特許第6843432号(P6843432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6843432防水シート劣化診断方法、及び、シート劣化診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843432
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】防水シート劣化診断方法、及び、シート劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20210308BHJP
   E04D 5/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   G01N17/00
   E04D5/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-105957(P2017-105957)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-200279(P2018-200279A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178619
【氏名又は名称】アーキヤマデ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】庄司 博之
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕之
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−091396(JP,A)
【文献】 特開2003−254893(JP,A)
【文献】 特開平06−027010(JP,A)
【文献】 特開2010−083558(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0031595(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
E04D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水下地上に絶縁工法によって設置された防水シートの劣化度合いを診断するシート劣化診断方法であって、
開口部を有する耐圧容器を、前記耐圧容器のうちの前記開口部側の部分が前記防水シート側となる状態で、前記防水シートにおける非接着部分に対して伏せ込む工程と、
前記耐圧容器の内圧を、大気圧よりも低い値に設定された診断圧力に減圧する工程と、
前記耐圧容器の内圧の減圧によって前記開口部から前記耐圧容器の内部に引き込まれた前記非接着部分の前記防水下地からの浮き上がり量を計測する工程と、
前記浮き上がり量に基づいて、前記防水シートの劣化度合いを判断する工程と、が備えられたシート劣化診断方法。
【請求項2】
防水下地上に絶縁工法によって設置された防水シートの劣化度合いを診断するシート劣化診断装置であって、
開口部が設けられ、前記開口部側の部分を前記防水シート側にして前記防水シートに伏せ込まれる耐圧容器と、
前記耐圧容器に接続され、前記耐圧容器の内圧を減圧可能な減圧装置と、
前記耐圧容器の内圧の減圧によって前記開口部から前記耐圧容器の内部に引き込まれた前記防水シートの前記防水下地からの浮き上がり量を計測可能な計測部と、が備えられたシート劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水下地上に絶縁工法によって設置された防水シートの劣化度合いを診断するシート劣化診断方法、及び、シート劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
防水シートは、屋上等において、常時、日光や風雨に曝されているため経年劣化するものである。このため、定期的に防水シートの劣化度合いを診断し、必要に応じて新たな防水シートに張り替える必要がある。防水シートの劣化度合いを診断する方法として、防水下地の上に設置された防水シートのうち、非接着部分の一部を切り取り、シートの伸び率を引張り試験で測定する方法が知られている。しかし、このような方法は、防水シートの切り取りに起因して防水下地に漏水が生じる虞があるため、望ましい方法ではない。
【0003】
このような問題点を解消するため、例えば特許文献1に、防水シート(文献では「施行防水シート」)の代わりに判定用シートを用いる方法が記載されている。判定用シートは防水シート上面の一部に接着されたボード上に固定され、防水シートの劣化診断時に判定用シートが切り取られて引張り試験に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−090790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、防水シートは防水下地からの影響を直接受けるのに対して、特許文献1に記載の判定用シートはこのような影響を直接受けないため、判定用シートの劣化度合いが防水シートと必ずしも同一とは言えず、正確な防水シートの劣化診断ができない虞があった。
【0006】
このような実情に鑑み、防水下地の上に絶縁工法によって設置された現物の防水シートの劣化度合いを、非破壊で、診断する方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
防水下地上に絶縁工法によって設置された防水シートの劣化度合いを診断するシート劣化診断方法であって、
開口部を有する耐圧容器を、前記耐圧容器のうちの前記開口部側の部分が前記防水シート側となる状態で、前記防水シートにおける非接着部分に対して伏せ込む工程と、
前記耐圧容器の内圧を、大気圧よりも低い値に設定された診断圧力に減圧する工程と、
前記耐圧容器の内圧の減圧によって前記開口部から前記耐圧容器の内部に引き込まれた前記非接着部分の前記防水下地からの浮き上がり量を計測する工程と、
前記浮き上がり量に基づいて、前記防水シートの劣化度合いを判断する工程と、が備えられている。
【0008】
本発明によれば、防水下地の上に設置された現物の防水シートが劣化診断に用いられるため、別途設けられた判定用シートが用いられる場合と比較して、防水シートの劣化度合いを正確に診断することができる。防水シートの伸び率は経年劣化によって低下し、それに伴って防水シートの浮き上がり量も低下するため、防水シートの劣化度合いを浮き上がり量から判断できる。また、防水シートを切り取る必要が無く、防水下地に漏水が生じる虞も無い。その結果、防水下地の上に絶縁工法によって設置された現物の防水シートの劣化度合いを、非破壊で、診断することができる。
【0009】
本発明において、
防水下地上に絶縁工法によって設置された防水シートの劣化度合いを診断するシート劣化診断装置であって、
開口部が設けられ、前記開口部側の部分を前記防水シート側にして前記防水シートに伏せ込まれる耐圧容器と、
前記耐圧容器に接続され、前記耐圧容器の内圧を減圧可能な減圧装置と、
前記耐圧容器の内圧の減圧によって前記開口部から前記耐圧容器の内部に引き込まれた前記防水シートの前記防水下地からの浮き上がり量を計測可能な計測部と、が備えられていると好適である。
【0010】
本構成であれば、防水下地の上に設置された現物の防水シートが劣化診断に用いられ、防水シートの浮き上がり量を計測部によって計測できるため、上述したシート劣化診断方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】防水シートの上に設置されたシート劣化診断装置の構成を示す図である。
図2】シート劣化診断装置を減圧状態にしたときのシートの変形状態を示した図である。
図3】劣化が進行した防水シートの診断状態を示す図である。
図4】劣化が進行していない防水シートの診断状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による防水シート劣化診断方法について、その実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示されているように、防水下地1の表面に固定ディスク2が一定の間隔毎に固定されている。防水下地1は、例えば、建物屋上におけるコンクリート製の陸屋根である。
【0013】
防水下地1及び固定ディスク2の上に、陸屋根や金属屋根の防水に用いられる防水シート3が絶縁工法によって敷設される。即ち、固定ディスク2は導電性を有し、固定ディスク2と防水シート3とは不図示の誘導加熱装置を用いた溶着によって固定される。このように溶着固定された部分は防水シート3における接着部分であり、それ以外の部分は防水シート3における非接着部分である。
【0014】
〔シート劣化診断装置の構成〕
シート劣化診断方法に使用されるシート劣化診断装置には、耐圧容器4と減圧装置5とが備えられている。耐圧容器4及び減圧装置5はいずれも持ち運び可能な大きさであり、これらが互いに接続ホース6によって接続される。耐圧容器4は、例えばアクリル板等の透明な材料によって構成された直方体形状の容器であり、防水シート3における非接着部分に設置される。減圧装置5は、例えば真空ポンプであり、耐圧容器4の内部における空気を吸引することができるように構成されている。
【0015】
耐圧容器4には開口部10が備えられ、耐圧容器4は、開口部10側が防水シート3の設置面側になるように設置される。開口部10の全周に亘って、シール部材11が備えられ、シール部材11は開口部10の縁に沿って接着されている。
【0016】
耐圧容器4には、接続プラグ12、開放弁13、および圧力計14が備えられている。接続プラグ12は、接続ホース6を介して減圧装置5によって吸引される吸引口であり、接続プラグ12に接続ホース6が接続される。開放弁13は、手動で開閉自在な弁であり、開放弁13が開くことによって、耐圧容器4の内圧が大気圧になるように構成されている。耐圧容器4の内圧は圧力計14に表示され、表示される値は絶対気圧でも減圧値でも良い。
【0017】
耐圧容器4には計測部15が備えられている。計測部15は、耐圧容器4の内部に設けられ、防水シート3の設置面と垂直方向にスライド自在となるように構成されている。計測部15のスライド領域には目盛15aが備えられ、目盛15aは開口部10を基端として計測部15のスライド量を計測するように構成されている。そして、計測が終了してなお、本実施形態では計測部15は片持ち支持となるように構成されているが、計測部15は両持ち支持の構成であっても良い。また、計測部15は、棒形状であっても板形状であっても良い。計測部15を棒形状に構成すると、計測部15の位置がシートの最大浮き上がり箇所とずれていると正確な計測ができなくなるため、複数本の計測部15を、並列または格子状に配置すると良い。
【0018】
〔防水シート劣化診断方法〕
次に、防水シート劣化診断方法について説明する。
[1]作業者は、図1に示されるように計測部15を目盛15aの基端に位置するように設定する。計測部15の設定が完了すると、作業者は、開口部10側が防水シート3の設置面側になるように、防水シート3における非接着部分に耐圧容器4を伏せ込む。即ち、作業者は、防水シート3の設置面の側と反対側から耐圧容器4を防水シート3の設置面の側に押圧する。耐圧容器4を押圧することによって、シール部材11は全周に亘って防水シート3に隙間なく密着し、耐圧容器4における内部空間の気密性は向上する。
【0019】
[2]開放弁13を閉じ、減圧装置5を作動させると、耐圧容器4の内部の空気が接続プラグ12から接続ホース6を介して減圧装置5に吸引され、耐圧容器4の内圧が大気圧よりも低い所望の診断圧力に減圧される。診断圧力は、防水シート3の材質や厚みの他、防水シート3の設置場所の条件等(例えば高度や風速、塩害地域等)を考慮の上で適宜決定される。例えば、大気圧から15kPa以内の範囲で減圧することが好ましい。作業者は、圧力計14で耐圧容器4の内圧を確認し、耐圧容器4の内圧が診断圧力に到達したら、減圧装置5を停止する。
【0020】
[3]耐圧容器4の内圧が減圧することによって、図2に示すように、防水シート3は、耐圧容器4の内部に引き込まれて防水下地1から浮き上がる。防水シート3の浮き上がりに伴って、計測部15が、防水シート3によって目盛15aの基端から押し上げられてスライドする。防水シート3の浮き上がりが飽和した状態で、計測部15のスライド量を計測することによって、防水シート3の浮き上がり量を計測することができる。計測部15のスライド量は目盛15aによって目視確認することができる。このとき、目盛15aで確認される値は、シート表面の浮き上がり量であり、この値を防水シート3の浮き上がり量とすることができる。なお、防水シート3の浮き上がり量は、防水シート3の裏面が防水下地から浮き上がる量に、防水シート3の厚みが加えられた値と定義することもできる。
【0021】
[4]防水シート3の浮き上がり量は、防水シート3の伸び率に依存する。防水シート3の経年劣化が進行していれば伸び率は低下するため、防水シート3の浮き上がり量も低下する。したがって、防水シート3の劣化度合いは防水シート3の浮き上がり量に基づいて判断される。具体的には、計測部15のスライド量の判定閾値Hが、防水シートの劣化度合いを判断する基準となる。判定閾値Hの値は、防水シート3の材質や厚み、塩害による成分劣化等によって一律ではないが、概ね10mm程度が目安となる。図3に示されるように、防水シート3が、防水下地1から浮き上がる量が少なく、計測部15のスライド量が判定閾値Hより小さければ、防水シート3の劣化度合いが、交換が必要な程度まで進行していると判断される。図4に示されるように、防水シート3が、防水下地1から浮き上がる量が多く、計測部15のスライド量が判定閾値Hより大きければ、防水シート3の劣化度合いが、まだ交換が必要な程度まで進行していないと判断される。
【0022】
[5]防水シート3の劣化度合いの判断が完了すると、開放弁13を開き、耐圧容器4の内圧を大気圧に戻し、耐圧容器4を持ち上げて防水シート3から離す。以上の工程により、防水シートの劣化度合いを診断することができる。
【0023】
〔別実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0024】
〈1〉上述の実施形態では、耐圧容器4の形状は直方体形状に形成されているが、円筒形状や半球形状に形成されていても良い。
【0025】
〈2〉耐圧容器4はアクリル板等の透明な材料に限られず、不透明な材料であっても良い。例えば、防水シート3の浮き上がりによって計測部15が押し上げられた後に、作業者が耐圧容器4を持ち上げて防水シート3から離し、計測部15のスライド量を開口部10から覗き見るものであっても良い。この場合、耐圧容器4を動かす際に計測部15の位置がずれないように、計測部15におけるスライド機構に、多少の摩擦力を付与する構造を採用すると良い。また、目盛15a及び計測部15のスライド位置のみが耐圧容器4の外側から見える構成であっても良い。
【0026】
〈3〉開口部10の周方向に沿って備えられたシール部材11は必ずしも必要ではなく、例えば開口部10の縁が防水シート3に密着し、耐圧容器4における内部空間の気密性を向上させることができれば、シール部材11は必要ない。
【0027】
〈4〉上述の実施形態では、耐圧容器4と減圧装置5とが分離されているが、これらが一体的に構成されていても良い。
【0028】
〈5〉上述の実施形態では、計測部15のスライド量を目視確認する例を示したが、計測部15のスライド量を電気的に計測するように構成してあっても良い。
【0029】
〈6〉防水シート3の劣化診断は、電気信号等が用いられて自動的に行われても良い。例えば、シート劣化診断装置にマイクロコンピュータが備えられ、所望の診断圧力における防水シート3の浮き上がり量の計測が、診断圧力の到達から一定時間経過後のタイミングで行われ、防水シート3の劣化度合いの判定が表示灯やブザー等によって報知される構成であっても良い。この場合、シート劣化診断装置に液晶タッチパネル等の入力装置が備えられ、防水シート3の種類や厚み、沿岸部や山間部等の設置条件等を作業者が入力でき、入力されたデータに基づいて診断圧力や判定閾値H、診断タイミング等が決定されても良い。計測部15には、磁気式やレーザ式のデジタル変位センサ等を用いることができる。
【0030】
〈7〉シート劣化診断装置には、GPSによる位置測位機能や、データ通信機能が備えられていても良い。例えば、防水シート3の劣化診断データが、位置情報と紐付けられて装置内部の記憶媒体に記憶され、必要に応じて他の情報端末へ転送される構成であっても良い。また、他の情報端末から診断条件が受信され、受信された診断条件に基づいて診断圧力や判定閾値H、診断タイミング等が決定されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、防水下地がコンクリート製のスラブである場合以外に、折板屋根や瓦棒葺き屋根等の金属屋根や、デッキプレートを用いたスラブや、これらの上に断熱材を敷設したもの等である場合にも適用可能であり、また、屋根における防止シートだけでなく、壁面の防水シートにも適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 :防水下地
3 :防水シート
4 :耐圧容器
5 :減圧装置
10 :開口部
15 :計測部
H :判定閾値
図1
図2
図3
図4