液の粒子が、超音波照射による振動によって徐々に微粒化する。
【0064】
そして、キトサン第4級アンモニウム塩水溶液の微粒体の直径が所定のナノメートルサイズ(例えば70nm〜88nm)に到達した時点で、容器の回転速度を徐々に小さくし、キトサン第4級アンモニウム塩の微粒体に対する超音波の強度を徐々に下げる。
【0065】
一方、この工程中においては、引き続き容器内の温度を0℃より低い一定温度(例えば−2〜−5℃)となるように制御する。これにより、キトサン第4級アンモニウム塩の微粒体が凍結して固化する。
【0066】
以上の工程により、冷凍状のキトサン第4級アンモニウム塩からなるナノメートルサイズの多数の核微粒子2が得られる。
【0067】
<第1の被覆層の形成工程>
上記プロセスP2で得られた核微粒子2の表面を覆う耐水性の第1の被覆層11を形成する(
図2プロセスP3)。
【0068】
本例では、第1の被覆層11の材料として、2-ヒドロキシエチル尿素(CAS:2078−71−9)と、ポリアクリル酸(CAS:9003−01−4)と、ゼラチン(CAS:9000−70−8)とを含む混合物からなるものを用いる。
【0069】
本工程では、上記核微粒子の作成工程P2で得られた多数の核微粒子2を、所定の真空流動槽内に配置し、−5〜−15℃の温度の真空中で浮遊させ、複数の超音波霧化ノズルを用いて第1の被覆層11の材料からなる霧状の液体を四方から核微粒子2に吹きかける。
【0070】
ここで、高分子物質であるゼラチンは、凝固剤としての役割と、後述する製紙工程中で高温(100℃以上)にさらされたときにキトサン第4級アンモニウム塩を保護する役割を果たすものである。
本工程は、核微粒子2の量にもよるが、約5〜15分行う。
【0071】
<第2の被覆層の形成工程>
上記核微粒子2の第1の被覆層11の表面を覆う耐水性の第2の被覆層12を形成する(
図2プロセスP4)。
【0072】
本例では、第2の被覆層の材料として、ラック樹脂(CAS:9000−59−3)と、ポリアクリル酸(CAS:9003−01−4)と、ポリビニルアルコール(CAS:9002−89−5)とを含む混合物からなるものを用いる。
【0073】
本工程では、上記第1の被覆層11が形成された多数の核微粒子2を、所定の真空流動槽内に配置し、−5〜−15℃の温度の真空中で浮遊させ、複数の超音波霧化ノズルを用いて第2の被覆層12の材料からなる霧状の液体を四方から核微粒子2に吹きかける。
【0074】
高分子物質であるポリビニルアルコールは、成膜剤としての役割と、上述したゼラチンと同じく製紙工程中で高温(100℃以上)にさらされたときにキトサン第4級アンモニウム塩を保護する役割を果たすものであるが、この製紙工程の際の熱によって蒸発する。
本工程は、核微粒子2の量にもよるが、約5〜15分行う。
【0075】
なお、ポリビニルアルコールの代わりにエチレングリコール等の易揮発性溶剤も使用可能である。
【0076】
<第3の被覆層の形成工程>
上記核微粒子2の第2の被覆層12の表面を覆う陽イオン化された第3の被覆層13を形成する(
図2プロセスP5)。
【0077】
本例では、第3の被覆層の材料として、炭酸カルシウム(CAS:471−34−1)と、アルキルケテンダイマー(CAS:84989−41−31)とを含む混合物(乳化水溶液)からなるものを用いる。
【0078】
そして、上記第2の被覆層12が形成された多数の核微粒子2を、所定の真空流動槽内に配置し、−5〜−15℃の温度の真空中で浮遊させ、槽内に設けた超音波霧化ノズルを用いて第3の被覆層13の材料の霧状液体を四方から核微粒子2に吹きかける。
【0079】
本工程で用いる炭酸カルシウムは微小粒子を陽イオン化させる働きを有し、後述するように、陰イオン化処理を施した高分子系ナノファイバー集合体の表面に殺菌性ナノカプセルを付着させて高分子系ナノファイバーとイオン的に結び付くことによって、第4級アンモニウム塩の分散安定性を向上させる効果がある。
本工程は、核微粒子2の量にもよるが、約5〜15分行う。
【0080】
[高分子系ナノファイバー集合体の製造工程]
図3(a)〜(d)は、本発明に用いる高分子系ナノファイバーを模式的に示すもので、
図3(a)及び
図3(c)は、同高分子系ナノファイバーの外観を示す正面図、
図3(b)は、同高分子系ナノファイバーの側面図、
図3(d)は、
図1(c)のA−A線断面図である。
【0081】
本発明に用いる高分子系ナノファイバー3は、高分子材料から構成されるナノファイバー(直径が1nmから1μm未満の繊維状物質)で、両端部が開口しているものである(以下、適宜「ナノファイバー」という。)。
【0082】
ここで、ナノファイバー3を構成する高分子材料としては、繊維状に製造することが可能で、水、脂肪酸アミド、次亜塩素酸、エタノール、イソブチルトリエトキシシラン、エチルアセテートに溶解しないものを用いることが好ましい。
【0083】
このような高分子材料としては、例えば、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PU(ポリウレタン)等の熱可塑性樹脂からなるものがあげられる。
【0084】
ナノファイバー3の紡糸法としては、溶剤が不要で安全性が高く、低コストで大量生産可能なメルトブロー法が好ましい。
【0085】
本発明の場合、ナノファイバー3の材料は特に限定されることはないが、ファイバーの製造のし易さ、並びに、集合体を構成した場合に柔らかさが得られる観点からは、ポリプロピレンからなるものを好適に用いることができる。
【0086】
図3(a)〜(d)に示すように、本発明に用いる高分子系ナノファイバー3は、内部が空洞の構成、すなわち、その長手方向に沿うように形成された中空部4を有している。
【0087】
この場合、高分子系ナノファイバー3としては、ファイバーの内径が外径の約1/2のものを好適に使用することができる。
【0088】
具体的には、外径が20〜1000nmで、内径が10〜500nmの中空のナノファイバーが好ましく、より好ましくは外径が20〜100nmで、内径が10〜50nmである。
【0089】
この高分子系ナノファイバー3を用いてブドウ状微粒集合体を作成するには、まず、
図2のプロセスP6に示すように、高分子系ナノファイバー3の表面処理(陰イオン化処理)工程を行う。
【0090】
<高分子系ナノファイバーの表面処理工程>
本発明では、ナノファイバー3の表面処理の材料として、例えば脂肪酸アミドと、次亜塩素酸を用いることができる。
【0091】
ここで、脂肪酸アミドは、ナノファイバー3の表面部分(外側の表面部分3a及び内側の表面部分3b:
図3(a)〜(d)参照)を脱脂するために用いるものである。
【0092】
本発明の場合、ナノファイバー3の表面の脱脂に用いる脂肪酸アミドの種類は特に限定されることはないが、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミドを用いることが好ましい。
【0093】
ヤシ脂肪酸ジエタノールアミドは、非イオン系界面活性剤としてシャンプー、洗顔料等に広く使用されており、容易に入手することができることから好ましいものである。
【0094】
なお、脱脂効果のあるものであれば、他の脂肪酸アミドや、界面活性剤等も使用することができる。
【0095】
一方、次亜塩素酸は、上記脱脂処理によって高分子系ナノファイバー3の表面に付着しているヤシ脂肪酸ジエタノールアミドと反応し、カルボキシル基と水酸基がナノファイバーの表面を覆うことで陰イオン化することによって、陽イオン化された殺菌性ナノカプセル1との親和性を向上させることができる。
【0096】
本発明においては、本処理を行う材料として、特に次亜塩素酸に限られるものではないが、汎用に使用されている材料であり、入手が容易であるという観点からは、次亜塩素酸を用いることが好ましい。
【0097】
上記脂肪酸アミドと次亜塩素酸を用いてナノファイバー3の表面処理を行う場合には、例えば以下のような処理を行う。
【0098】
まず、所定量のナノファイバー3を脂肪酸アミドの水溶液に分散させ、例えば100℃程度の温度で30〜40分間煮沸する。
【0099】
この煮沸工程後、ナノファイバー3を水洗し、遠心分離器を用いて例えば数分間(2000rpm程度)脱水し、その後、60℃程度の温度で30分間程度乾燥させる。
【0100】
乾燥後の所定量のナノファイバー3を次亜塩素酸水溶液(濃度8g/L)に分散させ、pHを5〜5.5に保ちながら、30℃程度の温度で1時間程度撹拌し、ナノファイバー3の表面に付着している脂肪酸アミドに対し次亜塩素酸を反応させる。
【0101】
そして、反応完了後のナノファイバー3を常圧でろ過し、遠心分離器で数分間(2000rpm程度)脱水した後、60℃程度の温度で30分間程度乾燥させる。
【0102】
さらに、上述した表面処理後のナノファイバー3を、微粉砕機を用い、2〜5mm(平均3mm)の長さに粉砕する(
図2プロセスP7)。
これにより例えばPPからなる高分子系ナノファイバー3の集合体を得る。
【0103】
[ブドウ状微粒集合体の製造工程]
<殺菌性ナノカプセルの高分子系ナノファイバーの表面への付着工程>
次に、上述したプロセスP1〜P5によって得られた殺菌性ナノカプセル1を、上記ナノファイバー3の集合体の表面に付着させる(
図2プロセスP8)。
【0104】
本工程を行う理由は、殺菌性ナノカプセル1をそのままの状態で衛生用紙作成工程において木質繊維と結合させようとすると、処理室内で殺菌性ナノカプセル1がほとんど浮遊してしまい、木質繊維と結合しにくいからであり、本工程を行うことによって、木質繊維に対し、殺菌性ナノカプセル1が付着した高分子系ナノファイバー3を安定して分散させることができる。
【0105】
本工程では、まず、負に帯電させて陰イオン化させた高分子系ナノファイバー3を真空槽内に配置し、次いで、上述した殺菌性ナノカプセル1をこの真空槽内に配置する。
【0106】
炭酸カルシウムを含む第3の被覆層13が形成された殺菌性ナノカプセル1は、正電荷を帯びて陽イオン化しており、この殺菌性ナノカプセル1を真空槽内に配置し、静電気力によって高分子系ナノファイバー3の集合体に迅速に付着させる。
【0107】
上述した工程によって、
図4に示すように、高分子系ナノファイバー3の表面にキトサン第4級アンモニウム塩を含有する殺菌性ナノカプセル1が多数付着しているブドウ状微粒集合体10が得られる。
【0108】
本明細書において、「ブドウ状」とは、穂軸に多数の実が付いている果実のブドウのように、軸に多数の粒子が付着している形態をいう。
【0109】
なお、本発明では、高分子系ナノファイバー3の代わりにナノパルプ繊維を真空槽内に入れて殺菌性ナノカプセル1と結合させることもできる。
【0110】
[衛生用紙の作成工程]
上記ブドウ状微粒集合体10を用い、例えば以下の製紙方法により、1枚の紙からなる衛生用紙を作成する(
図2プロセスP9)。
【0111】
本例では、まず、各種の原料木材をパルプ化する工程を行い、その後、以下の調整工程を行う。
【0112】
調整工程では、各種パルプを混合し、リファイナーという装置を用いて叩解(こうかい)し、上述したブドウ状微粒集合体10を分散させるとともに所定の薬品を添加する。この調整工程を経たパルプは、スラリー状で紙料と呼ばれる。
【0113】
さらに、公知の抄造工程、塗工工程、仕上げ・加工工程を経ることにより、本発明の衛生用紙が得られる。
【0114】
上述した製紙工程において、ブドウ状微粒集合体10の殺菌性ナノカプセル1が100℃以上に加熱されると、以下のような変化が生ずる。
【0115】
すなわち、第2の被覆層12を構成する材料のうちポリビニルアルコールとポリアクリル酸とが蒸発し、残ったラック樹脂と、第1の被覆層11を構成する2-ヒドロキシエチル尿素、ポリアクリル酸及びゼラチンと、第3の被覆層13を構成する炭酸カルシウム及びアルキルケテンダイマーとが混合して一層の被覆層が形成される。
この被覆層は、水に触れると直ちに溶解して破れる性質を有している。
【0116】
したがって、本発明をティッシュペーパー等の紙製品に適用すれば、水に接触させると直ちにキトサン第4級アンモニウム塩からなる核微粒子2が溶け出して細菌を攻撃できる衛生用紙が得られる。
【0117】
すなわち、本発明の衛生用紙が水に触れると、木質繊維の表面又は内部に存在する殺菌性ナノカプセル1の被覆層が溶解して破裂し、キトサン第4級アンモニウム塩からなる核微粒子2が溶け出す。
【0118】
この時、陽イオンを持つキトサン第4級アンモニウム塩は、陰イオンを持つ細菌と真っ先に結合し(パルプの陰イオンより先に)、これによって細菌に対する殺菌作用が発現する。
【0119】
なお、キトサン第4級アンモニウム塩の陽イオン数が細菌の陰イオン数を上回らない限り、キトサン第4級アンモニウム塩がパルプと結合して汚染されることはない。
【0120】
なお、本発明は、上記実施の形態には限られず、種々の変更を行うことができる。
例えば上記実施の形態では、殺菌性ナノカプセル1の成分として殺菌成分を使用しているが、その他の鎮痛成分、消臭成分、香料成分、抗酸化成分、スキンケア成分等を用い、衛生用紙以外の用途にも使用することができる。
【0121】
本発明の衛生用紙としては、特に限定はないが、使い捨てペーパータオルやティッシュペーパーのような薄葉紙製品に対して適用することができる。
【0122】
また、本発明の殺菌性ナノカプセルは、衛生用紙以外にも、抗菌加工プラスチック製品、白衣等の布製品、手術用手袋等のゴム製品、マスク等の衛生用品、革製品、塗料、合成木材などの各種用途に適用可能である。
【実施例】
【0123】
以下、実施例で本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
また、特に断らない限り、以下に記載する%は重量%を示す。
【0124】
[殺菌性ナノカプセルの作成]
まず、濃度1000ppmのキトサン第4級アンモニウム塩水溶液を調製した。
【0125】
このキトサン第4級アンモニウム塩水溶液45gを、上述した処理装置の容器内に収容して容器を高速回転させるとともに、容器内の真空排気及び容器内への空気の導入を行った。
【0126】
この場合、容器の回転速度を徐々に大きくし(8,000〜12,000rpm)、容器内の真空排気量を徐々に大きくするとともに容器内への空気の導入量を徐々に減らすことによって容器内の圧力を徐々に減圧した。
また、容器内の温度が+2〜+5℃になるように温度を制御した。
【0127】
この工程により、容器内に収容されたキトサン第4級アンモニウム塩水溶液が撹拌されて分離、分散され、容器内において液滴になって浮遊する。
【0128】
そして、容器内の真空圧力が所定の値に到達した時点で、容器内の真空排気及び容器内への空気の導入を停止した。
【0129】
その後、容器の回転速度を一定に保持し、容器内のキトサン第4級アンモニウム塩水溶液の液滴に対して一定強度の超音波を照射した。
【0130】
この工程中においては、容器内の温度を徐々に下げ、−2〜−5℃となるように制御した。
なお、容器内の圧力は、上述した真空圧力に維持した。
【0131】
この工程により、容器内のキトサン第4級アンモニウム塩水溶液の粒子が、超音波照射による振動によって徐々に微粒化された。
【0132】
そして、キトサン第4級アンモニウム塩水溶液の微粒体の直径が所定のナノメートルサイズ(70nm〜88nm)に到達した時点で、容器の回転速度を徐々に小さくし、キトサン第4級アンモニウム塩の微粒体に対する超音波の強度を徐々に下げた。
【0133】
この工程中においては、引き続き容器内の温度を−2〜−5℃となるように制御し、キトサン第4級アンモニウム塩の微粒体を凍結させて固化させた。
【0134】
以上の工程により、冷凍状のキトサン第4級アンモニウム塩からなるナノメートルサイズの多数の核微粒子が得られた。
【0135】
その後、2-ヒドロキシエチル尿素と、ポリアクリル酸と、ゼラチンとを含む混合物からなる材料を用い、核微粒子の表面を覆うように耐水性の第1の被覆層を形成した。
【0136】
この場合、上記工程で得られた多数の核微粒子を、所定の真空流動槽内に配置し、−5〜−15℃の温度の真空中で浮遊させ、槽内に設けた複数の超音波霧化ノズルを用いて上記材料からなる霧状の液体を四方から約5〜15分核微粒子に吹きかけた。
【0137】
次に、ラック樹脂と、ポリアクリル酸と、ポリ(ビニルアルコール)とを含む混合物からなる材料を用い、上記核微粒子の第1の被覆層の表面を覆うように耐水性の第2の被覆層を形成した。
【0138】
この場合、第1の被覆層が形成された多数の核微粒子を、所定の真空流動槽内に配置し、−5〜−15℃の温度の真空中で浮遊させ、槽内に設けた複数の超音波霧化ノズルを用いて上記材料からなる霧状の液体を四方から核微粒子に吹きかけた。
【0139】
さらに、炭酸カルシウムと、アルキルケテンダイマーとを含む混合物(乳化水溶液)からなる材料を用い、上記核微粒子の第2の被覆層の表面を覆うように陽イオン化された第3の被覆層を形成した。
【0140】
この場合、第2の被覆層が形成された多数の核微粒子を、所定の真空流動槽内に配置し、−5〜−15℃の温度の真空中で浮遊させ、槽内に設けた複数の超音波霧化ノズルを用いて第3の被覆層の材料の霧状液体を四方から約5〜15分間核微粒子に吹きかけた。
以上の工程により、本実施例の殺菌性ナノカプセルが得られた。
【0141】
[PPナノファイバーの表面処理]
まず、外径20〜100nmのPPからなる中空のナノファイバー(宏丞ナノテクノロジー社製)を用意した。このPPナノファイバーは、両端部が開口しているものである。
【0142】
そして、このPPナノファイバー25gを1L(リットル)のヤシ脂肪酸ジエタノールアミド溶液(Anway社製Coconut Diethanol Amide RSAW 6501を1g、水1Lに添加したもの)に分散させ、100℃で30〜40分間煮沸した。
【0143】
煮沸後、PPナノファイバーを水洗し、遠心分離器で3分間(2000rpm)脱水した後、60℃で30分間乾燥させた。
【0144】
乾燥後のPPナノファイバー25gを1Lの次亜塩素酸水溶液(濃度8g/L)に分散させ、pHを5〜5.5に保持しながら、30℃で1時間撹拌した。
【0145】
反応完了後のPPナノファイバーを常圧でろ過し、遠心分離器で3分間(2000rpm)脱水を行った。脱水後、60℃で30分間乾燥させた。
【0146】
赤外線分光計(IR)を用いて表面処理後のPPナノファイバーの分析を行った。その結果を
図5に示す。
【0147】
図5のIRスペクトルに示すように、3000〜2500の範囲内に見られるピーク及び1770〜1700の強いシングルピークは、カルボキシル基が存在していることを示し、このことから本実施例のPPナノファイバーは表面処理がなされていることを確認した。
【0148】
そして、上述した表面処理後のPPナノファイバーを、微粉砕機を用いて長さ2〜5mm(平均3mm)に粉砕した。これにより所定の長さのPPナノファイバー集合体を得た。
【0149】
[ブドウ状微粒集合体の作成]
上述した殺菌性ナノカプセルを、上述した真空静電気電場装置内に配置し、直径20〜100nm、長さ2〜5mm(平均3mm)、総重量20gのPPナノファイバー集合体と混合して、ブドウ状微粒集合体を得た。
【0150】
図6は、得られた本実施例のブドウ状微粒集合体を示す写真である。
図6に示すように、本実施例のブドウ状微粒集合体は、固体状のもので微細な構成要素の集まりとして得られる。
【0151】
[ブドウ状微粒集合体を配合した衛生用紙の作成]
上記ブドウ状微粒集合体をパルプスラリーに添加し、上述した製紙工程により、1枚のティッシュペーパーから構成される衛生用紙(サイズ:210mm×190mm)を複数枚作成した。
【0152】
図7は、本実施例の衛生用紙を拡大して示す写真である。
図7に示すように、上記ブドウ状微粒集合体を配合した衛生用紙は、木質繊維中にナノカプセルが分散されている。
【0153】
本実施例の衛生用紙を、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いて測定したところ、1枚の用紙の総重量が0.55gで、PPナノファイバーを0.01%含み、1枚に含まれる上記キトサン第4級アンモニウム塩が0.000015%である衛生用紙のサンプルを得た。
【0154】
また、この衛生用紙のサンプルに対し、中国衛生規格QB/T2738−2012に従い、バイオケミカルインキュベーターで大腸菌の殺菌テストを行った。
【0155】
この場合、サンプルは3枚重ねの衛生用紙を用いて、試験を行った。その結果を表1に示す。
【0156】
なお、以上の測定及び試験は、第三者分析機関であるCCIC Traceability CO.Ltd.によるものである。
【0157】
下記の表1に示すように、本発明の衛生用紙のサンプルは、木質繊維であるパルプに対してごく微量(0.004%)の第4級アンモニウム塩を添加することにより、十分な殺菌作用を示す結果が得られた。そして、この衛生用紙は、使用の際に例えば3枚重ねて1組で用いることによって、きわめて高い殺菌効果(殺菌率90%以上)を発揮することができる。
【0158】
【表1】
【0159】
表1に示すように、本発明の効果を確認することができた。
なお、本発明の衛生用紙は、例えば河之江造機株式会社製のベストフォーマヤンキー抄紙機(BF−1000:高速モデル)を用いることにより、大量に生産することができる。
【0160】
この装置を用いれば、例えば紙幅276cmの衛生用紙を、800−1000m/分の速度でロール状に製造することができる。
【課題】有機物であるパルプからの殺菌作用に対する影響を受けることがなく、また薬物の殺菌効果を低下させることなく人体への影響を限りなく小さくすることができるブドウ状微粒集合体及びこれを用いた衛生用紙の技術を提供する。
【解決手段】本発明の殺菌性ナノカプセル1は、第4級アンモニウム塩を含有するナノメートルサイズの核微粒子2と、核微粒子2の表面を覆うように設けられた耐水性の第1の被覆層11と、第1の被覆層11の表面を覆うように設けられた耐水性の第2の被覆層12と、第2の被覆層12の表面を覆うように設けられ且つ陽イオン化された耐水性の第3の被覆層13とを有する。