(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6843413
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】澱粉系可撓性導電材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/03 20060101AFI20210308BHJP
C08B 30/20 20060101ALI20210308BHJP
C08L 3/12 20060101ALI20210308BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
C08J3/03
C08B30/20
C08L3/12
C08K3/16
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-150728(P2020-150728)
(22)【出願日】2020年9月8日
【審査請求日】2020年9月8日
(31)【優先権主張番号】202010196662.6
(32)【優先日】2020年3月19日
(33)【優先権主張国】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519295166
【氏名又は名称】▲広▼州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 鵬
(72)【発明者】
【氏名】毛 桃嫣
(72)【発明者】
【氏名】尚 小琴
(72)【発明者】
【氏名】汪 黎明
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−049431(JP,A)
【文献】
特開昭54−077489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/03
C08B 30/20
C08K 3/16
C08L 3/12
A61B 5/04
A61N 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉系可撓性導電材料の調製方法であって、
高アミロース含有量澱粉と塩溶液を均一に混合し、透明ゲルが形成されるまで加熱した後、室温に冷却して、澱粉系可撓性導電材料を得るステップを含み、前記高アミロース含有量澱粉は、澱粉中のアミロース含有量が50%以上である天然澱粉である、ことを特徴とする澱粉系可撓性導電材料の調製方法。
【請求項2】
前記塩溶液は塩化カルシウム水溶液であり、塩化カルシウム水溶液の原料中、無水塩化カルシウム固体と水の質量比が1:1〜1:2である、ことを特徴とする請求項1に記載の澱粉系可撓性導電材料の調製方法。
【請求項3】
前記高アミロース含有量澱粉と塩溶液の質量比が1:1〜1:3である、ことを特徴とする請求項2に記載の澱粉系可撓性導電材料の調製方法。
【請求項4】
前記加熱は、60〜80℃まで加熱することであり、前記加熱時間は20〜60minである、ことを特徴とする請求項1に記載の澱粉系可撓性導電材料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電材料分野に属し、特に澱粉系可撓性導電材料、その調製及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
経済発展及び生活水準の向上に伴い、健康への関心はますます高まっている。さまざまなバイタルサインデータを監視する皮膚センサデバイス、特に使い捨てセンサデバイスに対する市場の需要が巨大である。可撓性導電材料は、皮膚センサデバイスに幅広く使用されているので、広く注目されている。ただし、現在のところ、ほとんどの可撓性導電材料は合成ポリマーを基材としており、導電率、機械的適応性、刺激応答性、長期安定性、生体適合性など、皮膚センサデバイスの要件を満たすことができるが、分解できないので、電子廃棄物による汚染が不可避的に生じる。また、市場の拡大に伴い、今後の大規模用途では、加工コストが高く、リサイクルが難しいなどの問題があり、資源の浪費を引き起こしやすい。この点では、使い捨てセンサデバイスで使用される低コストで分解可能で環境に優しい可撓性導電材料の開発は、国家政策の志向でありながら、新材料の開発の焦点でもある。
【0003】
現在、一般的に使用されている分解性材料基材には、セルロース、澱粉、キトサン、アルギン酸塩、タンパク質などの天然生体高分子材料、及びポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリビニルアルコール(PVA)など、化学合成高分子材料がある。その中でも、澱粉は、自然界で含有量の最も多い高分子多糖類の1つであり、価格が低く、再生・分解可能で、生体適合性が高く、開発及び応用が期待できる。
【0004】
澱粉は、ミクロンサイズの粒子の形で存在する天然生体高分子材料である。澱粉粒子が澱粉鎖に加工された後、分子鎖再配列を行って、分解性材料の分野で広く使用されている澱粉系材料となることができる。しかしながら、澱粉大分子には導電性がなく、現在のところ、澱粉を基材とした導電材料は市販されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第110183809号明細書
【0006】
本発明は、導電材料の分野に関し、特に、硫化銅とカーボンナノチューブを複合導電剤とした可撓性導電材料の調製方法に関する。まず、ポリアクリロニトリルのジメチルホルムアミド溶液をカーボンナノチューブ/アジリジン架橋剤の水分散液と混合し、コーティングした後、凝固浴溶液に入れて硬化させ、さらに化学反応法で硫化銅とカーボンナノチューブを複合導電剤とした可撓性導電材料を調製する。カーボンナノチューブ/ポリアジリジン架橋剤のブレンドによって変性されたポリアクリロニトリル膜は、優れた可撓性を有するだけでなく、分散液中の水が成膜中に細孔形成剤として機能する。ポリアジリジン架橋剤/ポリアクリロニトリル膜は、連続的に分布している網目状の孔構造を有するので、導電性硫化銅が可撓性膜の表面に堆積するだけでなく、その内部でも成長し、それにより、形成された硫化銅は可撓性基膜の表面を覆うだけではなく、膜の内部まで浸透し、複合材料に優れた導電性を持たせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術の欠点及び欠陥を解決するために、皮膚センサデバイス及び可撓性導電材料に対する巨大の市場の需求に対応して、本発明の目的は、低価で分解可能な澱粉系可撓性導電材料を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、上記澱粉系可撓性導電材料の調製方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、センサデバイス、ウェアラブルデバイスの製造における上記澱粉系可撓性導電材料の応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、下記技術案によって実現される。
【0011】
環境配慮型澱粉系可撓性導電材料の調製方法であって、
高アミロース含有量澱粉と塩溶液を均一に混合し、透明ゲルが形成されるまで加熱した後、室温に冷却して、澱粉系可撓性導電材料を得るステップを含む。
【0012】
前記高アミロース含有量澱粉は、澱粉中のアミロース含有量が50%以上である天然澱粉である。
【0013】
前記塩溶液は、塩化カルシウム水溶液であり、無水塩化カルシウム固体(CAS:10043−52−4)と水の質量比が1:1〜1:2、好ましくは1:1.25である。
【0014】
前記高アミロース含有量澱粉と前記塩溶液の質量比が1:1〜1:3、好ましくは1:2である。
【0015】
前記塩溶液は、塩を水に溶解して、撹拌しながら完全に溶解した後、室温に冷却し、使用まで放置するものである。高アミロース含有量澱粉を塩溶液に加え、十分に撹拌し、均一に分散させた後、加熱する。
【0016】
前記加熱は、60〜80℃、好ましくは70℃に加熱することであり、前記加熱時間は20〜60min、好ましくは30minである。
【0017】
上記方法で調製される澱粉系可撓性導電材料。
【0018】
センサデバイス、ウェアラブルデバイスの製造における、上記澱粉系可撓性導電材料の応用。
【0019】
本発明のメカニズムは以下のとおりである。
塩化カルシウム溶液中のカルシウムイオン及び塩素イオンは、澱粉のマルチスケールでの構造の相変化を促進し、澱粉顆粒を分解することができる。溶液中の澱粉分子は再結合して3次元ネットワーク構造を形成し、水分子をその内部にロックしてゲルを形成し、また、溶媒和成分としてのイオンをヒドロゲルにロックする。外部から材料に電圧が印加されると、ゲル内のイオンが所定の方向に移動し、それにより、澱粉系材料に導電機能を付与する。
【発明の効果】
【0020】
従来技術に比べて、本発明は下記利点を有する。
(1)本発明は、再生・分解可能で環境に優しい導電材料を調製し、なお材料の加工プロセスが簡単であり、工業的生産に適している。
(2)通常の澱粉が成形できないのに対して、本発明で調製される材料は、高アミロース含有量澱粉を原料とすることで、優れた導電性を備えながら、優れた機械的特性を持っており、材料の引張強さが6〜8MPaに達し、一般的なセンサデバイスの使用要件を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1で調製される澱粉系可撓性導電材料の写真である。
【
図2】実施例1で調製された澱粉系可撓性導電材料を繰り返し引っ張ったときの電流の変化を示す図である。
【
図3】比較例1で調製された澱粉系可撓性導電材料の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施例及び図面を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。実施例には具体的な条件が示されていない場合、通常の条件又は製造元が推奨する条件が使用される。メーカーが明記されていない試薬又は機器は、すべて市販品として入手可能な従来の製品である。
【0023】
実施例1
(1)無水塩化カルシウム固体4gを秤量し、水8gに加え、清澄まで撹拌して溶解し、室温に冷却した。
(2)高アミロース含有量澱粉(National Starch社、Gelose80)6gを秤量して、(1)の溶液に加え、撹拌して澱粉混合液を形成した。
(3)(2)の混合液を円状容器に均一に注入した。
(4)(3)の容器を80℃の水浴に入れて、20min反応させ、透明なゲル状液体を得た。
(5)(4)の容器を水浴から取り出して、室温に冷却し、材料を得た。
上記ステップで得た澱粉系可撓性導電材料の実際形態図及び繰り返して引っ張られたときの電流の変化を示す図をそれぞれ
図1及び
図2に示し、
図1及び
図2から明らかなように、材料は柔軟で靭性があり、弾性を有し、導電材料として使用するときに、材料の変形が電流に明らかな影響を与えた。
上記ステップで得た澱粉系可撓性導電材料は、引張強さ7.7±0.3MPa、破断点伸び31.1±1.4%、抵抗率10.3±0.4Ω・mであった。
【0024】
実施例2
(1)塩化カルシウム固体4gを秤量し、水4gに加え、清澄まで撹拌して溶解し、室温に冷却した。
(2)高アミロース含有量澱粉(海南甘霖農業科技発展有限公司、高アミロース含有量コーンスターチ)5gを秤量し、(1)の溶液に加え、撹拌して澱粉混合液を形成した。
(3)(2)の混合液を円状容器に均一に注入した。
(4)(3)の容器を60℃の水浴に入れて、60min反応させ、透明なゲル状液体を得た。
(5)(4)の容器を水浴から取り出して、室温に冷却し、材料を得た。
上記ステップで得た澱粉系可撓性導電材料は、引張強さ6.4±0.7Mpa、破断点伸び20.1±3.3%、抵抗率9.3±0.3Ω・mであった。
【0025】
実施例3
(1)塩化カルシウム固体4gを秤量し、水5gに加え、清澄まで撹拌して溶解し、室温に冷却した。
(2)高アミロース含有量澱粉(National Starch社、Hylon VII)4.5gを秤量し、(1)の溶液に加え、撹拌して澱粉混合液を形成した。
(3)(2)の混合液を円状容器に均一に注入した。
(4)(3)の容器を70℃の水浴に入れて、30min反応させ、透明なゲル状液体を得た。
(5)(4)の容器を水浴から取り出して、室温に冷却し、材料を得た。
上記ステップで得た澱粉系可撓性導電材料は、引張強さ6.7±0.4Mpa、破断点伸び36.1±1.1%、抵抗率6.3±0.8Ω・mであった。
【0026】
比較例1
(1)塩化カルシウム固体2gを秤量し、水4gに加え、清澄まで撹拌して溶解し、室温に冷却した。
(2)通常のコーンスターチ(黄龍食品工業有限公司)6gを秤量して、(1)の溶液に加え、撹拌して澱粉混合液を形成した。
(3)(2)の混合液を円状容器に均一に注入した。
(4)(3)の容器を70℃の水浴に入れて、30min反応させ、透明なゲル状液体を得た。
(5)(4)の容器を水浴から取り出して、室温に冷却し、成形不能な粘稠状ゲルを得た。
上記ステップで得たゲルを
図3に示す。
【0027】
上記実施例は、本発明の好ましい実施形態であり、本発明の実施形態は、上記実施例により制限されず、本発明の趣旨及び原理から逸脱することなく行われる他の変化、修正、置換、組み合わせ、簡略化など、いずれも均等な置換方式として、すべて本発明の特許範囲に含まれる。
【要約】 (修正有)
【課題】導電材料の分野に属し、澱粉系可撓性導電材料、その調製及び応用を提供する。
【解決手段】澱粉系可撓性導電材料の調製には、高アミロース含有量澱粉と塩溶液を均一に混合し、透明ゲルが形成されるまで加熱した後、室温に冷却し、澱粉系可撓性導電材料を得るステップが含まれる。前記高アミロース含有量澱粉は、澱粉中のアミロースの含有量が50%以上である天然澱粉である。本発明で調製された澱粉系可撓性導電材料は、通常の澱粉が成形できないのに対して、高アミロース含有量澱粉を原料とすることで、優れた導電性能を備えながら、優れた機械的特性を持っており、材料の引張強さが6〜8MPaに達し、一般的なセンサデバイスの使用要件を満たす。
【選択図】
図1